【課題】血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる、血液浄化器、血液浄化キット、及び血液浄化システムを提供すること。
【解決手段】体外循環血液を浄化する血液浄化器であって、上記血液浄化器は、血液入口を有する動脈側端部と、上記体外循環血液を浄化する血液浄化部と、血液出口を有する静脈側端部とを有し、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる容量をもつ内部空間を有する、血液浄化器。
前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、前記血液浄化部の横断面積(a)よりも大きいことにより、前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部に前記内部空間が形成されている、請求項1又は2に記載の血液浄化器。
前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)に対する、前記血液浄化部の横断面積(a)の割合が20%以上80%以下である、請求項3に記載の血液浄化器。
前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部の内部に、前記血液入口及び/又は前記血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に前記体外循環血液を通しかつ前記気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部に前記内部空間が形成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の血液浄化器。
前記静脈側端部の内部に前記血液出口を覆う前記気体分離部材を有し、前記血液出口を覆う前記気体分離部材の形状が、前記血液出口から前記血液入口に向かう方向に凸である、請求項5に記載の血液浄化器。
前記気体分離部材は、前記気体分離部材にかかる前記体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、前記体外循環血液を通しかつ前記気体を通さない、請求項5〜7のいずれか一項に記載の血液浄化器。
前記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)に対する、前記血液浄化部の横断面積(a)の割合が20%以上80%以下である、請求項9に記載の血液浄化器。
前記気体分離部材は、前記気体分離部材にかかる前記体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、前記体外循環血液を通しかつ前記気体を通さない、請求項9〜12のいずれか一項に記載の血液浄化器。
前記血液浄化器は、中空糸の内側を流れる体外循環血液に、前記中空糸の外側を流れる透析液を接触させて血液を浄化する中空糸型血液透析器である、請求項14に記載の血液浄化器。
前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部に、前記体外循環血液と前記補液入口から流入する補液とを均一に混合するための混合手段をさらに有する、請求項17に記載の血液浄化器。
前記補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、前記体外循環血液の流れの異常を検出するための、前記補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、繰り返し使用可能な血液浄化装置とともに用いられる、請求項17又は18に記載の血液浄化器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、血液浄化を必要とする患者数の増加に伴い、一人の担当看護師や医師が一度に担当しなければならない患者数が増加し、作業負担が増大している。例えば、血液浄化処理の現場では、一人の担当看護師又は医師が一度に10人以上もの患者を担当することがある。このとき、血液浄化処理ごと、血液回路等の接続及び取り外しにかかるチェックポイントが例えば単純化のため10カ所(実際にはそれ以上と考えられる。)あるとすれば、10人以上の患者を見るためには実に100以上の確認作業が必要である。したがって、血液浄化処理をより簡便なものにし、作業負担を軽減することが強く望まれている。作業負担を軽減することができれば、作業の効率化ばかりでなく、過誤防止にもつながる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、血液入口管状部材及び/又は血液出口管状部材上にドリップチャンバーを設ける従来の態様では、ドリップチャンバー自体や、ドリップチャンバーに様々な部品を接続するための接続部材等が必要であり、部品点数が増加して血液回路が複雑化する。したがって、血液浄化処理前にこれらを正しく接続し、血液浄化処理後に取り外すといった作業負担がかかる。
【0010】
また、ドリップチャンバー内には予め気相を設けておく必要があるため、ドリップチャンバーで空気と血液が接触することにより、血液が凝固しやすいという問題がある。血液が凝固すると、体外循環血液の流れが妨げられ、適切に治療を継続することができなくなるため、好ましくない。血液浄化中には、血液の凝固が起こっていないことを確認する作業負担が生ずる。
【0011】
さらに、ドリップチャンバーや接続部材を含む血液回路は患者の血液に触れるため、血液浄化処理ごとに廃棄される。したがって、血液回路の部品点数の増加は、経済上好ましくないという問題もある。
【0012】
引用文献2に記載されている血液浄化装置では、血液チューブセット(BTS)によって、動脈側チャンバとしての機能と、静脈側チャンバとしての機能とを一体化している。しかしながら、血液チューブセット(BTS)は血液浄化器とは別の特殊な部品であり、部品点数はほとんど削減されず、やはり製造コストがかかる。また、このような血液チューブセット(BTS)は使い捨てであり、血液浄化処理前に血液浄化器及び血液浄化装置へと接続され、血液浄化処理後に取り外すことが必要であるから(引用文献2の第8頁第25〜26行、及び第32〜34行)、やはり作業負担の低減に繋がらない。
【0013】
本発明は、上記のような従来の血液浄化処理において当然に行われていた血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる、血液浄化器、血液浄化キット、及び血液浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特殊で複雑な部品を追加しようとする従来の血液浄化装置の開発傾向に反し、血液浄化器の動脈側端部及び/又は静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を設けることにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
体外循環血液を浄化する血液浄化器であって、
上記血液浄化器は、血液入口を有する動脈側端部と、上記体外循環血液を浄化する血液浄化部と、血液出口を有する静脈側端部とを有し、
上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる容量をもつ内部空間を有する、血液浄化器。
[2]
上記容量が3cc以上35cc以下である、項目1に記載の血液浄化器。
[3]
上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、上記血液浄化部の横断面積(a)よりも大きいことにより、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に上記内部空間が形成されている、項目1又は2に記載の血液浄化器。
[4]
上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)に対する、上記血液浄化部の横断面積(a)の割合が20%以上80%以下である、項目3に記載の血液浄化器。
[5]
上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部の内部に、上記血液入口及び/又は上記血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に上記体外循環血液を通しかつ上記気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に上記内部空間が形成されている、項目1〜4のいずれか一項に記載の血液浄化器。
[6]
上記静脈側端部の内部に上記血液出口を覆う上記気体分離部材を有し、上記血液出口を覆う上記気体分離部材の形状が、上記血液出口から上記血液入口に向かう方向に凸である、項目5に記載の血液浄化器。
[7]
上記気体分離部材がメッシュ状である、項目5又は6に記載の血液浄化器。
[8]
上記気体分離部材は、上記気体分離部材にかかる上記体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、上記体外循環血液を通しかつ上記気体を通さない、項目5〜7のいずれか一項に記載の血液浄化器。
[9]
上記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、上記血液浄化部の横断面積(a)よりも大きく、
上記静脈側端部の内部に、上記血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に上記体外循環血液を通しかつ上記気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、上記静脈側端部に第二の上記内部空間が形成されている、項目1又は2に記載の血液浄化器。
[10]
上記静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)に対する、上記血液浄化部の横断面積(a)の割合が20%以上80%以下である、項目9に記載の血液浄化器。
[11]
上記血液出口を覆う上記気体分離部材の形状が、上記血液出口から上記血液入口に向かう方向に凸である、項目9又は10に記載の血液浄化器。
[12]
上記気体分離部材がメッシュ状である、項目9〜11のいずれか一項に記載の血液浄化器。
[13]
上記気体分離部材は、上記気体分離部材にかかる上記体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、上記体外循環血液を通しかつ上記気体を通さない、項目9〜12のいずれか一項に記載の血液浄化器。
[14]
上記血液浄化器は、上記体外循環血液に透析液を接触させて血液を浄化する血液透析器である、項目1〜13のいずれか一項に記載の血液浄化器。
[15]
上記血液浄化器は、中空糸の内側を流れる体外循環血液に、上記中空糸の外側を流れる透析液を接触させて血液を浄化する中空糸型血液透析器である、項目14に記載の血液浄化器。
[16]
上記透析液を補液として上記体外循環血液に供給するオンライン型血液浄化装置とともに用いられる、項目14又は15に記載の血液浄化器。
[17]
上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、上記体外循環血液に補液を供給するための補液入口をさらに有する、項目1〜16のいずれか一項に記載の血液浄化器。
[18]
上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、上記体外循環血液と上記補液入口から流入する補液とを均一に混合するための混合手段をさらに有する、項目17に記載の血液浄化器。
[19]
上記補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、上記体外循環血液の流れの異常を検出するための、上記補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、繰り返し使用可能な血液浄化装置とともに用いられる、項目17又は18に記載の血液浄化器。
[20]
項目1〜19のいずれか一項に記載の血液浄化器と、
気体捕獲手段をもたない血液回路と
を有する、血液浄化キット。
[21]
項目1〜19のいずれか一項に記載の血液浄化器と、
気体捕獲手段をもたない血液回路と、
上記体外循環血液に補液を供給する血液浄化装置と
を有する、血液浄化システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の血液浄化器、血液浄化キット、及び血液浄化システムは、上記のような構成を有するため、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)による血液浄化器を詳細に説明するが、本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
《血液浄化器》
図1は、本発明の実施形態による血液浄化器の断面を示す模式図である。本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液を浄化する血液浄化器(200)であって、上記血液浄化器は、血液入口(203)を有する動脈側端部(201)と、血液出口(204)を有する静脈側端部(202)とを有し、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間(214)を有する。
【0019】
図4は、従来の血液浄化器と共に用いられる血液回路を示す模式図である。なお、本願明細書において、用語「血液回路」は、血液入口管状部材、及び血液出口管状部材の総称として使用する。従来は、血液入口管状部材及び/又は血液出口管状部材上に気体捕獲手段を設けて、血液浄化処理の間に混入又は発生する気体を捕獲している。
【0020】
ここで、気体捕獲手段は、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ空間をいう。気体捕獲手段は、典型的にはドリップチャンバー(「エアトラップチャンバー」とも呼ばれる。)である。
【0021】
例えば、
図4に示す血液回路は、血液入口管状部材(401)及び血液出口管状部材(402)上にそれぞれドリップチャンバー(403)を有する。したがって、ドリップチャンバー自体、及びこれを血液回路や他の部材と接続するための接続部材(407)が必要であり、部品点数が増加して血液回路が複雑化する。したがって、血液浄化処理前に、これらを接続し、血液浄化処理後に取り外すといった作業負担がかかる。
【0022】
また、ドリップチャンバー内には予め気相を設けておく必要があるため、ドリップチャンバーで空気と血液が接触することにより、血液が凝固しやすいという問題がある。血液が凝固すると、体外循環血液の流れが妨げられ、適切に治療を継続することができなくなるため、好ましくない。血液浄化中には、血液の凝固が起こっていないことを確認する作業負担が生ずる。
【0023】
これに対して、本実施形態の血液浄化器は、例えば、
図1に示すように、動脈側端部及び/又は静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有することによって、従来必要であった
図4に示す血液回路上のドリップチャンバー等の気体捕獲手段、及びこれを接続する接続部材等が必要なくなり、血液回路がより単純化される。したがって、本実施形態の血液浄化器は、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れている。
【0024】
ここで、本願明細書において、「動脈側端部」とは、血液浄化器のうち、実質的に体外循環血液を浄化する機能を有する部分(以下、「血液浄化部」ともいう。図において符号216で示す。)よりも上流にあたる部分をいい、「静脈側端部」とは、血液浄化器のうち、血液浄化部よりも下流にあたる部分をいう。動脈側端部及び静脈側端部は、本体容器とは別の部品、例えば蓋等であってもよく、本体容器と一体に形成された部分であってもよい。なお、血液浄化器の本体容器の形状は特に限定されず、例えば筒状、典型的には円筒状である。
【0025】
血液浄化中、血液浄化器を配置する向きは特に限定されず、例えば、静脈側端部が動脈側端部より上になるよう血液浄化器を配置してもよく;静脈側端部が動脈側端部のほぼ鉛直上方になるよう血液浄化器を地面に対してほぼ垂直に配置してもよく;動脈側端部が静脈側端部より上になるよう血液浄化器を配置してもよく;動脈側端部が静脈側端部のほぼ鉛直上方になるよう血液浄化器を地面に対してほぼ垂直に配置してもよく;静脈側端部と動脈側端部との高さがほぼ同じになるよう血液浄化器を地面に対してほぼ平行に配置してもよい。
【0026】
後述するように、気体をより効率的に捕獲し、かつ捕獲された気体が体外循環血液の流れを妨げることを効果的に防止する観点から、静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、血液浄化部の横断面積(a)よりも大きいことにより、静脈側端部に内部空間が形成されている血液浄化器では、静脈側端部が動脈側端部より下になるよう血液浄化器を配置することがより好ましく、ほぼ鉛直下方になるように配置することが更に好ましい。一方、静脈側端部の内部に、血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、静脈側端部に内部空間が形成されている血液浄化器では、静脈側端部が動脈側端部の上になるように血液浄化器を配置することがより好ましく、ほぼ鉛直上方に配置されるよう血液浄化器を地面に対してほぼ垂直に配置することが更に好ましい。また、静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、血液浄化部の横断面積(a)よりも大きく、静脈側端部の内部に、血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、静脈側端部に内部空間が形成されている血液浄化器では、静脈側端部が動脈側端部より下になるよう血液浄化器を配置することがより好ましく、ほぼ鉛直下方になるように配置することが更に好ましい。
【0027】
〈血液入口及び血液出口〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部に血液入口を有し、静脈側端部に血液出口を有しており、体外循環血液を通すことができる。血液浄化処理の際には、血液入口に血液入口管状部材が接続され、血液出口には血液出口管状部材が接続されて血液回路を構成し、体外循環血液が流れることができる。
【0028】
〈内部空間〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び静脈側端部のうち少なくとも一方に、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有していればよい(
図1(i)、(ii)、又は(iii))。血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができるとは、例えば、1回の血液浄化治療の間に発生する気体を充分に捕獲できる、例えば、途中で血液浄化器外に排出する必要がないことを意味する。また、限定されないが、典型的には3〜6時間に渡る血液浄化治療において、発生する気体を充分に捕捉することができる、例えば、途中で気体を血液浄化器外に排出する必要がないことを意味する。好ましくは、約4時間に渡る典型的な透析治療において、発生する気体を充分に捕捉することができる、例えば、途中で気体を血液浄化器外に排出する必要がないことを意味する。これによって、血液入口管状部材及び血液出口管状部材のうち少なくとも一方における気体捕獲手段及びその接続部材等が必要なくなるため、血液回路を単純化することができる。
【0029】
血液の浄化を均一に安定して行う観点から、本実施形態の血液浄化器は、少なくとも動脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有することが好ましい(
図1(i))。これによって、血液入口管状部材に気体捕獲手段を設ける必要がなくなり、血液回路が単純化され、作業負担を軽減することができる。
【0030】
患者の体内に気体が流入することを効果的に防止する観点から、本実施形態の血液浄化器は、少なくとも静脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有することが好ましい(
図1(ii))。血液出口管状部材は、患者の体内に戻る血液が流れるため、従来は、血液出口管状部材上の気体捕獲手段は特に重要であり、欠かすことができないと考えられていた。しかしながら、この実施形態によれば、体外循環血液が血液入口管状部材(401)から血液浄化器(200)を通過して血液出口から流出するまでの間に発生若しくは混入することがある気体は、少なくとも静脈側端部に存在する内部空間によって効果的に捕獲される。したがって、血液出口管状部材に気体捕獲手段を設ける必要がなくなり、その結果、血液出口から流出した後の血液出口管状部材(402)上で気体が発生若しくは混入することがほとんど又は全くなくなるため、血液回路が単純化され、作業負担を軽減することができる。
【0031】
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び静脈側端部の両方に、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有することがより好ましい(
図1(iii))。これによって、血液の浄化を均一に安定して行うことができ、患者の体内に気体が流入することを効果的に防止することができ、また、血液入口管状部材及び血液出口管状部材の両方における気体捕獲手段及びその接続部材等が必要なくなるため、血液回路をより単純化することができる。
【0032】
内部空間の所定容量としては、以下に限定されないが、例えば3cc以上35cc以下、より好ましくは5cc以上30cc以下、更に好ましくは5cc以上15cc以下とすることができる。内部空間の容量が5mL以上である場合、長時間、例えば限定されないが、典型的には3〜6時間に渡る血液浄化治療においても、発生する気体を充分に捕捉することができる。内部空間の容量が15mL以下である場合、血液への影響、例えば、血液が長時間空気に触れて対流することによる血液凝固を効果的に低減することができる。
【0033】
内部空間の所定容量の測定方法は、限定されないが、例えば、図面等により計算で特定してもよく、実測により特定しても構わない。図面等により計算で特定する場合、回転体の体積をパップス・ギュルダンの定理を用いて求めてもよい。実測する場合は、例えば、次のように特定する事ができる。例えば、
図4で図示される血液浄化器の場合、事前に準備した脱気水を用いて、血液浄化器内を完全に脱気水で充填し、全ての開口(血液入口及び血液出口、並びに透析液入口及び透析液出口等)を、閉止具を用いて閉止し、脱気水で充たされた血液浄化器の合計重量を測定する(重量A)。次いで、内部空間の容量を測定する動脈側端部又は静脈側端部を下側にして、該下側にした端部の血液入口又は血液出口を通じて空気を静かに導入し、該下側にした端部内の実質的に全てを空気で満たす。ただし、空気を導入する開口以外は全て閉止したまま空気を導入する。ついで、反対側(上側)の静脈側端部又は動脈側端部の血液出口又は血液入口から、脱気水を流速250mL/分で約5分間通水させ、閉止具によって血液入口及び血液出口を閉止し、血液浄化器の重量を測定する(重量B)。重量Aと重量Bの差(重量A−重量B)を計算することにより、所定容量を特定する事ができる。
【0034】
内部空間の構造としては、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量を有すれば特に限定されない。例えば、内部空間は、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を、内部空間の側面側へと集めることができる構造を有していてもよい。この場合、体外循環血液の流れと気相とを効果的に分離することができるので、血液と空気との接触が減り、血液の凝固がより低減される。
【0035】
内部空間の構造としては、例えば、血液浄化器は、静脈側端部の側面に血液出口を設け、該血液出口が設けられた側面とは反対側の側面へと気体を集めることができる構造を有していてもよい。該血液出口の位置が低くなるように血液浄化器を傾けて、該血液出口が設けられた側面とは反対側の側面へと気体を集めるようにしてもよい。
【0036】
一実施形態における内部空間の構造としては、例えば、動脈側端部及び/又は静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、血液浄化部の横断面積(a)よりも大きいことにより、動脈側端部及び/又は静脈側端部に内部空間が形成されていることが好ましい。すなわち、動脈側端部及び/又は静脈側端部内の空間の横断面積(b)のうち最大の面積が、血液浄化部の横断面積(a)よりも大きいことが好ましい。より詳細には、動脈側端部及び/又は静脈側端部内の空間は、一実施形態において、ヘッダー(ヘッダーの一部と考えられるOリングを含む)と封止部材とでシールされた(血液が流れないように閉ざされた)、体外循環血液が流れる空間を含む。本願明細書において、「横断面」とは、血液浄化部における体外循環血液の流れ方向に対して垂直な方向の断面をいう。
【0037】
血液浄化部の横断面積(a)は、動脈側端部及び/又は静脈側端部内に露出した血液浄化部の横断面において、血液浄化部の外端同士を結ぶ領域により画定される。ただし、当該領域の接線の交点における内角が180度を超える部分を含む場合は、当該内角が180度を超える部分を含まないように外端を選出し直す。すなわち、横断面積(a)を算出すべき領域が凹部を有しないように、当該領域の形状を画定する。
【0038】
血液浄化器が中空糸型血液透析器である場合、典型的には、中空糸は封止部材(「ポッティング」とも呼ばれる)で固定され、動脈側端部及び/又は静脈側端部内の封止部材の切断面上に露出している。この場合、血液浄化部の横断面積(a)は、
図11に模式的に示すように、封止部材(210)の切断面上において、血液浄化部の最も外側に位置する中空糸(221)の外端同士を結ぶ領域により画定される(
図11A及びBの破線222)。ただし、当該領域の接線の交点における内角が180度を超える部分を含む場合(
図11C)は、当該内角が180度を超える部分を含まないように、最も外側の中空糸を選出し直す(
図11Dの破線222)。すなわち、横断面積(a)を算出すべき領域が凹部を有しないように、当該領域の形状を画定する。
【0039】
横断面積(a)及び(b)の測定手段としては、特に限定されないが、撮影画像上の寸法及び/又は面積を測定することができる手段を使用することが簡便で好ましい。
例えば、血液浄化部の横断面積(a)の測定手段は、動脈側端部及び/又は静脈側端部内に露出した血液浄化部の横断面を、光学顕微鏡又はレーザー顕微鏡などを用いて、必要に応じてスケール表示、或いは寸法既知のスケール代替物と共に写真撮影し、任意の画像解析処理ソフト、例えばImageProPlus(Media Cibernetics Inc.)を用いて、横断面積(a)を上記のように画定し、その面積を測定することができる。
また、例えば、横断面積(b)の測定手段は、測定対象の端部の設計図面が入手可能である場合にはその設計図面に基づいて算出することができ、又は設計図面が入手可能でない場合は、例えば、非破壊撮影が可能なX線コンピュータ断層撮影(X線CT)を用いて、必要に応じてスケール表示、或いは寸法既知のスケール代替物と共に写真撮影し、面積を測定する事ができる。
【0040】
動脈側端部及び/又は静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)に対する、血液浄化部の横断面積(a)の割合は、20%以上80%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以上70%以下、更に好ましくは40%以上60%以下である。横断面積(b)に対する横断面積(a)の割合が30%以上である場合、長時間、例えば限定されないが、典型的には3〜6時間に渡る血液浄化治療においても、発生する気体を充分に捕捉することができる。内部空間の容量が70%以下である場合、血液への影響、例えば、血液が長時間空気に触れて対流することによる血液凝固を効果的に低減することができる。例として、動脈側端部又は静脈側端部の内径、中空糸の束の直径、捕獲される気体の量、及び横断面積(b)に対する血液浄化部の横断面積(a)の割合の関係を、表1に示す。
【0041】
他の実施形態における内部空間の構造としては、例えば、動脈側端部及び/又は静脈側端部の内部に、血液入口及び/又は血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、動脈側端部及び/又は静脈側端部に内部空間が形成されていることが好ましい。気体分離部材は、血液浄化の間に気体分離部材にかかることのある体外循環血液の圧力、典型的には250mmHg以下で、気体分離部材が体外循環血液を通しかつ気体を通さないことが好ましい。気体分離部材は、気体分離部材にかかる体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、体外循環血液を通しかつ気体を通さないことがより好ましい。これによって、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕捉しつつ、体外循環血液が気体分離部材を通過する際のストレスを低減することができ、患者に体外循環血液が返る際の影響を効果的に低減することができる。体外循環血液にかかるストレスとしては、例えば、体外循環血液が気体分離部材を通過する際に一時的に抵抗がかかり、その部分で血液凝固が発生することが挙げられる。
【0042】
気体分離部材が、ある圧力下で体外循環血液を通しかつ気体を通さないことは、以下のようにして確認することができる。まず、水を充填した容器の中に気体分離部材を入れ、気体分離部材に接触するよう空気を入れる。気体分離部材の空気を入れた側に測定すべき圧力、例えば300mmHgの圧力をかけ、水及び空気を目視で確認する。所望の血液浄化の時間、例えば4時間、水が気体分離部材を通過して流れ、かつ空気が気体分離部材を通過せずに捕獲されたままであれば、その気体分離部材は、その圧力下で体外循環血液を通しかつ気体を通さないことが分かる。実際には、動脈側端部及び/又は静脈側端部のヘッダーから気体分離部材を取り出して、上記試験を行うことができる。気体分離部材がヘッダーに一体成型されている場合など、気体分離部材を分離することが困難である場合、ヘッダー内の空間を水で充填して、上記と同様に試験することができる。
【0043】
気体分離部材の形状は、限定されないが、例えば、血液入口及び/又は血液出口で、血液出口から血液入口に向かう方向に凸になるように形成されていることが好ましい。換言すれば、体外循環血液の全体的な流れ方向(血液入口から血液出口に向かう方向。乱流等を考慮しない。)に対して、対向する方向に凸であることが好ましい。捕獲された気体が気体分離部材の孔に接触した状態で絶えず大きな圧力がかかれば、通常は気体を通さない孔を有する気体分離部材であっても、気体が気体分離部材を通過してしまう恐れがある。しかし、気体分離部材の形状が血液出口から血液入口に向かう方向に凸であることにより、気体分離部材より上流側で混入若しくは発生した気体は、一旦気体分離部材により捕獲され、血液の流れや圧力によって凸部の先端から周辺へと移動する。このことにより、捕獲された気体が、気体分離材の孔に接触した状態で、絶えず大きな圧力がかかることを防ぎ、気体が期待分離部材を通過してしまうリスクを低減させることができる。
他の実施形態において、例えば、血液入口及び/又は血液出口から血液浄化部に向かって凸であることが好ましい。気体分離部材の形状が、血液入口から血液浄化部に向かって凸であることにより、気体分離部材より上流側で混入若しくは発生した気体は、気体分離部材の凹部(凸部の内側)に捕獲される。気体分離部材の形状が、血液出口から血液浄化部に向かって凸であることにより、気体分離部材より上流側で混入若しくは発生した気体は、静脈側端部が動脈側端部より上に位置する場合、気体分離部材の凸部に当たってその周囲に流れ;又は、静脈側端部が動脈側端部より下に位置する場合、封止部材の切断面若しくはその周囲に捕獲される。なお、上述したように、気体分離部材が、血液出口に設けられている場合には、血液出口管状部材に気体捕獲手段を設ける必要がなくなり、その結果、気体分離部材より下流側で気体が発生若しくは混入することがほとんど又は全くなくなるため、気体分離部材より下流側における気体の捕獲を考慮する必要がなくなる。
【0044】
気体分離部材の形状が、血液浄化部に向かって凸である場合、気体分離部材と血液浄化部との間に隙間が存在することが好ましい。気体分離部材が封止部材まで到達して、気体分離部材と血液浄化部とが接触していてもよく、この場合、体外循環血液の流れから気体をより効果的に分離する観点から、気体分離部材と血液浄化部との接触部を介して体外循環血液が血液浄化部に流入及び/又は流出しないように、例えば、気体分離部材と血液浄化部との接触部に中空糸膜の開口部が存在しないことが好ましい。
【0045】
気体分離部材の態様としては、血液浄化の間に前記体外循環血液を通しかつ前記気体を通さない一又は複数の孔を有する限り、限定されないが、例えば、多孔質体、例えばメッシュ状であることが好ましい。気体分離部材は、血液浄化の間に前記体外循環血液を通しかつ前記気体を通さない一又は複数の孔を有する限り、その一部が気液不透過性であってもよい。
【0046】
上記内部空間の態様は、動脈側端部及び静脈側端部とで任意に組み合わせて使用することができる。例えば、動脈側端部及び静脈側端部の両方において、横断面積(b)が横断面積(a)より大きいことにより、すなわち、横断面積の差により、内部空間が形成されていてもよく;動脈側端部及び静脈側端部の両方に、気体分離部材による内部空間が形成されていてもよく;動脈側端部及び静脈側端部のいずれか一方に、横断面積の差による内部空間が形成され、かつ、他方に、気体分離部材による内部空間が形成されていてもよい。動脈側端部及び静脈側端部のいずれか一方又は両方に、横断面積の差と気体分離部材とを組み合わせた内部空間が形成されていてもよい。
【0047】
他の実施形態において、静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、血液浄化部の横断面積(a)よりも大きく、かつ、静脈側端部の内部に、血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、静脈側端部に内部空間が形成されていることが好ましい。他の実施形態において、動脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)が、血液浄化部の横断面積(a)よりも大きいことにより、動脈側端部に第一の内部空間が形成され、かつ、静脈側端部の内部に、血液出口を覆う気体分離部材であって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さない一又は複数の孔を有する気体分離部材を有することにより、静脈側端部に第二の内部空間が形成されていることが好ましい。
【0048】
これらの好ましい態様について、動脈側端部において、それまでに発生若しくは混入した気体が、例えば封止部材の周囲に形成された内部空間に流れて捕獲されるため、捕獲した気体の量が多くなっても、患者に戻る体外循環血液に気体が混入することをより効果的に防止することができ、かつ、捕獲された気体が体外循環血液の流れを阻害することがより少ない。また、静脈側端部において、気体分離部材より上流側で混入若しくは発生した気体が、気体分離部材の周囲に流れて捕獲されるため、捕獲した気体の量が多くなっても、患者に戻る体外循環血液に気体が混入することをより効果的に防止することができ、かつ、捕獲された気体が体外循環血液の流れを阻害することがより少ない。
【0049】
更に、他の実施形態において、動脈側端部の横断面積(b)が横断面積(a)よりも大きいことより、動脈側端部に第一の内部空間が形成され、かつ、静脈側端部の内部に気体分離部材を有し、静脈側端部の横断面積(b)が横断面積(a)よりも大きいことにより、静脈側端部に第二の内部空間が形成されていることがより好ましい。
【0050】
本実施形態の血液浄化器とともに、気体捕獲手段をもたない血液回路を使用してもよく、気体捕獲手段をもつ血液回路を使用してもよく、又はこれらを組み合わせて使用してもよい。すなわち、本実施形態の、動脈側端部及び/又は静脈側端部に気体捕獲手段を有する3通りの血液浄化器(
図1(i)、(ii)及び(iii))に対して、それぞれ、気体捕獲手段をもつ又はもたない2通りの血液入口管状部材と、気体捕獲手段をもつ又はもたない2通りの血液出口管状部材との組合せが考えられる。
【0051】
一実施形態において、動脈側端部に気体捕獲手段を有する血液浄化器(
図1(i))と、気体捕獲手段をもたない血液入口管状部材と、気体捕獲手段をもつ血液出口管状部材とを組み合わせて使用してもよい。この場合、血液入口管状部材が単純化されているので、作業負担を軽減することができる。
【0052】
他の実施形態において、静脈側端部に気体捕獲手段を有する血液浄化器(
図1(ii))と、気体捕獲手段をもつ血液入口管状部材と、気体捕獲手段をもたない血液出口管状部材とを組み合わせて使用してもよい。この場合、血液出口管状部材が単純化されているので、作業負担を軽減することができる。
【0053】
さらに他の実施形態において、動脈側端部及び静脈側端部の両方に気体捕獲手段を有する血液浄化器(
図1(iii))と、気体捕獲手段をもたない血液入口管状部材と、気体捕獲手段をもたない血液出口管状部材とを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、血液入口管状部材及び血液出口管状部材の両方が単純化されているので、作業負担がより軽減される。
【0054】
〈補液入口〉
血液浄化処理では、一般に、血液中から水分や老廃物等が取り除かれることに伴い、体外循環血液の希釈、浄化量の増大、水分や電解質等の物質バランスの調整、及びpHの調整といった様々な目的から、体外循環血液に対して補液を供給する。本実施形態において、体外循環血液に補液を供給する位置については、特に限定されない。例えば、血液入口管状部材、血液出口管状部材、ドリップチャンバー、血液浄化器の動脈側端部、及び静脈側端部からなる群から選択される少なくともいずれかが補液入口を有していてもよい。
【0055】
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部に、体外循環血液に補液を供給するための補液入口をさらに有していてもよい。
【0056】
血液浄化器の動脈側端部及び/又は静脈側端部に補液入口をさらに有することにより、従来必要であった
図4に示す補液入口管状部材(405)及びその接続部材(407)が必要なくなるため、血液回路がより単純化され、過誤防止に寄与する。また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに破棄される部材を少なくすることができ、より経済性に優れる。
【0057】
〈補液入口管状部材〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部の補液入口に接続された補液入口管状部材をさらに有してもよい。補液入口管状部材は、使用時に、血液浄化装置の補液供給流路に接続され、補液を流すことができる。
【0058】
血液浄化器が、動脈側端部及び/又は静脈側端部の補液入口に接続された補液入口管状部材をさらに有する場合、体外循環血液を送液するポンプの脈流等に起因して体外循環血液が血液浄化装置の補液供給流路へと流入することを効果的に防ぐことができる。したがって、血液浄化装置を繰り返し使用する際の交差感染等のリスクを効果的に低減することができる。
【0059】
血液浄化器の動脈側端部及び静脈側端部の補液入口にそれぞれ補液入口管状部材が接続されている場合、補液入口管状部材は共に接続されて、閉じた補液回路を構成していてもよい。補液入口管状部材が閉じた補液回路を構成している場合、輸送及び保管時における血液浄化器内への菌等の汚染物質の侵入を効果的に防止することができる。この場合、使用時に補液入口管状部材同士の接続が解かれ、血液浄化装置の補液供給流路へと接続されて、補液が流れる。
【0060】
〈混合手段〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部に、体外循環血液と補液入口から流入する補液とを均一に混合するための混合手段をさらに有していてもよい。
【0061】
動脈側端部に混合手段を有することにより、体外循環血液と補液との混合が促進され、血液の浄化をより均一に行うことができ、また、血液浄化器の機能低下を低減する効果も期待できる。静脈側端部に混合手段を有することにより、体外循環血液と補液との混合が促進され、患者への負担を軽減することができる。
【0062】
混合手段は特に限定されず、当業者であれば、任意の適切な手段を選択することができる。例えば、混合手段としては、安全性、製造の容易性等の観点から、駆動部を有しない混合手段であることが好ましい。駆動部を有しない混合手段としては、例えば邪魔板や突起等の障害物を設けること、及び一般にスタティックミキサーと呼ばれる構造を設けること等が挙げられる。なお、かかる混合手段は、補液入口の形状と上記端部の形状とが相俟って血液と補液とが混合される態様を排除するものではない。
【0063】
〈薬剤投入口〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部に薬剤投入口(図示せず)をさらに有していてもよい。血液浄化処理の際には、血液と空気との接触による体外循環血液の凝固を防止するため、抗凝固薬を投入することがある。従来は、血液入口管状部材等に薬剤投入口(図示せず)が設けられていた。これに対して、本実施形態において、血液浄化器の動脈側端部に薬剤投入口をさらに有する場合、従来の薬剤投入口が必要なくなり、血液回路がより単純化され、過誤防止に寄与する。
【0064】
〈血液浄化器の種類〉
本実施形態において、血液浄化器の種類は、血液を浄化することができれば特に限定されない。本願明細書において、「血液の浄化」(「血液浄化処理」ともいう。)は、血液中から余分な水分や老廃物等を取り除くことを含む処理をいう。血液中から余分な水分や老廃物等を取り除く原理としては、拡散、濾過、及び吸着等が挙げられる。本実施形態において、血液浄化処理は、以下に限定されないが、拡散、濾過、吸着、及びこれらの組合せによる浄化を包含し、本実施形態の血液浄化器は、何れの血液浄化処理にも使用することができる。
【0065】
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液を吸着材に接触させて血液を浄化する吸着型血液浄化器であってもよい。
【0066】
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液を濾過して血液を浄化する血液濾過器であってもよい。
【0067】
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液に透析液を接触させて血液を浄化する血液透析器であってもよい。血液透析器は、拡散の原理を利用して、又は拡散とともに濾過を組み合わせて血液を浄化することができる。本願明細書において、用語「血液透析器」は、拡散とともに濾過を組み合わせて血液を浄化する、いわゆる「血液透析濾過器」を包含する。
【0068】
本実施形態の血液浄化器が、体外循環血液に透析液を接触させて血液を浄化する血液透析器である場合、血液透析器は、透析液入口及び透析液出口(
図1において図示せず)を更に有していてもよい。たとえば、血液透析器の本体容器に、典型的には本体容器の側面に、透析液入口及び透析液出口を設けることができる。
【0069】
本実施形態の血液浄化器は、中空糸の内側を流れる体外循環血液に、中空糸の外側を流れる透析液を接触させて血液を浄化する中空糸型血液透析器であってもよい。
【0070】
《血液浄化装置》
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液へ補液を供給することができる血液浄化装置とともに用いることができる。
【0071】
血液浄化装置は、一般に、繰り返し使用可能である。ここで、「繰り返し使用可能」とは、2回以上の血液浄化処理に使用できることをいうが、使用者の選択により1回のみ使用することを排除するものではない。本願明細書において、血液浄化装置は繰り返し使用可能である点において、血液浄化処理ごとに使い捨てとなる血液浄化器、及びこれに付随する使い捨ての部品等とは区別することができる。
【0072】
〈補液供給流路〉
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、体外循環血液に補液を供給するための少なくとも一つの補液供給流路を有するものであってよい。
【0073】
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置の補液供給流路は、2系統あってもよい。血液浄化装置の補液供給流路が2系統あることにより、1の系統は、浄化前の体外循環血液に補液を供給し、他の系統は、浄化後の体外循環血液に補液を供給することができる。したがって、血液浄化処理の目的や段階に応じて、補液の供給位置を適宜切り換えることができ、汎用性及び利便性が高くなる。
【0074】
また、血液浄化装置の補液供給流路が2系統あることにより、血液浄化処理前に血液浄化器側を補液等で満たすプライミング作業、及び血液浄化処理後に血液浄化器内に残った血液を回収する血液回収作業において、以下の利点を有する。すなわち、プライミングを行う際に、1の系統から補液等を供給しつつ、他の系統から血液回路内の空気及び補液等を回収することができるため、血液回路をつなぎ替えることなしに、簡単にプライミングを行うことができる。また、血液回収時には、浄化前の体外循環血液に補液を供給するための1の系統から補液を供給することにより、血液回路をつなぎ替えることなしに、簡便に血液を回収することがきる。さらに、従来必要であった
図4に示すプライミングライン(406)、及びそれに伴う接続部材(407)等が必要なくなり、血液回路が単純化される。
【0075】
血液浄化装置の補液供給流路が2系統ある場合、補液供給流路は、それぞれ独立した送液手段を有していてもよい。補液供給流路がそれぞれ独立した送液手段を有する場合、血液浄化装置は、血液浄化処理の目的や段階に応じて、補液の供給量を適宜設定することができるため、汎用性及び利便性が高くなる。
【0076】
補液としては、体外循環血液に対して供給される液体であれば限定されず、例えば、生理食塩水が挙げられる。透析液を使用する血液浄化処理においては、後述するように、透析液を補液として供給してもよい。
【0077】
補液供給源は、血液浄化装置内に備えられた容器であってもよく、血液浄化装置とは別に設けられた供給源、例えば補液の入った瓶や補液バッグ等であってもよい。補液を送液するための送液手段は限定されず、あらゆる送液ポンプ、例えばチュービングポンプを使用することができる。
【0078】
〈補液圧力測定手段〉
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、繰り返し使用可能な血液浄化装置であってよい。
【0079】
図4に示すように、従来は、血液の流れの異常を検出するために、圧力測定用管状部材(404)が、血液回路上に設けられたドリップチャンバー(403)に接続されている。この圧力測定用管状部材は、血液に触れることがないようドリップチャンバーの上部に接続され、ドリップチャンバー内の気相に通じている。従来、使用時には、圧力測定用管状部材に圧力測定装置(図示せず)が接続され、ドリップチャンバー内の気相を介して体外循環血液の流れの異常を検出していた。したがって、従来は、圧力測定用管状部材自体、及び圧力測定管状部材を取り付けるための接続部材(407)等が必要であった。また、血液浄化処理前に、圧力測定装置を圧力測定用管状部材に接続し、血液浄化処理後に取り外す作業が必要であり、作業負担を増大させていた。
【0080】
また、従来、圧力測定用管状部材(404)は、圧力測定手段から血液回路内へと菌等の汚染物質が侵入しないようにするため、及び血液回路から圧力測定手段側へと血液等が漏出しないようにするために、疎水性フィルター(408)を有している。疎水性フィルターが濡れてしまうとドリップチャンバー内の圧力を測定することができなくなるため、血液浄化処理前に疎水性フィルターを濡らさないよう配慮しなければならず、また、血液浄化処理中に疎水性フィルターが濡れないよう監視する必要があった。しかしながら、血液回路等が適切に接続されていないこと等に起因して、ドリップチャンバー内の気相の空気が漏れて、血液回路内の血液や補液で疎水性フィルターが濡れてしまうおそれがある。そして、いったん疎水性フィルターが濡れてしまえば、新品の血液回路と交換しなければならならず、このことは作業負担を増大させていた。
【0081】
これに対して、血液浄化装置が、補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有することによって、従来必要であった
図4に示す圧力測定用管状部材やそれに伴う接続部材、及び疎水性フィルター等が必要なくなり、血液回路がより単純化される。また、ドリップチャンバーの気相を介さずに、液体である補液の圧力を測定することができるため、ドリップチャンバー内に圧力測定のための気相を予め設けておく必要がなく、血液と気相との接触面積を低減することができる。したがって、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し、並びに疎水性フィルターの取扱い等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる。
【0082】
本願明細書において、体外循環血液に「補液を直接供給する…補液供給流路」とは、補液圧力測定手段によって補液の圧力を測定することで、体外循環血液の流れの異常を検出することができるように構成された流路であることを意図している。したがって、限定されないが、補液供給流路が送液ポンプを有する場合、送液ポンプより上流にあたる部分は、補液圧力測定手段を設けても体外循環血液の流れの異常を検出することができないため「補液を直接供給する…補液供給流路」には該当せず、送液ポンプより下流にあたる部分が、「補液を直接供給する…補液供給流路」に該当する。
【0083】
補液圧力測定手段の位置は、血液浄化装置の、体外循環血液に補液を直接供給するための補液供給流路上であれば特に限定されない。体外循環血液に補液を直接供給するための補液供給流路が血液浄化装置の筐体の外側に伸びている場合には、血液浄化装置の筐体の外側に補液圧力測定手段が設置されていてもよい。
【0084】
補液圧力測定手段としては、液体である補液の圧力を測定することができれば、任意の圧力計を使用することができる。補液圧力測定手段としては、以下に限定されないが;弾性圧力計、例えば、ブルドン管圧力計、ダイアフラム圧力計、ベロー圧力計、チャンバ圧力計;並びに非弾性圧力計、例えば、液柱圧力計、及び重錘圧力計等が挙げられる。
【0085】
体外循環血液の流れが異常であるか否かは、当業者であれば、患者や血液浄化処理の条件等に合わせて適切に判断することができる。例えば、補液の圧力が、定常状態の値から所定値以上変動したとき、血液の流れが異常であると判断することができる。血液浄化装置は、体外循環血液の流れが異常であるか否かを自動的に判断する制御装置をさらに有してもよい。制御装置は、体外循環血液の流れが異常であると判断したときに、作業者に知らせるための表示を提供してもよい。
【0086】
〈透析液供給流路及び透析液回収流路〉
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、血液浄化器に透析液を供給するための透析液供給流路、及び血液透析器から透析液を回収するための透析液回収流路をさらに有していてもよい。血液浄化装置が、血液浄化器に透析液を供給するための透析液供給流路、及び血液透析器から透析液を回収するための透析液回収流路をさらに有することにより、HD及びHDF等による血液透析処理にも使用することができ、汎用性が高くなる。
【0087】
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、透析液を補液として体外循環血液に供給するオンライン型血液浄化装置であってよい。透析液を補液として体外循環血液に供給する血液浄化処理は、一般に「オンライン型」血液浄化処理ともよばれる。また、補液の供給源が血液浄化装置とは別に設けられている、例えば瓶や補液バッグに入った補液を供給する血液浄化処理は、一般に「オフライン型」血液浄化処理とも呼ばれる。血液浄化装置は、補液供給流路が透析液供給流路から分岐しており、透析液を補液として体外循環血液に供給することができる場合、オンライン型血液浄化処理にも使用することができるため、汎用性が高くなる。
【0088】
透析液としては、体外循環血液に接触させて血液中から余分な水分や老廃物等を取り除くことができれば、特に限定されない。透析液としては、例えば、生理食塩水が挙げられる。透析液を補液として使用してもよい。透析液を送液する手段は限定されず、任意の送液ポンプ、例えばチュービングポンプを使用することができる。
【0089】
《血液浄化キット》
本願明細書において、「血液浄化キット」は、体外循環血液を浄化する血液浄化器と、体外循環血液が流れる血液回路とを有する。
【0090】
本実施形態の血液浄化キットは、本実施形態の血液浄化器と、気体捕獲手段をもたない血液回路とを有していてもよい。本実施形態の血液浄化器の具体的な構成については、「《血液浄化器》」の欄を参照されたい。
【0091】
本実施形態の血液浄化キットにおける血液回路は、血液入口管状部材及び血液出口管状部材のうち少なくとも一方が気体捕獲手段をもたないものであってよい。
【0092】
一実施形態において、本実施形態の血液浄化キットは、動脈側端部に気体捕獲手段を有する血液浄化器(
図1(i))と、気体捕獲手段をもたない血液入口管状部材、及び気体捕獲手段をもつ血液出口管状部材から構成される血液回路とを有してもよい。この場合、血液入口管状部材が単純化されているため、作業負担を軽減することができる。
【0093】
他の実施形態において、本実施形態の血液浄化キットは、静脈側端部に気体捕獲手段を有する血液浄化器(
図1(ii))と、気体捕獲手段をもつ血液入口管状部材、及び気体捕獲手段をもたない血液出口管状部材から構成される血液回路とを有することが好ましい。この場合、血液出口管状部材が単純化されているため、作業負担を軽減することができる。
【0094】
さらに他の実施形態において、本実施形態の血液浄化キットは、動脈側端部及び静脈側端部の両方に気体捕獲手段を有する血液浄化器(
図1(iii))と、気体捕獲手段をもたない血液入口管状部材、及び気体捕獲手段をもたない血液出口管状部材から構成される血液回路とを有することがより好ましい。この場合、血液入口管状部材及び血液出口管状部材の両方が単純化されているため、作業負担がより軽減される。
【0095】
本実施形態の血液浄化器が、動脈側端部及び静脈側端部のうち少なくとも一方に補液入口をさらに有する場合、本実施形態の血液浄化キットにおける血液回路は、血液入口管状部材及び血液出口管状部材のうち少なくとも一方が補液入口をもたないものであってよい。これによって血液回路がより単純化されているため、作業負担がより軽減される。
【0096】
本実施形態の血液浄化器が、動脈側端部に薬剤投入口をさらに有する場合、本実施形態の血液浄化キットにおける血液回路の血液入口管状部材は、薬剤投入口をもたないものであってよい。これによって血液回路がより単純化されているため、作業負担がより軽減される。
【0097】
本実施形態の血液浄化キットと共に用いられる血液浄化装置の補液供給流路が2系統ある場合、本実施形態の血液浄化キットにおける血液回路は、プライミングラインをもたないものであってよい。これによって血液回路がより単純化されているため、作業負担がより軽減される。
【0098】
本実施形態の血液浄化キットと共に用いられる血液浄化装置が、補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、繰り返し使用可能な血液浄化装置である場合、本実施形態の血液浄化キットにおける血液回路は、圧力測定管状部材及び疎水性フィルターをもたないものであってよい。これによって血液回路がより単純化されているため、作業負担がより軽減される。
【0099】
本実施形態の血液浄化キットは、血液浄化器と血液回路とが予め組み立てられていてもよく、又は分離していてもよい。すなわち、血液浄化器の血液入口に血液入口管状部材が予め接続され、及び/又は血液浄化器の血液出口に血液出口管状部材が予め接続されていてもよく、又は分離していてもよい。
【0100】
本実施形態の血液浄化キットは、例えば、血液浄化器の血液入口に血液入口管状部材が予め接続され、血液浄化器の血液出口に血液出口管状部材が予め接続され、かつ、血液入口管状部材と血液出口管状部材とが共に接続されて、閉じた血液回路を構成していてもよい。血液浄化キットが閉じた血液回路を構成している場合、プライミングを行う際に、血液回路を閉じたまま血液回路内に補液等を循環させることで、血液回路内の空気を効率的にパージすることができるため、簡単にプライミングを行うことができる。また、輸送及び保管時における血液回路内への菌等の汚染物質の侵入を効果的に防止することができる。
【0101】
《血液浄化システム》
本願明細書において、「血液浄化システム」は、体外循環血液を浄化する血液浄化器と、体外循環血液が流れる血液回路と、体外循環血液へ補液を供給することができる血液浄化装置とを有する。血液浄化システムにおいて、血液浄化器と血液回路とは、血液浄化キットを構成していてもよい。
【0102】
本実施形態の血液浄化システムは、本実施形態の血液浄化器と、気体捕獲手段をもたない血液回路と、体外循環血液に補液を供給する血液浄化装置とを有していてもよい。本実施形態の血液浄化器の具体的な構成、及び単純化された様々な血液回路との組合せについては、「《血液浄化器》」及び「《血液浄化キット》」の欄を参照されたい。血液浄化装置の具体的な構成については、「《血液浄化装置》」の欄を参照されたい。
【0103】
《実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明は、以下の好ましい実施形態に限定されるものではない。
【0104】
図2は、本発明の好ましい実施形態における血液浄化器の断面を示す模式図である。
図2において、血液浄化器(200)は、筒状の本体容器(208)内に中空糸の束(209)を有し、中空糸の束は、その両端が封止部材(210)によって筒状の本体容器内に固定され、中空糸の内側と外側とが隔てられている。なお、説明のため、中空糸の束はその一部のみ記載されている。
【0105】
筒状の本体容器は、その両端に、血液入口(203)及び補液入口(207)をもつ動脈側端部(201)と、血液出口(204)及び補液入口(207)をもつ静脈側端部(202)とを有している。使用時に、血液入口には血液入口管状部材(図示せず)が接続され、血液出口には血液出口管状部材(図示せず)が接続されて、血液回路を構成し、中空糸の内側に体外循環血液(300)を流すことができる。また、補液入口には、それぞれ補液入口管状部材(215)が接続されており、補液入口管状部材は、使用時に、それぞれ血液浄化装置(100)の2系統の補液供給流路(101)に接続され、補液を流すことができる。本体容器は、その側面に透析液入口(211)及び透析液出口(212)を有し、使用時に、中空糸の外側と本体容器の内側と、封止部材とで囲まれた空間に透析液を流すことによって、体外循環血液を、中空糸を介して透析液と接触させることができる。
【0106】
また、血液浄化器は、動脈側端部の内部に混合手段(213)を有しており、血液が中空糸の内部を通る前に、体外循環血液と補液入口から流入する補液とを均一に混合することができる。さらに、血液浄化器は、動脈側端部及び静脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体の全体積を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間(214)を有している。
【0107】
図3は、本発明の好ましい実施形態における血液浄化器、及びこれと共に用いられる血液浄化装置の模式図である。
図3において、血液浄化装置(100)は、体外循環血液(300)に透析液を接触させて血液を浄化する血液浄化器(200)と共に用いられる、繰り返し使用可能な血液浄化装置である。血液浄化装置は、体外循環血液に補液を直接供給するための補液供給流路(101)を2系統有しており、2系統の補液供給流路は、それぞれ独立した送液ポンプ(106)を有し、補液の流量を独立して制御することができる。血液浄化装置は、それぞれの補液供給流路上に、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段(102)を有している。また、血液浄化装置は、血液透析器に透析液を供給するための透析液供給流路(103)、及び血液透析器から透析液を回収するための透析液回収流路(104)をさらに有している。2系統の補液供給流路はそれぞれ透析液供給流路から分岐しており、したがって、血液浄化装置(100)は、透析液供給源(105)からの透析液を補液として体外循環血液に供給することができる、オンライン型血液浄化装置である。
【0108】
本発明の好ましい実施形態によれば、
図4に示すような従来の血液回路において必要であった補液入口管状部材(405)、圧力測定用管状部材(404)、ドリップチャンバー(403)、プライミングライン(406)、疎水性フィルター(408)、及びこれらに伴う接続部材(407)等が必要なくなる。また、体外循環血液の流れの異常を、液体である補液の圧力を測定することで直接検出することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態による血液浄化器、血液浄化キット、及び血液浄化システムは、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し、並びに疎水性フィルターの取扱い等にかかる作業負担をより軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れていることが分かる。
【0109】
図5は、本発明の好ましい実施形態における血液浄化キット(500)の断面を示す模式図である。
図5において、血液浄化キットは、上記で説明した本発明の好ましい実施形態における、血液浄化器(200)と、気体捕獲手段をもたない血液回路(400)と、補液入口管状部材(215)とを有する。血液回路は、動脈側端部の血液入口と、静脈側端部の血液出口とに接続され、閉じた血液回路を構成している。また、補液入口管状部材は、動脈側端部の補液入口と、静脈側端部の補液出口とに接続され、閉じた補液回路を構成している。したがって、本発明の好ましい実施形態における血液浄化キットは、作業負担の軽減による過誤防止、血液と空気との接触が減ることによる血液の凝固の低減、製造コスト削減、及び経済性に寄与するばかりでなく、プライミングを行う際に、血液回路を閉じたまま血液回路内に補液等を循環させることで、血液回路内の空気を効率的にパージすることができるため、簡単にプライミングを行うことができる。また、血液回路及び補液回路が閉じているので、輸送及び保管時に血液浄化器内へと菌等の汚染物質が侵入することを効果的に防止することができる。
【0110】
図6は、本発明の好ましい実施形態における血液浄化システム(600)を示す模式図である。
図6において、血液浄化システムは、上記で説明した本発明の好ましい実施形態における、血液浄化器(200)と、気体捕獲手段をもたない血液回路(400)と、補液入口管状部材(215)と、血液浄化装置(100)とを有する。血液浄化装置の2系統の補液供給流路(101)は、それぞれ、血液浄化器の2系統の補液入口管状部材(215)に接続され、補液を流すことができる。血液浄化装置の透析液供給流路(103)及び透析液回収流路(104)は、それぞれ、血液浄化器の透析液入口(211)及び透析液出口(212)に接続され、透析液を供給及び回収することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態における血液浄化システムは、作業負担の軽減による過誤防止、血液と空気との接触が減ることによる血液の凝固の低減、製造コスト削減、及び経済性に寄与するばかりでなく、プライミング及び血液回収時に以下の利点を有する。すなわち、プライミングを行う際に、2系統の補液供給流路のうち1の系統から補液等を供給しつつ、他の系統から血液回路内の空気及び補液等を回収することができるため、血液回路をつなぎ替えることなしに、簡単にプライミングを行うことができる。また、血液回収時には、2系統の補液供給流路のうち1の系統から補液を供給することにより、血液回路をつなぎ替えることなしに、簡便に血液を回収することがきる。
【0111】
以下、
図7〜10を参照しながら、静脈側端部の実施形態を説明する。
図7及び8は、体外循環血液が上から下に向かって流れるように、動脈側端部が静脈側端部のほぼ鉛直上方になるよう血液浄化器を地面に対してほぼ垂直に配置したときの、静脈側端部の好ましい実施形態、及びより好ましい実施形態を示す。
図9及び10は、静脈側端部が少なくとも気体分離部材を有するときの、静脈側端部の好ましい実施形態、及びより好ましい実施形態を示す。
【0112】
図7は、本発明の好ましい実施形態における静脈側端部の模式図である。
図7において、血液浄化器は、体外循環血液(300)が上から下に向かって流れるような向きで配置されている。静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)(218)が、血液浄化部の横断面積(a)(217)よりも大きいことにより、静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる容量をもつ内部空間(214)が形成されている。
【0113】
図8は、本発明のより好ましい実施形態における静脈側端部の模式図である。
図8において、血液浄化器は、体外循環血液(300)が上から下に向かって流れるような向きで配置されている。静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)(218)が、血液浄化部の横断面積(a)(217)よりも大きく、横断面積(b)に対する横断面積(a)の割合が20%以上80%以下であることにより、静脈側端部に、血液浄化の間に混入若しくは発生する気体の全体積を捕獲することができる容量をもつ内部空間(214)が形成されている。また、封止部材を含む本体容器が静脈側端部の中に突出していることにより、静脈側端部の周囲に気体をトラップする空間が形成されている。このような構造によって、
図8に示す静脈側端部は、一度捕獲された気体が体外循環血液の流れを阻害することがより少ない。
【0114】
図9は、本発明の好ましい実施形態における静脈側端部の模式図である。
図9において、血液浄化器は、体外循環血液(300)が下から上に向かって流れるような向きで配置されている。静脈側端部は、その内部に、血液出口を覆う気体分離部材(219)としてのメッシュであって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さないメッシュを有する。更に、静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)(218)が血液浄化部の横断面積(a)(217)よりも大きいことにより、内部空間(214)が形成されている。メッシュは、静脈側端部と一体成形されており、より容易に組み立てることができる。メッシュは、体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、体外循環血液を通しかつ気体を通さない程度の目開きを有する。メッシュは、血液出口から血液浄化部に向かう方向に凸の形状を有しており、メッシュと血液浄化部との間には隙間が存在する。メッシュよりも上流で発生し、メッシュの凸部に接した気体をメッシュの周囲に集めることができる。したがって、気体がメッシュの孔に接触した状態で絶えず大きな圧力がかかることを回避することができる。
図9の静脈側端部は、気体捕獲手段をもたない血液出口管状部材(402)と組み合わせて用いることができる。これによって、血液浄化システムがより単純化される。
【0115】
図10は、本発明のより好ましい実施形態における静脈側端部の模式図である。
図10において、血液浄化器は、体外循環血液(300)が上から下に向かって流れるような向きで配置されている。静脈側端部は、血液出口の周囲から静脈側端部の内側に向かって突出した、気液不透過性の環状の壁(220)を有する。当該環状の壁は、その先端に一体成形された気体分離部材(219)としてのメッシュであって、血液浄化の間に体外循環血液を通しかつ気体を通さないメッシュを有する。更に、静脈側端部内の空間の少なくとも一部の横断面積(b)(218)が血液浄化部の横断面積(a)(217)よりも大きいことにより、内部空間(214)が形成されている。メッシュは、体外循環血液の圧力が300mmHg以下の条件において、体外循環血液を通しかつ気体を通さない程度の目開きを有する。メッシュは、血液出口から血液入口に向かう方向に凸の形状を有しており、メッシュと血液浄化部との間には隙間が存在する。メッシュよりも上流で発生し、メッシュの凸部に接した気体をメッシュの周囲に集めることができる。したがって、気体がメッシュの孔に接触した状態で絶えず大きな圧力がかかることを回避することができる。上記気液不透過性の環状の壁と静脈側端部の内壁との間に、気体をトラップする空間が形成されており、したがって、
図10に示す静脈側端部は、一度捕獲された気体が体外循環血液の流れを阻害することがより少ない。
図10の静脈側端部は、気体捕獲手段をもたない血液出口管状部材(402)と組み合わせて用いることができる。これによって、血液浄化システムがより単純化される。
【0116】
例として、動脈側端部又は静脈側端部の内径、中空糸の束の直径、捕獲される気体の量、及び横断面積(b)に対する血液浄化部の横断面積(a)の割合の関係を、表1に示す。
【表1】