【課題】豪雪強風地域での融雪処理や車両での融雪処理などのように、過酷な環境下で用いる場合であっても、ヒーター面の全面においてほぼ等しい融雪処理効率を上げることのできる融雪ヒーターを得る。
【解決手段】天板41と周囲壁42と底板43(45)とからなる箱型ケーシング40と箱型ケーシング40内に配置されたPTCヒーター20とを備えた融雪ヒーター30において、箱型ケーシング40の周囲壁42はPTCヒーター20の一層の厚み以上の高さを有し、天板41および周囲壁42の内面の全部はPTCヒーター20で覆われており、底板43(45)の少なくとも周囲壁42に近接する領域もPTCヒーター20で覆われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記のような構成を備える融雪ヒーターを用いて、多くの融雪実験を行ってきているが、その過程において、豪雪強風地域での融雪や車両での融雪に用いる場合には、往々にして、熱量が不足し、特に、融雪ヒーターの周囲部において、所期の融雪目的が達成できない場合があることを経験した。
【0005】
本発明は、本発明者らが経験した上記のような融雪ヒーターの周囲部での融雪不良が生じるのを回避して、融雪ヒーターの全面においてほぼ等しく融雪を行うことが可能となる、より改良された融雪ヒーターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による融雪ヒーターは、基本的に、天板と周囲壁と底板とからなる箱型ケーシングと該箱型ケーシング内に配置された電気ヒーターとを備えた融雪ヒーターであって、前記箱型ケーシングの周囲壁は前記電気ヒーターの一層の厚み以上の高さを有し、前記天板および周囲壁の内面の全部は前記電気ヒーターで覆われており、前記底板の少なくとも前記周囲壁に近接する領域の内面も前記電気ヒーターによって覆われていることを特徴とする。
【0007】
本発明による融雪ヒーターでは、後の実施例に示すように、融雪ヒーターの面方向での中心温度と周辺部の温度とをほぼ同じ温度に保持することができる。そのために、融雪ヒーターの全面において、ほぼ等しい偏りのない融雪効果を上げることが可能となり、豪雪強風地域での融雪処理や車両での融雪処理に用いるのに、極めて有用性の高い融雪ヒーターとなる。
【0008】
本発明による融雪ヒーターにおいて、前記電気ヒーターは線状または面状のPTCヒーターであることは好ましく、PTCヒーターを用いることで温度管理が一層容易となる。また、前記PTCヒーターは多数個の発熱素子が並列に配線された形態であることは特に好ましく、この態様では、飛来物等が融雪ヒーターに当たってPTCヒーターの一部が破壊されたような場合でも、融雪ヒーター全体としての機能をそのまま維持することかできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、豪雪強風地域での融雪処理や車両での融雪処理などのように、過酷な環境下で用いる場合であっても、ヒーター面の全面においてほぼ等しい融雪処理効率を上げることのできる融雪ヒーターを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による融雪ヒーターの幾つかの実施の形態を、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、融雪ヒーターで用いる電気ヒーターとして、正温度係数(PTC)特性を備えた発熱体素子を備えた線状のPTCヒーターを例として説明するが、電気ヒーターはこれに限らない。全体として面状をなす電気ヒーターであってもよい。
【0012】
最初に、
図1および
図2を用いて、線状のPTCヒーター20の一例について説明する。
図1は、
図2に示すPTCヒーター20の発熱部10を説明するための斜視図であり、好ましくは銅単線のより線または編組線である第1の給電線11と第2の給電線12とを給電線として備え、第1の給電線11と第2の給電線12の間には正温度係数特性を備えたチップ状の発熱体素子13の複数個が並列に接続されている。
【0013】
チップ状の発熱体素子13は、チタン酸バリウムに添加物を加えたセラミックスからなるものであってもよく、カーボンブラックのような導電体粉末を含む樹脂組成物からなるものであってもよい。後者の場合、導電体粉末としては、カーボンブラック、ニッケルなどの導電体粉末が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラックおよびファーネスブラックで表面積が大きいもの、例えば、バルカンXC−72(キャポット社製品)、コンチネックスN330(カポット社製品)などが挙げられる。導電体粉末の平均粒径は40〜70μmであるか、それより大きな平均粒径のものあるいはそれより小さい平均粒径のものと混合したものでもよい。樹脂組成物とは、ポリマーとして一般に使用されている高分子材料であってよく、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、ポリエステル、フッ素樹脂、フッ素系ゴム、アクリルゴム、ポリ塩化ビニルなどを挙げることができる。
【0014】
導電体粉末の樹脂組成物に対する添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、15〜30質量部であることが好ましい。導電体粉末の添加量が少なすぎると抵抗値が大きくなりすぎて発熱しなくなる。逆に多くなりすぎると抵抗が低くなると同時に、抵抗値の温度依存性がなくなりPTC特性を示さなくなる。
【0015】
第1の給電線11および第2の給電線12とチップ状の発熱体素子13とは、両者を機械的および電気的に接続するための金属端子14によってかしめられて一体化している。チップ状の発熱体素子13の形状に制限はないが、この例では、幅がD、長さがL、厚みがHの直方体をなしており、一例として、幅D:8mm、長さL:6mm、厚みH:1.6mmの寸法である。可撓性を向上させるために、発熱体素子13での幅D/長さLの値Pが1または1以上であることが望ましい。金属端子14の素材としては、銅、リン青銅、鉄、鉄ニッケル合金、金、銀、アルミニウムなどを用いることができる。また、好ましくは、発熱体素子13と金属端子14との間には、導電ペースト15が塗布される。
【0016】
なお、隣接するチップ状の発熱体素子13、13間の距離は、所要の加熱環境が得られることを条件に任意であってよいが、通常は、30〜100mm程度の範囲である。また、隣接するチップ状の発熱体素子13、13の距離はすべて同じであってもよく、異なった間隔で配置されていてもよい。
【0017】
図1に示す発熱部10の全体を絶縁性樹脂からなる絶縁外皮16で覆うことにより、
図2に示すPTCヒーター20とされる。絶縁性樹脂としては、例として、電気絶縁性および可撓性を有する軟質塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、架橋ポリエチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂を挙げることができる。前記絶縁外皮は折曲の容易性の観点から1層構造が好ましいが、2層構造であってもよい。2層構造の場合、同じ絶縁性樹脂であることが好ましく、また、アース線として機能するシールドが捲装されていてもよい。
【0018】
次に、本発明の融雪ヒーター30の第1の例(実施例1)を、
図3を参照して説明する。融雪ヒーター30aは、基本的に、天板と周囲壁と底板とからなる箱型ケーシング40と、該箱型ケーシング40内に配置された電気ヒーター(この例では、上記した線状のPTCヒーター20)とを備える。ここで、線状のPTCヒーター20は、
図2でのa−a線での断面の厚さをaとする。なお、a−a線の位置は発熱体素子13の位置であり、PTCヒーター20における厚みの最も厚い部分である。また、線状のPTCヒーター20の横幅をbとしたときに、厚みa<横幅bである。
【0019】
図3(a)に斜視図を、
図3(b)に
図3(a)のb−b線による断面図を、
図3(c)に
図3(a)のc−c線による断面図を示すように、
図3に示す形態の融雪ヒーター30aでは、前記箱型ケーシング40は、平面視で矩形状であり、天板41と、該天板41の4周に垂設された4つの外側周囲壁42a〜42dと、該4つの外側周囲壁42a〜42dの下端から内側かつ天板41と平行に延びる4つの第1の底板43a〜43dと、該4つの第1の底板43a〜43dの内側端に垂設された内側周囲壁44a〜44dと、該内側周囲壁44a〜44dの下端に配設された第2の底板45とで構成される。
【0020】
天板41の裏面側には、前記したPTCヒーター20aが水平姿勢でその全面にわたって敷設されている。しかし、天板41の4周における外側周囲壁42a〜42dに近接した領域には、PTCヒーター20の厚みaにほぼ等しい幅の領域が、PTCヒーター20aが存在しない領域として残されており、その領域には、垂直姿勢となったPTCヒーター20bが外側周囲壁42a〜42dの内面に接するようにして、4周にわたって配置されている。
【0021】
図3に示す例において、前記外側周囲壁42a〜42dの内面の高さは、PTCヒーター20の横幅bとほぼ等しい。すなわち、外側周囲壁42a〜42dの内面側の高さは、水平姿勢に置かれたPTCヒーター20の1層の厚み(前記a)よりも高い。そして、前記第1の底板43a〜43dの内側面は垂直姿勢となったPTCヒーター20bの側端面に接している。また、第1の底板43a〜43dの水平方向の幅は、PTCヒーター20の厚みaよりも大きく、内側周囲壁44a〜44dの下端に配設された第2の底板45の裏面は、水平方向に敷設されたPTCヒーター20aに接している。
【0022】
図4は、本発明の融雪ヒーター30の第2の例(実施例2)を示す、
図3(b)に相当する図である。この融雪ヒーター30bでは、天板41の裏面側の全面にわたってPTCヒーター20aが水平姿勢で敷設されており、天板41の4周における外側周囲壁42a〜42dに近接した領域には、PTCヒーター20aの上に、水平姿勢のPTCヒーター20cが、2層に積層された状態で4周にわたって配置されている。前記外側周囲壁42a〜42dの内面の高さは、PTCヒーター20の2層分の厚み(a+a)に等しい。他の構成は、
図3に示した融雪ヒーター30aと同じである。ここでも、外側周囲壁42a〜42dの内面側の高さは、水平姿勢に置かれたPTCヒーター20の1層の厚み(前記a)よりも高い。また、天板41および外側周囲壁42a〜42dの内面の全部はPTCヒーター20で覆われている。
【0023】
図5は、本発明の融雪ヒーター30の第3の例(実施例3)を示す、
図3(b)に相当する図である。この融雪ヒーター30cでは、
図3に示した融雪ヒーター30aでの外側周囲壁42a〜42dの4周の内面に接するようにして配置された垂直姿勢となったPTCヒーター20bの下端面(図では上端面)に、水平姿勢となったPTCヒーター20dがさらに1枚分配置されている点、および、外側周囲壁42a〜42dの内周側の高さがPTCヒーター20の横幅b+厚みaとなっている点で、
図3に示した融雪ヒーター30aと異なっている。他の構成は、
図3に示した融雪ヒーター30aと実質的に同じである。ここでも、外側周囲壁42a〜42dの内面側の高さは、水平姿勢に置かれたPTCヒーター20の1層の厚み(前記a)よりも高くなっており、また、天板41および外側周囲壁42a〜42dの内面の全部はPTCヒーター20で覆われている。
【0024】
図6は、本発明の融雪ヒーター30の第4の例(実施例4)を示す、
図3(b)に相当する図である。この融雪ヒーター30dは、前記水平姿勢となったPTCヒーター20dが1枚ではなく、複数枚(図示のものでは4枚分)にわたって4周方向かつ水平方向に配置されている点、および、内側周囲壁44a〜44dに相当する部材はなく、前記第1の底板43a〜43dの内側端に第2の底板45が同じレベルで連続しており、該第2の底板45の裏面は、天板41の裏面に水平方向に敷設したPTCヒーター20aには接していない点で、
図5に示した融雪ヒーター30cと異なっている。他の構成は、
図5に示した融雪ヒーター30cと同じである。ここでも、外側周囲壁42a〜42dの内面側の高さは、水平姿勢に置かれたPTCヒーター20の1層の厚み(前記a)よりも高くなっている。また、天板41および外側周囲壁42a〜42dの内面の全部はPTCヒーター20で覆われている。そして、底板の少なくとも周囲壁に近接する領域の内面部分、すなわち、第1の底板43a〜43dの内面部分は、PTCヒーター20dによって覆われている。
【0025】
図7は、本発明の融雪ヒーター30の第5の例(実施例5)を示す、
図3(b)に相当する図である。この融雪ヒーター30eは、
図4に示した融雪ヒーター30bと比較して、PTCヒーター20aの上に水平姿勢に配置したPTCヒーター20cが、天板41の4周における外側周囲壁42a〜42dに近接した領域だけではなく、天板41の裏面に水平方向に敷設したPTCヒーター20aの全部を領域に対して直交するようにして2層に配置されている点、および、前記第1の底板43a〜43dの内側端に第2の底板45が同じレベルで連続している点で、
図4に示した融雪ヒーター30bと相違する。他の構成は、
図4に示した融雪ヒーター30bと実質的に同じである。ここでも、外側周囲壁42a〜42dの内面側の高さは、水平姿勢に置かれたPTCヒーター20の1層の厚み(前記a)よりも高くなっている。また、天板41および外側周囲壁42a〜42dの内面の全部はPTCヒーター20aおよび20cで覆われている。そして、第1の底板43a〜43dと第2の底板の裏面はすべて、PTCヒーター20aの上に水平姿勢に配置したPTCヒーター20cに接している。
【0026】
なお、図示の実施の形態では、PTCヒーター20aの上に水平姿勢に配置したPTCヒーター20cを、天板41の裏面に水平方向に敷設したPTCヒーター20aに対して直交する方向に配置するようにしたが、図示しないが、PTCヒーター20cは、PTCヒーター20aに対して直交する方向ではなく、同じ方向にあるいは直交以外の角度方向で配置されていてもよく、その形態も、融雪ヒーター30の第5の例(実施例5)である融雪ヒーター30eの変形例として含まれる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明による融雪ヒーターの優位性を実施例と比較例によって説明する。
【0028】
[実施例品と比較例品]
実施例1〜5は上記した第1の例〜第5の例と同じ構成のものである。比較例として、
図9〜
図11に示すものを用意した。
【0029】
図9に示す比較例1は、前記箱型ケーシング40の平面視での形状と大きさは、
図7に示した第5の例、すなわち、実施例5(融雪ヒーター30e)と実質的に同じである。該箱型ケーシング40の天板41の裏面側の中央部にPTCヒーター20を配設し、配設したPTCヒーターの長手方向の端部は、対向する外側周囲壁42a、42cの内面に接するようにした。したがって、天板41の裏面の図で左右の領域、および第1の底板43a〜43dと第2の底板45の全部は、PTCヒーター20に接していない。また、箱型ケーシング40の内部には、断熱材は配置していない。
【0030】
図10に示す比較例2は、天板41の裏面側における外側周囲壁42b、42dに近接した領域に、PTCヒーター20の厚みaにほぼ等しい幅の領域だけPTCヒーター20が存在しない領域を形成し、そこを除いた天板41の裏面にPTCヒーター20を配置している点で、比較例1と相違している。
【0031】
図11に示した比較例3は、天板41の裏面の全面にPTCヒーター20を配設した点で、比較例1と相違している。
【0032】
[試験]
実施例1〜5および比較例1〜3の融雪ヒーターについて、同じ条件での、PTCヒーターへの通電と、融雪ヒーター表面への送風を行い、各融雪ヒーターでの中心部と端部(
図8参照)での温度低下状況を観察した。送風機には、ジェットスイファンSJF300SR1(スイデン社製)を用いた。温度の測定は、DATE COLLCTOR AM−7002(TYPE E)、E熱電対(安立計器社製)を使用した。
【0033】
[条件]
−2℃環境下で、実施例1〜5および比較例1〜3の融雪ヒーターのPTCヒーター20に通電し、30分間の温度上昇を測定した。通電から30分経過後、各融雪ヒーターの表面(天板41側)に送風機で連続的にほぼ等しくなるように風をあて、
図8に示すように、天板41の中心部とコーナー部(端部)の温度変化(温度低下状況)を測定した。
【0034】
その結果を下記の表1および
図12〜
図19に示した。
【0035】
【表1】
【0036】
[考察]
通常、融雪ヒーターの場合、ヒーターの加熱面全面において、等しく融雪が進行することが望ましい。そのためには、加熱面が強風に曝されるように環境下においても、加熱面の全面がほぼ等しい温度で維持されることが望ましい。表1および
図12〜
図19に示すように、実施例1〜5である本発明による融雪ヒーターは、送風開始後30分後においても、中心部の温度と端部の温度がほぼ等しく、高い融雪効率を発揮できることが期待できる。一方、比較例1〜3の融雪ヒーターは、実施例1〜5と比較して、送風開始後の温度が中心部と端部において大きくなっており、融雪ヒーターの融雪面において融雪効率に差がであることが予測される。