(54)【発明の名称】バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤、これを含んでなるバターケーキ用プレミックス及びこれを用いた冷蔵保存時の硬化が抑制されたバターケーキの製造方法
【課題】冷蔵保存しても硬化し難く、優れた食感を長期間にわたって維持できるバターケーキを製造するための、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤とその用途を提供することを課題とする。
【解決手段】重量平均分子量が3,000以上12,000以下の水溶性多糖を有効成分とするバターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤、及び、これを用いたプレミックス粉、並びにこれらを用いたバターケーキの製造方法を提供することによって、上記課題を解決する。
前記水溶性多糖が、デキストリン、難消化性デキストリン、又は、下記(A)乃至(D)の特性を有する分岐α−グルカン混合物であることを特徴とする請求項1記載の硬化抑制剤:
(A)グルコースを構成糖とし、
(B)α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、
(C)イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり25質量%以上50質量%以下生成し、かつ
(D)高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が40質量%以上である。
前記分岐α−グルカン混合物の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)が20未満であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の硬化抑制剤。
小麦粉100質量部に対し、常温で固体の油脂95質量部以上150質量部以下、及び、請求項1乃至7のいずれかに記載の硬化抑制剤を水溶性多糖として固形物換算で3質量部以上20質量部以下含むことを特徴とするバターケーキ用プレミックス。
小麦粉、卵、糖質、常温で固体の油脂を含むバターケーキであって、小麦粉100質量部に対し、請求項1乃至7のいずれかに記載の硬化抑制剤を水溶性多糖として固形物換算で3質量部以上20質量部以下加えて生地を調製する工程と、得られた生地を焼成する工程とを含むことを特徴とする冷蔵保存時の硬化が抑制されたバターケーキの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、重量平均分子量が3,000以上12,000以下である水溶性多糖を有効成分とするバターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤、これを含むバターケーキ用プレミックス、及び、これらを用いた冷蔵保存時の硬化が抑制されたバターケーキの製造方法に係る発明である。
【0012】
本明細書でいうバターケーキとは、小麦粉、バター又はバターの代替となる常温で固体である油脂、卵、糖類を主原料とし、比較的油脂の含有量が多い焼成菓子を意味する。
【0013】
本明細書でいう水溶性多糖とは、水溶性を有する多糖を意味する。ここでいう「水溶性」は、日本薬局方の規定に準じて評価することができ、具体的には、対象とする多糖1gを30mlの蒸留水の中にいれ、25±5℃で5分毎に強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶解する場合に「水溶性である」と評価することができる。「溶解する」とは、水溶性多糖を添加して得られる溶液が肉眼観察で不溶物を認めることなく澄明であること、又は不溶物を認めても極めてわずかであることをいう。
【0014】
本発明の硬化抑制剤の有効成分としての水溶性多糖は、重量平均分子量3,000以上12,000以下のものが好適に用いられる。重量平均分子量が3,000未満の場合、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制効果が不十分となったり、食感が悪くなったりする場合がある。一方、水溶性多糖の重量平均分子量が12,000超の場合、バターケーキが軟らかくなり過ぎ、食感が悪くなることがある。水溶性多糖は、重量平均分子量が3,000以上12,000以下である限り、構成成分の種類や組成に特に制限はなく、例えば、デキストリン、難消化性デキストリン、下記(A)乃至(D)の特性を有する分岐α−グルカン混合物(以下、単に「分岐α−グルカン混合物」と言う。)、水溶性セルロース誘導体、キチン誘導体、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、グルコマンナン、ポリデキストロース、アルギン酸、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カードラン、コンドロイチン、フコダイン、プルラン等が本発明において有利に利用できる。本発明の硬化抑制剤の有効成分としては、前記した範囲に重量平均分子量を有するデキストリン、難消化性デキストリン、又は、分岐α−グルカン混合物が、とりわけ好適に用いられる:
(A)グルコースを構成糖とし、
(B)α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、
(C)イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり25質量%以上50質量%以下生成し、かつ
(D)高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が40質量%以上である。
【0015】
本明細書でいうデキストリンとは、澱粉又はグリコーゲンを加水分解して得られるデキストロース・エクイバレント(DE)が10以下の炭水化物を意味する。本発明の硬化抑制剤の有効成分として用いることのできるデキストリンは、重量平均分子量が3,000以上12,000以下であって水溶性である限り原料澱粉の種類や製法などによって特に限定されるものではなく、例えば、『サンデック#150』、『サンデック#250』、『サンデック#300』(いずれも三和澱粉株式会社販売)などは、何れもかかる要件を満たすので、何れも好適に用いることができる。
【0016】
本明細書でいう難消化性デキストリンとは、澱粉に少量の塩酸を添加し、粉末の状態で加熱して得た焙焼デキストリンを水に溶解し、α−アミラーゼを添加して加水分解して得られる低粘度溶液を精製し、濃縮、噴霧乾燥して得られるものを意味し、かかる焙焼の工程によりα−及びβ−の両アノマー型の新たなグリコシド結合を生じていることを一つの構造的特徴とするものである(例えば、『低分子水溶性食物繊維』、食品成分シリーズ「食物繊維の科学」、第116頁−131頁、朝倉書店(1997)参照)。本発明の硬化抑制剤の有効成分として用いることのできる難消化性デキストリンは、重量平均分子量が3,000以上12,000以下であって水溶性である限り原料澱粉の種類やα−及びβ−アノマー型の存在比などは特に限定はないが、例えば、市販の『ニュートリオースFB』(ロケットジャパン株式会社販売)などを好適に用いることができる。
【0017】
本発明の硬化抑制剤の有効成分として用いることのできる分岐α−グルカン混合物としては、例えば、本願と同じ出願人が、国際公開第WO2008/136331号パンフレットなどにおいて開示した分岐α−グルカン混合物が例示できる。当該分岐α−グルカン混合物は、澱粉を原料とし、これに種々の酵素を作用させて得られ、通常、様々な分岐構造とグルコース重合度を有する複数種の分岐α−グルカンを主体とする混合物の形態にある。当該分岐α−グルカン混合物の製造方法としては、前記国際公開第WO2008/136331号パンフレットに開示されているα−グルコシル転移酵素、又は、同種の酵素活性を有する酵素を澱粉質に作用させるか、前記α−グルコシル転移酵素とともに、マルトテトラオース生成アミラーゼ(EC 3.2.1.60)などのアミラーゼ、イソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)などの澱粉枝切り酵素、更には、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19)、澱粉枝作り酵素(EC 2.4.1.18)を併用して澱粉質に作用させる方法を例示できる。これらの方法によって得られる分岐α−グルカン混合物は、原料とした澱粉質に比べα−1,6結合の割合が大幅に増加しており、且つ、澱粉質には本来的に存在しない、他のグルコース残基とα−1,3結合したグルコース残基及びα−1,3,6結合したグルコース残基をも有するという特徴を備えている。
【0018】
当該分岐α−グルカン混合物は、グルコースを構成糖とするグルカン(特徴(A))であり、α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有するという特徴を備えている(特徴(B))。なお、「非還元末端グルコース残基」とは、α−1,4結合を介して連結したグルカン鎖のうち、還元性を示さない末端に位置するグルコース残基を意味し、「α−1,4結合以外の結合」とは、文字どおりα−1,4結合以外の結合を意味する。
【0019】
また、当該分岐α−グルカン混合物は、イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり25質量%以上50質量%以下生成するという特徴を備えている(特徴(C))。本明細書でいうイソマルトデキストラナーゼ消化は、詳細には、前記国際公開第WO2008/136331号パンフレットに開示されている方法で行うことができる。
【0020】
前記イソマルトデキストラナーゼ消化により生成するイソマルトースの、消化物の固形物当たりの割合は、分岐α−グルカンの構造において、イソマルトデキストラナーゼの作用により遊離するイソマルトース構造の割合を示すもので、分岐α−グルカン混合物を、混合物全体として、酵素的手法により特徴付ける指標の一つとして用いることができる。本発明で用いる分岐α−グルカン混合物の内、イソマルトデキストラナーゼ消化により生成するイソマルトースの割合が、消化物の固形物当たり、通常、25質量%以上50質量%以下、好ましくは30質量%以上50質量%以下、より好ましくは35質量%以上45質量%以下である分岐α−グルカン混合物は、本発明を実施する上でより好適に用いられる。因みにイソマルトースは、グルコース2分子がα−1,6結合を介して結合した二糖であり、イソマルトデキストラナーゼ消化試験の結果、イソマルトースが25質量%以上50質量%以下生成するということは、生体内で消化され難いα−1,6結合で結合したグルコースの割合が多いことを意味する。
【0021】
更に、当該分岐α−グルカン混合物は、高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が40質量%以上を示すという特徴を備えている(特徴(D))。酵素−HPLC法の詳細については、前記国際公開第WO2008/136331号パンフレットに開示されている。なお、本明細書を通じて「水溶性食物繊維含量」とは、特に説明がない限り、前記「酵素−HPLC法」で求めた水溶性食物繊維含量を意味する。
【0022】
当該分岐α−グルカン混合物の内、水溶性食物繊維含量が、通常、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上を示すものは、本発明を実施する上でより好適に用いられる。なお、分岐α−グルカン混合物の水溶性食物繊維含量の上限に限定は特にないけれども、経済性の面から、通常、水溶性食物繊維含量が100質量%以下、好適には90質量%以下、更に好適には85質量%程度に留めるのがよく、その内、水溶性食物繊維含量が70質量%以上90質量%以下、好適には75質量%以上85質量%以下である分岐α−グルカン混合物が本発明を実施する上でより好適に用いられる。
【0023】
更に、当該分岐α−グルカン混合物のより好適な一態様としては、下記特徴(E)及び(F)を有する分岐α−グルカン混合物が挙げられ、当該特徴はメチル化分析によって確認することができる:
(E)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:0.6乃至1:4の範囲にあり、
(F)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の60%以上を占める。
【0024】
ここでいうメチル化分析とは、周知のとおり、多糖又はオリゴ糖において、それらを構成する単糖の結合様式を決定する方法として、斯界において一般的に汎用されている方法である[シューカヌ(Ciucanu)ら、『カーボハイドレート・リサーチ(Carbohydrate Research)』、第131巻、第2号、209乃至217頁(1984年)参照]。当該メチル化分析をグルカンにおけるグルコースの結合様式の分析に適用する場合、まず、グルカンを構成するグルコース残基における全ての遊離の水酸基をメチル化し、次いで、完全メチル化したグルカンを酸で加水分解する。次いで、加水分解により得られたメチル化グルコースを還元してアノマー型を消去したメチル化グルシトールとし、更に、このメチル化グルシトールにおける遊離の水酸基をアセチル化することにより部分メチル化グルシトールアセテート(なお、「部分メチル化グルシトールアセテート」におけるアセチル化された部位と「グルシトールアセテート」の表記を省略して、「部分メチル化物」と略記する場合がある。)を得る。得られる部分メチル化物をガスクロマトグラフィーで分析することにより、グルカンにおいて結合様式がそれぞれ異なるグルコース残基に由来する各種部分メチル化物は、ガスクロマトグラムにおける全ての部分メチル化物のピーク面積に占めるピーク面積の百分率(%)で表すことができる。そして、このピーク面積%から当該グルカンにおける結合様式の異なるグルコース残基の存在比、すなわち、各グルコシド結合の存在比率を決定できる。部分メチル化物についての「比」は、メチル化分析のガスクロマトグラムにおけるピーク面積の「比」を意味し、部分メチル化物についての「%」はメチル化分析のガスクロマトグラムにおける「面積%」を意味する。メチル化分析の詳細は、前記国際公開第WO2008/136331号パンフレットに詳細に開示されている。
【0025】
上記(E)及び(F)における「α−1,4結合したグルコース残基」とは、C−1位の水酸基とC−4位の水酸基のみを介して他のグルコース残基に結合したグルコース残基を意味し、メチル化分析において、2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールとして検出される。また、上記(E)及び(F)における「α−1,6結合したグルコース残基」とは、C−1位の水酸基とC−6位の水酸基のみを介して他のグルコース残基に結合したグルコース残基を意味し、メチル化分析において、2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとして検出される。
【0026】
上記(E)が規定する「α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:0.6乃至1:4の範囲にある」とは、分岐α−グルカン混合物が、メチル化分析において、2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にあることを意味する。また、上記(F)が規定する「α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の60%以上を占める」とは、分岐α−グルカン混合物が、メチル化分析において、2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占めることを意味する。その内、前記合計が、通常、60%以上90%以下、好適には60%以上80%以下、より好適には65%以上75%以下の範囲にある分岐α−グルカン混合物は、本発明を実施する上で、より好適に用いられる。
【0027】
また、当該分岐α−グルカン混合物のさらに好適な一態様としては、下記特徴(G)及び(H)を有する分岐α−グルカン混合物が挙げられ、当該特徴は上記(E)及び(F)の特徴と同様にメチル化分析によって確認することができる:
(G)α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の0.5%以上10%未満であり、
(H)α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の0.5%以上である。
【0028】
上記(G)が規定する「α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の0.5%以上10%未満である」とは、分岐α−グルカン混合物をメチル化分析に供すると、2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満存在することを意味する。また、上記(H)が規定する「α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の0.5%以上である」とは、2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上存在することを意味する。
【0029】
メチル化分析により得られる、α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比率、α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の合計の全グルコース残基に対する割合、α−1,3結合したグルコース残基の全グルコース残基に対する割合、及び、α−1,3,6結合したグルコース残基の全グルコース残基に対する割合は、分岐α−グルカン混合物の構造を、混合物全体として特徴付けることができる。
【0030】
また、当該分岐α−グルカン混合物は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)、及び、平均グルコース重合度によっても特徴づけることができる。分岐α−グルカン混合物の平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー等を用いて求めることができ、本願明細書で言う平均グルコース重合度は、重量平均分子量(Mw)から18を減じ、162で除して求めることができる。本発明の硬化抑制剤の有効成分としての分岐α−グルカン混合物は、その実施態様に応じ、重量平均分子量が3,000以上12,000以下のものを適宜選択して用いればよい。また、分岐α−グルカン混合物のMw/Mn値は、1に近いものほど分岐α−グルカン混合物を構成する分岐α−グルカン分子のグルコース重合度のばらつきが小さいことを意味する。本願で硬化抑制剤の有効成分として用いる分岐α−グルカン混合物は、Mw/Mnが、通常、20未満、好ましくは15以下、より好ましくは1乃至10、更に好ましくは1乃至5、より更に好ましくは1乃至3のものが好適である。
【0031】
なお、グルカンの重量平均分子量が3,000以上12,000以下の範囲にあるということは、平均グルコース重合度が19以上74以下の範囲にあることを意味する。
【0032】
当該分岐α−グルカン混合物は、そのデキストロース・エクイバレント(DE)が、通常、10以下、好ましくは9以下、より好ましくは6乃至8、更に好ましくは6.5乃至7.5の範囲にあるものがより好適に用いられる。
【0033】
また、当該分岐α−グルカン混合物は、固形物当たりのグルコース重合度(DP)9以上の多糖類の合計量が、通常、80質量%以上、好ましくは85質量%以上95質量%以下のものが好適に用いられる。換言すれば、固形物当たり、DP8以下の多糖類の合計が、20質量%以下、好ましくは5質量%以上15質量%以下であるものが好適に用いられる。
【0034】
本発明において、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤として用いることのできる分岐α−グルカン混合物は、以上述べたとおりのものであるが、株式会社林原から商品名『ファイバリクサ』として販売されている分岐α−グルカン混合物は、本発明において最適に用いることができる。
【0035】
本発明においてバターケーキの原料として用いる小麦粉は、特に限定されず、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽等が挙げられ、特に薄力粉が生地中に生成するグルテンの含有量が少ないので、粘りがなく、バターケーキがさくっとした仕上がりになるため、好ましく用いられる。
【0036】
本発明においてバターケーキの原料として用いる油脂は、バターが最も好ましいものの、バターの代替となる常温で固体である油脂を用いることもできる。バターの代替となる常温で固体である油脂としては、20±5℃の温度で固体の形態にあるものであれば特に限定されず、例えば、マーガリン、ショートニング、乳脂、ラード、牛脂、カカオ油が挙げられる。
【0037】
本発明においてバターケーキの原料として用いる卵は、特に限定されず、例えば、鶏卵が挙げられ、該鶏卵としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄の中から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0038】
本発明においてバターケーキの原料として用いる糖類は、甘味料として用いることのできる単糖、オリゴ糖又は糖アルコールであれば特に限定されず、該単糖、オリゴ糖又は糖アルコールとしては、例えば、砂糖(粉糖、グラニュー糖を含む)、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、蜂蜜の中から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0039】
当然のことながら、本発明においても、通常のバターケーキに用いられる公知のその他の成分を使用することができる。その他の成分としては、例えば、水、澱粉、乳化剤、増粘安定剤、イースト、β−カロチン、カラメル、紅麹色素などの着色料、トコフェロール、茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン、ホエー、クリーム、脱脂粉乳、発酵乳、牛乳、全粉乳、ヨーグルト、練乳、加糖練乳、全脂練乳、脱脂練乳、濃縮乳、純生クリーム、ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)、植物性ホイップ用クリームなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、クリームチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ブランデーなどの蒸留酒、ワイン、日本酒、ビールなどの醸造酒、各種リキュール、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、高甘味度甘味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ、ブイヨンなどの植物及び動物エキス、食品添加物などを挙げることができる。
【0040】
本発明の硬化抑制剤は、有効成分である水溶性多糖に加えて、必要に応じて、水、ミネラル、着香料、安定化剤、賦形剤、増量剤、pH調整剤などから選ばれる1種又は2種以上の成分を、0.01乃至50質量%、好ましくは、0.1乃至40質量%の割合で適宜配合して利用することもできる。
【0041】
本発明の硬化抑制剤は、粉末状、粒状、顆粒状、液状、ペースト状、クリーム状、タブレット状、カプセル状、カプレット状、ソフトカプセル状、錠剤状、棒状、板状、ブロック状、丸薬状、固形状、ゲル状、ゼリー状、グミ状、ウエハース状、ビスケット状、飴状、チュアブル状、シロップ状、スティック状などの適宜の形態とすることができる。
【0042】
本明細書でいう冷蔵保存とは、バターケーキが凍らない程度に十分に冷える温度で保存することを意味し、温度は特に限定されず、例えば、−2℃以上10℃以下で保存することが挙げられる。
【0043】
本発明のバターケーキ用プレミックスは、バターケーキを簡便に調理できる調整粉であり、本発明の硬化抑制剤と、常温で固体の油脂、小麦粉とを均一に混合したもの、又は、更に、糖類、卵粉、ベーキングパウダー、乳化剤、タンパク質、調味料類等の任意の副原料を加えて均一に混合したものを意味する。該プレミックスに、必要に応じて副材料と、水、牛乳、卵液等の液体原料等を加えて混捏するだけでバターケーキ用生地を簡単に製造することができ、製造した生地を必要に応じて成型し、焼成するだけでバターケーキ製品を手軽に得ることができる。
【0044】
本発明のバターケーキ用プレミックスは、通常、小麦粉100質量部に対して、常温で固体の油脂95質量部以上150質量部以下、及び、本発明の硬化抑制剤を、水溶性多糖として固形物換算で3質量部以上20質量部以下含むものである。
【0045】
本発明のバターケーキ用プレミックスにおける常温で固体の油脂の配合量は、小麦粉100質量部に対して、好ましくは95質量部以上150質量部以下、より好ましくは95質量部以上120質量部以下の範囲内であればよい。95質量部より少ない場合は、全卵を配合して生地にした時のつながりが悪くなる場合がある。150質量部より多い場合は、全卵を配合して生地にした時に生地がべたつき油っぽくなる場合があるので好ましくない。
【0046】
本発明のバターケーキ用プレミックスに用いられる硬化抑制剤の配合量は、小麦粉100質量部に対して、通常、水溶性多糖として固形物換算で3質量部以上20質量部以下、好ましくは10質量部以上20質量部以下、より好ましくは10質量部以上15質量部以下の範囲内であればよい。配合量が水溶性多糖として固形物換算で3質量部未満の場合、冷蔵保存時の硬化抑制効果が不十分となり、20質量部超の場合、バターケーキが軟らかくなり過ぎ、食感が悪くなることがある。
【0047】
本発明のバターケーキの製造方法は、小麦粉、卵、糖質、常温で固体の油脂を含むバターケーキであって、小麦粉100質量部に対し、本発明のバターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤を、水溶性多糖の固形物として3質量部以上20質量部以下加えて生地を調製する工程と、得られた生地を焼成する工程を含む限り、いかなる製造方法であってもよい。例えば、パウンドケーキなどの、バター、砂糖、卵、小麦粉を主原料とするバターケーキ類を製造するための方法として、「シュガーバッター法」、「フラワーバッター法」、「オールインミックス法」という3種類の製造方法が挙げられる。「シュガーバッター法」とは、常温で固体の油脂と砂糖をホイップさせた後、卵を加え、最後に小麦粉を混合し生地を調製する3つの工程を経る方法である。次に、「フラワーバッター法」とは、常温で固体の油脂と小麦粉をホイップさせた後、砂糖、卵を加え、更にホイップし生地を調製する3つの工程を経る方法である。そして、「オールインミックス法」とは、常温で固体の油脂、砂糖、卵、小麦粉などの全ての原料を合わせてホイップし、生地を調製する1つの工程で済む方法である。本発明のバターケーキの製造方法においては、目的に応じていずれの方法も用いることができる。
【0048】
本発明のバターケーキの製造方法において、硬化抑制剤のバターケーキへの配合量は、通常、小麦粉100質量部に対して水溶性多糖として固形物換算で3質量部以上20質量部以下とするのが好適である。なお、3質量部以下では、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制効果が十分発揮できなくなるので好ましくない。また、バターケーキは、本発明の硬化抑制剤の有効成分である水溶性多糖の配合量が増えるにつれて、冷蔵保存時の硬化がより強く抑制される傾向にあるものの、小麦粉100質量部に対して30質量部以上配合するとバターケーキが軟らかくなり過ぎるので、上限を20質量部とするのが好適である。より適度な硬さ、軟らかさやしっとり感といった食感を望む場合には、水溶性多糖の固形物としての配合量は、小麦粉100質量部に対して10質量部以上20質量部以下、好ましくは10質量部以上15質量部以下とするのが好適である。
【0049】
以下、実験に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0050】
<実験1:パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化に及ぼす各種水溶性多糖配合の影響(その1)>
バターケーキの代表例として、小麦粉、バター、砂糖及び卵をそれぞれ等量配合して調製されるパウンドケーキを選択し、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化に及ぼす各種水溶性多糖配合の影響を調べる実験を行った。
【0051】
水溶性多糖として、まず、重量平均分子量が種々異なるデキストリンを用い、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化に及ぼすデキストリンの重量平均分子量の影響を調べる実験を行った。本実験では、表1に示されるとおり、デキストリンとして、種々の重量平均分子量を有する市販のデキストリン5種(商品名『サンデック#70FN』(重量平均分子量27,200)、『サンデック#70』(重量平均分子量22,900)、『サンデック#150』(重量平均分子量11,100)、『サンデック#250』(重量平均分子量4,250)及び『サンデック#300』(重量平均分子量3,190)、いずれも三和澱粉株式会社販売)を用い、表1に示す配合に基づき6種類のパウンドケーキを調製した。
【0053】
表1に示されるとおり、薄力粉100質量部、バター100質量部、グラニュー糖100質量部、全卵100質量部、及び、ベーキングパウダー2質量部を配合して調製したパウンドケーキを対照(被験試料1)とし、デキストリンを配合したパウンドケーキ(被験試料2〜6)では、パウンドケーキにおける糖質の配合量を対照と合わせるため、配合したデキストリン量(固形物として15質量部)に合わせてグラニュー糖を減量して用いた。
【0054】
パウンドケーキは以下の手順で調製した。すなわち、ポマード状にしたバター、グラニュー糖をミキサー(商品名『アイコープロ KM−600』、株式会社愛工舎製作所製)に入れ、中速(ダイヤル5)で撹拌しつつ、室温にもどしておいた全卵に各種デキストリンを溶かした溶液を少量ずつ加え、更に、別途篩っておいた小麦粉(薄力粉)とベーキングパウダーを混ぜたものを加え、中速で比重が0.83乃至0.85になるまで撹拌、混捏することによりパウンドケーキ生地を調製した。次いで、調製した生地をパウンドケーキの型(7×16×5.5cm)に300gずつ充填し、表面をならした後、オーブン(商品名『TOESTOVEN』、戸倉商事製)に入れ、ダンパーを閉じたまま上火、下火とも170℃の条件で40分間焼成することによりパウンドケーキを調製した。なお、各パウンドケーキは焼成後、型から取り出し粗熱をとった後ラップで包み、4℃又は25℃で保存した。
【0055】
調製日の翌日、4℃又は25℃で保存したパウンドケーキを厚さ15mmにカットし、次いで、得られたケーキ片の外縁部10mm分を切り落とすことによりケーキ内相部を取り出し、これを更に15mm間隔でカットすることにより一辺15mm角に切り分けた。得られた15mm角のケーキ片を、それぞれ4℃又は25℃にて保存し、6日間経過した時点で、被験試料1乃至6それぞれについて、レオメーター(商品名『CR−500DX』、株式会社サン科学製)を用いてケーキ片の硬さを測定した。なお、6日間という保存期間は、25℃保存では6日間経過するとケーキの品質劣化が始まり、また、4℃保存では6日間経過するとケーキが硬くなりきってしまう点を勘案して設定した。レオメーターによる硬さの測定においては、直径20mmの円盤型プランジャーを用い、60mm/分の速度でケーキ片を圧縮し、15mm角のケーキ片が50%の厚さ、すなわち7.5mm厚まで圧縮された時の最大荷重を硬さとした。結果を表2に示す。
【0057】
表2に見られるとおり、対照である被験試料1は、25℃の保存では硬さが428gであったのに対し、4℃保存では852gを示し、冷蔵保存することによる硬化が認められた。一方、被験試料2乃至6は、25℃保存での硬さは321g乃至400gを示し、対照の被験試料1と比べほぼ同等かそれより軟らかい値を示した。一方、被験試料3、4、5及び6は、4℃保存での硬さがそれぞれ、704g、603g、524g及び642gを示し、対照である被験試料1を4℃保存した場合の852gに比べ軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。一方、被験試料2の場合、4℃保存時の硬さは835gであり、4℃保存した対照である被験試料1の硬さ852gとほぼ同等であったことから、硬化を抑制する作用はほとんど認められなかった。
【0058】
以上のことから、デキストリンB、C、D又はEをそれぞれ配合した、被験試料3、4、5及び6において、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化が抑制されていることが判明した。この結果は、薄力粉100質量部に対し重量平均分子量3,000以上23,000以下のデキストリンを固形分として15質量部配合してパウンドケーキを調製すれば、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制することができることを物語っている。
【0059】
<実験2:デキストリン配合パウンドケーキの冷蔵保存後の食感>
実験1において特定の重量平均分子量のデキストリンにパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する効果が認められたので、本実験では、実験1で調製し、4℃で保存したパウンドケーキ(被験試料1乃至6)について、パネラー5人による官能試験を行い、その食感について評価した。食感としては、軟らかさ及びしっとり感について調べ、各種デキストリンを配合した被験試料2乃至6を、デキストリンを含まない被験試料1(対照)と比較し、対照と比べ「非常に悪い」、「悪い」、「やや悪い」、「変化なし」、「やや良い」、「良い」、「非常に良い」の7段階で評価した。結果を表3に示す。
【表3】
【0060】
表3に見られるとおり、対照である被験試料1と比べて被験試料4、5及び6は、しっとり感に差は認められなかったものの、軟らかさが改善されていた。一方、被験試料2及び3は、軟らかさやしっとり感の両方において対照である被験試料1と差が認められなかった。このことは、被験試料4、5及び6に配合した重量平均分子量3,000以上12,000以下のデキストリンが、パウンドケーキの軟らかい食感を維持する上で有効であり、食感を改善する効果を奏することを示している。
【0061】
実験1及び2の結果は、4℃保存において、重量平均分子量3,000以上12,000以下のデキストリンを薄力粉100質量部に対し15質量部配合して調製した試験試料4、5及び6が、軟らかさと優れた食感を維持しており、重量平均分子量3,000以上12,000以下のデキストリンの配合が、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する優れた効果を奏することを物語っている。
【0062】
<実験3:パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化に及ぼす各種水溶性多糖配合の影響(その2)>
【0063】
本実験では、実験1で用いたデキストリンに替えて、表4に示されるとおり、水溶性多糖として、水溶性食物繊維素材である、市販のポリデキストロース(商品名『ライテスII』、ダニスコ・ジャパン社製、重量平均分子量1,560)、難消化性デキストリン(商品名『ファイバーソル2』、松谷化学工業株式会社販売、重量平均分子量2,910)、イヌリン(商品名『オラフティGR』、DKSHジャパン株式会社販売、重量平均分子量2,950)、難消化性デキストリン(商品名『ニュートリオースFB06』、ロケットジャパン株式会社販売、重量平均分子量4,610)、及び、後述する実施例1で調製した分岐α−グルカン混合物(重量平均分子量4,700)の5種を用いた以外は実験1と同様にしてパウンドケーキ(被験試料7〜12)を調製した。水溶性食物繊維を配合していない被験試料7を対照とした。
【0065】
得られたパウンドケーキは実験1の場合と同様にカットし、15mm角のケーキ片を実験1と同様に4℃又は25℃で6日間保存した後、硬さの測定に供した。結果を表5に示す。
【0067】
表5に見られるとおり、対照である被験試料7は、25℃の保存での硬さは469g、4℃保存では779gを示し、冷蔵保存による硬化が認められた。一方、被験試料8乃至12は、25℃保存では硬さ223g乃至343gを示し、対照の被験試料7と比べ軟らかかった。4℃保存では、重量平均分子量2,950のイヌリンを配合した被験試料10、重量平均分子量4,610の難消化デキストリンBを配合した被験試料11及び重量平均分子量4,700の分岐α−グルカン混合物を配合した被験試料12が、それぞれ硬さとして685g、594g及び528gを示し、対照である被験試料7に比べ顕著に硬化が抑制されていた。これに対し、重量平均分子量1,560のポリデキストロースを配合した被験試料8及び重量平均分子量2,910の難消化デキストリンAを配合した被験試料9は、4℃保存において硬さがそれぞれ863g及び765gであり、対照である被験試料7の4℃保存時に比べ、ほぼ同等又はそれ以上の硬さを示した。
【0068】
以上のことから、4℃保存した場合では、イヌリン、難消化性デキストリンB及び分岐α−グルカン混合物をそれぞれ配合した、被験試料10、11及び12において、冷蔵保存時のパウンドケーキの硬化が抑制されていることが判明した。このことは、一部の水溶性食物繊維がパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する効果を奏し、その中でも分岐α−グルカン混合物が、4℃保存したパウンドケーキの硬化を最も抑制したことから、硬化抑制効果に優れていることを物語っている。
【0069】
<実験4:水溶性食物繊維配合パウンドケーキの冷蔵保存後の食感>
実験3において特定の水溶性食物繊維にパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する優れた効果が認められたので、本実験では、実験3で調製したパウンドケーキ(被験試料7乃至12)を4℃で保存したものの食感について、官能試験を実験2と同様にして行った。結果を表6に示す。
【0071】
表6に見られるとおり、対照である被験試料7と比べて被験試料11及び12が軟らかく、冷蔵保存による硬化が抑制されていた。その中でも分岐α−グルカン混合物を配合した被験試料12が最も軟らかく、かつ、しっとり感に優れていた。一方、被験試料8、9及び10は、対照である被験試料7と軟らかさにおいて差が認められず、また、被験試料10は、しっとり感においてやや劣っていた。
【0072】
実験3及び4の結果は、難消化性デキストリンB及び分岐α−グルカン混合物をそれぞれ配合した試験試料11及び12が、4℃保存においても軟らかさを維持しており、難消化性デキストリンB及び分岐α−グルカン混合物がパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する優れた効果を奏することを物語っている。
【0073】
因みに、実験3乃至4においてパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する優れた効果を奏した難消化性デキストリンB及び分岐α−グルカン混合物の重量平均分子量は、それぞれ4,610及び4,700であった。水溶性多糖の一種である水溶性食物繊維の内、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する優れた効果を奏した分岐α−グルカン混合物及び難消化性デキストリンBの重量平均分子量は、実験1で得られたデキストリンの好適な重量平均分子量の範囲である3,000以上12,000以下の範囲内であったことから、特定の分子量の大きさを有する水溶性多糖がパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制するのに有用であると認められる。重量平均分子量3,000以上12,000以下の水溶性多糖がパウンドケーキの冷蔵時の硬化を抑制する理由は定かではないが、当該重量平均分子量を有する水溶性多糖を配合したパウンドケーキの生地において、弾力低下が観測されたことから、一定の大きさをもつ水溶性多糖がグルテンのネットワークの間に入り込み、ネットワークの密度を低下させて、弾力が低下するのではないかと推測される。そして、その結果としてパウンドケーキの冷蔵時の硬化を抑制しているものと考えられる。
【0074】
<実験5:分岐α−グルカン混合物の配合量の違いがパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化に及ぼす影響>
実験1乃至4の結果から、水溶性多糖の内、分岐α−グルカン混合物がパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する上で最も高い効果を奏するだけでなく、冷蔵保存したパウンドケーキの食感(しっとり感)の維持にも優れていることが認められたので、本実験では、分岐α−グルカン混合物の配合量がパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化に及ぼす影響を調べた。すなわち、表7に示されるとおり、実施例1で調製した分岐α−グルカン混合物(重量平均分子量4,700)からなる硬化抑制剤を用い、小麦粉100質量部に対する配合量(固形物)として、それぞれ3、10、15、20及び30質量部に変えた以外は実験1と同様にしてパウンドケーキ(被験試料13〜18)を調製した。分岐α−グルカン混合物を配合していない被験試料13を対照とした。
【0076】
得られたパウンドケーキは実験1の場合と同様にカットし、15mm角のケーキ片を実験1と同様に4℃又は25℃で6日間保存した後、硬さの測定に供した。結果を表8に示す。
【0078】
表8に見られるとおり、対照である被験試料13は、25℃の保存では硬さが469g、4℃保存では779gを示し、冷蔵保存による硬化が認められた。それに対し、被験試料14乃至18は、25℃保存で硬さ161g乃至264gを示し、対照の被験試料13と比べ軟らかかった。一方、被験試料14乃至18は、4℃保存での硬さが356g乃至638gを示し、対照である被験試料13の779gよりも軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。4℃保存において、分岐α−グルカン混合物の配合量(小麦粉100質量部に対して固形物として3質量部乃至30質量部)が増加するにしたがって、硬化がより抑制される傾向が見られた。
【0079】
<実験6:分岐α−グルカン混合物の配合量の違いがパウンドケーキの食感に及ぼす影響>
本実験では、実験5で調製したパウンドケーキ(被験試料13乃至18)を4℃で保存した場合の食感について、官能試験を実験2と同様にして行った。結果を表9に示す。
【0081】
表9に示されるとおり、薄力粉100質量部に対し、分岐α−グルカン混合物を固形物として3質量部乃至20質量部以下配合して調製した被験試料14乃至17は、対照の被験試料13と比べ、軟らかさやしっとり感がよく、特に、10質量部乃至15質量部配合した被験試料15及び16が非常に軟らかさに優れていた。しかしながら、分岐α−グルカン混合物を薄力粉100質量部に対し、固形物として30質量部配合して調製した被験試料18は、軟らか過ぎ、しっとり感も悪化していた。
【0082】
実験5及び6の結果は、小麦粉100質量部に対し、分岐α−グルカン混合物を固形物として3質量部以上20質量部以下配合すれば、パウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制し、軟らかさ、しっとり感という食感に優れるパウンドケーキが得られることを物語っている。
【0083】
以上述べた実験1乃至6の結果は、重量平均分子量が3,000以上12,000以下の水溶性多糖を配合することによりパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化が抑制できることを物語るだけでなく、その配合量が、小麦粉100質量部に対し、当該水溶性多糖として固形物換算で3質量部以上20質量部以下配合するのが好適であることも物語っている。斯かる水溶性多糖によるパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する作用は、パウンドケーキだけでなく、バターケーキ全般において発揮されると考えられる。とりわけ分岐α−グルカン混合物は、小麦粉に対する配合量を増やすにつれてパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する効果が高くなり、食感にもよい影響を与えることが判明した。分岐α−グルカン混合物が他の水溶性多糖よりも効果的にパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する理由としては、分岐α−グルカン混合物に特有の分岐構造がグルテンのネットワークの間により入り込み、ネットワークの密度を低下させることにより、弾力を低下させているのではないかと推測される。そして、分岐α−グルカン混合物は、デキストリンには存在しない、α−1、6結合を介した複雑な分岐構造を有することから、この分岐構造がパウンドケーキの冷蔵保存時の硬化を抑制する上で重要な役割を果たしているものと考えられる。
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、これら実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0085】
<硬化抑制剤>
国際公開第WO2008/136331号パンフレットの実施例5記載の方法に順じて、27.1質量%トウモロコシ澱粉液化液(加水分解率3.6%)に、最終濃度0.3質量%となるように亜硫酸水素ナトリウムを、また最終濃度1mMとなるように塩化カルシウムを加えた後、50℃に冷却し、これに、国際公開第WO2008/136331号パンフレットの実施例1に記載された方法で調製したバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)由来のα−グルコシル転移酵素の濃縮粗酵素液を固形物1グラム当たり11.1単位加え、さらに、50℃、pH6.0で48時間作用させた。その反応液を80℃で60分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮、噴霧乾燥して分岐α−グルカン混合物を製造した。なお、得られた分岐α−グルカン混合物を、国際公開第WO2008/136331号パンフレットの段落0080に記載されたα−グルコシダーゼ及びグルコアミラーゼ消化試験法、同段落0076乃至0078に記載されたメチル化分析法、及び、同段落0079に記載されたイソマルトデキストラナーゼ消化試験法によりそれぞれ分析したところ、以下の(ア)乃至(ウ)の特徴を有していた。
(ア)グルコースを構成糖とし、
(イ)α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、
(ウ)イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり38質量%生成した。
【0086】
また、得られた分岐α−グルカン混合物を、国際公開第WO2008/136331号パンフレットの段落0069乃至0075に記載された水溶性食物繊維含量を求める高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により分析したところ、本分岐α−グルカン混合物は、上記特徴に加えて、下記(エ)の特徴を有しており、さらには、上記メチル化分析法による分析結果から、下記(オ)乃至(ク)の特徴を有することが判明した。
(エ)水溶性食物繊維含量が81質量%である。
(オ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:2.6である。
(カ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の70.2%である。
(キ)α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の2.7%である。
(ク)α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の7.1%である。
【0087】
さらに、得られた分岐α−グルカン混合物を国際公開第WO2008/136331号パンフレットの段落0081に記載された分子量分布を常法のゲル濾過HPLC法により分析したところ、本分岐α−グルカン混合物は、上記特徴に加えて、下記(ケ)及び(コ)の特徴を有していることが判明した。
(ケ)重量平均分子量が4,700である。
(コ)Mw/Mnが2.2である。
【0088】
上記のとおり、本分岐α−グルカン混合物は、グルコースを構成糖とし、α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、イソマルトデキストラナーゼ消化によりイソマルトースを生成するという特徴を有するものであって、イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり25質量%以上50質量%以下生成し、水溶性食物繊維含量が40質量%以上であり、及び、α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:0.6乃至1:4の範囲にあり、α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の60%以上を占めるという分岐α−グルカン混合物として好適な数値範囲を満たすものであった。
【0089】
また、本分岐α−グルカン混合物は、α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の0.5%以上10%未満の範囲にあり、α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の0.5%以上の範囲を満たすものであった。
【0090】
さらに、前記分岐α−グルカン混合物は、重量平均分子量が3,000以上12,000以下の範囲にあり、Mw/Mnが20未満を満たすものであった。
【0091】
本品は、バターケーキに配合することにより冷蔵保存時の硬化を抑制することができることから、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤として使用することができる。本品は、それ自体が無味であり、異臭がなく、室温下でも吸湿、変色することなく、1年以上に亘って安定である。
【実施例2】
【0092】
<硬化抑制剤>
国際公開第WO2008/136331号パンフレットの実施例3に記載された方法に従い、分岐α−グルカン混合物粉末を調製した。なお、得られた分岐α−グルカン混合物粉末は、以下の(ア)乃至(コ)の特徴を有していた。
(ア)グルコースを構成糖とする。
(イ)α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有する。
(ウ)イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり36.5質量%生成する。
(エ)高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が75.4質量%である。
(オ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:1.5である。
(カ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の68.1%を占める。
(キ)α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の3.4%である。
(ク)α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の4.4%である。
(ケ)重量平均分子量が6,400である。
(コ)Mw/Mnが2.3である。
【0093】
本品は、バターケーキに配合することにより冷蔵保存時の硬化を抑制することができることから、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤として使用することができる。本品は、それ自体が無味であり、異臭がなく、室温下でも吸湿、変色することなく、1年以上に亘って安定である。
【実施例3】
【0094】
<硬化抑制剤>
国際公開第WO2008/136331号パンフレットの実施例4に記載された方法に従い、分岐α−グルカン混合物粉末を調製した。なお、得られた分岐α−グルカン混合物粉末は、以下の(ア)乃至(コ)の特徴を有していた。
(ア)グルコースを構成糖とする。
(イ)α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有する。
(ウ)イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり42質量%生成する。
(エ)高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が67.5質量%である。
(オ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:1.8である。
(カ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の78.6%を占める。
(キ)α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の1.8%である。
(ク)α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の2.1%である。
(ケ)重量平均分子量が10,200である。
(コ)Mw/Mnが2.7である。
【0095】
本品は、バターケーキに配合することにより冷蔵保存時の硬化を抑制することができることからバターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤として使用することができる。本品は、それ自体が無味であり、異臭がなく、室温下でも吸湿、変色することなく、1年以上に亘って安定である。
【実施例4】
【0096】
<硬化抑制剤>
国際公開第WO2008/136331号パンフレットの実施例6に記載された方法に従い、分岐α−グルカン混合物粉末を調製した。なお、得られた分岐α−グルカン混合物粉末は、以下の(ア)乃至(コ)の特徴を有していた。
(ア)グルコースを構成糖とする。
(イ)α−1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα−1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有する。
(ウ)イソマルトデキストラナーゼ消化により、イソマルトースを消化物の固形物当たり39.9質量%生成する。
(エ)高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が84質量%である。
(オ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基の比が1:3.7である。
(カ)α−1,4結合したグルコース残基とα−1,6結合したグルコース残基との合計が全グルコース残基の66.4%を占める。
(キ)α−1,3結合したグルコース残基が全グルコース残基の2.5%である。
(ク)α−1,3,6結合したグルコース残基が全グルコース残基の5.7%である。
(ケ)重量平均分子量が3,100である。
(コ)Mw/Mnが2.1である。
【0097】
本品は、バターケーキに配合することにより冷蔵保存時の硬化を抑制することができることから、バターケーキの冷蔵保存時の硬化抑制剤として使用することができる。本品は、それ自体が無味であり、異臭がなく、室温下でも吸湿、変色することなく、1年以上に亘って安定である。
【実施例5】
【0098】
<マフィン>
室温に戻した全卵50質量部にグラニュー糖60質量部及び実施例2で調製した硬化抑制剤を水溶性多糖として固形物換算で15質量部加え、泡立て器で混ぜ、融かしたバター60質量部と牛乳60質量部を加え、混ぜ合わせた。これに篩った薄力粉120質量部を加え、切るように混ぜ合わることによりマフィン生地を得た。次いで、マフィン生地を、コンベクション(熱対流式)オーブンを用い160℃で20分間焼成してマフィンを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記マフィンと同様にして対照のマフィンを調製した。得られたマフィンを4℃で6日間保存後、食感について官能試験を実験2と同様に行ったところ、硬化抑制剤を配合して得たマフィンは、対照のマフィンより軟らかく、しっとり感に優れ、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例6】
【0099】
<マフィン>
硬化抑制剤として、分岐α−グルカン混合物に替えて難消化性デキストリン(商品名『ニュートリオースFB06』、ロケットジャパン株式会社販売、重量平均分子量4,610)を水溶性多糖として固形物換算で15質量部用いた以外は実施例5と同様にしてマフィンを調製した。また、難消化性デキストリンを配合しない以外は上記マフィンと同様にして対照のマフィンを調製した。得られたマフィンを4℃で6日間保存後、食感について官能試験を実験2と同様に行ったところ、硬化抑制剤を配合して得たマフィンは、対照のマフィンより軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例7】
【0100】
<バウムクーヘン>
実施例3で調製した硬化抑制剤を水溶性多糖として固形物換算で15質量部溶解した全卵170質量部、グラニュー糖85質量部、コーンスターチ20質量部、ベーキングパウダー1質量部、食塩1質量部、バター80質量部をミキサーボウルに投入し、タテ型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速にて30秒混合した。ついで、薄力粉100質量部を添加し、低速にて1分混合後、比重が0.55になるまで中速でホイップし、バウムクーヘン生地を得た。250mm×330mmの鉄製の展板に、上記バウムクーヘン生地を均質に160g流し込み、上火200℃、下火150℃に設定した固定オーブンで7分焼成した。続けて上記バウムクーヘン生地を同様に160g流し込み同様に焼成し、これを3回繰り返し、合計4層からなる平板状のバウムクーヘンを得た。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記バウムクーヘンと同様にして対照のバウムクーヘンを製造した。得られたバウムクーヘンを4℃で6日間保存後、バウムクーヘンの食感について官能試験を実験2と同様に行ったところ、硬化抑制剤を配合して得たバウムクーヘンは、対照のバウムクーヘンより軟らかく、しっとり感に優れ、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例8】
【0101】
<バウムクーヘン>
硬化抑制剤として、分岐α−グルカン混合物に替えてデキストリン(商品名『サンデック#250』、三和澱粉株式会社販売、重量平均分子量4,250)を水溶性多糖として固形物換算で15質量部用いた以外は実施例7と同様にしてバウムクーヘンを調製した。また、デキストリンを配合しない以外は上記バウムクーヘンと同様にして対照のバウムクーヘンを調製した。得られたバウムクーヘンを4℃で6日間保存後、食感について官能試験を実験2と同様に行ったところ、硬化抑制剤を配合して得たバウムクーヘンは、対照のバウムクーヘンより軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例9】
【0102】
<ミルクパウンドケーキ>
薄力粉100質量部、グラニュー糖100質量部、バター100質量部(バターは70℃に加温し液状にして使用した。)、加糖練乳20質量部、ベーキングパウダー2質量部を全て大型縦型ミキサー(容量90リットル、ビーター使用)に投入し低速にて30秒間、中速にて1分間混合し前生地を調製した。なお、薄力粉は篩わず、加糖練乳とベーキングパウダーは液状のバターに簡単に分散させた。次いで、実施例4で調製した硬化抑制剤を水溶性多糖として固形物換算で10質量部溶解した全卵100質量部、牛乳20質量部を一度に投入し、低速にて1分間、高速にて2分間混合し生地を調製した。仕込み時間(仕込み開始から終了まで)は7分間であった。敷き紙を敷いたパウンド型(長さ175mm、幅70mm、高さ60mm)にこの生地を390g注入して、180℃のオーブンで43分焼成しミルクパウンドケーキを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記ミルクパウンドケーキと同様にして対照のミルクパウンドケーキを調製した。得られたミルクパウンドケーキを4℃で6日間保存後、ミルクパウンドケーキの食感について官能試験を実験2と同様にして行ったところ、対照のミルクパウンドケーキより軟らかく、しっとり感に優れ、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例10】
【0103】
<ミルクパウンドケーキ>
硬化抑制剤として、分岐α−グルカン混合物に替えてデキストリン(商品名『サンデック#300』、三和澱粉株式会社販売、重量平均分子量3,190)を水溶性多糖として固形物換算で15質量部用いた以外は実施例9と同様にしてミルクパウンドケーキを調製した。また、デキストリンを配合しない以外は上記ミルクパウンドケーキと同様にして対照のミルクパウンドケーキを調製した。得られたミルクパウンドケーキを4℃で6日間保存後、食感について官能試験を実験2と同様に行ったところ、硬化抑制剤を配合して得たミルクパウンドケーキは、対照のミルクパウンドケーキより軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例11】
【0104】
<パウンドケーキ用プレミックス>
薄力粉100質量部、グラニュー糖100質量部、実施例1で調製した硬化抑制剤を水溶性多糖として固形物換算で15質量部、ポマード状のバター95質量部、乳化剤3質量部、ベーキングパウダー2質量部を、ミキサー(『ハイフレックスグラル HF−GS−2J』、深江パウテック製)に投入し、5分間混合して、パウンドケーキ用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、バターの風味が感じられ、全卵100質量部を配合して生地にした時に生地のつながりに優れるものであった。
【実施例12】
【0105】
<パウンドケーキ用プレミックス>
硬化抑制剤の配合量を水溶性多糖として固形物換算で15質量部から10質量部に替えた以外は実施例11と同様にしてパウンドケーキ用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、バターの風味が感じられ、全卵100質量部を配合して生地にした時に生地のつながりに優れるものであった。
【実施例13】
【0106】
<パウンドケーキ用プレミックス>
硬化抑制剤の配合量を水溶性多糖として固形物換算で15質量部から3質量部に替えた以外は実施例11と同様にしてパウンドケーキ用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、バターの風味が感じられ、全卵100質量部を配合して生地にした時に生地のつながりに優れるものであった。
【実施例14】
【0107】
<パウンドケーキ用プレミックス>
硬化抑制剤の配合量を水溶性多糖として固形物換算で15質量部から10質量部、ポマード状のバターを95質量部から150質量部に替えた以外は実施例11と同様にしてパウンドケーキ用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、バターの風味が感じられ、全卵100質量部を配合して生地にした時に生地のつながりに優れるものであった。
【実施例15】
【0108】
<マフィン用プレミックス>
グラニュー糖60質量部、デキストリン(商品名『サンデック#300』、三和澱粉株式会社販売、重量平均分子量3,190)を水溶性多糖として固形物換算で15質量部、融かしたバター60質量部、牛乳60質量部、薄力粉120質量部を、ミキサー(『ハイフレックスグラル HF−GS−2J』、深江パウテック製)に投入し、5分間混合して、マフィン用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、バターの風味が感じられ、全卵50質量部を配合して生地にした時に生地のつながりに優れるものであった。
【実施例16】
【0109】
<パウンドケーキ>
実施例11で調製したパウンドケーキ用プレミックス315質量部に、全卵100質量部を投入し、低速にて1分間、高速にて2分間混合し生地を調製した。仕込み時間(仕込み開始から終了まで)は7分間であった。敷き紙を敷いたパウンド型(長さ175mm、幅70mm、高さ60mm)にこの生地を390g注入して、180℃のオーブンで43分焼成しパウンドケーキを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記パウンドケーキと同様にして対照のパウンドケーキを調製した。得られたパウンドケーキを4℃で6日間保存後、パウンドケーキの食感について官能試験を実験2と同様にして行ったところ、対照のパウンドケーキより軟らかく、しっとり感に優れ、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例17】
【0110】
<パウンドケーキ>
実施例12で調製したプレミックスを用いた以外は実施例16と同様にしてパウンドケーキを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記パウンドケーキと同様にして対照のパウンドケーキを調製した。得られたパウンドケーキを4℃で6日間保存後、パウンドケーキの食感について官能試験を実験2と同様にして行ったところ、対照のパウンドケーキより軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【実施例18】
【0111】
<マフィン>
実施例15で調製したマフィン用プレミックス315質量部に、全卵50質量部を投入し、低速にて1分間、高速にて2分間混合し生地を調製した以外は実施例5と同様にしてマフィンを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記マフィンと同様にして対照のマフィンを調製した。得られたマフィンを4℃で6日間保存後、マフィンの食感について官能試験を実験2と同様にして行ったところ、対照のマフィンより軟らかく、冷蔵保存時の硬化が抑制されていた。
【0112】
<パウンドケーキ用プレミックス>
硬化抑制剤の配合量を水溶性多糖として固形物換算で15質量部から30質量部、バターを95質量部から90質量部に替えた以外は実施例11と同様にしてパウンドケーキ用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、全卵100質量部を配合して生地にした時に生地のつながりが悪かった。
【0113】
<パウンドケーキ用プレミックス>
硬化抑制剤の配合量を水溶性多糖として固形物換算で15質量部から20質量部、バターを95質量部から160質量部に替えた以外は実施例11と同様にしてパウンドケーキ用プレミックスを調製した。得られたプレミックスは、全卵100質量部を配合して生地にした時に生地がべたつき油っぽかった。
【0114】
<パウンドケーキ>
プレミックスとして、実施例11で調製したプレミックスに替えて比較例1で調製したプレミックスを用いた以外は実施例16と同様にしてパウンドケーキを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記パウンドケーキと同様にして対照のパウンドケーキを調製した。得られたパウンドケーキを4℃で6日間保存後、パウンドケーキの食感について官能試験を実験2と同様にして行ったところ、対照のパウンドケーキより軟らかく、しっとり感に優れ、冷蔵保存時の硬化が抑制されていたものの、パウンドケーキとしては風味、及び、ボディー感に劣るものであった。
【0115】
<パウンドケーキ>
プレミックスとして、実施例11で調製したプレミックスに替えて比較例2で調製したプレミックスを用いた以外は実施例16と同様にしてパウンドケーキを調製した。また、硬化抑制剤を配合しない以外は上記パウンドケーキと同様にして対照のパウンドケーキを調製した。得られたパウンドケーキを4℃で6日間保存後、パウンドケーキの食感について官能試験を実験2と同様にして行ったところ、対照のパウンドケーキより硬く、冷蔵保存時の硬化は抑制されず、パウンドケーキがべとついて軟らかさやしっとり感は悪かった。