(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-183853(P2017-183853A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】コンタクトマイクロホンエレメント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 1/46 20060101AFI20170908BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20170908BHJP
【FI】
H04R1/46
H04R17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-64864(P2016-64864)
(22)【出願日】2016年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【テーマコード(参考)】
5D004
5D017
【Fターム(参考)】
5D004AA08
5D004BB01
5D004CC01
5D004CD07
5D004CD09
5D004DD03
5D004FF07
5D017BF01
(57)【要約】
【課題】圧電素子を振動素子により押圧し、機械的振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントにおいて、振動素子により前記圧電素子が押圧されても、該圧電素子の破壊を防止する。
【解決手段】エレメントケース5内に振動可能に支持された圧電振動板3と、前記エレメントケースに収容され、前記圧電振動板の上方に配置される振動子6と、を備え、前記振動子は、前記圧電振動板の中心部に当接する球面部6aを有し、前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材7が介在している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動板を振動子により押圧し、前記圧電振動板の機械的振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントであって、
エレメントケース内に振動可能に支持された前記圧電振動板と、前記エレメントケースに収容され、前記圧電振動板の上方に配置される前記振動子と、を備え、
前記振動子は、前記圧電振動板の中心部に当接する球面部を有し、
前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材が介在していることを特徴とするコンタクトマイクロホンエレメント。
【請求項2】
前記弾性部材は固体のゴム部材であることを特徴とする請求項1に記載されたコンタクトマイクロホンエレメント。
【請求項3】
前記弾性部材は液体のゴム部材であることを特徴とする請求項1に記載されたコンタクトマイクロホンエレメント。
【請求項4】
圧電振動板を振動子により押圧し、前記圧電振動板の機械的信号を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法であって、
エレメントケース内に前記圧電振動板を振動可能に支持させるステップと、
球面部を有する前記振動子を前記エレメントケース内の前記圧電振動板の上方に配置し、前記球面部を前記圧電振動板の中心部に当接させるステップと、
前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材を介在させるステップと、を含むことを特徴とするコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法。
【請求項5】
前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材を介在させるステップにおいて、
前記エレメントケース内に室温で硬化する液体ゴムを充填し、前記液体ゴムを室温で硬化させるステップを含むことを特徴とする請求項4に記載されたコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法。
【請求項6】
前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材を介在させるステップにおいて、
前記エレメントケース内に紫外線を照射することにより硬化する液体ゴムを充填し、前記エレメントケース内に充填された前記液体ゴムの上部を紫外線照射により硬化させるステップを含むことを特徴とする請求項4に記載されたコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトマイクロホンエレメント及びその製造方法に関し、特に受音素子として圧電素子が用いられ、振動子が圧電素子を押圧することによる該圧電素子の破壊を防止することのできるコンタクトマイクロホンエレメント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されるような圧電素子は、小型、薄型、低消費電力といった特長から小型、軽量化の要求が高い携帯機器などにスピーカ、圧電ブザーとして数多く用いられている。
圧電素子を例えばブザーとして用いる場合、
図4に模式的に示すように薄板の圧電振動板51を金属板52に貼り付けて素子50を形成することができる。この圧電素子50に交流電圧が印加されると圧電振動板51を形成する圧電セラミックスが伸縮し、繰り返し屈曲振動を生じることで音波が発生する。
【0003】
ところで、圧電素子は電気音響変換器と音響電気変換器の両方の変換機能を有する可逆変換器であるため、スピーカ、圧電ブザーといった発音素子(電気音響変換器)としての用途だけでなく、振動を検出して収音する受音素子(音響電気変換器)にも用いることができる。例えば、振動を検出するマイクロホンには、楽器の振動を吸収するコンタクトマイクロホンや高騒音下の通信に用いられる咽喉マイクロホンがある。こういったマイクロホンにあっては機械的振動を電気信号に変換する上で、出力レベルの大きい圧電素子が多く用いられている。前記のように圧電素子は小型機器等のスピーカや圧電ブザーに数多く用いられているため、多くの種類が生産されており、安価であって目的に合った圧電素子を選択できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭48−29420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記圧電素子を収音素子として用いる場合、圧電セラミックスからなる振動板の厚さが薄いことから、楽器或いは人体にそのまま取り付けた場合、装着時や使用時において、圧電素子に部分的に強い応力が加わり、振動板が破壊されることがある。
【0006】
具体的に説明すると、圧電素子を発音素子として用いる圧電ブザーやスピーカは、振動板の周縁を機械的に固定した状態で電気入力を加えたときの変位は、振動板の中心の位置が最大となる。同様に圧電素子に収音のために応力を加える際、振動板の中心の変位が最大になるようにすると高い出力レベルが得られる。
しかしながら、振動板の中心の変位が最大となるように
図5に示すように圧電素子50を振動子60で局部的に押圧すると、圧電セラミックスからなる振動板51が容易に破壊されていた。
【0007】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、圧電素子を振動素子により押圧し、機械的振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントにおいて、振動素子により前記圧電素子が押圧されても、該圧電素子の破壊を防止することのできるコンタクトマイクロホンエレメント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために、本発明に係るコンタクトマイクロホンエレメントは、圧電振動板を振動子により押圧し、前記圧電振動板の機械的振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントであって、エレメントケース内に振動可能に支持された前記圧電振動板と、前記エレメントケースに収容され、前記圧電振動板の上方に配置される前記振動子と、を備え、前記振動子は、前記圧電振動板の中心部に当接する球面部を有し、前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材が介在していることに特徴を有する。
尚、前記弾性部材は固体のゴム部材であることが望ましい。或いは、前記弾性部材は液体のゴム部材であってもよい。
【0009】
このような構成によれば、振動子が上下方向に振動し、応力が圧電振動板に加わると、球面部が当接する圧電振動板の中心部だけでなく、弾性部材を介して圧電振動板の上面全体が分散された応力を受ける。
したがって、圧電振動板においては、部分的に応力が集中せず、圧電素子の破壊を防止することができる。更には、圧電振動板の全体に対して、応力による変位が加わるため、高い出力レベルを得ることができる。
【0010】
また、前記した課題を解決するために本発明に係るコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法は、圧電振動板を振動子により押圧し、前記圧電振動板の機械的信号を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法であって、エレメントケース内に前記圧電振動板を振動可能に支持させるステップと、球面部を有する前記振動子を前記エレメントケース内の前記圧電振動板の上方に配置し、前記球面部を前記圧電振動板の中心部に当接させるステップと、前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材を介在させるステップと、を含むことに特徴を有する。
尚、前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材を介在させるステップにおいて、前記エレメントケース内に室温で硬化する液体ゴムを充填し、前記液体ゴムを室温で硬化させるステップを含むことが望ましい。
或いは、前記エレメントケース内において、少なくとも前記圧電振動板と前記振動子の球面部との間には弾性部材を介在させるステップにおいて、前記エレメントケース内に紫外線を照射することにより硬化する液体ゴムを充填し、前記エレメントケース内に充填された前記液体ゴムの上部を紫外線照射により硬化させるステップを含むようにしてもよい。
【0011】
このような製造方法によれば、前記コンタクトマイクロホンエレメントを得ることができ、前記した効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0012】
圧電素子を振動素子により押圧し、機械的振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンエレメントにおいて、振動素子により前記圧電素子が押圧されても、該圧電素子の破壊を防止することのできるコンタクトマイクロホンエレメント及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係るコンタクトマイクロホンエレメントの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のコンタクトマイクロホンエレメントにおいて振動子による応力の分散を示す図である。
【
図3】
図3(a)〜(d)は、
図1のコンタクトマイクロホンエレメントの製造方法を時系列に説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、圧電ブザーに用いた圧電素子の動作を示す断面図である。
【
図5】
図5は、圧電素子を収音素子として用いた場合の課題を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るコンタクトマイクロホンエレメントの断面図である。
図1に示すコンタクトマイクロホンエレメント1は、平板状金属板2にセラミックスからなる平板状圧電振動板3を貼り付けた平板状圧電素子4と、この圧電素子4を収容する上方が開口したエレメントハウジング5と、前記圧電素子4とともに前記エレメントハウジング5に収容され、前記圧電素子4を押圧するための振動子6とを備える。
【0015】
前記エレメントハウジング5の底部周縁には、凸状の段差部5aが形成され、この段差部5a上に前記金属板2の周縁端部が支持されている。これにより、圧電素子4の下には空間部5bが形成され、圧電素子4が下方に湾曲できるようになっている。また、エレメントハウジング5内において、圧電素子4と振動子6との間の隙間空間には、ゴム部材7(弾性部材)が充填されている(介在している)。
【0016】
図示するように、前記振動子6の下部は球面状(球面部6aとする)とされ、その最下端は圧電振動板3の中心部に当接した状態となされている。球面部6aの直径は、圧電振動板3の直径に略等しくされている。前記球面部6aと圧電振動板3との間において、それらの接点の周りにもゴム部材7が充填されている。そのため、振動子6が上下に振動して、
図2に矢印で示すように、振動子6から下方に応力Fが加わると、球面部6aが当接する圧電振動板3の中心部だけでなく、ゴム部材7を介して圧電振動板3の上面全体が分散された応力を受ける。
したがって、圧電振動板3に対しては、部分的に応力が集中せず、圧電素子4の破壊が防止される。更には、圧電振動板3の全体に応力による変位が加わることから、高い出力レベルが得られる。
【0017】
続いて、前記コンタクトマイクロホンエレメント1の製造方法について、
図3に基づき説明する。
図3(a)〜(d)は、コンタクトマイクロホンエレメント1の製造方法を時系列に説明するための断面図である。
先ず、
図3(a)に示すように、上方が開口したエレメントケース5を例えば樹脂により形成する。エレメントケース5の底部周縁部には、凸状の段差部5aを形成する。
一方、金属板2に圧電セラミックスからなる薄型の圧電振動板3を貼り付け、圧電素子4を形成する。また、
図3(b)に示すように、圧電素子4をエレメントケース5に収容し、圧電素子4の金属板2の周縁部を段差部5aにより支持する。
【0018】
次いで、圧電素子4を押圧するための振動子6を例えば樹脂により形成する。この振動子6の下部には、圧電振動板3の直径と略同じ径を有する球面部6aを形成する。そして、
図3(c)に示すように前記球面部6aを下向きとして、その最下端が圧電振動板3の中心に当接する状態で一時的に振動子6を保持する。尚、ここでの一時的な保持の手段は限定されず、例えば振動子6の天面を軽く押さえる手段(例えば指先で押さえるなど)を用いてよい。
【0019】
次に、エレメントケース5内に前記のように振動子6を一時的に保持した状態で、
図3(d)に示すように、ケース内に例えば室温で硬化する液状ゴム8が流し込まれる。この作業にあっては、気泡除去のために望ましくは真空室内で行う。エレメントケース5内において、液状ゴム8は圧電素子4と振動子6との間の隙間に流れ込み、ケース内の隙間は液状ゴム8により充填される。
この状態で所定時間放置すると、液状ゴム8は室温で硬化し、
図1に示したようにゴム部材7となり、本発明に係るコンタクトマイクロホンエレメントが製造される。
【0020】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、圧電振動板3の中心には、該圧電振動板と略同径に形成された振動子6の球面部6aが当接する。そして、その接点の周囲における球面部6aと圧電振動板3との間にもゴム部材7が充填される(介在する)。
この構成において振動子6の上下方向の振動により応力が圧電振動板3に加わると、球面部6aが当接する圧電振動板3の中心部だけでなく、ゴム部材7を介して圧電振動板3の上面全体が分散された応力を受ける。
したがって、圧電振動板3においては、部分的に応力が集中せず、圧電素子4の破壊を防止することができる。更には、圧電振動板3の全体に対して、応力による変位が加わるため、高い出力レベルを得ることができる。
【0021】
尚、前記実施の形態においては、ゴム部材7を室温で硬化する液状ゴムを使用して形成するものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、紫外線を照射することにより硬化する液状ゴムを用い、振動子6の周囲にのみ紫外線を照射し、振動子6の周囲のみを硬化させてもよい。その場合、振動子6の周囲のみ(液状ゴムの上部のみ)が硬化され、振動子6と圧電素子4との間の隙間空間には硬化されないで液状ゴム8が介在するため、応力の分散効果を奏しつつ圧電振動板3(圧電素子4)の振動をよりスムーズなものとすることができる。
【0022】
また、前記実施の形態においては、振動子6の天面部を除く全体をゴム部材7で覆うものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、少なくとも振動子6と圧電振動板3との間の隙間にゴム部材が介在している構成であればよい。
【0023】
また、前記実施の形態においては、振動子6と圧電振動板3との間に介在させる弾性部材をゴム部材としたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、ゴム部材以外の弾性部材(例えば発泡ウレタンフォーム)であってもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 コンタクトマイクロホンエレメント
2 金属板
3 圧電振動板
4 圧電素子
5 エレメントケース
6 振動子
7 ゴム部材(弾性部材)
8 液状ゴム