(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-188220(P2017-188220A)
(43)【公開日】2017年10月12日
(54)【発明の名称】エミッター及びX線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20170919BHJP
H01J 1/16 20060101ALI20170919BHJP
【FI】
H01J35/06 C
H01J1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-74377(P2016-74377)
(22)【出願日】2016年4月1日
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植木 雅敬
(72)【発明者】
【氏名】手塚 正彦
【テーマコード(参考)】
5C105
【Fターム(参考)】
5C105BC20
(57)【要約】
【課題】信頼性の高いエミッター及びX線管を提供する。
【解決手段】電子を放出する電子放出面13を有する基部15と、電子放出面13に電圧を印加する一対のレグ部17と、電子放出面の輪郭の少なくとも一部を構成しており、基部15の縁を電子放出面13と反対側に曲げて形成したリブ部19とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する電子放出面を有する基部と、
前記電子放出面に電圧を印加する一対のレグ部と、
前記電子放出面の輪郭の少なくとも一部において、基部の縁を電子放出面と反対側に曲げて形成したリブ部と、を備えるエミッター。
【請求項2】
電子を放出する電子放出面を有する基部と、
前記電子放出面に電圧を印加する一対のレグ部と、
前記電子放出面の輪郭の少なくとも一部において、前記基部から電子放出面と反対側面に突設したリブ部と、を備えるエミッター。
【請求項3】
前記基部には、前記電子放出面に電流経路を形成するスリットが形成してある請求項1又は2に記載のエミッター。
【請求項4】
前記スリットは、前記リブ部に亘って形成し前記リブ部を分断している請求項3に記載のエミッター。
【請求項5】
前記一対のレグ部は、前記電子放出面の前記輪郭の対向する部分に設けてあり、前記リブ部は前記レグ部間の左右に設けてあり、前記スリットは前記一対のレグ部間で、前記レグ部間の左右から交互に形成してある請求項4に記載のエミッター。
【請求項6】
前記電子放出面には放熱孔が形成してある請求項1〜5のいずれか一項に記載のエミッター。
【請求項7】
前記放熱孔は、前記リブ部がある位置に対応して設けてある請求項6に記載のエミッター。
【請求項8】
前記電子放出面の前記輪郭は矩形を成しており、矩形の対向する2辺に前記レグ部が設けてあり、他の2辺に一対の前記リブ部が設けてある請求項1〜7のいずれか一項に記載のエミッター。
【請求項9】
真空外囲器と、真空外囲器内に設けて電子を放出する陰極と、真空外囲器内に設けて前記陰極から放出された電子が衝突してX線を発生する陽極とを備え、前記陰極が請求項1〜8のいずれか一項に記載のエミッター有するX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エミッター及びそのエミッターを備えたX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子を放出する電子放出面を有する基部と、電子放出面に電圧を印加する一対のレグ部を有するエミッターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−232629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のエミッターでは、電子放出面が高温になる為、熱応力による変形が生じ、それによる強度低下や電子放出特性異常等のおそれがあり、信頼性に問題があった。
【0005】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、信頼性の高いエミッター及びX線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るエミッターは、電子を放出する電子放出面を有する基部と、前記電子放出面に電圧を印加する一対のレグ部と、前記電子放出面の輪郭の少なくとも一部において、基部の縁を電子放出面と反対側に曲げて形成したリブ部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施の形態にかかるエミッターであって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図2】
図2は、第1実施の形態にかかるエミッターを用いたX線管の概略的構成を示した正面図である。
【
図3】
図3は、第2実施の形態にかかるエミッターの正面図である。
【
図4】
図4は、第3実施の形態にかかるエミッターの正面図である。
【
図5】
図5は、変形例にかかるエミッターの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
図1及び
図2を参照して、第1実施形態に係るX線管1を説明する。
【0010】
図2に示すように、X線管1は、真空外囲器3と、真空外囲器3内に設けて電子を放出する陰極5と、真空外囲器3内に設けて陰極5から放出された電子が衝突してX線を発生する陽極7とを備えている。このX線管1は回転陽極型X線管であり、陽極7は回転機構8により回転軸TAを回転軸として、陽極ターゲット9を回転する。陰極5は、陰極支持体6に支持されており、高電圧で生成される電子ビーム(電子)を陽極ターゲット9に向けて射出するものであり、エミッター11が設けてある。
【0011】
図1に示すように、エミッター11は、電子を放出する電子放出面13を有する基部15と、電子放出面13に電圧を印加する一対のレグ部17、17と、基部15の縁を電子放出面と反対側に曲げて形成したリブ部19とを備えている。
【0012】
基部15は、厚さ1mm以下で真空中での蒸気圧の低い高融点金属、例えばタングステン、又はタングステンを主成分とする合金板である。電子放出面13は本実施の形態では、全体として略長方形の平坦面としてある。基部15の厚みは、例えば、0.2〜0.6mmである。
【0013】
一対のレグ部17、17は、全体として略長方形を成す電子放出面13の対向する短辺で、電子放出面13と反対側に突出して設けてある。
【0014】
リブ部19は、全体として略長方形を成す電子放出面13において、対向する長辺(レグ部17、17間の左右の辺)で、基部15の縁を電子放出面13と反対側に曲げて形成している。この実施の形態では、リブ部19は電子放出面13と反対側に90度の角度で折り曲げてある。リブ部19は、後述するスリット21により分断されており、長辺の長手方向に間隔をあけて設けている。
【0015】
電子放出面13には、ジグザグの電流経路23を形成するスリット21が形成されている。スリット21は、電子放出面13の対向する長辺に直交するように左右から交互に且つリブ部19を分断して形成している。これにより、ジグザグに連続した電流経路23が形成され、ジグザグの電流経路23が反転する反転部23aにリブ部19が位置している。スリット21の先端21aは円弧状を成している。
【0016】
反転部23aには放熱孔25が形成されている。この放熱孔25は反転部23aにおいてリブ部19に対応する位置に形成されている。放熱孔25は電子放出面13の長辺に沿う長孔としてある。放熱孔25の長手方向端25aは円弧状を成している。
【0017】
第1実施形態にかかるエミッター11の作用及び効果について説明する。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態にかかるエミッター11によれば、レグ部17、17間に電圧を印加すると、電流経路23を流れる電流により、電子放出面13でジュール発熱し、電子放出面13より熱電子を放出する。
【0019】
電子放出面13は、スリット21によりジグザクの電流経路23が形成してあるので、低い電流でも十分な発熱が得られる。
【0020】
一般に、電子放出面13は、ジュール熱により高温(例えば、2400℃〜2700℃)となり、熱膨張により変形するおそれがある。特に、通電による温度上昇と冷却との繰り返しにより応力が繰返し発生し、疲労破壊が発生する可能性がある。また、強度不足により変形や反りが発生し、収束電極(図示せず)との適正な距離が変化し、電子放出面13から放出された電子が意図した形状に収束しなくなるおそれがある。
【0021】
これに対して、本実施の形態にかかるエミッター11では、リブ部19を設けているのでエミッター11全体の強度を高めることができ、熱応力による変形を低減することができる。特に、基部15はその形状を維持することができ、熱応力による変形でX線焦点寸法が規格外となったり、使用中に電子分布が変化する問題を低減できる。更に、強度不足による振動や衝撃により、エミッター11が破損したり、収束電極に接触して電子放出特性が異常になることを防止できるから、本実施の形態によれば、信頼性の高いエミッター11及びX線管1を提供できる。
【0022】
リブ部19は、基部15を電子放出面13と反対側に折り曲げて形成しているので、電子放出面13の端面が陽極側を向かなくなり、端面からの意図しない電界放出を抑制することで、放電を防止できる。
【0023】
電子放出面13には、放熱孔25が形成してあるので、電子放出面13と、リブ部19との熱抵抗と電気抵抗を制御でき、リブ部19に電子放出面13から熱が逃げたり、電流が逃げて必要な温度に上昇させるための電流値が増加する事を抑制し、電子放出に寄与しないリブ部19で無駄な電力が消費される事を抑制できる。
【0024】
リブ部19には、放熱孔25により電気抵抗値が上昇するため電流が多く流れず、また電子放出面13から熱が伝導しにくいため、リブ部19の温度が上昇し難い。このため、熱変形量を少なくでき、エミッター11全体が熱膨張でアーチ状に変形する事を抑制し、収束電極との距離の変化で、陽極ターゲット9上に収束される電子流の分布が変化する事を抑制可能となる。
【0025】
また、リブ部19により、電圧印加による温度上昇で結晶が粗大化し脆くなり易い電子放出面13を、側面から保持する事で、エミッター11全体の強度を維持し、振動や衝撃でエミッター全体が折れて破損する事を防止できる。
【0026】
本実施の形態にかかるエミッター11は、基部15の縁を折り曲げてリブ部19を形成し、平面視矩形の電子放出面13に直線状のスリット21を形成するだけであるから、プレス成形等により、簡単に且つ安価に製造できる。
【0027】
以下に、他の実施の形態を説明するが、以下に説明する実施形態において、上述した一実施形態と同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付することによりその部分の詳細な説明を省略し、以下の説明では一実施形態と主に異なる点を説明する。
【0028】
図3に第2実施の形態にかかるエミッター11を示す。この第2実施の形態では、リブ部19は、電子放出面13の輪郭部(縁部)において、基部15から電子放出面13と反対側に突設して輪郭の内側の厚みTよりも厚い厚みHとしてある。その他の構成は、第1実施の形態と同様である。
【0029】
リブ部19は、電子放出面13を有する基部15と同じ素材で電子放出面13の縁部の厚みHを厚くしている。
【0030】
この第2実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に、リブ部19がエミッター11の強度を高めることができるから、第1実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0031】
更に、リブ部19は基部15の縁の肉厚を厚くするだけなので、折り曲げて形成する第1実施の形態に比較して製造が容易である。
【0032】
図4に第3実施の形態にかかるエミッター11を示す。この第3実施の形態では、リブ部19は、基部15の縁を電子放出面13と反対側に曲げて形成しているが、曲げ部分を湾曲部27としている。その他の構成は、第1実施の形態と同様である。
【0033】
この第3実施の形態によれば、第1実施の形態と同様の作用効果を奏することができると共に、リブ部19と電子放出面13との間を湾曲部27により湾曲にしてあり、角が形成されていないので、曲げ部からの放電を抑制することができる。
【0034】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0035】
例えば、第1〜第3実施の形態において、放熱孔25の形状は限定されず、
図5に示すように、丸孔としても良いし、反転部23aに複数形成しても良い。
【0036】
第1及び第3実施の形態において、リブ部19はその全体を湾曲した形状としても良い。また、リブ部19は電子放出面13と反対側に突出していれば良くその突出長さは限定されない。
【0037】
第2実施の形態において、リブ部19は基部15と異なる材質のもので構成しても良い。
【0038】
第1〜第3実施の形態において、電子放出面13は、平坦面にすることに限らず、任意の曲率を持った面としても良い。
【0039】
第1〜第3実施の形態において、スリット21は、少なくとも1つあればよく、その数は限定されないし、スリット21の形状も、直線状であることに限らず、湾曲していたり、斜めに形成しても良い。
【0040】
X線管1は、回転陽極型X線管に限らず、固定陽極型X線管であっても良い。また、エミッター11は電子放出源として用いるものであれば、X線管に限らず、他の電子機器に用いるものであっても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…X線管、11…エミッター、13…電子放出面、15…基部、17…レグ部、19…リブ部、21…スリット、23…電流経路、25…放熱孔。