【解決手段】第1フロントフォーク(11A)は、アウターチューブ(21)と、インナーチューブ(31)と、アウターチューブ(21)に固定された車体側雄ねじ部(51P)を有すると共に、インナーチューブ(31)に挿入された車軸側雄ねじ部(51J)を有するロッド(51)と、インナーチューブ(31)内において車軸側雄ねじ部(51J)よりも車体側に設けられ、ロッド(51)が貫通するロッドガイド(52)と、可撓性を有すると共に、インナーチューブ(31)内に配された第1ダイヤフラム(61)および第2ダイヤフラム(71)とを備える。
前記ロッドの前記第2端部に設けられ、前記ロッドの外径よりも大きい外径を有する部分を少なくとも含み、前記第1ダイヤフラムおよび前記第2ダイヤフラムの内側に曲げられた部分に当接する外周面を有する当接部材をさらに備えている請求項1に記載の懸架装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1について
図1〜
図3を参照して説明する。
【0012】
〈フロントフォーク4の全体構成〉
図1(a)は本実施形態に係るフロントフォーク4(懸架システム)を搭載した自動二輪車1を示す側面図である。また、
図1(b)は、本実施形態のフロントフォーク4を示す正面図である。
【0013】
図1(a)に示す自動二輪車1は、車体2と、車体2の前方に配される車輪である前輪14Aと、車体2の後方に配される車輪である後輪14Bと、車体2と後輪14Bとを接続するリヤサスペンション3と、車体2と前輪14Aとを接続するフロントフォーク4と、自動二輪車1を操舵するためのハンドル5とを備えている。
【0014】
フロントフォーク4は、車体2に前輪14Aを連結し、衝撃を緩衝するとともにハンドル5の操舵を前輪14Aに伝達する。本実施形態では、フロントフォーク4は、
図1(b)に示すように、第1フロントフォーク11A(懸架装置、第1懸架部)と、第2フロントフォーク11B(第2懸架部)と、第1ブラケット12Aと、第2ブラケット12Bと、ステアリングシャフト13とを備えている。
【0015】
第1フロントフォーク11Aおよび第2フロントフォーク11Bは、前輪14Aを挟んで対向するように前輪14Aの左右に配置され、車軸14Sを介して前輪14Aを回転可能に支持する。また、第1フロントフォーク11Aおよび第2フロントフォーク11Bは、軸方向に伸縮可能に構成されている。なお、本実施形態において、以下の説明では、第1フロントフォーク11Aの長手方向を「軸方向」と呼ぶ。
【0016】
第1フロントフォーク11Aは、空気ばね室(気体ばね室)を内蔵している。なお、本実施形態では第1フロントフォーク11Aは減衰機構を備えていない。第1フロントフォーク11Aの詳細については後述する。
【0017】
第2フロントフォーク11Bは、オイルダンパなどの減衰機構を内蔵している。ただし、第2フロントフォーク11Bの構成はこれに限らず、例えば、第1フロントフォーク11Aと同様の構成であってもよい。
【0018】
第1ブラケット12Aおよび第2ブラケット12Bは、第1フロントフォーク11Aと第2フロントフォーク11Bとを接続している。ステアリングシャフト13は、両端が第1ブラケット12Aおよび第2ブラケット12Bにそれぞれ固定されており、このステアリングシャフト13が車体2に連結されることでフロントフォーク4が車体2に操舵(回転)可能に接続されている。
【0019】
〈第1フロントフォーク11Aの構成〉
図2の(a)は、第1フロントフォーク11Aの断面図である。
図2の(b)は第1フロントフォーク11Aにおけるロッドガイド52の周辺を示す部分拡大断面図であり、
図2の(c)は第1フロントフォーク11Aにおけるインナーチューブ31の車軸側端部の周辺を示す部分拡大断面図である。
【0020】
図2の(a)に示すように、第1フロントフォーク11Aは、アウターチューブ部20と、インナーチューブ部30と、車軸ブラケット部40と、ロッド部50と、第1ダイヤフラム部60と、第2ダイヤフラム部70とを備えている。
【0021】
(アウターチューブ部20)
アウターチューブ部20は、アウターチューブ21と、ブッシュ22Aと、ブッシュ22Bと、シール部材23と、キャップ部24とを有している。
【0022】
アウターチューブ21は、管状の部材であり、車体側に配置されている。アウターチューブ21における車輪側の端部には、ブッシュ22Aおよびシール部材23を保持するための拡管部21Dが形成されている。
【0023】
ブッシュ22Aは、環状の部材であり、拡管部21Dの内周部に設けられている。またブッシュ22Bは、ブッシュ22Aと同様の環状の部材であり、第1フロントフォーク11Aの最伸長時にインナーチューブ31の車体側の端部付近に配されるようにアウターチューブ21に圧入されている。これにより、アウターチューブ21とインナーチューブ31とは、ブッシュ22Aおよび22Bを介して軸方向にスライド可能に接続されている。また、インナーチューブ31の外周面とアウターチューブ21の内周面とがブッシュ22Aおよび22Bを介さずに直接摺動する場合よりも、アウターチューブ21とインナーチューブ31との間に作用する摩擦抵抗を低減できる。
【0024】
シール部材23は、リング状の部材であり、拡管部21Dの内周部に取り付けられている。シール部材23は、アウターチューブ21とインナーチューブ31とによって形成される内部空間を気密にする。
【0025】
キャップ部24は、ボルト24Bと、第1シール部材24Sと、第2シール部材24Gと、第1ガス圧調整部24A1と、第2ガス圧調整部24A2と、ロッド保持部24Hとを有しており、アウターチューブ21の車体側の端部に配されている。
【0026】
ボルト24Bは、アウターチューブ21の車体側の端部において、アウターチューブ21の車体側の開口を塞いでアウターチューブ21内を気密にするように、アウターチューブ21の内側に固定される。
【0027】
第1シール部材24Sは、アウターチューブ21とボルト24Bとの間に配置されており、アウターチューブ21とボルト24Bとの隙間を封止し、アウター室R3を密封する。
【0028】
第2シール部材24Gは、ボルト24Bとロッド保持部24Hとの間に配置されており、ボルト24Bとロッド保持部24Hとの隙間を封止し、後述のロッド内室51Rを密封する。
【0029】
第1ガス圧調整部24A1および第2ガス圧調整部24A2は、ボルト24Bの外部に臨む位置に並んで取り付けられている。
図2の(a)において、第1ガス圧調整部24A1は第2ガス圧調整部24A2に隠れた位置に配置されている。第1ガス圧調整部24A1はロッド内室51Rに連通し、第2ガス圧調整部24A2はアウター室R3に連通する。第1ガス圧調整部24A1により、ロッド内室51Rの内側から外側へのガスの流出を阻止するとともに、ロッド内室51Rの封入ガス圧を調整できる。第2ガス圧調整部24A2により、アウター室R3の内側から外側へのガスの流出を阻止するとともに、アウター室R3の封入ガス圧を調整できる。なお、後述するようにロッド内室51Rは後述のバランス室R2と連通しているため、ロッド内室51Rの封入ガス圧を調整することにより、バランス室R2の封入ガス圧を調整できる。第1ガス圧調整部24A1および第2ガス圧調整部24A2には、例えばガス圧注入器の注入針が刺通できるゴム膜などを用いることができる。
【0030】
ロッド保持部24Hは、後述するロッド51を保持するための部材であり、ボルト24Bに取り付けられている。ロッド51は、ロッド保持部24Hに接続されることで、ロッド保持部24H、第1シール部材24S、および第2シール部材24Gを介してアウターチューブ21に気密に固定される。
【0031】
(インナーチューブ部30)
インナーチューブ部30は、管状の部材であるインナーチューブ31と、ボトムピース32とを有している。
【0032】
インナーチューブ31は、アウターチューブ21の内径よりも小さい外径を有するように形成されており、アウターチューブ21の内側に挿入される。これにより、インナーチューブ31は、アウターチューブ21の軸方向に沿ってアウターチューブ21に対して相対的に移動可能な状態でアウターチューブ21に接続される。また、インナーチューブ31は、車軸側の端部が、前輪14Aを回転可能に支持する車軸ブラケット部40に固定され、車体側の端部がアウターチューブ21内に挿入されている。
【0033】
インナーチューブ31における車軸側の端部近傍には、車軸ブラケット部40との接続部位を形成する雄ねじ部31Jが形成されている。また、インナーチューブ31は、車体側の端部が開口している。
【0034】
図2の(c)にも示すように、ボトムピース32は、円筒形状をなす円筒部32Cと、円筒部32Cの車軸側の端部で外周側へ張り出した鍔部32Fとを有している。ボトムピース32は、鍔部32Fの外周部分で、インナーチューブ31と車軸ブラケット部40とに挟持されている。円筒部32Cは、後述する第1ダイヤフラム61の第1固定端部61E2が固定される。鍔部32Fは、車軸ブラケット部40と当接する当接面に設けられた鍔部シール部材32Sを有している。
【0035】
(車軸ブラケット部40)
車軸ブラケット部40は、チューブ保持部41と、車軸連結部42と、ガス圧調整部43とを有しており、インナーチューブ31の車軸側に配置される。なお、本実施形態では、チューブ保持部41と車軸連結部42とは一体的に形成されている。
【0036】
チューブ保持部41は、インナーチューブ31の外径よりも大きな外径の円筒形状を有している。この円筒形状の内周面には、インナーチューブ31の雄ねじ部31Jが螺合される雌ねじ部(図示せず)が形成されている。また、チューブ保持部41は、インナーチューブ31と当接する当接面に設けられたシール部材41Sを有している。これにより、インナーチューブ31の車軸側の端部がチューブ保持部41に挿入され、チューブ保持部41とインナーチューブ31とは、シール部材41Sを介して接続される。インナーチューブ31の車軸側の端部は、ボトムピース32の鍔部シール部材32Sと、チューブ保持部41のシール部材41Sとによって密閉されている。
【0037】
車軸連結部42は、前輪14Aの車軸14S(
図1参照)が挿入される車軸孔42Hを備えている。また、車軸孔42Hの内径は、車軸ボルト45を締付けることにより変更可能であり、車軸孔42Hの内径を小さくすることによって前輪14Aの車軸14Sを締め付け可能な構成になっている。
【0038】
ガス圧調整部43は、チューブ43Tを介してインナーチューブ31内のインナー室R1と連通している。このガス圧調整部43により、インナー室R1の内側から外側へのガスの流出を阻止するとともに、インナー室R1内の封入ガスの圧力を調整できる。
【0039】
(ロッド部50)
図2の(a)および(b)に示すように、ロッド部50は、ロッド51と、ロッドガイド52と、ブッシュ53と、第1固定部材54と、第2固定部材55と、シールケース58と、カラー59とを有している。
【0040】
ロッド51は、アウターチューブ21の軸方向に沿って伸びる棒状の部材であり、アウターチューブ21およびインナーチューブ31の内側に配置されている。ロッド51は、インナーチューブ31のアウターチューブ21に対する移動に伴ってインナーチューブ31に対して軸方向に相対的に移動する。また、ロッド51の内部には、軸方向に延伸するロッド内室51R(空間部)が形成されている。すなわち、ロッド51は中空状に形成されている。
【0041】
ロッド51の車体側の端部には、車体側雄ねじ部51P(第1端部)が形成されている。ロッド51は、この車体側雄ねじ部51Pをロッド保持部24Hに形成された雌ねじ部(図示せず)に接続することにより、ロッド保持部24Hを介してアウターチューブ21に固定されている。これにより、ロッド51は、アウターチューブ21における車体側の端部に固定されている。
【0042】
ロッド51の車軸側の端部には、第1固定部材54を取り付けるための車軸側雄ねじ部51J(第2端部)が形成されている。これにより、ロッド51は、車軸側雄ねじ部51Jに取り付けられた第1固定部材54を車軸側の端部で保持する。また、ロッド51における車軸側の端部近傍には、ロッド51の内部のロッド内室51Rとロッド51の外部とを連通させる孔部51Hが複数設けられている。これにより、ロッド内室51Rは、孔部51Hを介して、後述するカラー59の内側とロッド51の外周面とで形成される空間と連通している。
【0043】
ロッドガイド52は、インナーチューブ31内に配されており、インナーチューブ31の車体側の端部近傍に取り付けられている。ロッドガイド52は、軸方向に貫通する貫通孔52Hを有しており、貫通孔52Hの内径は、ロッド51の外径よりも大きい。ロッド51は、貫通孔52Hを貫通するようにロッドガイド52に挿入されており、ロッドガイド52によってロッド51の軸方向にスライド可能に支持されている。
【0044】
シールケース58は、貫通孔52Hに配置されており、ロッド51に対して摺接する摺接面と、ロッドガイド52の内周面と接触する接触面とを有している。シールケース58は、上記摺接面とロッド51の外周面との間を密封する2つのロッド側シール部材58S1と、上記接触面とロッドガイド52の内周面との間を密封するロッドガイド側シール部材58S2とが小組されている。また、シールケース58は、ストッパー58STでロッドガイド52にねじ止め等により固定されている。これにより、バランス室R2とアウター室R3とが区画される。
【0045】
カラー59は、ロッド51のインナーチューブ31に対する車体側への移動を所定の位置で規制する部材であり、ストッパー58STと第1固定部材54との間に設けられている。カラー59は、小径筒部59Sと、小径筒部59Sより大きい内径を有する大径筒部59Lとを有している。小径筒部59Sは、ストッパー58ST側に設けられており、小径筒部59Sの内周面でロッド51の外周面に固定されている。大径筒部59Lは、第1固定部材54側に設けられており、大径筒部59Lの内周面とロッド51の外周面との間は離れている。大径筒部59Lの端部は、第1固定部材54に固定されている。また、大径筒部59Lには、大径筒部59Lの内周面とロッド51の外周面との間の空間と、カラー59の外部、すなわち後述する第2ダイヤフラム71の内部とを連通する連通孔59Hが複数設けられている。これにより、ロッド内室51Rは、カラー59の内側とロッド51の外周面とで形成される空間と、カラー59の連通孔59Hとを介して、第2ダイヤフラム71の内部空間と連通している。
【0046】
ロッドガイド52は、車体側に伸びる筒状部52Cを有しており、筒状部52Cは、インナーチューブ31の車体側の端部にねじ止め等により固定されている。筒状部52Cは、アウターチューブ21の内周面に対して摺接する摺接面に設けられた外側シール部材52Sとインナーチューブ31の内周面に対して摺接する摺接面に設けられた内側シール部材52Gとを有している。これにより、ロッドガイド52とインナーチューブ31との間の空間は内側シール部材52Gによって封止される。また、ロッドガイド52とアウターチューブ21との間の空間は外側シール部材52Sによって封止される。
【0047】
ブッシュ53は、貫通孔52Hに取り付けられ、ロッド51とロッドガイド52との間の摩擦抵抗を低減する。また、ブッシュ53は、ロッド51とロッドガイド52との間の摺動をガイドする。
【0048】
第1固定部材54は、後述する第2ダイヤフラム71の車軸側の端部が固定される部材であり、ロッド51の車軸側雄ねじ部51Jに接続されている。第1固定部材54は、ロッド51の外径よりも大きい外径を有すると共に、ロッド51の車軸側の端部からアウターチューブ21における拡管部21Dの付近まで達する長さを有している。
【0049】
第2固定部材55は、後述する第1ダイヤフラム61の車体側の端部が固定される部材である。第2固定部材55は、有低の円筒形状をなしており、第1固定部材54の平坦な車軸側の先端部に固定されている。
【0050】
(第1ダイヤフラム部60)
第1ダイヤフラム部60は、第1ダイヤフラム61と、第1かしめバンド62と、第2かしめバンド63とを有している。
【0051】
第1ダイヤフラム61は、筒状の部材であり、両端が開口している。第1ダイヤフラム61は、可撓性を有するようにゴム等の可撓性材料によって形成されている。また、第1ダイヤフラム61は、インナーチューブ31内の車軸側に配置されている。また、第1ダイヤフラム61の外周面の一部は、インナーチューブ31の内周面と接している。
【0052】
第1ダイヤフラム61の車体側の端部(第1端部)である第1可動端部61E1は、第1ダイヤフラム61の内側に曲げられ、かつ第1可動端部61E1の外周面が第2固定部材55の外周面に当接した状態で、第1可動端部61E1の内周面側に第1かしめバンド62が巻き付けられることによって、第2固定部材55に固定される。
【0053】
第1ダイヤフラム61の車軸側の端部(第2端部)である第1固定端部61E2は、第1ダイヤフラム61の本体部分より小さい外径となるように形成されている。この第1固定端部61E2は、第1固定端部61E2の内周面がボトムピース32の外周面に当接した状態で、第1固定端部61E2の外周面側に第2かしめバンド63が巻き付けられることによって、ボトムピース32に固定される。
【0054】
第1ダイヤフラム61の内部は、第1可動端部61E1が第2固定部材55に気密状態で固定される共に、第1固定端部61E2がボトムピース32に気密状態で固定されることにより、外部に対して気密状態に保たれている。
【0055】
(第2ダイヤフラム部70)
第2ダイヤフラム部70は、第2ダイヤフラム71と、第3かしめバンド72と、第4かしめバンド73とを有している。
【0056】
第2ダイヤフラム71は、筒状の部材であり、両端が開口している。第2ダイヤフラム71は、可撓性を有するようにゴム等の可撓性材料によって形成されている。また、第2ダイヤフラム71は、インナーチューブ31内の第1ダイヤフラム61よりも車体側に配置されている。また、第2ダイヤフラム71の外周面の一部は、インナーチューブ31の内周面と接している。
【0057】
第2ダイヤフラム71の車軸側の端部(第1端部)である第2可動端部71E1は、第2ダイヤフラム71の内側に曲げられ、かつ第2可動端部71E1の外周面が第1固定部材54における車体側の端部の外周面に当接した状態で、第2可動端部71E1の内周面側に第3かしめバンド72が巻き付けられることによって、第1固定部材54に固定される。
【0058】
第2ダイヤフラム71の車体側の端部(第2端部)である第2固定端部71E2は、第2ダイヤフラム71の本体部分より小さい外径となるように形成されている。この第2固定端部71E2は、第2固定端部71E2の内周面がロッドガイド52における車軸側の端部の外周面に当接した状態で、第2固定端部71E2の外周面側に第4かしめバンド73が巻き付けられることによって、ロッドガイド52に固定される。すなわち、第2固定端部71E2は、ロッドガイド52を介して間接的にインナーチューブ31に固定されている。
【0059】
第2ダイヤフラム71の内部は、第2可動端部71E1が第1固定部材54に気密状態で固定される共に、第2固定端部71E2がロッドガイド52に気密状態で固定されることにより、外部に対して気密状態に保たれている。
【0060】
(気体ばね室)
本実施形態では、上述のように、第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71によって、インナーチューブ31内の空間が区画されている。具体的には、インナーチューブ31内における第2ダイヤフラム71内の領域と、当該領域と孔51Hを介して連通するロッド内室51Rとが、第2気体ばね室としてのバランス室R2となる。また、第1ダイヤフラム61と、ボトムピース32と、第2固定部材55とで形成される密閉空間が、第1気体ばね室としてのインナー室R1となる。
【0061】
また、本実施形態では、インナーチューブ31内におけるロッド51の外部であって、ロッドガイド52(筒状部52C)よりも車体側(アウターチューブ21側)に、気体ばね室としてのアウター室R3が形成される。つまり、アウター室R3は、アウターチューブ21内における車体側の端部(キャップ部24)からロッドガイド52の筒状部52C内の領域に形成されている。
【0062】
〈第1フロントフォーク11Aの動作〉
(圧側行程)
図3は、第1フロントフォーク11Aの圧縮状態を示す部分拡大断面図である。
【0063】
第1フロントフォーク11Aの圧側行程においては、
図3に示すように、アウターチューブ21とインナーチューブ31とが軸方向に沿って相対的に近づく方向に移動する。一方、ロッドガイド52と第1固定部材54および第2固定部材55とは、軸方向に沿って相対的に遠ざかる方向に移動する。すなわち、第1固定部材54および第2固定部材55はインナーチューブ31内を車軸側に向けて相対的に移動し、ロッドガイド52はインナーチューブ31と共にアウターチューブ21内を車体側に向けて相対的に移動する。
【0064】
第1固定部材54および第2固定部材55の相対移動により、第1可動端部61E1が第1ダイヤフラム61の内側に押し込まれると、第1ダイヤフラム61は、第1固定部材54の外周面に沿って内側に曲げられる部分が長くなる。この結果、第1ダイヤフラム61内の容積が減少することで、インナー室R1内の空気が圧縮される。それゆえ、インナー室R1が空気ばねとして作用し、アウターチューブ21とインナーチューブ31とを互いに遠ざける方向の反力が発生する。
【0065】
一方、第1固定部材54および第2固定部材55の相対移動により、第2可動端部71E1が第2ダイヤフラム71の内側から引き出されると、第2ダイヤフラム71は、第1固定部材54の外周面に沿って内側に曲げられる部分が短くなる。この結果、第2ダイヤフラム71内の容積が増加する。
【0066】
また、ロッドガイド52が車体側へ相対移動することにより、アウター室R3の容積が減少することでアウター室R3内の空気が圧縮される。これにより、アウター室R3が空気ばねとして作用し、アウター室R3においてもインナー室R1と同様、アウターチューブ21とインナーチューブ31とを互いに遠ざける方向の反力が発生する。
【0067】
(伸側行程)
第1フロントフォーク11Aの伸側行程においては、
図2の(a)に示すように、アウターチューブ21とインナーチューブ31とが軸方向に沿って相対的に遠ざかる方向に移動する。一方、ロッドガイド52と第1固定部材54および第2固定部材55とは、軸方向に沿って相対的に近づく方向に移動する。すなわち、第1固定部材54および第2固定部材55はインナーチューブ31内を車体側に向けて相対的に移動し、ロッドガイド52はインナーチューブ31と共にアウターチューブ21内を車軸側に向けて相対的に移動する。この状態では、
図2の(b)に示すように、カラー59の小径筒部59Sにおける車体側の端部がロッドガイド52に当接するので、ロッド51がこれ以上車体側に移動できない。
【0068】
第1固定部材54および第2固定部材55の相対移動により、第2可動端部71E1が第2ダイヤフラム71の内側に押し込まれると、第2ダイヤフラム71は、第1固定部材54の外周面に沿って折り返される部分が長くなる。この結果、第2ダイヤフラム71内の容積が減少することで、バランス室R2内の空気が圧縮される。それゆえ、バランス室R2が空気ばねとして作用し、アウターチューブ21とインナーチューブ31とを互いに近づける方向の反力が発生する。
【0069】
一方、第1固定部材54および第2固定部材55の相対移動により、第1可動端部61E1が第1ダイヤフラム61の内側から引き出されると、第1ダイヤフラム61は、第1固定部材54の外周面に沿って折り返される部分が短くなる。この結果、第1ダイヤフラム61内の容積が増加する。
【0070】
以上のように、本実施形態にかかる第1フロントフォーク(懸架装置)11Aは、車体側に設けられたアウターチューブ21と、車軸側に設けられると共に、アウターチューブ21に対して摺動可能に挿入されたインナーチューブ31と、アウターチューブ21に固定された車体側雄ねじ部51Pを有すると共に、インナーチューブ31に挿入された車軸側雄ねじ部51Jを有するロッド51と、インナーチューブ31内において車軸側雄ねじ部51Jよりも車体側に設けられ、ロッド51が貫通するロッドガイド52と、可撓性を有すると共に、インナーチューブ31内に配された第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71とを備えている。また、第1ダイヤフラム61の第1可動端部61E1が、第1ダイヤフラム61の内側に曲げられた状態でロッド51の車軸側雄ねじ部51Jに対して第1固定部材54および第2固定部材55を介して固定されると共に、第1ダイヤフラム61の第1固定端部61E2がインナーチューブ31の車軸側で固定されることにより第1ダイヤフラム61の内側にインナー室R1が空気ばね室として形成されている。また、第2ダイヤフラム71の第2可動端部71E1が、第2ダイヤフラム71の内側に曲げられた状態で第1ダイヤフラム61よりも車体側においてロッド51の車軸側雄ねじ部51Jに対して第1固定部材54を介して固定されると共に、第2ダイヤフラム71の第2固定端部71E2がロッドガイド52に固定されることにより第2ダイヤフラム71の内側にバランス室R2が空気ばね室として形成されている。
【0071】
上記の構成によれば、第1ダイヤフラム61の第1可動端部61E1および第1固定端部61E2を固定することで密閉した気体ばね室を形成し、第2ダイヤフラム71の第2可動端部71E1および第2固定端部71E2を固定することで密閉した気体ばね室を形成している。これにより、2つの気体ばね室が区画されるので、従来のフロントフォークのように、シリンダに摺接するシール部材によって2つの気体ばね室を区画する必要がない。
【0072】
上記のシール部材が不要になるので、シール部材が高圧でシリンダに摺接するという不都合が生じることもない。これにより、シール部材がシリンダに張り付くことも無くなり、シール部材の張り付きによる摩擦が発生しない。また、気体ばね室に摺接部分が無いので、気体ばね室から気体が漏れることはなく、気体ばね室の気密性を高めることができる。
【0073】
また、第1フロントフォーク11Aは、ロッドの車軸側雄ねじ部51Jに設けられ、ロッド51の外径よりも大きい外径を有する部分を少なくとも含み、第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71の内側に曲げられた部分に当接する外周面を有する第1固定部材54を有している。
【0074】
第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71の内側に曲げられた部分は、第1固定部材54(当接部材)に当接することにより、第1固定部材54の外径に応じて内径が変わる。これに応じて、インナー室R1およびバランス室R2の容積も変化するので、インナー室R1およびバランス室R2の反力を調整することができる。
【0075】
また、ロッド部50は、第1ダイヤフラム61の第1可動端部61E1を固定する第2固定部材55を有している。また、第2固定部材55は第1固定部材54(固定部材)に固定されている。また、第2ダイヤフラム71の第2可動端部71E1は第1固定部材54に固定されている。
【0076】
これにより、第1ダイヤフラム61の第1可動端部61E1を第2固定部材55に一旦固定してから、第2固定部材55を第1固定部材54に固定する。それゆえ、第1ダイヤフラム61の第1可動端部61E1を第1固定部材54に直接固定するよりも、第1ダイヤフラム61の第1固定部材54への組み付けを容易にすることができる。
【0077】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について
図4を参照して説明する。なお、本実施形態において実施形態1における構成部材と同等の機能を有する構成部材については、同一の符号を付記して、その説明を省略する。
【0078】
図4は、実施形態2に係る第1フロントフォーク11Aにおける第3固定部材56を中心に拡大して示す断面図である。
【0079】
本実施形態の第1フロントフォーク11Aでは、
図4に示すように、ロッド部50が、前述の第1固定部材54に代えて、第3固定部材56(当接部材)を有している。
【0080】
〈第3固定部材56〉
第3固定部材56は、第2ダイヤフラム71が固定される部材である。第3固定部材56は、ロッド51の端部からアウターチューブ21における拡管部21Dの付近まで達する長さを有している。また、第3固定部材56は、第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71の内側に曲げられた部分が当接する外周面の外径が、第3固定部材56の軸方向に沿って異なるように形成されている。具体的には、第3固定部材56は、ロッド51の車軸側雄ねじ部51Jに取り付けられる側(車体側)の最も大きい外径を有する大径部56Lと、大径部56Lよりも車軸側で最も小さい外径を有する小径部56Sとを含んでいる。軸方向に沿った大径部56Lと小径部56Sとの間の部分は、外周面が滑らかに変化するように形成されるように、外径が異なっている。
【0081】
〈第2ダイヤフラム71〉
第2ダイヤフラム71の第2固定端部71E2は、実施形態1と同様、第4かしめバンド73によってロッドガイド52に固定されている。第2ダイヤフラム71の第2可動端部71E1は、第2ダイヤフラム71の内側に曲げられ、かつ第2可動端部71E1の外周面が第3固定部材56における大径部56Lの外周面に当接した状態で、第2可動端部71E1の内周面側で第3かしめバンド72が巻き付けられることによって、第3固定部材56に固定される。
【0082】
〈第3固定部材56による反力の調整〉
伸側行程では、第3固定部材56はインナーチューブ31内を車体側に向けて相対的に移動し、ロッドガイド52はアウターチューブ21内を車軸側に向けて相対的に移動する。第3固定部材56の相対移動により、
図4に示すように、第2可動端部71E1が第2ダイヤフラム71の内側に押し込まれると、第2ダイヤフラム71は、第3固定部材56の外周面に沿って内側に曲げられた部分(第3固定部材56の外周面に当接する部分)が長くなる。この結果、第2ダイヤフラム71内の容積が減少することで、バランス室R2内の空気が圧縮される。それゆえ、バランス室R2が空気ばねとして作用し、アウターチューブ21とインナーチューブ31とを収縮させる方向の反力が発生する。
【0083】
一方、圧側行程では、第3固定部材56の伸側行程とは逆方向の相対移動により、図示はしないが、第1可動端部61E1が第1ダイヤフラム61の内側に押し込まれると、第1ダイヤフラム61は、第3固定部材56の外周面に沿って内側に曲げられた部分(第3固定部材56の外周面に当接する部分)が長くなる。この結果、第1ダイヤフラム61内の容積が減少することで、インナー室R1内の空気が圧縮される。それゆえ、バランス室R2が空気ばねとして作用し、アウターチューブ21とインナーチューブ31とを伸長させる方向の反力が発生する。
【0084】
ここで、第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71の曲げられた部分が小径部56Sの外周面に位置している状態では、それぞれ第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71内の容積が第1固定部材54を用いた場合と比べて大きくなる。したがって、インナー室R1およびバランス室R2の反力を実施形態1の第1固定部材54を用いた場合と比べて小さくすることができる。
【0085】
また、第3固定部材56の外径が第3固定部材56の軸方向に沿って異なるように形成されているので、第1フロントフォーク11Aのストロークに応じた反力特性を得ることができる。特に、小径部56Sの位置や外径を変えることにより、第1ダイヤフラム61および第2ダイヤフラム71内の容積を所望に設定することができる。よって、第1フロントフォーク11Aのストロークに応じて、インナー室R1およびバランス室R2の反力を調整することができる。
【0086】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について
図5を参照して説明する。なお、本実施形態においても実施形態1における構成部材と同等の機能を有する構成部材については、同一の符号を付記して、その説明を省略する。
【0087】
図5は、本実施形態に係る第1フロントフォーク11Aを示す部分拡大断面図である。
【0088】
本実施形態の第1フロントフォーク11Aでは、
図5に示すように、ロッド部50が、前述の第1固定部材54に代えて、第4固定部材57(当接部材)を有している。
【0089】
第4固定部材57は、実施形態1の第1固定部材54と同様、第2ダイヤフラム71が固定される部材であり、ロッド51の車軸側雄ねじ部51Jに接続されている。第4固定部材57は、第1固定部材54と同様の外観形状をなしている。また、第4固定部材57の内部には、ロッド51のロッド内室51Rと同じ内径を有し、かつロッド内室51Rと通じる空洞部57Hが第4固定部材57の先端部付近まで形成されている。
【0090】
本実施形態では、ロッド51は、内部にロッド51のバランス室R2と連通するロッド内室51Rを有している。これにより、第1フロントフォーク11Aのサイズを増大させることなくバランス室R2の容積を増加することができる。また、第4固定部材57は、内部にロッド内室51Rと連通する空洞部57Hを有している。これにより、バランス室R2が空洞部57Hにまで拡張されるので、さらにバランス室R2の容積を増加することができる。
【0091】
なお、上記の構造は、前述の実施形態2にも適用できる。すなわち、
図4に示す第3固定部材56の内部にも、ロッド51のロッド内室51Rと同じ内径を有し、かつロッド内室51Rと通じる空洞部が形成されていてもよい。また、空洞部57Hの形状は、
図5に示した形状に限定されず、どのような形状であってもよい。
【0092】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。