【解決手段】移動端末との間で通信を行い、当該移動端末の試験を行う移動端末試験装置であって、当該移動端末試験装置は、移動端末からの無線信号中のサイクリックプレフィックスに基づき、当該サイクリックプレフィックスに対応する無線信号のサブフレームのスタートタイミングを検出し、スタートタイミングに基づき、無線信号のサブキャリアの周波数帯域より小さい非整数倍周波数エラーを算出し、当該非整数倍周波数エラーの分だけ無線信号の周波数を補正する非整数倍周波数エラー補正を行い、非整数倍周波数エラー補正の後、サブキャリアの周波数帯域の整数倍に相当する整数倍周波数エラーを算出し、当該整数倍周波数エラーの分だけ無線信号の周波数を補正する整数倍周波数エラー補正を行う。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1において、本発明の一実施形態に係る移動端末試験装置1は、擬似基地局として同軸ケーブル等の有線で、移動端末2と無線信号を送受信するようになっている。なお、移動端末試験装置1は、アンテナを介して無線で移動端末2と信号を送受信するようにしてもよい。
【0015】
移動端末試験装置1は、無線信号処理部10と、無線ハードウェア制御部11と、コールプロセッシング部12と、無線信号測定部13と、ユーザインターフェース部14と、制御部15とを含んで構成されている。
【0016】
無線信号処理部10は、移動端末2との間で無線信号を送受信するものである。無線信号処理部10は、コールプロセッシング部12及び無線信号測定部13の送信データを、符号化や、変調、周波数変換などして無線信号を生成して送信する。また、無線信号処理部10は、移動端末2から受信した無線信号を、周波数変換や、復調、復号などしてコールプロセッシング部12及び無線信号測定部13に出力する。
【0017】
無線ハードウェア制御部11は、無線信号処理部10を制御して、無線信号の送受信レベルや周波数などを制御するものである。
【0018】
コールプロセッシング部12は、無線信号処理部10及び無線ハードウェア制御部11と接続され、試験条件に応じて設定された周波数や多重化方式などのコンポーネントキャリアのパラメータに従って無線ハードウェア制御部11に設定信号を送信して、無線信号処理部10に試験条件に適合した無線信号を送信させる。また、コールプロセッシング部12は、無線信号処理部10を介して、移動端末2との間で無線信号を送受信して、コンポーネントキャリアとしての試験条件に適合した呼接続を移動端末2との間で行なったり、試験条件に対応したコンポーネントキャリアとしての呼制御を行なったりするものである。また、コールプロセッシング部12は、設定された多重化方式などのパラメータに従って無線信号処理部10に設定信号を送信して、無線信号処理部10に試験条件に適合した無線信号を送信させる。
【0019】
無線信号測定部13は、無線信号処理部10と接続され、無線信号処理部10の送受信する無線信号の送受信レベルやスループットなどを測定し、測定結果を制御部15に出力するようになっている。制御部15は、無線信号測定部13からの測定結果を時刻情報などと関連付けてハードディスク等に記憶しておき、ユーザの要求によりユーザインターフェース部14に表示出力させたり、ログとしてファイルに出力したりするようになっている。
【0020】
ユーザインターフェース部14は、ユーザからの操作入力を受け付ける入力部141と、コンポーネントキャリアのパラメータの設定画面や無線信号測定部13の測定結果などを表示する表示部142とを備えている。入力部141は、タッチパッドやキーボードやプッシュボタンなどによって構成される。表示部142は、液晶表示装置などによって構成される。
【0021】
制御部15は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、ハードディスク装置と、入出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0022】
このコンピュータユニットのROM及びハードディスク装置には、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部15として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、CPUがROM及びハードディスク装置に記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、制御部15として機能する。
【0023】
制御部15の入出力ポートには、無線ハードウェア制御部11、コールプロセッシング部12、無線信号測定部13、ユーザインターフェース部14が接続されている。
【0024】
なお、本実施形態において、無線ハードウェア制御部11、コールプロセッシング部12、無線信号測定部13は、各処理を実行するようにプログラミングされたDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによってそれぞれ構成されている。また、無線信号処理部10は、通信モジュールによって構成されている。
【0025】
制御部15は、表示部142に表示させたパラメータ設定画面に従って入力部141による入力操作により設定されたパラメータに基づいて、無線ハードウェア制御部11に設定信号を送信して無線信号処理部10が送受信する無線信号の周波数や多重化方式を制御して、無線信号測定部13に測定を行なわせる。また、制御部15は、設定されたパラメータをコールプロセッシング部12に通知して、設定されたパラメータに適合したコンポーネントキャリアの通信を確立させる。
【0026】
また、制御部15は、入力部141に入力された指示に従って、無線ハードウェア制御部11及びコールプロセッシング部12に信号を送信して、試験用の呼制御などを行なわせるようになっている。
【0027】
移動端末試験装置1は、移動端末2の試験に際し、移動端末2からの無線信号を円滑に受信することが重要である。通常、試験において、移動端末2からの無線信号の周波数は固定されており、移動端末試験装置1は予め当該周波数を図示せぬ記憶装置に記憶している。移動端末2が、あらかじめ定められた手順に従って所定の周波数の無線信号を送信し、移動端末試験装置1が、当該周波数をもって無線信号を受信し、試験を行うことができる。
【0028】
ところが、種々の要因により、移動端末2からの無線信号の周波数ずれ、いわゆる周波数エラー(周波数オフセットなどとも呼ばれる)が生じることがある。移動端末試験装置1が、同軸ケーブル等の有線で移動端末2と無線信号を送受信する場合、例えば移動端末2内の発振器のドリフトにより、周波数エラーが生じ得る。また移動端末試験装置1がアンテナを介して無線で移動端末2と信号を送受信する場合、例えば移動する車両内に移動端末2が配置されると、ドップラー効果により周波数エラーが生じ得る。その他、様々な周波数エラーを引き起こす要因が存在する。そして、このような周波数エラーが生じると、移動端末試験装置1は移動端末2からの無線信号を受信しても、正しい周波数を把握することが困難となる。この結果、円滑な試験が妨げられることとなる。
【0029】
上述したような問題に対し、従来の試験装置においては、試行錯誤方式により、移動端末2からの無線信号の周波数に合致する周波数を検出することが行われている。すなわち、移動端末試験装置1では、基準信号の設定周波数が、理想の周波数として予め設定されている。そして、移動端末試験装置1が、移動端末2からの実際の無線信号の周波数に合致するように、当該基準信号の設定周波数を変動させて試験を行うことが行われている。具体的には、移動端末試験装置1が、移動端末2からの無線信号を受信し、受信した無線信号と、予め保持した理想的な周波数を持つ基準信号との間の相関値を測定する。測定した相関値が所定の閾値を満たさない場合、移動端末試験装置1が、あらかじめ設定された基準信号の設定周波数を任意にシフトさせ、シフト後の無線信号と基準信号との間の相関値を測定する。このような処理を繰り返すことにより、移動端末2の無線信号の周波数を検出する。
【0030】
しかしながら、このような周波数シフトの試行錯誤を伴う方法は、高い計算能力を要し、時間がかかるため、結果的に試験時間の長期化を招いている。また、相関値は、受信した無線信号内の参照信号(RS;Reference Signal)と、移動端末試験装置1に予め設定された基準信号とを比較することにより求められる。もし、受信した無線信号の周波数エラーが大きい場合、無線信号内の参照信号のタイミングを、試験条件により制約された所定の時間内に検出することが不可能になる場合もある。ここで、参照信号(RS)は、無線信号の同期検波(搬送波の基準位相と受信信号の位相を比較して、受信信号から送信データを取り出す復調方式)のために、予め無線信号に配置された信号である。
【0031】
そこで、本実施形態の移動端末試験装置1は、
図2に示すフローチャートの処理手順にしたがって、移動端末2からのテスト信号である無線信号(上り信号、アップリンク信号)を受信した後、移動端末2からの無線信号の周波数エラーを補正し、当該無線信号の周波数を移動端末試験装置1に設定された基準信号の設定周波数に合致させる。この手順により、移動端末試験装置1は、周波数エラーをなくすように、実際の移動端末2の無線信号の周波数を補正するので、結果的に円滑な試験が可能となる。
【0032】
図2に示す処理手順は、CP相関を用いた最尤推定によるスタートタイミング検出のステップS1と、非整数倍周波数エラー補正のステップS2と、整数倍周波数エラー補正のステップS3と、を含む。以下、処理手順の詳細を説明する。
【0033】
(1)ステップS1(CP相関を用いた最尤推定によるスタートタイミング検出)
まず、移動端末試験装置1の無線信号処理部10は、移動端末2からの無線信号について、当該無線信号の各シンボルの先頭に付与されたサイクリックプレフィックス(CP;cyclic prefix)が到着するタイミング(CPタイミング)であるスタートタイミングを検出する。すなわち、無線信号処理部10は、移動端末2からの無線信号中のCPに基づき、当該CPに対応する無線信号のスタートタイミングを検出する。
【0034】
本処理の前提として、無線信号のCPについて説明する。
図3は、移動端末2から送信された無線信号に含まれるデータのフレーム構造の一例を示す。本例は、LTEの規格で採用されているFDD(Frequency Division Duplex;周波数分割複信)のデータフレーム構造を示し、いわゆる時間領域(ドメイン)における構造である。
図3(a)に示す1無線フレームの時間長は、例えば10msであり、例えば10個のサブフレームから構成される。
図3(b)に示すように、このサブフレーム(時間長1ms)は、例えば2つのスロットに分割される。
図3(c)に示すように、各スロット(時間長0.5ms)は、例えば7つのOFDMシンボルからなり、各OFDMシンボルの先頭にはCPが付与されている。
【0035】
CPは、LTEで採用されているOFDMのサブキャリア間の直交性を維持するための信号区間であり、一般的な技術である。
図3(d)に示すように、このCPは、移動端末2において、有効シンボルの末尾から所定の長さ(ガードタイム)の末尾部分であるLPをコピーし、有効シンボルの先頭のガードタイム上に貼り付けることにより得られる。
図3(d)に示すLは1シンボルの長さ(シンボル長)に相当する。
【0036】
無線信号処理部10は、以下の(1)式に基づき、
図3(c)の各OFDMシンボルの先頭のCPが到着するタイミングであるCPタイミングn
startを検出する。
【0038】
上記(1)式中のy(n)はCP相関値と呼ばれるものであり、以下の(2)式より算出される。
【0040】
上記(2)式における各記号は以下の意味である。
【0041】
k:サンプル信号の番号(サンプル番号)
r(k):サンプル番号kにおける信号波形
r
*(k+L):サンプル番号k+Lにおける信号波形
Ncp:サイクリックプレフィックスの長さ(サイクリックプレフィックス長;CP長)
L:シンボルの長さ(シンボル長)
【0042】
無線信号処理部10は、例えば、
図3(a)に示す1無線フレームにおいて、所定のサンプリング位置であるサンプル番号kにおける信号波形r(k)を検出するとともに、サンプル番号kからシンボル長Lだけずれた位置における信号波形r
*(k+L)をも検出する。この検出は、任意のサンプル番号であるk=nからk=n+(Ncp−1)まで実施される。そして、(2)式により、r(k)とr
*(k+L)の相関値であるCP相関値y(n)が求められる。
【0043】
上述した様に、CPは、有効シンボルの末尾部分から所定の長さ(ガードタイム)の末尾部分LPをコピーし、有効シンボルの先頭のガードタイム上に貼り付けることにより得られる。すなわち、基本的にCPにおける信号波形と、有効シンボルの末尾部分LP(
図3(d)参照)の信号波形は同じであり、相関値も高いはずである。よって、シンボル長Lだけ離れたr(k)とr
*(k+L)の相関値が高い値をとる場合、ここでのnは、CPのスタートタイミングと推定することができる。
【0044】
また、上記(1)式中のw(n)はいわゆるエネルギー項であり、受信したテスト信号の強度の影響をキャンセルするための値であって、以下の(3)式より算出される。
【0046】
また、ノイズの影響をキャンセルするため、エネルギー項w(n)に重みづけ係数ρが掛け合わされる。そのうえで、CPタイミングn
startが、上記(1)式で算出される。(1)式のarg maxは、最大値点集合(argument of the maximum)を意味し、arg max[f(n)]は、f(n)を最大にするnの値であって、最尤推定で用いられる演算の一種である。すなわち、(1)式は、{|y(n)|−ρ*w(n)}が最も大きくなるnのことを意味し、時間領域での値であって、CPタイミングのことを意味する。nは番号によりタイミングを表すが、実際のサンプリングレートで割ることにより、時間単位(秒など)に変換することができる。尚、このようなCP相関を用いた処理について、以下の参考文献にはその詳細が説明されている。
【0047】
参考文献:M. Sandell, et al, “ML Estimation of Time and Frequency Offset in OFDM Systems,” in IEEE Transactions on Signal Processing, vol.45, no.7, pp. 1800-1805, July 1997)
【0048】
上述した様に、従来においては、移動端末試験装置1が、受信したテスト信号である無線信号内の参照信号と、予め設定された基準信号とを比較することにより周波数エラーの生じている無線信号の補正を行っていた。ここで無線信号に周波数エラーが生じている場合は、移動端末試験装置1は、試行錯誤方式により、自らの無線信号の周波数を任意にシフトさせ、シフト後の無線信号と基準信号との間の相関値を測定する。このような処理の繰り返しは時間のかかるものであった。
【0049】
しかしながら、上記のようなCP相関を用いた最尤推定は、移動端末試験装置1において予め設定された基準信号は用いず、無線信号のみを用いた相関値の算出である。具体的に言えば、r(k)とr
*(k+L)のように、移動端末2からの無線信号の一部を用いてCPタイミングを検出することができる。移動端末2からの無線信号に周波数ずれが生じていても、CPタイミングを検出することは容易であり、周波数エラーの補正を容易に行うことができる。
【0050】
(2)ステップS2(非整数倍周波数エラー補正)
移動端末2からの無線信号の周波数エラー(全周波数エラー)は、非整数倍周波数エラー(fractional frequency error)と、整数倍周波数エラー(integer frequency error)とに分解することができる。OFDMの如きマルチキャリア伝送においては、通信は複数のサブキャリアによって行われ、1サブキャリアが周波数領域の最小単位となる。例えばLTEでは、1サブキャリアの周波数帯域(サブキャリア間隔)Δfは15kHzである。そして、整数倍周波数エラーは、サブキャリア間隔の整数倍に相当する周波数エラーΔf
i=(Δf×n、nは正の整数)であり、非整数倍周波数エラーは、サブキャリアの周波数帯域より小さい、すなわちサブキャリア間隔の非整数倍に相当する周波数エラーΔf
f=(Δf×x、0<x<1)である。言い換えると、全周波数エラーΔf
tは、整数倍周波数エラーΔf
iと、非整数倍周波数エラーΔf
fの和から算出可能である。
【0051】
そして、本実施形態では、無線信号処理部10はまずステップS1で実際に検出されたCPタイミングn
startを用いて、時間領域における非整数倍周波数エラーを算出する。無線信号処理部10は、特にCPタイミングにおける位相偏角である∠y(n
start)を用いて、非整数倍周波数エラーf
FCCO(ε)=εを、以下の(4)式により算出する。CPタイミングにおける位相偏角である∠y(n
start)は、(2)式により求められるCP相関値y(n)の位相偏角である。このCP相関値の実部がIであり、虚部がQである場合、∠y(n
start)は、tan
−1(Q/I)により求められる。
【0053】
LTEでは、1サブキャリアの周波数帯域(サブキャリア間隔)は15kHzであり、位相軸における位相偏角2π、4π、・・・2nπ(nは正の整数)が、周波数帯域の0〜15kHzに相当する。(4)式における(−1/2π)∠y(n
start)は、1サブキャリアに対するエラーの割合を示し、非整数倍周波数エラーf
FCCO(ε)は、(−1/2π)∠y(n
start)に15kHzを乗ずることによる算出される。
【0054】
すなわち、非整数倍周波数エラーf
FCCO(ε)=εは、ε=[−1/2π*位相偏角]*サブキャリアの周波数帯域、によって求められる。
【0055】
図4は、非整数倍周波数エラー補正処理を示す概念図である。
図4では、横軸は周波数を示すが、非整数倍周波数エラー補正は、後に述べる無線信号のFFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)処理の前に実行される。FFT処理は、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する処理であり、非整数倍周波数エラー補正は時間領域での補正であって、周波数領域での補正ではない。
【0056】
周波数帯域F1は、予め移動端末試験装置に設定された理想信号である基準信号の周波数帯域を表し、周波数帯域F2は、移動端末2からの無線信号の周波数帯域を表す。
図4の上部に示すように周波数帯域F2は、基準となる周波数帯域F1から所定の周波数である全周波数エラーTFEだけずれている(オフセットしている)。全周波数エラーTFEは、非整数倍周波数エラーFFEと整数倍周波数エラーIFEとを含む。
【0057】
無線信号処理部10は、上述のプロセスにより、非整数倍周波数エラーFFEを補正して非整数倍周波数エラーFFEをなくすため、移動端末2からの無線信号の周波数帯域F2は、
図4の下部に示すように非整数倍周波数エラーFFEの分だけ補正される。
【0058】
(3)ステップS3(整数倍周波数エラー補正)
次に無線信号処理部10は、整数倍周波数エラーを算出する。ステップS2の非整数倍周波数エラー補正の後、無線信号処理部10は、FFT処理を含む無線信号の復調を行い、
図3に示した時間領域のデータを周波数領域のデータに変換する。無線信号処理部10は、さらに変換した当該データについて、整数倍周波数エラー補正を行う。
【0059】
無線信号処理部10は、無線信号内の参照信号のシンボル(参照信号シンボル;RSシンボル)を獲得する。例えばLTEでは、RSシンボルは上述したような同期検波のため、各スロット(
図3(c)参照)の第4番目の位置(第4シンボル)に配置されると定められている。ここで、予めステップS1で得られたCPタイミングがスロットの先頭であれば、無線信号処理部10はRSシンボルを獲得することができる。
【0060】
そして、無線信号処理部10は、獲得したRSシンボルの位置を参照してFFT処理を実行し、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。この変換により、周波数に対応した無線信号の信号強度であるパワースペクトル(電力強度であってもよい)が得られる。
【0061】
図5は、整数倍周波数エラー補正処理を示す概念図である。
図5の上部の図は、
図4の下部の図と同じであって、非整数倍周波数エラー補正処理後の周波数帯域F2と周波数帯域F1との関係を概念的に示したものである(ただし、
図4ではあくまで時間領域での信号であり、
図5では周波数領域の信号である)。FFT処理により、移動端末2からの無線信号の周波数帯域F2は、パワースペクトルを示しているということができる。
図4で示した非整数倍周波数エラー補正処理後は、整数倍周波数エラーだけが残っており、周波数帯域F2をサブキャリアの整数倍だけずらせは、周波数帯域F2は、基準となる周波数帯域F1に一致することが理解できる。
【0062】
本処理では、ステップS1、S2における相関値は用いずに、
図5の上部の図に示されている、整数倍周波数エラーIFEの特性に注目している。
図5の上部の図においては、3つのサブギャリアの周波数帯域(15kHz×3=45kHz)に相当する整数倍周波数エラーIFEが含まれている。整数倍周波数エラーIFEに相当する各サブキャリアは、当然ながら実体的なデータを含んでおらず、空のサブキャリアということができ、空のサブキャリアということが判定できれば、どれだけの量の整数倍周波数エラーが残っているかを判定できる。
【0063】
空のサブキャリアか否かを判定するのに問題となるのがノイズである。ノイズの強度が大きいと、たとえ実体的なデータがない、空のサブキャリアであっても、ノイズのために見かけ上は信号強度が大きくなるため、空のサブキャリアとして判定することが困難となる。
【0064】
ここで、移動端末2からのテスト無線信号に用いられる参照信号シンボル(RSシンボル)は、一般的にZadoff−Chu系列から生成されることに着目する。Zadoff−Chu系列とは、系列長が奇数であり、各サンプルが複素数であって、かつ左右対称性のある系列信号である。そしてZadoff−Chu系列による参照信号シンボルは、全サブキャリアに渡って、その信号強度、パワースペクトルが一定であり、フラットになるという特徴を持っている。
【0065】
そこで、予めZadoff−Chu系列による参照信号シンボルの一定の信号強度より小さく、かつ、発生し得ると想定するノイズよりも大きい所定の閾値(電力閾値)について定めておく。無線信号処理部10は、受信した各サブキャリアの信号強度をこの閾値と比較し、信号強度が閾値より大きければ、実体的なデータを有する空ではないサブキャリアと判定し、信号強度が閾値より小さければ、単なるノイズであって、実体的なデータのない空のサブキャリアと判定することができる。たとえサブキャリアの数が多くても、このような受信信号の信号強度と閾値の比較は容易であるため、計算の負担は小さく、周波数エラー補正のレンジを制限することなく、結果的に全周波数エラー補正を円滑に実行することができる。
【0066】
図5の上部の図では、移動端末2からの無線信号の周波数帯域F2が、基準となる移動端末試験装置1の周波数帯域F1から、三つのサブキャリアに相当する整数倍周波数エラーIFEだけずれていることを示している。上述した閾値を用いた判定により、無線信号処理部10は、三つのサブキャリアが空であることを判定できるため、
図5の下部の図に示すように、整数倍周波数エラー補正を実行し、周波数帯域F2が周波数帯域F1に合致するように補正することができる。
【0067】
無線信号処理部10は、補正した無線信号のデータを無線信号測定部13に送り、無線信号測定部13は所定の測定の後、当該データを制御部15に送る。無線信号測定部13は、正しい周波数に対応したデータに基づき各種の測定を行うことが可能となり、制御部15は、正しいデータに基づき各種の制御を行うことが可能となる。
【0068】
図6は本発明の実施形態による効果をグラフ形式で示す図である。
図6(a)は、上り信号について、上り信号が持っている周波数エラー(横軸)と、測定した周波数エラー(縦軸)の関係を示すグラフである。破線で示すように、従来の試験装置によれば、0から約±10kHzまでの周波数エラーしか補正することができなかったが、実線で示すように、本発明の実施形態の移動端末試験装置1によれば、0から約±97.5kHzまでの周波数エラーを修正することができた。
【0069】
図6(b)は、上り信号について、上り信号が持っている周波数エラー(横軸)と、EVM(Error Vector Magnitude;エラーベクトル振幅)の関係を示すグラフである。EVMは信号品質の尺度の一つであり、小さいほど信号品質が高いことを示す。破線で示すように、従来の装置によれば、0から約±10kHzまでの周波数エラーのみでしか、EVMを正しく測ることしかできなかったが、実線で示すように、本発明の実施形態の移動端末試験装置1によれば、0から約±97.5kHzまでの周波数エラーにおいてEVMを正しく測ることができた。
【0070】
すなわち、従来の試験装置は試行錯誤方式により自らの無線信号の周波数を移動端末に合致させるため時間がかかり、小さい周波数エラーしか補正できないため、0から約±10kHzまでの周波数エラーしか補正することができない。一方、本発明の移動端末試験装置は、試行錯誤方式により自らの無線信号の周波数を変動させることはせず、移動端末からの無線信号のみから、当該無線信号それ自身を補正する。そして、移動端末からの無線信号の補正は、無線信号のスタートタイミングの検出後、非整数倍周波数エラー補正および、整数倍周波数エラー補正のみによって速やかに行うことが可能であるため、0から少なくとも約±100.kHzまでの周波数エラーを補正することができる。
【0071】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。