【解決手段】スピーカ1は、中空部12を有する共鳴体10と、共鳴体10の中空部12の外側に着脱可能に取り付けられた音源20と、を備えることを特徴とする。共鳴体10は、ドーナツ状に形成されていてもよい。音源20は、振動スピーカとしてもよく、その振動部21が音源室13の接触面15に当接されてもよい。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカは、磁石と、コイルと、振動板とから構成されるのが一般的であり、エンクロージャーと呼ばれる筐体に組み付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1は、高忠実度立体音場再生におけるスピーカシステムに関し、特に聴き心地の良い音響効果を持つエンクロージャー(筐体)によるスピーカシステムを提供するものであって、筐体の全貌は木製の正立方体から成り、前面には一個のスピーカユニットを装着し、後面は全開口部となり全体積の前方2分の1は空気室であり、残る後方2分の1が段ボールで成形された音響フイルターからなるエンクロージャー(筐体)を開示している。
【0004】
しかしながら、特許文献1のようなスピーカユニットでは、音を出すためにスピーカユニットの正面を網状・多孔状にする必要があるなど形状に制約があった。また、聴き疲れしない、会話を邪魔しない、BGMに適した音色を必ずしも提供できないという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
【0014】
(スピーカの構成)
本実施形態に係るスピーカ1はドーナツ状の円環形状をしたものであり、例えば、
図1に示すように、スピーカ1を部屋Rの壁に掛け、ソファSに腰掛けに座って明るくなった窓Wをブラインダで柔らかく日差しを遮りながら、ゆったりとBGMを聴くのに適している。一見してスピーカらしくない形状から発せられる音、音楽は、人をやさしく包み込む。以下、スピーカ1について、詳しく説明する。
【0015】
図2及び
図3は、スピーカ1を背面からみた斜視図及び分解斜視図をそれぞれ示している。スピーカ1は、中空部12を有する共鳴体10と、共鳴体10の中空部12の外側に着脱可能に取り付けられた音源20とを備えている。
【0016】
共鳴体10は、ブロー成形によって成形された中空の成形体であり、外殻11と、外殻11に覆われた中空部12から構成される。素材としては、取扱いの便宜や音の反響などから、例えばABS樹脂を好適に用いることができる。共鳴体10は、種々の形状や大きさをもって成形してよいが、本実施形態では、ドーナツ状に成形された例を示している。大きさとしては、例えば、外径を40cm程度、内径を15cm程度、環径を12cm程度などとすることができる。
【0017】
共鳴体10には、中空部12の一部を仕切って形成された音源室13が設けられており、音源室13の中には、音源20が収納され着脱可能に取り付けられる。音源室13を設ける位置は、中空部12の空間であれば特に制限はないが、例えば壁に掛けたりするときの重量バランスや取り使い易さ、また、音源20の取り替えなどの便宜から、壁に掛けたときに共鳴体10の下部となる中空部12に設けると都合がよい。
【0018】
図1に示すように、音源室13には蓋材14が被せられており、取り付けられた音源20(
図2参照)を保護する。蓋材14は、係合部材14aによって音源室13に係合されており、着脱時に便利なように開口14bを設けている。開口14bの上方には、内部の音源20の音量を表示する表示部14cが設けられている。
【0019】
共鳴体10の外殻11の背面には、音源室13のほかに、壁に共鳴体10を掛けた際に隙間を確保するためのスペーサ11aが設けられており、壁掛け穴11bによって壁に取り付けられているフックに引っ掛けられるようになっている。スペーサ11aは、例えば緩衝作用を有する樹脂によって形成される。なお、
図5のC−C線断面として、スペーサ11aの断面図を
図10として示している。
【0020】
図2に示すように、音源室13は、共鳴体10の中空部12に窪むように成形されており、最も奥側にある接触面15が音源20と当接する。音源20としては、後述するように振動スピーカを好適に用いることができるが、音源20の振動部21が接触面15にしっかり当接するように、音源20は音源室13内に取り付けられる。そして、蓋材14の係合部材14aは、音源室13の被係合部材13aに係合する。
【0021】
音源室13の接触面15は、音源20の振動部21の振動を音に変換するのに適した形状、例えば平面形状をしている。接触面15は、その厚みや面積によって発する音が変化するが、スピーカ1を設置する場所などを勘案して、接触面15の厚みや面積を設定することによって、スピーカ1から流れ出る音の音域(周波数)を調整することができる。この点については、実施例として後述する。
【0022】
ここで、あらためて、スピーカ1の外観を述べておく。
図4から
図8は、それぞれ、スピーカ1の正面図、背面図、平面図、底面図、右側面図(左側面図は対称に現れる)に示しており、スピーカ1はここではドーナツ状の円環形状をしている。ただし、
図6から
図8に示すように、壁に掛ける側の背面は、平面視、底面視、側面視において、正面よりも扁平に形成されており、前述したように、背面には壁との隙間を確保するためのスペーサ11aが設けられている。なお、
図7に示すように、音源室13の蓋材14の開口14bの上部底面には、音源20のスイッチ14dと、ON/OFFを示すランプ14eが設けられている。
【0023】
次に、共鳴体10と音源20の配置関係について、
図9及び
図11を参照して説明する。音源室13は、中空部12に窪むように形成されており、奥側の接触面15には音源20の振動部21が当接している。音源20は、蓋材14によって確実に奥側の接触面15と音源20の振動部21が当接するように押えられている。音源20の振動部21以外の部位が共鳴体10に余計な振動を伝えないように、振動部21以外の部位と音源室13の接触面15以外の壁面との間には緩衝材を挟んでもよい。
【0024】
音源20の振動部21によって振動させられた接触面15の振動によって発せられた音は、共鳴体10の中空部12の内部で共鳴しながら広がっていく。と同時に、外殻11自身も振動し、外部に音を発する。中空部12は、接触面15で発せられた音を内部で共鳴するのに適した形状をしており、音を聴き心地良いものに調整するはたらきをもつとともに、音を広げるのに適した形状をしている。実際に本実施形態に係るスピーカ1から音を聴くと、ドーナツ状の何もないはずの中央の空間から音が聴こえてくるようで、不思議な、そして、何とも言えないやさしい音を感じることができる。
【0025】
本実施形態では、音源20として振動スピーカを好適に用いることができる。従来のスピーカは、主に、コイルと、永久磁石と、振動板(コーン紙)とから構成されており、コイルに音声信号に基づく交流電流が流れると電磁石になり、永久磁石との間で引合い、反発が生じる。これによって、コイルが前後方向に振動し、コイルに直結している振動板が振動して音が発せられる。
【0026】
さらに、従来のスピーカは、エンクロージャーと呼ばれる筐体に組み付けられる。音には障害物の裏側に回り込む性質(回折)があり、これは低音になるほど顕著となる。スピーカをむき出しの状態で使用すると、裏から出た低音が前に回り込んで打ち消しあってしまい、低音が小さくなってしまう。そこで、スピーカをエンクロージャーに取り付けることで裏から出た音を遮断し、低温が出るように調整されている。また、音を出すために、スピーカの正面は、網状・多孔状にする必要がある。
【0027】
これに対し、振動スピーカは、コーン紙などの特定の振動板を備えておらず、それ自体では振動は音に変換されない構造となっている。そして、露出している振動部21を、例えば家の壁、床、その他自動車の天井や花など共鳴するものに直接的に接触させると、振動がそれらのものに伝わり、音を発する。換言すれば、振動スピーカは、スピーカの系外のものを振動板とするスピーカである。
【0028】
振動スピーカは、前述したように、音源20として、共鳴体10の中空部12の一部を仕切って設けた音源室13に取り付けられる。そして、振動スピーカの振動部21が音源室13の接触面15を振動させる。そうすると、従来のスピーカの振動板にあたる部分が共鳴体10の中空部12となって音が発せられる。さらに、共鳴体10の外殻11自体も振動して音を発する。このような仕組みによって音が発せられるため、共鳴体10の外殻11の形状の制約が少なく、一般のエンクロージャーのように穴を設ける必要もなく、より自由に形状を選択することができる。
【0029】
本実施形態に係るスピーカ1は、共鳴体10の中空部12で音を共鳴させることで、高音域・低音域の音を低減し、中音域の音を増幅することができる。これにより、聴き疲れしない、会話を邪魔しない、BGMに適した音色になる。なお、スピーカ1は、振動スピーカ(音源20)の態様に応じて、有線であっても無線であってもよい。無線であれば、コードレスのスピーカ1ということで、
図1に示したように、音響機器としてのみならず室内に設置したときのインテリアとしても意匠性の高さを最大限発揮することができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態では、振動スピーカ(音源20)をドーナツ状の中空部12に入り込むように設けた窪みである音源室13に、中空部12からみると外壁となる音源室13の接触面15に接触させている。本発明の研究途上において、ドーナツ状の中空部から外側に突出する中空の立方体部を設け、その内壁に振動スピーカを貼り付ける態様も考えられたが、この態様では振動スピーカが接する部分が中空部から突出した立方体部分であるため共鳴効果が限られることが判明した。本実施形態では音源20である振動スピーカの振動部21を中空部12内に位置させることから、中空部12内に音を導きやすく、大きな共鳴効果が得られる。また、製造面においても、内部に振動スピーカを取り付ける態様よりも、本実施形態のように外側から組み込む態様のほうが製造を容易とすることができる。
【0031】
(スピーカの製造方法)
本実施形態に係るスピーカ1は、共鳴体10をブロー成形によって成形した後、音源室13に音源20である振動スピーカを取り付けて製造する。以下では、共鳴体10をブロー成形する工程について、
図12を参照して説明する。
【0032】
まず、
図12(a)に示すように、キャビティ101a、101bが共鳴体10に対応するようにドーナツ状に縁取られた分割金型100a,100bを用意する。分割金型の上方には、パリソンPを押し出す押出し装置(不図示)に接続されているヘッド200が備えられている。次に、
図12(b)に示すように、ヘッド200からパリソンPを分割金型100a,100bの間に押し出す。パリソンPは、一対のシート状であってもよいし、円筒状であってもよい。
【0033】
パリソンPが所定の位置に達すると、
図12(c)に示すように、分割金型100a,100bを型締めし、パリソンPの内部にエアを吹き込む。これによって中空の成形体である共鳴体10が成形される。冷却が完了すると、
図12(d)に示すように、分割金型100a,100bを型開きし、共鳴体10を取り出す。取り出した後に、共鳴体10の上下及び中央にあるバリBを切断し、共鳴体10を得る。バリ取りの仕上げについては、共鳴体10がスピーカとして使用されることから、入念に行う。
【0034】
(実施例)
本実施形態の音響効果について、実施例1と参考例1〜3を用いて説明する。音響効果は、音域を、低域(20Hz〜200Hz)、中低域(200Hz〜600Hz)、中域(600〜3kHz)、高域(3kHz〜10kHz)、超高域(10kHz超)の5つに区分し、各例の音量を計測した。使用したソフトはWabeSpectraであり、
図13から
図16において、縦軸は音量(dB)、横軸は周波数(Hz)を示している。
【0035】
実施例1は、上記で説明した実施形態の試作品(接触面15の厚みが1.2mmで、径が200mm)について、測定したものである。測定結果を
図13に示す。これを見ると、高域及び超高域の音域が顕著に絞られており、中域及び中低域の中域寄りの音域が強調されている。
【0036】
参考例1は、実施例1で用いた振動スピーカの振動部を樹脂板(厚み1.2mm、径200mm)に当接させて、その音響効果を測定したものである。測定結果を
図14に示す。これを見ると、中域の音域が強調されているが、高域及び超高域は実施例1よりも大きくなっている。
【0037】
参考例2は、参考例1の樹脂板を厚み1.2mm、径70mmの樹脂板に変更して、その音響効果を測定したものである。測定結果を
図15に示す。これを見ると、中域の音域が実施例1及び参考例1よりも小さくなっており、高域及び超高域は実施例1よりも大きくなっている。
【0038】
参考例3は、市場で多く流通しているスマートホンのスピーカから発せられる音を測定したものである。測定結果を
図16に示す。これを見ると、中域の音域が実施例1とほぼ同様であるが、高域及び超高域は実施例1よりも大きくなっている。
【0039】
実施例1は、参考例1及び2に対して、共鳴体10の中空部12の共鳴効果によって、高域及び超高域の音域が抑制されていると考えられる。また、参考例3は、中域から高域及び超高域にわたって広い音域で音量が大きく、これはその用途を満足させるためのものと考えられ、実施例1は、高域及び超高域を抑制して中域の音量を主とすることが確認された。このように、実施例1のスピーカによれば、会話や読書等の邪魔にならない、柔らかな音を得ることができる。
【0040】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、上記の実施形態ではブロー成形によって共鳴体10を得る場合を説明したが、射出成形によって得られた一対の成形体(正面側と背面側)を貼り合せて共鳴体10を得るようにしてもよい。