【解決手段】構造物1の躯体2を構成する、柱鉄骨11、柱主筋12、及びプレキャストコンクリート部13を有した鉄骨鉄筋コンクリート造の柱3であって、躯体2の各階における上下方向中央部に配置され、互いに上下に位置する柱鉄骨11、11同士が接合される接合部Jを備え、接合部Jの周囲にて、互いに上下に位置する複数組の柱主筋12,12のうちの少なくとも一部は、下方に位置する柱主筋12Lの上端部12tと上方に位置する柱主筋12Hの下端部12bとが、それぞれ、コンクリート18に直接固定されている。
【背景技術】
【0002】
構造物の躯体を構成する柱が、鉄筋コンクリート(RC)造である場合において、上下に位置する柱同士を接合する際には、互いに上下に位置する柱主筋同士を、圧接継手や機械式継手等の継手を用いて接合している。
【0003】
例えば、特許文献1は、
図10に示すような、RC造の柱103と梁102を備える建築物101の、柱103を構成する柱主筋104の継ぎ手構造を開示している。柱主筋104は、柱103の延伸軸を中心軸として90°毎の4カ所各々に配され、上下に複数連接される第1の柱主筋105と、同じく上下に複数連接され、隣り合う該第1の柱主筋105の間に所定の離間間隔を持って複数配される第2の柱主筋106とを備えている。上下に連接する第1の柱主筋105同士は、鉛直方向で同軸状に配されて向かい合う上下端部105a、105bに機械式継ぎ手108が形成され、第2の柱主筋106同士は、鉛直方向で同軸状に配されるものの、向かい合う上下端部106a、106b各々が自由端に形成されている。第2の柱主筋106の継ぎ手部が水平に並列配置されることで、第2の柱主筋106の継ぎ手部離間位置における柱コンクリート水平断面内では、第1の柱主筋105のみが配置されている。
【0004】
他方、柱が鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造である場合においては、柱主筋に加えて、互いに上下に位置する柱鉄骨同士を、ジョイントプレートを介してボルト接合しなければならない。すなわち、特にSRC造の場合には、RC造に比べると作業量が多くなるため、柱鉄骨や柱主筋の接合作業を、作業者が自らの胸の高さ付近で楽な姿勢で行えるようにして、施工を効率化する目的で、柱同士の接合部をフロアレベルから1メートル程度上方に設けることが多い。
【0005】
しかし、フロアレベルから1メートル上方の位置においては、柱に作用する曲げモーメントが大きいため、全ての柱主筋を、圧接継手や機械式継手などによって接合して、十分な強度を備える構造とする必要がある。だが、特に柱の断面構造上、柱鉄骨部分の面積が比較的大きい場合には、柱鉄骨の接続部におけるジョイントプレートやボルトと、柱主筋の継手が干渉し、反って作業性が低下するという問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱を適用して構成される構造物の躯体の一部を示す立面図である。
【
図2】
図1の鉄骨鉄筋コンクリート柱を構成する柱部材同士の接合構造を示す立断面図である。
【
図3】
図1の鉄骨鉄筋コンクリート柱を構成する柱部材同士の接合構造を示す平断面図である。
【
図4】
図1の鉄骨鉄筋コンクリート柱の構築方法の流れを示す図であり、下方の柱部材を建方した状態を示す立断面図である。
【
図5】
図4に続く状態を示す図であり、下方の柱部材と上方の柱部材とを対向させた状態を示す立断面図である。
【
図6】柱の上下方向における曲げ応力の分布を示す図である。
【
図7】本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱の変形例の構成を示す平断面図である。
【
図8】本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱の変形例の構成を示す立断面図である。
【
図9】本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱の他の変形例の構成を示す断面図である。
【
図10】RC造の柱と梁を備える建築物における、従来の柱主筋の継手構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明による鉄骨鉄筋コンクリート柱を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱を適用して構成される構造物の躯体の一部を示す立面図を
図1に示す。また、鉄骨鉄筋コンクリート柱を構成する柱部材同士の接合構造を示す立断面図を
図2に示す。鉄骨鉄筋コンクリート柱を構成する柱部材同士の接合構造を示す平断面図を
図3に示す。本実施形態において、構造物1は、スタジアム、体育館、倉庫など中低層でロングスパンの建物であって、地震時に柱中央部にかかる曲げ応力が柱端部に比べて十分小さいと想定される構造物である。
【0014】
図1に示されるように、構造物1の躯体2は、上下方向に連続する柱(鉄骨鉄筋コンクリート柱)3と、柱3に上下方向に間隔を空けて設けられた梁4と、を備えている。
本実施形態において、躯体2の各階における柱3は、プレキャストコンクリート造からなる、下方に位置する柱部材10Lと、上方に位置する柱部材10Hを備えており、これらの柱部材10(10H、10L)を上下に接合することで構成されている。
【0015】
図1、
図2、
図3に示されるように、柱3を構成する各柱部材10は、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)であり、柱鉄骨11と、柱主筋12と、これら柱鉄骨11及び柱主筋12を覆うように形成されたプレキャストコンクリート部(コンクリート部)13と、を備えている。
この実施形態において、各柱部材10は、例えば平断面視矩形状をなしている。従って、プレキャストコンクリート部13は、平断面視矩形状である。
【0016】
図2、3に示されるように、柱鉄骨11は、上下方向に延び、平断面視したときの断面形状が、例えば十字状をなしている。すなわち、柱鉄骨11は、平断面視した状態で、互いに直交するウェブ11w,11wと、それぞれのウェブ11wの両端部にウェブ11wに直交して設けられたフランジ11f,11fと、を備えている。
なお、柱鉄骨11は、上記した形状以外のいかなる平断面形状であっても良く、例えば平断面視H型状、平断面視T字状等であってもよい。
【0017】
図2、
図3に示されるように、柱主筋12は、上下方向に延び、プレキャストコンクリート部13内で、柱鉄骨11の周囲に複数本が配筋されている。また、柱主筋12の周囲には柱部材10の周方向に連続するフープ筋14が、上下方向に間隔を空けて複数設けられている。
【0018】
各柱部材10において、柱鉄骨11及び柱主筋12は、プレキャストコンクリート部13の上面13t及び下面13bから、それぞれ上方、下方に所定寸法突出するように設けられている。
【0019】
図1、
図2に示されるように、躯体2の柱3は、上記したような柱部材10を上下に接続することで構成されている。ここで、
図1に示されるように、躯体2の各階において、下方に位置する柱部材10Lと、上方に位置する柱部材10Hとは、各階における上下方向中央部で接合されている。すなわち、各階の柱3における、上方に位置する柱部材10Hの柱鉄骨11Hと下方の柱部材10Lの柱鉄骨11Lとの接合部Jは、この中央部に位置している。
ここで、各階における上下方向中央部とは、当該階における柱3の上端部である柱頭部3tと、下端部である柱脚部3bの中央の部分を示すものである。接合部Jを中央の部分に位置せしめることにより、後に
図6を用いて説明するように、地震等による外力が作用したときに柱3作用する曲げ応力を小さくすることができる。
【0020】
図2に示されるように、接合部Jにおいて、上方の柱鉄骨11Hと下方の柱鉄骨11Lとは、それぞれのウェブ11w、フランジ11f同士が、ジョイントプレート15及びボルト16によって接合される。
【0021】
また、接合部Jの周囲において互いに上下に対向する位置する複数組の柱主筋12H、柱主筋12Lのうち、少なくとも一部は、継手による接合がなされておらず、間隔を置いて対向するように設けられている。
言い換えると、各柱主筋12Hの下端部12bと、各柱主筋12Lの上端部12tとは、下方に位置する柱部材10Lのプレキャストコンクリート部13の上面13tと上方に位置するプレキャストコンクリート部13の下面13bとの間に打設充填されるコンクリート18のみに直接固定されたコンクリート固定端12Zとされている。ここで、直接固定とは、柱主筋12Hの下端部12bと、柱主筋12Lの上端部12tを、機械式継手等を使用せずに、コンクリートに埋設されただけの状態で固定することである。
【0022】
なお、
図2、
図3に示される本実施形態においては、接合部Jの周囲において、互いに上下に対向する全ての柱主筋12H,12Lが、継手によって接合されていない。
【0023】
次に、上記したような鉄骨鉄筋コンクリート柱を用いた柱3の構築方法について説明する。
鉄骨鉄筋コンクリート柱の構築方法の流れを示す図であり、下方の柱部材を建方した状態を示す立断面図を
図4に示す。
図4に続く状態を示す図であり、下方の柱部材と上方の柱部材とを対向させた状態を示す立断面図を
図5に示す。
柱鉄骨11と、柱主筋12と、プレキャストコンクリート部13とからなる柱部材10は、予め工場や現場ヤード等で製作しておく。
【0024】
まず、
図4に示されるように、柱部材10Lを躯体構築現場の所定階、所定位置に建方する。その後、各柱部材10には、梁4を接合する。
各階において、下方に位置する柱部材10Lを建方した状態で、その柱鉄骨11の上端部11tは、当該階に構築すべき柱3の上下方向中央部近傍に位置している。
【0025】
この後、
図5に示されるように、下方に位置する柱部材10Lの上方に、上方に設置すべき柱部材10Hを吊り込む。そして、下方に位置する柱部材10Lのプレキャストコンクリート部13から上方に突出した柱鉄骨11Lの上端部11tと、上方に吊り込んだ柱部材10Hのプレキャストコンクリート部13から下方に突出した柱鉄骨11Hの下端部11bとを、互いに上下に対向させる。
この状態で、下方に位置する柱部材10Lの各柱主筋12Lの上端部12tと、上方に位置する柱部材10Hの各柱主筋12Hの下端部12bとは、上下方向で、互いに対向している。
【0026】
次いで、
図2に示されるように、下方の柱鉄骨11Lの上端部11tと、上方の柱鉄骨11Lの下端部11bとを、ジョイントプレート15及びボルト16によって接合する。
【0027】
この後、接合部Jの周囲、すなわち下方に位置する柱部材10Lのプレキャストコンクリート部13Lの上面13tと、上方に位置する柱部材10Hのプレキャストコンクリート部13Hの下面13bとの間を、図示しない型枠によって囲い、その内側にコンクリート18を打設する。打設したコンクリート18が所定の養生期間を経て、所定の強度を発現した後、型枠を解体する。これにより、当該階において、下方に位置する柱部材10Lと、上方に位置する柱部材10Hとが接合される。
【0028】
このような構成において、柱3は、各階において互いに上下に位置する柱部材10Hの柱鉄骨11Hと、柱部材10Lの柱鉄骨11Lとが、各階の柱3の高さ(柱脚部3bから柱頭部3tまでの高さ)Hの1/2程度の高さhに設定された接合部Jで接合されている。
ここで、柱の上下方向における曲げ応力の分布を示す図を
図6に示す。
図6に示されるように、各階の柱3に対し、地震等による外力が作用したときに作用する曲げ応力は、各階の柱3の上端部である柱頭部3t、下端部である柱脚部3bに近づくほどが大きく、上下方向の中央部においては、応力が非常に小さくなっている。
【0029】
すなわち、上記の構成においては、柱鉄骨11H、11L同士が接合される接合部Jが、柱3に作用する曲げモーメントが非常に小さい、躯体2の各階における上下方向中央部に配置されている。したがって、接合部Jの周囲にて、互いに上下に位置する複数組の柱主筋12H、12Lのうちの少なくとも一部或いは全部を、下方に位置する柱主筋12Lの上端部12tと上方に位置する柱主筋12Hの下端部12bとが、それぞれ、コンクリート18に直接固定されている、すなわち、間隔を置いて対向するように設けられて、互いに直接接続しない構成とすることが可能である。これにより、柱主筋12H、12L同士を継手等によって接合する必要がなくなるため、柱鉄骨11H、11Lの接続部Jにおけるジョイントプレート15やボルト16と、柱主筋12H、12Lの継手の干渉による作業性の悪化を防ぎつつ、継手で柱主筋12H、12L同士を接合する手間を省くことが可能となる。したがって、曲げモーメントに対する耐力を損なわずに、施工を効率化し、作業性を向上することができる。
【0030】
(実施形態の変形例)
なお、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート柱は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、接合部Jに位置する全ての柱主筋12において、互いに上下に位置する柱主筋12,12の全てを非接合としたが、これに限らない。
本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱の変形例の構成を示す平断面図を
図7に示す。本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱の変形例の構成を示す立断面図を
図8に示す。
例えば、
図7、
図8に示されるように、接合部Jの周囲に位置する全ての柱主筋12のうち、一部の柱主筋12のみを継手20によって接合するようにしてもよい。
【0031】
この場合、複数組の上方の柱主筋12Hの下端部12bと下方の柱主筋12の上端部12tとを上下方向において互いに対向させた状態で、一部の組において、柱主筋12H、12Lを、圧接継手、機械式継手等の継手20を介して接合する。この変形例では、接合部Jの周囲に位置する複数の柱主筋12のうち、柱部材10の角部に位置する柱主筋12のみを継手20によって接合している。
【0032】
すなわち、接合部Jを躯体の各階における上下方向中央部に配置した場合であっても、柱鉄骨11,11の接合のみでは曲げモーメントに抵抗できない可能性がある。その際においても、全ての柱主筋12、12を接合する必要はなく、曲げモーメントに耐えるための最低限の本数だけ柱主筋12、12を接続し、残りの柱主筋12、12を接続しない構成が可能である。
【0033】
(その他の変形例)
上記実施形態では、柱3(柱部材10)を平断面視矩形状としたが、これに限らない。
本実施形態における鉄骨鉄筋コンクリート柱の他の変形例の構成を示す断面図を
図9に示す。
この
図9に示されるように、柱3を構成する柱部材10は、平断面視円形等であってもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、柱3を、プレキャストコンクリート造の柱部材10を用いて形成したが、これに限らず、在来工法や地組方法においても、上記と同様の構成が適用できる。例えば、在来工法は、現場で柱鉄骨を建方し、その周囲に鉄筋を配筋した後、コンクリートを打設する。また、地組工法は、予め柱鉄骨に鉄筋を地組して一体化しておき、これを建方した後に、コンクリートを打設する。
これら、在来工法や地組工法で柱を構築する場合においても、互いに上下に位置する柱鉄骨同士の接合部の周囲で、互いに上下に位置する柱主筋の端部同士を、継手で接合せず、それぞれ、現場で打設したコンクリート部に直接固定させるようにする。
また、現場で打設充填される部分において、鉄骨継手位置にある柱主筋を省略し、必要なフープ筋を予め仕込んだ状態で鉄骨の接合を完了した後に、柱の4隅の主筋位置に4本の段取り筋を立てて、これにフープ筋を所定の間隔で固定すれば、鉄骨の接合作業時に主筋が邪魔にならず、作業効率が向上する。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。