(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-18071(P2017-18071A)
(43)【公開日】2017年1月26日
(54)【発明の名称】誘引用エッジ作出方法及びその方法を用いた捕虫器
(51)【国際特許分類】
A01M 1/04 20060101AFI20170105BHJP
A01M 1/14 20060101ALI20170105BHJP
【FI】
A01M1/04 A
A01M1/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-141024(P2015-141024)
(22)【出願日】2015年7月15日
(71)【出願人】
【識別番号】594120157
【氏名又は名称】アース環境サービス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】針山 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】弘中 満太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】美山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】大久保 博司
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121BA03
2B121BA09
2B121BA51
2B121BA54
2B121BA58
2B121BA60
2B121DA21
2B121DA27
2B121DA34
2B121DA37
2B121DA38
2B121EA01
2B121EA08
2B121FA06
2B121FA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異なる光の境界部分であるエッジを作出することができて捕虫効率の高い捕虫器を提供する。
【解決手段】前面開口部2に透光性樹脂板3、4を配し、その上に粘着シート5を配設した筐体1内に照明手段を設置して成る捕虫器であって、筐体1の内側背面部に、中間部を三角形状に盛り上げた拡散板11を配置し、拡散板11の三角形状部の一方の斜面12に向けて紫外発光用LED14を配列し、他方の斜面に向けて他色発光用LED15を配列して同時に照射することで、拡散板11の三角形状部の稜線に沿って光の境界部分であるエッジの作出を可能にした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間部の断面が三角形状を呈する拡散板の両側に発光色の異なるLEDを配置し、一方の前記LEDを前記拡散板の一方の側の斜面に向けて照射して反射させ、他方の前記LEDを前記拡散板の他方の側の斜面に向けて照射して反射させることで、前記拡散板の三角形状部の稜線に沿って、光の境界部分であるエッジを作出させることを特徴とする誘引用エッジ作出方法。
【請求項2】
前面開口部に透光性樹脂板を配し、その上に粘着シートを配設した筐体内に照明手段を設置して成る捕虫器であって、前記筐体の内側背面部に、中間部の水平方向線又は垂直方向線に沿って三角形状に盛り上げた拡散板を配置し、前記拡散板の三角形状部の一方の斜面に向けて紫外発光用LEDを配列すると共に、他方の斜面に向けて他色発光用LEDを配列して同時に照射することで、前記拡散板の三角形状部の稜線に沿って光の境界部分であるエッジの作出を可能にしたことを特徴とする捕虫器。
【請求項3】
前記他色発光用LEDは緑色LEDである、請求項2に記載の捕虫器。
【請求項4】
前記拡散板における前記紫外発光用LEDによる照射エリアの面積を、前記他色発光用LEDによる照射エリアの面積と同じもしくは大となるようにした、請求項2又は3に記載の捕虫器。
【請求項5】
前記粘着シートにおける、前記拡散板の前記紫外発光用LED及び前記他色発光用LEDによる照射エリアに対応する部分の周縁部を外方に張り出させた、請求項2乃至4のいずれかに記載の捕虫器。
【請求項6】
前記拡散板の表面がブラスト加工処理されている、請求項2乃至5のいずれかに記載の捕虫器。
【請求項7】
前記透光性樹脂板の一面又は両面がブラスト加工処理されている、請求項2乃至6のいずれかに記載の捕虫器。
【請求項8】
前記拡散板に拡散性物質が練り込まれて光拡散処理される、請求項2乃至7のいずれかに記載の捕虫器。
【請求項9】
前記筐体は艶消し黒色とされる、請求項2乃至8のいずれかに記載の捕虫器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘引用エッジ作出方法及びその方法を用いた捕虫器に関するものであり、より詳細には、例えば、食品工場、医薬品工場、容器包材工場等のように、昆虫類の侵入を極力阻止する必要のある工場や施設に設置される捕虫器、並びに、その捕虫器に適用される昆虫類の誘引効果の高い誘引用エッジの作出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
捕虫器としては、例えば、内面に粘着性を持たせた断面半円形のケース内に誘引灯を配置し、更に誘引効果を高めるために、誘引音波発生器を内蔵したものが知られている(特許第2599101号公報)。その場合の光源としては一般にBLランプが用いられているが、BLランプは電力消費量が多くて寿命が短いため、これに代えて、BLランプよりも誘引効果が低いとされているが、電力消費量が少なくて長寿命という利点のあるLEDを用いる要請が高まっている。
【0003】
ところで従来、第1の波長領域の光を発する第1の光源と、第1の波長領域とは異なる第2の波長領域の光を発光する第2の光源とを備えた発光装置において、これら第1の光源と、第2の光源との境界部にカメムシなどの昆虫が誘引されることを利用した誘引装置の提案がなされている(WO2013/042743A1)。
【0004】
この提案に係る誘引装置は、発光手段を内蔵した筐体の前面に、2枚の色が異なる透光プレートを並置することで、透光プレートの境界線に沿った鉛直方向のエッジを形成するものである。透光プレートの素材としては、波長が370nm程度の紫外光を主として透過する素材と、波長が520nm程度の緑色光を主として透過する素材が用いられる。
【0005】
この誘引装置の発明は、昆虫は、光によって誘引される際に、単純に光や特定の波長に誘引されるのではなく、光源が発する光の波長のコントラスト(エッジ部分)に誘引されるとの知見に基づいてなされたものである。なお、ここにいう光のエッジ部分とは、単一光である場合は、光っている部分とその周りの光っていないところとの境界部分を意味し、2以上の種類の光である場合は、それぞれ異なる光の境界部分を意味する。
【0006】
この誘引装置の場合は、波長が300〜600nmの光を多く射出する水銀灯や、相対的に短波長の光を多く射出するLEDなどの光源を用いる場合に比較して、害虫を効率よく誘引することができるとされている。しかし、その場合のエッジは、2枚の色が異なる透光プレートを並置することで作出されるものであるところから、光源の配光性や投光プレートの均一性に起因して輝度等の問題が発生し、エッジを明確に作出することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2013/042743A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来提案されている誘引装置の場合は、エッジが2枚の色が異なる透光プレートを並置することで作出されるものであるあるところから、光源の配光性や投光プレートの均一性に起因して輝度等の問題が発生し、エッジを明確に作出することが難しいという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、異なる光の境界部分であるエッジを明確に作出することができる誘引用エッジ作出方法、及び、その方法を用いた捕虫器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、中間部の断面が三角形状を呈する拡散板の両側に発光色の異なるLEDを配置し、一方の前記LEDを前記拡散板の一方の側の斜面に向けて照射して反射させ、他方の前記LEDを前記拡散板の他方の側の斜面に向けて照射して反射させることで、前記拡散板の三角形状部の稜線に沿って、光の境界部分であるエッジを作出させることを特徴とする誘引用エッジ作出方法である。
【0011】
また、上記課題を解決するための請求項2に係る発明は、前面開口部に透光性樹脂板を配し、その上に粘着シートを配設した筐体内に照明手段を設置して成る捕虫器であって、前記筐体の内側背面部に、中間部の水平方向線又は垂直方向線に沿って三角形状に盛り上げた拡散板を配置し、前記拡散板の三角形状部の一方の斜面に向けて紫外発光用LEDを配列すると共に、他方の斜面に向けて他色発光用LEDを配列して同時に照射することで、前記拡散板の三角形状部の稜線に沿って光の境界部分であるエッジの作出を可能にしたことを特徴とする捕虫器である。
【0012】
一実施形態においては、前記他色発光用LEDは緑色LEDとされる。また、前記拡散板における前記紫外発光用LEDによる照射エリアの面積は、前記他色発光用LEDによる照射エリアの面積と同じもしくは大となるようにされ、前記粘着シートにおける、前記拡散板の前記紫外発光用LED及び前記他色発光用LEDによる照射エリア対応部の周縁部が外方に張り出るようにされる。
【0013】
また、一実施形態においては、前記拡散板の表面がブラスト加工処理され、更に、前記透光性樹脂板の一面又は両面がブラスト加工処理される。また、前記拡散板は、成形時に拡散性物質が練り込まれて光拡散処理される。前記筐体は、好ましくは、艶消し黒色とされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述したとおりであって、拡散板の三角形状部によって照射エリアが二分され、LEDからの紫外光と他色光がそれぞれ、拡散板の両側の斜面に反射されて前面側に向かい、また、拡散板及び透光性樹脂板にブラスト加工が施されることによって反射光の拡散性が高められることで、紫外エリアと他色エリアとの間で混色が起こらずに明確に区画されるために、光の境界であるエッジがきれいに作出されるという効果がある。また、光源としてLEDを用いるために消費電力が少なく、誘引作用の高い光のエッジがきれいに作出されるために、捕虫率の向上が図れる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る捕虫器の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る捕虫器の構成を示す縦断面図である。
【
図3】本発明に係る捕虫器における光源のスペクトル分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る誘引用エッジ作出方法は、中央部の断面が三角形状を呈する拡散板の両側に発光色の異なるLEDを配置し、一方の前記LEDを前記拡散板の一方の側の斜面に向けて照射して反射させ、他方の前記LEDを前記拡散板の他方の側の斜面に向けて照射して反射させることで、前記拡散板の三角形状部の稜線に沿って、光の境界部分であるエッジを作出させることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係る捕虫器は、上記誘引用エッジ作出方法を利用したものであって、
図1及び
図2に示されるように、基本的には、前面開口部2に透光性樹脂板である紫外光透過性アクリル板3、4を配し、その上に粘着シート5を配設した筐体1内に照明手段を設置して成るものである。筐体1の外側面には、スイッチ21、音量ボリューム23及び吊下用フック24等が配設される。また、その前面上部に誘引音発生用スピーカー22が設置され、更に、図示してないが、適宜箇所に光量調整用スイッチ等が設置される。筐体1は、艶消しの黒色とすることが好ましい。そのようにした場合は、明るい環境において筐体1の反射光を抑えることができて、捕虫効率の向上を期待できる。
【0018】
図示した例では、前面開口部2に2枚重ねの紫外光透過性アクリル板3、4が嵌め付けられている。好ましくは、紫外光透過性アクリル板3、4にサンドブラスト処理を行い(ブラスト加工部10)、透過光の拡散性を高めて配光性を向上させる。ブラスト加工処理は、例えば、外側の紫外光透過性アクリル板3の内面と、内側の紫外光透過性アクリル板4の両面に対して行う。
【0019】
粘着シート5は、透明樹脂フィルムに粘着剤を塗布したもので、筐体1の前面枠両側には、粘着シート5の側部を保持するガイド6が、それぞれ1又は複数配設される。粘着シート5は、上方からガイド6に沿って差し込まれ、その下辺は、筐体1の前面下辺から前方に延びるように設けられる下方受け溝7に向けて湾曲状態に押し進め、下方受け溝7にて係止させる。また、その上辺は、筐体1の前面上辺に沿って設置される上方受け溝8にて係止させる。
【0020】
筐体1の内面の背面部に、横方向又は縦方向(図示した例では横方向)の中心線対応部を当該中心線に沿って三角形状に盛り上げた拡散板11が配置される。図示した例の拡散板11は、2つの部材を対称的に付き合わせて形成されているが、1枚板を折曲して形成することもできる。拡散板11の両側の斜面12、13は通例平坦な斜面であるが、曲面とする場合もある。
【0021】
通例、拡散板11はアルミ板であって、一実施形態においては、その前面側に、反射光の拡散性を高めるためのブラスト加工処理が施される(ブラスト処理部16)。また、別の実施形態においては、上記ブラスト加工処理に代え、あるいは、上記ブラスト加工処理を行うと共に、拡散板11に、その成形時に光拡散性物質を練り込むことによって光拡散処理を施す。例えば、光拡散性物質として有機ポリマー粉体(ビーズ)を用い、これを成形時に溶融樹脂に混入させて均一に分散させる。更に、上記光拡散方法に代えて、拡散板11に光拡散性フィルムを張着することも考えられる。なお、拡散板11には、必要に応じ、その三角形状部の斜面下端部から両端部にかけて屈曲部17が形成され、反射光が前方に向かうように配慮される。
【0022】
拡散板11の一方の斜面12に向かうようにして、筐体1の天面に紫外発光用LED14が適宜数配設され、また、拡散板11の他方の斜面13に向かうようにして、筐体1の底面に他の色の発光用LED15が適宜数配設される。好ましい実施形態においては、LED15は緑色発光用LEDとされる。そして、使用時においてLED14とLED15は、同時に発光させる。
【0023】
図示した例では、エッジ20を水平方向に作出させるようにしているが、エッジ20を垂直方向に作出させるようにすることもできる。また、LED15は、虫の種類に対応させて、赤色や黄色等とされることもある。一例として筐体1は、そのサイズが幅344mm、高さ348mm、奥行145mmとされ、照明部(前面開口部2)のサイズが縦200mm、横300mmとされる。そして、その場合LED14、15は、光の重なりを多くするために、それぞれ5個配置される。
【0024】
上記構成の捕虫器において、紫外発光用LED14と緑色発光用LED15を用いた場合に、紫外発光用LED14による照射域である紫外エリア18と緑色発光用LED15による照射域である緑エリア19において、およそ1.0×10
13 photons/cm
2/secに調整した際に、波長の混在が見られるかどうかの確認試験を行った。この試験は、紫外エリア18及び緑エリア19それぞれの中央部分を、粘着シート5を外した状態で、分光器(朝日分光、HSU−100S)のセンサーを拡散板11の発光面に接触させて、250〜1000nmまでの波長帯で光量を測定する方法で行った。
【0025】
上記試験の結果、紫外及び緑のピーク波長はそれぞれ367nm、529nmであり、構造による波長の大きな変化は認められなかった(
図3のスペクトル分布図参照)。そして、紫外エリア18の測定では、250〜1000nmの積算の総光量(0.98×10
13 photons/cm
2/sec)における330〜430nmの光量(0.97×10
13 photons/cm
2/sec)が占める割合は96.7%であった。また、緑エリア19の総光量(0.97×10
13 photons/cm
2/sec)における450〜650nmの光量(0.96×10
13 photons/cm
2/sec)が占める割合は98.9%であった。
【0026】
一方、紫外エリア18の450〜650nmの光量(0.006×10
13 photons/cm
2/sec)が占める割合は0.6%であり、緑エリア19の330〜430nmの光量(0.003×10
13 photons/cm
2/sec)が占める割合は0.3%であり、それぞれのエリア18、19で混色がほとんど起こっていないことを確認することができた。
【0027】
このように紫外エリア18と緑色エリア19との間においてほとんど混色が起こらないのは、拡散板11の三角形状部によって照射エリアが二分されること、LED14からの紫外光とLED15からの緑色光がそれぞれ、拡散板11の両側の斜面12、13に反射されて前面側に向かうこと、並びに、拡散板11及び紫外光透過性アクリル板3、4にブラスト加工が施されることによって反射光の拡散性が高められること等の相乗作用によるものである。そして、紫外エリア18と緑色エリア19との間においてほとんど混色が起こらないことの必然的結果として、その境界が明確になってエッジ20が作出されるのである。
【0028】
なお、図示した上記例においては、紫外エリア18と緑色エリア19の面積がほぼ同じとなっているが、誘引効果のある紫外発光用LED15による照射エリアである紫外エリア18が緑色エリア19よりも大となるように、三角形状部をずらして配置する構成も考えられる。また、紫外エリア18及び緑色エリア19の周縁部に虫が集まることも考えられるので、粘着シート5における紫外エリア18対応部、及び、緑色エリア19対応部の周縁部を外方に張り出させることで、捕虫効率をより高めることも考えられる。
【0029】
本発明に係る捕虫器は一般の捕虫器と同様に、例えば、吊下用フック24を利用するなどして、捕虫の必要な箇所に設置して用いる。この捕虫器の場合は、上記のとおり、昆虫を誘引する作用の強いエッジ20が明確に作出されるために誘引作用が強く、捕虫効率の大幅な向上を期待することができる。
【0030】
この発明をある程度詳細にその好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは言うまでもない。従って、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1 筐体
2 前面開口部
3 紫外光透過性アクリル板
4 紫外光透過性アクリル板
5 粘着シート
6 ガイド
7 下方受け溝
8 上方受け溝
10 ブラスト処理部
11 拡散板
12 斜面
13 斜面
14 紫外発光用LED
15 緑色発光用LED
16 ブラスト処理部
17 屈曲部
18 紫外エリア
19 緑色エリア
20 エッジ