【解決手段】プロペラ軸210の外周に設けられたライナ220と、船尾管300との間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の船尾管用シールリング124であって、ライナ220の外周面に摺動するリップ部1240と、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側に延びる屈曲部1241と、を備え、屈曲部1241が、軸方向一方側へ向かって延びる部分である径方向内側部1241aと軸方向他方側に向かって延びる部分である径方向外径部1241bとを繋ぐ補強部1243a〜1243fが形成された補強領域1243A,1243Dと、薄肉領域1244A,1244Bと、を周方向に備える。
前記薄肉領域を複数備え、前記屈曲部における鉛直最下方の位置に配置される前記薄肉領域とは異なる薄肉領域が、前記屈曲部における鉛直最上方の位置に配置されることを特徴とする請求項3に記載の船尾管密封構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、リップ部の摺動面の摩耗を抑制することのできる船尾管用シールリング及び船尾管密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
すなわち、本発明に係る船尾管用シールリングは、
プロペラ軸の外周に設けられたライナと、前記プロペラ軸が挿通された船尾管との間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の船尾管用シールリングであって、
前記ライナの外周面に摺動するリップ部と、
前記リップ部よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側に延びる屈曲部と、
を備え、
前記屈曲部が、前記軸方向一方側へ向かって延びる部分と前記軸方向他方側に向かって延びる部分とを繋ぐ補強部が周方向に複数形成された補強領域と、前記補強部よりも軸方向の厚さが薄い薄肉領域と、を周方向に備えることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、船尾管用シールリングの屈曲部は、その形状から、径方向と軸方向に弾性的に変形することができる。したがって、プロペラ軸の回転中においても、ライナの外周面に対するリップ部の接触状態が好適に維持される。ここで、屈曲部は、軸方向一方側へ向かって延びる部分と軸方向他方側に向かって延びる部分とを繋ぐ補強部が周方向に複数形成された補強領域と、薄肉領域と、を周方向に備えている。そのため、補強部が設けられた部位は、補強部が設けられていない他の部位(薄肉領域が設けられた部位)に比べて弾性的な変形が抑制される。したがって、シールリングの使用時において、環状隙間における高圧側から低圧側に向かう軸方向の流体圧力が屈曲部に対して作用したときには、補強部が設けられた部位における軸方向の変形は、他の部位における軸方向の変形よりも小さくなる。これにより、リップ部においても、補強部近傍の部位と他の部位との間で、軸方向の変形量に差が出るため(補強部近傍の部位の変形が相対的に小さくなる)、ラ
イナの外周面上に形成されるリップ部のシールラインは概ね波形形状となる。シールラインの波形における谷から山に遷移する部分には、プロペラ軸の回転によって高圧側の領域内の流体が周方向の流れとなって導かれるため、当該部分において動圧が発生する。このようにして発生した動圧は、リップ部の摺動面を押し上げるように作用するため、リップ部の緊迫力が低減される。その結果、リップ部の摺動面の摩耗が抑制される。
【0007】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、
プロペラ軸の外周に設けられたライナと、
前記プロペラ軸が挿通された船尾管と、
前記ライナと前記船尾管との間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の船尾管用シールリングと、
を備える船尾管密封構造において、
前記船尾管用シールリングは、
前記ライナの外周面に摺動するリップ部と、
前記リップ部よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側に延びる屈曲部と、
を備え、
前記屈曲部が、前記軸方向一方側へ向かって延びる部分と前記軸方向他方側に向かって延びる部分とを繋ぐ補強部が周方向に複数形成された補強領域と、前記補強部よりも軸方向の厚さが薄い薄肉領域と、を周方向に備えることを特徴とする。
【0008】
この船尾管密封構造においても、上記の船尾管用シールリングと同様の作用が生じるため、リップ部の摺動面の摩耗が抑制される。
【0009】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、前記薄肉領域が、前記屈曲部における鉛直最下方の位置に配置されるようにしてもよい。
【0010】
薄肉領域が形成されている位置においては、屈曲部の変形が抑制されない(阻害されない)ため、変形の自由度が確保される。したがって、プロペラ軸が船尾管の軸孔内で偏心しても(軸心が径方向に移動しても)、ライナの外周面に対するリップ部の追随性が高くなる。ここで、船舶のプロペラ軸は、船舶のサイズによっては重量が大きくなるため、プロペラ軸を軸支する軸受けが経時的に摩耗して、プロペラ軸が降下する(傾く)ことがある。そこで、船尾管用シールリングの屈曲部における鉛直方向下方の位置に薄肉領域を形成すること、つまり、補強部を形成しないようにすることによって、屈曲部の下方の部位の変形の自由度を確保すれば、プロペラ軸が降下した場合であっても、ライナの外周面に対するリップ部の接触面の増加を防止することができる。これにより、本発明に係る船尾管密封構造の密封性を好適に維持することが可能になる。
【0011】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、前記薄肉領域を複数備え、前記屈曲部における鉛直最下方の位置に配置される前記薄肉領域とは異なる薄肉領域が、前記屈曲部における鉛直最上方の位置に配置されるようにしてもよい。
【0012】
これにより、屈曲部における鉛直方向上方の部位の変形の自由度も確保されるため、ライナの外周面に対するリップ部の追随性を保つことができる。これにより、本発明に係る船尾管密封構造の密封性を好適に維持することが可能になる。
【0013】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、前記補強領域に形成された前記補強部は、周方向に一定の間隔で配置されるようにしてもよい。
【0014】
これにより、ライナの外周面上に形成されるシールラインの山と谷が一定の間隔で形成
されるようになるため、動圧効果を周方向において一定の間隔で発生させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、リップ部の摺動面の摩耗を抑制することのできる船尾管用シールリング及び船尾管密封構造が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
(実施例)
図1〜
図4を参照して、本発明の実施例に係る船尾管用シールリング及び船尾管密封構造について説明する。
【0019】
<船尾管密封構造の全体構成>
図1を参照して、本発明の実施例に係る船尾管密封構造の全体構成について説明する。この船尾管密封構造には、本発明の実施例に係る船尾管用シールリングが用いられている。
図1は、実施例に係る船尾管密封構造の構成を示す模式的断面図である。
【0020】
船尾管密封構造100は、船舶のプロペラ軸210の外周に設けられたライナ220と、プロペラ軸210が挿通された船尾管300との間の環状隙間を封止する。これにより、図中左側の領域W内にある海水が船内に浸入することが防止されると共に、図中右側の領域L内にある潤滑液が船外に漏出することが防止される。プロペラ軸210にはプロペラ230が取り付けられており、プロペラ軸210と共に回転する。円筒状の部材から構成されるライナ220は、ボルトによってプロペラ230に固定されており、プロペラ軸210の外周を覆っている。プロペラ230の内周側には環状の切り欠き231が設けられており、この切り欠き231に密封部材240が装着されている。この密封部材240によって、プロペラ軸210とライナ220との間に海水等が浸入してしまうことが抑制される。
【0021】
プロペラ軸210は軸受け250によって軸支されている。本実施例においては、潤滑液としては、水、または水溶性の潤滑剤が溶解した水を主成分とする潤滑液が用いられているため、ゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けが軸受け250として用いられている。一般に、水または水溶性潤滑剤が用いられた潤滑液は、漏出したとしても海洋を汚染しにくいため、環境性に優れている。なお、水等に替えて、潤滑液として油(潤滑油)が用いられる場合には、金属製の軸受けが軸受け250に用いられる。
【0022】
船尾管密封構造100は、ライナ220と船尾管300との間の環状隙間を封止するゴ
ム状弾性体製の船尾管用シールリング121,122,123,124を備えている(以下、単に「シールリング」ともいう)。本実施例においては、これら4つのシールリングは同一の形状を有しており、環状のケース110に対して固定されている。ケース110は、船尾管300に対してボルトによって固定された金属製のフランジリング111と、複数の金属製の中間リング112,113,114と、金属製のカバーリング115とから構成される。これらの金属製の5つのリングは、軸方向に挿通される不図示のボルトによって組み合わされている。そして、これら4つのシールリングは、それぞれの外周側がこれら5つのリングの間に締め付けられた状態で固定されている。なお、ケース110と、ケース110に固定された4つのシールリングは、全体で船尾管シール装置とも呼ばれる。
【0023】
シールリング121,122,123,124のそれぞれは、ライナ220の外周面に対して摺動するリップ部を備えており、リップ部の摺動面によって隔てられた2つの領域間を封止している。本実施例においては、これら4つのシールリングによって隔てられた環状の空間S1,S2,S3内には、潤滑液が封入(充填)されている。ここで、領域L、領域W、及び3つの空間S1,S2,S3内の流体圧力を、それぞれP
L,P
W,P
S1,P
S2,P
S3とすると、本実施例においては、P
L>P
S1>P
S2、及び、P
W>P
S3>P
S2が成立している。なお、これら3つの空間内には、潤滑液に替えて他の液体や空気などの気体が封入されていてもよい。この場合であっても、各流体圧力は上記の2つの関係を満たすように設定される。
【0024】
<船尾管用シールリングの構成>
図2〜
図4を参照して、本発明の実施例に係る船尾管用シールリングの構成について説明する。
図2は、実施例に係る船尾管用シールリングの正面図である。ここで正面図とは、シールリングを軸方向における高圧側から見たときの図である。
図3は、実施例に係る船尾管用シールリングの使用時(装着時)における断面図であって、
図2におけるAA断面が示されている。なお、AA線は、シールリングの使用時(船尾管密封構造への装着時)には水平方向の線となる。
図4は、実施例に係る船尾管用シールリングの使用時における断面図であって、
図2におけるBB断面が示されている。なお、BB線は、シールリングの使用時には鉛直方向の線となる。なお、
図3、4では、必要に応じて他の部品も描かれており、また、説明のために切断端面のみが描かれている。また、上述のように、本実施例においては、シールリング121,122,123,124は全て同一の形状を有するため、以下においてはシールリング124を例にして説明する。
【0025】
シールリング124は、ライナ220の外周面に対してその先端が摺動するリップ部1240と、リップ部1240よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側(
図3、4中の右側)へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側(
図3、4中の左側)に延びる屈曲部1241と、中間リング114とカバーリング115とによって締め付けられる固定部1242とを備えている。つまり、屈曲部1241は、径方向外側かつ軸方向一方側(リップ先端の反対側)へ向かって延びる径方向内側部1241aと、径方向外側かつ軸方向他方側(リップ先端側)へ向かって延びる径方向外側部1241bとから構成される、断面がV字型になる部分である。そして、シールリング124は、リップ部1240が高圧側に配置されるように、すなわち、屈曲部1241の開いた側(径方向内側部1241aと径方向外側部1241bとの間の角度が小さい側)が高圧側となるように、ケース110に対して固定される。なお、リップ部1240の外周側には、リップ部1240をライナ220の外周面に対して押圧するためのガータースプリング130が装着される環状溝が形成されている。
【0026】
屈曲部1241は、径方向内側部1241aと径方向外側部1241bとを繋ぐ補強部1243a,1243b,1243cが周方向に形成された補強領域1243Aと、同じ
く径方向内側部1241aと径方向外側部1241bとを繋ぐ補強部1243d,1243e,1243fが周方向に形成された補強領域1243Dと、を備えている。更に、屈曲部1241は、隣り合う補強領域1243A,1243Dの間に、各補強部よりも軸方向の厚さ(以下、「肉厚」ともいう)が薄い薄肉領域1244A,1244Bを備えている。このように、補強領域1243A,1243Dは、径方向において対向する位置に形成されている。また、薄肉領域1244Aは、屈曲部1241における鉛直最上方の位置に配置されており、薄肉領域1244Bは、屈曲部1241における鉛直最下方の位置に配置されている。また、これら6つの補強部(1243a〜1243f)は、
図2に示されるように、左右に3つずつ一定の間隔で形成されており、屈曲部1241における鉛直方向(BB線方向)の上方と下方の部位には形成されていない。詳細には、水平方向(AA線方向)の一方側に配置された3つの補強部1243a〜1243cの各々の間に形成された切り欠き1245a,1245bと、水平方向の他方側に配置された補強部1243d〜1243fの各々の間に形成された切り欠き1245c,1245dは、周方向寸法(周方向長さ)が、薄肉領域1244A,1244Bよりも小さく形成されている。なお、切り欠き1245a〜1245dの周方向寸法、すなわち、補強部1243a〜1243cの各々の間の間隔と補強部1243d〜1243fの各々の間の間隔は、一定(同一)である。また、本実施例においては、これら6つの補強部は同一の形状を有しており、それぞれが径方向の幅を一定にして周方向に延びるように形成されている。補強部1243bを例にして詳細に説明すると、
図3に示されるように、屈曲部1241における補強部1243bが形成された部位は、径方向(図中の上下方向)及び軸方向(図中の左右方向)の何れにおいても、厚みが増大している。したがって、屈曲部1241における当該部位は、補強部が形成されていない(薄肉領域が形成された)他の部位に比べて低圧側への弾性的な変形が抑制される。これに対し、屈曲部1241における補強部が形成されていない部位、つまり、屈曲部1241における上方と下方の薄肉領域1244A,1244Bが形成された部位は、補強部が形成されている箇所に比べて径方向及び軸方向の何れにおいても厚みが増大していないため、変形の自由度が確保されている。なお、本実施例においては、シールリング1240の各部分は、金型成形によって一体的に形成される。
また、リップ部1240における、補強部によって支持されている部位と、補強部によって支持されていない(薄肉領域が形成された)部位とは、それぞれ密封流体による圧力によりシール箇所が周方向において軸方向に前後する(全周で直線ではなく、波形のように軸方向に前後する)。
【0027】
<船尾管用シールリングの使用時のメカニズム>
特に
図3、4を参照して、本実施例に係る船尾管用シールリングの使用時のメカニズムについて説明する。上述したように、シールリング121,122,123,124は、それぞれのリップ部が高圧側と低圧側とをシールするようにケース110に対して固定されているため、これら4つのシールリングのそれぞれに対して、流体の差圧による力が、高圧側から低圧側に向かって軸方向に作用する。シールリング124を例にすると、流体圧力は、屈曲部1241に対して
図3、4中の左側から作用する。そのため、屈曲部1241は、全体として軸方向右側に向かって弾性的に変形するが、6つの補強部1243a〜1243fが設けられた部位における軸方向の変形量は、補強部が設けられていない(薄肉領域が形成された)他の部位における変形量よりも小さくなる。これにより、リップ部1240においても、これら6つの補強部近傍の部位における変形量が、他の部位における変形量より小さくなる。したがって、リップ部1240の摺動部がライナ220の外周面上に形成するシールラインSL(リップ部1240とライナ220との接触面の高圧側の端縁全周に相当)は、
図3、4に示されるように概ね波形形状となる。
【0028】
詳細には、リップ部1240における、6つの補強部1243a〜1243fの内径方向箇所が、シールラインSLの波形形状の高圧側に突出する山を形成する。つまり、これ
ら6つの補強部は、屈曲部1241の左右に分かれて3つずつ間隔を詰めて形成されているため、シールラインSLは、左右に3つの山が間隔を詰めて形成された波形となる。ここで、点Xは、リップ部1240における補強部1243bの内径方向箇所が形成する山の位置を示している。一方、屈曲部1241における鉛直方向の上方と下方の部位は、補強部が形成されていないため、リップ部1240における鉛直方向の上方と下方の部位が、シールラインSLにおける最も深い谷を形成する(
図3、4における点Y参照)。ただし、これは鉛直方向の上方と下方の部位にかかる圧力が同圧の場合であり、プロペラ軸が大径で上方と下方の部位において鉛直方向の上方と下方の部位にかかる圧力が無視できないほど大きい場合は、下方の部位がシールラインSLにおける最も深い谷を形成する。
【0029】
そして、プロペラ軸210の回転中には、回転方向と同一方向、すなわち、
図3、4における上方から下方へ向かう流れが発生する。したがって、シールラインSLの波形における谷から山に遷移する部分には、高圧側の流体が、
図3、4中の矢印Fで示される流れとなって導かれるため、当該部分において動圧が発生する。このようにして発生した動圧は、リップ部1240の摺動面を押し上げるように作用するため、リップ部1240の緊迫力が低減される。このような効果は、4つのシールリング121,122,123,124において同様に発揮される。また、この効果を生じる切り欠き1245a〜1245dの各々の周方向寸法、つまり、補強部1243a〜1243cの各々の間隔(ピッチ)と、補強部1243d〜1243fの各々の間隔としては、50〜200mmとするとよい。このような間隔とした場合には、良好な結果を得ることができた。
【0030】
なお、一般に、船舶のプロペラ軸は、船舶のサイズによっては重量が大きくなるため、プロペラ軸を軸支する軸受けが経時的に摩耗して、プロペラ軸が降下する(軸受け近傍のプロペラ軸の降下量に比べ、プロペラ近傍のプロペラ軸の降下量が大きくなるように傾く)ことがある。特に、本実施例のように、軸受け250としてゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けが採用されている場合には、摩耗が進行しやすいため、プロペラ軸210の降下(下方への傾き)が生じやすい(
図4参照)。ただし、船尾管密封構造100においては、シールリング121,122,123,124のそれぞれの屈曲部における鉛直方向の上方と下方の部位には補強部が形成されていない(薄肉領域が形成されている)ため、これらの部位の変形は阻害されない。シールリング124を例にすると、プロペラ軸210が降下しても、屈曲部1241における上方及び下方の部位の変形の自由度は高いため、上方の部位が伸び、下方の部位が縮むことによって、ライナ220の外周面に対するリップ部1240の追随性が確保される。
【0031】
なお、シールリング121〜124の各々について、シールリングの上方と下方における部位、つまり、薄肉領域が形成されている箇所は、下方においては、プロペラ軸210が降下した際に、接触面圧が上昇するおそれがある。そのため、薄肉領域の周方向寸法は、下方においては、軸降下が生じてもシール性に影響の出ない寸法、つまり、最下方から周方向両側に30度ずつ(併せて60度)以上の角度寸法が必要である。また、上方においては、プロペラ軸210が降下した際に、シールリングがその弾性によりプロペラ軸210に追随してシール可能な程度の寸法、つまり、最上方から周方向両側に40度ずつ(併せて80度)以上の角度寸法であるとよい。
【0032】
<本実施例に係る船尾管用シールリング及び船尾管密封構造の優れた点>
以上のように、船尾管用シールリング121,122,123,124によれば、ライナ220の外周面上に形成されるシールラインが波形形状となるため、プロペラ軸210の回転によって生じた高圧側流体の流れによって、リップ部の摺動面を押し上げるような動圧が発生する。これにより、ライナ220の外周面に対するリップ部の緊迫力が低減されるため、リップ部の摺動面の摩耗が抑制される。その結果、これら4つのシールリングの締め代の減少を防止することができるため、船尾管密封構造の密封能力を好適に維持す
ることが可能になる。特に本実施例のように、潤滑液として、水や水を主成分としたものなどの粘性の低い液体を使用したとしても、摺動面の摩耗を抑制することが可能になる。
【0033】
また、船尾管密封構造100によれば、シールリング121,122,123,124のそれぞれの屈曲部における鉛直方向の上方と下方の部位には補強部が形成されていない(薄肉領域が形成されている)。そのため、各シールリングのリップ部における上方と下方の部位の変形が阻害されないため、ライナ220の外周面に対する追随性を確保することができる。したがって、プロペラ軸210が自重によって経時的に降下した場合であっても、船尾管密封構造の密封性を好適に維持することが可能になる。これにより、本実施例のように、軸受け250としてゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けを採用することが可能になるため、潤滑液として環境性に優れた水や水を主成分としたものを用いることが可能になる。また、船尾管密封構造100によれば、補強領域1243Aに形成された補強部1243a〜1243cと、補強領域1243Dに形成された補強部1243d〜1243fは、周方向に一定の間隔で配置されている。これにより、ライナ220の外周面上に形成されるシールラインSLの山と谷が一定の間隔で形成されるようになるため、動圧効果を周方向において一定の間隔で発生させることができる。
【0034】
(変形例)
本発明では、船尾管用シールリングの屈曲部に設けられる補強部の個数や形状は、上記の実施例で説明した態様に限られず、その作用効果が発揮される限りにおいて、種々の態様を採用することができる。ここで、補強部の他の形状を変形例として図面を用いて説明する。
【0035】
図5は、上記の実施例における補強領域1243Aの形状を示す断面図であって、
図2におけるCC断面図である。
図6は、変形例に係る船尾管用シールリングの補強領域1243Xの形状を示す断面図であって、
図5と同様の断面図である。
図6では、上記変形例と同様の構成部分については同一の符号を付してある。なお両図共に、図中の上下方向がシールリングの軸方向であり、左右方向がシールリングの周方向である。
図5に示されるように、上記の実施例における補強部1243a〜1243cは、軸方向の厚さが周方向に亘って一定である。一方、このような補強領域1243Aに替えて、
図6に示されるように、補強部1243x〜1243zを備える補強領域1243Xを設けてもよい。補強部1243x〜1243zは、軸方向の最大厚さが等しいが、周方向両側の1243x,1243zは、周方向における一方の端部(薄肉領域が形成されている側の端部)に向かうにつれて徐々に薄くなるように形成されている。このような形状を採用することにより、補強部1243a〜1243cと同様の作用効果を確保しながら、リップ部を周方向全体としてプロペラ軸の降下に対してより追随しやすくさせることが可能になる。なお、補強部1243x,1243zの傾斜面は、
図6において直線で示されるように形成されているが、二次曲線となるように形成されてもよい。また、上記実施例における補強領域1243Dに形成された補強部1243d〜1243fについても、同様の形状を採用することができる。
【0036】
なお、上記の実施例においては、屈曲部1241における鉛直方向の上方と下方の部位に補強部を設けない(上方と下方の部位に薄肉領域を設ける)構成を採用したが、これに替えて、屈曲部1241における鉛直方向の上方の部位のみに補強部を設けない(上方の部位に薄肉領域を設け、下方の部位には補強部を設ける)構成を採用してもよい。つまり、屈曲部1241における鉛直方向の下方の部位に補強部が形成されていたとしても、プロペラ軸210が降下した場合には、プロペラ軸210の重量によって当該下方の部位はある程度変形し得る。したがって、少なくとも屈曲部1241における鉛直方向の上方の部位に補強部を形成しなければ、プロペラ軸210の降下時におけるリップ部の追随性は確保される。