特開2017-180534(P2017-180534A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-180534(P2017-180534A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】リップシール及び密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3208 20160101AFI20170908BHJP
   F16J 15/3216 20160101ALI20170908BHJP
   F16J 15/3224 20160101ALI20170908BHJP
【FI】
   F16J15/3208
   F16J15/3216
   F16J15/3224
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-64414(P2016-64414)
(22)【出願日】2016年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】古田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】深谷 玄久
【テーマコード(参考)】
3J006
【Fターム(参考)】
3J006AE14
3J006AE39
3J006AE41
3J006CA01
(57)【要約】
【課題】ハウジングと、ハウジングに対して相対的に回転する軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールにおいて、摩耗による摺動面幅の拡大を抑制することを目的とする。
【解決手段】ゴム状弾性体製のリップシール124は、リップ先端部1240を備え、リップ先端部1240は、ガータースプリング134が装着される環状溝1241を備えると共に、環状の突出部1242を内周面側に備える。突出部1242は、プロペラ軸200の外周面211に対して摺動する摺動面1245と、第1側面1246と、第2側面1247と、を備え、第1側面1246と第2側面1247は、ガータースプリング134が装着され、且つ、摺動面1245が外周面211に対して摺動する状態において、互いに略平行となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングが有する軸孔に挿通されて、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールにおいて、
径方向内側に設けられたリップ先端部を備え、
前記リップ先端部は、
ガータースプリングが装着される環状溝を外周面側に備えると共に、
径方向内側に突出した環状の突出部を内周面側に備え、
前記突出部は、
前記軸の外周面に対して摺動する環状の摺動面と、
前記摺動面の軸方向一方側に設けられた第1側面と、
前記摺動面の軸方向他方側に設けられた第2側面と、を備え、
前記第1側面と前記第2側面は、前記環状溝に前記ガータースプリングが装着され、且つ、前記摺動面が前記軸の外周面に対して摺動する状態において、互いに略平行となることを特徴とするリップシール。
【請求項2】
前記第1側面と前記第2側面の何れもが、前記環状溝に前記ガータースプリングが装着され、且つ、前記摺動面が前記軸の外周面に対して摺動する状態において、前記軸の中心軸線に対して略垂直となることを特徴とする請求項1に記載のリップシール。
【請求項3】
前記第1側面の径方向の幅と前記第2側面の径方向の幅の何れもが、リップシールの初期状態において前記摺動面の軸方向の幅の0.7倍以上であることを特徴とする請求項2に記載のリップシール。
【請求項4】
軸孔を有するハウジングと、
前記軸孔に挿通された、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸と、
前記ハウジングと前記軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールと、
前記リップシールに装着されたガータースプリングと、を備える密封構造において、
前記リップシールは、
径方向内側に設けられたリップ先端部を備え、
前記リップ先端部は、
前記ガータースプリングが装着された環状溝を外周面側に備えると共に、
径方向内側に突出した、前記軸が挿通された環状の突出部を内周面側に備え、
前記突出部は、
前記軸の外周面に対して摺動する環状の摺動面と、
前記摺動面の軸方向一方側に設けられた第1側面と、
前記摺動面の軸方向他方側に設けられた、前記第1側面に対して略平行な第2側面と、を備えることを特徴とする密封構造。
【請求項5】
前記第1側面と前記第2側面の何れもが、前記軸の中心軸線に対して略垂直であることを特徴とする請求項4に記載の密封構造。
【請求項6】
前記第1側面の径方向の幅と前記第2側面の径方向の幅の何れもが、リップシールの初期状態において前記摺動面の軸方向の幅の0.7倍以上であることを特徴とする請求項5に記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと、前記ハウジングが有する軸孔に挿通されて、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシール、及び、密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶のプロペラ軸と、プロペラ軸が挿通された船尾管との間の環状隙間を密封するために、ゴム状弾性体製のリップシールが用いられている。このような船尾管用リップシールにおいては、船体の重量や海洋の波の影響で喫水が深くなると、水圧と船内圧との差圧、すなわち、リップシールに作用する正面側圧力と背面側圧力との差が比較的大きくなることがある。差圧が大きくなった場合には、プロペラ軸とリップシールとの間の摺動面の潤滑性が低下することがあるため、摺動面の摩耗が早まってしまうことがある。従来のリップシールにおいては、リップシールの先端がテーパ面から構成されていたため、摺動面が摩耗すると、摺動面幅(摺動面の軸方向の幅)が更に拡大されてしまうことがあった。その結果、摺動面の潤滑性が更に低下し、更に摩耗が進行してしまうおそれがあった。このように、船尾管用シールにおいては、摺動面幅の拡大を抑制する対策が求められる。
【0003】
なお、従来、ハウジングと軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールにおいて、リップ部の内周面に段差を設ける構成が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に開示された構成においては、軸に対して円筒面13が摺動するが、円筒面13の軸方向における両側には、機外側テーパ面12aと機内側テーパ面11が設けられている。したがって、この構成においては、円筒面13が摩耗するにつれて、摺動面幅が広くなってしまうため、摺動面間の潤滑性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−90441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハウジングと、前記ハウジングが有する軸孔に挿通されて、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールにおいて、摩耗による摺動面幅の拡大を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明に係るリップシールは、
ハウジングと、前記ハウジングが有する軸孔に挿通されて、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールにおいて、
径方向内側に設けられたリップ先端部を備え、
前記リップ先端部は、
ガータースプリングが装着される環状溝を外周面側に備えると共に、
径方向内側に突出した環状の突出部を内周面側に備え、
前記突出部は、
前記軸の外周面に対して摺動する環状の摺動面と、
前記摺動面の軸方向一方側に設けられた第1側面と、
前記摺動面の軸方向他方側に設けられた第2側面と、を備え、
前記第1側面と前記第2側面は、前記環状溝に前記ガータースプリングが装着され、且つ、前記摺動面が前記軸の外周面に対して摺動する状態において、互いに略平行となることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、当該状態においては、第1側面と第2側面とが互いに略平行となるため、摺動面と軸の外周面との摺動によって摺動面が摩耗したとしても、摺動面幅は略一定になる。したがって、摺動面の摩耗による摺動面幅の拡大が抑制される。
【0009】
また、前記第1側面と前記第2側面の何れもが、前記環状溝に前記ガータースプリングが装着され、且つ、前記摺動面が前記軸の外周面に対して摺動する状態において、前記軸の中心軸線に対して略垂直となるようにしてもよい。
【0010】
これにより、軸の外周面に対する摺動面の接触状態がより安定するため、摺動面の幅が略一定に保たれやすくなる。
【0011】
また、前記第1側面の径方向の幅と前記第2側面の径方向の幅の何れもが、リップシールの初期状態において前記摺動面の軸方向の幅の0.7倍以上であるようにしてもよい。
【0012】
これにより、リップシールの使用期間に亘って摺動面幅を略一定に維持することができる。
【0013】
なお、本発明に係る密封構造は、
軸孔を有するハウジングと、
前記軸孔に挿通された、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸と、
前記ハウジングと前記軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールと、
前記リップシールに装着されたガータースプリングと、を備える密封構造において、
前記リップシールは、
径方向内側に設けられたリップ先端部を備え、
前記リップ先端部は、
前記ガータースプリングが装着された環状溝を外周面側に備えると共に、
径方向内側に突出した、前記軸が挿通された環状の突出部を内周面側に備え、
前記突出部は、
前記軸の外周面に対して摺動する環状の摺動面と、
前記摺動面の軸方向一方側に設けられた第1側面と、
前記摺動面の軸方向他方側に設けられた、前記第1側面に対して略平行な第2側面と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、前記第1側面と前記第2側面の何れもが、前記軸の中心軸線に対して略垂直であるようにしてもよい。
【0015】
また、前記第1側面の径方向の幅と前記第2側面の径方向の幅の何れもが、リップシールの初期状態において前記摺動面の軸方向の幅の0.7倍以上であるようにしてもよい。
【0016】
上記の密封構造によれば、上記のリップシールと同様の作用効果が奏される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、ハウジングと、前記ハウジングが有する軸孔に
挿通されて、前記ハウジングに対して相対的に回転する軸との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシールにおいて、摩耗による摺動面幅の拡大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例に係るリップシールが取り付けられた密封構造を示す模式的断面図である。
図2】実施例に係るリップシールの使用時における断面図である。
図3】実施例に係るリップシールの突出部の寸法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係るリップシール及び密封構造は、船舶のプロペラ軸と、プロペラ軸が挿通された船尾管との間の環状隙間を密封するために用いられる。ただし、本発明に係るリップシール及び密封構造の用途は、船舶の船尾管に限定されない。
【0020】
(実施例)
図1図2を参照して、本発明の実施例に係るリップシール及び密封構造について説明する。
【0021】
<密封構造の全体構成>
特に図1を参照して、本発明の実施例に係る密封構造の全体構成について説明する。この密封構造には、本発明の実施例に係るリップシールが用いられている。図1は、実施例に係る密封構造の構成を示す模式的断面図である。図1は、プロペラ軸200の中心軸線Cを含む平面による断面であって、切断端面のみが示されている。
【0022】
密封構造100は、軸孔301を有するハウジングとしての船尾管300と、軸孔301に挿通された、船尾管300に対して回転するプロペラ軸200と、船尾管300とプロペラ軸200との間の環状隙間を密封するゴム状弾性体製のリップシール121,122,123,124と、ガータースプリング131,132,133,134とを備えている。なお、本実施例においては、プロペラ軸200の外周面側には、プロペラ軸200の一部品としての円筒状のライナ210が固定されている。また、本実施例においては、船尾管300には、船尾管300の一部品としてのケース310が固定されている。以上の構成により、密封構造100は、船尾管300とプロペラ軸200との間の環状隙間を密封して、図中左側の領域W内にある海水が船内に浸入することを防止すると共に、図中右側の領域L内にある潤滑液が船外に漏出することを防止する。プロペラ軸200には、プロペラ軸200と共に回転するプロペラ230が取り付けられている。プロペラ230は、ボルトによってライナ210に固定されている。プロペラ230の内周側には環状の切り欠き231が設けられており、この切り欠き231にシールリング240が装着されている。このシールリング240によって、プロペラ軸200とライナ210との間に海水等が浸入してしまうことが抑制される。
【0023】
プロペラ軸200は軸受け220によって軸支されている。本実施例においては、潤滑液としては、水、または水溶性の潤滑剤が溶解した水を主成分とする潤滑液が用いられているため、ゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けが軸受け220として用いられている。一般に、水または水溶性潤滑剤が用いられた潤滑液は、漏出したとしても海洋を汚染しにくいため、環境性に優れている。なお、水等に替えて、潤滑液として油(潤滑油)が用い
られる場合には、金属製の軸受けが軸受け220に用いられる。
【0024】
環状のケース310は、船尾管300に対してボルトによって固定された金属製のフランジリング311と、複数の金属製の中間リング312,313,314と、金属製のカバーリング315とから構成される。これらの金属製の5つのリングは、軸方向に挿通される不図示のボルトによって組み合わされている。そして、これら5つのリングの間に、4つのリップシール121,122,123,124が、それぞれの外周側が締め付けられた状態で取り付けられている。なお、本実施例に係る4つのリップシールは同一の形状を有している。
【0025】
リップシール121から124のそれぞれは、径方向内側に、詳細は後述するリップ先端部を備えている。リップシール121から124のそれぞれのリップ先端部には、ガータースプリング131から134がそれぞれ装着されている。また、各リップ先端部は、プロペラ軸200の外周面211に対して摺動する摺動面が設けられた突出部を備えており、各摺動面によって、それぞれのリップシールによって隔てられた2つの領域間が密封される。これら4つのリップシールによって隔てられた環状の空間S1,S2,S3内には、潤滑液が封入(充填)されている。ここで、領域L、領域W、及び3つの空間S1,S2,S3内の流体圧力を、それぞれP,P,PS1,PS2,PS3とすると、本実施例においては、P>PS1>PS2、及び、P>PS3>PS2が成立している。なお、これら3つの空間S1,S2,S3内には、潤滑液に替えて他の液体や空気などの気体が封入されていてもよい。この場合であっても、各流体圧力は上記の2つの関係を満たすように設定される。
【0026】
<リップシールの構成>
特に図2を参照して、本実施例に係るリップシールの構成について説明する。なお、既に述べたように、本実施例に係る4つのリップシールは同一の形状を有している。したがって、以下においては、リップシール124を例にして、本実施例に係るリップシールの構成について説明する。
【0027】
図2は、リップシール124の使用時(より詳細には、プロペラ軸200の外周面211に対する摺動時)における断面図である。なお、図2には、プロペラ軸200の中心軸線Cを含む平面による断面であって、切断端面のみが描かれている。ゴム状弾性体製のリップシール124は、径方向内側に設けられたリップ先端部1240と、リップ先端部1240よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側(図2中の右側)へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側(図2中の左側)に向かって延びる屈曲部1250と、中間リング314とカバーリング315とによって締め付けられる被固定部1260とを備えている。なお、既に述べたように、図中右側の領域W内の流体圧力Pは、図中左側の空間S3内の流体圧力PS3より高い。つまり、リップシール124は、屈曲部1250に対し、リップ先端部1240が高圧側に配置されるようにして、船尾管300に対して固定される。
【0028】
リップ先端部1240は、ガータースプリング134が装着される環状溝1241をその外周面側に備えると共に、径方向内側に突出した環状の突出部1242をその内周面側に備えている。また、リップ先端部1240の高圧側には、低圧側に向かうにつれて縮径する高圧側テーパ面1243が形成されている。また、リップ先端部1240の低圧側かつ径方向内側には、低圧側に向かうにつれて拡径する低圧側テーパ面1244と湾曲面1248とが形成されている。そして、突出部1242は、プロペラ軸200の外周面としてのライナ210の外周面211に対して摺動する環状の摺動面1245と、摺動面1245の軸方向一方側である低圧側に設けられた第1側面1246と、摺動面1245の軸方向他方側である高圧側に設けられた第2側面1247と、を備えている。図2に示され
るように、高圧側テーパ面1243と第2側面1247とが接続しており、第1側面1246と低圧側テーパ面1244とが接続している。また、低圧側テーパ面1244は湾曲面1248と接続している。
【0029】
なお、屈曲部1250は、リップ先端部1240の低圧側に接続し、径方向外側かつ低圧側へ向かって延びる径方向内側部1251と、径方向内側部1251に接続し、径方向外側かつ高圧側へ向かって延びて被固定部1260に接続する径方向外側部1252とから構成される。したがって、屈曲部1250は、断面が略V字型になる。なお、リップ先端部1240の湾曲面1248と、径方向内側部1251の内周面1253とが接続している。
【0030】
そして、リップシール124においては、リップ先端部1240の環状溝1241にガータースプリング134が装着され、且つ、リップ先端部1240の摺動面1245がプロペラ軸200の外周面211に対して回転摺動する状態において、第1側面1246と第2側面1247とが、互いに略平行(平行を含む)となるように設計されている。したがって、リップシール124においては、環状溝1241にガータースプリング134が装着され、且つ、摺動面1245がプロペラ軸200の外周面211に対して回転摺動する状態において、第1側面1246と第2側面1247とが、互いに略平行(平行を含む)となる。なお、このようなリップシール124の設計は、リップシール124の各部位の寸法、弾性特性、ガータースプリング134の締め付け力、領域W内の流体圧力Pや空間S3内の流体圧力PS3等を考慮して行えばよい。
【0031】
また、リップシール124においては、リップ先端部1240の環状溝1241にガータースプリング134が装着され、且つ、リップ先端部1240の摺動面1245がプロペラ軸200の外周面211に対して回転摺動する状態において、第1側面1246と第2側面1247の何れもが、プロペラ軸200の中心軸線Cに対して略垂直(垂直を含む)となるように設計されている。したがって、リップシール124においては、環状溝1241にガータースプリング134が装着され、且つ、摺動面1245がプロペラ軸200の外周面211に対して回転摺動する状態において、第1側面1246と第2側面1247の何れもが、プロペラ軸200の中心軸線Cに対して略垂直(垂直を含む)となる。なお、このようなリップシール124の設計も、上述した各項目を考慮して行えばよい。
【0032】
なお、同様にして、他のリップシール121,122,123についても、それぞれのリップ先端部の環状溝にガータースプリング131,132,133がそれぞれ装着され、且つ、リップ先端部の摺動面がプロペラ軸200の外周面211に対して回転摺動する状態においては、それぞれの突出部の第1側面と第2側面とが、互いに略平行(平行を含む)となると共に、第1側面と第2側面の何れもが、プロペラ軸200の中心軸線Cに対して略垂直(垂直を含む)となる。
【0033】
<本実施例に係るリップシール及び密封構造の優れた点>
本実施例に係るリップシール124によれば、環状溝1241にガータースプリング134が装着され、且つ、摺動面1245がプロペラ軸200の外周面211に対して回転摺動する状態においては、第1側面1246と第2側面1247とが互いに略平行となるため、摺動面1245と外周面211との回転摺動によって摺動面1245が摩耗したとしても、摺動面1245の幅(摺動面幅)は略一定になる。したがって、摺動面1245の摩耗による摺動面幅の拡大が抑制される。その結果、摺動面幅の拡大による摺動面1245の潤滑性低下が抑制されるため、摺動面1245の異常摩耗が抑制され、以てリップシール124の耐久性が向上する。
【0034】
また、リップシール124によれば、当該状態においては、第1側面1246と第2側
面1247の何れもが、プロペラ軸200の中心軸線Cに対して略垂直(垂直を含む)となる。これにより、外周面211に対する摺動面1245の接触状態がより安定するため、摺動面幅が略一定に保たれやすくなる。
【0035】
以上の作用効果は、リップシール121から123においても同様に発揮される。
【0036】
<突出部の寸法について>
次に、図3を用いて本実施例に係るリップシールの突出部の寸法について説明する。以下においても、リップシール124を例にして説明する。図3は、リップシール124の突出部1240の寸法を説明する図であって、リップシール124の中心軸を含む平面による断面の一部のみを示している。なお、図3は、初期状態(新品状態)にあるリップシール124が、プロペラ軸200の外周面211に対して摺動しているときの状態を示している。なお、図3に示される形状は1例に過ぎず、リップシール124の各部位の形状は、図示された形状に限定されない。
【0037】
図3に示されるように、リップシール124の摺動時における、摺動面1245の軸方向の幅(摺動面幅)をD、第1側面1246の径方向の幅(低圧側テーパ面1244との境界から末端までの幅)をH1、第2側面1247の径方向の幅(高圧側テーパ面1243との境界から末端までの幅)をH2とする。
【0038】
ここで、船舶の定期点検は通常5年毎に行われるため、本実施例に係るリップシールは、5年毎に交換される。5年間の使用期間における突出部1245の最大許容摩耗深さ(交換の際、許容される磨耗深さ、つまり、磨耗量がその値を超えたときに交換しなければならない値)をHとすると、リップシールの摺動幅D、及び、縦横比H/Dの値は、リップシールの直径に応じて下記表に示される値になる。
【表1】
【0039】
この表から、第1側面1246の径方向の幅H1と第2側面1247の径方向の幅H2について、リップシール直径に関わらず、H1/DとH2/Dがリップシールの初期状態において0.7以上であれば、5年間の使用期間に亘って、上述したリップシール124の優れた効果が発揮されることが分かる。したがって、突出部1240の寸法は、第1側面1246の径方向の幅H1と第2側面1247の径方向の幅H2の何れもが、初期状態において摺動面の軸方向の幅Dの0.7倍以上であるように設計するとよい。これにより、リップシール124の使用期間に亘って摺動面幅を略一定に維持することができる。リップシール121から123についても同様である。
【0040】
(その他)
本発明に係るリップシール及び密封構造の構成は、上記の実施例で説明した態様に限られず、その作用効果が発揮される限りにおいて、種々の態様を採用することができる。特に、上記の実施例に係るリップシールの突出部においては、第1側面と第2側面の何れもが、環状溝にガータースプリングが装着され、且つ、摺動面がプロペラ軸の外周面に対して摺動する状態において、プロペラ軸の中心軸線に対して略垂直となるように構成されている。ただし、両側面のプロペラ軸の中心軸線に対する角度は略垂直に限定されず、両側面が互いに略平行となる限りにおいて、略垂直とは異なる角度であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
100:密封構造
121,122,123,124:リップシール
131,132,133,134:ガータースプリング
200:プロペラ軸
210:ライナ
211:外周面
230:プロペラ
240:シールリング
300:船尾管
301:軸孔
310:ケース
311:フランジリング
312,313,314:中間リング
315:カバーリング
1240:リップ先端部
1241:環状溝
1242:突出部
1243:高圧側テーパ面
1244:低圧側テーパ面
1245:摺動面
1246:第1側面
1247:第2側面
1248:湾曲面
1250:屈曲部
1251:径方向内側部
1252:径方向外側部
1253:内周面
1260:被固定部
図1
図2
図3