【実施例1】
【0017】
図2に、本発明の一実施形態において選択的遮蔽ユニットが取り付けられるX線望遠鏡の構成概略図を示す。X線望遠鏡1は、ハウジング4内に複数の反射鏡2a−1〜2a−3,2b−1〜2b−3を有し、また焦点面で像を検出するための検出器3を備えている。反射鏡2a−1〜2a−3,2b−1〜2b−3は、それぞれ円錐の部分的側面(円錐を、その底面から頂点までの高さ方向について途中で切断し、底面側に残った立体の側面)の形状を有しており、X線望遠鏡1の入射面(
図2中、点線で示す)に垂直な方向から見た時に同心円状となるよう配置されている。また、反射鏡2a−1〜2a−3は層状に(入れ子上に)配置されており、反射鏡2b−1〜2b−3も層状に(入れ子上に)配置されている。
【0018】
X線望遠鏡1の入射面から入射して反射鏡2a−1で反射されたX線は、反射鏡2b−1で再度反射されて焦点面へと導かれる。同様に、反射鏡2a−2,2a−3で反射されたX線も、それぞれ反射鏡2b−2,2b−3で再度反射されて焦点面へと導かれる。焦点面ではこれら2回反射されたX線によって像が形成され、この像を、位置検出可能な二次元検出器3などによって検出する。検出結果を示す電気信号はデータ処理系へと送信され、適宜解析される。ただし、既に述べたとおり、検出器3により検出する検出面は焦点面と異なる面であってもよい。X線望遠鏡1の一例として、本発明者らが開発したX線望遠鏡(ASTRO−H SXT−1)の外観写真(非特許文献3のFig.6より引用)を
図3に示す。
【0019】
図2のX線望遠鏡1に選択的遮蔽ユニットを取り付けたX線望遠鏡システムの構成概略図を
図4に示す。選択的遮蔽ユニットは、第1スリット部材6及び第2スリット部材7を保持部材5で保持してなる構造を有しており、これをX線望遠鏡1の入射面の前段に取り付ける。これにより、X線望遠鏡1に入射しようとするX線は、まず選択的遮蔽ユニットの作用を受けることとなる。
【0020】
第1スリット部材6及び第2スリット部材7は、それぞれスリットが開けられた円盤状の形状を有している。第1スリット部材6の一例を、
図4の矢印Aの方向から見たときの構成概略図を
図5aに、第2スリット部材7の一例を、
図4の矢印Aの方向から見たときの構成概略図を
図5bに、それぞれ示す。
【0021】
第1スリット部材6においては、X線の通過を阻止する素材で形成される通過阻止領域6aと、X線が通過できるスリット(通過許容領域)6bとが交互に形成されており、それぞれが等しい一定角度の扇形形状で形成されている。なお、
図5a,
図5bにおいては簡略化のために1つ1つの扇形形状の角度を大きくとっているが、実用上は1°(degree,度)以下、特に0.1°以下とすることが好ましい。後述のその他の図面においても簡略化のために通過阻止領域、通過許容領域を大きく書いているが、同様に図示されているよりも微細な構造で各領域を形成することが好ましい。
【0022】
第2スリット部材7においても、第1スリット部材6と同様に、X線の通過を阻止する素材で形成される通過阻止領域7aと、X線が通過できるスリット(通過許容領域)7bとが交互に形成されている。
図4に示すとおり、第1,第2スリット部材6,7は層状に、且つ間隔を空けて配置されるが、
図4の矢印Aの方向から見た時に、第1スリット部材6上のスリット6bの位置と、第2スリット部材7上のスリット7bの位置とが互いにずれるよう配置される。具体的には、
図4の矢印Aの方向から見たときに、第1スリット部材6におけるスリット6bと、第2スリット部材7における通過阻止領域7aとが重なり、また第1スリット部材6における通過阻止領域6aと、第2スリット部材7におけるスリット7bとが重なるよう、第1,第2スリット部材6,7が配置される。このような配置をとることにより、
図4の矢印Aの方向(
図5a,
図5bに示す面として定義される選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向)から入射するX線は、第1,第2スリット部材6,7の少なくともいずれかによって通過を阻止されることとなる。ただし、各々のスリット部材における通過阻止領域とスリットの大きさとが等しい必要はなく、スリットをより細く、あるいは小さくしてもよい。これにより、既に述べたとおり代表面に対して傾斜した角度からの入射(有限距離に位置する放射体からの入射に対応)を効果的に阻止できる。スリットの大きさをどのようにとるか等、具体的構成は、測定対象の距離等に応じて適宜選択すべきである。あるいは、通過阻止領域よりもスリットが太い、あるいは大きい構成も可能である(後述の、スリット部材を3以上用いる構成を参照)。これらの点については、後述の全ての例においても同様である。
【0023】
通過阻止領域やスリットの形状としては、
図5a,
図5bに示した扇形形状以外にもさまざまな形状をとることができる。
図6a,
図6bに、通過阻止領域とスリットをそれぞれ同心円状に形成した時の第1,第2スリット部材6,7の概略構成図を示し、
図7a,
図7bに、通過阻止領域とスリットをそれぞれ平行なパターンとして形成した時の第1,第2スリット部材6,7の概略構成図を示す。
図6a,
図6bの構成においては、複数の通過阻止領域6a,7aを保持するために十字形状の保持部分が設けられているが、この保持部分を十分細く形成すれば、通過阻止領域6a,7aとスリット6b,7bは同心円状とみなしてよい。これらの形状をとる場合においても、
図4の矢印Aの方向(選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向)から見たときに、第1スリット部材6におけるスリット6bと、第2スリット部材7における通過阻止領域7aとが重なり、また第1スリット部材6における通過阻止領域6aと、第2スリット部材7におけるスリット7bとが重なるよう、第1,第2スリット部材6,7が配置される(スリットパターンを予め一部ずらしつつ第1,第2スリット部材6,7を製造し、両者を層状に配置する。)。
【0024】
選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向(本実施例においては光軸方向とする。)から入射したX線が第1,第2スリット部材6,7によって通過を阻止される様子を
図8aに概念的に示す。各々のスリット部材において通過阻止領域とスリットの大きさが等しいとすれば、入射したX線のうち半分は第1スリット部材6の通過阻止領域6aによって通過を阻止され、残りの半分も第2スリット部材7の通過阻止領域7aによって通過を阻止される。
【0025】
また、選択的遮蔽ユニットの代表面に対して傾斜した方向から入射したX線の一部が、第1,第2スリット部材6,7を通過する様子を
図8bに概念的に示す。入射したX線のうち一部が第1スリット部材6を通過する点は
図8aの場合と同様であるが、傾斜した方向からの入射であることに起因して、入射X線の一部は第2スリット部材7をも通過する。
【0026】
したがって、上述の第1,第2スリット部材を備える選択的遮蔽ユニットをX線望遠鏡1に取り付けて観測を行った場合には、選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向から入射したX線を完全に遮断しつつ、傾斜した方向からの(Off−Axis)X線を検出することが可能となる。すなわち、X線望遠鏡1を任意の方向に向けることにより、任意の方向からのX線を遮断しつつ観測を行うことが可能となる。X線望遠鏡1自体とは別個のユニットとして選択的遮蔽ユニットを設計できるため、スリットパターンを微細に形成すれば、望遠鏡が持つ角度分解能を超える選択的遮蔽能力を提供することも可能となる。ここで、スリットパターンのスケールと観測対象電磁波の波長スケールが近い場合には観測対象電磁波がスリットを通過することによる干渉の影響が出る可能性があるため、観測対象電磁波の波長域としてはスリットパターンよりも十分に波長の短い波長域(例えば、100Å(オングストローム)以下)をとることが有効である。
【0027】
図3に示したASTRO−H衛星搭載のSXT望遠鏡(非特許文献3のFig.6)を微調整した上で、
図5a,
図5bを用いて説明した扇形形状のスリットを多数有するスリット部材2つを備えた選択的遮蔽ユニットをこれに取り付けてなるX線望遠鏡システムについて、入射角を変えつつX線を観測した時の有効面積を計算機シミュレーションで算出した。
【0028】
SXT望遠鏡は、焦点距離5.6m,入射口径450mmとし、金からなる反射面が同心円状に203層配置されているとした(非特許文献3のTable 1等参照)。第1,第2スリット部材6,7については、
図5a,
図5bに示す代表面の直径を450mmとし(
図5a,
図5b中、円環形の外枠や中心にある円形の領域は構造上必要とされるものであり、本シミュレーションでは存在しないものとした。)、通過阻止領域6a,7a及びスリット6b,7bは、いずれも中心角が0.1°(degree,度)の扇形形状であるとした(互いに0.1°(degree,度)ずらして配置。)。第1,第2スリット部材の厚みはゼロとし、通過阻止領域6a,7aはX線吸収率無限大の物質からなると仮定した。また第1,第2スリット部材の間隔は1000mmとした。
【0029】
以上の条件で、無限遠からX線望遠鏡に対してX線がランダムで入射する状況をモンテカルロ法によりシミュレーションし、焦点面まで届いたX線を数え上げることで有効面積を導出した。選択的遮蔽ユニットがない場合と比較した結果を
図9のグラフに示す。
図9は2つのエリアに分かれているが、横軸は共通であり入射角(代表面に垂直な方向からの傾斜角)を表わす(単位はarc min。1arc minは1/60°)。縦軸は、まず上側のエリアにおいては有効面積(単位は平方センチメートル、対数目盛表示)を表わし(一定数のX線を入射させた場合の、焦点面まで届いたX線の数に対応。)、選択的遮蔽ユニットを用いない望遠鏡システムのみの構成での計算結果と、選択的遮蔽ユニットを用いた望遠鏡システム(本発明のコロナグラフを備えた望遠鏡システム)での計算結果とがそれぞれグラフ化されている。
図9の下側エリアのグラフは、「(選択的遮蔽ユニットを用いた望遠鏡システムで計算した有効面積)/(望遠鏡システムのみの構成で計算した有効面積)」を無次元(対数目盛表示)で表わしたものである。
【0030】
図9のグラフからわかるとおり、選択的遮蔽ユニットをX線望遠鏡に取り付けた場合、垂直に近い方向に対しての有効面積は選択的遮蔽ユニットを用いない場合に比べて大きく低下するが、傾斜角が大きくなるにつれて、概ね選択的遮蔽ユニットを用いない場合の0.2〜0.3倍程度で安定する。第1,第2スリット部材の代表面における通過阻止領域とスリットとの大きさが等しい場合、代表面に垂直な方向から傾斜して入射したX線が第1スリット部材を通過する確率は平均的には1/2程度であり、このX線が更に第2スリット部材を通過する確率も平均的には1/2程度であると考えられ(両方のスリット部材を通過できるか否かは代表面内の入射位置によって決まるが、スリットパターンが十分細かく、多数のX線が入射すると仮定すれば、平均的に各スリット部材を1/2の確率で通過すると推定できる。)、したがって傾斜して入射したX線が検出面に到達する確率(望遠鏡システムの有効面積に対応)は、選択的遮蔽ユニットを用いない場合に比べて、両確率の積である1/4程度に低下すると推定することができる。
図9のグラフは、入射角が大きい時にそのような推定が計算結果と一致することを示している。
【0031】
なお、例えば
図5aの第1スリット部材において通過阻止領域6aとスリット6bの大きさの比(扇形の中心角の比)を1:2とし、
図5bの第2スリット部材において通過阻止領域7aとスリット7bの大きさの比を2:1とし、
図4の矢印Aの方向から見て通過阻止領域6aとスリット7bが重なり、スリット6bと通過阻止領域7aが重なるよう、選択的遮蔽ユニットを構成してX線望遠鏡に取り付けた場合は、同様に考えれば、傾斜して入射するX線が第1スリット部材を通過する確率は平均的に2/3程度であり、第2スリット部材を通過する確率は平均的に1/3程度であると考えられ、したがってX線が検出面に到達する確率は、選択的遮蔽ユニットを用いない場合に比べて、両確率の積である2/9程度に低下すると推定できる。これに鑑みると、スリット部材を2つ用いる構成においては、各々の部材においてスリットが占める割合を概ね1/2にすることが、傾斜した観測対象電磁波に対する有効面積を大きくするためには有効であると考えられる。一般的には、n個のスリット部材を用いる場合、各々の部材の代表面においてスリットが占める割合は概ね(n−1)/nであることが、有効面積を大きくするためには好ましい。この場合、各々の部材の代表面において通過阻止領域が占める割合が概ね1/nとなることにより、n層全体として垂直入射成分を遮断できるし、スリットの占める割合の合計が一定(すなわち、通過阻止領域の占める割合の合計が一定)という束縛条件下で当該スリットの占める割合の積(有効面積に対応)を最大化するためには、当該スリットの占める割合を、異なる層間で全て等しくすべきだからである。
【0032】
選択的遮蔽ユニットにおいては、各スリット部材間の間隔を変更可能としてもよい。
図4のX線望遠鏡システムに対し、各スリット部材間の間隔を変更するための制御回路を取り付けたときの構成概略図を
図10に示す。第1,第2スリット部材6,7は、保持部材5に対して、
図10の矢印方向にそれぞれ移動可能となるように接続されており(保持部材5の内側にレールを設け、第1,第2スリット部材6,7がモータ制御によりレール上を移動する等、具体的構成は任意。)、コンピュータシステム等、任意の制御回路の制御によって移動し、第1,第2スリット部材間の間隔が変更される。
【0033】
スリット部材間の間隔が小さい時、大きい時のそれぞれについて、傾斜を有して入射したX線(Off−Axis成分)が第1,第2スリット部材を通過する様子を
図11a,
図11bに概念的に示す。図から明らかなとおり、スリット部材間の間隔を大きくすることにより、傾斜の小さなX線であっても両方のスリットを通過し得ることがわかる。したがって、
図9に示した計算機シミュレーションの条件として、第1,第2スリット部材間の間隔を更に大きくすれば、選択的遮蔽ユニットを用いる場合のグラフは立ち上がりが早くなる(より小さな傾斜角においても、有効面積比が0.25に近づく)と推定される。逆に、スリット部材間の間隔を小さくすれば、より傾斜の大きなX線であっても第1,第2スリット部材を通過できなくなり、すなわち上記代表面に対して傾斜した角度からの入射(有限距離の放射体からの入射)も効果的に阻止できると推定される。
【実施例3】
【0035】
以下、選択的遮蔽ユニットが3つのスリット部材を含む場合について説明する。この場合、
図4や
図10,
図12において層状に且つ間隔を空けて配置されていた第1,第2スリット部材6,7に加えて、第3スリット部材8が層状に且つ間隔を空けて配置される。
図5a,
図5bと同様に通過阻止領域及びスリットが扇形形状であるとしたとき、第1,第2,第3スリット部材6,7,8を
図4の矢印Aの方向から見た構成概略図を、
図13a,
図13b,
図13cにそれぞれ示す。
【0036】
第1スリット部材6においては、X線の通過を阻止する素材で形成される通過阻止領域6aと、X線が通過できるスリット(通過許容領域)6b−1,6b−2とが繰り返し形成されており、それぞれが等しい一定角度の扇形形状で形成されている。
図5aの構成とは異なり、1つの通過阻止領域6aの次には2つのスリット6b−1,6b−2が続く(スリット6b−1,6b−2は分離されていないため実際には1つの大きなスリットが形成されるが、便宜上2つのスリットとして数える。第2,第3スリット部材7,8においても同様。)。
【0037】
第2スリット部材7においても、第1スリット部材6と同様に、X線の通過を阻止する素材で形成される通過阻止領域7aと、X線が通過できるスリット(通過許容領域)7b−1,7b−2とが繰り返し形成されている。第2スリット部材7は、
図4の矢印Aの方向から見た時に、第1スリット部材6上のスリット6b−1と、第2スリット部材7上の通過阻止領域7aとが重なるように、互いに一部ずらして配置される。
【0038】
第3スリット部材8においても、第1,2スリット部材6,7と同様に、X線の通過を阻止する素材で形成される通過阻止領域8aと、X線が通過できるスリット(通過許容領域)8b−1,8b−2とが繰り返し形成されている。第3スリット部材8は、
図4の矢印Aの方向から見た時に、第1スリット部材6上のスリット6b−2と、第3スリット部材8上の通過阻止領域8aとが重なるように、互いに一部ずらして配置される。このような配置をとることにより、
図4の矢印Aの方向(
図13a,
図13b,
図13cに示す面として定義される選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向)から入射するX線は、第1,第2,第3スリット部材6,7,8の少なくともいずれかによって通過を阻止されることとなる。ただし、既に述べたとおり、各々のスリット部材における通過阻止領域とスリットの大きさとが等しい必要はなく、スリットをより細く、あるいは小さくしてもよい。扇形形状以外のスリットパターンをとる場合においても、同様に通過阻止領域1つに対してスリット2つ(実際には2つ分の大きさのスリット1つ)が続くよう各々のスリット部材を構成し、且つ3つのスリット部材におけるスリット位置が互いに一部ずれるよう配置すれば、代表面に垂直な方向からの入射成分を阻止できる(
図6a,
図6b,
図7a,
図7bのようなパターンのスリット部材においては、製造時点でスリットパターンを一部ずらしておく。)。
【0039】
3つのスリット部材を備えた選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向(本実施例においては光軸方向とする。)から入射したX線が第1,第2,第3スリット部材6,7,8によって通過を阻止される様子、及び、選択的遮蔽ユニットの代表面に対して傾斜した方向から入射したX線の一部が、第1,第2,第3スリット部材6,7,8を通過する様子を
図14に概念的に示す。
図8a,
図8bで示した2層構造の場合と同様に、3層構造の選択的遮蔽ユニットを用いても、選択的遮蔽ユニットの代表面に垂直な方向から入射したX線を完全に遮断しつつ、傾斜した方向からの(Off−Axis)X線を検出することが可能となる。既に述べたとおり、有効面積を大きくするためには、各々の部材の代表面においてスリットが占める割合は概ね(n−1)/nであることが好ましく、n=3の場合においてそのような構成をとる場合、各スリット部材の代表面においてスリットが2/3を占めることになる。この場合、各スリット部材をX線のOff−Axis成分が通過する確率は平均的には2/3程度と考えられ、したがって傾斜して入射したX線が検出面に到達する確率(望遠鏡システムの有効面積に対応)は、選択的遮蔽ユニットを用いない場合に比べて、2/3の3乗である8/27程度に低下すると推定することができる。これは2層構造の場合の1/4よりも大きく、有効面積を大きくするという観点ではスリット部材をより多く層状に配置すべきであることがわかる。ただし、層の数が増えることにより、層間でのずれ幅の微細な調整が必要となるので、必要とされる有効面積の大きさや加工技術の精度に応じて層の数は適宜選択すべきである。
【0040】
図9を用いて示した計算機シミュレーションに用いたものと同一設定のX線望遠鏡に、
図13a〜
図13cを用いて説明したスリット部材3つを備えた選択的遮蔽ユニットを取り付けてなるX線望遠鏡システムについて、入射角を変えつつX線を観測した時の有効面積を計算機シミュレーションで算出した。第1〜第3スリット部材においては、既に説明した配置に従い、中心角が0.1°(degree,度)の扇形形状の通過阻止領域と、中心角が0.2°(degree,度)の扇形形状のスリットが交互に形成されているとし、3つのスリット部材が互いに0.1°(degree,度)だけずれつつ(
図13a〜
図13c参照)、1000mm間隔で層状に配置されているとした。それ以外の条件は
図9で示したシミュレーションと同様である。
【0041】
図9で示したシミュレーションと同様の状況をモンテカルロ法によりシミュレーションし、同様に有効面積を導出した。選択的遮蔽ユニットがない場合と比較した結果を
図15のグラフに示す。
図15は2つのエリアに分かれているが、
図9と同様に横軸は共通であり入射角(代表面に垂直な方向からの傾斜角)を表わす(単位はarc min。1arc minは1/60°)。縦軸も
図9と同様であり、まず上側のエリアにおいては有効面積(単位は平方センチメートル、対数目盛表示)を表わし(一定数のX線を入射させた場合の、焦点面まで届いたX線の数に対応。)、選択的遮蔽ユニットを用いない望遠鏡システムのみの構成での計算結果と、選択的遮蔽ユニットを用いた望遠鏡システム(本発明のコロナグラフを備えた望遠鏡システム)での計算結果とがそれぞれグラフ化されている。
図15の下側エリアのグラフも、
図9と同様に、「(選択的遮蔽ユニットを用いた望遠鏡システムで計算した有効面積)/(望遠鏡システムのみの構成で計算した有効面積)」を無次元(対数目盛表示)で表わしたものである。
【0042】
図15のグラフからわかるとおり、選択的遮蔽ユニットをX線望遠鏡に取り付けた場合、垂直に近い方向に対しての有効面積は選択的遮蔽ユニットを用いない場合に比べて大きく低下するが、傾斜角が大きくなるにつれて、概ね選択的遮蔽ユニットを用いない場合の0.3倍弱で安定する。既に述べた検出面到達確率に鑑みれば、理論的には選択的遮蔽ユニットを用いることによって有効面積が8/27倍程度になると推定されるが、
図15のグラフは、入射角が大きい時にそのような推定が計算結果と一致することを示している。
【0043】
さらに、4層構造の選択的遮蔽ユニットを用いた場合についても同様の計算機シミュレーションを行った。計算条件は
図15で示したシミュレーションと同様である。ただし、4つのスリット部材はそれぞれ、中心角0.1°(degree,度)の扇形形状の通過阻止領域と、中心角0.3°(degree,度)の扇形形状のスリットが交互に形成される構造を有しており、各々のスリット部材は互いに0.1°(degree,度)だけずれつつ1000mm間隔で層状に配置されているとした。
【0044】
シミュレーション結果を
図16のグラフに示す。グラフの縦軸、横軸やエリア分割は
図9や
図15と同様である。選択的遮蔽ユニットをX線望遠鏡に取り付けた場合、垂直に近い方向に対しての有効面積は選択的遮蔽ユニットを用いない場合に比べて大きく低下するが、傾斜角が大きくなるにつれて、概ね選択的遮蔽ユニットを用いない場合の0.3倍強で安定する。既に述べた検出面到達確率に鑑みれば、理論的には選択的遮蔽ユニットを用いることによって有効面積が3/4の4乗、すなわち81/256倍程度になると推定されるが、
図16のグラフは、入射角が大きい時にそのような推定が計算結果と一致することを示している。