【課題】ガラス基板の水分量測定のためにβ−OH値を高精度に測定する測定方法を提供するとともに、製造プロセスにおいてガラス基板のβ−OH値を精度高く制御することで、製造過程で発生する熱収縮率のバラツキを抑えるとともに、熱収縮量の小さいガラス基板を安定して製造するガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】β−OH値の測定によるガラス基板の水分量測定方法であって、前記ガラス基板の屈折率と同程度の屈折率を有し、水酸基を有する物質を含まない成分からなる皮膜層を、前記水分量測定の対象とするガラス基板の主表面上に形成し、前記皮膜層が形成されたガラス基板の水分量をIR(赤外分光分析)を用いて測定することを特徴とする。
ガラス原料及びカレットを溶解して熔解ガラスをつくる熔解工程と、前記熔解ガラスを板状に成形するガラス基板の成形工程と、前記成形後のガラス基板のβ−OH値を測定して前記ガラス基板の水分量を特定する水分量測定工程を含む、ガラス基板の製造方法であって、
前記水分量測定工程では、前記ガラス基板の屈折率と同程度の屈折率を有し、水酸基を有する物質を含まない成分からなる皮膜層を、前記ガラス基板の少なくとも一方の主表面上に形成し、前記皮膜層が形成されたガラス基板の水分量をIR(赤外分光分析)を用いて測定する、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)ガラス基板の製造方法の全体概要
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する(
図1参照)。この他に、切断研削工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積槽された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0014】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の底部に設けられた流出口から後工程に向けて熔融ガラスを流す。
【0015】
熔解工程(ST1)は熔解炉で行われる。熔解炉では、ガラス原料を、熔解炉に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解炉の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
熔解炉の熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱して加熱する方法に加えて、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3,Fe
2O
3等、高温で還元反応により酸素を放出するタイプの金属酸化物が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてAs
2O
3の使用は望ましくない。
【0016】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、最初に、清澄槽内の熔融ガラスを昇温することで、溶融ガラス中に含まれる清澄剤に還元反応を起こさせ、O
2を発生させる。このO
2が、ガラス原料の分解反応やガラス原料中の不純物、溶解時の雰囲気の巻き込み等により、熔融ガラス中に含まれる、CO
2、SO
2あるいはN
2等を含んだ気泡に吸収されることで、熔融ガラス中の気泡の泡径が拡大し、気泡の浮上速度が高まる。この気泡の浮上速度の向上により熔融ガラスの液面に気泡を浮上させて脱泡が促進される。すなわち、熔融ガラスの液面まで浮上した気泡は、液面で破泡し、気泡に含まれていたガスが清澄槽内の気相空間に放出される。
その後、溶融ガラスの温度を下げていき、清澄剤に酸化反応を起こさせ、溶融ガラス中のO
2を再吸収させる。このO
2の再吸収により、脱泡しきれなかった溶融ガラス中の小泡は、泡内のO
2が脱泡とガラス温度の低下とが相まって、小泡内のガス圧が低下し、縮小消滅する。なお、清澄管は、熔融ガラスから気相空間に放出されたガスを大気に放出するために、大気に連通した通気管を備える。
【0017】
均質化工程(ST3)では、清澄管から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0018】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス基板の洗浄が行われ、さらに、気泡等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス基板が最終製品として梱包される。
【0019】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板の製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解炉101と、清澄管102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
【0020】
図2に示す熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われるが、原料投入方法に制約は無く、スクリューフィーダー方式や、ブッシュープレート方式の投入機を用いてもよい。
清澄管102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
なお、
図2に示す熔解炉101から成形装置200にいたる熔融ガラスMGの流路、具体的には、ガラス供給管104、清澄管102、ガラス供給管105、攪拌槽103、およびガラス供給管106の熔融ガラスMGの流路を形成する流路内表面は、少なくてもその一部が、白金あるいは白金合金で構成されている。
【0021】
(2)ガラス基板
本発明の実施形態において製造されるガラス基板は、例えば、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、またはカーブドパネルディスプレイ用ガラス基板で、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板あるいは、有機ELディスプレイ用のガラス基板として好適である。また、このガラス基板は、その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。その中でも特に熱収縮率の小さいことが要求される、LTPS(低温ポリシリコン)・TFTや、酸化物半導体・TFT、IGZO(Indium-Gallium-Zinc-Oxide)・TFTディスプレイ用ガラス基板など、パネル製造工程において高温処理を必要とする製品に好適に用いることができる。
【0022】
本実施形態において製造されるガラス基板は、特に制限されないが、例えば縦寸法及び横寸法のそれぞれが、500mm〜3500mm、1500mm〜3500mm、1800〜3500mm、2000mm〜3500mmなどが挙げられ、2000mm〜3500mmであることが好ましい。
ガラス基板の厚さは、例えば0.01mm〜1.1mmである。より好ましくは0.75mm以下の極めて薄い矩形形状の板で、例えば、0.55mm以下、さらには0.45mm以下の厚さがより好ましい。ガラス基板の厚さの下限値としては、0.15mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましい。
【0023】
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
<ガラス組成>
本実施形態が適用するガラス組成として、例えば、次が挙げられる(質量%表示)。
SiO
2:50〜70%(好ましくは、57〜64%)、Al
2O
3:5〜25%(好ましくは、12〜18%)、B
2O
3:0〜15%(好ましくは、6〜13%)を含み、さらに、次に示す組成を任意に含んでもよい。任意で含む成分として、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、3〜7%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0.5〜8%、より好ましくは3〜7%)、BaO:0〜10%(好ましくは、0〜3%、より好ましくは0〜1%)、ZrO
2:0〜10%(好ましくは、0〜4%,より好ましくは0〜1%)、P
2O
5:0〜5%(好ましくは、0〜3%)が挙げられる。さらに、R’
2O:0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
或いは、SiO
2:50〜70%(好ましくは、55〜65%)、B
2O
3:0〜10%(好ましくは、0〜5%、1.3〜5%)、Al
2O
3:10〜25%(好ましくは、16〜22%)、MgO:0〜10%(好ましくは、0.5〜4%)、CaO:0〜20%(好ましくは、2〜10%、2〜6%)、SrO:0〜20%(好ましくは、0〜4%、0.4〜3%)、BaO:0〜15%(好ましくは、4〜11%)、RO:5〜20%(好ましくは、8〜20%、14〜19%)、P
2O
5:0〜5%(好ましくは、0〜3%),を含有することが好ましい(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)。さらに、R’
2Oが0.10%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことがより好ましい。
さらに本実施形態のガラス基板の物性値として次が挙げられる。
<ヤング率>
本実施形態が適用されるガラス基板のヤング率として、例えば、72(Gpa)以上が好ましく、75(Gpa)以上がより好ましく、77(Gpa)以上がより更に好ましい。
<歪点>
本実施形態が適用されるガラス基板の歪率として、例えば、650℃以上が好ましく、680℃以上がより好ましく、700℃以上、720℃以上が更により好ましい。
また、例えば、ガラス基板の液相粘度は、10
4.3poise〜10
6.7poiseである。
もちろん、本発明においては、ガラス基板のガラス組成を限定するものではない。
<その他>
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、500℃の温度で30分間保持し、その後、常温まで放冷した場合の、下記式で示される熱収縮率で、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更により好ましくは20ppm以下である。
熱収縮率の小さいガラス基板の要求に伴って、微小な熱収縮量を精度高く測定することが求められている。熱収縮率を測定する方法としては、ガラス基板の熱収縮率(C)を〔C(熱収縮率)=(L
0−L)/L
0 (ここで、L
0:熱収縮前のガラス板の長さ、L:熱収縮後のガラス板の長さ)で、たとえば、熱収縮率(ppm)={熱処理でのガラスの収縮量/熱処理前のガラスのケガキ線間距離}×10
6で求められる。
【0024】
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。
【0025】
(3)ガラス基板の水分量の測定方法
(3−1)特徴
本発明のガラス基板の水分量測定方法とは、β−OH値の測定によるガラス基板の水分量測定方法であって、
前記ガラス基板の屈折率と同程度の屈折率を有し、水酸基を有する物質を含まない成分からなる皮膜層(
図3(a)参照)を、前記水分量測定の対象とするガラス基板の主表面上に形成し、前記皮膜層が形成されたガラス基板の水分量をIR(赤外分光分析)を用いて測定する、ことを特徴とする。
【0026】
(3−2)皮膜層の形成方法
水分量を測定するガラス板の主表面上に被膜層を形成する成分(物質)は、測定対象のガラス(無機材料を成分とするガラス)と同程度の屈折率を有する成分(物質)で、水酸基(−OH)を有しない物質から適宜選択され、種類や成分は特に限定されない。
例えば、水分量を測定するガラス板の屈折率が「1.5」の場合、1.3〜1.7の範囲にある屈折率を有する成分(物質)で、水酸基(−OH)を有しない物質から選択される。つまり、水分量を測定するガラス板の屈折率と皮膜層の屈折率との差が±0.2以内にあればよく、好ましくは±0.1以内、さらに好ましくは±0.05以内がよい。
ガラス板の主表面上に形成される被膜層の物質として、例えば、油、ゲル状物質、樹脂などが挙げられる。
また、ガラス板上の皮膜層は、液体の皮膜層、固体の皮膜層、又は完全に固体ではない粘性の高い状態の皮膜層、これらのうち、いずれでもよい。
【0027】
水分量を測定するガラス板の主表面上に皮膜層を形成する方法として、例えば、液体状の皮膜層成分をガラス板の主表面上に塗布し、所定の厚さの液体状の皮膜層がガラス板の主表面上に形成された状態で、皮膜層を有するガラス板の赤外線吸収スペクトルを測定することができる。
液体状の皮膜層の物質を塗布する塗布方法は、ガラス板の主表面上に所定の厚さで皮膜層を形成することができればよく、塗布の手段は特に限定されず、公知の塗布方法を用いればよい。
【0028】
水分量を測定するガラス板の主表面上に固体の皮膜層を形成する場合も、皮膜層の形成方法は特に限定されず、例えば、まず液体状の皮膜層成分をガラス板の主表面上に塗布し、所定の厚さの皮膜層がガラス板の主表面上に形成され、ガラス板と接触しない被膜層の主表面が滑らかで凹凸が無く、平滑性が極めて高い面であれば、固体状の被膜層を形成してもよい。完全に固体ではない粘性の高い状態の皮膜層をガラス板上に形成する場合も、同様である。
【0029】
ガラス板の主表面上に皮膜層を形成する厚さは、例えば、ガラス板の厚さの1/10〜1/1000の範囲にあればよく、あるいは、ガラス板と接触しない被膜層の主表面が滑らかで凹凸が無い状態が維持できれば、皮膜層の厚さは、この範囲を超えて厚くてもよいし、薄くてもよい。
【0030】
[β−OH値の測定]
ガラスのβ−OH値[mm
−1]はガラスのIRで赤外線吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルにおいて次式により求められる。
β−OH値=(1/X)log
10(T1/T2)
X : ガラスの厚さ(mm)
T1 : 参照波長2600nm における透過率(%)
T2 : 水酸基吸収波長2800nm付近における最小透過率(%)
通常、ガラス板の水分量算出として、同一条件で得られたガラス基板から複数サンプルを切り出し、複数のサンプルについてβ−OH値を測定して水分量を求める。
【0031】
上述のとおり、ガラス基板の屈折率と同程度の屈折率を有し、水酸基を有する物質を含まない成分からなる皮膜層をガラス基板上の主表面に形成して、主表面に皮膜層を有するガラス基板の水分量をIRで測定すると、赤外線吸収スペクトルが滑らかになり、安定した赤外吸収スペクトルが得られるため、より正確なβ−OH値を測定することができ、水分量の測定の精度が向上する。
【0032】
(4)ガラス基板の水分量測定工程とフィードバックプロセス
(4−1)ガラス原料およびカレットの原料配合におけるフィードバック制御
本実施形態のガラス基板の製造方法の一つは、本発明の水分量測定方法に基づいて、成形徐冷後のガラス基板の水分量を、赤外線分光法によるガラス基板中のOH基に起因する吸光度(β−OH値)を用いてβ−OH値を実測した後(実測β−OH値)、熔解工程において、予め定められる基準β−OH値と、実測β−OH値との比較に基づいて、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比(以下、カレット比ともいう)を制御する原料配合制御のフィードバックプロセスを含む。本発明の水分量測定工程の設置は、成形徐冷後、あるいは、熔解工程前に備えて成形徐冷後のガラス基板をフィードバックする、等が挙げられる。
【0033】
ガラス原料とともにカレットを用いるのは、ガラス原料を熔解するためのエネルギーを小さくするためである。カレットは、一度熔融してガラス化されているため、ガラス原料を熔解する場合に比べ、少ないエネルギーで熔解できる。また、ガラス原料とともにカレットを用いることで、ガラス基板の製造工程において生じる製品にならないガラスを再利用することで、産業廃棄物の発生を抑えると共に、原料コストを抑えることができる。
なお、ガラス原料は、後述するガラス基板の組成となるよう用意されたSiO
2、Al
2O
3、B
2O
3等の各成分である。カレットは、ガラス基板の製造工程において生じる耳部と呼ばれるガラスや、ガラスくずである。耳部は、切断工程(ST8)においてガラス板から切り離された、シートガラスの幅方向両側の部分である。
【0034】
ガラス基板中の水分は、ガラス原料やカレットに含まれる水分が熔融ガラスから放出されずにガラス中に残ったり、熔解槽内の熔融ガラスの液面近傍の雰囲気から熔融ガラス中に溶け込んだりすることによって、ガラス基板中に含まれる。ガラス基板中の水分量を一定に保つためには、ガラス原料中の水分量や、熔解槽でのガラス熔解温度、熔融ガラス量、を一定に保つことが挙げられる。
しかし、製造するガラス基板の厚さや求められる品質を実現するために、熔解槽でのガラス熔解温度を変更することや、熔解槽中の熔解ガラス量を変更することが必要となる。これにより、ガラス基板中の水分量が変化してしまうのでガラス基板中の水分量を一定に保つことは困難である。また、外因によって意図せずにガラス基板中の水分量が変化することもある。
【0035】
そこで、本実施形態のガラス基板の製造方法では、本発明のβ−OH値の測定方法を用いて成形徐冷後のガラス基板の水分量の実測データ(実測β−OH値)をモニタリングして、さらに熔解工程へフィードバックし、予め定められる基準β−OH値と、実測β−OH値との比較に基づいて、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比を制御することで、ガラス基板中の水分量の変動による影響を、より正確に精度高く抑えることができる。
熔解工程(ST2)において、ガラス原料に対するカレットを配合量が制御されることで、熔解工程(ST2)では、カレット比に従ってガラス原料およびカレットが最適に配合調整されて投入される。
【0036】
このように、本発明のガラス基板の水分量測定方法に従って水分量(β−OH値)をモニタリングし、さらに、ガラス基板の実測β−OH値が次のガラス基板の製造プロセスに反映され、原料配合においてフィードバック制御が行われることで、ガラス基板のβ−OH値を精度高く管理することができる。
【0037】
(4−2)熔解槽における燃焼加熱制御のフィードバックプロセス
本実施形態のガラス基板の製造方法の一つは、本発明の水分量測定方法に基づいて、成形徐冷後のガラス基板の水分量を、赤外線分光法によるガラス基板中のOH基に起因する吸光度(β−OH値)を用いてβ−OH値を実測した後(実測β−OH値)、熔解工程において、予め定められる基準β−OH値と、実測β−OH値との比較に基づいて、前記ガラス熔解に用いるガス加熱燃焼(酸素燃焼加熱)と電気加熱(直接通電加熱)の比率を制御する、熔解の燃焼加熱制御のフィードバックプロセスを含む。本発明の水分量測定工程の設置は、成形徐冷後、あるいは、熔解工程前に備えて成形徐冷後のガラス基板をフィードバックする、等が挙げられる。
【0038】
熔解工程(ST2)は熔解槽で行われる。熔解槽では、カレット比に従って、ガラス原料およびカレットを、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入することにより熔融ガラスを作る。ガラス原料およびカレットの投入方法は、例えば、ガラス原料等を収めたバケットを反転して熔解槽内の熔融ガラスに投入する方式でも、ベルトコンベアを用いてガラス原料等を搬送して投入する方式、スクリューフィーダによりガラス原料等を投入する方式、でもよい。本実施形態では、バケットを用いてガラス原料等が投入される。
【0039】
熔解槽の熔融ガラスは、例えば、バーナの火炎からの輻射熱により加熱されてもよく、モリブデン、白金または酸化錫等で構成された少なくとも1対の電極(図示されない)間に電流を流して熔融ガラスを通電加熱してもよく、また、通電加熱に加えて、バーナによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解してもよい。本実施形態では、バーナの火炎からの輻射熱及び通電加熱により加熱される。
投入されるガラス原料及びカレットには、清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO2(酸化錫)を用いることが好ましい。
【0040】
バーナに代表される燃焼加熱の比率が高すぎると、製造されるガラス基板のβ―OH値が高くなり、歪点が小さくなるので、熱収縮率のばらつきも大きくなる。
本実施形態の一つとして、本発明のβ−OH値の測定方法を用いて成形徐冷後のガラス基板の水分量の実測データ(実測β−OH値)をモニタリングして、さらに熔解工程へフィードバックし、予め定められる基準β−OH値と、実測β−OH値との比較に基づいて、燃焼加熱と通電加熱の比率を制御することができる。
【0041】
例えば、熔解槽において、バーナ等の燃焼手段を用いた気相中の燃焼加熱と、1対の電極等を用いて、熔融ガラスに電流を流すことにより行う通電加熱とを用いて、SnO
2を含み、粘度が102.5ポアズであるときの温度が1580℃以上であるガラスとなるようにガラス原料を熔解する場合、このとき、予め定められた基準β−OH値を指標として、成形後のガラス基板の水分量(実測β−OH値)を測定して、燃焼加熱と通電加熱が最適に行われているかチェックすることができる。例えば、燃焼加熱と通電加熱発熱量の比において、燃焼加熱の比率が高くなりすぎない様に、成形後のガラス基板の水分量(実測β−OH値)を測定してモニタリングすることで、熔解工程における、通電加熱による発熱量に対する燃焼加熱による発熱量の比を、1.5以上2.8以下となるように、燃焼加熱と通電加熱が、常に最適に、制御することができる。
【0042】
バーナに代表される燃焼加熱の比率が高すぎると、製造されるガラス基板のβ―OH値が高くなり、歪点が小さくなるので、熱収縮率のばらつきも大きくなる。また、燃焼加熱による発熱量の寄与が大きくなり、気相空間の温度が高くなるので、熔融ガラスの液面上のガラス原料の状態でガラス原料に含まれるSnO
2などの清澄剤中の酸素を気相空間中に放出して酸素は拡散する。このため、後工程である清澄工程で熔融ガラスを脱泡するとき、熔融ガラスに含まれる清澄剤から十分な酸素が供給されず、熔融ガラスに含まれる泡に酸素を吸収させて成長させ、熔融ガラスの液面に泡を浮上させて泡を放出させることを十分にできない。すなわち、脱泡処理が十分に行えない。この問題は、清澄効果が高いAs
2O
3を使用せずに、SnO
2を清澄剤として用いる場合に顕著となる。
【0043】
他方、通電加熱の比率が高すぎると、通電加熱による発熱量の寄与が相対的に大きくなり、通電加熱のために流す電流は多くなる。ここで、歪点が高くなるようにガラス組成を調整すると、粘度が10
2.5ポアズであるときの温度が高くなる傾向にあり、熔融ガラスの比抵抗も大きくなる傾向にある。例えば、SnO
2を含有し、粘度が10
2.5ポアズであるときの温度が1580℃以上であるガラスは、熔解槽に貯留される熔融ガラスの温度では熔解槽の底壁の耐火レンガの比抵抗との差が小さくなる。この傾向は、実質的にアルカリ金属酸化物を含まない、あるいはアルカリ金属酸化物の含有率が0質量%以上0.8質量%以下であるアクティブマトリクス型フラットパネルディスプレイ用のガラス基板で特に顕著となる。
このため、1対の電極に供給される電流の一部分は熔融ガラスではなく、熔解槽本体の底壁に流れて底壁が通電加熱される。したがって、比抵抗が高く、高温粘性の高い熔融ガラスを熔解槽でつくる場合、電極対に電流を多量に供給することで底壁にも多量に流れ、この結果、底壁の通電加熱による発熱量は大きくなる。この底壁の発熱量の増大によって、熔解槽の底部の断熱特性により熱がこもるという現象が生じる。この熱ごもりは、底部の耐火レンガの機械的強度を弱めて熱クリープを生じさせて、底部を変形させる虞がある。さらに、熱ごもりにより耐火レンガの温度が耐熱温度を超えて熔損する虞もある。このため、通電加熱による発熱量の寄与が過大になることは好ましくない。
【0044】
以上の点を鑑み、通電加熱による発熱量に対する、燃焼加熱による発熱量の比を1.5〜2.8とすることが好ましい。
【0045】
通電加熱による発熱量は、例えば電力計から消費電力を計測し、消費電力量を求めることができる。消費電力量(kW)から、通電加熱による発熱量(kcal/時)に変換する(1kW=860kcal/時)。なお、消費電力は、電極114の印加電圧と電極114に流れる電流から求めてもよい。燃焼ガスを用いた燃焼加熱の発熱量は、燃焼ガスの燃焼による単位体積当たりの発熱量に単位時間の燃焼ガスの供給量(燃焼ガスの流量)を乗算することで算出される。本実施形態で用いる発熱量の比は、一定時間当たりの発熱量の平均値の比である。ここで、一定時間は、1時間であっても1日でもよい。
【実施例】
【0046】
下記のガラス組成となるよう調合したガラス原料を、耐火煉瓦製の熔解槽と白金合金製の調整槽(清澄槽)を備えた連続熔解装置を用いて、1560〜1640℃で熔解し、1620〜1670℃で清澄し、1440〜1530℃で攪拌した後にオーバーフローダウンドロー法により厚さ0.7mmの薄板状に成形し、Tg〜Tg−100度の温度範囲内において、100度/分の平均速度で徐冷を行い、液晶ディスプレイ用(有機ELディスプレイ用)ガラス基板を得た。
得られたガラス基板の屈折率は約1.51であった。このガラス基板の両面(主表面)に、屈折率1.515の溶液を塗布した。溶液は水分を含まない、水よりも粘性のある液体を用いた。ガラス基板の主表面上にガラス基板と同程度の屈折率を有する被膜を形成し、主表面上に被膜を有するガラス基板についてIRで赤外線吸収スペクトルを測定した。スペクトルの結果を
図4に示した。下記の測定式に基づいてβ−OH値を算出した。
(使用ガラス)
SiO
2:60〜65%、Al
2O
3:15〜20%、B
2O
3:10〜15%、MgO:0〜5%、CaO:0〜10%、SrO:0〜5%、BaO:0〜5%としてください。それでもダメなら、SiO
2:60%、Al
2O
3:16%、B
2O
3:10%、MgO:2%、CaO:8%、SrO:2%、BaO:2%
(ガラスの形状)
実施例(a)のガラスの厚みは0.7mm、実施例(b)のガラスの厚みは0.5mmであった。
[β−OH値の測定]
ガラスのβ−OH値[mm
−1]はガラスのIRで赤外線吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルにおいて次式により求められる。
β−OH値=(1/X)log
10(T1/T2)
X : ガラスの厚さ(mm)
T1 : 参照波長2600nm における透過率(%)
T2 : 水酸基吸収波長2800nm付近における最小透過率(%)
この方法によって計算された実施例(a)のβ−OHの値は、皮膜層なし(皮膜層を形成しない従来の水分量測定)の場合で、0.320〜0.330の範囲であり、0.010のバラツキがあったのに対し、皮膜層ありの場合は0.320〜0.325の範囲で、0.005のバラツキであった。
また、実施例(b)のβ−OHの値は、皮膜層なしの場合で、0.229〜0.279の範囲であり、0.050のバラツキがあったのに対し、皮膜層ありの場合は0.224〜0.245の範囲で、0.021のバラツキであった。
実施例(a)の場合、実施例(b)の場合ともに、皮膜層を形成することにより、β−OHの測定値のバラツキを低減することが出来た。
【0047】
ガラス基板の屈折率と同程度の屈折率を有し、水酸基を有する物質を含まない成分からなる皮膜層をガラス基板上の主表面に形成して、主表面に皮膜層を有するガラス基板の水分量をIRで測定すると、赤外線吸収スペクトルが一定し、安定した赤外吸収スペクトルが得られたため、より正確なβ−OH値を測定することができ、水分量の測定の精度が向上した。本発明の水分量測定方法によれば、測定で得られるβ−OH値の変動を±0.2以内に抑えることが出来る。
【0048】
以上のように、本発明のガラス基板のβ−OH測定方法による水分量測定方法によれば、β−OH値を簡易に高精度に測定することができ、製造プロセスの過程においてガラス基板のβ−OH値の情報を精度高くモニタリングすることができるため、ガラス基板の製造方法において、本発明の水分量測定方法の測定工程を備えることで、原料の配合、溶融加熱するときの条件、溶融ガラスの処理工程で用いられる白金装置の外側の雰囲気条件などを正確に管理することができる。これにより、製造過程で発生する熱収縮率のバラツキを抑えるとともに、熱収縮量の小さいガラス基板を安定して製造することができる。
【0049】
以上、本発明のガラス基板の製造装置、およびガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。