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特開2017-181388ガラス基板の熱収縮率測定方法及び熱収縮率測定装置、並びにガラス基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-181388(P2017-181388A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】ガラス基板の熱収縮率測定方法及び熱収縮率測定装置、並びにガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/16 20060101AFI20170908BHJP
【FI】
   G01N25/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-71480(P2016-71480)
(22)【出願日】2016年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤史
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB07
2G040BA02
2G040BA27
2G040CA03
2G040CA18
2G040CA23
2G040EA01
2G040EC07
2G040EC09
2G040GC01
2G040HA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】寸法精度の高いガラス基板の熱収縮率を測定するのに、熱収縮率の測定バラツキを抑制し、精度の高い熱収縮率測定方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板から測定用基板を所定枚数切り出す工程、測定用基板の主表面にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付ける工程、及び、圧痕A及びBの各々に定められる測定点Aと測定点Bの距離Xを、熱処理前(距離X)及び熱処理後(距離X)で測定する測長工程、を有し、ビッカース圧痕付与工程では、測定用基板の各々に圧痕A―Bの圧痕距離が同一となるビッカース圧痕を入れ、測長工程では、圧痕A及びBを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて十字形の輪郭を決定し、輪郭の線位置を基準に、十字形の輪郭内に測定点を定め(測定点A、B)、熱処理前と熱処理後に、測定点A及びBの座標位置(x,y)を算出して距離Xおよび前記距離Xを計算により測定し、ガラス基板の熱収縮率を求める。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスをシート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定するガラス基板の熱収縮率測定方法であって、
前記ガラス基板から熱収縮率を測定する測定用基板を所定の枚数(n枚)切り出す測定用基板の切り出し工程;
前記測定用基板を固定する固定機構に設置して、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与工程;及び
前記測定用基板上の前記圧痕Aおよび前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長工程、を備え、
前記ビッカース圧痕付与工程において、前記n枚の測定用基板上の各々に前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長工程において、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定し、該輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、熱処理前と熱処理後に、前記測定点A及び測定点Bの座標位置(x,y)を算出し、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離X、および前記熱処理後の距離Xを計算により測定して、前記n枚の測定用基板について熱収縮率を求めることを特徴とする、ガラス基板の熱収縮率測定方法。
【請求項2】
前記測長工程において、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、画像処理により決定された十字形の輪郭内に、該輪郭の線位置を基準にして、縦の測長基準線(測長基準線1)および、横の測長基準線(測長基準線2)を所定の位置に設定し、前期測長基準線1と前記測長基準線2が交わる交点を前記測定点とし(測定点A、測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出して、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求める、請求項1に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【請求項3】
前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、前記十字形の輪郭内に設定される前記測長基準線1および前記測長基準線のそれぞれが、画像処理により決定された十字形の縦の帯幅を2等分して前記測長基準線1とし、十字形の横の帯幅を2等分して前記測長基準線2として定められ、前記測定点(測定点A、測定点B)が前記十字形の輪郭内のほぼ中心に設定される、請求項2に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【請求項4】
前記測定用基板の切り出し工程において、n枚の測定用基板を全て同一の大きさ(縦の長さ×横の長さ)で切り出す、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【請求項5】
前記ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【請求項6】
溶融ガラスをシート状に成形する成形工程と、シート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定する熱収縮率測定工程とを含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱収縮率測定工程は、前記ガラス基板から熱収縮率を測定するための測定用基板を同一の大きさで(縦の長さ×横の長さ)所定の枚数(n枚)切り出す測定用基板の切り出しプロセス;前記測定用基板を固定するための固定機構に設置し、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与プロセス;及び、前記測定用基板上の前記圧痕Aと前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長プロセス、を含み、
前記ビッカース圧痕付与プロセスにおいて、前記n枚の測定用基板上の各々に、前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長プロセスにおいて、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定し、該輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出し、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求めることを特徴とする、ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする請求項6に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
溶融ガラスをシート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定するガラス基板の熱収縮率測定装置であって、
前記ガラス基板から同一の大きさで(縦の長さ×横の長さ)所定の枚数(n枚)切り出された熱収縮率測定のための測定用基板を一枚又は複数枚固定する固定機構を備え、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与手段;及び
前記測定用基板上の前記圧痕Aと前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長する測長手段、を備え、
前記ビッカース圧痕付与手段は、前記n枚の測定用基板上の各々に、前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長手段は、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大して、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定する圧痕輪郭決定手段;前記輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出する測定点位置算出手段;および、前記測定点算出手段で算出された前記測定点(測定点A、測定点B)の位置に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求める熱収縮率計算手段、を有する、ことを特徴とするガラス基板の熱収縮率測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の熱収縮率測定方法及び熱収縮率測定装置、並びに熱収縮率測定工程を含むガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイパネルの分野では、画質の向上のために画素の高精細化が進展している。この高精細化に伴って、ディスプレイパネルに用いられるガラス基板においても寸法精度が高いことが望まれている。例えば、ディスプレイパネルの製造工程中に、ガラス基板が高温で熱処理されても寸法が変化しにくいように、熱収縮率の小さいガラス基板が求められている。
【0003】
熱収縮率の小さいガラス基板の要求に伴って、微小な熱収縮量を精度高く測定することが求められている。熱収縮率を測定する方法としては、たとえば、ガラス基板の熱収縮率(C)を次式で定義し、ある温度下で熱処理の前後でガラス板の長さ変化を測定する方法が知られている。
C(熱収縮率)=(L−L)/L
ここで、L:熱収縮前のガラス板の長さ
L:熱収縮後のガラス板の長さ
【0004】
ガラス板の長さ変化を測定して熱収縮率を求めるには、測定用のガラス板上に2ヶ所のマーキングを入れて、熱処理前と後にガラス板上の2つのマーキングの距離を測定する。例えば、ダイヤモンドペンを用いて平行な2本のケガキ線をガラス板の両端に入れた後、ガラス板をケガキ線に対し垂直方向で2分割に切断し、一方のサンプルを熱処理して、その後、もう一方の熱処理していないサンプルと分割したところで合わせて、熱処理したサンプルのケガキ線と熱処理していないサンプルのケガキ線とのずれ幅を測定する方法が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マーキングの距離を測定するために、マーキング距離を測長するための基準線を人の手作業でマーキングに合わせるため、マーキングを捉える位置が僅か0.5μmだけズレた場合、ガラス板の大きさ(測定サンプルのガラス板の長さ)200mm〜300mmを測定したと、1.0〜1.5ppmの測定誤差となる。このような測定の誤差は、高い寸法精度が求められるガラス基板の熱収縮率測定において大きな問題となる。
【0006】
また、通常、熱収縮率の測定は、所定の枚数のサンプル基板について、測長プロセスを所定の回数、繰り返して、値のバラツキ範囲を確認し、熱収縮率の値が算出される。従来の方法では、熱収縮率の測定算出結果に偏りやバラツキが大きく、寸法精度の高いガラス基板の熱収縮率値のレベルにおいて、測定値のバラツキや偏りを抑えるには限界があった。
【0007】
そこで、本発明は、寸法精度が高いガラス基板の熱収縮率値の測定であっても、熱収縮率測定の値のバラツキを抑え、精度高く熱収縮率を測定する測定方法および測定装置を提供する。さらに、熱収縮率が小さく寸法精度の高いガラス基板を製造するための、本発明の熱収縮率測定方法を適用したガラス基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔8〕の構成を有する発明を完成させた。
【0009】
〔1〕溶融ガラスをシート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定するガラス基板の熱収縮率測定方法であって、
前記ガラス基板から熱収縮率を測定する測定用基板を所定の枚数(n枚)切り出す測定用基板の切り出し工程;
前記測定用基板を固定する固定機構に設置して、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与工程;及び
前記測定用基板上の前記圧痕Aおよび前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長工程、を備え、
前記ビッカース圧痕付与工程において、前記n枚の測定用基板上の各々に前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長工程において、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定し、該輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、熱処理前と熱処理後に、前記測定点A及び測定点Bの座標位置(x,y)を算出し、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離X、および前記熱処理後の距離Xを計算により測定して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求めることを特徴とする、ガラス基板の熱収縮率測定方法。
【0010】
〔2〕前記測長工程において、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、画像処理により決定された十字形の輪郭内に、該輪郭の線位置を基準にして、縦の測長基準線(測長基準線1)および、横の測長基準線(測長基準線2)を所定の位置に設定し、前期測長基準線1と前記測長基準線2が交わる交点を前記測定点とし(測定点A、測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出して、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算により測定して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求める、〔1〕に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【0011】
〔3〕前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、前記十字形の輪郭内に設定される前記測長基準線1および前記測長基準線のそれぞれが、画像処理により決定された十字形の縦の帯幅を2等分して前記測長基準線1とし、十字形の横の帯幅を2等分して前記測長基準線2として定められ、前記測定点(測定点A、測定点B)が前記十字形の輪郭内のほぼ中心に設定される、前記〔2〕に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【0012】
〔4〕前記測定用基板の切り出し工程において、n枚の測定用基板を全て同一の大きさ(縦の長さ×横の長さ)で切り出す、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【0013】
〔5〕前記ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のガラス基板の熱収縮率測定方法。
【0014】
〔6〕溶融ガラスをシート状に成形する成形工程と、シート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定する熱収縮率測定工程とを含むガラス基板の製造方法であって、前記熱収縮率測定工程は、前記ガラス基板から熱収縮率を測定するための測定用基板を同一の大きさで(縦の長さ×横の長さ)所定の枚数(n枚)切り出す測定用基板の切り出しプロセス;前記測定用基板を固定するための固定機構に設置し、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与プロセス;及び前記測定用基板上の前記圧痕Aと前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長プロセス、を含み、
前記ビッカース圧痕付与プロセスにおいて、前記n枚の測定用基板上の各々に、前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長プロセスにおいて、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定し、該輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出し、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算により測定して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求めることを特徴とする、ガラス基板の製造方法。
【0015】
〔7〕前記ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする前記〔6〕に記載のガラス基板の製造方法。
【0016】
〔8〕溶融ガラスをシート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定するガラス基板の熱収縮率測定装置であって、
前記ガラス基板から同一の大きさで(縦の長さ×横の長さ)所定の枚数(n枚)切り出された熱収縮率測定のための測定用基板を一枚又は複数枚固定する固定機構を備え、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与手段;及び
前記測定用基板上の前記圧痕Aと前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長する測長手段、を備え、
前記ビッカース圧痕付与手段は、前記n枚の測定用基板上の各々に、前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長手段は、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大して、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定する圧痕輪郭決定手段;前記輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出する測定点位置算出手段;および、前記測定点算出手段で算出された前記測定点(測定点A、測定点B)の位置に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求める熱収縮率計算手段、を有する、ことを特徴とするガラス基板の熱収縮率測定装置。
【0017】
〔9〕前記ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることを特徴とする〔8〕に記載のガラス基板の熱収縮率測定装置。
【発明の効果】
【0018】
上述の本発明に係るガラス基板の熱収縮率測定方法および熱収縮率測定装置によれば、測定値のバラツキや偏りを抑え、精度の高く熱収縮率を測定することができる。
また、上述の本発明に係るガラス基板の熱収縮率測定方法を適用したガラス基板の製造方法によれば、寸法精度の高いガラス基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のガラス基板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2】測定用基板上のビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)のイメージを示す図である。
図3】(a)、(b)、(c)は本実施形態の測定用基板上に決定される圧痕の輪郭線のイメージ、(a)は圧痕の輪郭内に決定される測定点、(b)は圧痕の輪郭内に設定される測長基準線1及び測長基準線2の交点により決定される測定点、さらに(c)は測長基準線1及び測長基準線2を用いて計算される輪郭内のほぼ中心点を説明するための模式図である。
図4】本実施形態の熱収縮率測定装置の測長手段に備えられる固定装置の一例を示す図である。
図5】ガラス基板の熱処理における熱履歴の一例を示す図である。
図6】熱処理温度で維持する維持時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示す図である。
図7】冷却時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示す図である。
図8】加熱時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)ガラス基板の製造方法
以下、本発明にかかるガラス基板の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態において製造されるガラス基板は、特に制限されないが、例えば縦寸法及び横寸法のそれぞれが、500mm〜3500mm、1500mm〜3500mm、1800〜3500mm、2000mm〜3500mmなどが挙げられ、2000mm〜3500mmであることが好ましい。
ガラス基板の厚さは、例えば、0.1〜1.1mmが挙げられ、より好ましくは0.75mm以下の極めて薄い矩形形状の板で、例えば、0.55mm以下、さらには0.45mm以下の厚さがより好ましい。ガラス基板の厚さの下限値としては、0.15mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましい。
まず、溶融されたガラスが、例えばフュージョン法あるいはフロート法等の公知の方法により、所定の厚さの帯状ガラスであるシートガラスが成形される(ステップS1)。
次に、成形されたシートガラスが所定の長さの素板であるガラス基板に採板される(ステップS2)。採板により得られたガラス基板は、搬送機構により、ピンチングなどで保持されつつ、熱処理工程に誘導され搬送される(ステップS3)。次に、この搬送されたガラス基板に対し熱処理を行なう(ステップS4)。
【0021】
熱処理後のガラス基板は切断工程に搬送され、製品のサイズに切断され、ガラス基板が得られる(ステップS5)。得られたガラス基板には、端面の研削、研磨およびコーナカットを含む端面加工が行われた後、ガラス基板は洗浄される(ステップS6)。洗浄されたガラス基板はキズ、塵、汚れあるいは光学欠陥を含む傷が無いか、光学的検査が行われる(ステップS7)。検査により品質の適合したガラス基板は、ガラス基板を保護する紙と交互に積層された積層体としてパレットに積載されて梱包される(ステップS8)。梱包されたガラス基板は納入先業者に出荷される。
【0022】
さらに、本発明のガラス基板の製造方法は、ガラス基板の熱収縮率を測定する熱収縮率測定工程を含む。本発明のガラス基板の製造方法において、ガラス基板の熱収縮率を測定するタイミングは、ガラス基板を梱包するまでの間で、上述の素板採板工程(ステップS2)を行った後であれば、いずれのタイミングで熱収縮率を行ってもよい。たとえば、上述の素板採板工程(ステップS2)、ガラス基板を熱処理する熱処理工程(ステップS4)、熱処理後のガラス基板を切断する切断工程(ステップS5)、又は、切断工程後のガラス基板の端面を加工しガラス基板を洗浄する洗浄工程(ステップS6)の後に、熱収縮率測定工程を含む。本発明の熱収縮率測定工程の詳細については後述する。
【0023】
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
SiO2 55〜80モル%、
Al23 8〜20モル%、
23 0〜12モル%、
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)。
【0024】
SiO2は60〜75モル%、さらには、63〜72モル%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10モル%、CaOが0〜15モル%、SrOが0〜10%、BaOが0〜10%であることが好ましい。
また、SiO2、Al23、B23、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO2)+Al23)/((2×B23)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0025】
また、モル%表示のB23の含有率の2倍とモル%表示のROの含有率の合計は、30モル%以下、好ましくは10〜30モル%であることが好ましい。
また、上記ガラス組成のガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率は、0モル%以上0.4モル%以下であってもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5モル%含み、As、Sb及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0026】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、またはカーブドパネルディスプレイ用ガラス基板で、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板あるいは、有機ELディスプレイ用のガラス基板として好適である。さらに、本実施形態で製造されるガラス基板は、高精細ディスプレイに用いるLTPS(Low-temperature poly silicon)・IGZO(Indium-Gallium-Zinc-Oxide)・TFTディスプレイ用ガラス基板として特に好適である。
【0027】
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更により好ましくは20ppm以下である。熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率の範囲としては、10ppm〜40ppmが好ましい。
【0028】
本実施形態の熱収縮率測定工程(すなわち熱収縮率測定方法)で測定されるガラス基板の種類は、特に限定されないが、特に、熱処理されたガラス基板、例えば、熱収縮率が小さい高精細液晶ディスプレイ用のガラス基板が適している。熱収縮率が小さいガラス基板としては(高精細液晶ディスプレイ用のガラス基板を含む)、熱収縮率が0〜15ppm、好ましくは0〜10ppm、より好ましくは0〜6ppm、更により好ましくは0〜3ppmの範囲にあるガラス基板が挙げられる。
【0029】
本実施形態が適用されるガラス板の物性として次が挙げられる。
<ガラス組成>
さらに、本実施形態が適用するガラス組成の例として、次が挙げられる(質量%表示)。
SiO:50〜70%(好ましくは、57〜64%)、Al:5〜25%(好ましくは、12〜18%)、B:0〜15%(好ましくは、6〜13%)を含み、さらに、次に示す組成を任意に含んでもよい。任意で含む成分として、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、3〜7%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0.5〜8%、より好ましくは3〜7%)、BaO:0〜10%(好ましくは、0〜3%、より好ましくは0〜1%)、ZrO:0〜10%(好ましくは、0〜4%,より好ましくは0〜1%)が挙げられる。さらに、R’O:0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
或いは、SiO:50〜70%(好ましくは、55〜65%)、B:0〜10%(好ましくは、0〜5%、1.3〜5%)、Al:10〜25%(好ましくは、16〜22%)、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、2〜10%、2〜6%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0〜4%、0.4〜3%)、BaO:0〜15%(好ましくは、4〜11%)、RO:5〜20%(好ましくは、8〜20%、14〜19%),を含有することが好ましい(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)。さらに、R’Oが0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
<ヤング率>
本実施形態が適用されるガラス板のヤング率として、例えば、72(Gpa)以上が好ましく、75(Gpa)以上がより好ましく、77(Gpa)以上がより更に好ましい。
<歪点>
本実施形態が適用されるガラス基板の歪率として、例えば、650℃以上が好ましく、680℃以上がより好ましく、700℃以上、720℃以上が更により好ましい。
【0030】
(2)熱収縮率の測定
(2−1)熱収縮率の算出
ガラス基板の熱収縮率は、次式のとおり、熱収縮前後のガラス板の寸法で定義される。
C(熱収縮率)=(L−L)/L
L:熱処理前のマーキング間隔、L:熱処理後のマーキング間隔
【0031】
本実施形態では、ガラス板から測定用基板を切り出し、測定用基板上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付け、ビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)それぞれに測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)を定める。さらに、熱処理前の測定用基板上の圧痕A−Bの距離X(mm)、および熱処理後の測定用基板上の圧痕A−Bの距離X(mm)を、測定点(測定点A、測定点B)を測定して求めて、上記式に沿って熱収縮率が得られる。
すなわち、熱処理前の測定用基板上のビッカース圧痕の圧痕A−Bの距離X(mm)、および熱処理後の測定用基板上のビッカース圧痕A−Bの距離Xの収縮量の合計:Δa(μm)+Δb(μm)(ΔaおよびΔbは縮む方向を正とする)であるX(mm)−X(mm)を算出して、熱収縮率を求める。
熱収縮率(ppm)={〔Δa(μm)+Δb(μm)〕/X(mm)}×1000
={〔X(mm)−X(mm)〕/X(mm)}×1000
【0032】
(2−2)熱収縮率測定方法の特徴
本実施形態の熱収縮率測定方法(熱収縮率測定工程)は、前記ガラス基板から熱収縮率を測定するための測定用基板を同一の大きさで(縦の長さ×横の長さ)所定の枚数(n枚)切り出す測定用基板の切り出しプロセス;前記測定用基板を固定するための固定機構に設置し、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与プロセス;および、前記測定用基板上の前記圧痕Aと前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長プロセス、を含み、
前記ビッカース圧痕付与プロセスでは、前記n枚の測定用基板上の各々に、前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長プロセスにおいて、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大して、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定し、該輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、熱処理前と熱処理後に、前記測定点A及び測定点Bの座標位置(x,y)を算出し、当該算出に基づいて前記熱処理前の距離X、および前記熱処理後の距離Xを計算により測定して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求めることを特徴とする。
【0033】
ガラス基板の熱収縮率は、通常、サンプル数=nの測定用基板の熱収縮率を測定して得られたデータに基づいて求められる。本発明では、n枚の測定用基板上に付けるビッカースの圧痕Aおよび圧痕Bの圧痕距離が同一の距離となるようにビッカース圧痕を付ける手段が装置に設置される。このように、n枚の測定用基板における圧痕A−圧痕Bの圧痕距離が同一となるように圧痕を付与することで、測定用基板(サンプル数n)間の熱収縮率の値のバラツキが縮小され、熱収縮率の値の精度向上が可能となる。
【0034】
本実施形態の熱収縮率測定工程は、上述のとおり、熱収縮率を求めるための圧痕Aと圧痕Bの距離を測定する測長プロセスを有する。すなわち、圧痕Aおよび圧痕Bのそれぞれに測定点Aおよび測定点Bを定めて、熱処理前の測定点A−Bの距離X、熱処理後の測定点A−Bの距離Xを算出して熱収縮率を求める。
このような本実施形態の圧痕Aと圧痕Bの距離を測長プロセスは、次のステップを含む:
i)圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて十字形の輪郭を決定するステップ;
ii)十字形の輪郭の線位置を基準にして、十字形の輪郭内に測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)を決定し、測定点の位置(座標位置x,y)を算出するステップ;および
iii)測定点の位置算出結果に基づいて、熱処理前の距離X、熱処理後の距離Xを計算により測定して、n枚の測定用基板について熱収縮率を求めるステップ。
【0035】
<i)画像処理に基づいて圧痕Aおよび圧痕Bの十字形の輪郭を決定するステップ>
本発明のガラス基板の熱収縮率測定においては、サンプル数(枚)=nの測定用基板について、熱処理前と後に、測定用基板1枚につき、圧痕A―圧痕Bの測定点間の距離Xおよび距離Xの測定による熱収縮率の算出操作を、所定の回数、繰り返す。
また、通常の熱収縮率を求めるプロセスにおいても、サンプル数(枚)=nの測定用基板について、1枚につき圧痕A及びBの測定点A−B間の距離Xと距離Xの測定による熱収縮率の算出操作が、所定の回数、繰り返される。従来のように、測定点を定める際、あらかじめ測定ポイント(測定点)を所定の位置に特定しておいて、測長のための基準線を人の手作業により測定ポイント(測定点)に合わせて測定点A−B間の距離Xを測長すると、熱収縮率の測定算出結果に偏りやバラツキが生じ、誤差の原因となる。しかし、測定のバラツキ、誤差をなくすには限界があった。
【0036】
本発明によれば、熱収縮率測定工程の測長プロセスにおいて、圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大し、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて十字形の輪郭が決定される。この画像処理の条件などを一定にすることで、上述のとおり、所定の回数、繰り返される熱収縮率の算出操作の課程において、常に一定に、圧痕Aおよび圧痕Bの十字形の輪郭を決定することができ、さらに、一定に決定される十字形の輪郭線を基準にして、測定点Aおよび測定点Bの位置を計算により定めることで、人の手作業による操作を介さずに、測定点Aおよび測定点Bを決定することができて、測定点A−B間の距離Xを正確に計算で算出する(測長する)ことが出来る。この結果、熱収縮率の測定算出において、値の偏りやバラツキは著しく抑制され、誤差も生じ難くなる。
【0037】
上述の画像処理としては、例えば、圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大して得られた十字形の画像について、白色の十字形とその背景色との色に基づいて、十字形の輪郭付近の色を分解して輪郭線を特定する条件を設定することで、十字形の輪郭を常に一定に決定することができる。
【0038】
<ii)十字形の輪郭の線位置を基準にして十字形の輪郭内に測定点(測定点A、測定点B)を決定するステップ>
本発明の熱収収縮率測定方法の測長プロセスでは、上述のようにビッカースの圧痕A、圧痕Bを拡大して得られる十字形の画像を、上述のとおり、画像処理により、常に一定の十字形の輪郭が得られる。この十字形の輪郭線を基準にして、十字の輪郭内に測定点を計算に基づいて設定することができる。
さらに、一定に決定される十字形の輪郭線を基準にして、測定点Aおよび測定点Bの位置を計算により定め、測定点A及び測定点Bの座標位置(x,y)を算出する。
【0039】
十字形の輪郭内に測定点を定める方法としては、次の(1)から(3)が挙げられる。
(1)圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大して、上述のとおり、画像処理により得られる一定の十字形の輪郭線を基準にして、輪郭線の位置から計算で測定点を定めることができる(図3(a))。
(2)圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大して、画像処理により決定された十字形の輪郭内に、該輪郭の線位置を基準にして、縦の測長基準線(測長基準線1)、および横の測長基準線(測長基準線2)を所定の位置に設定する(図3(b))。測長基準線1と測長基準線2が交わる交点を測定点とする(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)。
(3)圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大して、画像処理により決定された十字形の縦の帯幅を2等分して前記測長基準線1とし、十字形の横の帯幅を2等分して前記測長基準線2として定める。この方法だと、測定点(測定点A、測定点B)は十字形の輪郭内のほぼ中心に設定される(図3(c))。
このようにして定められた測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の座標位置(座標位置x,y)を計算で算出することができる。
【0040】
<iii)測定点の位置算出結果に基づいて、熱処理前の距離X、熱処理後の距離Xを計算して、n枚の測定用基板について熱収縮率を求めるステップ>
上述のようにして得られた測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の座標位置(座標位置x,y)の算出に基づいて、熱処理前の測定点A−B間の距離X、および熱処理後の測定点A−B間の距離Xを計算することができる。
n枚の測定用基板について、1枚につき所定の回数、上述の測長プロセスを行うことで、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求めることができる。
【0041】
このように、本発明の測長プロセスによれば、人の手作業による操作を介さず、測定点Aおよび測定点Bを常に一定に決定して、計算により、測定点Aおよび測定点Bの座標位置を算出することができるため、より正確に、熱処理前の測定点A−B間の距離X、および熱処理後の測定点A−B間の距離Xを測長することが出来る。結果、n枚の測定用基板について、1枚につき所定の回数繰り返される熱収縮率の測定においても、熱収縮率の値の偏りやバラツキ、誤差は著しく抑制される。
【0042】
ガラス基板の熱収縮率は、通常、サンプル数=nの測定用基板の熱収縮率を測定して得られたデータに基づいて求められる。本実施形態においては、熱収縮率を測定するために切り出される測定用基板(n枚)が、全て同一の大きさ(縦の長さ×横の長さ)であることが、より好ましい。n枚の測定用基板をすべて同一の大きさとすることで、後述する、測定用基板を固定機構に固定してビッカース圧痕を付けるときに、n枚の測定用基板間において、同じ位置にビッカースの圧痕A、圧痕Bを付けることができる。
このように、n枚の測定用基板をすべて同一の大きさとして、n枚の測定用基板上に付けるビッカースの圧痕Aおよび圧痕Bの圧痕距離が同一の距離となるようにビッカース圧痕を付けることで、測定用基板(サンプル数n)間の熱収縮率の値のバラツキが縮小され、熱収縮率の精度向上が可能となる。
【0043】
(2−3)熱収縮率測定装置の特徴
本実施形態の熱収縮率測定装置は、溶融ガラスをシート状に成形して得られるガラス基板の熱収縮率を測定するガラス基板の熱収縮率測定装置であって:
前記ガラス基板から同一の大きさで(縦の長さ×横の長さ)所定の枚数(n枚)切り出された熱収縮率測定のための測定用基板を一枚又は複数枚固定する固定機構を備え、前記測定用基板の主表面上の2ヶ所にビッカース圧痕(圧痕A、圧痕B)を付けるビッカース圧痕付与手段;及び
前記測定用基板上の前記圧痕Aと前記圧痕Bのそれぞれに定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の距離Xを、熱処理前(距離X)、および熱処理後(距離X)で測定する測長する測長手段、を備え、
前記ビッカース圧痕付与手段は、前記n枚の測定用基板上の各々に、前記圧痕Aと圧痕Bの圧痕距離が同一となるようにビッカース圧痕を入れて、
前記測長手段は、前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大して、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定する圧痕輪郭決定手段;前記輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出する測定点位置算出手段;および、前記測定点算出手段で算出された前記測定点(測定点A、測定点B)の位置に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求める熱収縮率計算手段、を有する、ことを特徴とする。
【0044】
本実施形態の熱収縮率測定装置は、ビッカース圧痕付与手段を備え、さらに、ビッカース圧痕付与手段が測定用基板を固定するための固定機構を有することに特徴がある。本実施形態における測定用基板にビッカース圧痕を付けるための固定機構とは、ビッカースの圧痕Aおよび圧痕Bを、測定用基板上の所定の位置、さらに所定の間隔(圧痕距離)に設定し、複数枚の測定用基板を処理しても、圧痕Aおよび圧痕Bの位置と間隔(圧痕距離)が、複数枚処理した測定用基板どうして同一とすることができる。
【0045】
本実施形態における、ビッカース圧痕付与のとき測定用基板を固定する固定機構として、例えば、測定用基板をはめる所定の大きさの枠を有する基板固定治具を備え、さらに、ビッカースの圧痕を入れる時の力で測定用基板がズレたり一切動かない様に計算された固定部及び押さえ部位を複数備える(図4の固定機構のイメージ図を参照)。
このような固定機構によれば、測定用基板にビッカース圧痕を付ける間、測定用基板が一切動くことなく、複数枚の測定用基板上に、所定の位置、且つ所定の間隔(圧痕距離)で、圧痕Aおよび圧痕Bを付けることができる。n枚の測定用基板における圧痕A−圧痕Bの圧痕距離が同一となるように圧痕を付与することで、測定用基板(サンプル数n)間の熱収縮率の値のバラツキが縮小され、熱収縮率の値の精度向上が可能となる。
【0046】
さらに、固定機構は、測定用ガラス基板上に所定の間隔(圧痕距離)で、圧痕Aおよび圧痕Bを付けるための圧痕距離決定手段として、圧痕距離の設定及び微調整(アライメント)を正確に制御する制御機構を有するのが好ましい。例えば、テストとして入れた圧痕Aおよび圧痕Bの圧痕距離の結果をフィードバックして、圧痕付与部のポジションを微調整する制御機構を備えることで、微細なレベルで、圧痕距離を正確に制御することができる。
【0047】
本実施形態の測長手段は、熱処理前および後に、測定用ガラス基板の測定点A−B間の距離X、距離Xを測長し、基本構成として次の手段を備える:
前記圧痕Aおよび前記圧痕Bそれぞれを拡大して、十字形の画像を得て、画像処理に基づいて前記十字形の輪郭を決定する圧痕輪郭決定手段;
前記輪郭の線位置を基準にして、前記十字形の輪郭内に前記測定点を定めて(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)、前記測定点の位置(座標位置x,y)を算出する測定点位置算出手段;および、
前記測定点算出手段で算出された前記測定点(測定点A、測定点B)の位置に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を求める熱収縮率計算手段。
【0048】
本実施形態の測長手段が有する圧痕輪郭決定手段とは、圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを、所定の倍率で拡大することができる拡大機能を有し、さらに、十字形の圧痕の画像を表示する表示部、及び拡大された画像を記憶する記憶部を有する。さらに、拡大された画像について、十字形の輪郭を認識して、輪郭線を一定に設定し決定するための輪郭決定部を備える。
また、輪郭決定部は、さらに、画像処理の機能で輪郭線の条件を設定することが、より好ましい。例えば、圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれを拡大して得られた十字形の画像について、白色の十字形とその背景色との色に基づいて、十字形の輪郭付近の色を分解して輪郭線を特定する条件を設定することで、十字形の輪郭を常に一定に決定することができる。
このように、圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれの十字形の画像を得て、十字形の輪郭が、画像処理などの条件に基づいて一定に決定されることで、所定の回数、繰り返される熱収縮率の算出操作の課程において、常に、圧痕Aおよび圧痕Bの十字形の輪郭を一定に決めることができる。さらに、一定に決定される十字形の輪郭線を基準にして、測定点Aおよび測定点Bの位置を計算により定めることで、人の手作業による操作を介さずに、測定点Aおよび測定点Bを決定し、測定点A−B間の距離Xを正確に測長することが出来る。この結果、熱収縮率の測定算出において、値の偏りやバラツキ、誤差は著しく抑制される。
【0049】
本実施形態の測長手段が有する測定点位置算出手段とは、上述の圧痕輪郭決定手段により決定された、圧痕Aおよび圧痕Bの十字の輪郭線を基準にして、十字形の輪郭内に測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)を所定の位置に設定する測定点設定部、および測定点(測定点A、測定点B)の座標位置(x,y)を算出する位置算出部を備える。
【0050】
上述の測定点位置算出手段が有する、測定点設定部とは、上述の手段で決定された十字の輪郭線を基準にして、上述の測定点を十字形の輪郭内に、一定に設定することができる。
例えば、測定点設定部により、輪郭線の位置が数値表示され、設定する測定点の位置を、輪郭線の位置から数値で特定することができる(図3(a))。
あるいは、測定点設定部により、上述の手段で決定された十字形の輪郭内に、該輪郭の線位置を基準にして、縦の測長基準線(測長基準線1)、および横の測長基準線(測長基準線2)を所定の位置に設定することができる(図3(b))。このとき、設定する測長基準線の位置を、輪郭線の位置から数値表示で特定できるようにする。そして、測長基準線1と測長基準線2が交わる交点を測定点とする(測定点A、測定点B)。
あるいは、測定点設定部により、上述の手段で決定された十字形について、十字の縦の帯幅を2等分して測長基準線1とし、十字の横の帯幅を2等分して測長基準線2として、測長基準線を計算で2本定めることができる。さらに、測長基準線1と測長基準線2の交点を測定点とする(測定点A、測定点B)。この測定点の場合、十字形の輪郭内のほぼ中心に設定される(図3(c))。
【0051】
さらに、上述の測定点位置算出手段は、前述のようにして定められる測定点(圧痕Aの測定点A、圧痕Bの測定点B)の座標位置(座標位置x,y)を計算する位置算出部を有する。
さらに、測定点位置算出手段で算出された測定点(測定点A、測定点B)の位置に基づいて前記熱処理前の距離Xおよび前記熱処理後の距離Xを計算して、n枚の前記測定用基板について熱収縮率を演算し、熱収縮率の値を表示および記憶する、熱収縮率演算手段、を有する。
【0052】
本実施形態の上述の測長手段は、さらに、測長するあいだ測定用基板を固定する測長用固定プレートを備える(図4の固定機構のイメージ図)。測長用固定プレートは、複数枚の測定用基板を同時に設置して固定し、測長のあいだ、測定用基板がズレたり一切動かない様に測定用基板を固く固定する。
測長用固定プレートにより、測長する間、測定用基板が一切動くことなく、複数枚の測定用基板を、効率よく、且つ、正確に測定点A−Bの距離を熱処理前および後で測定することができる。特に、薄板ガラスについて、微細なレベルの熱収縮率を測定する場合、熱収縮率が測定する間が長いと、室温や湿度などの環境条件の変化で、熱収縮率が変動してしまう。このような変動を補正するために、通常、補正用のガラス板を用いて、測定用ガラス基板の測定と同時、または数分以内の時間差の範囲内で、補正用のガラス板についても熱収縮率を測定し、測定結果を補正する。
本実施形態では、測長用固定プレートにより測定する時間を短縮化することができるため、たとえ測定する間に熱収縮率の変動が発生したとしても、このような変動を極めて小さく抑えることができ、熱収縮率の測定のバラツキを抑制できる。
【0053】
上述した本実施形態の熱収縮率測定工程、すなわち本実施形態の熱収縮率測定方法で測定されるガラス基板の種類は、特に限定されないが、特に、熱処理されたガラス基板で、例えば、熱収縮率が小さい高精細液晶ディスプレイ用のガラス基板の熱収縮率を測定するのに適している。たとえば、熱収縮率が0〜15ppm、好ましくは0〜10ppm、より好ましくは0〜6ppm、更により好ましくは0〜3ppmの範囲にあるガラス基板が挙げられる。
【0054】
(4)熱処理方法
以上説明したように、本実施形態の熱収縮率測定方法(熱収縮率測定工程)、および熱収縮率測定装置は、測定バラツキが抑制された精度の高い熱収縮率を測定することができるため、熱収縮量の小さいガラス基板の熱収縮率を測定するのに適している。
以下、熱収縮率の小さい寸法精度の高いガラス基板を製造するための熱処理(前記ステップS4)について、一例を説明する。
【0055】
本実施形態のガラス基板の製造方法における熱処理工程(ステップ4)は、例えば、ダウンドロー法により成形されたシートガラスを温度管理された状態で冷却する第1徐冷工程を経て得られたガラス基板を、再度加熱し、所定の温度まで昇温させた後、再度冷却する第2徐冷工程を行う処理である。熱処理では、ガラス基板を所定の熱処理温度の雰囲気下に所定の時間曝すことで、ガラス基板の主表面内の熱分布が一様になるように、ガラス基板の熱処理が行われる。
【0056】
熱処理炉では、ファン付きヒータを制御して、炉内の雰囲気温度が、熱処理温度になるよう処理する。ここで、熱処理温度とは、高精細ディスプレイに用いるLTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板に形成する形成温度であり、具体的には400℃〜600℃の範囲の温度である。高精細ディスプレイを製造する際のガラス基板Gの加工処理温度は、ガラスの歪点(1014.5ポワズの粘度に相当する温度、例えば661℃)より低い温度である。この加工処理温度より低い温度領域において、ガラス基板の熱収縮率が大きいと、ガラス基板は高精細ディスプレイを製造するためのガラス基板として適さない。このため、高精細ディスプレイを製造するガラス基板の加工処理温度と等しい温度領域である400℃〜600℃の範囲の熱処理温度において、ガラス基板を熱処理し、熱処理温度以下の温度領域において、熱収縮率が0〜15ppm、好ましくは0〜10ppm、より好ましくは0〜6ppm、さらに好ましくは0〜3ppmとなるようにする。
【0057】
なお、歪点はガラスの種類によって異なるが、ガラス基板は、熱収縮を小さくするために、歪点が高いガラス組成を有することが好ましく、ガラス基板のガラスの歪点は、600℃以上であることが好ましく、より好ましくは655℃以上であり、例えば661℃が挙げられ、更に690℃以上であることがより好ましい。
歪点が661℃である場合、熱処理温度は、歪点(661℃)−(60℃〜260℃)=601℃〜401℃であることが好ましい。しかし、ガラス基板の熱収縮率を小さくして、ガラス基板を高精細ディスプレイ用ガラス基板として用いるためには、上記の温度範囲に限定されない。例えば、熱処理温度は、400℃〜550℃でもよい。
【0058】
熱処理空間は、主として、昇温空間、維持空間および降温空間を順に通過するように構成される。ガラス基板が、熱処理炉内に搬送されると、昇温区間(加熱区間)において室温(例えば、25℃)から熱処理温度になるよう加熱される。図3は、ガラス基板の熱履歴を示す一例である。ガラス基板は、昇温区間内で搬送されながら、室温から400℃〜600℃の範囲の熱処理温度Tm1になるまで加熱される。ガラス基板の温度を熱処理温度になるまで加熱する工程が、加熱工程である。昇温区間では、例えば、6.7℃/分以上〜60℃/分以下の昇温速度S1、加熱時間10分〜60分で加熱する。
【0059】
次に、ガラス基板は、搬送されながら維持区間に入り、維持区間において400℃〜600℃の範囲の熱処理温度Tm1が維持される。加熱工程を経た後、維持工程では、ガラス基板の温度を熱処理温度Tm1で、維持時間60分〜150分維持する。ガラス基板の温度を熱処理温度Tm1のまま維持し続ける工程が、維持工程である。維持工程では、ガラス基板の温度が400℃〜600℃の範囲で変化してもよく、ガラス基板の温度が一定でなくてもよい。
【0060】
次に、ガラス基板は、搬送されながら降温区間(冷却区間)に入り、降温区間において中間温度Tm2を経て室温まで冷却される。ガラス基板の温度を、熱処理温度Tm1から中間温度Tm2、中間温度Tm2から室温まで冷却する工程が、冷却工程である。降温区間では、熱処理温度Tm1から熱処理温度Tm1より50℃〜150℃低い中間温度Tm2(例えば、400℃)になるまでの区間と、中間温度Tm2から室温になるまでの区間とで、ガラス基板Gの降温速度を変化させて冷却する。具体的には、熱処理温度Tm1から中間温度Tm2までの降温区間では、0.8℃/分以上〜2.5℃/分以下の第1降温速度S3、冷却時間60分〜120分で冷却する。中間温度Tm2から常温までの降温区間では、第1降温速度S3より速い第2降温速度S4で冷却する。第2降温速度S4は、第1降温速度S3より速い速度であれば任意である。降温区間においては、熱処理温度Tm1から中間温度Tm2までの第1降温速度を、中間温度Tm2から常温までの第2降温速度より速くすることにより、ガラス基板の生産効率性を高めつつ、ガラス基板の熱収縮率を低減することができる。
【0061】
図5に示す温度は、室温(常温)<Tm2<Tm1であり、Tm1=熱処理温度(例えば、500℃)、Tm2=中間温度(例えば、400℃)である。
加熱工程、維持工程、冷却工程における速度、時間の範囲を以下に示す。
(1)加熱工程:t1−0=10分〜60分、Tm1−室温=400℃〜600℃、昇温速度S1は、(Tm1−室温)/(t1−0)=6.7℃/分〜60℃/分。
(2)維持工程:t2−t1=60分〜150分、Tm1−Tm1=0、速度S2=(Tm1−Tm1)/(t2−t1)=0℃/分。
(3)第1冷却工程:t3−t2=60分〜120分、Tm1−Tm2=50℃〜150℃、第1降温速度S3=(Tm1−Tm2)/(t3−t2)=0.8℃/分〜2.5℃/分。
(4)第2冷却工程:t4−t3>t3−t2、Tm2−室温=350℃〜450℃、第2降温速度S4は、(Tm2−室温)/(t4−t3)>第1降温速度S3。
ここで、室温は、25℃に限定されず、例えば、0℃〜30℃である。また、熱処理温度は、500℃に限定されず、400℃〜600℃の任意の温度であり、中間温度は、400℃に限定されず、熱処理温度−(50℃〜150℃)の任意の温度である。また、昇温速度・降温速度は、ガラス基板G全体を昇温・降温する平均速度である。
【0062】
熱処理炉内において、ガラス基板の平面方向の周囲(上方)からの熱風加熱によりガラス基板が加熱されると、ガラス基板において、発熱装置に近い風上側部分と発熱装置から遠い風下側部分とでは、温度のずれが生じる。このため、ガラス基板の熱収縮率の絶対値が小さくなるように、熱処理温度で維持する維持時間を、60分〜150分、より好ましくは、90分〜120分にする。熱処理温度で維持する時間を一定時間以上にすることにより、ガラス基板に加えられる熱量が多くなり、ガラス基板が熱収縮し、熱収縮率の絶対値が小さくなる。ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を小さくすることにより、ガラス基板の面方向の熱収縮率のばらつきを抑制することができる。
【0063】
図6は、熱処理温度で維持する維持時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示した図である。同図に示すように、維持時間が60分を過ぎるとガラス基板の熱収縮率の絶対値は3ppm以下になり、維持時間が120分を過ぎるとガラス基板11の熱収縮率の絶対値は1ppm以下になる。ガラス基板の熱収縮率の絶対値を3ppm以下にすることにより、面方向の熱収縮のばらつきは3ppm以下になり、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を1ppm以下にすることにより、面方向の熱収縮のばらつきは1ppm以下になる。維持時間を60分以上、90分以上、120分以上にすることにより、面方向の熱収縮のばらつきを3ppm以下、2ppm以下、1ppm以下にすることができる。維持時間を120分以上にすることにより、ガラス基板の熱収縮率の絶対値を1ppm以下にすることができるが、維持時間が150分であっても、維持時間が120分と比べて、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値はほとんど変化しない。維持時間が150分より長くすると、熱処理効率が悪くなり、ガラス基板の生産効率が低下する。このため、熱処理温度で維持する維持時間を、60分〜150分、より好ましくは、90分〜120分にすることにより、ガラス基板の生産効率を高めつつ、ガラス基板の熱収縮率の絶対値を小さくして、面方向の熱収縮のばらつきを抑制することができる。
【0064】
次に、ガラス基板を熱処理温度から中間温度まで冷却する冷却時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示す。図7は、冷却時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示した図である。同図に示すように、冷却時間が60分を過ぎるとガラス基板の熱収縮率の絶対値は1ppm以下になり、冷却時間が90分を過ぎるとガラス基板の熱収縮率の絶対値はほぼ0ppmになる。冷却時間を60分以上にすることにより、ガラス基板Gの熱収縮率の絶対値は1ppm以下になり、面方向の熱収縮のばらつきを1ppm以下にすることができる。冷却時間が120分であっても、冷却時間が90分と比べて、ガラス基板の熱収縮率の絶対値はほとんど変化しない。冷却時間が120分より長くすると、熱処理効率が悪くなり、ガラス基板の生産効率が低下する。このため、熱処理温度から中間温度まで冷却する冷却時間を、60分〜120分、より好ましくは、約90分にすることにより、ガラス基板の生産効率を高めつつ、ガラス基板の熱収縮率の絶対値を小さくして、面方向の熱収縮のばらつきを抑制することができる。
【0065】
次に、ガラス基板11を室温(常温)から熱処理温度まで加熱する加熱時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示す。図8は、加熱時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示した図である。同図に示すように、加熱時間が10分、30分、60分のいずれであっても、ガラス基板の熱収縮率の絶対値はほとんど変化しない。ガラス基板の熱収縮率の絶対値は、加熱時間によってほとんど変化しないため、加熱時間が短いほど、ガラス基板の生産効率は高くなる。室温から熱処理温度まで加熱する加熱工程では、ガラス基板の温度を熱処理温度まで高めることができれば、加熱時間は任意であり、例えば、加熱時間を、60分以下、より好ましくは、10分〜30分にすることにより、ガラス基板の生産効率を高めることができる。
【0066】
このような熱処理により、高精細液晶ディスプレイを製造するのに好適な熱収縮率を有するガラス基板を製造することができる。また、ガラス基板の熱収縮率を0〜15ppmとすることができる。ガラス基板の熱収縮率は、0〜10ppmとすることが好ましく、0〜6ppmとすることがより好ましく、更に0〜3ppmとすることがより好ましい。このような熱収縮率が、ガラス基板のガラス組成と、熱処理の温度と熱処理時間を調整することにより達成することができる。また、ガラス基板の熱収縮に対して影響が小さい温度領域においては、処理時間を短くし、昇温速度・降温速度を速めることにより、ガラス基板の生産効率を高めることができる。
【0067】
本実施形態の熱収縮率測定方法(熱収縮率測定工程)、熱収縮率測定装置によれば、以上のような熱処理で得られる、熱収縮率0〜10ppmレベルのガラス基板を対象として、精度の高い熱収縮率を測定することができる。
【0068】
上述の本発明に係るガラス基板の熱収縮率測定方法および熱収縮率測定装置によれば、簡易で且つ作業者によるバラツキなど生じない、精度の高い熱収縮率を測定することができる。
また、上述のガラス基板の製造方法によれば、上述のガラス基板の熱収縮率測定方法を適用することにより、得られたガラス基板の熱収縮率を高精度で測定することができ、熱収縮率の小さい寸法精度の高いガラス基板を製造することができる。
【実施例】
【0069】
熱収縮率を測定する対象のガラス板から、5枚の測定用基板を切り出した。5枚の測定用基板は、全て、予め定められたサイズ(20mm×250mm)に正確に切り出した。ビッカース押し込み機(ビッカース圧痕付与手段)の固定機構に測定用基板を設置し、固定部および押さえ部により固定して、測定用基板上の2ヶ所に、ビッカース硬度計を用いて、測定用基板上の所定の位置、且つ、所定の圧痕距離で、5枚とも同一の圧痕距離となる様に、ビッカース圧痕(圧痕A,圧痕B)を入れた。
次に、ビッカース圧痕が付与された5枚の測定用基板(熱処理前)について、圧痕A,圧痕Bの測定点A−B距離Xを算出する。
【0070】
ビッカース圧痕が付けられた5枚の測定用基板を、測定用固定プレートに固定し、測長機(測長手段)の圧痕表示機能により(圧痕輪郭決定手段)、測定用基板1枚につき、測定用基板上の2ヶ所に入れた圧痕A,Bそれぞれを表示し、圧痕の十字の輪郭線を決定する。さらに、測定用基板1枚につき、圧痕A,Bそれぞれについて、圧痕表示機能で決定された十字の輪郭線を基準にして、測長基準線1および2を十字形の輪郭内に設定し、測長基準線1と2の交点を、測定点A,Bとして特定した。
このようにして、5枚の測定用基板それぞれに決定された測定点A,Bについて、測定点A,Bの位置が算出され、引き続き、測定点A−B距離X(熱処理前)が計算された。
【0071】
熱処理後の5枚の測定用基板(熱処理前)について、上述と同様、測定用固定プレートに固定し、測長機(測長手段)の圧痕表示機能により(圧痕輪郭決定手段)、測定用基板1枚につき、圧痕A,Bそれぞれについて、熱処理前と同じ条件で、圧痕の十字の輪郭線を決定する。熱処理前と同じ条件で圧痕表示機能により決定された十字の輪郭線を基準にし、熱処理前と同じ測長基準線1および2が十字形の輪郭内に設定され、熱処理前と同じ測定点A,Bが特定された。引き続き、熱処理後の5枚の測定用基板の測定点A,Bについて、測定点A−B距離X(熱処理後)が計算された。
さらに、所定の演算処理により、5枚の測定用基板について熱収縮率が求められ表示された。
【0072】
なお、上記の測長プロセスでは、補正用のガラス基板を測定用固定プレートにセットし、熱収縮率測定の値は補正された。また、測長プロセスは、測定用基板のサンプル1→サンプル2→サンプル3→サンプル4→サンプル5→補正用ガラス→(2順目)サンプル1、のようにして5サイクル(5順)繰り返した。
【0073】
熱収縮率を測定した結果、熱収縮率の値のバラツキの変化を次の表1に示す。
【表1】


このように、5枚の測定用基板上に同一の圧痕距離を得て、圧痕Aおよび圧痕Bそれぞれについて、一定の条件に基づいて圧痕(十字形)の輪郭画像を決定して、測長プロセスを繰り返した。人の手操作を介さずに、一定の位置に機械的に決定される十字形の輪郭線を基準にして、測定点Aおよび測定点Bの位置を計算により定めることで、測定点A−B間の距離Xを正確に算出することが出来た。熱収縮率値を算出した結果、全ての測定用ガラス基板について、熱収縮率測定値の偏りやバラツキが抑制され、バラツキ範囲は±0.5ppmとなり、精度高く熱収縮率を測定することが出来た。
【0074】
以上、本発明のガラス基板の熱収縮率測定方法及び熱収縮率測定装置、並びにガラス基板の製造方法について、実施形態により詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
100 測定用ガラス基板
101 測定点
102 側長基準線
103 サンプル固定機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8