【課題】高温の環境下で長期間にわたり使用しても、経時的な劣化を伴わず、ガラス板製造装置の寿命に沿って精度高く実測温度を測定し、装置の温度制御を行うことのできる温度測定手段を供えたガラス板の製造方法を提供する。
【解決手段】熔融ガラスMGを含む液相と、前記液相の液面と内壁とにより囲まれた気相空間とを有し、前記内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置により熔融ガラスMGを処理する処理工程において、熔融ガラス処理装置の外側表面に設けられる複数の選択的な温度測定点に、耐火性酸化物からなる伝播管が接触して固定され、前記伝播管の内側の熱放射を測定して温度を検出することにより、熔融ガラス流れ方向における前記熔融ガラス処理装置の温度分布を測定し、予め定められた基準温度分布に基づいて熔融ガラス処理装置の加熱を制御するガラス板の製造方法。
前記溶融ガラス処理装置の温度分布における最高温度および最低温度の温度差が150℃以内に保たれるように、前記熔融ガラス処理装置の加熱を制御する、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
前記処理工程では、前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が低減される凝集低減温度に調整された不活性ガスが前記気相空間に供給される、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス板の製造方法。
前記処理工程において、前記溶融ガラス処理装置の温度が、白金族金属の揮発物の凝集が低減される凝集低減温度に保たれる、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)ガラス板の製造方法の全体概要
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置について説明する。
図1は、本発明のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
図2は、本実施形態における熔解工程〜切断工程を行う装置の一例を模式的に示す図である。
【0023】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、切断工程(ST6)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0024】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。なお、ガラス原料には清澄剤が添加されることが好ましい。清澄剤については、環境負荷低減の点から、酸化錫が好適に用いられる。
【0025】
清澄工程(ST2)は、清澄槽の、白金又は白金合金等で構成される清澄管の内部で行われる。以降で説明する白金または白金合金等は、白金族金属であり、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、およびこれらの金属の合金を含む。清澄工程では、清澄槽の管内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO2と合体して体積が大きくなり、熔融ガラスの液面に浮上して破泡し消滅する。泡に含まれたガスは、清澄槽に設けられた気相空間を通じて外気に放出される。
【0026】
その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO2等のガス成分が熔融ガラス中に溶けこむことで、泡が消滅する。
【0027】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。
【0028】
成形装置では、成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)が行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法が用いられる例を挙げて説明する。
徐冷工程(ST5)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0029】
切断工程(ST6)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0030】
熔解工程(ST1)の後から成形工程(ST4)の前の間の各工程は、熔融ガラス処理装置において熔融ガラスを処理する処理工程であり、以降の説明では、代表して清澄工程を例にして説明する。
【0031】
(2)ガラス基板
以下、本発明にかかるガラス基板の製造方法の一実施形態について説明する。
本発明の実施形態において製造されるガラス基板は、例えば、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、またはカーブドパネルディスプレイ用ガラス基板で、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板あるいは、有機ELディスプレイ用のガラス基板として好適である。また、このガラス基板は、その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。その中でも特に熱収縮率の小さいことが要求される、LTPS(低温ポリシリコン)・TFTや、酸化物半導体・TFT、IGZO(Indium-Gallium-Zinc-Oxide)・TFTディスプレイ用ガラス基板など、パネル製造工程において高温処理を必要とする製品に好適に用いることができる。
【0032】
本実施形態において製造されるガラス基板は、特に制限されないが、例えば縦寸法及び横寸法のそれぞれが、500mm〜3500mm、1500mm〜3500mm、1800〜3500mm、2000mm〜3500mmなどが挙げられ、2000mm〜3500mmであることが好ましい。
ガラス基板の厚さは、例えば0.01mm〜1.1mmである。より好ましくは0.75mm以下の極めて薄い矩形形状の板で、例えば、0.55mm以下、さらには0.45mm以下の厚さがより好ましい。ガラス基板の厚さの下限値としては、0.15mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましい。
【0033】
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
<ガラス組成>
本実施形態が適用するガラス組成として、例えば、次が挙げられる(質量%表示)。
SiO
2:50〜70%(好ましくは、57〜64%)、Al
2O
3:5〜25%(好ましくは、12〜18%)、B
2O
3:0〜15%(好ましくは、6〜13%)を含み、さらに、次に示す組成を任意に含んでもよい。任意で含む成分として、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、3〜7%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0.5〜8%、より好ましくは3〜7%)、BaO:0〜10%(好ましくは、0〜3%、より好ましくは0〜1%)、ZrO
2:0〜10%(好ましくは、0〜4%,より好ましくは0〜1%)が挙げられる。さらに、R’
2O:0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
或いは、SiO
2:50〜70%(好ましくは、55〜65%)、B
2O
3:0〜10%(好ましくは、0〜5%、1.3〜5%)、Al
2O
3:10〜25%(好ましくは、16〜22%)、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、2〜10%、2〜6%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0〜4%、0.4〜3%)、BaO:0〜15%(好ましくは、4〜11%)、RO:5〜20%(好ましくは、8〜20%、14〜19%),を含有することが好ましい(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)。さらに、R’
2Oが0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
さらに本実施形態のガラス基板の物性値として次が挙げられる。
<ヤング率>
本実施形態が適用されるガラス板のヤング率として、例えば、72(Gpa)以上が好ましく、75(Gpa)以上がより好ましく、77(Gpa)以上がより更に好ましい。
<歪点>
本実施形態が適用されるガラス基板の歪率として、例えば、650℃以上が好ましく、680℃以上がより好ましく、700℃以上、720℃以上が更により好ましい。
また、例えば、ガラス基板の液相粘度は、10
4.3poise〜10
6.7poiseである。
もちろん、本発明においては、ガラス基板のガラス組成を限定するものではない。
<その他>
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更により好ましくは20ppm以下である。熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率の範囲としては、10ppm〜40ppmが好ましい。
【0034】
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。
【0035】
(3)清澄工程及び清澄槽(
図5参照)
清澄工程は、脱泡工程と吸収工程とを含む。以降の説明では、清澄剤として酸化錫(SnO
2)を用いた場合を例に説明する。酸化錫は、従来一般的に用いられていた亜ヒ酸に比べて清澄機能は低いが、環境負荷が低い点で清澄剤として好適に用いることができる。しかし、酸化錫は、清澄機能が亜ヒ酸に比べて低いので、酸化錫を用いた場合、熔融ガラスMGの清澄工程時の熔融ガラスMGの温度を従来より高くしなければならない。
この場合、例えば清澄工程における熔融ガラスの温度の最高温度は、例えば、1630℃〜1720℃であり、好ましくは、1670℃〜1710℃である。なお、清澄工程における熔融ガラスの最高温度は、清澄剤による清澄を十分に行う観点から、熔解工程における熔融ガラスの最高温度との温度差が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。
【0036】
熔融ガラスの温度が変化すると、清澄工程において還元される酸化錫の量が変化するとともに、熔融ガラスの粘度が変化して熔融ガラスから気相空間に放出される酸素量も変化する。このため、熔融ガラスの温度が清澄槽に導入される前から後にかけて変化して熔融ガラスの温度履歴が形成されると、気相空間に放出される酸素量は変化する。したがって、清澄槽に導入される前後での熔融ガラスの温度差が大きいほど、清澄槽内で放出されるガス量が増加し、清澄が十分に行われる。
【0037】
脱泡工程では、熔融ガラスMGを1620℃以上に昇温させて、清澄剤であるSnO
2(酸化錫)が酸素を放出させ、この酸素を熔融ガラスMGの既存の泡Bに取り込ませ、既存の泡Bの泡径を拡大させる。これにより、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した泡B内のガス成分の内圧上昇による泡径の拡大と、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した熔融ガラスMGの粘性の低下との相乗効果により、泡Bの浮上速度が高まり、脱泡が促進する。
吸収処理では、脱泡処理とは逆に熔融ガラスMGの温度を低下させることにより、熔融ガラスMG中の泡B内の酸素を再び熔融ガラスMGに吸収させることと、熔融ガラスMGの温度低下により泡B内のガス成分の内圧を低下させることとの相乗効果により、泡径を縮小させ、熔融ガラスMG中に縮径された泡Bを溶解させて消滅させる。
【0038】
本発明にかかる脱泡工程では、2℃/分以上の昇温速度で熔融ガラスMGの温度を1620℃以上に昇温させることが好ましい。2℃/分以上の昇温速度とは、熔融ガラスMGの温度が、熔解工程後の熔融ガラスMGの温度(例えば1580℃であり、1560〜1620℃の範囲内)から清澄温度(例えば、1620〜1700℃の範囲内)に到達する範囲における、熔融ガラスMGの平均昇温速度が2℃/分以上であることをいう。
【0039】
ガラス供給管104、清澄管102a(
図4(a)参照)及びガラス供給管105を含む清澄槽は、上述した温度履歴を、熔融ガラスMGに与えることにより、熔融ガラスMGの脱泡と、泡Bの吸収を行う装置である。このため、ガラス供給管104、清澄管102a及びガラス供給管105を目的の温度に加熱、冷却することができるような温度調節機能を有している。
【0040】
ガラス供給管104、清澄管102a及びガラス供給管105それぞれの温度調整は、各清澄槽そのものを通電する直接通電加熱、或いは、各槽周りに配置した図示されないヒータによる清澄槽の間接加熱、さらに、空冷、水冷のクーラーによる間接冷却、各清澄槽へのエアー吹きつけ、水噴霧等のいずれか1つの方法を用いて、或いは、これらの方法の組み合わせを用いて行われる。
【0041】
通気管102bは、
図4(b)に示すように、清澄管102aの気相空間と大気とを接続し、気相空間内の気体や不活性ガスを大気に排出する。通気管102bは、清澄槽102の略中央部で、フランジ102eとフランジ102fとの間に設けられている。本実施形態の通気管102bの形状は、煙突状に真っ直ぐ上方に延びる形状をなしているが、この形状に制限されない。途中で屈曲する形状等であってもよい。
清澄槽102には、気相空間中の気体を吸引する吸引装置が設けられることが好ましい。また、吸引装置は、通気管102bと接続するように設けられることが好ましい。ガス導入管、吸引装置、又はその両者を用いて気相空間の気圧を調整することで、気相空間内に所望の気流を発生させることができる。
【0042】
清澄管102aには、フランジ102e,102fを介して電極板102c,102dが設けられている。フランジ102eは、清澄管102aの一方の端部に設けられている。フランジ102fは、清澄管102aの長手方向の途中の位置に設けられている。勿論、フランジ102fも、清澄管102aの他方の端部に設けられてもよい。電極板102c,102dは、電力供給源である交流電源102gと接続され、所定の電圧が印加される。フランジ102e,102fは、導電性を有する金属で構成され、電極板102c、102dからの電流を、清澄管102aの周上に均一に分散するように流す。電極板102c,102dは、清澄管102aに電流を流して清澄管102aを通電加熱することにより、清澄管102aを流れる熔融ガラスMGの温度を例えば1630℃以上に昇温する。
【0043】
一方で、熔融ガラスMGは、清澄管102a内において、熔融ガラスMGが液面を有するように流れる。上述した清澄管102aの通電加熱により粘性が例えば120〜400ポアズになった熔融ガラスMGは、熔融ガラスMG内で清澄剤の作用により膨張した泡を浮上させ、熔融ガラスMGの液面で破泡させ気相空間に泡に含まれるガスを放出する。すなわち、脱泡処理が行われる。したがって、清澄管102aは、その内部に、熔融ガラスMGが液面を有するように気相空間を有する。
【0044】
清澄管102a内の上方の気相空間で破泡して放出された気体は、通気管102bから清澄管102a外の大気に放出される。
清澄管102a内を流れる熔融ガラスMGの温度は例えば1630℃以上に維持された後、清澄管102aの後半部分以降または後続するガラス供給管105以降において徐々に(段階的にあるいは連続的に)降温され、泡の吸収処理が行われる。吸収処理では、上述したように気泡が熔融ガラスMGの降温により熔融ガラスMG内に吸収され消滅する。
図4(a)では、一対の電極板102c,102dを設けた例が示されているが、例えば、清澄管102aの後半部分において降温する場合、電極板102c,102dの他に1対以上の電極板を設けてもよい。
【0045】
なお、清澄管102aは、上述したように、通電加熱により高温(例えば、1700℃程度)に加熱されるので、白金または白金合金等からなる清澄管102aの内壁から白金または白金合金等が揮発し易い。しかも、清澄管102aの気相空間は、上述したように、大気と通じているので気相空間内には酸素が存在し、さらに、脱泡により生じた気体にも酸素が成分として含まれているので、気相空間内の酸素濃度は、大気の酸素濃度よりも高くなっている。したがって、白金または白金合金等の揮発は促進される。このように、気相空間には、清澄管102aの内壁から気化した白金または白金合金の揮発物を多く含んでいる。
【0046】
本実施形態の清澄槽102では、
図4(a)に示すように、ガス導入口102j,102kをフランジ102e,102fを設けた部分に設けられる。これは、ガス導入口102j,102kから導入された不活性ガスが、
図4(b)に示すように、通気管102bに向かって流れるようにするためである。フランジ102e,102fは、電極板102c,102dからの電流を清澄管102aの周上に均一に拡散するために設けられるが、フランジ102e,102fは、清澄管102aから伝わる熱を外部に放射するため、また、熱によるフランジ102e,102fの破損を抑制するための図示されない冷却装置がフランジ102e,102fに併設されてフランジ102e,102fを冷却するので、フランジ102e,102fが設けられる清澄管102aの内壁の部分、すなわち、フランジ対応部分の温度は、このフランジ対応部分の周りの温度に比べて低くなっている。
【0047】
(清澄槽の昇温速度および降温速度)
図5にしたがって、より詳しく清澄を説明する。熔解槽101で熔解され、ガラス原料の分解反応により生成した泡Bを多く含んだ液状の熔解ガラスMGが、ガラス供給管104に導入される。
ガラス供給管104では、ガラス供給管104の本体である白金あるいは白金合金管の加熱により熔融ガラスMGは、好ましくは2℃/分以上の昇温速度で1620℃以上の温度に達するまで加熱され、そのときの熔融ガラスの粘度は500〜2000dPa・sとなることが好ましい。熔融ガラスMGが1620℃以上、さらに好ましくは、1630℃以上まで加熱され、これにより清澄剤の還元反応が促進されることにより、多量の酸素が熔融ガラスMGに放出される。熔融ガラスMG内の既存の泡Bは、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した、泡B内のガス成分の圧力の上昇効果による泡径の拡大に、清澄剤の還元反応により放出された酸素が泡B内に拡散して入り込むことが重なって、この相乗効果により既存の泡Bの泡径が拡大する。
【0048】
続いて、この熔融ガラスMGが清澄管102aに導入される。清澄管102aは、具体的には、熔融ガラスを含む液相とこの熔融ガラスの液面と清澄管102aの内壁とにより囲まれた気相空間とを有する。気相空間を囲む清澄管102aの内壁の少なくとも一部は白金または白金合金等の材料で構成されている。
清澄管102aは、ガラス供給管104と異なり、清澄管102a内部の上部開空間が気相の雰囲気空間であるため、熔融ガラスMG中の泡Bが熔融ガラスMGの液面に浮上して熔融ガラスMGの外に放出することができる。
【0049】
清澄槽では、清澄管102aの本体である白金あるいは白金合金管の加熱により熔融ガラスMGは引き続き1620℃以上(好ましくは、1620℃〜1750℃、より好ましくは1630℃〜1750℃、さらに好ましくは1640〜1750℃、一層好ましくは1650〜1730℃)の高温に維持され、熔融ガラスMG中の泡Bは、清澄管102aの上方に向かって浮上して、熔融ガラスMGの液表面で破泡することにより熔融ガラスMGは脱泡される。特に、熔融ガラスMGが1620℃以上まで加熱されると(例えば1630〜1700℃になると)、SnO
2は、還元反応を加速的に起こす。このとき、例えば、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用ガラス板を製造する場合、ガラスの粘度は、熔融ガラスMGの温度の上昇により、泡Bの浮上、脱泡に適した粘度(200〜800dPa・s)になっている。
【0050】
清澄管102aの上方の上部開空間で破泡、放出されたガス成分は、ガス放出口102bより、清澄槽102a外に放出される。清澄管102aにおいて、泡Bの浮上、脱泡によって浮上速度の速い径の大きな泡Bが除去された熔融ガラスMGは、ガラス供給管105に導入される。
【0051】
例えば、清澄管102aからガラス供給管105においては本体を構成する白金あるいは白金合金管の長さ方向に延びる2つの異なる領域に別々に流す電流を制御することにより熔融ガラスMGの昇温が行われてもよい。また、清澄管の本体を構成する白金あるいは白金合金管の長さ方向に延びる3つ以上の異なる領域に別々に流す電流を制御することにより熔融ガラスMGの昇温が行われてもよい。
このように、熔融ガラスMGの昇温が、清澄管の異なる少なくとも2つの領域に別々に流す電流を制御することにより、行われることが、脱泡処理を効率よく行わせる点で好ましい。
【0052】
ガラス供給管105では、ガラス供給管105の本体である白金あるいは白金合金管の冷却により(加熱の程度を抑制することにより)熔融ガラスMGは冷却される。この冷却により熔融ガラスMGの温度が下がるので、泡Bの浮上速度は低下していくが、残存した小さな泡B内のガス成分の圧力は下がり、泡径は徐々に小さくなる。さらに、熔融ガラスMGの温度が1600℃以下になると、脱泡処理においてSnO
2の還元反応で得られたSnOの一部は酸素を吸収して、SnO
2に戻ろうとする。このため、泡B内のガス成分である酸素は、熔融ガラスMG中に再吸収され、泡Bはますます小さくなり、熔融ガラスMG中に吸収されて最終的に消失する。この時、熔融ガラスMGは、1600℃から1500℃の温度範囲で平均2℃/分以上の速度で冷却されることが好ましい。
【0053】
清澄管102aにおいて上記所定の高温で脱泡処理を行った後に、熔融ガラスMGを1600℃から1500℃の温度範囲で平均2℃/分以上の速度で冷却させることにより、本発明において製造されるガラス板中の泡数をさらに低減させることができる。
【0054】
脱泡処理の後、熔融ガラスMGの温度を1600℃から1500℃の温度範囲を、例えば2℃/分以上の降温速度で降温させるのは、最終製品であるガラス板内に残存する単位質量当たりの泡数を低減させるためである。ここでいう泡とは、予め設定された泡の体積、例えば直径20μmの泡の体積と同等以上の体積を有する泡をいう。上記降温速度は、速いほどガラス板内に残存する泡数を低減できるが、この低減効果は上記降温速度の上昇に伴って小さくなっていく。上記降温速度は、3℃/分以上であることが好ましい。なお、上記降温速度の上限は特に設けられないが、ガラス板を工業的に製造する場合、以下の理由から、50℃/分が上限となる。
【0055】
熔融ガラスMGの降温速度が速くなりすぎると熔融ガラスMGの泡B内の酸素が熔融ガラスMGへ再吸収される現象が阻害され、結果として、熔融ガラスMG中の泡Bそのものは減少しない可能性がある。また、ガラスの熱伝導度は高温でも20〜50W/(m・K)程度と小さいため、さらに、熔融ガラスMGの急激な冷却は特別な手段を取らない限り、ガラス供給管105の外側からしか冷却できないため、上記降温速度を速くした場合、ガラス供給管105の外表面近くの熔融ガラスMGのみが冷えてしまい、ガラス供給管105の中心部の熔融ガラスMGは高温のままに維持される。
【0056】
ガラス供給管105内において、熔融ガラスMGの外表面部分と中心部との間で温度差が大きくなってしまう。この場合、外表面部分の熔融ガラスMGの中から結晶が析出してしまうという問題が生じる。また、ガラス供給管105内において、熔融ガラスMGの外表面部分と中心部の間で熔融ガラスMGの温度差が大きくなった状態で熔融ガラスMGを攪拌すると、温度差の大きなガラスが混ざり合うので、泡Bが発生する他、ガラスの組成上、均質性を阻害し易くなる。
【0057】
また、熔融ガラスMGの降温速度を速くする為には、ガラス供給管105からの放熱を増やさなければならないので、ガラス供給管105の白金もしくは白金合金管の本体を支えるバックアップレンガ等の支持部材の厚さを薄くしなければならない。しかし、支持部材の厚さを薄くする分だけ、設備の強度が下がる。このため、ガラス板を工業的に製造する場合、熔融ガラスMGの降温速度をいたずらに速くすることは、上述したような問題を引き起こすのみであり、妥当とは言えない。
【0058】
以上のことから、熔融ガラスMGの、1600℃から1500℃までの降温速度の上限は、50℃/分以下であることが好ましく、35℃/分以下であることがより好ましい。すなわち、本実施形態では、上記降温速度は、2℃/分〜50℃/分であることが好ましく、3℃/分〜35℃/分であることがより好ましい。
【0059】
なお、熔融ガラス中へのガス成分の溶解度はガラス組成により変化するが、アルカリ金属成分を含まない無アルカリガラスやガラス中のアルカリ金属成分が少ない微量アルカリ含有ガラスの場合には亜硫酸ガスの溶解度は低いので、亜硫酸ガスは熔融ガラス中に再吸収し難く、泡数の増大の原因となる。この傾向は、SnO
2(酸化錫)を清澄剤として使用した場合に顕著に出現する現象であり、また、清澄工程での高温での処理時間が増大するに従って増大する。これは、熔融ガラスの高温での保持時間が長くなると、熔融ガラス内への既存の泡内への亜硫酸ガスの拡散が促進し、泡内に取り込まれたが雰囲気中の排出できなかった泡中に残存する亜硫酸ガスが、熔融ガラスへの溶解度が低いので、降温過程でのSnOからにSnO
2への還元反応に貢献することができず、結果として泡が熔融ガラス中に残存することになる。すなわち、清澄工程での高温条件下で亜硫酸ガスの熔解ガラス中の拡散速度が速まり泡内への亜硫酸ガスの進入が容易になる一方で、降温過程では、泡内に進入した亜硫酸ガスが熔融ガラス中に放出されずに泡が残存するためであると考えられる。これにより、泡数を減少させるには、清澄工程での時間を短縮することが好ましい。
【0060】
図5に示す例では、清澄工程を行う清澄槽は、ガラス供給管104、清澄管102a、及びガラス供給管105の3つの部分に分かれているが、清澄槽はさらに細分化されても当然よい。清澄槽を細分化した方が、熔融ガラスMGの温度調整をより細かく行うことができる。特に、清澄槽を細分化することは、熔融ガラスMGの種類や熔解量を変更する場合、温度調整がし易い点で有利である。
【0061】
上記説明では簡略化のために、ガラス供給管104では熔融ガラスMGが1620℃まで昇温され、清澄管102aでは、熔融ガラスMGの泡Bの浮上、脱泡が行われ、ガラス供給管105では、熔融ガラスMGが熔融ガラスMGの降温により泡Bの吸収が行われるように、清澄槽毎に機能を分けて説明したが、清澄槽毎に機能が完全に分かれていなくてもよい。清澄管102aの長さ方向の途中までの部分が熔融ガラスMGを昇温させる構成としてもよく、清澄槽102aの長さ方向の途中からガラス供給管105の間を、熔融ガラスMGの降温を開始させる部分とするように構成することもできる。
【0062】
(熔融ガラスの温度履歴)
図6は、本実施形態における熔解工程から成形工程に至る温度履歴の一例を説明する図である。本実施形態のガラス板の製造に用いるガラス原料は、目標とする化学組成となるように種々の原料が秤量され、よく混ぜ合わせてガラス原料が作られる。こうして作られるSnO2が添加されたガラス原料は、熔解槽101に投入される。
熔解槽101に投入されたガラス原料は、その成分の分解温度に達したところで分解し、ガラス化反応により、熔融ガラスMGとなる。熔融ガラスMGは熔解槽101を流れる間に、徐々に温度を上げながら、熔解槽101の底部近くからガラス供給管104(第1清澄槽104)に進む。
このため、熔解槽101では、ガラス原料の投入された時点における温度T1からガラス供給管204に進入する時点における温度T3まで、熔融ガラスMGの温度はなだらかに上昇する温度履歴を有する。
なお、
図6中、T1<T2<T3であるが、T2=T3あるいは、T2>T3であってもよく、少なくともT1<T3であればよい。
【0063】
ガラス供給管104の図示されない金属製フランジと清澄槽102の図示されない金属製フランジとの間で一定の電流を流してガラス供給管104の白金あるいは白金合金管を通電加熱することにより、さらに、清澄槽102の図示されない金属製フランジと清澄槽102の図示されない別の金属製フランジとの間で一定の電流を流して清澄槽102の白金あるいは白金合金を通電加熱することにより、ガラス供給管104に進入した熔融ガラスMGを、温度T3からSnO
2が酸素を急激に放出する温度T4(例えば1620℃以上であり、1650〜1700℃であることがさらに好ましい)まで、2℃/分以上の昇温速度で昇温する。昇温速度を2℃/分以上とするのは、昇温速度が2℃/分以上の場合に、O
2ガスの放出量が急激に大きくなるからである。なお、温度T3と温度T4の差が大きいほど、熔融ガラスMG中のSnO
2が放出するO2の量が多くなり、脱泡が促進される。このため、温度T4は、温度T3と比べて例えば50℃程度高いことが好ましい。
【0064】
好適な実施態様の一例は、清澄槽102へ送り込まれる熔融ガラスMGの温度を高温に設定することである。このため、ガラス供給管104において、例えば、熔融ガラスの温度で1500〜1690℃の範囲内まで加熱し、そのときの熔融ガラスの粘度を500〜2000dPa・s程度まで下降させることである。清澄槽102に送り込まれる熔融ガラスMGの温度を清澄槽102内での温度に適した温度またはそれに近い温度になった状態であれば、清澄槽102の入り口近傍から効果的な清澄を促進させることができる。同様に、清澄槽102に送り込まれる熔融ガラスMGの粘度を清澄槽102内での清澄に適した粘度(200〜800dPa・s)またはそれに近い粘度になった状態であれば、清澄槽102の入り口近傍から清澄を促進させることができる。これにより、高温度が必要とされる清澄工程での滞留時間を比較的短く抑えることができ、また、熔融ガラスが清澄槽102内の窒素ガスを含有する雰囲気に晒される時間を短縮できる。これにより熔融ガラスMG内への窒素ガスの溶け込みを防止しつつ、その一方で既存の泡内へのSO
2の拡散が促進されることを抑制することができる。熔融ガラス内の既存の泡内へのSO
2の拡散が促進されると、熔融ガラスMGへの溶解度が小さいSO
2が泡としてガラス板内に残存してしまう恐れがある。他方、窒素ガスなどが熔融ガラスに溶け込むと、熔融ガラスの温度を低下させる工程で、リボイル泡としてN
2が生じることが想定される。すなわち、清澄槽102における熔融ガラスの滞留時間が比較的短くできれば、SO
2、窒素ガスN
2などのリボイル泡を抑制することができ、これによりガラス板の泡数を低減させることができる。
さらに、清澄槽102に進入した熔融ガラスMGを、温度T4から温度T4と略同じ温度T5に維持する。なお、温度T3〜温度T5における温度調節は、本実施形態では、各清澄槽を通電加熱する方式を用いるが、この方式には限定されない。例えば、各清澄槽周りに配置した図示されないヒータによる間接加熱を用いて上記温度調節が行われてもよい。
【0065】
以上により清澄工程では、熔融ガラスMGは1620℃以上に加熱されることにより、清澄剤であるSnO
2の還元反応が促進される。これにより、多量の酸素が熔融ガラスMG中に放出される。熔融ガラスMG中の既存の泡Bは、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した泡B内のガス成分の圧力の上昇効果による泡径の拡大に、上記清澄剤の還元反応により放出された酸素が泡B内に拡散して入ってくることが重なり、この相乗効果によって泡径が拡大する。
泡径の拡大した泡Bはストークスの法則に従って泡Bの浮上速度が速くなり、泡Bの浮上、破泡が促進される。
清澄槽102でも、熔融ガラスMGは引き続き、1620℃以上の高温に維持されるため、熔融ガラスMG中の泡Bは、熔融ガラスMGの液表面に浮上し、液表面で破泡することにより、熔融ガラスMGの脱泡が行われる。
【0066】
脱泡処理は、
図6中では、温度T3から熔融ガラスMGの温度が温度T4に上昇し、その後、温度T4と略同じ温度T5に維持される期間で行われる。
図5中、T4とT5が略同じであるが、T4<T5であってもよいし、T4>T5であってもよい。
なお、熔融ガラスMGの温度が温度T4に達するのは、ガラス供給管204である例を挙げて説明したが、清澄槽202内であってもよい。
また、温度T4、温度T5の設定温度が1630℃を超えて高い場合(例えば、1700℃〜1780℃の場合)、温度T2または温度T3が1630℃を超えてもよい。
【0067】
次に、清澄槽202からガラス供給管105に進んだ熔融ガラスMGは、残存する泡Bを吸収するため、温度T5から、温度T6(例えば、1600℃)を経て、温度T7(攪拌工程に適した温度であり、ガラス硝種と攪拌装置のタイプで異なるが、例えば、1500℃である。)まで、冷却される。
熔融ガラスMGの温度が低下することで、泡Bの浮上、脱泡が生じ難くなり、熔融ガラスMGに残存した小泡中のガス成分の圧力も下がり、泡径はどんどん小さくなる。さらに熔融ガラスMGの温度が1600℃以下になると、SnO(SnO
2の還元により得られたもの)の一部が酸素を吸収して、SnO
2に戻ろうとする。このため、熔融ガラスMG中の残存する泡B内の酸素は、熔融ガラスMG中に再吸収され、小泡は一層小さくなる。この小泡は熔融ガラスMGに吸収されて、小泡は最終的に消滅する。
【0068】
このSnOの酸化反応により泡B内のガス成分であるO
2を吸収させる処理が、吸収処理であり、温度T5から温度T6を経て温度T7まで低下する期間に行われる。
図5では、温度T5〜T6の降温速度が、温度T6〜T7の降温速度に比べて速いが、温度T5〜T6の降温速度が、温度T6〜T7の降温速度に比べて遅くてもよいし、同等であってもよい。少なくともこの吸収処理の間、熔融ガラスMGの温度が1600℃から1500℃の温度範囲を2℃/分以上の降温速度で降温されることが好ましい。しかし、熔融ガラスMGがより高温状態にあるときの降温速度を大きくして、SO2の拡散を早期に抑制して、泡B内に取り込まれるSO2を減少させる点で、温度T5〜T6の降温速度が、温度T6〜T7の降温速度に比べて速いことが好ましい。すなわち、吸収処理において、熔融ガラスMGが1500℃以下である温度範囲における降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における降温速度よりも遅いことが好ましい。
【0069】
また、温度T6〜T7の降温速度を温度T5〜T6の降温速度よりも遅くすることで、泡B内に取り込まれるSO
2を減少させつつ、攪拌槽に流入される熔融ガラスMGのガラス供給管105(ガラス供給管105)内における、外側表面部分と中心部との間の温度差を小さくすることができる。
なお、ガラス板の生産性の向上と設備コスト削減の点から、吸収処理において、熔融ガラスMGが1500℃以下である温度範囲における降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における降温速度よりも速いことが好ましい。なお、このような熔融ガラスMGの温度制御を行う場合、成形工程に供給する熔融ガラスMGの量を調整する流量調整装置を設けることが好ましい。
【0070】
また、泡B内に取り込まれるSO
2を減少させつつ、成形工程に供給する熔融ガラスMGの量を、ガラス供給管206内の熔融ガラスMGの温度管理にて調整できる点で、吸収処理において、熔融ガラスMGが1500℃以下である温度範囲における降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における降温速度よりも遅いことが好ましい。これにより、ガラス供給管206を特別な形状に加工することや、ガラス供給管206以外に流量調整装置を設けることなしに、成形工程に流入される熔融ガラスMGの量は調整しやすくなる。また、成形工程に流入される熔融ガラスMGのガラス供給管206内における、外側表面部分と中心部との間の温度差を小さくすることができる。
【0071】
(清澄槽の温度測定と昇温/降温速度の管理)
装置の温度測定
ガラス供給管104、清澄管102a、ガラス供給管105を含む清澄槽の各装置の外側の表面温度を測定し、経時的に観測して装置の温度制御することにより、熔融ガラスMGの昇温速度、降温速度を管理することができる。装置の温度を測定する温度測定点は、測定する領域を定め、装置の内壁又は外壁の外側表面に測定スポットを選択的に定める。
【0072】
後述の本実施形態の温度測定手段によれば、清澄槽各装置の表面温度の測定は、装置の気相空間が接する内壁の外側表面、装置の気相空間が接する内壁に重なる外壁の外側表面、溶融ガラスMGが流れる領域の内壁の外側表面、溶融ガラスMGが流れる領域の内壁に重なる外壁の外側表面など、温度管理の目的に応じて、温度測定を要する装置の外側表面であれば測定スポットを選択的に定めて測定することができる。
【0073】
なお、清澄槽の各装置は、装置の処理領域における液相及び気相空間を含む処理空間をつくる壁構造が、内壁、外壁など、複数の壁で構成することができる。また、外壁には耐火物化合物の溶射膜を設けることができ、例えば、高温領域で温度の負荷がかかる部位などに設けることが挙げられる。
耐火化合物として、高温に耐えられ、揮発しにくいものであれば特に制限されず、例えば、セラミックなどの酸化物、窒化物、珪化物、炭化物およびその組み合わせを用いることができる。フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造の成形装置の白金または白金合金等の揮発を低減する観点からは、耐火性酸化物が好ましい。例えば、Zr、Al、Mgおよび/またはY化合物で安定化されていることが好ましい。
溶射膜は、コストを抑えつつ白金または白金合金等の揮発を効果的に抑制するためには、50μm〜800μmの厚さに形成されることが好ましく、より好ましくは100μm〜500μmである。
【0074】
本実施形態では、清澄槽各装置の外側表面であれば、内壁の表面、外壁の表面、溶射膜を含む外壁の表面などに、温度測定点をスポット的に選択することができるため、ガラス供給管104、清澄管102a、ガラス供給管105を含む清澄槽に複数の温度測定点を定めて装置表面の実測温度を測定することで、清澄槽全体について精度高い温度分布を得ることができる。また、長期間にわたり、経時的なモニタリングもできる。
【0075】
熔融ガラスMGの平均温度の算出と昇温/降温速度の管理
ガラス供給管104、清澄管102a及びガラス供給管105の表面温度と、ガラス供給管104、清澄管102a及びガラス供給管105の中を流れる熔融ガラスMGの平均温度(清澄槽内で温度分布を持つ熔融ガラスMGの温度の平均値)との関係を、コンピュータシミュレーションにより、清澄槽に供給する熔融ガラスMGの流速と温度の条件を用いて、予め算出することができる。
清澄槽の外側の測定された表面温度から、上記関係を用いて昇温速度、降温速度を算出し、昇温速度、降温速度を管理することができる。なお、熔融ガラスMGの流速は各装置の容積と、成形装置300に流入される単位時間当たりの熔融ガラスMRの量から算出することができる。
【0076】
(清澄管の凝集低減温度)
清澄管102aは、さらに、不活性ガスを気相空間内に導入するガス導入管102h,102iを備え、清澄管102aの気相空間に不活性ガスを導入してもよい。不活性ガスの導入により、清澄槽の装置内の雰囲気中の酸素濃度を下げることができる。不活性ガスには、例えば、窒素ガス、あるいは、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の希ガス、あるいは、これらのガスの混合ガスが用いられる。気相空間の酸素濃度は、不活性ガスを導入することで10%以下、より好ましくは5%以下となることが好ましい。
【0077】
ガス導入管102h,102iは、清澄管102aの内壁に設けられたガス導入口に接続されており、不活性ガスがガス導入口を通って気相空間に導入される。
図4(b)は、清澄管102aの内部のガスの流れを説明する図である。ガス導入管102h,102iからの不活性ガスの導入は、ガス導入口となるノズルから導入されるが、必ずしもノズルに制限されず、公知の方法で不活性ガスが導入されてもよい。
【0078】
導入される不活性ガスは、清澄管102aの温度が白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上の温度に保たれるよう、調整されていることが好ましい。このように、清澄管102aが全体として、凝集低減温度以上の温度に保たれていることにより、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、温度が低下した部分およびこれに隣接する部分において、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集することが低減される。あるいは、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下することを抑制できる。
【0079】
不活性ガスは、気相空間に供給される前に、予め凝集低減温度に調整される。凝集低減温度は、不活性ガスの温度を調整する前に予め決定されることが好ましい。すなわち、本実施形態のガラス基板の製造方法は、上記した各工程の他に、不活性ガスの温度を調整する前に凝集低減温度を決定する決定工程を有し、清澄工程では、不活性なガスの温度を、決定工程で決定された凝集低減温度となるよう調整することが好ましい。
【0080】
不活性ガスの温度を、予め決定された凝集低減温度を目標温度として調整することで、不活性ガスの温度は、単に加熱等によって調整される場合と比べて適正な温度に調整される。不活性ガスの温度が適正な温度に調整される結果、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されつつ、不活性ガスの温度が高くなり過ぎることが抑えられる。
【0081】
決定工程では、具体的に、清澄槽の温度、清澄槽の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度のうちの少なくとも1つに基づいて、凝集低減温度を決定することが好ましい。このようなパラメータに基づいて凝集低減温度が決定されることで、これら各パラメータのうち少なくとも1つが変化した場合に、凝集低減温度を改めて決定する(再設定する)ことができ、不活性ガスをより適切な温度に調整することができる。凝集低減温度を決定するのに用いられるパラメータは、清澄槽の温度、清澄槽の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度のいずれか1つ、いずれか2つの組み合わせ、または、全てのパラメータであってもよい。このような温度調整は、清澄槽の温度、清澄槽の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度をモニタリングし、これらパラメータの変化をフィードバックさせて行うことができる。各パラメータの変化に関しては後で説明する。
【0082】
上記の凝集低減温度としては、例えば、清澄管102aの最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれる温度が挙げられる。清澄管102aがこのような温度差に保たれることで、清澄管102aの白金または白金合金等で構成された内壁から揮発した揮発物の凝集を効果的に低減することができる。白金または白金合金等の飽和蒸気圧は温度が低い程低くなるため、揮発物の一部は温度の低い領域で凝集し易くなる。特に、清澄管102aの最低温度となる部分およびこれに隣接する部分では、このような揮発物の凝集が起きやすい。したがって、清澄管102aにおける上記温度差を150℃以内にすることで、揮発物が飽和蒸気圧の温度依存性の曲線(飽和蒸気圧曲線)に従って凝集する量は少なくなる。このため、気相空間と接する内壁に白金または白金合金等の凝集物が析出する量は少なく、析出した凝集物の一部が離脱し、微粒子となって熔融ガラスGに落下することは少なくなる。これによって、熔融ガラスGに白金族金属の異物が混入することを抑制できる。なお、ここでいう温度差は、清澄管102aの内壁の温度差である。上記温度差は、好ましくは100℃以内であり、より好ましくは50℃以内である。あるいは、上記した凝集低減温度としては、例えば、清澄管102aの温度を、気相空間に存在する白金または白金合金等の飽和蒸気圧となる温度以上にする不活性ガスの温度が挙げられる。
【0083】
また、上記した凝集低減温度としては、清澄管102aの温度を、清澄管102aにおける白金または白金合金等の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差が2Pa以下となるような温度にする不活性ガスの温度が挙げられる。これは、清澄管102aの最高温度と最低温度との差が大きくなり、清澄管102aにおける白金または白金合金等の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差が大きくなるほど、白金または白金合金等の凝集物が析出する量が多くなるためである。白金または白金合金等の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差は、0〜2Paであることが好ましく、0.01〜1.5Paであることがより好ましい。
なお、白金または白金合金等の異物(凝集物)は、一方向に細長い線状物である。白金または白金合金等の凝集物の最大長さとは、白金または白金合金等の凝集物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形の最大長辺の長さをいう。最小長さとは、白金族金属の異物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形の最小短辺の長さをいう。本明細書では、白金または白金合金等の異物(凝集物)は、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100を超える白金族金属の異物を指す。例えば、白金族金属の異物の最大長さは50μm〜300μm、最小長さは0.5μm〜2μmである。
【0084】
不活性ガスの温度調整を行う場合は、温度調整に必要な熱量を減らし、エネルギー効率を高める観点から、不活性ガスの温度を、清澄管102aの最高温度以下となるよう調整することが好ましい。例えば、清澄管102aの温度が1400〜1750℃である場合に、不活性ガスの温度は500〜1750℃に調整されることが好ましく、800℃〜1500℃に調整されることがより好ましい。
なお、不活性ガスの温度調整は、不活性ガスが気相空間に導入される前に予め行われていればよく、清澄管102a内での熔融ガラスの清澄と並行して、不活性ガスの温度調整が行われてもよい。
【0085】
不活性ガスの温度調整は、具体的には、加熱によって行われる。加熱の方法は、特に制限されないが、例えば、
図4(a)および
図4(b)に示す加熱機構を用いて行うことができる。加熱機構は、上記調整装置に含まれる。
図4(a)および
図4(b)はいずれも、不活性ガスの温度調整に用いられる加熱機構の例を示す図であり、
図3(b)に示される清澄管102aをガス導入管102iに注目して示す図である。ここでは図示されないが、
図4(a)および
図4(b)に示す加熱機構は、ガス導入管102hにも適用される。
【0086】
図4(a)に示す例では、清澄管102aの周りは、耐火物レンガ110で覆われている。耐火物レンガ110は、ガス導入管102iの周りを覆うよう設けられている。耐火物レンガ110は、清澄管102aを保温する断熱材であり、清澄管102aから伝わる熱を予熱として保持できる。ガス導入管102iが耐火物レンガ110に覆われていることで、不活性ガスは、ガス導入管102iを通るときに温められる。また、耐火物レンガには、一般的に隙間が存在していることが多く、その隙間から不活性ガスが漏れ出すことがある。そのため、不活性ガスが漏れを防ぎ、清澄管102a内に導入される不活性ガスの流量を精度よく調整できる点で、不活性ガスは、ガス導入管102iを介して清澄管102a内に導入されることが好ましい。一方で、ガス導入管102iは省略されてもよい。この場合は、例えば、ガス導入管102iの代わりに耐火物レンガ110によって不活性ガスの流路が形成されるように、耐火物レンガ110を清澄管102aの周りに設けてもよい。不活性ガスは、耐火物レンガ110内で形成された上記流路を、耐火物レンガ110に接触しながら通過することで、清澄管102a内に導入される前に温められる。
【0087】
図4(b)に示す例では、ガス導入管102iの周りには、ヒータ120が設けられている。ヒータ120には、電熱コイル、ハロゲンヒータ等の公知の加熱機構が用いられる。ヒータ120は、
図4(b)において、電熱線をガス導入管102iの周りに巻きつけて構成された電熱コイルである。ヒータ120は、清澄時にガス導入管102i内を通る不活性ガスの温度が所定の温度範囲に保たれるよう、図示されない制御装置によって温度制御される。この場合、ヒータ120の熱源には、白金又は白金合金を用いることが好ましい。また、ヒータ120とガス導入管102iとを絶縁するために、例えば、ガス導入管102i又はヒータ120のいずれかに溶射膜を設けることが好ましい。
ヒータ120は、電熱コイルの代わりに、図示されないハロゲンヒータが用いられてもよい。ハロゲンヒータは、ガス導入管102iの側壁に向かい合うよう、1または複数台が配される。
【0088】
図4(a)および
図4(b)に示される加熱機構のほか、例えば、図示されない電極が用いられてもよい。この場合、ガス導入管102iは白金又は白金合金等からなる材料で構成されることが好ましい。電極は、例えばガス導入管102iの長手方向(
図4の上下方向)の両端に接続され、これら電極の間に電流を流すことで、ガス導入管102iは通電加熱される。
以上説明した、
図4(a)に示す加熱機構、
図4(b)に示す加熱機構、およびその他の加熱機構は、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0089】
不活性ガスは、清澄工程において、さらに、流量が調整されることが好ましい。ここでいう流量は、清澄管102aの気相空間内に供給される不活性ガスの供給量をいう。不活性ガスの流量は、具体的には、清澄管102aの温度が、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれるように調整される。また、不活性ガスの流量は、清澄管102aの酸素濃度が目標酸素濃度となるように調整される。目標酸素濃度とは、清澄管102aにおける白金または白金合金等の揮発物の蒸気圧が、清澄管102aの温度から求められた飽和蒸気圧以下となるような酸素濃度である。
【0090】
清澄管102a全体が、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれていることにより、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、温度が低下した部分およびこれに隣接する部分において、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集するのを低減できる。不活性ガスの流量が多い場合と少ない場合とでは、不活性ガス温度が等しくても、流量が多い場合の方が清澄管102aの温度に与える影響が大きい。例えば、不活性ガスの温度が清澄管102aよりも低い場合には、流量が多いほど、清澄管102aの温度は大きく低下する。しかし、不活性ガスの流量が調整されることで、白金または白金合金等の揮発物を低減しつつ、白金または白金合金等の揮発物の凝集を低減することができる。不活性ガスの流量は、不活性ガスの流量、ガス導入管102iの直径及び長さから求められる清澄管102aに流れ込む不活性ガスの温度と、この不活性ガスによって変化する清澄管102a温度に基づいて決定することができる。例えば、不活性ガスの流量は、5〜20リットル/分である。不活性ガスの流量の調整は、たとえば、ガス導入管102h,102iと、不活性ガスの図示されない供給源との間に配された弁を操作することで行われる。
なお、不活性ガスは、連続的または断続的に、清澄管102a内に供給することができる。
【0091】
本実施形態によれば、清澄管102a内の雰囲気中の酸素濃度を低減するために、不活性ガスが供給されるとともに、不活性ガスは、気相空間中に存在する白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度に調整され、気相空間に供給される。したがって、清澄管102aが上記温度分布を有していても、清澄管102a内の雰囲気の酸素濃度を低減することで白金または白金合金等の揮発を低減しながら、フランジ対応部分や通気管102bおよびこれらに隣接する部分における白金または白金合金等の揮発物の凝集を低減できる。
【0092】
特に、清澄管102aが全体として、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれている場合は、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集するのを低減できる。この場合に、例えば、不活性ガスの温度が、清澄管102aの最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるよう調整される場合は、清澄管102aの白金または白金合金等で構成された内壁から揮発した揮発物の凝集を効果的に低減することができる。その際、不活性ガスの温度を、清澄管102aの最高温度以下となるよう調整することで、さらに、温度調整に必要な熱量を減らし、エネルギー効率を高めることができる。
【0093】
また、清澄管102aの温度が、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれる温度に調整される場合は、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、温度が低下した部分およびこれに隣接する部分において、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集するのを低減できる。
【0094】
(凝集低減温度と装置の温度測定)
清澄管の温度分布
図7は、清澄管102aの内壁の温度の清澄管102aの長手方向に沿った温度分布の一例を模式的に示す図である。このような温度分布は、後述する温度測定手段を、装置の気相空間が接する内壁又は該内壁が重なる外壁の外側表面、あるいは、溶融ガラスMGが流れる領域の内壁又は該内壁が重なる外壁の外側表面に配置し、温度を計測することで取得することができる。なお、清澄槽の各装置は、装置の処理領域における液相及び気相空間を含む処理空間に接する壁構造が、内壁、外壁、溶射膜を含む外壁など、複数の壁で構成してもよい。
【0095】
温度分布を得るには、清澄管102aの長手方向に沿って温度測定点を複数箇所に定めることで得られる。清澄管102aの場合、フランジ102e,102fが設けられるフランジ対応部分で温度が周りの部分の温度に比べて低く、さらに言うと、最も低く、通気管102bに進むにつれて温度が徐々に高くなっている。しかし、通気管102bは、大気に近い領域に突出する管であるので、大気への熱の放射は避けられない。このため、通気管102bの設けられる部分では、温度が低下する。しかし、この部分の温度は、フランジ対応部分の温度よりも高い。
【0096】
本実施形態において、熔融ガラス処理装置が清澄槽である場合、清澄工程における清澄槽102の最高温度は、1630〜1750℃であることが好ましく、1670〜1750℃であることがより好ましい。熔融ガラス処理装置の最高温度が低すぎる場合は、熔融ガラス処理装置が清澄槽である場合に、清澄不足となってしまうことから、清澄槽の最高温度は、このような温度範囲であることが好ましい。
清澄槽102の温度は、例えば清澄管102aの内壁または外壁に設けた、伝播管を備えた温度測定手段によって測定することで、より精度高く温度管理することができる。
【0097】
このような清澄槽102において、上述した清澄槽102の温度、清澄槽102の温度分布、さらに、気相空間中の白金または白金合金等の濃度の各パラメータは、下記のように変化しうる。
【0098】
清澄槽102の温度は、通電加熱によって清澄管102aを流れる電流量や、清澄管102aの放熱量が変化することで変化する。清澄管102aの放熱量は、清澄管102aに隣接して配置された部材(耐火物レンガ110等)の熱伝導率や、清澄槽102を冷却するための後述する冷却装置の有無、その冷却能力によって変化する。
【0099】
清澄槽102の温度分布は、清澄管102aの長手方向における、清澄槽102の最高温度と最低温度の温度差として表すことができ、清澄槽102の加熱量の分布や、放熱量(冷却量)の分布によって変化する。
清澄槽102の加熱量の分布は、清澄管102のフランジ102e、102fの位置や、通電加熱によって清澄管102aを流れる電流量(通電量)の分布によって変化する。
清澄槽102の放熱量の分布は、例えば、清澄管102aに隣接して配置された部材(耐火物レンガ110等)の熱伝導率や、清澄管102aのフランジ102e、102fの形状等によって変化する。
【0100】
気相空間中の白金または白金合金等の濃度は、気相空間の白金または白金合金等の蒸気圧(以降、白金蒸気圧ともいう)を用いて特定することができる。熔融ガラス処理装置の気相空間の白金蒸気圧は、例えば1〜10Paであり、熔融ガラス処理装置が清澄槽である場合は、例えば3〜10Paである。気相空間の白金蒸気圧は、清澄槽102からの白金または白金合金等の揮発量や、気相空間内の気流の流速等によって変化する。白金または白金合金等の揮発量は、清澄槽102の温度や、気相空間内の酸素濃度、気相空間の白金蒸気圧によって変化する。
【0101】
気相空間の白金蒸気圧は、白金または白金合金等の揮発量や、気相空間内の気流の流速によって変化する。気相空間の酸素濃度は、熔融ガラスから放出される酸素量や、気相空間に供給される不活性ガスの量によって変化する。熔融ガラスから放出される酸素量は、熔融ガラスの温度や、熔融ガラスの熱履歴、熔融ガラス中の清澄剤(例えば酸化錫)の含有量によって変化する。熔融ガラスの熱履歴は、例えば熔融ガラスの温度が清澄槽に導入される前から後にかけて変化することで形成される。
【0102】
上述の凝集低減温度は、このような各パラメータの変化に基づいて決定することができ、これを目標温度として不活性ガスの温度調整を行うことで、不活性ガスの温度が適正な温度に調整され、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されつつ、不活性ガスの温度が高くなり過ぎることが抑えられる。
【0103】
本実施形態の温度測定手段によれば、清澄槽の各装置の外側表面であれば、内壁の表面、外壁の表面、溶射膜を含む外壁の表面など、温度測定を要する領域に温度測定点をスポットで選択することができる。また、本実施形態の温度測定手段によれば、ガラス供給管104、清澄管102a、ガラス供給管105を含む清澄槽に複数の温度測定点を定めて、装置表面の実測温度を計測し、清澄槽全体について精度高い温度分布を得ることができるとともに、温度分布の経時的な変化を長期間にわたりモニタリングすることもできる。
【0104】
(清澄槽の基準温度分布と制御)
清澄槽の各装置の目標とする温度管理に応じて、予め、装置の基準となる温度分布(基準温度分布)を設定することができ、さらに、装置の基準温度分布に基づいて、各装置を加熱制御することができる。
例えば、あらかじめ、上述の昇温速度、降温速度が好ましい速度となるための装置の基準温度分布を決めておき、その基準温度分布に基づいて、各装置の加熱制御をコントロールする。同様に、上述の凝集低減温度を管理するために必要な装置の温度分布を予め決めておき、その基準温度分布に基づいて、各装置の加熱制御をコントロールする。
本実施形態の温度測定手段によれば、各装置の温度分布における実測温度をオンタイムに収集できるため、実測温度の経時変化を装置の加熱制御システムにフィードバックして、装置の加熱及び冷却制御を的確に実施できる。
【0105】
(伝播管を備えた温度測定手段)
本実施形態の温度測定手段は、耐火性酸化物からなる伝播管を備える。温度測定する測定対象の表面上に温度測定点を定め、温度測定点に伝播管を接触させて固定し、伝播管の内側の熱放射を非接触型の放射温度計で測定する。
上述したとおり、清澄槽の各装置では所定の目的に応じ温度測定と温度管理が必要となる。温度測定、温度管理を要する所定の領域で、温度測定点を選択的に定め、伝播管をスポットで当てて伝播管内の熱放射を測定することで、測定したい箇所の温度を正確に測定できる。
【0106】
使用される放射温度計として、例えば、温度上昇に応じ、物体から放射される赤外線の強さ(エネルギー量)が増加する赤外線放射エネルギー量を検知し、温度を測定する非接触型温度計が挙げられる。
【0107】
(伝播管)
伝播管201は、高温条件下で安定且つ高い熱伝導性を有するものであればよく、耐火性酸化物からなるもので、例えば、アルミナでつくられた筒上の伝播管などが挙げられる。
伝播管の径は、温度測定の目的に合わせて温度測定点の面積を特定し、温度測定点の大きさに対応するように伝播管の径を決めることができる。伝播管と温度測定点を接触させて伝播管内の熱放射を測定するため、伝播管の接触が測定対象外の温度領域を含んでしまうと、測定温度は測定対象外の温度を含み平均化された結果となる。このため、伝播管の径は、温度測定点の大きさ(面積)よりも小さいことが好ましく、温度測定点の大きさ(面積)の中に伝播管の接触面が収まるように決められる。
図3は、伝播管の一例を示すものである。
温度測定点に対する伝播管の接触面の形状は、温度測定点の大きさ(面積)の中に収まることができれば、平面又は曲面のいずれでもよい。
伝播管の長さは、装置が設置される条件に応じ、適宜設定することができる。
【0108】
本実施形態の温度測定手段は、伝播管を備え、放射温度計で伝播管の内側の熱放射を計測して温度を測定することで、高温条件下であっても、測定したい所の温度を、スポットで捉え、正確に測定できるとともに、経時的な実測温度の変化をモニタリングできるため、装置の加熱制御のシステムにフィードバックして、あらかじめ定めた基準温度分布に基づいて、装置の加熱及び冷却制御を実施できる。
【0109】
(ガラス組成)
このようなガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は用いられる。
SiO
2:55〜75モル%、
Al
2O
3:5〜20モル%、
B
2O
3:0〜15モル%、
RO:5〜20モル%(RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)、R’
2O:0〜0.8モル%(R’はLi、K、及びNaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)。
上記ガラスは、高温粘性が高いガラスの一例である。このようなガラスにおいて、清澄管102aにおいて適正な熔融ガラスの粘度で脱泡を行うために熔融ガラスを高温に加熱する。このため、清澄管102aの内壁から揮発物は多量に揮発し、揮発物の凝集が問題となる。このような場合、白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する本実施形態の効果は顕著となる。なお、本実施形態において製造されるガラス基板において、酸化錫の含有量は、例えば、0.01〜0.3モル%であり、好ましくは0.03〜0.2モル%である。酸化錫の含有量が0.01%以上であることで、清澄不良を抑制できる。また、酸化錫の含有量0.3モル%以下であることで、酸化錫の2次結晶の生成を抑制できる。
【0110】
このとき、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO
2)+Al2O3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であってもよい。すなわち、モル比((2×SiO
2)+Al2O3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスは、高温粘性が特に高く、清澄をし難いガラスの一例である。そのため、白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する本実施形態の効果はより顕著となる。また、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないほどガラス粘度は高くなる傾向にあるので、アルカリ金属酸化物の合量であるR’2Oが0〜0.8モル%であるガラスは特に粘性が高い。粘度が高いガラスを十分に清澄させるためには清澄槽温度(白金または白金合金)の温度を高くする必要があるが、このような粘度の高いガラスを製造する場合であっても、本実施形態を適用することで白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果が得られる。
【0111】
また、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、上述した高温粘性の高いガラスを用いる場合の他、熔解温度の高いガラスを用いる場合においても、顕著となる。例えば、熔解温度の指標となる粘度が102.5ポアズであるときの温度が1500℃以上であるガラスを製造する場合には、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果が顕著となる。
【0112】
ガラス基板の歪点は650℃以上であってもよく、690℃以上であることがより好ましく、730℃以上であることがさらに好ましい。また、歪点が高いガラスは、粘度が102.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にあり、清澄がし難くなるため、本実施形態の効果が顕著となる。
【0113】
また、酸化錫を含み、粘度が102.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度が1500℃以上となるようにガラス原料を熔解した場合、より本実施形態の効果が顕著となり、粘度が102.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500〜1700℃であり、1550〜1650℃であってもよい。
【0114】
(ガラス基板)
本実施形態で製造されるガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板、特にフラットパネルディスプレイ用ガラス基板として好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を用いた酸化物半導体ディスプレイ、LTPS(低温ポリシリコン)ディスプレイ、有機ELディスプレイ等に用いられるディスプレイ用ガラス基板として好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0115】
さらに、作製するガラス基板の板厚が薄いガラス基板、例えば0.01mm〜0.5mm、さらには0.01mm〜0.3mm、さらには0.01mm〜0.1mmのガラス基板においても、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、板厚の厚いガラス基板に比べて顕著となる。清澄管102a等の内壁に凝集した白金または白金合金等の凝集物の一部が微粒子となって熔融ガラス中に落下し、熔融ガラス中に混入しガラス基板に含まれる。この場合、ガラス基板の板厚が薄いほど、欠陥となる微粒子はガラス基板の表面に位置することが多い。ガラス基板の表面に位置する微粒子は、ガラス基板を用いたパネル製造工程において離脱すると、離脱した部分が凹部となり、ガラス基板上に形成される薄膜が均一に形成されず、画面の表示欠陥をつくる。したがって、本実施形態のように清澄管102aにおいて白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、板厚が薄いガラス基板ほど大きくなる。
【0116】
なお、本実施形態では、清澄槽102に適用した例を示したが、熔融ガラスを均質化する攪拌槽103や、ガラス供給管104,105,106に適用することもできる。
攪拌槽103の内壁のうち温度が低い部分は、攪拌槽103の天井壁と側壁の接続部分である場合が多い。この場合、上記接続部分から不活性ガスを気相空間内に供給することが好ましい。
ガラス供給管104,105,106には、管の途中で、熔融ガラスのバブリング、攪拌、流量調整を行うものがある。このようなガラス供給管には、気相空間が形成されており、ガラス供給管に設けたガス導入管から不活性ガスを気相空間内に供給することが好ましい。この場合、ガラス供給管に別途設けた隙間から気相空間内の気体や不活性ガスを外部に流すことができる。
そして、目的に応じ、清澄槽102、攪拌槽103や、ガラス供給管104,105,106においても、本実施形態の温度計測手段を設け、実測温度の管理、温度分布の測定、装置のフィードバック制御を行うことができる。
【0117】
以上、本発明を実施の形態により説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。