【実施例】
【0043】
(実施例1)
Li含有酸化珪素粉末の製造原料である酸化珪素粉末にLiドープを行った。原料酸化珪素粉末は、析出法で製造された非晶質のSiO
C粉末(C=1)であり、平均粒径は4.9μmであった。原料酸化珪素粉末に混合する粉末リチウム源としてはLiH粉末を選択した。
【0044】
そして、原料酸化珪素粉末と粉末リチウム源であるLiH粉末とを1:0.4のモル比で混合して熱処理した。熱処理条件はアルゴン雰囲気、圧力1atm、反応温度600℃、反応時間1440minとした。
【0045】
次いで、Liドープ後のLi含有酸化珪素粉末、すなわちP処理前のLi含有酸化珪素粉末をP含有材料と反応させた。具体的には、製造されたLi含有酸化珪素粉末10gをベース材料としてガラス製ビーカーに入れ、そのビーカー内でP含有材料であるリン酸(85wt%)1g及び溶媒であるエタノール50mlと混合し、マグネチックスターラーで2時間攪拌して反応させた後にろ過し乾燥した。
【0046】
P処理後のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
xO
yP
z)をICP発光分光法および赤外線吸収法により調べた。x=0.37、y=1.08、z=0.04であり、z/x=0.11、x−3z=0.25、y−4z=0.92であるので、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足した。
【0047】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P1/B1=0.4(>0.03)であり、粉末中にLi
3PO
4が存在することが確認された。
【0048】
また、回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2を調べた。P2/B2=0.07(≦0.3)であり、当該粉末においてはSiの結晶性が低いことも確認された。
【0049】
このときのX線回折チャートを
図1に示す。回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来のピークも明瞭に認められる。
【0050】
(実施例2)
実施例1で使用したのと同じP処理前のLi含有酸化珪素粉末を、P含有材料である酸化リン(P
2O
5)と反応させた。具体的には、P処理前のLi含有酸化珪素粉末10gをP
2O
50.5gと混合し、P
2O
5の昇華点より高い400℃で120min熱処理した。P
2O
5の融点は340℃、昇華点は360℃である。
【0051】
P処理後のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
XO
YP
Z)を同様に調べた。x=0.40、y=1.07、z=0.03であり、z/x=0.08、x−3z=0.31、y−4z=0.95で、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足した。
【0052】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P1/B1=0.3(>0.03)であり、粉末中にLi
3PO
4が存在することが確認された。また、回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来の回折ピークも明瞭に認められた。
【0053】
また、回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2を調べた。P2/B2=0.08(≦0.3)であり、当該粉末においてはSiの結晶性が低いことも確認された。
【0054】
(実施例3)
実施例1で使用した原料酸化珪素粉末、すなわち析出法で製造された非晶質のSiO
C粉末(C=1,平均粒径4.9μm)に予めCコート処理を行った。Cコート処理後の原料酸化珪素粉末を燃焼赤外線吸収法に供したところ、重量比で1.1%の導電性炭素皮膜が形成されていることが確認された。
【0055】
Cコート処理後の原料酸化珪素粉末と粉末リチウム源であるLiH粉末とを1:0.6のモル比で混合して熱処理した。熱処理条件は実施例1と同じアルゴン雰囲気、圧力1atm、反応温度600℃、反応時間1440minとした。
【0056】
製造されたP処理前のLi含有酸化珪素粉末を、実施例1と同じ方法及び条件で、P含有材料であるリン酸と反応させた。P処理後のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
XO
YP
Z)を同様に調べた。x=0.40、y=1.07、z=0.03であり、z/x=0.08、x−3z=0.31、y−4z=0.95であるので、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足した。
【0057】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P1/B1=0.3(>0.03)であり、粉末中にLi
3PO
4が存在することが確認された。また、回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来の回折ピークも明瞭に認められた。
【0058】
また、回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2を調べた。P2/B2=0.08(≦0.3)であり、当該粉末においてはSiの結晶性が低いことも確認された。
【0059】
(比較例1)
実施例1において得られたP処理前のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
XO
YP
Z)を同様に調べた。x=0.39、y=0.98、z=0であり、z/x=0、x−3z=0.39、y−4z=0.98であるので、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足しない。すなわち、P量に対応するz/xが0と過少である。
【0060】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P処理を受けていないために、P1/B1=0(>0.03)であり、粉末中にLi
3PO
4は確認されなかった。
【0061】
このときのX線回折チャートを
図2に示すが、回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来の回折ピークは明瞭に認められた。また、Li
2Si
2O
5由来の回折ピークも明瞭に認められた。
【0062】
なお、回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2を調べたところ、P2/B2=0.07(≦0.3)であり、当該粉末においてもSiの結晶性が低いことは確認された。
【0063】
(比較例2)
実施例3において得られたP処理前のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
xO
yP
z)を同様に調べた。x=0.58、y=1.02、z=0であり、z/x=0、x−3z=0.58、y−4z=1.02であるので、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足しない。すなわち、P量に対応するz/xが0と過少である。
【0064】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P処理を受けていないために、P1/B1=0(>0.03)であり、粉末中にLi
3PO
4は確認されなかった。一方、回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来の回折ピークは明瞭に認められた。また、Li
2Si
2O
5由来の回折ピークも明瞭に認められた。
【0065】
回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2については、P2/B2=0.07(≦0.3)であり、当該粉末においてもSiの結晶性が低いことは確認された。
【0066】
(比較例3)
実施例1において、P処理に使用したエタノール50mlを水50mlに変更した。すなわち、P処理前のLi含有酸化珪素粉末10gをベース材料としてガラス製ビーカーに入れ、そのビーカー内でリン酸(85wt%)1g及び水50mlと混合し、マグネチックスターラーで2時間攪拌して反応させた後にろ過し乾燥した。P処理は酸洗処理を兼ねる。他の条件は実施例1と同じとした。
【0067】
酸洗処理を兼ねるP処理後のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
xO
yP
z)を同様に調べた。x=0.15、y=1.12、z=0.04であり、z/x=0.27、x−3z=0.03、y−4z=0.96であるので、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足しない。すなわち、P量に対応するz/xが0.27(≧0.25)と過大であり、かつLi量に対応するx−3zが0.03(≦0.1)と過少である。
【0068】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P1/B1=0.7(>0.03)であり、Li
3PO
4由来の回折ピークは確認された。しかし、回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来の回折ピークはほぼ消失していた。
【0069】
回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2については、P2/B2=0.07(≦0.3)であり、当該粉末においてもSiの結晶性が低いことは確認された。
【0070】
(比較例4)
実施例1において、P処理を酸洗処理に変更した。すなわち、P処理前のLi含有酸化珪素粉末10gをベース材料としてガラス製ビーカーに入れ、そのビーカー内でクエン酸2g及び水50mlと混合し、マグネチックスターラーで2時間攪拌して反応させた後にろ過し乾燥した。他の条件は実施例1と同じとした。
【0071】
P処理に代わる酸洗処理後のLi含有酸化珪素粉末の組成(SiLi
xO
yP
z)を同様に調べた。x=0.07、y=1.00、z=0であり、z/x=0、x−3z=0.07、y−4z=1.00であるので、0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5を満足しない。すなわち、P量に対応するz/xが0と過少であり、かつLi量に対応するx−3zが0.07(≦0.1)と過少である。
【0072】
当該Li含有酸化珪素粉末にCuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θ=23.3°付近に表れるLi
3PO
4由来の回折ピーク強度P1の、バックグラウンド強度B1に対する比P1/B1を調べた。P1/B1=0(>0.03)であり、Li
3PO
4由来の回折ピークは確認されなかった。回折角2θ=18.9°付近等に表れるLi
2SiO
3由来の回折ピークもほぼ消失していた。
【0073】
回折角2θ=47.4付近に表れるSi由来の回折ピーク強度P2の、バックグラウンド強度B2に対する比P2/B2については、P2/B2=0.07(≦0.3)であり、当該粉末においてもSiの結晶性が低いことは確認された。
【0074】
(電池性能試験)
実施例1〜3及び比較例1〜4において製造されたLi含有酸化珪素粉末に対して次の手順で電池性能試験を実施した。
【0075】
製造されたLi含有酸化珪素粉末と、非水系(有機系)バインダーであるPIバインダーと、導電助材であるKBとを80:15:5の重量比で混合し、有機系のNMPを溶媒として混練してスラリーとした。作製したスラリーを銅箔上に塗工し、350℃で30min真空熱処理することで負極とした。この負極と対極(Li箔)と電解液(EC:DEC=1:1)と電解質(LiPF
61mol/L)とセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム30μm厚)とを用いてコインセル電池を作製した。
【0076】
作製されたコインセル電池に充放電試験を実施した。充電は、電池の両極間の電圧が0.05vに達するまでは0.5Cの定電流で行い、電圧が0.05Vに達した後は電流が0.01Cになるまで定電位充電で行った。放電は、電池の両極間の電圧が1.5Vに達するまで0.1Cの定電流で行った。以上の充放電試験は50サイクル行った。
【0077】
この充放電試験により、初期充電容量、及び初期放電容量を測定して、初期効率を求めた。また、サイクル特性として、この充放電試験を50サイクル行い、50サイクル後の放電容量維持率を求めた。試験結果を負極材用酸化珪素粉末の仕様(Li量、Cコートの有無、Liドープ前の処理方法、Li
3PO
4の有無、Li
2SiO
3の有無、並びにx、y及びzの各値、z/x、x−3z及びy−4zの各値)と共に表1及び表2に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
実施例1〜3のいずれにおいても、負極材用酸化珪素粉末がSiLi
xO
yP
z(0.01<z/x<0.25且つ0.1<x−3z<y−4z<1.5)を満足することにより、その粉末中にLi
3PO
4が存在し、Li
2SiO
3と共存する。有機系バインダーを使用していることもあり、電池性能の一つである初期効率が70%を超える。また、サイクル特性も50サイクル後の容量維持率で60%を超える。
【0081】
これに対し、比較例1では、粉末がP処理を受けていなために、P量に対応するz/xが0と過少となり、Li
3PO
4が存在しない。バインダーが有機系であるにもかかわらず、そのバインダー等と粉末が反応し、初期効率が29.7%と非常に低く、50サイクル後の容量維持率も1.6%と非常に悪い。これは粉末が負極材として機能していないためである。
【0082】
比較例2では、粉末がP処理を受けていなために、P量に対応するz/xが0と過少であるが、Cコートにより電池性能が改善され、初期効率は高くなっている。しかし、50サイクル後の容量維持率は11.1%と依然として非常に低い。これは比較例1と同様に粉末がバインダー等と反応しているためと考えられる。
【0083】
比較例3及び4では、Liドープ後の粉末が水により処理されたため、粉末中のLiが水との反応、溶出により大きく減少し、Li量に対応するx−3zがそれぞれ0.03、0.07と過少となった。その結果、初期効率が70%未満と低い。
【0084】
Liドープ後の水による処理は、比較例3ではP処理を兼ねる酸洗処理(リン酸による酸洗処理)であり、比較例4では純然たる酸洗処理(クエン酸による酸洗処理)である。比較例3では、P処理によりP量に対応するz/xが0.27(≧0.25)と過大になり、Li
3PO
4が多く存在するものの、水溶液中ではLi
3PO
4が偏析するために、電池性能、特にサイクル特性が3.6%と比較例4より極端に低い。比較例4での純然たる酸洗処理は、初期効率が69.7%、サイクル特性が60.4%をそれぞれ示し、電池性能の改善に比較的効果的である。