【課題】粘度の高い熔融ガラスを攪拌する攪拌槽では、攪拌による応力の負荷がかかる。破損することなく使用し、攪拌槽の寿命を延ばすには、攪拌槽の強度を向上させる必要があった。
【解決手段】粘度が800〜3000poiseである熔融ガラスを均質化する攪拌槽であって、円筒状の外周面を有し、強化白金系部材または強化白金合金系部材を用いて構成され、前記熔融ガラスを流す、攪拌槽本体と、前記攪拌槽本体に流れる熔融ガラスを回転数6〜16回/分で攪拌するスターラと、を備え、前記攪拌槽本体における応力振幅集中領域を含む部位に、板状の強化白金系金属または強化白金合金系金属を非熔融接合して円筒状とした強化構造体を有し、前記強化構造体は、溶接部及び溶接熱影響部のない連続した結晶組織からなる強化白金系金属又は強化白金合金系金属の円筒体であることを特徴とする。
前記攪拌工程における前記熔融ガラスの粘度は800〜3000poiseであり、前記スターラの回転数が6〜16回/分である、請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
前記強化構造体は、前記熔融ガラスが流れる前記槽本体の所定の高さ位置から、前記熔融ガラスの液面上部の気相空間を含む所定の高さ位置までに設けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法及び製造装置、及び攪拌槽について説明する。
図1は、本発明のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0013】
(1)ガラス基板の製造方法の全体概要
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、切断研削工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積槽された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0014】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の底部に設けられた流出口から後工程に向けて熔融ガラスを流す。
【0015】
熔解工程(ST1)は熔解炉で行われる。熔解炉では、ガラス原料を、熔解炉に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解炉の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
熔解炉の熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱して加熱する方法に加えて、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3,Fe
2O
3等、高温で還元反応により酸素を放出するタイプの金属酸化物が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてAs
2O
3の使用は望ましくない。
【0016】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、最初に、清澄槽内の熔融ガラスを昇温することで、溶融ガラス中に含まれる清澄剤に還元反応を起こさせ、O
2を発生させる。このO
2が、ガラス原料の分解反応やガラス原料中の不純物、溶解時の雰囲気の巻き込み等により、熔融ガラス中に含まれる、CO
2、SO
2あるいはN
2等を含んだ気泡に吸収されることで、熔融ガラス中の気泡の泡径が拡大し、気泡の浮上速度が高まる。この気泡の浮上速度の向上により熔融ガラスの液面に気泡を浮上させて脱泡が促進される。すなわち、熔融ガラスの液面まで浮上した気泡は、液面で破泡し、気泡に含まれていたガスが清澄槽内の気相空間に放出される。
その後、溶融ガラスの温度を下げていき、清澄剤に酸化反応を起こさせ、溶融ガラス中のO
2を再吸収させる。このO
2の再吸収により、脱泡しきれなかった溶融ガラス中の小泡は、泡内のO
2が脱泡とガラス温度の低下とが相まって、小泡内のガス圧が低下し、縮小消滅する。なお、清澄管は、熔融ガラスから気相空間に放出されたガスを大気に放出するために、大気に連通した通気管を備える。
【0017】
均質化工程(ST3)では、清澄管から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0018】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス基板の洗浄が行われ、さらに、気泡等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス基板が最終製品として梱包される。
【0019】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板の製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解炉101と、清澄管102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
【0020】
図2に示す熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われるが、原料投入方法に制約は無く、スクリューフィーダー方式や、ブッシュープレート方式の投入機を用いてもよい。
清澄管102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
なお、
図2に示す熔解炉101から成形装置200にいたる熔融ガラスMGの流路、具体的には、ガラス供給管104、清澄管102、ガラス供給管105、攪拌槽103、およびガラス供給管106の熔融ガラスMGの流路を形成する流路内表面は、少なくてもその一部が、白金あるいは白金合金で構成されている。
【0021】
(2)ガラス基板
本発明の実施形態において製造されるガラス基板は、例えば、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、またはカーブドパネルディスプレイ用ガラス基板で、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板あるいは、有機ELディスプレイ用のガラス基板として好適である。また、このガラス基板は、その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。その中でも特に熱収縮率の小さいことが要求される、LTPS(低温ポリシリコン)・TFTや、酸化物半導体・TFT、IGZO(Indium-Gallium-Zinc-Oxide)・TFTディスプレイ用ガラス基板など、パネル製造工程において高温処理を必要とする製品に好適に用いることができる。
【0022】
本実施形態において製造されるガラス基板は、特に制限されないが、例えば縦寸法及び横寸法のそれぞれが、500mm〜3500mm、1500mm〜3500mm、1800〜3500mm、2000mm〜3500mmなどが挙げられ、2000mm〜3500mmであることが好ましい。
ガラス基板の厚さは、例えば0.01mm〜1.1mmである。より好ましくは0.75mm以下の極めて薄い矩形形状の板で、例えば、0.55mm以下、さらには0.45mm以下の厚さがより好ましい。ガラス基板の厚さの下限値としては、0.15mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましい。
【0023】
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
<ガラス組成>
本実施形態が適用するガラス組成として、例えば、次が挙げられる(質量%表示)。
SiO
2:50〜70%(好ましくは、57〜64%)、Al
2O
3:5〜25%(好ましくは、12〜18%)、B
2O
3:0〜15%(好ましくは、6〜13%)を含み、さらに、次に示す組成を任意に含んでもよい。任意で含む成分として、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、3〜7%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0.5〜8%、より好ましくは3〜7%)、BaO:0〜10%(好ましくは、0〜3%、より好ましくは0〜1%)、ZrO
2:0〜10%(好ましくは、0〜4%,より好ましくは0〜1%)が挙げられる。さらに、R’
2O:0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
或いは、SiO
2:50〜70%(好ましくは、55〜65%)、B
2O
3:0〜10%(好ましくは、0〜5%、1.3〜5%)、Al
2O
3:10〜25%(好ましくは、16〜22%)、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、2〜10%、2〜6%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0〜4%、0.4〜3%)、BaO:0〜15%(好ましくは、4〜11%)、RO:5〜20%(好ましくは、8〜20%、14〜19%),を含有することが好ましい(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)。さらに、R’
2Oが0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
さらに本実施形態のガラス基板の物性値として次が挙げられる。
<ヤング率>
本実施形態が適用されるガラス基板のヤング率として、例えば、72(Gpa)以上が好ましく、75(Gpa)以上がより好ましく、77(Gpa)以上がより更に好ましい。
<歪点>
本実施形態が適用されるガラス基板の歪率として、例えば、650℃以上が好ましく、680℃以上がより好ましく、700℃以上、720℃以上が更により好ましい。
また、例えば、ガラス基板の液相粘度は、10
4.3poise〜10
6.7poiseである。
もちろん、本発明においては、ガラス基板のガラス組成を限定するものではない。
<その他>
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更により好ましくは20ppm以下である。熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率の範囲としては、10ppm〜40ppmが好ましい。
【0024】
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。
【0025】
(3)攪拌槽の基本構成
以下、本発明にかかるガラス基板の製造方法の一実施形態について説明する。
図3を用いて本発明のガラス基板の攪拌槽の基本構成を説明する。具体的には、上述の均質化工程(ST3)、すなわち攪拌装置100を用いて溶融ガラスMGを均質化する工程についての説明である。
図3の攪拌装置103は、
図2の攪拌装置103を詳細に示す図である。攪拌装置103は、攪拌容器103a、スターラ103c及び攪拌容器のカバー103bを備えている。
攪拌容器103aは、好ましくは円筒形であり、実質的に垂直に向けられているが、この攪拌容器は必要に応じて他の形状および向きを有していてもよい。攪拌容器103aは、白金または白金合金から構成された壁を有する。耐食性を含む耐高温性、並びに導電率を有するその他の白金族金属で構成される材料を代わりに使用してもよい。攪拌容器103aは、その上部にまたはその近くに位置し、溶融ガラスMGの攪拌容器103aへの入口管となるガラス供給管(以下、入口管ともいう)43b、および攪拌容器103aの下部の近くに位置し、溶融ガラスMGの攪拌容器101からの出口管となるガラス供給管(以下、出口管ともいう)43cを備えている。
【0026】
スターラ103cは、攪拌槽103の槽本体内側を流れる熔融ガラスを攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減する。
スターラ103cは、シャフト103dおよびシャフトから延在する複数の攪拌翼103eを備えている。攪拌翼103eは、攪拌装置103の動作中には、攪拌容器103a内の上部の気相空間に接する溶融ガラスMGの液面より下の位置となるように沈められている。スターラ103cは、図示されない回転駆動源に接続された駆動軸に接続されて回転する。スターラ103cの回転数は、例えば、6〜16回/分で回転する。スターラ103cで攪拌される熔融ガラスの粘度は800〜3000poiseである。溶融ガラスMGの表面温度は、約1300℃から1500℃の程度であるが、ガラス組成によりその範囲外となる場合もある。スターラ103cは、白金族金属の材料で構成されることが好ましい。
【0027】
カバー103bは、攪拌容器103aの上部の開放部を覆うように設けられている。スターラ103cはカバー103bを貫通しており、スターラのシャフト103dとカバー103bとの間に間隙が存在する。カバー103bの下面は、気相空間に接している。
【0028】
攪拌槽103における攪拌槽本体(攪拌容器103a)は、攪拌槽本体103の応力振幅集中領域に、継ぎ目のない強化構造体103f(
図4a又はb)を有する。本実施形態の強化構造体103fは(
図4)、板状の強化白金系金属または強化白金合金系金属を非熔融接合で接合して円筒状とした強化構造体であり、溶接部及び溶接熱影響部の無い、連続した結晶組織からなる強化白金系金属又は強化白金合金系金属の円筒体である。
【0029】
板状の金属材を筒状にして溶接により熔融接合して円筒体とした場合、円筒体は溶接の接合部位(継ぎ目)及び溶接熱影響部を有する(
図8)。このような溶接の接合部位(継ぎ目)及び溶接熱影響部では、母材の結晶組織が断たれるため、板状の母材本来の強度と比べ、強度(クリープ強度、疲労強度)が劣る。このため、溶接による熔融接合で攪拌槽本体の円筒体をつくる場合には、溶接部位の外側に補強材を備える必要がある。しかし、攪拌槽の寿命が長期化するとき、このような継ぎ目を有する攪拌槽本体において、継ぎ目の外側に補強部材を設けたとしても、なお、強度および耐久性は十分でない。
【0030】
本実施形態の攪拌槽本体(攪拌容器103a)における強化構造体103fは(
図4)、板状の強化白金系金属または強化白金合金系金属を非熔融接合で接合して円筒状とした強化構造体であり、溶接部及び溶接熱影響部の無い、連続した結晶組織からなる強化白金系金属又は強化白金合金系金属の円筒体である。
このような強化構造体103fを、攪拌槽本体103aの応力振幅集中領域を含む部位に設けることで、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力負荷(ヘッド圧、及び、攪拌の正圧と負圧の振幅による負荷)に対する耐久性を向上させる。
【0031】
強化構造体103fは、板状の強化白金系金属または強化白金合金系金属を非熔融接合で接合して円筒状とした構造体で、強化白金系金属又は強化白金合金系金属の連続した結晶組織からなる円筒体としてつくられ、例えば、非熔融による接合方法で、鍛造接合などによる接合法が挙げられる。
【0032】
本実施形態における攪拌槽に強化構造体103fを設ける位置は、攪拌槽本体103における応力振幅集中領域を特定して、定めることができる。
応力振幅集中領域の特定は、例えば、攪拌容器の温度と、攪拌される溶融ガラスの温度と、スターラの回転数とを測定して、撹拌容器の測定温度での物性値と、溶融ガラスの攪拌時の粘度と、スターラの回転数のデータを用いた流体および構造シミュレーションにより応力振幅集中領域を特定する。このシミュレーションでは、攪拌容器と、溶融ガラスと、スターラとをコンピュータ(特定装置)上でモデル化し、攪拌容器には使用されている材料の物性値と拘束条件(例えば、底面が固定されている等)を、溶融ガラスには攪拌時の粘度を、スターラには回転数(あるいは角速度)をそれぞれ設定する。スターラが回転した際の応力振幅より、応力振幅集中領域を得ることができる。これにより応力振幅集中領域をカバーして覆うように強化構造体103fを設けることができる。
【0033】
図4に、強化構造体103fを設ける位置の概要を示す。強化構造体103fを設ける位置として、攪拌槽の槽本体の底部から熔融ガラスの液面高さまでの間(領域A)、熔融ガラスMGが流れる槽本体の所定の高さ位置から熔融ガラスMGの液面上部の気相空間までの間(領域B)、攪拌槽本体103aの円筒状の全て(領域C)、が挙げられる。
さらに、強化構造体103fとして、攪拌容器103aの底面を含む強化構造体(
図4b)とすることができ、攪拌容器103a底面を含む領域Aまでの強化構造体103f、攪拌容器103a底面を含む攪拌槽本体103a全体を強化構造体103fとするもの、等が挙げられる。
【0034】
上述したとおり、強化構造体103fに溶接による接合方法は使用しないため、強化構造体103fは溶接による接合部位を有しない。強化構造体103fは、攪拌容器103aの壁部に使用する金属材(白金系金属)、攪拌容器103a底部及び壁部に使用する金属材(白金系金属)を、成形型を用いて、円筒状あるいは攪拌容器103aの底面を含む円筒状に成形加工し、接合部(継ぎ目)のない成形体としてもよい。強化構造体103fの本体は、溶接加工を用いず、強度、耐熱性、耐クリープ製、高温耐久性など、目的の特性強度を得られるように加工できれば、鋳造加工、塑性加工など、成形加工法はいずれでよい。
【0035】
強化構造体103fの成形体に使用する材料として、白金、白金合金、ジルコニア等の金属酸化物を白金に分散させた酸化物分散強化型白金(強化白金)、ジルコニア等の金属酸化物を白金合金に分散させた酸化物分散強化型白金合金(以降、単に強化白金合金という)が挙げられる。
ここで白金合金は、白金の他に、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、あるいは金を含んでもよく、例えば白金中に10質量%のロジウムを含む合金が挙げられる。
【0036】
強化白金あるいは強化白金合金は高温での耐クリープ性能の向上を目的として、ガラス工業用に開発されたもので、白金もしくは白金合金中に、酸化ジルコニウムの微粒子を均一に分散させて作られる。
分散した酸化ジルコニウムの微粒子による転移移動応力の上昇ならびに転移運動の阻害により強度が増加することに加え、クリープ変形時の結晶粒界すべりの少なさにより、通常の白金あるいは白金合金に比べ、極めて高い高温クリープ強度を獲得している。なお、クリープ変形時の結晶粒界すべりの少なさは、分散した微粒子が特定方向へ結晶粒として成長することを抑制することで得られる結晶形状比の大きな結晶組織に依拠する。
【0037】
強化構造体103fは、成形体の層が1層構造、又は2層以上の複数層構造(積層成形体)のいずれでもよい。例えば、2層構造として、白金あるいは白金合金からなる層に、強化白金あるいは強化白金合金からなる層を積層したクラッド材を成形体として強化構造体103fとしてもよい。クリープ変形及び耐用年数の観点から、強化白金又は強化白金合金で形成される強化構造体103fとするのが、で好ましい。
強化構造体103fの成形体層の厚さは、例えば、0.5mmから3mmの範囲で適宜設計される。
【0038】
攪拌槽本体103aに設けられる強化構造体103fの他の部分は、攪拌槽本体103aに設ける強化構造体103fの位置によって、強化構造体103f以外の攪拌槽本体103aの構成が決められる。
例えば、
図4bに示される、攪拌槽103の槽本体103aの底部から熔融ガラスの液面高さまでの間(領域A)に、底面を含む強化構造体103fが設けられる場合、それ以外の槽本体103aの部分で、底面を含む強化構造体103fの上部には(熔融ガラスが有る領域〜熔融ガラスの液面上部の気相空間を含む領域)、板状の金属材(白金系金属)を接合して筒状とした構造を用いることができ、底面を含む強化構造体103fと、その上部に設けられる、板状の金属材(白金系金属)を接合して筒状とした構造体とを、接合して一体化させて、攪拌槽本体103aをつくることができる。
【0039】
攪拌槽本体103aに設けられる強化構造体103fの他の部分に、板状の金属材を丸めて接合して得られる筒状の構造体を用いる場合、その接合部して得られる筒状の構造体に使用される材料としては、上述の強化構造体103fと同様の材料が挙げられる。
また、一体化して攪拌槽槽本体103aとする、強化構造体103f、板状の金属材を丸めて接合して得られる筒状の構造体、それぞれは異なる材料、又は同一の材料でつくることができる。
【0040】
攪拌装置103において、攪拌容器に溶融ガラスを通過させて攪拌処理を行う際に、攪拌装置103の内部の溶融ガラスと接することのない領域として予め設定された領域(以下、単に領域ともいう)の少なくとも一部に、溶射により形成した耐火性酸化物からなる被覆層(以下、被覆層ともいう)を設けてもよい。例えば、上記領域を、攪拌容器103の内部の上部に存在する気相空間に接し、かつ、溶融ガラスMGの液位から5mm〜10mm以上上側の領域として設定することができる。その他の上記領域の例として次の領域が挙げられる:気相空間に接する攪拌容器103aの内壁のうち、溶融ガラスMGとの境目付近を除く(溶融ガラスMGの液位から5mm〜10mm以上上側の)領域;カバー103bの下面のうち、気相空間に接する部分;および、気相空間に接するシャフト103d表面のうち、溶融ガラスMGとの境目付近を除く(溶融ガラスMGの液位から5mm〜10mm以上上側の)部分。
【0041】
気相空間は、攪拌容器103a内の溶融ガラスMGの液位の調整をすることにより所定の広さを得ることが可能である。上記の液位は、たとえばレーザ変位計を用いて必要に応じて計測し、熔解槽に投入するガラス材料の量を増減する等の好適な方法により調整する。液位が上がると上記の被覆層に接触するおそれがあるため、溶融ガラスMGの液位は上述の気相空間の最下端よりも上にならないように調整することが望ましい。
【0042】
被覆層を形成する溶射の方法としては、ガス式溶射でもよいし、電気式溶射でもよい。ガス式溶射の例としては、フレーム溶射が挙げられる。電気式溶射の例としては、大気プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射などのプラズマ溶射が挙げられ、適宜、溶射方法を選択し、可能な方法を採用してよい。
【0043】
被覆層を構成する耐火性酸化物は、攪拌装置103の動作条件の高温に耐えられる任意の耐火性酸化物(セラミック材料)であり、例えば、Al
2O
3、ZrO
2、Cr
2O
3、TiO
2、MgOを含むものが挙げられるが、これらに限らない。また、Y
2O
3−ZrO
2などの安定化ジルコニアであってもよい。例えば、Al
2O
3をプラズマ溶射することより、被覆層を形成してもよい。また、Y
2O
3−ZrO
2をプラズマ溶射することより、被覆層を形成してもよい。
【0044】
耐火性酸化物は、既に述べた溶射技法のうち好適な方法を採択し、所望の被覆厚を有する被覆層107が形成されるまで十分に溶射されるものとする。被覆層に要求される厚さは、攪拌装置103を加熱する温度、すなわちガラス材料により異なるものであり、必要に応じて好適な厚さに設定することができる。例えば、被覆層の厚さは50μm〜500μm程度とする。50μm未満の場合には、揮発を効果的に抑えることができない。また、500μmを超えると、溶射に時間を要する。好ましくは、被覆層の厚さは60μm〜500μm、さらに好ましくは、70μm〜500μm程度である。
【0045】
(4)特徴
攪拌槽103(攪拌装置103)の主な特徴は、攪拌により発生する応力で、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力の負荷(ヘッド圧、及び、攪拌の正圧と負圧の振幅による負荷)に対する耐久性を向上させる強化構造体103fを有する、ことにある。
【0046】
強化構造体103fは、攪拌槽本体103aの応力振幅集中領域に設けられる(領域A〜C)。強化構造体103fは、板状の強化白金系金属または強化白金合金系金属を非熔融接合で接合して円筒状とした強化構造体であり、溶接部及び溶接熱影響部の無い、連続した結晶組織からなる強化白金系金属又は強化白金合金系金属の円筒体である。
【0047】
板状の金属材を筒状にして溶接により熔融接合して円筒体とした場合、円筒体は溶接の接合部位(継ぎ目)及び溶接熱影響部を有する(
図8)。このような溶接の接合部位(継ぎ目)及び溶接熱影響部では、母材の結晶組織が断たれるため、板状の母材本来の強度と比べ、強度(クリープ強度、疲労強度)が劣る。このため、溶接による熔融接合で攪拌槽本体の円筒体をつくる場合には、溶接部位の外側に補強材を備える必要がある。しかし、攪拌槽の寿命が長期化した場合、このような継ぎ目を有する攪拌槽本体に、継ぎ目の外側から補強部材を設けたとしても、なお、強度および耐久性は十分でない。
【0048】
強化構造体103fは、溶接による接合部(継ぎ目)が無いことで、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力の負荷に対する強度が増し、攪拌槽103の耐久性の向上が可能となる。
攪拌している間は、槽本体103aの中でも、特に、熔融ガラスが流れる領域では、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力は、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスのヘッド圧とともに、スターラ103cの回転により生じる、スターラ103c前方の正圧とスターラ103c後方の負圧で、向きが交互に変化する応力振幅の負荷が発生し、熔融ガラスが流れる領域の槽本体103aの壁に応力負荷がかかる。
強化構造体103fを、攪拌槽本体103aにおける応力振幅集中領域に設けることで、攪拌槽の高温条件での使用による経時的な疲労強度低下を向上させるだけでなく、熔融ガラスが流れる領域の槽本体103aの壁にかかる応力負荷で、上説した熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力に対する耐久性を向上することができる。
【0049】
攪拌槽の槽本体103aに設ける強化構造体103fの位置は、攪拌槽の槽本体103aの底部から熔融ガラスの液面高さまでの間(領域A)で、熔融ガラスが流れる領域に強化構造体103fが設けられるのが好ましい。さらに、攪拌槽の槽本体103aの底部から熔融ガラスの液面高さまでの間(領域A)に設ける場合、強化構造体103fは槽本体103aの底面を含む強化構造体とするのがより好ましい。このように強化構造体103fが設けられることで、攪拌により発生する応力で、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする負荷に対する強度を向上させることができる。
【0050】
また、熔融ガラスMGが流れる前記槽本体の所定の高さ位置から熔融ガラスの液面上部の気相空間までの間(領域B)、あるいは、攪拌槽本体103aの円筒状の全て(領域C)、において強化構造体103fを設けることでも、上述と同様の攪拌により発生する負荷に対する強度および耐久性を向上させることができる。
【0051】
さらに、攪拌槽本体103aに接続される、熔融ガラス導入パイプ、熔融ガラス流出パイプ、液面異物の排出パイプ周辺において、パイプの固定と攪拌による振れで発生する応力の振幅が集中する領域を特定して、このような応力振幅集中領域をカバーするように、強化構造体103fを攪拌槽本体103aに設けるのが好ましい。このように設けることで、攪拌槽本体103aに接続される複数のパイプ周辺にかかる応力振幅の負荷に対する強度および耐久性を向上させることができる。
【0052】
なお、本実施形態は、液晶表示装置用ガラス基板や有機ELディスプレイ用ガラス基板等のフラットパネルディスプレイ用基板の製造に用いる場合に上記効果を効率よく発揮することができる。液晶表示装置用ガラス基板等のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板では、上述したように、ガラス基板に形成するTFTを劣化させないためにアルカリ金属を含まないか、ごく僅かしか含まないアルカリ微量含有ガラスが用いられる。
アルカリ金属を含まないか、ごく僅かしか含まないアルカリ微量含有ガラスは高温粘性が高いので、攪拌槽にかかるに応力振幅の変動は従来より高くなる傾向がある。したがって、攪拌槽本体103aにおいて、熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする領域で、特に、応力振幅集中領域を含む部位では、振幅応力の負荷がより大きくなる傾向にあるため、強化構造体103fを用いた本実施形態の効果は大きくなり、攪拌槽の高温条件での使用による経時的な疲労強度低下を向上させ、且つ、熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする攪拌槽の特有の応力に対する耐久性を向上させることが可能となる。
【0053】
(実施形態1)
攪拌槽103内の熔融ガラスMGの液面付近に、液面異物排出パイプ103、熔融ガラス流出パイプ103gそれぞれが、対向するように設置されている。
実施形態1の槽構造では、熔融ガラスが流れる槽本体103aの領域Aの壁に槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力に加え、さらに、液面異物排出パイプ103f、熔融ガラス流出パイプ103gのそれぞれの固定と、攪拌による振れにより槽本体の上部において構造の接合部位に応力振幅が集中する領域が発生する(応力振幅集中領域)。
実施形態1では、ジルコニア分散型強化白金nanoplat(R)Ptからなる強化構造体103fがつくられる(
図5)。この強化構造体103fは、熔融ガラスMGが流れる領域における攪拌槽の所定の高さ位置から、熔融ガラスMGの液面上部の気相空間最上部(攪拌容器のカバー103bの下面)までの領域に(領域B)設けられる。
図5に示されるとおり、液面異物排出パイプ103f、熔融ガラス流出パイプ103gのそれぞれの固定と、攪拌による振れにより発生する応力振幅集中領域Aをカバーするように、強化構造体103fが設けられている。
本実施形態1のように強化構造体103fを設けることで、熔融ガラスが流れる領域の槽本体103aの壁にかかる応力負荷で、熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力に対する耐久性が向上させ、攪拌槽の高温条件での使用による経時的な疲労強度低下も改善し、攪拌槽の耐用年数を延ばすことができる。
【0054】
(実施形態2)
実施形態2では、ジルコニア分散型強化白金nanoplat(R)Ptからなる強化構造体103fがつくられる。この強化構造体103fは、攪拌槽の槽本体103aの底部から熔融ガラスの液面高さまでの間(領域A)に設けられる(
図6)。
熔融ガラスが流れる槽本体103aの領域Aの壁には、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力として、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスのヘッド圧とともに、スターラ103cの回転により生じる、スターラ103c前方の正圧とスターラ103c後方の負圧で、向きが交互に変化する負荷がかかる。
本実施形態2のように強化構造体103fを設けることで、熔融ガラスが流れる領域の槽本体103aの壁にかかる応力負荷で、熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力に対する耐久性を向上させ、攪拌槽の高温条件での使用による経時的な疲労強度低下も改善し、攪拌槽の耐用年数を延ばすことができる。
【0055】
(実施形態3)
実施形態3では、ジルコニア分散型強化白金nanoplat(R)Ptからなる成形体として、槽本体103aの底面を含む槽本体103aの全てが、強化構造体103fでつくられる(
図7)。
熔融ガラスが流れる槽本体103aの領域Aの壁には、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする応力として、槽本体103aの中を流れる熔融ガラスのヘッド圧とともに、スターラ103cの回転により生じる、スターラ103c前方の正圧とスターラ103c後方の負圧で、向きが交互に変化する負荷がかかる。
また、攪拌槽の上部周辺の構造では、液面異物排出パイプ103f、熔融ガラス流出パイプ103gのそれぞれの固定と、攪拌による振れにより槽本体の上部構造の接合部位に特に応力振幅が集中する領域が発生する(応力振幅集中領域)
本実施形態3のように強化構造体103fが設けられることで、熔融ガラスが流れる攪拌槽の全ての領域、さらに応力振幅集中領域A、Bが、強化構造体103fで全てカバーされる。
実施形態3によれば、応力振幅集中領域A、Bに対する負荷、さらに槽本体103aの中を流れる熔融ガラスが外側へ向けて押し広げようとする負荷に対する耐久性が向上するとともに、攪拌槽の高温条件での使用による経時的な疲労強度低下が改善され、攪拌槽の耐用年数を延ばすことができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態により説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。