【解決手段】古紙1からインク3を剥離させる(I)剥離・微細化工程と、前記(I)剥離・微細化工程で剥離・微細化したインク3を排出する(II)排出工程とを含む脱墨パルプの製造方法であって、前記(I)剥離・微細化工程及び前記(II)排出工程におけるpHは6以上11以下であり、前記(I)剥離・微細化工程で下記一般式(1)の化合物を添加する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
<脱墨パルプの製造方法>
図1に示すように、脱墨パルプの製造方法は、一般に、(I)古紙からインクを剥離・微細化する剥離・微細化工程と、(II)剥離されたインクを排出する排出工程とを含む。
【0019】
より具体的には、(I)剥離・微細化工程は、まず必須な工程として、離解(パルピング)工程(S1)、次に任意な工程として、粗選工程(S2)、高濃度処理工程(S3)、熟成工程(S4)、希釈工程(S5)等を含む。
【0020】
また、(II)排出工程は、まず必須な工程として、フローテーション工程(S6)、及び任意な工程として、洗浄工程(S7)等を含む。
【0021】
古紙1は、例えば
図2に示すように、絡み合ったパルプ繊維2上にインク3が密着した構造を有している。
【0022】
離解工程(S1)は、古紙1に物理的な操作を施して古紙1のパルプ繊維2を解きほぐすとともにパルプ繊維2からインク3を剥離し微細化する工程である。具体的には、
図2のような状態の古紙1を水及び必要な添加剤とともに、例えば離解機に入れ、撹拌力により古紙1のパルプ繊維2を解きほぐす。パルプ繊維2の離解とともに、パルプ繊維2に密着したインク3は一部剥離が進み、
図3に示すような状態となる。離解工程(S1)においては、パルプ繊維2の離解を促進させる観点から、後述するように、添加剤としてアルカリ剤等を添加することができる。
【0023】
次に、粗選工程(S2)は、古紙1中に含まれる大きな異物を予め除去するための工程であり、例えばスクリーン等を用いて粗い不要物を取り除くことができる。
【0024】
また、高濃度処理工程(S3)は、古紙1を絞り攪拌を行って古紙1から離解工程(S1)で剥離・微細化しなかったインク3の剥離・微細化を行う工程である。具体的には例えば、古紙液を脱水機で脱水後、ニーディング操作を施しインク3の剥離・微細化を行う。
【0025】
そして、熟成工程(S4)は、離解された古紙1をそのまま放置させることによりインク3の剥離・微細化を促進させる工程であり、例えば加熱や漂白の処理などを施して放置することにより達成される。インク3の剥離・微細化が進んだ古紙1は、例えば
図4に示すような状態となる。
【0026】
また、希釈工程(S5)は、後の(II)排出工程、特にフローテーション工程(S6)においてパルプ繊維2からのインク3の除去を容易にするための工程であり、(I)剥離工程を経て得られた古紙液から効率よくインク3を除去するために、例えばパルプ濃度が約1質量%程度になるまで水を加えて攪拌し均一にする。
【0027】
(II)排出工程の必須工程であるフローテーション工程(S6)は、剥離・微細化したインク3を泡に吸着後浮上させて排出する工程である。具体的には例えば、希釈した古紙液を必要な添加剤とともにフローテーター等に入れて発泡させ、この発泡状態の古紙液において剥離・微細化されたインク3が発生した泡に吸着されて浮き上がることにより、インク3が排出される。泡に吸着されて浮上することによりインク3のパルプ繊維2への再付着も抑制される。
【0028】
また、洗浄工程(S7)は、古紙1に水を加えて攪拌した後絞ったりする操作を繰り返して水中に浮き出たインク3を除去する工程である。
【0029】
<古紙及びインク>
脱墨パルプの原料となる古紙は、特に限定されるものではなく、印刷された紙類であればよい。具体的には例えば、凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などのあらゆる印刷方法によって印刷された新聞紙、雑誌、OA紙、チラシ、色上紙、模造紙、感熱や感圧記録紙、昇華転写紙などの上質古紙、中質古紙、低質古紙などが挙げられる。
【0030】
印刷されたインクは、例えば、枚葉インク等の亜麻仁油や大豆油などの乾性油または半乾性油を配合した酸化重合タイプ、浸透乾燥タイプ、オフ輪インク等の加熱乾燥タイプ、金属インク等の熱硬化タイプ、UV硬化型インク等の活性エネルギー線硬化タイプなどあらゆるタイプのインクを含む。なお、活性エネルギー線硬化型インクは熱エネルギーを必要とせず活性エネルギー線を照射するだけで簡便に硬化するインクであり、活性エネルギー線としては、可視光、UV、EB、LED、赤外線、X線、α線、β線、γ線などが挙げられ、活性エネルギー線硬化型インクとしては、例えば、UV硬化型インク、EB硬化型インク、LED硬化型インク、可視光硬化型インクなどがある。いずれのインクも、活性エネルギー線の照射により重合反応が起こり硬化するものである。また活性エネルギー線硬化型インクは、熱硬化型インク等の他のタイプとのハイブリッド型活性エネルギー線硬化型インクを含む。
【0031】
本実施形態に係る脱墨パルプの製造方法は、パルプに密着したインクの剥離が困難な酸化重合タイプインクで印刷された古紙や、インクの微細化が困難な活性エネルギー線硬化型インクで印刷された古紙に対しても有用である。なお、古紙は様々な種類のインクが混在しているのが一般的であり、その中には活性エネルギー線硬化型インクが含まれている場合がある。また、インクの密着性向上のためのニスや微細化が困難な活性エネルギー線硬化型ニスを含んでいる古紙にも有用である。
【0032】
<アルカリ剤及び脱墨剤の添加について>
ここに、本実施形態の脱墨パルプの製造方法は、前記(I)剥離・微細化工程及び前記(II)排出工程におけるpHは6以上11以下であり、(I)剥離・微細化工程で後述する脱墨剤を添加することを特徴とする。以下、本実施形態に係る脱墨パルプの製造方法において使用するアルカリ剤及び脱墨剤について説明する。
【0033】
[アルカリ剤]
アルカリ剤は、古紙のパルプ繊維の解きほぐしを促進させてインクの剥離・微細化を促進させるために用いられる。アルカリ剤の種類は、特に限定されるものではないが、具体的には例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの無機系アルカリ剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0034】
[アルカリ剤の使用量]
アルカリ剤の使用量は、前記(I)剥離・微細化工程及び前記(II)排出工程におけるpHが6以上11以下になるように添加する。さらに、脱墨性を上げる観点から、pHは7以上になるように添加することがより好ましく、パルプ繊維の過度な微細化が抑制され、脱墨パルプを良好な歩留まりで得ることができる観点から、pHは10.5以下になるように添加することがより好ましい。
【0035】
[脱墨剤:一般式(1)で示される化合物]
本実施形態において、脱墨剤として下記一般式(1)の化合物(第四級アンモニウム塩)を添加する。
【0036】
【化3】
(R
1は、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数5〜22のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数5〜22のヒドロキシアルケニル基であり、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基若しくはヒドロキシアルケニル基、ベンジル基、グリシジル基、又は下記一般式(2)で示される基であって、A
1Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基であり、Yは水素又はアシル基であり、nはA
1Oの繰り返し単位の数で2〜15の整数であり、R
2、R
3、R
4の炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基の数と炭素数2〜4のヒドロキシアルケニル基の数とA
1Oのnの数との総和が、1〜15の整数である。X
−は対イオンである。)
【0038】
一般式(1)中、R
1で示されるアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。R
1はインクの剥離・微細化の観点から炭素数6〜20のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基が好ましく、炭素数8〜18のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基がより好ましい。
【0039】
一般式(1)中、R
2、R
3、R
4で示されるヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、インクの剥離・微細化の観点から炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基が好ましい。
【0040】
一般式(2)中、A
1Oは、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基、スチレンオキシ基が挙げられ、それらは、単独でも、それらを2種以上用いてもよい。2種以上を用いた場合アルキレンオキシドの付加形態に制限はなく、例えば、ランダム付加、ブロック付加、ランダムとブロックを混合する方法などが挙げられる。A
1Oは、インクの剥離・微細化の観点から、エチレンオキシ基及び/又はプロピレンオキシ基が好ましい。A
1Oのn数は、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基の数と炭素数2〜4のヒドロキシアルケニル基の数とA
1Oのn数の総和が、2〜10であることが好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6がさらにより好ましく、2〜4が特に好ましい。Yは水素が好ましい。
【0041】
X
−は対イオンであり、特に限定するものではないが、例えば、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンなどのアルキル硫酸イオン;パラトルエンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン;塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンなどが挙げられる。
【0042】
本実施形態の一般式(1)の化合物は、水の中に投入され、かつ種々の樹脂等からなるインクを、例えばそのエステル結合を切断することにより分解する触媒として機能し、パルプ繊維からのインクの剥離・微細化を促進させることができると考えられる。このため、疎水性と親水性とのいずれか一方に偏らないようにバランスを取る必要があり、水相と有機化合物相との両方の内部を移動できることが好ましく、例えば、窒素に結合している4つの基の種類や長さ、およびアルキレンオキシ基の数を適度に調節することにより、その効果が向上し得る。そして、一つ以上のアルキレンオキシ基を有している必要がある。
【0043】
このように、前記一般式(1)の化合物を脱墨剤として(I)剥離・微細化工程において添加することで、インクの剥離及び微細化が促進され、脱墨パルプの製造において使用するアルカリ剤量を低減させることができる。そうして、高品質な脱墨パルプを良好な歩留まりで得ることができる。
【0044】
一般式(1)の化合物の製造方法としては、特に限定するものではなく、公知の製造方法で得られる。
【0045】
なお、一般式(1)の化合物は1種又は2種以上を使用することができる。
【0046】
脱墨剤はそのまま使用してもよいが、水や有機溶剤に溶解、乳化又は分散して使用することができる。また、後述の非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸と共に用いることが好ましい。さらに他の脱墨剤を加えても構わない。
【0047】
前記有機溶剤の種類としては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1〜6の低級アルコール;前記低級アルコールのアルキレンオキシド付加物;エチレングルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール;3−メチル−3−メトキシブタノールなどが挙げられる。
【0048】
[脱墨剤の使用量]
本実施形態の脱墨剤の使用量は、アルカリ剤添加量を低減させつつ優れた脱墨性を得るとともにコストを抑制させる観点から、用いられる古紙の乾燥重量に対して、0.0001質量%〜10質量%が好ましく、0.0005質量%〜5質量%がより好ましく、0.001質量%〜1質量%が特に好ましい。
【0049】
[アルカリ剤及び脱墨剤の添加時期]
前記アルカリ剤は、(I)剥離・微細化工程におけるインクの剥離・微細化を促進させて優れた脱墨性を得る観点から、前記(I)剥離・微細化工程の各工程のいずれか一つ以上の工程で添加することが好ましく、(I)剥離工程のうちの離解工程(S1)、高濃度処理工程(S3)のいずれか一つ以上の工程で添加することがより好ましく、離解工程(S1)で添加することが特に好ましい。また、脱墨パルプの製造方法において発生した白水を再利用する場合には、再利用する白水に添加してもよい。
【0050】
前記脱墨剤は、インクの剥離・微細化を促進させる観点から、前記(I)剥離・微細化工程で添加する。具体的には(I)剥離・微細化工程を構成する複数の工程のうち、特にインクの剥離・微細化が促進される離解工程(S1)、高濃度処理工程(S3)、熟成工程(S4)のいずれか一つ以上の工程で添加することが好ましく、特に離解工程(S1)で添加することがより好ましい。
【0051】
そして、前記脱墨剤は、アルカリ剤添加量を低減させつつ優れた脱墨性を得る観点から、前記アルカリ剤と同時か、又はアルカリ剤の添加直後に添加することが好ましい。
【0052】
すなわち、前記アルカリ剤は前記(I)剥離・微細化工程、より好ましくはその離解工程(S1)で添加され、前記脱墨剤はその(I)剥離・微細化工程、より好ましくはその離解工程(S1)において前記アルカリ剤の添加と同時又はその直後に添加することが特に好ましい。
【0053】
本構成によれば、前記(I)剥離・微細化工程及び前記(II)排出工程を上述のような低アルカリ性条件で行うことにより、アルカリ剤によるパルプ繊維の過度な微細化が抑制され、脱墨パルプを良好な歩留まりで得ることができる。また、上述のごとくアルカリ剤と同時又はアルカリ剤の添加直後に前記一般式(1)化合物の脱墨剤を添加することにより、このような低アルカリ性条件であっても、インクの剥離・微細化が効果的に促進され、白色度の高い脱墨パルプを得ることができる。
【0054】
<非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩>
印刷古紙のインク除去のために非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩を添加してもよい。
【0055】
非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩は、前記一般式(1)の化合物の起泡性が低い場合やフローテーション工程(S6)におけるインクの凝集性が不十分である場合に、併用することによって起泡性を最適化することができ、フローテーションにおけるインクの凝集性を向上させてインクの排出を促進させることができる。
【0056】
[非イオン性界面活性剤]
非イオン性界面活性剤は、特に限定されるものではなく、具体的には、高級アルコールアルキレンオキシド付加物、高級アルコールアルキレンオキシド付加物の脂肪酸エステル化物、アルキル又はアルケニルフェノールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の高級脂肪酸エステル化物、脂肪族アミンアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキシド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキシド付加物のポリアルキレングリコール型;グリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルの多価アルコール型が挙げられる。ここで述べた高級アルコールは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルコールであり、アルキル又はアルケニルフェノールは通常炭素数6〜22の直鎖又は分岐のアルキル又はアルケニルフェノールであり、脂肪酸は通常炭素数10〜22の不飽和又は飽和の脂肪酸であり、多価アルコールは通常炭素数3〜12の多価アルコールであり、脂肪族アミンは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の脂肪族アミンであり、フローテーションにおけるインク除去性(インク捕集性、インク凝集性)の観点から、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物の脂肪酸エステル化物、多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の高級脂肪酸エステル化物が好ましく、脱墨性の観点から、下記一般式(3)、下記一般式(4)の非イオン性界面活性剤がより好ましい。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0057】
【化5】
(ただしR
5は炭素数8〜22のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基であり、A
2Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基であり、sはA
2Oの繰り返し単位の数であり、1〜240の整数である。)
【0058】
【化6】
(ただしR
6、R
7は、それぞれ独立に、炭素数1〜22のアルキル基、ヒドロキシアルキル基炭素数2〜22のアルケニル基、ヒドロキシアルケニル基であり、少なくとも一つが炭素数8〜22であり、A
2Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基であり、tはA
2Oの繰り返し単位の数であり、1〜240の整数である。)
【0059】
一般式(3)中、R
5は炭素数12〜22のアルキル基、ヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数18〜22のアルキル基、ヒドロキシアルキル基がより好ましい。sは15〜220が好ましく、30〜200がより好ましい。
【0060】
一般式(4)中、R
6、R
7のうち少なくとも一つが炭素数12〜22のアルキル基、ヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数18〜22のアルキル基、ヒドロキシアルキル基がより好ましい。tは15〜220が好ましく、30〜200がより好ましい。
【0061】
[高級脂肪酸またはその塩]
次に本発明の脱墨パルプの製造方法に添加する高級脂肪酸またはその塩について説明する。
【0062】
高級脂肪酸またはその塩としては、下記一般式(5)の高級脂肪酸またはその塩が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0063】
【化7】
(ただしR
8は炭素数7〜21のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基であり、Z
+は水素イオンまたは対イオンである。)
【0064】
一般式(5)中、R
8は炭素数11〜21のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基であることが好ましく、炭素数17〜21のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基であることがより好ましい。Zとしては特に限定されないが、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属;トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどが挙げられる。
【0065】
<非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩の使用量>
本実施形態の非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩の使用量は、脱墨性、コストの観点から、用いられる古紙の乾燥重量に対して、0.001〜10質量%が好ましく、0.005〜5質量%がより好ましく、0.01〜1質量%が特に好ましい。
【0066】
<非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩の添加時期>
本実施形態の非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸またはその塩の添加時期は特に限定するものではないが、脱墨性の観点から、前記(I)剥離・微細化工程の各工程及び(II)排出工程におけるフローテーション工程(S6)のいずれか一つ以上の工程で添加することが好ましく、特に、(I)剥離・微細化工程のうちの離解工程(S1)、粗選工程(S2)、高濃度処理工程(S3)、熟成工程(S4)、希釈工程(S5)のいずれか一つ以上の工程で添加することがより好ましい。また、脱墨パルプの製造方法において発生した白水を再利用する場合には、再利用する白水に添加してもよい。
【0067】
<その他の薬剤>
また場合により、本実施形態の脱墨パルプの製造方法には、さらにアニオン性界面活性剤を添加することができる。アニオン性界面活性剤としては高級アルコールのアルキレンオキシド付加物の硫酸エステル化物、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物のリン酸エステル化物(モノエステル、ジエステル、トリエステル)、アルキル硫酸エステル化物、アルキルリン酸エステル化物(モノエステル、ジエステル、トリエステル)、アルキルスルホネートなどが挙げられる。
【0068】
また、本実施形態の脱墨パルプの製造方法には、従来脱墨工程において使用される公知の薬剤、例えば、過酸化水素、過炭酸ソーダ、次亜塩素酸ナトリウム、ハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素などの漂白剤;キレート剤;過酸化水素安定剤;他の公知の脱墨剤;発泡剤;ピッチコントロール剤;離解促進剤などを、所望により添加することができる。
【実施例】
【0069】
以下実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
<脱墨剤:一般式(1)の化合物>
表1に実施例及び比較例に用いた一般式(1)化合物の脱墨剤を示す。また、表2に比較例に使用した第4級アンモニウム塩を示す。さらに、表3に実施例及び比較例に使用した非イオン性界面活性剤を示す。表1〜表3においてR2〜R4は置換基であり、EO及びPOは、それぞれエチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基、数字は付加モル数を示す。また表中で、例えば化合物No.(E4)のようにR2とR3の項目にまたいで(EO)4Hという記載がある場合は、R2とR3に合計で4モルのエチレンオキシドを付加したということを表す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
<新聞古紙の古紙再生試験>
実施例1〜18及び比較例1〜20の試験条件及び評価結果を表4〜表7に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
[実施例1]
JIS標準離解機に、同一日発行の同一紙面の新聞古紙(新聞は酸化重合型インクにて印刷したもの)及び同一ちらし(新聞70%/ちらし30%)の原料古紙(以下古紙という)を100g、水を古紙の濃度が5質量%となるように入れ、水酸化ナトリウムをpH7.5になるよう調整した後、温度40℃にて離解を開始し、同時に一般式(1)化合物を純分で0.2質量%(対古紙)、化合物(P1)を純分で0.1質量%(対古紙)添加し(
図1に示すように、一般式(1)化合物の添加時期D1とする)、離解を10分間行った(離解工程)。
【0080】
その後恒温槽にて60℃×4時間熟成を行った(熟成工程)。
【0081】
熟成工程後古紙濃度が1質量%になるように40℃の水を混合し、古紙液4.3kgを5Lデンバー型フローテーターにて仕込み、エアー量3.0L/分を通し、30秒毎にフロス(水面上に出た泡、及び泡に付着したインク)をかきとりながら、フロス量が300mLになるまでフローテーション処理を行った(フローテーション工程)。
【0082】
熟成工程後又はフローテーション工程後に得られた脱墨パルプについて、後述する各種評価試験を実施した。
【0083】
[実施例2]
離解時における水酸化ナトリウム添加量をpH9となるように調整した以外は実施例1と同じ方法で実施した。
【0084】
[実施例3]
離解時における水酸化ナトリウム添加量をpH10.5となるように調整した以外は実施例1と同じ方法で実施した。
【0085】
[実施例4〜18]
離解工程において添加する一般式(1)化合物を表1に示す(E2)〜(E6)とするとともに、水酸化ナトリウム添加量を調整してpHを変えた以外は実施例1と同じ方法で実施した。
【0086】
[比較例1〜5]
一般式(1)化合物を添加せず、化合物(P1)濃度を0.3質量%とし、水酸化ナトリウム添加量を調整してpHを変えた以外は実施例1と同じ方法で実施した。
【0087】
[比較例6〜11]
一般式(1)化合物を(E1)、(E3)又は(E6)とし、水酸化ナトリウム添加量を調整してpH11.5又はpH12.5とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0088】
[比較例12]
JIS標準離解機に、同一日発行の同一紙面の新聞古紙及び同一ちらし(新聞70%/ちらし30%)の原料古紙(以下古紙という)を100g及び化合物(P1)を純分で0.1質量%(対古紙)、及び水を古紙の濃度が5質量%となるように入れ、温度40℃にて、10分間離解した(離解工程)。
【0089】
その後恒温槽にて60℃×2時間熟成を行った(熟成工程)。
【0090】
熟成工程後古紙濃度が1質量%になるように40℃の水を混合し、水酸化ナトリウムを添加してpH7.5となるよう調整した後、古紙液4.3kgを5Lデンバー型フローテーターにて仕込み、エアー量3.0L/分を通しながら、一般式(1)化合物(E3)を純分で0.2質量%(対古紙)となるよう添加し(
図1に示すように、一般式(1)化合物添加時期D2とする)、30秒毎にフロスをかきとりながら、フロス量が300mLになるまでフローテーション処理を行った(フローテーション工程)。
【0091】
その後は実施例1と同様に各種評価試験を実施した。
【0092】
[比較例13,14]
水酸化ナトリウム添加量を調整してpHを変えた以外は比較例12と同じ方法で実施した。
【0093】
[比較例15〜20]
一般式(1)化合物を表3に示す第4級アンモニウム塩(E7)、(E8)又は(E9)とし、水酸化ナトリウムを添加してpH7.5又は10.5とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0094】
<各評価試験の説明>
[熟成工程後のろ水度(フリーネス)(mL)]
熟成工程後のパルプをJIS P 8121−2(2012)に従って、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(mL)を測定した。
【0095】
通常パルプ繊維の長さが長くなれば水の通りがよくなるため、ろ水度が高くなる。つまりろ水度はパルプ繊維の長さの指標となり、ろ水度が高いということは嵩高性が高く強度の強いパルプが得られたことを意味する。
【0096】
なお、熟成工程後のろ水度(フリーネス)(mL)は、250mL以上を良好と判断する。
【0097】
[熟成工程後の紙密度(g/cm
3)]
熟成工程後に得られたパルプを、丸型抄紙機にてJIS P8209(1994)に従って坪量200g/m
2にて手抄きを行った。3.5kg/cm
2×5分プレス処理を行い、ドラムドライヤーにて105℃×5分乾燥し、熟成工程後の試験紙を得た。得られた試験紙を、温度20℃、湿度65%の恒温恒湿室に一昼夜放置し、JIS P8118(2014)に従って、マイクロメータにて紙厚を測定した。また、JIS P8124(2011)に従って坪量を測定し、紙厚と坪量より下記式(6)に従い紙密度を算出した。紙密度が低くなるのはパルプの繊維が長く空気密度の割合が多くなるためで、結果として嵩高性が高く強度の強いパルプが得られたことを意味する。
【0098】
紙密度(g/cm
3)=坪量(g/cm
2)/紙厚(cm)・・・(6)
【0099】
なお、熟成工程後の紙密度(g/cm
3)は、0.6以下を良好と判断する。
【0100】
[熟成工程後完全洗浄白色度及びERIC]
熟成工程後のパルプを水道水にて希釈後ろ過濃縮を行う洗浄を繰り返し、インクの排出がなくなるまで完全洗浄を行った後、丸型抄紙機にてJIS P8209(1994)に従って坪量200g/m
2にて手抄きを行った。3.5kg/cm
2×5分プレス処理を行い、ドラムドライヤーにて105℃×5分乾燥し、離解後のパルプの完全洗浄後の試験紙を得た。得られた試験紙を測色機COLOR TOUCHPC(Technidyne社製)にて白色度及びERICを測定した。測色機の測定条件は以下に示す通りである。
(測色機測定条件)
・光源:C光源にて測定角度2°にて測定
・ランプ仕様:パルスキセノン
・標準測定径:φ30mm
【0101】
熟成工程後の完全洗浄白色度及びERICとは、熟成工程後の古紙の洗浄を繰り返し、インクの排出がなくなるまで完全洗浄を行った後の古紙を使って得られた試験紙の白色度及びERICを測定したものであり、パルプからインクの剥離性が良好であったものは洗浄によってインクが排出されるために白色度が上がり、ERICは下がる。つまり、熟成工程後の完全洗浄白色度及びERICは、上述の(I)剥離工程においてパルプからインクの剥離が効率よく進行しているかを判断するための指標となる。なお、ERICはインクのみが主な吸光要素である950nmにおける波長での吸収・拡散係数を測定した数値であり残留インク濃度を示す。
【0102】
熟成工程後完全洗浄白色度は57以上、ERICは270以下を良好と判断する。
【0103】
[フローテーションにおける歩留率(%)]
フローテーション処理[古紙濃度1質量%の古紙液(すなわち古紙量43g)を処理]にて得られたフロス(泡と共に排出されたインク成分など)を採取し、2号ろ紙でろ過した後、乾燥機にて105℃×1時間絶乾し、フロス乾燥重量(g)を測定した。さらに、JIS P8003(1995)に従って、フロスの灰分(%)を測定した。灰分測定にて燃焼減量した重量をパルプ分とし、フローテーションにて排出したパルプ分を算出し、下記式(7)に従い歩留まり率(%)を算出した。歩留まり率が高いほど、フローテーションにて排出したパルプ分が少なくなることを意味するため望ましい。
【0104】
歩留まり率(%)=(100−灰分(%))×フロス乾燥重量(g)/古紙量:43g)・・・(7)
【0105】
なお、フローテーションにおける歩留まり率(%)は、93%以上を良好と判断する。
【0106】
[フローテーション後の白色度、ERIC]
フローテーション後のパルプを丸型抄紙機にてJIS P8209に従って坪量200g/m
2にて手抄きを行った。3.5kg/cm
2×5分プレス処理を行い、ドラムドライヤーにて105℃×5分乾燥し、フローテーション後の試験紙を得た。得られた試験紙を測色機COLOR TOUCHPC(Technidyne社製)にて白色度及びERICを測定した。
【0107】
白色度は数値が大きいほうがインクの脱墨性が良好であることを表し、ERICは数値が大きいほうがインクの脱墨性が不良であることを表す。フローテーション後の白色度は48.3以上、ERICは540以下であれば脱墨性が優れていると判断する。
【0108】
<考察>
表4,5に示した実施例の結果から明らかなように、離解工程のD1において一般式(1)化合物の脱墨剤を添加することにより、pH7.5〜10.5という低アルカリ性条件で、高品質の脱墨パルプが得られることが判った。
【0109】
また、新聞古紙に含まれる酸化重合型インクであっても、インク粒子の分解が促進されることで剥離・微細化されフローテーション処理によって細かいインク粒子が泡と共に系外に除去される結果、高品質の脱墨パルプが得られることが判った。
【0110】
一方、表6,7に示すように、比較例1〜5の結果から、一般式(1)化合物の脱墨剤を添加しない場合には、離解工程においてpH11.5〜12.5まで上昇させた場合に、各種評価値は、例えば実施例1と同様の値を示すものもあるが、熟成工程後のろ水度及び紙密度、フローテーション工程後の歩留まり率が低下することが判った。
【0111】
また、比較例6〜11の結果から、一般式(1)化合物の脱墨剤を添加し、pH11.5〜12.5まで上昇させた場合にも、実施例4,5と同様に、熟成工程後のろ水度及び紙密度、フローテーション工程後の歩留まり率が低下することが判った。
【0112】
さらに、比較例12〜14の結果から、一般式(1)化合物の脱墨剤の添加時期及び水酸化ナトリウムの添加によるpHの調整を、フローテーション工程に行った場合には、熟成工程後のろ水度及び紙密度、フローテーション工程後の歩留まり率は向上するものの、熟成工程後の完全洗浄及びフローテーション後の白色度は、いずれの値も実施例のものに比べて低下するとともに、ERICは上昇し、脱墨パルプの品質の低下が見られることが判った。
【0113】
また、比較例15〜20の結果から、一般式(1)化合物の脱墨剤の代わりに表3に示す第4級アンモニウム塩(E7)〜(E9)を用いた場合には、熟成工程後のろ水度及び紙密度、フローテーション工程後の歩留まり率は実施例と同等の値が得られたものの、白色度は低下するとともにERICは上昇し、脱墨パルプの品質の低下が見られることが判った。
【0114】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。