【解決手段】体積補償部(3)は、減衰力発生部(2)から流入した作動油を貯留する補償油留室(3R)と、補償油留室(3R)を規定する壁面の一部を構成し、補償油留室(3R)内の油圧の変化に応じて移動するフリーピストン(33)と、フリーピストン(33)に接続され、内部に気体が充填された気体充填部(34)と、補償油留室(3R)および気体充填部(34)と区画されて作動油を貯留する中継油室(3I)とを備える。気体充填部(34)は、可撓性を有すると共に筒状形状を有するダイヤフラム(341)を含み、ダイヤフラム(341)の一端に形成された一端開口部がダイヤフラム(341)の内側に曲げられた状態でフリーピストン(33)に対して固定されている。中継油室(3I)およびシリンダ油室(7)は連通経路を介して連通している。
前記フリーピストンの外周面には凹部が形成されており、前記凹部が所定の位置に達したときに、前記凹部を介して前記油留室と前記貯留室とが連通する請求項1または2に記載の油圧緩衝器。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1について
図1〜
図6を参照して説明する。
【0012】
〈フロントフォークシステム104の全体構成〉
図1(a)は本実施形態に係るフロントフォーク106を搭載した自動二輪車100を示す側面図である。また、
図1(b)は、本実施形態のフロントフォーク106を示す正面図である。
【0013】
図1(a)に示す自動二輪車100は、車体101と、車体101の前方に配される車輪である前輪102Aと、車体101の後方に配される車輪である後輪102Bと、車体101と後輪102Bとを接続するリヤサスペンション103と、車体101と前輪102Aとを接続するフロントフォークシステム104と、自動二輪車100を操舵するためのハンドル105とを備えている。
【0014】
フロントフォークシステム104は、車体101に前輪102Aを連結し、衝撃を緩衝するとともにハンドル105の操舵を前輪102Aに伝達する。本実施形態では、フロントフォークシステム104は、
図1(b)に示すように、2つのフロントフォーク106(油圧緩衝器)と、第1ブラケット107Aと、第2ブラケット107Bと、ステアリングシャフト108とを備えている。
【0015】
フロントフォーク106は、前輪102Aを挟んで対向するように前輪102Aの左右に配置され、車軸102Sを介して前輪102Aを回転可能に支持する。また、フロントフォーク106は、軸方向に伸縮可能に構成されている。なお、本実施形態において、以下の説明では、フロントフォーク106の長手方向を「軸方向」と呼ぶ。
【0016】
フロントフォーク106は、オイルダンパなどの減衰機構と、空気ばね室とを内蔵している。あるいは、フロントフォーク106は、減衰機構と、コイルスプリングとを併用してもよい。ただし、フロントフォーク106の構成はこれに限らない。フロントフォーク106の詳細については後述する。
【0017】
第1ブラケット107Aおよび第2ブラケット107Bは、2つのフロントフォーク106を接続している。ステアリングシャフト108は、両端が第1ブラケット107Aおよび第2ブラケット107Bにそれぞれ固定されており、このステアリングシャフト108が車体101に連結されることでフロントフォークシステム104が車体101に操舵(回転)可能に接続されている。
【0018】
〈フロントフォーク106の構成〉
図2は、フロントフォーク106の断面図である。
【0019】
図2に示すように、フロントフォーク106は、伸縮部1と、減衰力発生部2と、体積補償部3とを備えている。
【0020】
(伸縮部1)
伸縮部1は、アウターチューブ部11と、インナーチューブ12と、スプリングカラー13と、外側シリンダ14と、ダンパシリンダ15と、車軸ブラケット部16と、ロッド部17と、スプリング18とを備えている。
【0021】
(アウターチューブ部11)
アウターチューブ部11は、アウターチューブ111と、第1ブッシュ112Aと、第2ブッシュ112Bと、シール部材113と、開口封止部114とを有している。
【0022】
アウターチューブ111は、管状の部材であり、車体側に配置されている。アウターチューブ111における車輪側の端部には、第1ブッシュ112Aおよびシール部材113を保持するための拡管部111Dが形成されている。
【0023】
第1ブッシュ112Aは、環状の部材であり、拡管部111Dの内周部に設けられている。また、第2ブッシュ112Bは、第1ブッシュ112Aと同様の環状の部材であり、フロントフォーク106の最伸長時に後述するインナーチューブ12の車体側の端部付近に配されるようにアウターチューブ111に圧入されている。これにより、アウターチューブ111とインナーチューブ12とは、第1ブッシュ112Aおよび第2ブッシュ112Bを介して軸方向にスライド可能に接続されている。また、インナーチューブ12の外周面とアウターチューブ111の内周面とが第1ブッシュ112Aおよび第2ブッシュ112Bを介さずに直接摺動する場合よりも、アウターチューブ111とインナーチューブ12との間に作用する摩擦抵抗を低減できる。
【0024】
シール部材113は、リング状の部材であり、拡管部111Dの内周部に取り付けられている。シール部材113は、アウターチューブ111とインナーチューブ12とによって形成される内部空間を封止する。
【0025】
開口封止部114は、キャップ114Cと、アジャスタ114Aと、保持部材114Hとを有している。キャップ114Cは、アウターチューブ111の車体側端部の開口部にねじ結合によって接続されている。アジャスタ114Aは、ばね荷重調整用の部材であり、キャップ114Cの中心部に回動自在に設けられている。保持部材114Hは、スプリングカラー13および後述するロッド171の車体側端部を保持する部材であり、アジャスタ114Aの車軸側端部に固定されている。
【0026】
(インナーチューブ12)
インナーチューブ12は、管状の部材であり、アウターチューブ111の内径よりも小さい外径を有するように形成されている。また、インナーチューブ12は、車軸側の端部が、車軸ブラケット部16に固定され、車体側の端部がアウターチューブ111内に摺動可能に挿入されている。これにより、インナーチューブ12は、アウターチューブ111の軸方向に沿ってアウターチューブ111に対して相対的に移動可能な状態でアウターチューブ111に接続される。
【0027】
(スプリングカラー13)
スプリングカラー13は、管状の部材であり、インナーチューブ12の内径よりも小さい外径を有するように形成されている。スプリングカラー13は、車体側端部が保持部材114Hに固定され、車軸側端部に、スプリング受け13Sが取り付けられている。スプリング受け13Sは、スプリング18の車軸側端部を保持する部材である。また、スプリングカラー13の内側には、ロッド171が配されている。
【0028】
スプリング受け13Sの外周面とインナーチューブ12の内周面との間には隙間が設けられている。これにより、作動油がこの隙間を介して後述するスプリング油室7(貯留空間)とスプリングカラー13の外側の環状空間とを流通することができる。また、スプリング受け13Sの内周面と外側シリンダ14の外周面との間には隙間が設けられている。これにより、作動油がこの隙間を介してスプリング油室7とスプリングカラー13の内側の環状空間とを流通することができる。
【0029】
(外側シリンダ14およびダンパシリンダ15)
外側シリンダ14は、管状の部材であり、スプリングカラー13の内径よりも小さい外径を有するように形成されている。外側シリンダ14は、車軸側の端部がインナーチューブ12から露出する一方、その他の部分がインナーチューブ12内に挿入されており、車体側の端部がインナーチューブ12のほぼ中間位置にある。
【0030】
ダンパシリンダ15は、管状の部材であり、外側シリンダ14の内径よりも小さい外径を有するように形成されている。ダンパシリンダ15は、車軸側の端部が外側シリンダ14から露出する一方、その他の部分が外側シリンダ14内に挿入されており、車体側の端部がインナーチューブ12のほぼ中間位置にある。
【0031】
ダンパシリンダ15内の作動油を貯留する空間は、後述するように、ピストン172によって、車体側のロッド側油室4と、車軸側のピストン側油室5とに区画されている。また、外側シリンダ14とダンパシリンダ15との間には、作動油を貯留する環状油室6が形成されている。
【0032】
(車軸ブラケット部16)
車軸ブラケット部16は、チューブ保持部161と、車軸連結部162と、シリンダホルダ163とを有しており、インナーチューブ12の車軸側に配置される。なお、本実施形態では、チューブ保持部161と車軸連結部162とは一体的に形成されている。
【0033】
チューブ保持部161は、インナーチューブ12の外径よりも大きな外径の円筒形状を有している。この円筒形状の内周面には、インナーチューブ12の雄ねじ部が螺合される雌ねじ部が形成されている。これにより、インナーチューブ12の車軸側の端部がチューブ保持部161に挿入され、チューブ保持部161とインナーチューブ12とが接続される。
【0034】
チューブ保持部161は、ピストン側油室5と後述する減衰力発生部2の圧側室211C(
図3参照)とを連通する第1連通路161P1を有している。また、チューブ保持部161は、環状油室6と後述する減衰力発生部2の伸側室211T(
図3参照)とを連通する第2連通路161P2を有している。また、チューブ保持部161は、後述する減衰力発生部2の中間室211M(
図3参照)と後述する体積補償部3の固定凹部30(
図4参照)とを連通する第3連通路161P3を有している。また、チューブ保持部161は、スプリング油室7と後述する体積補償部3の中継油室3I(
図4参照)とを連通する第4連通路161P4を有している。
【0035】
車軸連結部162は、前輪102Aの車軸102S(
図1参照)が挿入される車軸孔162Hを有している。
【0036】
シリンダホルダ163は、車軸ブラケット部16において外側シリンダ14およびダンパシリンダ15の車軸側端部を保持する部材であり、チューブ保持部161内に配されている。また、シリンダホルダ163は、環状油室6と第2連通路161P2との間をつなぐ第1中継路163C1(
図4参照)を有している。また、シリンダホルダ163は、スプリング油室7と第4連通路161P4との間をつなぐ第2中継路163C2を有している。
【0037】
(ロッド部17)
ロッド部17は、ロッド171と、ピストン172と、ロッドガイド173と、リバウンドスプリング174とを有している。
【0038】
ロッド171は、外側シリンダ14およびダンパシリンダ15の軸方向に沿って伸びる棒状の部材であり、ダンパシリンダ15の内部に配置されている。ロッド171は、インナーチューブ12のアウターチューブ111に対する移動に伴ってインナーチューブ12に対して軸方向に相対的に移動する。また、ロッド171は中空状に形成されている。
【0039】
ロッド171の車体側の端部は、前述の保持部材114Hに接続されている。これにより、ロッド171は、アウターチューブ111に対する相対位置が固定されるように、アウターチューブ111の車体側の端部に保持部材114Hを介して固定されている。一方、ロッド171の車軸側の端部には、ピストン172が取り付けられている。
【0040】
ピストン172は、ロッド171と共にダンパシリンダ15の内部に配置されている。ピストン172は、ダンパシリンダ15の内周に対して軸方向に摺動可能な状態でダンパシリンダ15の内周面に接触するように設けられている。また、ピストン172は、ダンパシリンダ15内に形成される油室を、車体側に位置するロッド側油室4と車軸側に位置するピストン側油室5とに区画している。
【0041】
ロッドガイド173は、インナーチューブ12内に配されており、外側シリンダ14およびダンパシリンダ15の車体側端部に固定されている。ロッドガイド173は、軸方向に貫通する貫通孔173Hを有しており、貫通孔173Hの内径は、ロッド171の外径よりも大きい。ロッド171は、貫通孔173Hを貫通するようにロッドガイド173に挿入されており、ロッドガイド173によってロッド171の軸方向にスライド可能に支持されている。
【0042】
ロッドガイド173は、外側シリンダ14の車体側端部が接合される外周面にOリング173Oが装着されている。また、ロッドガイド173における貫通孔173Hを形成する内周面には、ガイドシール部材173Sおよびブッシュ173Bが装着されている。ガイドシール部材173Sは、ロッドガイド173とロッド171との間の隙間を封止する。ブッシュ173Bは、ガイドシール部材173Sよりも車軸側に配置されており、ロッド171とロッドガイド173との間の摩擦抵抗を低減する。
【0043】
リバウンドスプリング174は、例えば金属コイルばねからなり、アウターチューブ111とインナーチューブ12とを収縮させる方向に付勢する。リバウンドスプリング174は、伸縮部1の伸長動作時に縮むことで衝撃を吸収する。リバウンドスプリング174は、ロッド171の周囲にピストン172とロッドガイド173との間に配置されている。
【0044】
(スプリング18)
スプリング18は、例えば金属コイルばねからなり、アウターチューブ111とインナーチューブ12とを伸長させる方向に付勢する。スプリング18は、伸縮部1の圧縮動作時に縮むことで衝撃を吸収する。スプリング18は、インナーチューブ12とダンパシリンダ15との環状の空間に配置されている。スプリング18の車体側端部はスプリング受け13Sに着座しており、スプリング18の車軸側端部はシリンダホルダ163の車体側の端面に着座している。スプリング18が配される上記の空間は、作動油を貯留するスプリング油室7となる。
【0045】
(空気ばね)
アウターチューブ111およびインナーチューブ12の内側には、鉛直上側に気体(空気)が含まれており、鉛直下側に作動油が含まれている。したがって、インナーチューブ12と外側シリンダ14の外側との間の空間、ダンパシリンダ15とロッド171の外周側との間の空間、スプリングカラー13の内側および外側の空間などにも、空気と作動油とが含まれており、空気と作動油とで空気ばねが構成されている。特に、スプリング油室7は、スプリング18が配置されることから、スプリング18と気体および作動油とで、ばね装置が構成されている。同様に、ダンパシリンダ15とロッド171の外周側との間の空間は、リバウンドスプリング174が配置されることから、リバウンドスプリング174と気体および作動油とで、ばね装置を構成している。空気ばねの特性は、作動油の注入量で調整される。
【0046】
〈減衰力発生部2の構成〉
図3は、減衰力発生部2を示す断面図である。
【0047】
減衰力発生部2は、ピストン172の摺動によって生じた作動油の流れにより減衰力を発生させる。
図3に示すように、減衰力発生部2は、ケーシング21と、減衰力発生機構22と、調整機構23とを備えている。
【0048】
(ケーシング21)
ケーシング21は、減衰力発生部2の外装をなす構造体であり、内部に減衰力発生機構22および調整機構23を収納する空間として空洞部211を有している。ケーシング21の一端側には、空洞部211が開口した開口部212が形成されている。また、ケーシング21は、第1連通路161P1、第2連通路161P2、第3連通路161P3のそれぞれと接続され、かつケーシング21を貫通する圧側出入口21P1、伸側出入口21P2、中央出入口21P3を有している。
【0049】
(減衰力発生機構22)
減衰力発生機構22は、作動油の流れを利用して減衰力を発生させる機構である。減衰力発生機構22は、中心筒体221と、第1仕切板222と、第2仕切板223と、リング体224と、圧側チェック弁225と、伸側チェック弁226と、伸側減衰バルブ227、圧側減衰バルブ228とを有している。
【0050】
中心筒体221は、筒状をなす部材であり、開口部212の側である一端側の端部に配される固定部221Fを有すると共に、中心筒体221の他端側に形成された大径流路221Lと小径流路221Sとを有している。固定部221Fは、後述する調整機構23の蓋体231に固定される。また、固定部221Fは、中心筒体221の内部とケーシング21の空洞部211とを連通する連通孔221H1を有している。
【0051】
大径流路221Lは、固定部221Fの内部に通じるように形成されている。小径流路221Sは、大径流路221Lに通じ、かつ大径流路221Lより小さい内径を有するように形成されており、中心筒体221の他端部に開口している。また、中心筒体221は、大径流路221Lと外部との間を中心筒体221の軸方向と直交する方向に貫通する複数の直交貫通孔221H2を有している。
【0052】
第1仕切板222および第2仕切板223は、中心筒体221の外周面に固定されている円板状の部材である。第1仕切板222は固定部221Fに近い位置に配され、第2仕切板223は第1仕切板222よりも他端側に配されている。第1仕切板222および第2仕切板223は、中心筒体221の外周面とケーシング21の内壁面との範囲で空洞部211を仕切る部材である。
【0053】
第1仕切板222は、第1仕切板222の軸方向に貫通する第1伸側流路222H1および第2圧側流路222H2を有している。第2仕切板223は、第2仕切板223の軸方向に貫通する第1圧側流路223H1および第2伸側流路223H2を有している。
【0054】
空洞部211が第1仕切板222で仕切られた一端側の空間は伸側室211Tとなり、空洞部211が第2仕切板223で仕切られた他端側の空間は圧側室211Cとなる。また、空洞部211における第1仕切板222と第2仕切板223との間の空間は中間室211Mとなる。
【0055】
第1仕切板222におけるケーシング21の内壁面と接する外周面には、第1Oリング222Oが設けられている。第1Oリング222Oは、第1仕切板222の外周面とケーシング21の内壁面との液密性を維持する。第2仕切板223におけるケーシング21の内壁面と接する外周面には、第2Oリング223Oが設けられている。第2Oリング223Oは、第1仕切板222の外周面とケーシング21の内壁面との液密性を維持する。
【0056】
リング体224は、第1仕切板222および第2仕切板223との間において、中心筒体221の外周面に固定されている円板状の部材である。リング体224の内部には、内周側から外周側に達して放射状に形成された複数の内部孔224Hが設けられている。内部孔224Hのそれぞれは、個々に中心筒体221の直交貫通孔221H2と通じている。
【0057】
圧側チェック弁225は、第1仕切板222の一端側の面に固定されている。圧側チェック弁225は、第2圧側流路222H2を一端側から塞いでいる。伸側チェック弁226は、第2仕切板223の他端側の面に固定されている。伸側チェック弁226は、第2伸側流路223H2を他端側から塞いでいる。
【0058】
伸側減衰バルブ227は、伸側行程において減衰力を発生させるバルブであり、第1仕切板222の他端側の面に固定されている。圧側減衰バルブ228は、圧側行程において減衰力を発生させるバルブであり、第2仕切板223の一端側の面に固定されている。
【0059】
圧側チェック弁225、伸側チェック弁226、伸側減衰バルブ227および圧側減衰バルブ228は、いずれも弾性薄板が複数重ねられた層状に構成される。
【0060】
(調整機構23)
調整機構23は、減衰力発生機構22の減衰力を調整する機構である。調整機構23は、蓋体231と、伸側アジャスタ232と、圧側アジャスタ233と、圧側減衰力調整弁234と、伸側減衰力調整弁235と、スライダ236とを有している。
【0061】
伸側減衰力調整弁235は、中心筒体221の固定部221F内に配されており、大径流路221Lの一端側の開口部に面したテーパ部235Tを有している。伸側減衰力調整弁235は、大径流路221Lの開口部に対する進退に応じて、開口部の開口面積(第1隙間G1)を調整することで、作動油が第1隙間G1を通過することによって発生する伸側減衰力を調整する。
【0062】
圧側減衰力調整弁234は、中心筒体221の大径流路221Lおよび小径流路221S内に配されている。圧側減衰力調整弁234は、小径流路221Sの一端側の開口部に面し、かつテーパ状に形成された弁体234Vを有している。圧側減衰力調整弁234は、軸方向への進退に応じて、弁体234Vが小径流路221Sの開口面積(第2隙間G2)を調整することで、作動油が第2隙間G2を通過することによって発生する圧側減衰力を調整する。
【0063】
蓋体231は、ケーシング21の開口部212を液密状態に塞ぐ部材である。蓋体231の外周面には、当該外周面と開口部212の内周面との液密性を維持する第3Oリング231Oが設けられている。
【0064】
伸側アジャスタ232は、伸側減衰力調整弁235の位置を調整する操作部である。圧側アジャスタ233は、圧側減衰力調整弁234の位置を調整する操作部である。
【0065】
中心筒体221における固定部221Fと大径流路221Lとの境界の角部と、伸側減衰力調整弁235のテーパ部235Tとの間には第1隙間G1が形成されている。また、中心筒体221における大径流路221Lと小径流路221Sとの境界の角部と、圧側減衰力調整弁234の弁体234Vとの間には第2隙間G2が形成されている。
【0066】
〈体積補償部3の構成〉
図4は、伸縮部1の一部および体積補償部3の断面図である。
図5は、体積補償部3の一部を示す拡大断面図である。なお、
図4においては、便宜上、スプリング油室7におけるスプリング18の図示を省略している。これは、後述する
図6および
図7についても同様である。
【0067】
体積補償部3は、ロッド171がダンパシリンダ15の内外へ移動したときのロッド171の体積分の作動油の体積および作動油の温度膨張分の体積を補償する。
図4に示すように、体積補償部3は、固定凹部30と、筒状部材31と、ピストン保持部材32と、フリーピストン33と、気体充填部34とを有している。
【0068】
(固定凹部30)
固定凹部30は、筒状部材31を車軸ブラケット部16に固定する共に、固定された筒状部材31と共に後述する補償油留室3Rを形成するために設けられている。固定凹部30は、車軸ブラケット部16のチューブ保持部161において、インナーチューブ12の車軸側端部の側方に、異なる内径を有する複数段の円筒形状に形成されると共に、車体側に向けて開口している。具体的には、
図5に示すように、固定凹部30には、固定凹部30の奥端側(車軸側)から開口側(車体軸側)にかけて、最も小さい内径を有する第1内周面301と、当該第1内周面301よりも大きい内径を有する第2内周面302と、当該第2内周面302よりも大きい内径を有する第3内周面303とが形成されている。
【0069】
第1内周面301と第2内周面302との間には、第1段部304が形成されている。また、第2内周面302と第3内周面303との間には、第2段部305が形成されている。第2内周面302には、第2内周面シール部材302Sが設けられている。第2内周面シール部材302Sは、第2内周面302と後述するピストン保持部材32のフランジ325の外周面との液密性を維持する。第3内周面303には、第3内周面シール部材303Sが設けられている。第3内周面シール部材303Sは、第3内周面303と後述する筒状部材31(中径部313)の外周面との液密性を維持する。
【0070】
固定凹部30は、チューブ保持部161に形成されており、第3内周面303に雌ねじ307を有している。また、固定凹部30の車軸側の端面には、チューブ保持部161の第3連通路161P3(
図4参照)が開口している。
【0071】
(筒状部材31)
筒状部材31は、最も大きい外径を有する本体部311(
図4参照)を有すると共に、車軸側に開口している部分に最も小さい外径を有する小径端部312(
図5参照)を有している。本体部311は、本体部311の軸方向がアウターチューブ111およびインナーチューブ12の軸方向と平行になるように配置されている。
【0072】
図5に示すように、筒状部材31は、本体部311と小径端部312との間に、中径部313と、雄ねじ314とを有している。中径部313は、小径端部312の外径より大きく、かつ本体部の外径より小さい外径を有しており、小径端部312に隣接して形成されている。小径端部312と中径部313との間には、段部310が形成されている。雄ねじ314は、中径部313と本体部311との間の外周面に形成されている。筒状部材31は、雄ねじ314が固定凹部30の雌ねじ307と螺合することにより、固定凹部30と接続される。また、筒状部材31は、車体側の端部に、後述する封止部344のキャップ部材345を係止するための係止リング315(
図4参照)を有している。
【0073】
体積補償部3の内部には、中継油室3I(貯留室)が形成されている。中継油室3Iは、作動油を貯留する空間であり、筒状部材31の内部において、ピストン保持部材32、フリーピストン33、固定部材342およびダイヤフラム341で囲まれて形成されており、後述する補償油留室3Rおよび気体充填部34と区画されている。
【0074】
図5に示すように、筒状部材31における小径端部312の外周面には、固定凹部30の第2段部305と、筒状部材31の段部310との隙間が、環状空間CSとして形成されている。また、筒状部材31の内部には、筒状部材31を貫通する流通孔31Hが形成されている。流通孔31Hとチューブ保持部161の第4連通路161P4とは、共に環状空間CSに開口している。これにより、スプリング油室7と中継油室3Iとが、第2中継路163C2、第4連通路161P4、環状空間CSおよび流通孔31Hからなる連通経路を介して連通している。
【0075】
(ピストン保持部材32)
ピストン保持部材32は、フリーピストン33をフリーピストン33の軸方向に移動自在に保持するために設けられている。ピストン保持部材32は、筒状の部材であり、車軸側に開口する内空部321を有すると共に、フリーピストン33が挿入されるピストン挿通孔322を有している。また、ピストン挿通孔322の内周面には、ピストンシール部材324と、すべり軸受けとして機能するピストンリング323とが設けられている。ピストンシール部材324は、ピストン挿通孔322の内周面とフリーピストン33の外周面との液密性を維持する。
【0076】
また、ピストン保持部材32は、車軸側に開口する端部の外周にフランジ325を有している。
図5にも示すように、フランジ325における車軸側の端面は、固定凹部30の第1段部304に当接している。また、フランジ325における車体側の端面には、筒状部材31の小径端部312の先端が当接している。
【0077】
(フリーピストン33)
フリーピストン33は、有底の筒状の部材であり、閉じた底部が車軸側に位置し、開口している端部が車体側に位置するように配置されている。また、フリーピストン33は、ピストン保持部材32の長さより長く形成されており、ピストン保持部材32のピストン挿通孔322に挿通されている。
【0078】
(気体充填部34)
気体充填部34は、内部に気体が充填されており、ダイヤフラム341と、固定部材342と、かしめバンド343と、封止部344とを有している。
【0079】
固定部材342は、ダイヤフラム341の車軸側の端部が固定される有底の筒状部材である。固定部材342は、フリーピストン33における車体側の端部に固定されている。
【0080】
封止部344は、筒状部材31の車体側の端部を封止するために設けられている。封止部344は、キャップ部材345と、キャップOリング345Oと、封止栓345Sとを有している。
【0081】
キャップ部材345は、筒状部材31の車体側の端部に嵌合されており、さらに当該端部に設けられた係止リング315に係止されることで、筒状部材31からの抜け止めが図られている。キャップ部材345の中央部には、ガス充填のための通気孔345Hが設けられている。通気孔345Hは、封止栓345Sによって封止されている。また、キャップ部材345の外周面には、キャップOリング345Oが設けられている。キャップOリング345Oによって、筒状部材31の内周面とキャップ部材345の外周面との液密性が維持されている。
【0082】
また、キャップ部材345における車軸側の端面には、後述するダイヤフラム341の固定端部341E2をかしめるためのかしめ部345Cが設けられている。かしめ部345Cは、ダイヤフラム341の厚さより大きい所定の間隔をおいて配置された2つの円管状をなす外側円管部345C1と、内側円管部345C2とからなる。外側円管部345C1は、キャップ部材345の外周面に近い側に配置されており、筒状部材31の内周面に接している。内側円管部345C2は、外側円管部345C1よりも内側に配置されており、外側円管部345C1側に変形するように設けられている。
【0083】
ダイヤフラム341は、筒状の部材であり、両端が開口している。ダイヤフラム341は、可撓性のゴム等によって形成されている。また、ダイヤフラム341は、筒状部材31の内部において、封止部344とピストン保持部材32との間に配置されている。また、ダイヤフラム341の外周面の一部は、筒状部材31の内周面と接している。
【0084】
ダイヤフラム341の車軸側の端部である可動端部341E1(一端開口部)は、ダイヤフラム341の内側に曲げられ、かつ可動端部341E1の外周面が固定部材342の外周面に当接した状態で、可動端部341E1の内周面側でかしめバンド343が巻き付けられることによって、固定部材342に気密状態に固定される。ダイヤフラム341は、固定部材342に固定されることにより、フリーピストン33に対して固定されている。
【0085】
ダイヤフラム341の車軸側の端部である固定端部341E2は、ダイヤフラム341の本体部分より小さい外径となるように形成されている。この固定端部341E2は、封止部344のキャップ部材345に固定されている。
【0086】
具体的には、固定端部341E2は、キャップ部材345のかしめ部345Cを構成する外側円管部345C1と内側円管部345C2との間に挿入された状態で、内側円管部345C2の外側円管部345C1側への変形によって押圧されることで気密状態にかしめられている。
【0087】
このように、気体充填部34は、可動端部341E1および固定端部341E2の気密状態が保たれたダイヤフラム341の内部に、キャップ部材345の通気孔345Hを通じて気体が充填されることによって構成されている。
【0088】
(補償油留室3R)
補償油留室3R(油留室)は、固定凹部30、ピストン保持部材32の内空部321およびフリーピストン33で囲まれる空間であり、第3連通路161P3を通じて出入りする作動油を貯留する。補償油留室3Rは、フリーピストン33が移動することによって容積が変化する。
【0089】
〈フロントフォーク106の動作〉
(圧側行程)
フロントフォーク106の圧縮動作時においては、アウターチューブ111とインナーチューブ12とが軸方向に沿って相対的に近づく方向に移動する。スプリングカラー13がアウターチューブ111と共に移動すると、スプリング18が圧縮されるとともに、ピストン172およびロッド171が車軸側に移動する。これにより、ピストン側油室5内の作動油の圧力が上昇して、作動油が当該ピストン側油室5から第1連通路161P1および圧側出入口21P1を介して減衰力発生部2の圧側室211C内に流入する。
【0090】
図3において実線の矢印で示すように、圧側室211C内に流入した作動油は、第1圧側流路223H1に流入して圧側減衰バルブ228を押し開いて中間室211Mに流入する。この圧側減衰バルブ228による作動油の流れを遮る抵抗により減衰力が発生する。
【0091】
また、圧側室211C内に流入した作動油の一部は、中心筒体221の小径流路221Sに流入し、第2隙間G2と、大径流路221Lと、内部孔224Hを介して中間室211Mに流入する。作動油が第2隙間G2を通過する時に減衰力が発生する。
【0092】
中間室211Mにて合流した作動油は、第2圧側流路222H2へ向かう流れと、第3連通路161P3へ向かう流れとに分かれる。
【0093】
第2圧側流路222H2に流入した作動油は、圧側チェック弁225を押し開いて、伸側室211Tに流入し、伸側出入口21P2から第2連通路161P2を経由して、外側シリンダ14とダンパシリンダ15との間に形成された環状油室6へ流れ(
図2参照)、さらにダンパシリンダ15に設けられた図示しない連通孔を介してロッド側油室4へと流れる。また、
図4に示すように、第3連通路161P3に流入した作動油が、体積補償部3の補償油留室3R内に流入すると、流入したロッド171の進入体積分の作動油の圧力によって、フリーピストン33が車体側に移動する。
【0094】
ダイヤフラム341は、フリーピストン33の車体側への移動により、可動端部341E1がダイヤフラム341の内側に押し込まれると、フリーピストン33の外周面に沿って内側に曲げられる部分が長くなる。この結果、ダイヤフラム341内の容積が縮小することで、ダイヤフラム341内の空気が圧縮される。それゆえ、ダイヤフラム341内の空気が空気ばねとして作用し、フリーピストン33を車軸側へ移動させる方向の反力が発生する。
【0095】
ダイヤフラム341内の容積が縮小することで、中継油室3Iの容積が増大する。フロントフォーク106の圧縮により容積が縮小するスプリング油室7の作動油が、第4連通路161P4および流通孔31Hを介して中継油室3Iに流入する。
【0096】
(伸側行程)
フロントフォーク106の伸側行程においては、アウターチューブ111とインナーチューブ12とが軸方向に沿って相対的に遠ざかる方向に移動する。このとき、ロッド171およびピストン172もアウターチューブ111と共に車体側に移動することによって、ロッド側油室4内の油の圧力が上昇し、ロッド側油室4の作動油は、ダンパシリンダ15の上述の連通孔、環状油室6、第1中継路163C1、第2連通路161P2および伸側出入口21P2を介して減衰力発生部2の伸側室211Tに流入する。
【0097】
図3において破線の矢印で示すように、伸側室211Tに流入した作動油は、第1伸側流路222H1に流入し、伸側減衰バルブ227を押し開いて中間室211Mに流入する。この伸側減衰バルブ227による作動油の流れを遮る抵抗により減衰力が発生する。
【0098】
また、伸側室211Tに流入した作動油の一部は、固定部221Fの連通孔221H1、第1隙間G1およびリング体224の内部孔224Hを経由して中間室211Mに流入する。作動油が第1隙間G1を通過する時に減衰力が発生する。
【0099】
一方、体積補償部3の補償油留室3Rのロッド171の退出体積分の作動油は、第3連通路161P3を介して中間室211Mに流入する。第1伸側流路222H1および内部孔224Hを介して中間室211Mに流入した作動油は、補償油留室3Rからの作動油と合流し、第2伸側流路223H2に流入して伸側チェック弁226を押し開いて、圧側室211Cに流入する。圧側室211Cに流入した作動油は、圧側出入口21P1および第1連通路161P1を経由してピストン側油室5に流れる。
【0100】
図6に示すように、体積補償部3の補償油留室3Rから作動油が流出すると、補償油留室3Rの圧力が低下し、ダイヤフラム341は、内部の気体の圧力によって、可動端部341E1をダイヤフラム341の内側から押し出す。ダイヤフラム341が押し出される力を受けて、固定部材342と共にフリーピストン33が車軸側に移動する。これにより、フリーピストン33の外周面に沿って内側に曲げられる部分が短くなる。この結果、ダイヤフラム341内の容積が増大する。
【0101】
以上のように、本実施形態にかかるフロントフォーク106は、減衰力発生部2から流入した作動油を貯留する補償油留室3Rと、補償油留室3Rを規定する壁面の一部を構成し、補償油留室3Rの内部の油圧の変化に応じて移動するフリーピストン33と、フリーピストン33に接続され、内部に気体が充填された気体充填部34と、補償油留室3Rおよび気体充填部34と区画されて作動油を貯留する中継油室3Iとを有する体積補償部3を備えている。また、気体充填部34は、可撓性を有すると共に筒状形状を有するダイヤフラム341を含み、ダイヤフラム341の一端に形成された一端開口部(可動端部341E1)がダイヤフラム341の内側に曲げられた状態でフリーピストン33に対して固定されている。また、中継油室3Iおよびスプリング油室7は連通経路を介して連通している。
【0102】
上記の構成では、補償油留室3Rに作動油が流入すると、作動油の圧力によってフリーピストン33が、補償油留室3Rの容積が大きくなる方向に移動する。これにより、ダイヤフラム341の可動端部341E1がダイヤフラム341の内部に押し込まれ、ダイヤフラム341の内部の気体が圧縮される。これに対し、補償油留室3Rから作動油が流出するとき、補償油留室3Rの圧力が低下するので、ダイヤフラム341の内部の気体の圧力によって、ダイヤフラム341の一端部がダイヤフラムの内部から押し出される。これにより、フリーピストン33は、補償油留室3Rに押し戻される。
【0103】
このように、ダイヤフラム341の巻き込みによって、気体充填部34の容積が変化するために、ロッド171がダンパシリンダ15内へ移動したときと、ロッド171がダンパシリンダ15の外側へ移動したときとのロッド171の体積分の作動油の体積を補償することができる。また、上記の構成により、同様の原理で作動油の温度膨張分の体積を補償することができる。
【0104】
このダイヤフラム341の巻き込みによって、拡大する中継油室3Iにスプリング油室7の作動油が流入することで、スプリング油室7の気体(空気)の体積が増大する。これにより、圧縮行程の後半でのスプリング油室7の空気ばね力の増大が抑制されるので、乗り心地が改善される。
【0105】
また、フロントフォーク106において、気体充填部34は、ダイヤフラム341の他端側に他端開口部(固定端部341E2)を有し、他端開口部は、体積補償部3の補償油留室3Rが形成されている側とは反対側(車体側)の端部に固定されており、前記反対側の端部には、気体充填部34の気体圧を調整する封止栓345Sが気体圧調整部として設けられている。
【0106】
ダイヤフラム341の他端開口部が固定されている端部に設けられた気体圧調整部からダイヤフラム341の内部に気体を充填する、またはダイヤフラム341の内部から気体を抜くことにより、気体充填部34の気体圧が調整されるので、気体充填部34に所望の反力を与えることができる。
【0107】
また、フロントフォーク106は、ピストン172が、ダンパシリンダ15の内部に形成される油室を、車体側に位置するロッド側油室4と車軸側に位置するピストン側油室5とに区画し、外側シリンダ14の内周面とダンパシリンダ15の外周面との間に、ロッド側油室4および減衰力発生部2と連通する環状油室6が形成されており、ピストン側油室5と減衰力発生部2とを連通する第2連通路161P2が車軸側流路としてさらに形成されている。
【0108】
ピストン側油室5にある作動油の一部は、ピストン172によって流動すると、環状油室6を介して減衰力発生部2に流れ込んだ後、環状油室6を介してロッド側油室4に戻る。ロッド側油室4にある作動油の一部は、ピストン172によって流動すると、環状油室6を介して減衰力発生部2に流れ込んだ後、ピストン側油室5に戻る。このような作動油の循環経路を形成することにより、圧側行程および伸側行程の両方において減衰力発生部2に作動油を供給することができる。
【0109】
また、フロントフォーク106において、減衰力発生部2は、アウターチューブ111が車軸側に移動する圧側行程において、ピストン側油室5から流出した作動油の流れによって減衰力を発生させる圧側減衰バルブ228と、アウターチューブ111が車体側に移動する伸側行程において、ロッド側油室4から流出した作動油の流れによって減衰力を発生させる伸側減衰バルブ227とを備えている。
【0110】
これにより、圧側行程と伸側行程とにおいて独立して減衰力を発生させることができる。
【0111】
また、フロントフォーク106において、ダイヤフラム341の内側に曲げられた部分がフリーピストン33の外周面に当接する。
【0112】
ダイヤフラム341の内側に曲げられた部分は、フリーピストン33の外周面に当接することにより、フリーピストン33の外径に応じて内径が変わる。これに応じて、ダイヤフラム341の内部の容積も変化するので、ダイヤフラム341内に形成される気体室の反力を調整することができる。
【0113】
また、ピストンシール部材324は、フリーピストン33における1箇所のみに設けられるだけである。例えば、気体充填部34にダイヤフラム341を用いない場合、フリーピストン33の固定部材342部にシール部材を設けて、このシール部材で本体部311の内側の空間が区画され、その空間における車体側に気体充填部が構成される。このような構造では、2箇所に、上記のシール部材とピストンシール部材324とを設ける必要がある。
【0114】
これにより、ピストン保持部材32とフリーピストン33との摩擦を最小限に留めることで、フリーピストン33の作動性を良好に維持することができる。したがって、自動二輪車100のブレーキング時における圧縮行程の後半での伸縮部1の最大ストロークでの衝撃吸収性(乗り心地)を改善することができる。また、体積補償部3による、ロッド171の体積分の作動油の導入および排出を円滑に行うことで、減衰応答性を改善することができる。
【0115】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について
図7を参照して説明する。なお、本実施形態において実施形態1における構成部材と同等の機能を有する構成部材については、同一の符号を付記して、その説明を省略する。
【0116】
図7は、本実施形態に係るフロントフォーク106の圧側行程における状態を示す部分拡大断面図である。
【0117】
本実施形態のフロントフォーク106では、伸縮部1のスプリング油室7と体積補償部3の内部とを連通する経路(第2中継路163C2)が設けられている。
【0118】
図7に示すように、体積補償部3は、フリーピストン33が環状溝331(凹部)を有している。環状溝331は、フリーピストン33の外周面におけるフリーピストン33の車軸側端部付近から車体側にかけて設けられている。また、環状溝331は、フリーピストン33の軸を中心とする環状に形成されており、車軸側の端縁と車体側の端縁とがフリーピストン33の外周面に対して傾斜している。フリーピストン33の長軸方向における環状溝331の幅は、ピストン保持部材32の車体側の端部の厚さよりも長い。
【0119】
上記のように構成されるフロントフォーク106では、ロッド171の外周面に付着したスプリング油室7の作動油が圧縮動作時にロッド側油室4内に侵入したり、作動油が熱膨張したりすることによって、ダンパシリンダ15内および減衰力発生部2内の作動油量が増加することがある。このような場合、ピストン側油室5内の増加分を含む作動油が第1連通路161P1、減衰力発生部2の圧側出入口21P1(
図3参照)を経由して圧側室211Cに流入する。
【0120】
圧側室211Cに流入した作動油は、圧側行程と同様の経路をたどって中間室211Mに流入する。中間室211Mに流入した作動油が、中央出入口21P3および第3連通路161P3を介して体積補償部3の補償油留室3Rへ流れる。これにより、作動油の増加分は補償油留室3Rに徐々に蓄積される。
【0121】
補償油留室3Rへ流れ込んだ作動油の増加によって、フリーピストン33が他端側に移動する。
図7に示すように、補償油留室3R内の油量が所定量を超えたときの圧縮行程の最圧縮時にフリーピストン33の環状溝331の一部がピストン保持部材32の内空部321に露出すると共に、環状溝331の一部がピストン保持部材32の車体側から露出した状態では、内空部321と中継油室3Iとが環状溝331を介して連通する。これにより、補償油留室3R内の作動油は、筒状部材31の流通孔31H(
図5参照)と、第4連通路161P4と、シリンダホルダ163の第2中継路163C2とを経由し、スプリング油室7に戻る。
【0122】
また、上記のようにして、補償油留室3R内の作動油がスプリング油室7に戻ることによって減少すると、フリーピストン33が気体充填部34の反力によって車軸側に移動する。これに伴って、環状溝331が車軸側に移動すると、環状溝331の車体側の部分がピストン保持部材32のピストン挿通孔322内に収まるので、圧縮行程の最圧縮時であっても、補償油留室3Rから中継油室3Iに通じる環状溝331による流通路が閉鎖される。これにより、補償油留室3Rから中継油室3Iの流れが停止する。
【0123】
以上のように、体積補償部3は、フリーピストン33の外周面には環状溝331が凹部として形成されており、環状溝331が所定の位置に達したときに、環状溝331を介して補償油留室3Rと中継油室3Iとが連通する。
【0124】
フリーピストン33の環状溝331がピストン保持部材32の所定の位置に達したときに、補償油留室3Rと中継油室3Iとが環状溝331を介して連通すると、インナーチューブ12の内部のスプリング油室7と補償油留室3Rとの間で作動油を流通させることができる。
【0125】
これにより、フロントフォーク106を備える自動二輪車100が走行を重ねていくことによって、補償油留室3Rに貯留された増加分の作動油を環状溝331、中継油室3I、流通孔31Hおよび第4連通路161P4を介してスプリング油室7に戻すことができる。そのため、ダイヤフラム341内の圧力が異常に高まることを回避することができる。この結果、ダイヤフラム341の反力の増大により圧縮行程時にフリーピストン33がダイヤフラム341の内部に入りにくくなり、作動油を介してロッド171の反力も増大するので、乗り心地が悪くなることを回避できる。
【0126】
なお、本実施形態では、フリーピストン33に環状溝331を設けているが、補償油留室3Rから中継油室3Iに作動油を流通させることができれば、フリーピストン33に環状溝331以外の構造を設けてもよい。例えば、フリーピストン33の外周面に、フリーピストン33の軸方向に沿った複数の溝を、環状溝331の幅(フリーピストン33の軸方向の長さ)と同じ長さを有するようにして形成してもよい。
【0127】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。