【解決手段】実施形態に係る放射線検出器は、複数の光電変換素子を有するアレイ基板と、前記複数の光電変換素子の上に設けられ、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、前記シンチレータ層の外側に位置する環状のつば部を有し、前記シンチレータ層を覆う防湿体と、前記つば部と、前記アレイ基板と、の間に設けられた接着層と、を備えている。
前記つば部の前記アレイ基板と対向する面における内周端は、前記アレイ基板と距離を空けて設けられている。前記つば部の前記アレイ基板と対向する面における外周端と、前記アレイ基板と、の間の距離は、前記内周端と、前記アレイ基板と、の間の距離よりも長い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
また、本発明の実施形態に係る放射線検出器は、X線のほかにもγ線などの各種放射線に適用させることができる。ここでは、一例として、放射線の中の代表的なものとしてX線に係る場合を例にとり説明をする。したがって、以下の実施形態の「X線」を「他の放射線」に置き換えることにより、他の放射線にも適用させることができる。
【0009】
(X線検出器)
まず、本発明の実施形態に係るX線検出器1について例示をする。
図1は、本実施の形態に係るX線検出器1を例示するための模式斜視図である。
なお、煩雑となるのを避けるために、
図1においては、反射層6や防湿体7などを省いて描いている。
図2(a)は、X線検出器1の模式断面図である。
図2(b)は、
図2(a)におけるA部の拡大図である。
なお、煩雑となるのを避けるために、
図2(a)、(b)においては、信号処理部3、画像伝送部4などを省いて描いている。
図3(a)は、防湿体の模式正面図である。
図3(b)は、防湿体の模式側面図である。
【0010】
放射線検出器であるX線検出器1は、放射線画像であるX線画像を検出するX線平面センサである。X線検出器1は、例えば、一般医療などに用いることができる。ただし、X線検出器1の用途は、一般医療に限定されるわけではない。
【0011】
図1、
図2(a)、および
図2(b)に示すように、X線検出器1には、アレイ基板2、信号処理部3、画像伝送部4、シンチレータ層5、反射層6、防湿体7、および接着層8が設けられている。
アレイ基板2は、シンチレータ層5によりX線から変換された可視光(蛍光)を電気信号に変換する。
アレイ基板2は、基板2a、光電変換部2b、制御ライン(又はゲートライン)2c1、データライン(又はシグナルライン)2c2、配線パッド2d1、2d2、および保護層2eを有する。
なお、光電変換部2b、制御ライン2c1、およびデータライン2c2の数などは例示をしたものに限定されるわけではない。
【0012】
基板2aは、板状を呈し、ガラスなどの透光性材料から形成されている。
光電変換部2bは、基板2aの一方の表面に複数設けられている。
光電変換部2bは、矩形状を呈し、制御ライン2c1とデータライン2c2とで画された領域に設けられている。複数の光電変換部2bは、マトリクス状に並べられている。
なお、1つの光電変換部2bは、1つの画素(pixel)に対応する。
【0013】
光電変換部2bには、光電変換素子2b1と、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)2b2が設けられている。
また、光電変換素子2b1において変換した信号電荷を蓄積する図示しない蓄積キャパシタを設けることができる。ただし、光電変換素子2b1の容量によっては、光電変換素子2b1が図示しない蓄積キャパシタを兼ねることができる。
【0014】
光電変換素子2b1は、例えば、フォトダイオードなどとすることができる。
薄膜トランジスタ2b2は、蛍光が光電変換素子2b1に入射することで生じた電荷の蓄積および放出のスイッチングを行う。薄膜トランジスタ2b2は、アモルファスシリコン(a−Si)やポリシリコン(P−Si)などの半導体材料を含むものとすることができる。薄膜トランジスタ2b2は、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を有している。薄膜トランジスタ2b2のゲート電極は、対応する制御ライン2c1と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のソース電極は、対応するデータライン2c2と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のドレイン電極は、対応する光電変換素子2b1と図示しない蓄積キャパシタとに電気的に接続される。
【0015】
制御ライン2c1は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。制御ライン2c1は、例えば、行方向に延びている。
1つの制御ライン2c1は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d1のうちの1つと電気的に接続されている。1つの配線パッド2d1には、フレキシブルプリント基板2f1に設けられた複数の配線のうちの1つが電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2f1に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた図示しない制御回路とそれぞれ電気的に接続されている。
【0016】
データライン2c2は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。データライン2c2は、例えば、行方向に直交する列方向に延びている。
1つのデータライン2c2は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d2のうちの1つと電気的に接続されている。1つの配線パッド2d2には、フレキシブルプリント基板2f2に設けられた複数の配線のうちの1つが電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2f2に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた図示しない増幅・変換回路とそれぞれ電気的に接続されている。
【0017】
保護層2eは、光電変換部2b、制御ライン2c1、およびデータライン2c2を覆うように設けられている。
【0018】
信号処理部3は、基板2aの光電変換部2bが設けられる側とは反対側に設けられている。
信号処理部3には、図示しない制御回路と、図示しない増幅回路とが設けられている。 図示しない制御回路は、各薄膜トランジスタ2b2の動作、すなわちオン状態およびオフ状態を制御する。例えば、図示しない制御回路は、フレキシブルプリント基板2f1と配線パッド2d1と制御ライン2c1とを介して、制御信号S1を各制御ライン2c1毎に順次印加する。制御ライン2c1に印加された制御信号S1により薄膜トランジスタ2b2がオン状態となり、光電変換部2bからの画像データ信号S2が受信できるようになる。
図示しない増幅回路は、データライン2c2と配線パッド2d2とフレキシブルプリント基板2f2とを介して、各光電変換部2bからの画像データ信号S2を順次受信する。そして、図示しない増幅回路は、受信した画像データ信号S2を増幅する。
【0019】
画像伝送部4は、配線4aを介して、信号処理部3の図示しない増幅回路と電気的に接続されている。なお、画像伝送部4は、信号処理部3と一体化されていてもよい。
画像伝送部4は、信号処理部3により順次増幅された画像データ信号S2を直列信号に順次変換し、さらにデジタル信号に順次変換する。そして、画像伝送部4は、順次変換されたデジタル信号に基づいて、X線画像を構成する。構成されたX線画像のデータは、画像伝送部4から外部の機器に向けて出力される。なお、直列信号への変換やデジタル信号への変換は、信号処理部3において行うようにしてもよい。
【0020】
シンチレータ層5は、光電変換素子2b1の上に設けられ、入射するX線を可視光に変換する。シンチレータ層5は、基板2a上の複数の光電変換部2bが設けられた領域(有効画素領域)を覆うように設けられている。
シンチレータ層5は、例えば、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを用いて形成することができる。この場合、真空蒸着法などを用いて、柱状結晶の集合体が形成されるようにすることができる。
【0021】
また、シンチレータ層5は、例えば、酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)などを用いて形成することもできる。この場合、例えば、以下のようにしてシンチレータ層5を形成することができる。まず、酸硫化ガドリニウムからなる粒子をバインダ材と混合する。次に、混合された材料を、基板2a上の複数の光電変換部2bが設けられた領域を覆うように塗布する。次に、塗布された材料を焼成する。次に、ブレードダイシング法などを用いて、焼成された材料に溝部を形成する。この際、複数の光電変換部2bごとに四角柱状のシンチレータ層5が設けられるように、マトリクス状の溝部を形成することができる。溝部には、大気(空気)、あるいは酸化防止用の窒素ガスなどの不活性ガスが満たされるようにすることができる。また、溝部が真空状態となるようにしてもよい。
【0022】
なお、
図2(a)、(b)に例示をしたシンチレータ層5は、ヨウ化セシウム:タリウムからなる蒸着膜の場合である。そのため、シンチレータ層5は、柱状結晶の集合体となっている。この場合、シンチレータ層5の厚み寸法は、600μm程度とすることができる。柱状結晶の柱(ピラー)の太さ寸法は、最表面で8〜12μm程度とすることができる。
【0023】
反射層6は、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために設けられている。すなわち、反射層6は、シンチレータ層5において生じた蛍光のうち、光電変換部2bが設けられた側とは反対側に向かう光を反射させて、光電変換部2bに向かうようにする。
反射層6は、シンチレータ層5を覆うように設けられている。なお、反射層6は、シンチレータ層5の表面側(X線の入射面側)の面を覆うように設けられていてもよい。
反射層6は、例えば、銀合金やアルミニウムなどの光反射率の高い金属からなる層をシンチレータ層5上に成膜することで形成することができる。また、反射層6は、例えば、酸化チタン(TiO
2)などの光散乱性粒子を含む樹脂をシンチレータ層5上に塗布することで形成することもできる。
また、反射層6は、例えば、表面が銀合金やアルミニウムなどの光反射率の高い金属からなる板を用いて形成することもできる。
【0024】
なお、
図2(a)、(b)に例示をした反射層6は、酸化チタンからなるサブミクロン粉体と、バインダ樹脂と、溶媒を混合して作成した材料をシンチレータ層5上に塗布し、これを乾燥させることで形成したものである。
【0025】
防湿体7は、空気中に含まれる水蒸気により、シンチレータ層5または反射層6の特性が劣化するのを抑制するために設けられている。
図2(a)、
図2(b)、
図3(a)、および
図3(b)に示すように、防湿体7は、ハット形状を呈し、表面部7a、周面部7b、および、つば(鍔)部7cを有する。
防湿体7は、表面部7a、周面部7b、および、つば部7cが一体成形されたものとすることができる。
【0026】
防湿体7は、透湿係数の小さい材料から形成することができる。
防湿体7は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、樹脂層と無機材料(アルミニウムなどの軽金属、SiO
2、SiON、Al
2O
3などのセラミック系材料)の層が積層された低透湿防湿材料などから形成することができる。
また、防湿体7の厚み寸法は、X線の吸収や剛性などを考慮して決定することができる。この場合、防湿体7の厚み寸法を大きくしすぎるとX線の吸収が多くなりすぎる。防湿体7の厚み寸法を小さくしすぎると剛性が低下して破損しやすくなる。
防湿体7は、例えば、厚み寸法が0.1mmのアルミニウム箔をプレス成形して形成することができる。
【0027】
表面部7aは、シンチレータ層5の表面側(X線の入射面側)に対向している。
周面部7bは、表面部7aの周縁を囲むように設けられている。周面部7bは、表面部7aの周縁から基板2aに向けて延びている。
表面部7aおよび周面部7bにより形成された空間の内部には、シンチレータ層5と反射層6が設けられる。なお、反射層6が設けられない場合には、表面部7aおよび周面部7bにより形成された空間の内部には、シンチレータ層5が設けられる。表面部7aおよび周面部7bと、反射層6またはシンチレータ層5との間には隙間があってもよいし、表面部7aおよび周面部7bと、反射層6またはシンチレータ層5とが接触していてもよい。
【0028】
つば部7cは、周面部7bの、表面部7a側とは反対側の端部を囲むように設けられている。つば部7cは、周面部7bの端部から外側に向けて延びている。つば部7cの平面形状は、環状となっている。
つば部7cの、アレイ基板2と対向する面における外周端7c1とアレイ基板2との間の距離(T0+T)は、つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2との間の距離T0よりも長い。
図2(a)、(b)に例示をしたつば部7cの場合には、つば部7cは、防湿体7の外側になるに従いアレイ基板2から離れる方向に傾斜している。
つば部7cは、接着層8を介して、基板2aの、光電変換部2bが設けられる側の面と接着されている。
すなわち、防湿体7は、シンチレータ層5の外側に位置する環状のつば部7cを有し、少なくともシンチレータ層を覆う。
【0029】
ハット形状の防湿体7を用いるものとすれば、高い防湿性能を得ることが可能となる。この場合、防湿体7はアルミニウムなどから形成されるため、水蒸気の透過は極めて少ないものとなる。
【0030】
接着層8は、つば部7cと、アレイ基板2の、光電変換部2bが設けられる側の面との間に設けられている。接着層8は、接着剤8aが硬化することで形成されたものである。 接着層8を形成する際に用いる接着剤8aは、透湿係数と、防湿体7と基板2aとの接着性を考慮して選択する。接着剤8aは、例えば、紫外線硬化型のエポキシ系接着剤や、熱硬化型のエポキシ系接着剤などとすることができる。
【0031】
ここで、基板2aの、接着剤8aが接触する領域には、制御ライン2c1やデータライン2c2などの遮光性部材が設けられている場合がある。そのため、紫外線硬化型の接着剤を用いる場合には、照射ムラがある場合でも適切な硬化を行うことができるものを選択することが好ましい。照射ムラがある場合でも適切な硬化を行うことができる紫外線硬化型の接着剤としては、例えば、カチオン重合により硬化反応が進むエポキシ系紫外線硬化型の接着剤などを例示することができる。
また、接着層8の透湿率(水蒸気の透過率)を低減させるためには、透湿係数ができるだけ小さい材料を選定することが好ましい。
例えば、エポキシ系の接着剤に無機材質のタルク(滑石:Mg
3Si
4O
10(OH)
2)を70重量%以上添加すれば、接着層8の透湿係数を大幅に低減させることができる。
【0032】
ここで、ハット形状を呈する防湿体7において、つば部7cとアレイ基板2との密着性を十分に確保し、かつ高い信頼性を担保する為には、つば部7cとアレイ基板2との間に介在させる接着剤8aの量を多めにし、且つ、つば部7cとアレイ基板2とを接着する際の加圧力を一定以上に大きくすることが好ましい。
【0033】
しかしながら、このような2つの条件を満足させると、必然的に接着剤8aがつば部7cの外側に食み出すことになる。そのため、アレイ基板2上のつば部7cの周辺に余剰な接着剤8aが食み出すことで、接着層8の食み出し(広がり)部分が形成されることになる。接着層8の食み出し部分が、配線パッド2d1、2d2に到達すると、配線パッド2d1、2d2へのフレキシブルプリント基板2f1、2f2の接続ができなくなるおそれがある。また、アレイ基板2の、配線パッド2d1、2d2が設けられていない側においても、接着層8の食み出し部分が形成されると、アレイ基板2を最終的な製品寸法に切断する際に、接着層8の食み出し部分が切断に用いるブレードに干渉するおそれがある。
【0034】
この場合、つば部7cの外周端7c1と配線パッド2d1、2d2との間の距離、あるいは、つば部7cの外周端7c1とアレイ基板2の周端(カット端)との間の距離を長くすれば、これらの不具合が発生するのを抑制することができる。しかしながら、この様にすると、アレイ基板2が大きくなるので、X線検出器1の小型化や軽量化などが図れなくなる。
【0035】
すなわち、防湿体7の周辺に設けることが必要となる領域の寸法は、X線検出器1の機能とは関係がないので、X線検出器1が余分に大きくなるおそれがある。X線検出器1が余分に大きくなれば、X線検出器1の重量も余分に増大する。特に、小型化と軽量化が要求される可搬型(ポータブル)のX射線検出器1などにおいては、大きなデメリットとなるおそれがある。
【0036】
一方、接着層8の食み出し部分を小さくするために、接着剤8aの量を減らしたり、つば部7cとアレイ基板2とを接着する際の加圧力を小さくしたりすれば、つば部7cとアレイ基板2との密着性が全体的あるいは部分的に低下して、高温高湿環境や冷熱環境において接着層8が剥離するなどの不具合が生じるおそれがある。
【0037】
そこで、本実施の形態に係るX線検出器1においては、つば部7cの外周端7c1とアレイ基板2との間の距離(T0+T)が、つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2との間の距離T0よりも長くなるようにしている。
【0038】
次に、この様な形態を有するつば部7cの作用、効果について説明する。
つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2との間の距離をT0(mm)、つば部7cの外周端7c1とアレイ基板2との間の距離を(T0+T)(mm)、アレイ基板2の厚み方向におけるつば部7cの内周端7c2と外周端7c1との間の距離をT(mm)、接着層8の幅寸法をW(mm)、接着剤8aの塗布量をm(mg/mm)、接着剤8aの密度をρ(mg/mm
3)とする。
【0039】
図2(a)、(b)に例示をしたものの様に、つば部7cの内側にも外側にも接着剤8aの食み出しが無い場合には、接着層8の体積V(つば部の周囲長方向の単位長さ当たり)は以下のように算出することができる。
V=W・(T0+(T0+T))/2=W・(2T0+T)/2・・・(1)
接着層8の厚みの変動は、T0の変動(ΔT0とする)に相当するので、T0の変動ΔT0に対する接着層8の、防湿体7のつば部7cとアレイ基板2との間の部分に相当する体積の変動ΔV(つば部の周囲長方向の単位長さ当たり)は、以下のように算出することができる。
ΔV=W・ΔT0・・・(2)
この接着層8の、防湿体7のつば部7cとアレイ基板2との間の部分に相当する体積の変動ΔV分に相当する接着剤8aが、つば部7cの外周端7c1から外側に食み出したとした場合を試算する。その際、接着層8の、つば部7cの外周端7c1側の厚み(T0+T)と概ね同程度の厚みで接着剤8aがつば部7cの外側に食み出すと考えることができる。
この場合、接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWは、以下のように算出することができる。
ΔW=ΔV/(T0+T)・・・(3)
(3)式に(2)式を代入すると以下のようになる。
ΔW=W・ΔT0/(T0+T)・・・(4)
(4)式から分かるように、接着層8の厚みの最小値であるT0の変動ΔT0に対して、分母の(T0+T)の値を大きくするほど、つば部7cの外周端7c1からの接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWは小さくなる。
【0040】
ここで、上下方向から加圧して、防湿体7(つば部7c)とアレイ基板2とを接着する際には、T0の値を制御する。そのため、T0+Tの値を大きくするには、Tの値を大きくすることが有効となる。すなわち、接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWを小さくするためには、Tの値を大きくすることが有効となる。
【0041】
この様に、つば部7cの内周端7c2付近の接着層8の厚みに対して、つば部7cの外周端7c1の付近の接着層8の厚みを厚くすれば、つば部7cの外周端7c1からの接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWを効果的に抑制することができる。
ここで、つば部7cの内周端7c2付近の接着層8の厚み(T0)自体も厚くして、接着層の厚み全体を一定以上に厚くしてしまう方法でも、接着層8の食み出し幅ΔWの抑制には同様な効果が期待できる。しかしながらこの方法は、接着の信頼性の面からは望ましくない。その理由は、例えば保管環境における温度変化などによって、防湿体7とアレイ基板2との熱膨張差に起因する応力が生じる場合に、接着層8の厚みによって防湿体7とアレイ基板2との間にかかるトルク(力のモーメント)が大きくなる為である。その結果、接着層8の内部での破壊(凝集破壊)や、防湿体7と接着層8の界面での剥離、或いは接着層8とアレイ基板2との界面での破壊が生じ易くなってしまう。この影響を抑えるためには、特に熱膨張差に起因する応力が集中し易いつば部7cの内周端7c2付近の厚みを大きくしない事が重要となる。
【0042】
本実施の形態に係るX線検出器1においては、つば部7cの外周端7c1とアレイ基板2との間の距離(T0+T)が、つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2との間の距離T0よりも長くなっている。そのため、つば部7cの外周端7c1からの接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWを効果的に抑制することができる。
接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWが小さくなれば、防湿体7の周辺に設けることが必要となる領域の寸法を小さくすることができるので、X線検出器1の小型化や軽量化を図ることができる。
【0043】
図4は、つば部7cの形態と、接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWとの関係を例示するためのグラフ図である。
表1は、つば部7cの形態と、接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWとの関係を例示するための表である。
【表1】
図4および表1は、接着剤8aの食み出し幅の変動ΔWを実験により求めた結果である。 ハット形状の防湿体7は、厚みが0.1mmのアルミニウム箔から形成した。つば部7cの幅寸法は2mmとした。「傾斜したつば部」は、後述するつば部7cbである(
図5(b)を参照)。なお、つば部7cbは、外周端7c1から0.5mmのところから距離Tが変化するものとした。「水平なつば部7c」は、T=0mmとしたものである。
接着剤8aの密度ρは1.4(mg/mm
3)とし、接着剤8aの塗布量mは0.4(mg/mm)とした。接着剤8aは、エポキシ系紫外線硬化型接着剤とした。
つば部7cとアレイ基板2とを接着する際の加圧力は、概ね0.1MPa程度とした。
【0044】
図4および表1から分かるように、「傾斜したつば部」とすれば、接着剤8aの食み出し幅の絶対値とバラつきを大幅に少なくすることができる。
【0045】
ここで、T0=0mm、すなわち、つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2とが接触すると、保護層2eが破損して、つば部7cと、制御ライン2c1またはデータライン2c2とが接触し、短絡が生じるおそれがある。
そのため、つば部7cの内周端7c2は、アレイ基板2と距離を空けて設けられる。すなわち、T0は0mmを超えるものとする。
【0046】
この場合、T0を小さくすれば接着剤8aがつば部7cの内側方向に流動して食み出す際の抵抗が大きくなるので、接着剤8aはつば部7cの外周端7c1から外側に食み出しすくなる。接着剤8aがつば部7cの外周端7c1から外側に食み出しやすくなると、接着剤8aの食み出し幅の絶対値やバラつきが大きくなるおそれがある。
一方、T0を大きくすれば前述した抵抗が小さくなるので、接着剤8aはつば部7cの内周端7c2からシンチレータ層5側に食み出しやすくなる。この場合、接着剤8aがつば部7cの内周端7c2からシンチレータ層5側に食み出しても特に不都合はない。
【0047】
そのため、T0は所定の値以上とすることが好ましい。
本発明者の得た知見によれば、T0≧5μmとすることが好ましい。また、10μm≦T0≦30μmとすれば、短絡の発生と、つば部7cの外周端7c1からの接着剤8aの食み出しをより効果的に抑制することができる。
【0048】
また、前述したように、Tを大きくすれば、つば部7cの外周端7c1からの接着剤8aの食み出しを効果的に抑制することができる。
ところが、Tを極端に大きくしすぎると、T0を一定範囲内に小さく抑えていたとしても、高温高湿環境や冷熱環境において、接着層8が剥がれやすくなる。そのため、T≦500μmとすることが好ましい。
【0049】
図5(a)、(b)は、他の実施形態に係るつば部7ca、7cbを例示するための模式断面図である。
前述したつば部7cは平板状であったが、
図5(a)に示すように曲面を有するつば部7caとすることもできる。
また、前述したつば部7cは内周端7c2から距離Tが変化したが、
図5(b)に示すように内周端7c2と外周端7c1の間の任意の位置から距離Tが変化するようにしてもよい。
すなわち、つば部7cは、アレイ基板2までの距離が一定の領域を有していてもよい。
この様に、つば部7cの外周端7c1とアレイ基板2との間の距離T1が、つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2との間の距離T0よりも長くなっていればよい。
【0050】
本実施の形態に係るX線検出器1とすれば、つば部7cの外周端7c1からの接着剤8aの食み出しを最小限に抑えることができる。この場合、実質的に食み出し量をゼロにすることができる。
また、アレイ基板2の表面から上方向への接着剤8aの食み出しも抑制することができるので、アレイ基板2を筺体に固定する際に不都合が発生するのを抑制することができる。
更に、防湿体7のつば部7cと接着層8の界面、及び接着層8とアレイ基板2との界面が良好な密着性を有しているので、高い防湿信頼性を得ることができる。
【0051】
また、本実施の形態に係るX線検出器1によれば、60℃−90%高温高湿試験や、60℃と−20℃の繰り返しによる冷熱環境試験においても高い信頼性を得ることができた。
【0052】
(X線検出器の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るX線検出器1の製造方法について例示をする。
X線検出器1は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、基板2a上に光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2、配線パッド2d1、配線パッド2d2、および保護層2eなどを順次形成してアレイ基板2を作成する。アレイ基板2は、例えば、半導体製造プロセスを用いて作成することができる。
【0053】
次に、アレイ基板2上の複数の光電変換部2bが形成された領域を覆うようにシンチレータ層5を形成する。シンチレータ層5は、例えば、真空蒸着法などを用いて、ヨウ化セシウム:タリウムからなる膜を成膜することで形成することができる。この場合、シンチレータ層5の厚み寸法は、600μm程度とすることができる。柱状結晶の柱の太さ寸法は、最表面で8〜12μm程度とすることができる。
【0054】
次に、シンチレータ層5を覆うようにして反射層6を形成する。反射層6は、例えば、酸化チタンからなるサブミクロン粉体と、バインダ樹脂と、溶媒を混合して作成した材料をシンチレータ層5上に塗布し、これを乾燥させることで形成することができる。
【0055】
次に、以下のようにして、ハット形状の防湿体7をアレイ基板2上に接着し、防湿体7と接着層8によりシンチレータ層5と反射層6を封止する。
まず、防湿体7を形成する。
防湿体7は、例えば、厚み寸法が0.1mmのアルミニウム箔をプレス成形して形成することができる。また、つば部7cの形態は、前述したものとすることができる。
【0056】
続いて、つば部7cの表面(接着面)を清浄化し、清浄化したつば部7cの表面に所定の量の接着剤8aを塗布する。接着剤8aの塗布は、ディスペンサー装置を用いて行うことができる。なお、接着剤8aは、アレイ基板2上に塗布してもよい。
すなわち、シンチレータ層5の外側に位置する環状のつば部7c、若しくはつば部7cに対向するアレイ基板2上に接着剤を塗布する。
また、接着剤8aを塗布する際には、後述する治具100を用いることができる(
図6を参照)。治具100を用いる場合には、治具100につば部7cを支持させる。
【0057】
続いて、防湿体7をアレイ基板2上に接着する。
図6は、接着の様子を例示するための模式断面図である。
図6に示すように、防湿体7をアレイ基板2上に接着する際には、治具100を用いることができる。
まず、つば部7cとアレイ基板2とを近接させる。
この場合、治具100をアレイ基板2に向けて移動させるか、若しくはアレイ基板2を治具100に向けて移動させるようにすることができる。なお、治具100とアレイ基板2の両方を移動させることもできる。
そして、治具100とアレイ基板2との間の距離を制御することで、つば部7cの内周端7c2は、アレイ基板2と距離を空けて設けられる。また、つば部7cの内周端7c2とアレイ基板2との間の距離T0が前述したものとなるようにする。
アレイ基板2と防湿体7のつば部の外側端7c1との距離がT0+Tとなる様に、つば部7cを予め変形させておくことができる。また、治具100の額縁部(防湿体7のつば部7cを受ける部分)の形状を、内側から外側に向かって
図6に示すようにテーパー形状とし、接着後のアレイ基板2と防湿体のつば部7cの外側端7c1との距離がT0+Tとなる様に保持することもできる。
続いて、アレイ基板2の裏面側から所定量の紫外線を照射することで、接着剤8aを硬化させる。この場合、アレイ基板2の表面には、制御ライン2c1やデータライン2c2などの遮光性部材が設けられているので、接着剤8aの一部には紫外線が照射されない。そのため、前述したように、カチオン重合により硬化反応が進むエポキシ系紫外線硬化型の接着剤を用いることが好ましい。
また、紫外線の照射により一定の硬化が得られた後に、例えば、60℃程度の加熱を行い、接着剤8aの重合度を高めることもできる。
また、接着剤8aに、例えば、タルクなどからなるフィラー材を一定量添加することで、接着層8自体の透湿係数を抑えて、防湿低能を高めることもできる。
【0058】
次に、フレキシブルプリント基板2f1、2e2を介して、アレイ基板2と信号処理部3を電気的に接続する。
また、配線4aを介して、信号処理部3と画像伝送部4を電気的に接続する。
その他、回路部品などを適宜実装する。
【0059】
次に、図示しない筐体の内部にアレイ基板2、信号処理部3、画像伝送部4などを格納する。
そして、必要に応じて、光電変換素子2b1の異常の有無や電気的な接続の異常の有無を確認する電気試験、X線画像試験などを行う。
以上のようにして、X線検出器1を製造することができる。
【0060】
なお、製品の防湿信頼性や温度環境変化に対する信頼性を確認するために、高温高湿試験、冷熱サイクル試験などを実施することもできる。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。