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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-181235(P2017-181235A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】モータシステム
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20170908BHJP
   H02K 11/215 20160101ALI20170908BHJP
   H02K 11/22 20160101ALI20170908BHJP
   H02K 11/225 20160101ALI20170908BHJP
   H02K 7/106 20060101ALI20170908BHJP
   B25J 19/02 20060101ALN20170908BHJP
【FI】
   G01D5/244 E
   H02K11/215
   H02K11/22
   H02K11/225
   H02K7/106
   B25J19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-67279(P2016-67279)
(22)【出願日】2016年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】小田切 秀行
(72)【発明者】
【氏名】常田 晴弘
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 優
(72)【発明者】
【氏名】矢沢 駿弥
【テーマコード(参考)】
2F077
3C707
5H607
5H611
【Fターム(参考)】
2F077AA28
2F077AA30
2F077CC02
2F077DD26
2F077JJ02
2F077JJ07
2F077JJ23
2F077NN02
2F077NN27
2F077PP19
2F077QQ03
2F077QQ11
2F077TT66
3C707HS27
3C707HT40
3C707KV01
5H607AA17
5H607BB01
5H607BB05
5H607BB14
5H607DD03
5H607EE08
5H607GG08
5H607HH01
5H607HH08
5H607HH09
5H611AA01
5H611BB01
5H611BB04
5H611PP05
5H611QQ03
5H611RR01
5H611RR02
5H611RR04
5H611TT01
(57)【要約】
【課題】モータの停止中、多回転アブソリュート形エンコーダの駆動を停止しても、起動後、回転軸の多回転位置を検出することのできるモータシステムを提供すること。
【解決手段】モータシステム1は、モータ1aと、モータ1aの回転軸の回転数および絶対角度位置を検出する多回転アブソリュート形エンコーダ4とを有している。多回転アブソリュート形エンコーダ4は、回転軸の1回転周期内における絶対角度位置を検出する絶対角度位置検出装置5と、モータ1aの回転数を記憶しておく記憶素子8を有している。従って、多回転アブソリュート形エンコーダ4は、回転軸の多回転位置を検出することができる。また、モータ1aは、回転軸と一体に回転する歯車型ブレーキホイール、歯車型ブレーキホイールの歯と係合可能な係合部材、および制動時に歯と前記係合部材とを係合させるアクチュエータを備えたブレーキ機構3を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転軸の回転数および絶対角度位置を検出する多回転アブソリュート形エンコーダと、
を有し、
前記多回転アブソリュート形エンコーダは、前記回転軸の1回転周期内における絶対角度位置を検出する絶対角度位置検出装置と、前記モータの回転数を記憶しておく記憶素子と、を有し、
前記モータは、前記回転軸と一体に回転する歯車型ブレーキホイール、前記歯車型ブレーキホイールの歯と係合可能な係合部材、および制動時に前記歯と前記係合部材とを係合させるアクチュエータを備えたブレーキ機構を有していることを特徴とするモータシステム。
【請求項2】
前記記憶素子は、不揮発性メモリであることを特徴とする請求項1に記載のモータシステム。
【請求項3】
前記絶対角度位置検出装置は、インクリメンタル形エンコーダと、前記インクリメンタル形エンコーダより分解能が低い絶対位置エンコーダと、を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のモータシステム。
【請求項4】
前記絶対位置エンコーダは、磁極が周方向に配置された永久磁石と、前記永久磁石と対向する磁気センサ素子と、を有し、
前記永久磁石は、前記回転軸と一体に回転することを特徴とする請求項3に記載のモータシステム。
【請求項5】
前記永久磁石は、前記歯車型ブレーキホイールに設けられていることを特徴とする請求項4に記載のモータシステム。
【請求項6】
前記磁気センサ素子は、ホール素子であることを特徴とする請求項5に記載のモータシステム。
【請求項7】
前記インクリメンタル形エンコーダは、光学式エンコーダ、磁気式エンコーダまたはレゾルバであることを特徴とする請求項3乃至6の何れか一項に記載のモータシステム。
【請求項8】
前記多回転アブソリュート形エンコーダは、
前記モータを起動した際、前記回転軸が前回停止した際に前記絶対位置エンコーダから出力された停止時出力値と、前記モータを起動した際に前記絶対位置エンコーダから出力された起動時出力値とを比較し、
前記停止時出力値と前記起動時出力値とが等しい場合には、前記記憶素子から読み出した前記回転数を、前記モータを起動した時点での前記回転軸の回転数とし、
前記停止時出力値と前記起動時出力値とが相違する場合には、前記記憶素子から読み出した前記回転数を補正した回転数を、前記モータを起動した時点での前記回転軸の回転数とすることを特徴とする請求項3乃至7の何れか一項に記載のモータシステム。
【請求項9】
前記多回転アブソリュート形エンコーダは、
前記モータを起動した際に前記停止時出力値と前記起動時出力値とが相違する場合には、前記記憶素子から読み出した前記回転数、前記回転数から1回を減じた回転数、前記回転数に1回を加えた回転数の各々において、前記絶対位置エンコーダでの検出値と絶対角度位置との関係に前記起動時出力値を内挿して得た3つの絶対角度位置を停止時の絶対角
度位置と比較し、
前記3つの絶対角度位置のうち、前記停止時の絶対角度位置に最も近い絶対角度位置に対応する回転数を、前記モータを起動した時点での前記回転軸の回転数とすることを特徴とする請求項8に記載のモータシステム。
【請求項10】
前記インクリメンタル形エンコーダは、前記絶対位置エンコーダの分解能に対応する周期でインデックス信号を出力し、
前記多回転アブソリュート形エンコーダでは、前記インデックス信号に基づいて前記インクリメンタル形エンコーダの検出結果を補正することを特徴とする請求項3乃至9の何れか一項に記載のモータシステム。
【請求項11】
前記歯車型ブレーキホイールにおいて、前記歯は、前記絶対位置エンコーダからの出力の変化点と一致していることを特徴とする請求項3乃至10の何れか一項に記載のモータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転軸の回転数および絶対角度位置を検出可能なモータシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットの関節等に用いられるモータでは、起動時の原点復帰を不要とすることを目的に、磁気スケールが形成されたドラム、磁気センサ素子、およびカウンタ等を備えた多回転アブソリュート形エンコーダを設けることがある。この場合、電池によって多回転アブソリュート形エンコーダをバックアップして、停止期間中も多回転位置を検出するとともに、検出結果を保持する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−258099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成のように、電池によって多回転アブソリュート形エンコーダをバックアップする構成では、電池の消費電流が大きいため、電池を定期的に交換する必要がある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、モータの停止中、多回転アブソリュート形エンコーダの駆動を停止しても、起動後、回転軸の多回転位置を検出することのできるモータシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るモータシステムは、モータと、前記モータの回転軸の回転数および絶対角度位置を検出する多回転アブソリュート形エンコーダと、を有し、前記多回転アブソリュート形エンコーダは、前記回転軸の1回転周期内における絶対角度位置を検出する絶対角度位置検出装置と、前記モータの回転数を記憶しておく記憶素子と、を有し、前記モータは、前記回転軸と一体に回転する歯車型ブレーキホイール、前記歯車型ブレーキホイールの歯と係合可能な係合部材、および制動時に前記歯と前記係合部材とを係合させるアクチュエータを備えたブレーキ機構を有していることを特徴とする。
【0007】
本発明において、多回転アブソリュート形エンコーダは、回転軸の1回転周期内における絶対角度位置を検出する絶対角度位置検出装置と、モータの回転数を記憶しておく記憶素子とを備えているため、記憶素子によって記憶されているモータの回転数、および絶対角度位置検出装置による回転軸の1回転周期内における絶対角度位置に基づいて、回転軸の多回転位置(回転軸の回転数および絶対角度位置)を検出することができる。また、記憶素子によってモータの回転数が記憶されているため、モータの停止中、絶対角度位置検出装置を駆動しなくても、モータを起動した際の回転軸の多回転位置を検出することができる。さらに、ブレーキ機構では、歯車型ブレーキホイールの歯に係合部材が係合するため、停止中、回転軸の回転が阻止される。このため、モータの回転数が、停止以降、記憶素子によって記憶されているモータの回転数から変動しない。従って、モータの停止中、絶対角度位置検出装置を駆動しなくても、モータを起動した際の回転軸の多回転位置を検出することができる。また、モータの停止中、記憶素子に回転軸の回転数を記憶させてお
けばよいので、バックアップ用電池の寿命が長い。また、記憶素子が不揮発性メモリであれば、記憶素子のバックアップ用電池が不要である。
【0008】
本発明において、前記記憶素子は、不揮発性メモリであることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記絶対角度位置検出装置は、インクリメンタル形エンコーダと、前記インクリメンタル形エンコーダより分解能が低い絶対位置エンコーダと、を有している態様を採用することができる。かかる構成によれば、安価な構成で分解能が高い絶対角度位置検出装置を構成することができる。
【0010】
本発明において、前記絶対位置エンコーダは、磁極が周方向に配置された永久磁石と、前記永久磁石と対向する磁気センサ素子と、を有し、前記永久磁石は、前記回転軸と一体に回転する態様を採用することができる。この場合、前記永久磁石は、前記歯車型ブレーキホイールに設けられている態様を採用することができる。かかる構成によれば、モータを駆動するための駆動信号を生成するための永久磁石および磁気センサ素子を利用して、絶対位置エンコーダを構成することができる。
【0011】
本発明において、前記永久磁石は、前記歯車型ブレーキホイールに設けられている態様を採用することができる。
【0012】
本発明において、前記磁気センサ素子は、ホール素子である態様を採用することができる。
【0013】
本発明において、前記インクリメンタル形エンコーダは、光学式エンコーダ、磁気式エンコーダまたはレゾルバである態様を採用することができる。
【0014】
本発明において、前記多回転アブソリュート形エンコーダは、前記モータを起動した際、前記回転軸が前回停止した際に前記絶対位置エンコーダから出力された停止時出力値と、前記モータを起動した際に前記絶対位置エンコーダから出力された起動時出力値とを比較し、前記停止時出力値と前記起動時出力値とが等しい場合には、前記記憶素子から読み出した前記回転数を、前記モータを起動した時点での前記回転軸の回転数とし、前記停止時出力値と前記起動時出力値とが相違する場合には、前記記憶素子から読み出した前記回転数を補正した回転数を、前記モータを起動した時点での前記回転軸の回転数とする態様を採用することができる。かかる構成によれば、回転数が切り替わる付近で回転軸が停止しようとした際に、回転軸が多少回転した場合でも、モータを起動した際の回転軸の多回転位置を検出することができる。
【0015】
本発明において、前記多回転アブソリュート形エンコーダは、前記モータを起動した際に前記停止時出力値と前記起動時出力値とが相違する場合には、前記記憶素子から読み出した前記回転数、前記回転数から1回を減じた回転数、および前記回転数に1回を加えた回転数の各々において、前記絶対位置エンコーダでの検出値と絶対角度位置との関係に前記起動時出力値を内挿して得た3つの絶対角度位置を停止時の絶対角度位置と比較し、前記3つの絶対角度位置のうち、前記停止時の絶対角度位置に最も近い絶対角度位置に対応する回転数を、前記モータを起動した時点での前記回転軸の回転数とする態様を採用することができる。
【0016】
本発明において、前記インクリメンタル形エンコーダは、前記絶対位置エンコーダの分解能に対応する周期でインデックス信号を出力し、前記多回転アブソリュート形エンコーダは、前記インデックス信号に基づいて前記インクリメンタル形エンコーダの検出結果を補正する態様を採用することができる。かかる構成によれば、停止中に回転軸が多少ずれ
ても、簡単な処理で回転軸の位置を正確な位置に補正することができる。
【0017】
本発明において、前記歯車型ブレーキホイールにおいて、前記歯は、前記絶対位置エンコーダからの出力の変化点と一致している態様を採用することができる。かかる構成によれば、絶対位置エンコーダからの出力の変化点と一致する角度位置で回転軸が停止することになり、回転数が変動するような個所でモータが停止することを回避することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、多回転アブソリュート形エンコーダは、回転軸の1回転周期内における絶対角度位置を検出する絶対角度位置検出装置と、モータの回転数を記憶しておく記憶素子とを備えているため、記憶素子によって記憶されているモータの回転数、および絶対角度位置検出装置による回転軸の1回転周期内における絶対角度位置に基づいて、回転軸の多回転位置(回転軸の回転数および絶対角度位置)を検出することができる。また、記憶素子によってモータの回転数が記憶されているため、モータの停止中、絶対角度位置検出装置を駆動しなくても、モータを起動した際の回転軸の多回転位置を検出することができる。さらに、ブレーキ機構では、歯車型ブレーキホイールの歯に係合部材が係合するため、停止中、回転軸の回転が阻止される。このため、モータの回転数が、停止以降、記憶素子によって記憶されているモータの回転数から変動しない。従って、モータの停止中、絶対角度位置検出装置を駆動しなくても、モータを起動した際の回転軸の多回転位置を検出することができる。また、モータの停止中、記憶素子に回転軸の回転数を記憶させておけばよいので、バックアップ用電池の寿命が長い。また、記憶素子が不揮発性メモリであれば、記憶素子のバックアップ用電池が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用したモータシステムの断面図である。
図2図1に示すモータシステムのブロック図である。
図3図1に示すモータシステムのブレーキ機構に用いた歯車型ブレーキボイールの説明図である。
図4図1に示すモータシステムに用いた絶対角度エンコーダの説明図である。
図5図4に示す絶対位置エンコーダで得られる出力の説明図である。
図6図1に示すモータシステムでの絶対角度位置の決定方法の具体的構成を示す説明図である。
図7】本発明を適用したモータシステムにおける歯車型ブレーキホイールの歯と絶対位置エンコーダからの出力との関係を示す説明図である。
図8図1に示すモータシステムにおける起動時の回転数に対する補正方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(全体構成)
図1は、本発明を適用したモータシステムの断面図である。図2は、図1に示すモータシステムのブロック図である。図3は、図1に示すモータシステムのブレーキ機構に用いた歯車型ブレーキボイールの説明図である。図4は、図1に示すモータシステムに用いた絶対角度エンコーダの説明図である。
【0021】
図1に示すように、本発明を適用したモータシステム1は、ステータ21、ロータ22、軸受23、減速機24およびケース25等を備えたモータ1aと、モータ1aの停止時にモータ1aの回転軸26を停止した状態に保持するブレーキ機構3と、回転軸26の回転数および絶対角度位置を検出する多回転アブソリュート形エンコーダ4とを有している。
【0022】
図2に示すように、本形態のモータシステム1において、多回転アブソリュート形エンコーダ4は、回転軸26の1回転周期内における絶対角度位置を検出する絶対角度位置検出装置5と、回転軸26の回転数を記憶しておく記憶素子8と、絶対角度位置検出装置5での検出結果および回転軸26の回転数に基づいて、回転軸26の多回転位置の算出等を行う制御部9とを有している。制御部9は、ROMやRAM等に格納されているプログラムに基づいて動作するマイクロコンピュータを備えており、回転軸26の多回転位置の算出等を行うエンコーダ制御部91、ブレーキ機構3の制御等を行うブレーキ制御部97、およびモータ1aの制御等を行うモータ制御部98等を備えている。エンコーダ制御部91は、回転軸26の多回転位置の算出を行うための計数等を行う計数部92や、後述する補正を行う第1補正部93および第2補正部94を有している。本形態において、記憶素子8は不揮発性メモリである。
【0023】
本形態において、多回転アブソリュート形エンコーダ4の絶対角度位置検出装置5は、インクリメンタル形エンコーダ6と、インクリメンタル形エンコーダ6より分解能が低い絶対位置エンコーダ7とを有している。
【0024】
インクリメンタル形エンコーダ6は、例えば、光学式エンコーダであり、詳細な図示は省略するが、光学パターンが書き込まれたディスク60(図1参照)が回転すると、A相用のスリットおよびB相用のスリットを通る光が遮断、透過し、各々のスリットに対向する受光素子で受光される。かかる受光素子によって、インクリメンタルデータが生成される。また、光学式エンコーダでは、ディスクの回転に伴って、Z相用のスリットを通る光が遮断、透過し、Z相用のスリットに対向する受光素子で受光され、インデックス信号が生成される。絶対位置エンコーダ7は、図4を参照して後述するように、磁気式のエンコーダである。
【0025】
(ブレーキ機構3の構成)
図3は、図1に示すブレーキ機構3に用いた歯車型ブレーキホイール31の説明図である。図4は、図3に歯車型ブレーキホイール31を利用して構成した絶対位置エンコーダ7の説明図である。
【0026】
図3および図4に示すように、ブレーキ機構3は、外周部に歯310が等角度間隔に形成された円盤からなる歯車型ブレーキホイール31と、歯車型ブレーキホイール31の歯310と係合可能な係合部材32と、係合部材32を駆動するアクチュエータ33とを備えている。アクチュエータ33は、回転軸26の制動時に係合部材32を駆動して歯310と係合部材32とを係合させて回転軸26を停止した状態に保持し、回転軸26の回転時には、歯310と係合する位置から係合部材32を退避させる。
【0027】
(絶対位置エンコーダ7の構成)
図5は、図4に示す絶対位置エンコーダ7で得られる出力の説明図である。図3および図4に示すように、絶対位置エンコーダ7は、磁極N、Sが周方向に配置された永久磁石70と、永久磁石70と対向する磁気センサ素子75とを有しており、永久磁石70は、回転軸26と一体に回転する。本形態において、永久磁石70は、歯車型ブレーキホイール31に設けられていることにより、回転軸26と一体に回転する。
【0028】
永久磁石70は、歯車型ブレーキホイール31の軸線方向(回転軸26の軸線方向)の一方の端面の外周部分で周方向に延在するように設けられている。ここで、永久磁石70は、径方向内側に位置する第1トラックT1と、径方向外側で第1トラックT1と並列する第2トラックT2とを有している。第1トラックT1では、N極およびS極が等角度範囲に1極ずつ、計2極形成されている。第2トラックT2では、N極およびS極が等角度
範囲に4極ずつ、計8極が等角度間隔に形成されている。
【0029】
このように構成した永久磁石70に対しては、回転軸26の軸線方向の一方側で磁気センサ素子75が対向している。本形態において、磁気センサ素子75は、共通のセンサ基板79(図1参照)に形成されており、センサ基板79は、モータ1aの端板等に固定されている。従って、磁気センサ素子75は固定されている。
【0030】
磁気センサ素子75は、第1トラックT1に対向する第1磁気センサ素子76と、第2トラックT2に対向する第2磁気センサ素子77とからなる。第1磁気センサ素子76は、第1ホール素子HAと、第1ホール素子HAから機械角で90°離間する位置に設けられた第2ホール素子HBとからなる。第2磁気センサ素子77は、U相用ホール素子HUと、U相用ホール素子HUから機械角で30°離間する位置に設けられたV相用ホール素子HVと、V相用ホール素子HVから機械角で30°離間する位置に設けられたW相用ホール素子HWとからなる。第2トラックT2および第2磁気センサ素子77は、絶対位置エンコーダ7の構成要素の一部として用いられているとともに、モータ1aのU相、V相、W相の駆動コイルに対する駆動電流を制御するための制御信号を生成するための信号生成用に磁気回路として用いられている。
【0031】
このように構成した絶対位置エンコーダ7において、回転軸26が1回転する際、上記磁気センサ素子75(第1磁気センサ素子76(第1ホール素子HAおよび第2ホール素子HB)、および第2磁気センサ素子77(U相用ホール素子HU、V相用ホール素子HVおよびW相用ホール素子HW)からは、図5に示す出力が得られる。従って、絶対位置エンコーダ7は、角度範囲が15°の計24区間の分解能をもって、回転軸26の絶対角度位置を検出することができる。
【0032】
(基本動作)
図6は、図1に示すモータシステム1での絶対角度位置の決定方法の具体的構成を示す説明図である。なお、図6には、絶対位置エンコーダ7によって検出した絶対角度位置1、2・・m−1、m、m+1の各周期において、インクリメンタル形エンコーダ6からの出力をアップダウンカウンタでカウントするとともに、各周期毎にクリアする様子を示してある。
【0033】
本形態では、回転軸26が回転すると、多回転アブソリュート形エンコーダ4では、回転軸26の回転数が記憶素子8に記憶される。また、多回転アブソリュート形エンコーダ4の絶対角度位置検出装置5では、図6に示すように、図2に示すエンコーダ制御部91の計数部92が絶対位置エンコーダ7からの出力に基づいて回転軸26の瞬間時の絶対角度位置1、2・・m−1、m、m+1を検出するとともに、インクリメンタル形エンコーダ6からの出力に基づいて、回転軸26の瞬間時の絶対角度位置を、さらに高い分解能で検出する。従って、多回転アブソリュート形エンコーダ4では、記憶素子8に記憶されている回転軸26の回転数と、絶対角度位置検出装置5で検出した1回転周期内における絶対角度位置とに基づいて、回転軸26の多回転位置を検出することができる。
【0034】
また、記憶素子8は、モータ1aが停止してブレーキ機構3によって回転軸26が保持された以降、それまでの回転軸26の回転数を保持している。従って、モータ1aを再度、起動した際、多回転アブソリュート形エンコーダ4では、記憶素子8に記憶されている回転軸26の回転数と、絶対角度位置検出装置5で検出した1回転周期内における絶対角度位置とに基づいて、回転軸26の多回転位置を検出することができる。
【0035】
(本形態の主な効果)
このように本形態のモータシステム1では、記憶素子8によってモータ1aの回転数が
記憶されているため、モータ1aの停止中、絶対角度位置検出装置5を駆動しなくても、モータ1aを起動した際の回転軸26の多回転位置を検出することができる。さらに、ブレーキ機構3では、歯車型ブレーキホイール31の歯310に係合部材32が係合するため、停止中、回転軸26の回転が阻止される。このため、モータ1aの回転数が、停止以降、記憶素子8によって記憶されているモータ1aの回転数から変動しない。従って、モータ1aの停止中、絶対角度位置検出装置5を駆動しなくても、モータ1aを再び起動した際、回転軸26の多回転位置を検出することができる。また、モータ1aの停止中、記憶素子8に回転軸の回転数を記憶させておけばよいので、バックアップ用電池の寿命が長い。また、本形態のように、記憶素子8が不揮発性メモリであれば、記憶素子8のバックアップ用電池が不要である。
【0036】
(歯車型ブレーキホイール31の歯310と絶対位置エンコーダ7との関係)
図7は、本発明を適用したモータシステム1における歯車型ブレーキホイール31の歯310と絶対位置エンコーダ7からの出力との関係を示す説明図である。本発明を適用したモータシステム1において、歯車型ブレーキホイール31は、絶対位置エンコーダ7の分解能の公約数に相当する歯310が形成されている。より具体的には、絶対位置エンコーダ7は、角度範囲が15°の計24区間の分解能を有しており、歯車型ブレーキホイール31は、12個の歯310を有している。ここで、歯車型ブレーキホイール31の歯310は、絶対位置エンコーダ7からの出力の変化点と一致する角度位置に設けられている。
【0037】
このため、図7に示すように、絶対位置エンコーダ7からの出力が変化する個所は、回転軸26の角度位置の検出が不確実になる不確実領域7aであるが、絶対位置エンコーダ7からの出力が不確実領域7aにある状態で回転軸26が停止することを回避することができる。すなわち、回転軸26は、係合部材32が歯310に乗り上げた状態で回転軸26が停止するということがないので、歯車型ブレーキホイール31の歯310を絶対位置エンコーダ7の不確実領域7aに対応する位置に歯310を設けておけば、絶対位置エンコーダ7からの出力が不確実領域7aにある状態で回転軸26が停止することを回避することができる。それ故、モータ1aが停止した後、再度起動した際、絶対位置エンコーダ7の検出結果にずれが発生することを抑制することができる。
【0038】
(インデックス信号の構成)
本形態のモータシステム1において、インクリメンタル形エンコーダ6は、インデックス信号を出力し、図2に示すエンコーダ制御部91の第1補正部93は、インデックス信号が出力されるタイミングで、インクリメンタル形エンコーダ6から出力される信号を絶対位置エンコーダ7から出力される信号と同期させる補正を行う。その際、インデックス信号が回転軸26の1周期で出力される場合、インクリメンタル形エンコーダ6から出力される信号を絶対位置エンコーダ7から出力される信号と同期させる補正が遅れてしまう。
【0039】
そこで、本形態では、インクリメンタル形エンコーダ6が絶対位置エンコーダ7の分解能に対応する周期でインデックス信号を出力するように構成されている。より具体的には、インクリメンタル形エンコーダ6は、回転軸26の1回転周期において、絶対位置エンコーダ7の分解能に対応する24回のタイミングでインデックス信号を出力する。従って、インクリメンタル形エンコーダ6から出力される信号を絶対位置エンコーダ7から出力される信号と同期させる補正を適正なタイミングで行うことができる。それ故、停止中に回転軸26が多少ずれても、簡単な処理で回転軸26の位置を正確な位置に補正することができる。
【0040】
(起動時の回転軸26の回転数の補正)
図8は、図1に示すモータシステム1における起動時の回転数に対する補正方法を示す説明図である。本形態のモータシステム1において、図2に示すエンコーダ制御部91の第2補正部94は、モータ1aを起動した際、記憶素子8に記憶されている回転数を必要に応じて、補正する。より具体的には、第2補正部94は、モータ1aを起動した際、回転軸26が前回停止した際の絶対位置エンコーダ7の出力値(停止時出力値Da)と、モータ1aを起動した際の絶対位置エンコーダ7の出力値(起動時出力値Db)とを比較する。
【0041】
その結果において、停止時出力値Daと起動時出力値Dbとが等しい場合には、第2補正部94は、記憶素子8から読み出した回転数を、モータ1aを起動した時点での回転軸26の回転数とする。これに対して、停止時出力値Daと起動時出力値Dbとが相違する場合には、第2補正部94は、記憶素子8から読み出した回転数を補正した回転数を、モータ1aを起動した時点での回転軸26の回転数とする。
【0042】
本形態では、停止時出力値Daと起動時出力値Dbとが相違する場合には、まず、記憶素子8から読み出した回転数n、回転数nから1回を減じた回転数n−1、回転数nから1回を加えた回転数n+1の各々において、絶対位置エンコーダ7の出力値と絶対角度位置との関係に起動時出力値Dbを内挿して得た3つの絶対角度位置PA、PB、PCを停止時角度位置P0と比較する。そして、3つの絶対角度位置PA、PB、PCのうち、停止時角度位置P0に最も近い絶対角度位置に対応する回転数を、モータ1aを起動した時点での回転軸26の回転数とする。図8に示す例では、絶対角度位置PA、PB、PCのうち、停止時角度位置P0に最も近い絶対角度位置PAに対応する回転数n+1を、モータ1aを起動した時点での回転軸の回転数とする。
【0043】
従って、回転軸26の回転数が切り替わる付近で回転軸26が停止しようとした際に、ブレーキ機構3が作動するときの遅れ等によって、回転軸26が多少回転した場合でも、モータ1aを起動した際の回転軸26の回転数を補正することができる。従って、起動後の回転軸26の多回転位置を検出することができる。
【0044】
(他の実施の形態)
上記実施形態では、インクリメンタル形エンコーダ6が光学式エンコーダであったが、インクリメンタル形エンコーダ6に磁気式エンコーダやレゾルバを用いてもよい。また、上記実施形態では、絶対位置エンコーダ7が磁気式エンコーダであったが、絶対位置エンコーダ7に光学式エンコーダを用いてもよい。上記実施形態では、磁気センサ素子としてホール素子を用いたが、磁気抵抗素子を用いてもよい。
【0045】
上記実施の形態では、絶対角度位置検出装置5が、インクリメンタル形エンコーダ6と、インクリメンタル形エンコーダ6より分解能が低い絶対位置エンコーダ7とによって構成されていたが、絶対角度位置検出装置5をアブソリュート形エンコーダのみによって構成してもよい。例えば、N極およびS極が等角度範囲に1極ずつ、計2極形成された磁石の端面に磁気抵抗素子が対向する1回転アブソリュート形エンコーダのみによって絶対角度位置検出装置5を構成してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…モータシステム、1a…モータ、3…ブレーキ機構、4…多回転アブソリュート形エンコーダ、5…絶対角度位置検出装置、6…インクリメンタル形エンコーダ、7…絶対位置エンコーダ、7a…不確実領域、8…記憶素子、9…制御部、26…回転軸、31…歯車型ブレーキホイール、32…係合部材、33…アクチュエータ、60…ディスク、70…永久磁石、75…磁気センサ素子、76…第1磁気センサ素子、77…第2磁気センサ素子、79…センサ基板、91…エンコーダ制御部、92…計数部、93…第1補正部、
94…第2補正部、97…ブレーキ制御部、98…モータ制御部、310…歯、N、S…磁極、P0…停止時角度位置、HA…第1ホール素子、HB…第2ホール素子、HU…U相用ホール素子、HV…V相用ホール素子、HW…W相用ホール素子、T1…第1トラック、T2…第2トラック、PA、PB、PC…絶対角度位置、Da…停止時出力値、Db…起動時出力値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8