【解決手段】実施形態に係る電子銃構体は、支持筒と、前記支持筒と着脱自在に設けられ、少なくとも、カソードと、前記カソードの電子放射面側とは反対側に設けられたヒータと、を有するカソードユニットと、前記カソードユニットの前記カソード側に設けられたアノードと、前記カソードユニットと、前記アノードと、の間に設けられたグリッドと、を備えている。
前記接続用端子は、モリブデン、タングステン、ステンレス、鉄、白金、タンタル、ニオブ、レ二ウム、コバールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子銃構体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本実施の形態に係る電子銃構体1を例示するための模式断面図である。
図2は、
図1中のA部の模式拡大図である。
電子銃構体1は、例えば、IOT(誘導出力増幅管)などの直線ビームを用いる電子管に用いることができる。
ただし、電子銃構体1の用途は、IOTに限定されるわけではない。
図1に示すように、電子銃構体1には、カソードユニット10、グリッド12、アノード13、ウェーネルト電極14、支持筒18、ヒータ端子20、絶縁筒24、およびカソード支持体25が設けられている。
【0011】
まず、カソードユニット10について説明する。
後述するように、カソードユニット10は、支持筒18に対して着脱自在に設けられている。
カソードユニット10は、カソード11、ヒータ15、カソードスリーブ16、フランジ部17、接続用端子19、および絶縁部21を有する。
カソード11は、電子(熱電子)を放出する。
カソード11は、板状を呈し、グリッド12側とは反対側に突出するように湾曲している。
カソード11の平面形状は、例えば、円形とすることができる。
この場合、カソード11の直径寸法は、例えば、40mm程度とすることができる。
カソード11のグリッド12側の面は、電子放射面11aとなっている。電子放射面11aは、所定の曲率を有する凹状の曲面となっている。
【0012】
また、カソード11は、例えば、含浸型カソードとすることができる。
カソード11が含浸型カソードである場合には、カソード11は、例えば、ポーラスタングステンからなる基体に電子放射物質を含浸することで形成することができる。
この場合、ポーラスタングステンの気孔率は、例えば、20%程度とすることができる。
電子放射物質としては、例えば、酸化バリウム、酸化カルシウム、および酸化アルミニウムからなる金属酸化物を用いることができる。
【0013】
電子放射面11aには、イリジウム金属薄膜、あるいはオスミウム−ルテニウム合金薄膜が設けられている。イリジウム金属薄膜、あるいはオスミウム−ルテニウム合金薄膜は、例えば、スパッタリング法を用いて形成することができる。イリジウム金属薄膜、あるいはオスミウム−ルテニウム合金薄膜を設けるようにすれば、電子放射面11aの仕事関数を低減させることができる。
【0014】
ヒータ15は、カソードスリーブ16、カソード11、およびフランジ部17により画された空間に設けられている。
ヒータ15は、カソード11の電子放射面11a側とは反対側に設けられている。
ヒータ15は、ジュール熱を発生させる。ヒータ15は、発生させた熱によりカソード11を加熱する。
ヒータ15は、例えば、タングステン線や、レニウム−タングステン合金線などから形成することができる。
ヒータ15は、例えば、直径寸法が1mm程度のタングステン線から形成することができる。
ヒータ15は、リード15a、リード15b、および発熱部15cを有する。
リード15aは、発熱部15cと一体に形成されている。リード15aの発熱部15c側とは反対側の端部は、接続用端子19と電気的に接続される。
リード15bは、発熱部15cと一体に形成されている。リード15bの発熱部15c側とは反対側の端部は、フランジ部17と電気的に接続される。
【0015】
カソードスリーブ16は、円筒状を呈している。
カソードスリーブ16の一方の端部の内面には、カソード11の外周端面が接合されている。カソードスリーブ16の他方の端部の内面には、フランジ部17の外周端面が接合されている。
例えば、高融点金属を用いたロー付けにより、カソードスリーブ16とカソード11、および、カソードスリーブ16とフランジ部17を接合することができる。高融点金属は、例えば、モリブデン−ルテニウム−ニッケル合金などである。
カソードスリーブ16は、例えば、モリブデンや、レニウム−モリブデン合金などから形成することができる。
【0016】
フランジ部17は、円板状を呈している。フランジ部17は、導電性を有する。フランジ部17は、カソードスリーブ16の、カソード11が接合される側とは反対側の端部に接合されている。フランジ部17は、例えば、モリブデンや、レニウム−モリブデン合金などから形成することができる。
【0017】
図2に示すように、フランジ部17にはネジ孔17aが設けられている。ネジ孔17aは、フランジ部17を貫通している。ネジ孔17aは、複数設けられている。複数のネジ孔17aは、フランジ部17の円周方向に均等に配置することができる。ネジ孔17aは、カソードユニット10を支持筒18に固定するために設けられている。そのため、カソードユニット10は、支持筒18に対して着脱自在に設けることができる。
【0018】
また、フランジ部17には取付け孔17bが設けられている。取付け孔17bは、フランジ部17を貫通している。取付け孔17bには、リード15bの端部が挿入されている。フランジ部17には、ヒータ15のリード15bが接合される。例えば、高融点金属を用いたロー付けにより、取付け孔17bに挿入されたリード15bの端部と、フランジ部17とを接合することができる。高融点金属は、例えば、モリブデン−ルテニウム−ニッケル合金などである。
【0019】
また、フランジ部17には取付け孔17cが設けられている。取付け孔17cは、フランジ部17を貫通している。取付け孔17cには、絶縁部21が挿入されている。例えば、高融点金属を用いたロー付けにより、取付け孔17cに挿入された絶縁部21と、フランジ部17とを接合することができる。高融点金属は、例えば、モリブデン−ルテニウム−ニッケル合金などである。なお、絶縁部21はセラミックスなどから形成される。そのため、ロー付けをし易くするために、絶縁部21の外側面には金属膜が形成されている。金属膜は、例えば、メタライズ法などにより形成することができる。
【0020】
接続用端子19は、導電性を有する。接続用端子19には、ネジ孔19aが設けられている。ネジ孔19aは、接続用端子19を貫通している。ネジ孔19aには、ヒータ端子20の一方の端部に設けられたネジ部20aがねじ込まれている。すなわち、接続用端子19には、ヒータ端子20に設けられたネジ部20aに適合するネジ孔19aが設けられている。
また、接続用端子19には、取付け孔19bが設けられている。取付け孔19bは、接続用端子19を貫通している。取付け孔19bには、リード15aの端部が挿入されている。接続用端子19には、ヒータ15のリード15aが接合される。例えば、高融点金属を用いたロー付けにより、取付け孔19bに挿入されたリード15aの端部と、接続用端子19とを接合することができる。高融点金属は、例えば、モリブデン−ルテニウム−ニッケル合金などである。
接続用端子19は、モリブデン、タングステン、ステンレス、鉄、白金、タンタル、ニオブ、レ二ウム、コバールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0021】
絶縁部21は、フランジ部17と接続用端子19との間に設けられている。
絶縁部21には、取付け孔21aが設けられている。取付け孔21aは、絶縁部21を貫通している。取付け孔21aには、接続用端子19が挿入されている。例えば、高融点金属を用いたロー付けにより、取付け孔21aに挿入された接続用端子19と、絶縁部21とを接合することができる。高融点金属は、例えば、モリブデン−ルテニウム合金などである。なお、絶縁部21はセラミックスなどから形成される。そのため、ロー付けをし易くするために、取付け孔21aの内面には金属膜が形成されている。金属膜は、例えば、メタライズ法などにより形成することができる。
絶縁部21は、耐熱性と、絶縁性を有する材料から形成されている。絶縁部21は、例えば、セラミックスなどから形成することができる。
【0022】
次に、
図1に戻って、電子銃構体1に設けられた他の要素について説明する。
グリッド12は、カソードユニット10とアノード13との間に設けられている。グリッド12は、カソード11とアノード13の相互作用領域に設けられている。
グリッド12の平面形状は、例えば、円形とすることができる。
グリッド12と電子放射面11aとの間には、数十μmないし数百μmの隙間が設けられている。
グリッド12は、内周部と外周部を有する。グリッド12の内周部は、例えば、編み目状を呈し、電子を通過させる複数の開口部を有している。グリッド12の内周部は、電子放射面11aに沿うように湾曲している。グリッド12の外周部は、内周部を囲むように設けられ、ビームを通過させる開口部を有していない。
【0023】
グリッド12は、耐熱性と導電性を有する材料から形成されている。グリッド12は、例えば、パイロリティック・グラファイト(PG;Pyrolytic Graphite)などから形成することができる。なお、グリッド12は、モリブデン、レニウム−モリブデン合金、タンタル、ニオブ、タングステンなどの高融点金属およびこれらの合金から形成することもできる。
【0024】
グリッド12は、ウェーネルト電極14と電気的に接続されている。
また、グリッド12は、カソードユニット10と接合することもできる。例えば、高融点金属を用いたロー付けにより、グリッド12の外周部とカソードスリーブ16の外側面とを接合することができる。高融点金属は、例えば、モリブデン−ルテニウム合金などである。
グリッド12とカソードユニット10を接合すれば、グリッド・カソード一体型構造体を構成することができる。
【0025】
アノード13は、カソード11と対峙させて設けられている。アノード13は、カソードユニット10のカソード側に設けられている。アノード13は、カソード11の電子放射面11a側に設けられている。アノード13は、中央部分を貫通する孔部を有している。
例えば、電子銃構体1、図示しないドリフト管、および図示しないコレクタを有するIOTの場合には、アノード13は、図示しないドリフト管に設けることができる。
【0026】
ウェーネルト電極14は、円筒状を呈している。
ウェーネルト電極14は、例えば、非磁性のステンレスやモリブデンなどから形成することができる。
ウェーネルト電極14の一方の端部の近傍には、カソード11とグリッド12が設けられている。
【0027】
支持筒18は、円筒状を呈している。支持筒18の、カソードユニット10側の端部には取り付け座18aが設けられている。取り付け座18aの、ネジ孔17aに対応する位置には、ネジ22を挿入する孔が設けられている。取り付け座18aの中央には孔が設けられ、孔の内部に接続用端子19および絶縁部21が露出している。そのため、取り付け座18aの中央に設けられた孔を介して、接続用端子19に設けられたネジ孔19aにヒータ端子20のネジ部20aをねじ込むことができる。
【0028】
カソードユニット10は、ネジ22により支持筒18に取り付けられている。そのため、カソードユニット10を支持筒18から取り外す際には、ネジ22を緩めるようにする。カソードユニット10を支持筒18に取り付ける際には、カソードユニット10を支持筒18に載せた状態でネジ22を締め付ける。
【0029】
支持筒18の、カソードユニット10側とは反対側の端部の近傍は、カソード支持体25と溶接されている。
支持筒18は、例えば、モリブデンなどから形成することができる。
【0030】
ヒータ端子20は、柱状を呈している。
ヒータ端子20は、支持筒18の内部を軸方向に延びている。
ヒータ端子20の一方の端部には、ネジ部20aが設けられている。ネジ部20aは、接続用端子19のネジ孔19aにねじ込まれる。ヒータ端子20は、例えば、モリブデンやタングステンなどから形成することができる。
ネジ部20aをネジ孔19aにねじ込むことで、接続用端子19を介して、ヒータ端子20とヒータ15のリード15aとが電気的に接続される。
【0031】
絶縁筒24は、外観が円錐台状の筒体とすることができる。
絶縁筒24の一端はウェーネルト電極14と接合されている。絶縁筒24の他端は、カソード支持体25と接合されている。
【0032】
例えば、貴金属を用いたロー付けにより、絶縁筒24とウェーネルト電極14、および、絶縁筒24とカソード支持体25を接合することができる。貴金属は、例えば、金ロー、銀ローなどである。
なお、絶縁筒24はセラミックスなどから形成される。そのため、ロー付けをし易くするために、絶縁筒24の両端には金属膜が形成されている。金属膜は、例えば、メタライズ法などにより形成することができる。
絶縁筒24は、耐熱性と、絶縁性を有する材料から形成されている。
絶縁筒24は、例えば、セラミックスなどから形成することができる。
【0033】
カソード支持体25は、円筒状を呈している。
カソード支持体25は、金属などの導電性材料から形成されている。
【0034】
次に、電子銃構体1の作用について説明する。
カソード11には、カソード支持体25、支持筒18、フランジ部17およびカソードスリーブ16を介して、図示しない電源から所定の負の直流電圧が印加される。
アノード13には、図示しない電源から所定の正の直流電圧が印加される。
グリッド12には、ウェーネルト電極14を介して、図示しないバイアス電源から直流の負のバイアス電圧が印加される。
【0035】
ヒータ15には、図示しない加熱電源から所定の電力が印加される。
図示しない加熱電源には、ヒータ端子20、接続用端子19、ヒータリード15aを介して発熱部15cの一端が電気的に接続されている。
また、図示しない加熱電源には、カソード支持体25、支持筒18、フランジ部17およびリード15bを介して発熱部15cの他端が電気的に接続されている。
【0036】
発熱部15cに印加された電力により、発熱部15cにおいてジュール熱が生じる。
発生したジュール熱によりカソード11が加熱される。
真空中において、カソード11が加熱されると、カソード11から電子が放出される。 カソード11から放出された電子は、グリッド12によりグリッド12を通過する量が制御される。
グリッド12を通過した電子は、アノード13により加速される。
【0037】
以上に説明したように、カソードユニット10においては、カソード11、ヒータ15、カソードスリーブ16、フランジ部17、接続用端子19、および絶縁部21が一体的に設けられている。また、カソードユニット10は、支持筒18に対して着脱自在に設けられている。
そのため、カソード11またはヒータ15を交換する必要が生じた場合には、カソードユニット10を支持筒18から取り外し、新しいカソードユニット10を支持筒18に取り付ける様にすることができる。
また、ヒータ15のリード15aは接続用端子19と接合され、ヒータ15のリード15bはフランジ部17と接合されている。そのため、カソードユニット10の交換時に、リード15aおよびリード15bが折れたり、曲がったりすることがない。
【0038】
支持筒18の内部にヒータ15のリード15aを挿入し、リード15aとヒータ端子20を溶接などで接合するのは困難である。また、リード15aとヒータ端子20を溶接などで接合すれば、過溶融による脆化や痩せ、あるいは、溶融不足による接合強度の低下などが生じ易く、断線が生じるおそれが高くなる。
【0039】
接続用端子19に設けられたネジ孔19aにヒータ端子20のネジ部20aがねじ込まれることで、ヒータ15とヒータ端子20とが電気的に接続される。そのため、カソードユニット10の取り付け(ヒータ15とヒータ端子20の電気的な接続)、およびカソードユニット10の取り外しが容易となる。なお、ヒータ端子20は、リード15aに比べて剛性が高いので、カソードユニット10の交換時に、ヒータ端子20が折れたり、曲がったりするおそれは低い。
【0040】
また、カソードユニット10は、ウェーネルト電極14や支持筒18などとは別に組み立てることができるので、カソードユニット10の組立作業が容易となる。
【0041】
図3は、他の実施形態に係る接続用端子19および絶縁部21を例示するための模式断面図である。
図2に例示をしたものの場合には、高融点金属を用いたロー付けにより、取付け孔21aに挿入された接続用端子19と、絶縁部21とを接合している。
また、高融点金属を用いたロー付けにより、取付け孔17cに挿入された絶縁部21と、フランジ部17とを接合している。
【0042】
これに対し、
図3に例示をしたものの場合には、接続用端子19の外側面にネジ部19cを設けている。
そして、絶縁部21には、接続用端子19の外側面に設けられたネジ部19cに適合するネジ孔21bが設けられている。ネジ孔21bは、前述した取付け孔21aに代えて設けられている。
また、絶縁部21の外側面にネジ部21cを設けている。
そして、フランジ部17には、絶縁部21の外側面に設けられたネジ部21cに適合するネジ孔17dが設けられている。ネジ孔17dは、前述した取付け孔17cに代えて設けられている。
【0043】
この様にすれば、接続用端子19および絶縁部21の取り付け、取り外しが容易となる。そのため、カソードユニット10の組立作業における作業効率を向上させることができる。
【0044】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。