【課題】血液回路を単純化することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる、血液浄化器を提供すること。
【解決手段】体外循環血液を浄化する血液浄化器であって、上記血液浄化器は、血液入口を有する動脈側端部と、上記体外循環血液を浄化する単一の血液浄化部と、血液出口を有する静脈側端部とを有し、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、上記体外循環血液に補液を供給するための補液入口をさらに有する、血液浄化器。
前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部に、前記体外循環血液と前記補液入口から流入する補液とを均一に混合するための混合手段をさらに有する、請求項1に記載の血液浄化器。
前記血液浄化器は、中空糸の内側を流れる体外循環血液に、前記中空糸の外側を流れる透析液を接触させて血液を浄化する中空糸型血液透析器である、請求項3に記載の血液浄化器。
前記動脈側端部及び/又は前記静脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の血液浄化器。
前記補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、前記体外循環血液の流れの異常を検出するための、前記補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、血液浄化装置とともに用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【背景技術】
【0002】
体外を循環する血液(以下、「体外循環血液」ともいう。)を浄化する血液浄化器と共に血液浄化装置を用いて、血液を浄化処理する技術が広く知られている。
【0003】
血液浄化処理では、一般に、血液中から水分や老廃物等が取り除かれることに伴い、体外循環血液の希釈、浄化量の増大、水分や電解質等の物質バランスの調整、及びpHの調整といった様々な目的から、体外循環血液に対して補液を供給する。
【0004】
体外循環血液に対して補液を供給する方法としては、血液浄化器に流入する前の体外循環血液に対して補液を供給する、いわゆる「前希釈」法、血液浄化器から流出した後の体外循環血液に対して補液を供給する、いわゆる「後希釈」法、及びこれらの組合せが挙げられる。いずれの方法においても、従来は、血液回路、又は血液回路上のドリップチャンバーに、補液を供給するための管状部材(以下、「補液入口管状部材」ともいう。)を接続して、体外循環血液に補液を供給している。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2011−110098号公報)には、オンライン型血液透析濾過に適用される血液浄化装置であって、動脈側血液回路2の動脈側チャンバ9に接続された第1接続ラインL4と、静脈側血液回路3の静脈側チャンバ10に接続された第2接続ラインL5と、動脈側血液回路2に接続された透析液供給ラインL6とを有する血液浄化装置が記載されている。特許文献1に記載された血液浄化装置は、第1接続ラインL4、第2接続ラインL5、及び透析液供給ラインL6を介して、透析液を補液として体外循環血液に供給している(特許文献1の段落0023、0031、0032、及び0042〜0045、並びに
図3〜5等を参照)。
【0006】
体外循環血液に対して補液を供給する他の従来の方法として、例えば、特許文献2には、動脈側チャンバとしての動脈血溜め(46)、静脈側チャンバとしての静脈血溜め(64)、及びマニホルド(51)等を備える特殊なカートリッジ(42)において、動脈血溜め(46)に塩水チューブ(98)を設け、該塩水チューブ(98)から塩水を供給する方法が記載されている(引用文献2の
図2等を参照)。このように、従来の血液浄化装置の開発傾向としては、血液チューブセット(BTS)のような特殊で複雑な部品を追加することによって、それぞれの課題を解決しようとするものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、血液浄化を必要とする患者数の増加に伴い、一人の担当看護師や医師が一度に担当しなければならない患者数が増加し、作業負担が増大している。例えば、血液浄化処理の現場では、一人の担当看護師又は医師が一度に10人以上もの患者を担当することがある。このとき、血液浄化処理ごと、血液回路等の接続及び取り外しにかかるチェックポイントが例えば単純化のため10カ所(実際にはそれ以上と考えられる。)あるとすれば、10人以上の患者を見るためには実に100以上の確認作業が必要である。したがって、血液浄化処理をより簡便なものにし、作業負担を軽減することが強く望まれている。作業負担を軽減することができれば、作業の効率化ばかりでなく、過誤防止にもつながる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、血液回路、又は血液回路上のドリップチャンバーへと補液を供給する従来の態様では、補液入口管状部材自体や、補液入口管状部材を血液回路又はドリップチャンバーへと接続するための接続部材が必要であり、部品点数が増加して血液回路が複雑化する。
【0010】
また、ドリップチャンバーや接続部材を含む血液回路は患者の血液に触れるため、血液浄化処理ごとに廃棄される。したがって、血液回路の部品点数の増加は、経済上好ましくないという問題もある。
【0011】
引用文献2に記載されている血液浄化装置では、カートリッジ(42)における動脈血溜め(46)に塩水チューブ(98)を設けている。しかしながら、カートリッジ(42)を含む血液チューブセット(BTS)は、血液浄化器とは別の特殊な部品であり、部品点数はほとんど削減されず、やはり製造コストがかかる。また、このような血液チューブセット(BTS)は使い捨てであり、血液浄化処理前に血液浄化器及び血液浄化装置へと接続され、血液浄化処理後に取り外すことが必要であるから(引用文献2の第8頁第25〜26行、及び第32〜34行)、やはり作業負担の低減に繋がらない。
【0012】
本発明は、血液回路を単純化することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる、血液浄化器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特殊で複雑な部品を追加しようとする従来の血液浄化装置の開発傾向に反し、血液浄化器の動脈側端部及び/又は静脈側端部に補液入口を設けることにより上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕 体外循環血液を浄化する血液浄化器であって、上記血液浄化器は、血液入口を有する動脈側端部と、上記体外循環血液を浄化する単一の血液浄化部と、血液出口を有する静脈側端部とを有し、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、上記体外循環血液に補液を供給するための補液入口をさらに有する、血液浄化器。
〔2〕 上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、上記体外循環血液と上記補液入口から流入する補液とを均一に混合するための混合手段をさらに有する、項目〔1〕に記載の血液浄化器。
〔3〕 上記血液浄化器は、上記体外循環血液に透析液を接触させて血液を浄化する血液透析器である、項目〔1〕又は〔2〕に記載の血液浄化器。
〔4〕 上記血液浄化器は、中空糸の内側を流れる体外循環血液に、上記中空糸の外側を流れる透析液を接触させて血液を浄化する中空糸型血液透析器である、項目〔3〕に記載の血液浄化器。
〔5〕 上記透析液を補液として上記体外循環血液に供給するオンライン型血液浄化装置とともに用いられる、項目〔3〕又は〔4〕に記載の血液浄化器。
〔6〕 上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有する、項目〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の血液浄化器。
〔7〕 上記補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、上記体外循環血液の流れの異常を検出するための、上記補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、繰り返し使用可能な血液浄化装置とともに用いられる、項目〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の血液浄化器。
〔8〕 上記血液浄化器は、上記補液入口に接続された補液入口管状部材をさらに有する、項目〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【発明の効果】
【0014】
本発明の血液浄化器は、上記のような構成を有するため、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)による血液浄化器を詳細に説明するが、本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
《血液浄化器》
図1は、本発明の実施形態による血液浄化器を示す模式図である。本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液を浄化する血液浄化器(200)であって、上記血液浄化器は、血液入口(203)を有する動脈側端部(201)と、上記体外循環血液を浄化する単一の血液浄化部(216)と、血液出口(204)を有する静脈側端部(202)とを有し、上記動脈側端部及び/又は上記静脈側端部に、上記体外循環血液に補液を供給するための補液入口(207)をさらに有する。
【0018】
図4は、従来の血液浄化器と共に用いられる血液回路を示す模式図である。なお、本願明細書において、用語「血液回路」は、血液入口管状部材及び血液出口管状部材の総称として使用する。従来は、血液回路、又は血液回路上のドリップチャンバーに補液入口管状部材を接続して、体外循環血液に補液を供給している。例えば、
図4に示す血液回路は、血液入口管状部材(401)、及び血液出口管状部材(402)上に設けられたドリップチャンバー(403)に、補液入口管状部材(405)が接続されている。したがって、補液入口管状部材自体、及びこれを接続するT字管等の接続部材(407)が必要であり、部品点数が増加して血液回路が複雑化する。
【0019】
これに対して、本実施形態の血液浄化器は、例えば、
図1に示すように、動脈側端部及び/又は静脈側端部に、体外循環血液に補液を供給するための補液入口を有することによって、従来必要であった
図4に示す血液回路上の補液入口管状部材、及びこれを接続する接続部材等が必要なくなり、血液回路がより単純化される。したがって、本実施形態の血液浄化器は、より過誤防止に寄与し、また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れている。
【0020】
ここで、本願明細書において、「動脈側端部」とは、血液浄化器のうち、実質的に体外循環血液を浄化する機能を有する部分(以下、「血液浄化部」ともいう。図において符号216で示す。)よりも上流にあたる部分をいい、「静脈側端部」とは、血液浄化器のうち、血液浄化部よりも下流にあたる部分をいう。動脈側端部及び静脈側端部は、本体容器とは別の部品、例えば蓋等であってもよく、本体容器と一体に形成された部分であってもよい。なお、血液浄化器の本体容器の形状は特に限定されず、例えば筒状、典型的には円筒状である。
【0021】
図1及び2に模式的に示すように、本実施形態において血液浄化部(216)は単一である。ここで、「単一」の血液浄化部とは、実質的に体外循環血液を浄化する機能を有する部分が、物質不透過性の部材で隔てられておらず連続することを意味する。より好ましくは、実質的に体外循環血液を浄化する機能を有する部分は:血液浄化部の全体にわたって実質的に同じ目的で使用され;実質的に同じ機能を提供することができ;及び/又は実質的に均一な材料から構成されている。一実施形態において、実質的に体外循環血液を浄化する機能を有する部分は、中空糸の束である。より好ましくは、中空糸の束は:血液浄化部の全体にわたって実質的に同じ目的で使用され;実質的に同じ機能を提供することができ;及び/又は実質的に均一な材料から構成されている。本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部に補液入口を有することに加えて、血液浄化部が単一であることにより、血液浄化システムを単純化することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる。
【0022】
一実施形態において、単一の血液浄化部は、
図1及び2に模式的に示すように、動脈側端部と静脈側端部との間に存在する。したがって、補液入口は、単一の血液浄化部よりも、体外循環血液の流れからみて上流及び/又は下流に存在し、血液浄化部の途中には存在しないことが好ましい。
【0023】
一実施形態において、本実施形態の血液浄化器は、補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路を有する血液浄化装置とともに用いられることが好ましい。「補液入口に補液を直接供給する…補液供給流路」とは、後述する補液圧力測定手段によって補液の圧力を測定することで、体外循環血液の流れの異常を検出することができるように構成された流路であることを意図している。したがって、限定されないが、補液供給流路のうち、補液が体外循環血液の流れに至るまでの間に、送液ポンプ、任意の補液ろ過手段等を有する場合、これらを介して補液圧力測定手段を設けても、圧力によって体外循環血液の流れの異常を検出することができない。したがって、例えば、補液入口に対し、送液ポンプ及び/又は任意の補液ろ過手段より上流にあたる部分など、補液圧力測定手段を設けても体外循環血液の流れの異常を検出することができない部分は、「補液入口に補液を直接供給する…補液供給流路」には該当しない。それらより下流であって、補液入口よりも上流にあたる部分が、「補液を直接供給する…補液供給流路」に該当する。本実施形態の血液浄化器は、血液浄化部が単一であることに加えて、このような「補液入口に補液を直接供給する…補液供給流路」を有する血液浄化装置とともに用いられる場合、血液浄化システムをより単純化することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる。
【0024】
〈血液入口及び血液出口〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部に血液入口を有し、静脈側端部に血液出口を有しており、体外循環血液を通すことができる。血液浄化処理の際には、血液入口に血液入口管状部材が接続され、血液出口には血液出口管状部材が接続されて血液回路を構成し、体外循環血液が流れることができる。
【0025】
〈補液入口〉
本実施形態の血液浄化器は、その動脈側端部及び静脈側端部のうち少なくとも一方に補液入口を有していればよい(
図1(i)又は(ii))。これによって、血液入口管状部材及び血液出口管状部材のうち少なくとも一方における補液入口管状部材(405)及びその接続部材(407)が必要なくなるため、血液回路を単純化することができ、過誤防止に寄与し、経済性に優れる。
【0026】
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び静脈側端部の両方に補液入口を有することが好ましい(
図1(iii))。これによって、血液入口管状部材及び血液出口管状部材の両方における補液入口管状部材(405)及びその接続部材(407)が必要なくなるため、血液回路をより単純化することができ、過誤防止に寄与し、経済性に優れる。また、動脈側端部及び静脈側端部の両方に補液入口を有する血液浄化器は、それ自体で前希釈法及び後希釈法のいずれの血液浄化処理にも使用することができるため、汎用性が高い。
【0027】
本実施形態の血液浄化器とともに、補液入口をもたない血液回路を使用してもよく、補液入口をもつ血液回路を使用してもよく、又はこれらを組み合わせて使用してもよい。すなわち、本実施形態の、動脈側端部及び/又は静脈側端部に補液入口を有する3通りの血液浄化器(
図1(i)、(ii)及び(iii))に対して、それぞれ、補液入口をもつ又はもたない2通りの血液入口管状部材と、補液入口をもつ又はもたない2通りの血液出口管状部材との組合せが考えられる。
【0028】
例えば、動脈側端部に補液入口を有する血液浄化器(
図1(i))と、補液入口をもたない血液入口管状部材と、補液入口をもつ血液出口管状部材とを組み合わせて使用してもよい。この場合、血液入口管状部材を単純化することができ、過誤防止に寄与し、経済性に優れる。また、前希釈法及び後希釈法のいずれの血液浄化処理にも使用することができるため汎用性が高い。あるいは、静脈側端部に補液入口を有する血液浄化器(
図1(ii))と、補液入口をもつ血液入口管状部材と、補液入口をもたない血液出口管状部材とを組み合わせて使用してもよい。この場合、血液出口管状部材を単純化することができ、過誤防止に寄与し、経済性に優れる。また、前希釈法及び後希釈法のいずれの血液浄化処理にも使用することができるため汎用性が高い。
【0029】
他の例として、動脈側端部及び静脈側端部の両方に補液入口を有する血液浄化器(
図1(iii))と、補液入口をもたない血液回路とを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、血液入口管状部材及び血液出口管状部材の両方を単純化することができ、過誤防止に寄与し、経済性に優れる。また、前希釈法及び後希釈法のいずれの血液浄化処理にも使用することができるため汎用性が高い。
【0030】
〈補液入口管状部材〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部の補液入口に接続された補液入口管状部材をさらに有してもよい。補液入口管状部材は、使用時に、血液浄化装置の補液供給流路に接続され、補液を流すことができる。
【0031】
血液浄化器が、動脈側端部及び/又は静脈側端部の補液入口に接続された補液入口管状部材をさらに有する場合、体外循環血液を送液するポンプの脈流等に起因して体外循環血液が血液浄化装置の補液供給流路へと流入することを効果的に防ぐことができる。したがって、血液浄化装置を繰り返し使用する際の交差感染等のリスクを効果的に低減することができる。
【0032】
血液浄化器の動脈側端部及び静脈側端部の補液入口に補液入口管状部材が接続されている場合、使用前において、補液入口管状部材は共に接続されて、閉じた補液回路を構成していてもよい。補液入口管状部材が閉じた補液回路を構成している場合、輸送及び保管時における血液浄化器内への菌等の汚染物質の侵入を効果的に防止することができる。この場合、使用時に補液入口管状部材同士の接続が解かれ、血液浄化装置の補液供給流路へと接続されて、補液が流れる。
【0033】
〈混合手段〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部に、体外循環血液と補液入口から流入する補液とを均一に混合するための混合手段をさらに有していてもよい。
【0034】
動脈側端部が混合手段を有することにより、体外循環血液と補液との混合が促進され、血液の浄化をより均一に行うことができ、また、血液浄化器の機能低下を低減する効果も期待できる。静脈側端部が混合手段を有することにより、体外循環血液と補液との混合が促進され、患者への負担を軽減することができる。
【0035】
混合手段は特に限定されず、当業者であれば、任意の適切な手段を選択することができる。例えば、混合手段としては、安全性、製造の容易性等の観点から、駆動部を有しない混合手段であることが好ましい。駆動部を有しない混合手段としては、例えば邪魔板や突起等の障害物を設けること、及び一般にスタティックミキサーと呼ばれる構造を設けること等が挙げられる。なお、かかる混合手段は、補液入口の形状と上記端部の形状とが相俟って血液と補液とが混合される態様を排除するものではない。
【0036】
〈内部空間〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部及び/又は静脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間を有していてもよい。
【0037】
従来、
図4に示すように、患者の体内に気体が流入しないよう、血液入口管状部材及び/又は血液出口管状部材上にドリップチャンバー(403)を設けて、血液浄化の間に混入又は発生する気体を捕獲する必要があった。特に、血液出口管状部材は、患者の体内に戻る血液が流れるため、血液出口管状部材上のドリップチャンバーは重要であった。これに対して、本実施形態において、血液浄化器の動脈側端部及び/又は静脈側端部が上記のような内部空間を有することにより、従来必要であった
図4に示すドリップチャンバーを設ける必要がなくなり、血液回路がより単純化され、作業負担をより軽減することができ、より過誤防止に寄与する。また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減される。さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに破棄される部材をより少なくすることができ、より経済性に優れる。
【0038】
所定容量としては、以下に限定されないが、例えば5cc以上30cc以下とすることができる。
【0039】
〈薬剤投入口〉
本実施形態の血液浄化器は、動脈側端部に薬剤投入口(図示せず)をさらに有していてもよい。血液浄化処理の際には、血液と空気との接触による体外循環血液の凝固を防止するため、抗凝固薬を投入することがある。従来は、血液入口管状部材等に薬剤投入口(図示せず)が設けられていた。これに対して、本実施形態において、血液浄化器の動脈側端部に薬剤投入口をさらに有する場合、従来の薬剤投入口が必要なくなり、血液回路がより単純化され、過誤防止に寄与する。
【0040】
〈血液浄化器の種類〉
本実施形態において、血液浄化器の種類は、血液を浄化することができれば特に限定されない。本願明細書において、「血液の浄化」(「血液浄化処理」ともいう。)は、血液中から余分な水分や老廃物等を取り除くことを含む処理をいう。血液中から余分な水分や老廃物等を取り除く原理としては、拡散、濾過、及び吸着等が挙げられる。本実施形態において、血液浄化処理は、以下に限定されないが、拡散、濾過、吸着、及びこれらの組合せによる浄化を包含し、本実施形態の血液浄化器は、何れの血液浄化処理にも使用することができる。
【0041】
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液を吸着材に接触させて血液を浄化する吸着型血液浄化器であってもよい。
【0042】
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液を濾過して血液を浄化する血液濾過器であってもよい。
【0043】
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液に透析液を接触させて血液を浄化する血液透析器であってもよい。血液透析器は、拡散の原理を利用して、又は拡散とともに濾過を組み合わせて血液を浄化することができる。本願明細書において、用語「血液透析器」は、拡散とともに濾過を組み合わせて血液を浄化する、いわゆる「血液透析濾過器」を包含する。
【0044】
本実施形態の血液浄化器が、体外循環血液に透析液を接触させて血液を浄化する血液透析器である場合、血液透析器は、透析液入口及び透析液出口(
図1において図示せず)を更に有していてもよい。たとえば、血液透析器の本体容器に、典型的には本体容器の側面に、透析液入口及び透析液出口を設けることができる。
【0045】
本実施形態の血液浄化器は、中空糸の内側を流れる体外循環血液に、中空糸の外側を流れる透析液を接触させて血液を浄化する中空糸型血液透析器であってもよい。
【0046】
《血液浄化装置》
本実施形態の血液浄化器は、体外循環血液へ補液を供給することができる血液浄化装置とともに用いることができる。
【0047】
血液浄化装置は、一般に、繰り返し使用可能である。ここで、「繰り返し使用可能」とは、2回以上の血液浄化処理に使用できることをいうが、使用者の選択により1回のみ使用することを排除するものではない。本願明細書において、血液浄化装置は繰り返し使用可能である点において、血液浄化処理ごとに使い捨てとなる血液浄化器、及びこれに付随する使い捨ての部品等とは区別することができる。
【0048】
〈補液供給流路〉
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、血液浄化器の動脈側端部及び/又は静脈側端部に設けられた補液入口に補液を供給するための少なくとも1つの補液供給流路を有するものであってよい。補液供給流路は、使用時に、血液浄化器の補液入口と接続され、補液が流れることができる。
【0049】
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置の補液供給流路は、2系統あってもよい。血液浄化装置の補液供給流路が2系統あることにより、1の系統は、浄化前の体外循環血液に補液を供給し、他の系統は、浄化後の体外循環血液に補液を供給することができる。したがって、血液浄化処理の目的や段階に応じて、補液の供給位置を適宜切り換えることができ、汎用性及び利便性が高くなる。
【0050】
また、血液浄化装置の補液供給流路が2系統あることにより、血液浄化処理前に血液浄化器側を補液等で満たすプライミング作業、及び血液浄化処理後に血液浄化器内に残った血液を回収する血液回収作業において、以下の利点を有する。すなわち、プライミングを行う際に、1の系統から補液等を供給しつつ、他の系統から血液回路内の空気及び補液等を回収することができるため、血液回路をつなぎ替えることなしに、簡単にプライミングを行うことができる。また、血液回収時には、浄化前の体外循環血液に補液を供給するための1の系統から補液を供給することにより、血液回路をつなぎ替えることなしに、簡便に血液を回収することがきる。さらに、従来必要であった
図4に示すプライミングライン(406)、及びそれに伴う接続部材(407)等が必要なくなり、血液回路が単純化される。
【0051】
血液浄化装置の補液供給流路が2系統ある場合、補液供給流路は、それぞれ独立した送液手段を有していてもよい。補液供給流路がそれぞれ独立した送液手段を有する場合、血液浄化装置は、血液浄化処理の目的や段階に応じて、補液の供給量を適宜設定することができるため、汎用性及び利便性が高くなる。
【0052】
補液としては、体外循環血液に対して供給される液体であれば限定されず、例えば、生理食塩水が挙げられる。透析液を使用する血液浄化処理においては、後述するように、透析液を補液として供給してもよい。
【0053】
補液供給源は、血液浄化装置内に備えられた容器であってもよく、血液浄化装置とは別に設けられた供給源、例えば補液の入った瓶や補液バッグ等であってもよい。補液を送液するための送液手段は限定されず、あらゆる送液ポンプ、例えばチュービングポンプを使用することができる。
【0054】
〈補液圧力測定手段〉
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有する、血液浄化装置であってよい。
【0055】
図4に示すように、従来は、血液の流れの異常を検出するために、圧力測定用管状部材(404)が、血液回路上に設けられたドリップチャンバー(403)に接続されている。この圧力測定用管状部材は、血液に触れることがないようドリップチャンバーの上部に接続され、ドリップチャンバー内の気相に通じている。従来、使用時には、圧力測定用管状部材に圧力測定装置(図示せず)が接続され、ドリップチャンバー内の気相を介して体外循環血液の流れの異常を検出していた。したがって、従来は、圧力測定用管状部材自体、及び圧力測定管状部材を取り付けるための接続部材(407)等が必要であった。また、血液浄化処理前に、圧力測定装置を圧力測定用管状部材に接続し、血液浄化処理後に取り外す作業が必要であり、作業負担を増大させていた。
【0056】
また、従来、圧力測定用管状部材(404)は、圧力測定手段から血液回路内へと菌等の汚染物質が侵入しないようにするため、及び血液回路から圧力測定手段側へと血液等が漏出しないようにするために、疎水性フィルター(408)を有している。疎水性フィルターが濡れてしまうとドリップチャンバー内の圧力を測定することができなくなるため、血液浄化処理前に疎水性フィルターを濡らさないよう配慮しなければならず、また、血液浄化処理中に疎水性フィルターが濡れないよう監視する必要があった。しかしながら、血液回路等が適切に接続されていないこと等に起因して、ドリップチャンバー内の気相の空気が漏れて、血液回路内の血液や補液で疎水性フィルターが濡れてしまうおそれがある。そして、いったん疎水性フィルターが濡れてしまえば、新品の血液回路と交換しなければならならず、このことは作業負担を増大させていた。
【0057】
これに対して、血液浄化装置が、補液入口に補液を直接供給するための少なくとも1つの補液供給流路と、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段とを有することによって、従来必要であった
図4に示す圧力測定用管状部材やそれに伴う接続部材、及び疎水性フィルター等が必要なくなり、血液回路がより単純化される。また、ドリップチャンバーの気相を介さずに、液体である補液の圧力を測定することができるため、ドリップチャンバー内に圧力測定のための気相を予め設けておく必要がなく、血液と気相との接触面積を低減することができる。したがって、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し、並びに疎水性フィルターの取扱い等にかかる作業負担を軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れる。
【0058】
本願明細書において、体外循環血液に「補液を直接供給する…補液供給流路」とは、補液圧力測定手段によって補液の圧力を測定することで、体外循環血液の流れの異常を検出することができるように構成された流路であることを意図している。したがって、限定されないが、補液供給流路が送液ポンプ、任意の補液ろ過手段等を有する場合、これらを介して補液圧力測定手段を設けても、圧力によって体外循環血液の流れの異常を検出することができない。したがって、例えば、補液入口に対し、送液ポンプ及び/又は任意の補液ろ過手段より上流にあたる部分など、補液圧力測定手段を設けても体外循環血液の流れの異常を検出することができない部分は、「補液を直接供給する…補液供給流路」には該当しない。それらより下流であり、補液入口より上流にあたる部分が、「補液を直接供給する…補液供給流路」に該当する。
【0059】
補液圧力測定手段の位置は、血液浄化装置の、体外循環血液に補液を直接供給するための補液供給流路上であれば特に限定されない。体外循環血液に補液を直接供給するための補液供給流路が血液浄化装置の筐体の外側に伸びている場合には、血液浄化装置の筐体の外側に補液圧力測定手段が設置されていてもよい。
【0060】
補液圧力測定手段としては、液体である補液の圧力を測定することができれば、任意の圧力計を使用することができる。補液圧力測定手段としては、以下に限定されないが;弾性圧力計、例えば、ブルドン管圧力計、ダイアフラム圧力計、ベロー圧力計、チャンバ圧力計;並びに非弾性圧力計、例えば、液柱圧力計、及び重錘圧力計等が挙げられる。
【0061】
体外循環血液の流れが異常であるか否かは、当業者であれば、患者や血液浄化処理の条件等に合わせて適切に判断することができる。例えば、補液の圧力が、定常状態の値から所定値以上変動したとき、血液の流れが異常であると判断することができる。血液浄化装置は、体外循環血液の流れが異常であるか否かを自動的に判断する制御装置をさらに有してもよい。制御装置は、体外循環血液の流れが異常であると判断したときに、作業者に知らせるための表示を提供してもよい。
【0062】
〈透析液供給流路及び透析液回収流路〉
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、血液浄化器に透析液を供給するための透析液供給流路、及び血液透析器から透析液を回収するための透析液回収流路をさらに有していてもよい。血液浄化装置が、血液浄化器に透析液を供給するための透析液供給流路、及び血液透析器から透析液を回収するための透析液回収流路をさらに有することにより、HD及びHDF等による血液透析処理にも使用することができ、汎用性が高くなる。
【0063】
本実施形態の血液浄化器と共に用いられる血液浄化装置は、透析液を補液として体外循環血液に供給するオンライン型血液浄化装置であってよい。透析液を補液として体外循環血液に供給する血液浄化処理は、一般に「オンライン型」血液浄化処理ともよばれる。また、補液の供給源が血液浄化装置とは別に設けられている、例えば瓶や補液バッグに入った補液を供給する血液浄化処理は、一般に「オフライン型」血液浄化処理とも呼ばれる。血液浄化装置は、補液供給流路が透析液供給流路から分岐しており、透析液を補液として体外循環血液に供給することができる場合、オンライン型血液浄化処理にも使用することができるため、汎用性が高くなる。
【0064】
透析液としては、体外循環血液に接触させて血液中から余分な水分や老廃物等を取り除くことができれば、特に限定されない。透析液としては、例えば、生理食塩水が挙げられる。透析液を補液として使用してもよい。透析液を送液する手段は限定されず、任意の送液ポンプ、例えばチュービングポンプを使用することができる。
【0065】
《実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明は、以下の好ましい実施形態に限定されるものではない。
【0066】
図2は、本発明の好ましい実施形態における血液浄化器の断面を示す模式図である。
図2において、血液浄化器(200)は、筒状の本体容器(208)内に単一の血液浄化部(216)として中空糸の束(209)を有し、中空糸の束は、その両端が封止部材(210)によって筒状の本体容器内に固定され、中空糸の内側と外側とが隔てられている。なお、説明のため、中空糸の束はその一部のみ記載されている。
【0067】
筒状の本体容器は、その両端に、血液入口(203)及び補液入口(207)をもつ動脈側端部(201)と、血液出口(204)及び補液入口(207)をもつ静脈側端部(202)とを有している。使用時に、血液入口には血液入口管状部材(図示せず)が接続され、血液出口には血液出口管状部材(図示せず)が接続されて、血液回路を構成し、中空糸の内側に体外循環血液(300)を流すことができる。また、補液入口には、それぞれ補液入口管状部材(215)が接続されており、補液入口管状部材は、使用時に、それぞれ血液浄化装置(100)の2系統の補液供給流路(101)に接続され、補液を流すことができる。本体容器は、その側面に透析液入口(211)及び透析液出口(212)を有し、使用時に、中空糸の外側と本体容器の内側と、封止部材とで囲まれた空間に透析液を流すことによって、体外循環血液を、中空糸を介して透析液と接触させることができる。
【0068】
また、血液浄化器は、動脈側端部の内部に混合手段(213)を有しており、血液が中空糸の内部を通る前に、体外循環血液と補液入口から流入する補液とを均一に混合することができる。さらに、血液浄化器は、動脈側端部及び静脈側端部に、血液浄化の間に混入又は発生する気体を捕獲することができる所定容量をもつ内部空間(214)を有している。
【0069】
図3は、本発明の好ましい実施形態における血液浄化器、及びこれと共に用いられる血液浄化装置の模式図である。
図3において、血液浄化装置(100)は、体外循環血液(300)に透析液を接触させて血液を浄化する血液浄化器(200)と共に用いられる、繰り返し使用可能な血液浄化装置である。血液浄化装置は、体外循環血液に補液を直接供給するための補液供給流路(101)を2系統有しており、2系統の補液供給流路は、それぞれ独立した送液ポンプ(106)を有し、補液の流量を独立して制御することができる。血液浄化装置は、それぞれの補液供給流路上に、体外循環血液の流れの異常を検出するための、補液供給流路を流れる補液の圧力を測定する補液圧力測定手段(102)を有している。また、血液浄化装置は、血液透析器に透析液を供給するための透析液供給流路(103)、及び血液透析器から透析液を回収するための透析液回収流路(104)をさらに有している。2系統の補液供給流路はそれぞれ透析液供給流路から分岐しており、したがって、血液浄化装置(100)は、透析液供給源(105)からの透析液を補液として体外循環血液に供給することができる、オンライン型血液浄化装置である。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、
図4に示すような従来の血液回路において必要であった補液入口管状部材(405)、圧力測定用管状部材(404)、ドリップチャンバー(403)、プライミングライン(406)、疎水性フィルター(408)、及びこれらに伴う接続部材(407)等が必要なくなる。また、体外循環血液の流れの異常を、液体である補液の圧力を測定することで直接検出することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態による血液浄化器は、血液浄化処理前の機材の接続及び血液浄化処理後の機材の取り外し、並びに疎水性フィルターの取扱い等にかかる作業負担をより軽減することができ、したがってより過誤防止に寄与し、また、血液と空気との接触が減り、血液の凝固が低減され、さらに、部品点数が少ないため製造コストが削減され、血液浄化処理ごとに廃棄される部材がより少なく経済性にも優れていることが分かる。