【解決手段】缶11の缶胴外面11aに塗膜32を形成する缶の塗装方法であって、塗料供給部41から供給された塗料Pを、グラビアロール42を用いてアプリケーターロール43の外周面43aに付着させ、外周面43aと缶胴外面11aとを当接させた状態でアプリケーターロール43と缶11とを互いに逆方向に転動させて、外周面43a上で缶11を2周以上回転移動させることにより、外周面43a上に付着した塗料Pを缶胴外面11aに付着させて塗膜32を形成する。
前記塗料供給部から供給されて前記アプリケーターロールの前記外周面上に付着される前記塗料の塗布量をt0とし、前記外周面上で前記缶を1周回転移動させた後の前記缶胴外面上に付着した塗膜の塗布量をt1とし、前記外周面上で前記缶を2周回転移動させた後の前記缶胴外面上に付着した塗膜の塗布量をt2とした場合に、
前記塗布量t1が前記塗布量t0よりも小さく、前記塗布量t2が前記塗布量t0よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の缶の塗装方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来において缶の缶胴外面に施される塗膜は、コスト面や剥離防止の観点から、極力薄く、また必要な箇所のみに塗装することが行われていた。ところが、美粧性向上の観点から、塗料に機能性物質(添加剤)を添加して缶の外観の差別化を図ることへの要求が高まっている。しかし、このように塗料に機能性物質を添加した場合には、従来と同様の塗装方法では、塗料の塗布量が缶胴の円周方向に不均一となり、一様な外観を得られないことから、要求する美粧性が得られない場合があった。また、缶の外観の差別化のために、通常よりも塗膜の塗布量を多くすることも要求されており、缶胴の円周上に均一に、かつ要求量の塗膜を塗装することが求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量の塗膜を塗装する缶の塗装方法及び塗装缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の缶の塗装方法は、缶の缶胴外面に塗膜を形成する缶の塗装方法であって、塗料供給部から供給された塗料を、グラビアロールを用いてアプリケーターロールの外周面に付着させ、前記外周面と前記缶胴外面とを当接させた状態で前記アプリケーターロールと前記缶とを互いに逆方向に転動させて、前記外周面上で前記缶を2周以上回転移動させることにより、前記外周面上に付着した前記塗料を前記缶胴外面に付着させて前記塗膜を形成する。
【0008】
缶胴外面への塗装を、缶の回転移動の1周目で完了させようとした場合には、アプリケーターロールの外周面上に付着させる塗料の塗布量を、少なくとも缶胴外面に付着させる塗膜の塗布量と同等かそれ以上に設けておく必要がある。ところが、アプリケーターロールに供給する塗料の塗布量を多くした場合には、アプリケーターロールの回転時の遠心力や、缶の缶胴外面とアプリケーターロールの外周面との接触時及び離間時の衝撃により、塗料がアプリケーターロールの外周面上から飛散してミストが発生することで、生産設備を汚し、これに起因して生産設備から落下した塗料の塊が缶胴外面の塗装面に付着して汚れを生じることで、缶の外観が損なわれることがある。なお、塗膜の塗布量を多くするにつれて塗料の飛散は生じ易くなるため、アプリケーターロールの回転時の遠心力や缶とアプリケーターロールとの接触時及び離間時の衝撃を低減するため、アプリケーターロールや缶の回転速度を減速することも考えられるが、この場合には、生産性が低下することとなる。また、缶の回転移動の1周目だけでは塗料の塗布が行われない未塗装部ができたり、缶胴の円周上で塗膜の塗布量にばらつきが生じるおそれがある。
この点、本発明の缶の塗装方法においては、アプリケーターロールの外周面上で缶の缶胴外面を2周以上回転移動させて重ね塗りしているので、アプリケーターロールの外周面上から缶の缶胴外面への塗料の移動を2回以上に分けて行うことができる。このため、アプリケーターロールに供給する塗料を過剰に増やすことなく、また著しく缶の回転速度を低下させることなく塗装を行うことができ、ミストの発生や塗装面の汚れの発生を防止できる。また、缶胴外面に少なくとも2回塗装を施すことから、塗り残しを生じさせることもない。
なお、このように複数の周回に分けて塗装を行う場合において、缶の回転移動におけるアプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量(塗布量)は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料を重ね塗りするごとに転移量が徐々に少なくなり、周回を重ねていくことで転移量が0に近づいて収束する。したがって、缶の回転移動の周回数を増やして、複数回に分けて缶胴外面に塗料を付着させることで、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を形成でき、美粧性の高い塗装缶を得ることができる。
【0009】
本発明の缶の塗装方法において、前記塗料供給部から供給されて前記アプリケーターロールの前記外周面上に付着される前記塗料の塗布量をt0とし、前記外周面上で前記缶を1周回転移動させた後の前記缶胴外面上に付着した塗膜の塗布量をt1とし、前記外周面上で前記缶を2周回転移動させた後の前記缶胴外面上に付着した塗膜の塗布量をt2とした場合に、前記塗布量t1が前記塗布量t0よりも小さく、前記塗布量t2が前記塗布量t0よりも大きくするとよい。
【0010】
アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった後においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が少なくなり、缶胴外面の塗膜の塗布量が均一化される。
そこで、上記のようにアプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0と、1周目の塗膜の塗布量t1と、2周目の塗膜の塗布量t2との関係を考慮して、塗料の粘度を調整することで、缶の回転移動におけるアプリケーターロールから缶胴外面への塗料の塗装を2周で完了することができ、塗装効率と塗膜の塗布量の均一性とのバランスを図ることができる。そして、このようにして2周塗装した塗装缶の塗膜の塗布量t2は、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0よりも大きく(厚く)なっており、塗膜の塗布量t2(膜厚)が均一化されている。なお、塗装を2周未満で行うと、塗膜の塗布量の均一化が不十分であり、缶胴の円周上に塗膜の薄い部分が存在するため、外観差が生じやすくなる。
【0011】
本発明の缶の塗布方法において、前記塗料の粘度を30秒以上100秒以下とするとよい。
塗装時における塗料の粘度が下限よりも低いと、塗料を目的する塗布量で缶胴外面に塗装することが困難となったり、ミストが発生しやすくなる。また、塗料の粘度が上限を超える場合は、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移性が低下し、少ない周回数で缶胴外面上に目的とする塗布量を付着させることができなくなる。
【0012】
本発明の缶の塗装方法において、前記缶胴外面への前記塗料の塗布を該缶胴外面にインキを印刷した後で行う場合に、前記塗料の表面張力を、前記インキの表面張力と同じか、それよりも大きくするとよい。
【0013】
本発明の缶の塗装方法では、塗料の表面張力をインキの表面張力と同じか、それよりも大きくすることにより、塗膜表面にインキと塗料との表面張力差による凹凸を設けるタクタイル塗装を行うことも可能である。本発明の缶の塗装方法では、缶胴外面に少なくとも2回の塗装を施すことから、缶胴外面に通常よりも塗布量を多く、かつ厚く設けることができ、インキの表面張力以上の表面張力を有する塗料を用いた場合でも、缶胴の円周上に塗り残しを生じさせることなく塗膜を形成できるので、塗装缶の美粧性を向上できる。
【0014】
本発明の缶の塗装方法において、前記塗料に、添加剤を混合したものを用いてもよい。
【0015】
本発明の塗装缶は、缶胴外面上の塗膜が前記缶胴の周方向で塗布量の±10%の範囲内で形成されている。
焼き付け後の塗膜の塗布量(膜厚)が±10%の範囲内で形成されていると、外観差がなく、美粧性に優れた塗装缶とできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作業効率を低下させることなく、ミストの発生等を防止して、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を塗装できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る缶の塗装方法及び塗装缶の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態において、塗装が施される飲料缶等の缶は、例えばアルミニウム製の板を成形してなるものであり、缶の缶胴外面への塗装は、この缶胴外面に施された印刷膜や缶の基材を保護したり、缶胴外面の滑り性を向上させたりするために行われる。そして、缶の缶胴外面への塗装は、
図1(a)に示すように、缶胴外面11aにデザインとなるインキを印刷して印刷膜21を形成した後、
図1(c)に示すように印刷膜21が未乾燥の状態で、塗料を塗布することにより塗膜32を形成して行われる。また、その後工程において、印刷膜21と塗膜32とを缶胴外面11aに焼き付けることで、缶胴外面11aに塗装が施された塗装缶が得られる。なお、塗装缶に施された印刷膜21及び塗膜32の全体の膜厚は、焼き付け後の膜厚で3μm〜10μm程度に設けられる。
【0019】
なお、印刷膜21は、缶11の缶胴外面11aを装飾するために形成される。また、印刷膜21の原料は、色彩を有するインキによって構成される。
また、塗膜32は、印刷膜21や缶11の基材(缶胴表面)の保護をしたり、缶胴外面11aの滑り性を向上させるために、印刷膜21の上から缶胴外面11aを被覆して形成される。
塗膜32の原料となる塗料Pには、インキの表面張力よりも小さい表面張力を有するものからインキよりも表面張力が大きいものまで種々の塗料Pを用いることができ、例えばポリエステル、エポキシ、アクリル、アミド等の樹脂により構成される。具体的には、硬化したエポキシ−フェノール系樹脂または硬化したポリエステル−アミノ系樹脂を溶剤で溶かし、これにワックスを添加することによって構成される。なお、原料に添加されるワックスには、カルナバワックスやマイクロクリスタリン等が挙げられる。
【0020】
また、塗料Pには、鱗片状の粒子や、発泡性の粒子、光を乱反射させる粒子等の添加剤を混合したものを用いることができ、インキよりも表面張力が高い塗料Pの場合には、添加剤を混合することが好ましい。例えば平滑なフレーク表面を金属酸化物やシリカで被覆することで虹彩色やカラープロップ性(見る角度により光輝度や色相が変化する性質)を示すパール顔料や、発泡剤を添加した発泡塗料、シリカを混合した艶消し塗料、チタン顔料を混合したベースコート塗料、アルミ粉末を混合したアルミペースト塗料等の添加剤を含有させた塗料を好適に用いることができる。
【0021】
本実施形態の缶の塗装方法においては、例えば
図2に示すような缶の塗装装置101を用いる。この塗装装置101は、塗料供給部41と、グラビアロール42と、アプリケーターロール43とを備え、塗料供給部41から供給された塗料Pを、グラビアロール42を用いてアプリケーターロール43の外周面43aに付着させ、複数の缶11をそれぞれの軸線を大きく略円形状に公転させるようにして順次搬送通路45に沿って搬送させながら、各々の缶11の缶胴外面11aにアプリケーターロール43の外周面43aを当接させることにより塗料Pを塗布するようになっている。
【0022】
アプリケーターロール43は、その外周面43aがゴム等により形成されており、外周面43aの材料としては、例えばアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)を好適に用いることができる。また、アプリケーターロール43は、その回転軸C3を中心に回転可能に設けられており、搬送通路45の下方において、その搬送通路45の塗装位置Eに外周面43aの上方の一部が重なるようにして配置されている。また、アプリケーターロール43の回転方向A3は、搬送通路45を搬送される缶11の公転方向A1とは逆向きとされている。
【0023】
また、グラビアロール42は、ステンレスやスチール等の硬質の材料により円柱形状に設けられており、その外周面42aに塗料Pが入り込む溝が形成され、塗料供給部41から塗料Pが供給されるようになっている。また、グラビアロール42は、その回転軸C2を中心に回転可能とされており、アプリケーターロール43の塗装位置Eよりも回転方向A3の上流側に配置されている。そして、グラビアロール42の外周面42aをアプリケーターロール43の外周面43aに摺接させることにより、アプリケーターロール43の外周面43aに塗料Pを付着させるようになっている。また、グラビアロール42の回転軸C2とアプリケーターロール43の回転軸C3とは、平行に配置されており、グラビアロール42の回転方向A2は、アプリケーターロール43の回転方向A3とは逆向きとされて、互いに同期して逆方向に回転するようになっている。
【0024】
次に、この缶の塗装装置101を用いた本実施形態の缶の塗装方法について詳細に説明する。
まず、塗料供給部41からグラビアロール42の外周面42a上に塗料Pを供給し、その外周面42a全体に満遍なく塗料Pを付着させる。グラビアロール42の外周面42a上に付着した塗料Pは、その回転に伴って移動し、グラビアロール42と逆方向に回転するアプリケーターロール43の外周面43a上に付着され、アプリケーターロール43に付着した塗料Pは、アプリケーターロール43の回転に伴って順次回転方向A3に移動していく。
【0025】
そして、塗装位置Eに搬送されてきた缶11の缶胴外面11aを、その塗装位置Eにおいて、塗料Pが付着したアプリケーターロール43の外周面43aと当接させた状態で、アプリケーターロール43と缶11とを互いに逆方向に転動させて、アプリケーターロール43の外周面43a上で缶11を2周以上回転移動させる。塗装装置101では、缶11を、アプリケーターロール43の回転と同期させて、塗装位置Eにおいてアプリケーターロール43の回転方向A3と逆向き(矢印B方向)に自転するように構成しており、これにより、アプリケーターロール43の回転と缶11の回転に伴って、アプリケーターロール43の外周面43a上の塗料Pが順次缶胴外面11aへと塗布(転移)され、缶胴外面11aに塗膜32が形成される。
【0026】
この際、アプリケーターロール43に供給する塗料Pの粘度や外周面43a上に付着させる塗料Pの塗布量、アプリケーターロール43の外周面43a上を転動する缶11の回転速度(自転速度)は、缶胴外面11aに形成する塗膜32の要求塗布量に対する缶11の塗装回数、すなわちアプリケーターロール43の外周面43a上で回転移動する缶11の周回数に伴って調整される。
具体的には、2周以上の周回数で缶11に塗装を行う場合(複数の周回に分けて塗装を行う場合)、アプリケーターロール43から缶胴外面11aへの塗料Pの転移量(塗布量)は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料Pを重ね塗りするごとに転移量が徐々に少なくなる。そして、周回を重ねていくことで、缶胴外面11aへの転移量が0に近づいて収束する。つまり、アプリケーターロール43の外周面43a上の塗料Pの塗布量t0よりも、缶胴外面11aに付着した塗膜32の塗布量が大きくなった後においては、アプリケーターロール43から缶胴外面11aへの塗料Pの転移量が少なくなるので、周回を重ねて塗料Pを塗り重ねることで缶胴外面11aの塗膜32の塗布量が均一化される。したがって、アプリケーターロール43の外周面43a上での缶11の回転移動の周回数を増やして、複数回に分けて缶胴外面11aに塗料Pを付着させることで、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量の塗膜32を形成できる。
【0027】
なお、複数の周回に分けて塗装を行うことで、缶胴外面11aに通常よりも塗布量の多い塗膜32を形成できることから、印刷膜21の上から塗料Pを塗布して缶胴外面11aを被覆する場合において、塗料Pの表面張力を、インキの表面張力と同じか、それよりも大きくすることで、塗膜32表面にインキと塗料Pとの表面張力差による凹凸を設けたタクタイル塗装を行うことも可能である。
【0028】
なお、塗装効率の観点では、缶11の周回数は少ない方が良いが、缶胴外面11aへの塗装を缶11の回転移動の2周未満で完了させようとした場合には、缶胴の円周上で塗料Pの塗布が行われない未塗装部や塗膜32の薄い部分ができたりして、塗膜32の塗布量にばらつきが生じて外観差が生じやすくなる。この点、缶11の周回数を少なくとも2周確保することで、缶胴外面11aに塗料Pの塗り残しを生じさせることなく、確実に塗料Pを塗布でき、缶胴の円周上において塗布量のばらつきの少ない塗膜32を形成できる。
また、アプリケーターロール43の外周面43a上の塗料Pの塗布量と、缶胴外面11a上に形成される1周目の塗膜32の塗布量t1と、2周目の塗膜32の塗布量t2との関係を考慮して、塗料Pの粘度を調整することで、缶胴外面11aへの塗料Pの塗装を2周で完了することができ、塗装効率と塗膜32の塗布量の均一性とのバランスを図ることができる。
【0029】
缶胴外面11aへの塗装を2周で完了するには、塗料供給部41から供給されてアプリケーターロール43の外周面43a上に付着される塗料Pの塗布量をt0とし、アプリケーターロール43の外周面43a上で缶11を1周回転移動させた後の缶胴外面11a上に付着した塗膜32の塗布量をt1とし、アプリケーターロール43の外周面43a上で缶11を2周回転移動させた後の缶胴外面11a上に付着した塗膜32の塗布量をt2とした場合に、塗布量t1が塗布量t0よりも小さく、塗布量t2が塗布量t0よりも大きくする。
【0030】
具体的には、塗装時における塗料Pの粘度、すなわち塗装温度における塗料Pの粘度を30秒以上100秒以下とすることで、塗布量t1を塗布量t0よりも小さく、塗布量t2を塗布量t0よりも大きくでき、缶胴外面11a上の塗膜32を、缶胴の周方向において要求塗布量の±10%の範囲内で形成することができる。なお、この場合の粘度は、JIS K5600‐2‐2に準じたフローカップ法によるものであり、フォードカップNo.4を用いて測定されるものである。
【0031】
詳細には、塗料Pがポリエステルアミノ系等の溶剤塗料である場合は、塗装温度30℃〜34℃における粘度を30秒以上100秒以下とし、より好ましくは60秒以上70秒以下に調整する。また、塗料Pがアクリル系等の水性塗料の場合は、塗装温度35℃〜36℃における粘度を30秒以上60秒以下とし、より好ましくは37秒以上38秒以下に調整する。さらに、インキと同じ表面張力を有する水性タクタイル塗料の場合は、塗装温度38℃における粘度を60秒以上100秒以下とし、より好ましくは80秒以上90秒以下に調整する。
なお、塗料Pの粘度が下限よりも低いと、塗料Pを目的とする塗布量で缶胴外面11aに塗装することが困難となったり、ミストが発生しやすくなる。また、塗料Pの粘度が上限を超える場合は、アプリケーターロール43から缶胴外面11aへの塗料Pの転移性が低下し、少ない周回数で缶胴外面11a上に目的とする塗布量を付着させることができなくなる。
【0032】
このように設定して缶胴外面11aに2周塗装を行うことで、缶胴外面11a上に形成された塗膜32の塗布量t2は、アプリケーターロール43の外周面43a上の塗料Pの塗布量t0よりも大きく(厚く)形成されるので、缶胴外面11aの2周目の塗装の際には、1周目に形成された塗膜32の塗布量t1の上から十分な量の塗料Pが重ねられ、塗布量t1のばらつきを均しながら重ねられる。したがって、最終的な塗膜32の塗布量t2を缶胴の周方向で±10%の範囲内に形成でき、焼き付け後の塗膜32の塗布量(膜厚)も缶胴の周方向で±10%の範囲内に均一化できる。
【0033】
なお、図示は省略するが、印刷膜21と塗膜32の乾燥は、これら印刷膜21及び塗膜32が塗布された缶11をオーブン等を通過させながら、熱風を吹き付けることにより行われ、印刷膜21と塗膜32とを缶胴外面11aに焼き付けて、缶胴外面11aに塗装が施された塗装缶が得られる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の缶の塗装方法においては、アプリケーターロール43の外周43a上で缶11の缶胴外面11aを2周以上回転移動させて重ね塗りしているので、アプリケーターロール43の外周面43a上から缶11の缶胴外面11aへの塗料Pの移動を2回以上に分けて行うことができる。このため、アプリケーターロール43に供給する塗料Pを過剰に増やすことなく、また著しく缶11の回転速度を低下させることなく塗装を行うことができ、生産性を低下させることなく、ミストの発生や塗装面の汚れの発生等を防止できる。また、缶胴外面11aに少なくとも2回塗装を施すことから、缶胴の周方向において塗り残し(未塗装部)を生じさせることもない。
したがって、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を形成でき、美粧性の高い塗装缶を得ることができる。
また、缶胴外面11aに通常よりも塗布量の多い(膜厚の厚い)塗膜を形成できるので、インキと塗料との表面張力差による凹凸を設けたタクタイル塗装や、添加剤を混合した塗料を用いて塗装を行うこともでき、塗装缶の美粧性を向上できる。
【実施例】
【0035】
次に、本実施形態の缶の塗装方法及び塗装缶について、その結果を確認するために実験を行った。
(塗装の周回数の違いによる塗料の転移量及び塗膜の塗布量の変化)
表1に示すように塗料の原液と希釈剤とを混合した4種類の塗料を調整した。また、表1の通常塗料とは、一般的なインキよりも小さい表面張力を有する塗料を示しており、溶剤塗料はポリエステル系塗料、水性塗料はアクリル系塗料である。一方、凹凸塗料とは、タクタイル塗装に用いられるような、一般的なインキと同じか、それよりも大きい表面張力を有する水性タクタイル塗料を示しており、アクリル系塗料である。また、溶剤塗料の希釈剤はブタノール/エチレングリコールモノブチルエーテル、水性塗料の希釈剤はイオン交換水を用いた。なお、塗料の粘度は、塗装時(塗装温度)における粘度を、JIS K5600‐2‐2に準じて、フォードカップNo.4を用いて測定されるものである。つまり、溶剤の通常塗料では、塗装温度30℃〜34℃における粘度を示し、水性の通常塗料では、35℃〜36℃における粘度を示す。また、凹凸塗料(水性タクタイル塗料)では、38℃における粘度を示す。
そして、表1に示すように、アプリケーターロール(APロール)の外周面上の塗料の塗布量を設定し、表2に示すように、缶の缶胴外面上への塗装を1周行った塗装缶(1周目)と、塗装を2周行った塗装缶(2周目)と、塗装を3周行った塗装缶(3周目)とを作製した。
【0036】
表2の「焼付後の塗膜の塗布量」は、それぞれの塗装完了後に形成された塗膜を、缶胴外面に焼き付けた後に、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗膜の塗布量(膜厚)を測定したものである。塗膜の塗布量の測定は、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行った。
表2の「塗料の転移量」と「焼付前の塗膜の塗布量」は、アプリケーターロールの外周面上から缶胴外面上に転移した塗料の量を示している。そして、これらの「塗料の転移量」と「焼付前の塗膜の塗布量」の値は、それぞれ缶の缶胴外面上への塗装を1周行った塗装缶(1周目)と、塗装を2周行った塗装缶(2周目)と、塗装を3周行った塗装缶(3周目)とについて、いずれも塗膜の焼付前の状態で重量を測定し、この塗装缶全体の重量から素缶(缶単体)の重量を差し引くことにより算出した。なお、1周目の塗料の転移量は、1周の塗装完了後に形成された1周分の塗膜の塗布量の値を示しているが、2周目の塗料の転移量は、2周の塗装完了後に形成された2周分の塗膜の塗布量から1周分の塗膜の塗布量を減じることにより算出した。また同様に、3周目の塗料の転移量は、3周の塗装完了後に形成された3周分の塗膜の塗布量から2周分の塗布量を減じることにより算出した。また、「塗料の転移率」は、アプリケーターロールの外周面上から転移された塗料の比率であり、「APロール上の塗料の塗布量」と「塗料の転移量」との比率である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2からわかるように、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料を重ね塗りするごとに徐々に少なくなる。また、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった2周目以降(3周目)においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が大幅に少なくなることが確認できた。
【0040】
(塗装の周回数の違いによる塗膜の塗布量差の目視確認)
次に、No.5の塗料を用い、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量を166(mg/dm
2)に設定して、缶の缶胴外面上への塗装を1.4周行った塗装缶と、塗装を1.8周行った塗装缶と、塗装を2.0周行った塗装缶と、塗装を2.2周行った塗装缶とを、それぞれ24缶ずつ作製した。そして、各条件の24缶の塗装缶について目視検査を実施し、缶胴の円周上に塗膜の塗布量差(境目)が確認されたものが24缶中1缶でもあったものを不合格「×」、24缶全てに塗膜の塗布量差が確認できなかったものを合格「○」とした。表3に結果を示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3からわかるように、塗装を少なくとも2周重ねた2.0周と2.2周の塗装缶においては、塗膜の塗布量差が確認できず、缶胴の円周上に均一に塗膜を形成できた。一方、塗装の周回数が2周未満の1.4周と1.8周の塗装缶においては、塗膜の塗布量差が顕著に表れた。
【0043】
(缶胴外面上の塗膜の塗布量のばらつき)
No.5の塗料を用い、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量を166(mg/dm
2)に設定して、無地缶の缶胴外面上への塗装を1.3周行った塗装缶と、塗装を2.0周行った塗装缶とを作製した。そして、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗装面の全体を等間隔で12点測定して、各点における塗膜の塗布量を測定した。
塗膜の塗布量の測定は、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行った。表4に結果を示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4からわかるように、塗装を少なくとも2周重ねた2.0周の塗装缶においては、塗膜の塗布量のばらつきを±10%の範囲内とでき、缶胴の円周上に均一に塗膜を形成できた。一方、塗装の周回数が2周未満の1.3周の塗装缶においては、塗膜の塗布量のばらつきが大きくなり(‐21.9%〜39.5%)、缶胴の円周上に均一に塗膜を形成できなかった。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。