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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-189778(P2017-189778A)
(43)【公開日】2017年10月19日
(54)【発明の名称】多段圧延機の蛇行制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/58 20060101AFI20170922BHJP
   B21B 37/68 20060101ALI20170922BHJP
【FI】
   B21B37/58 BBBK
   B21B37/68 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-78602(P2016-78602)
(22)【出願日】2016年4月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】藤村 崇
(72)【発明者】
【氏名】岡村 義英
(72)【発明者】
【氏名】堂前 行宏
【テーマコード(参考)】
4E024
【Fターム(参考)】
4E024BB18
4E024CC01
4E024CC02
4E024DD02
4E024GG01
4E024GG08
4E024GG10
(57)【要約】
【課題】圧延板材の尾端における蛇行量を効果的に抑制することが可能となる多段圧延機の蛇行制御方法を提供すること。
【解決手段】圧延スタンドの圧延ロールの一方の端部側と他方の端部側の圧延荷重の荷重差を求め、その荷重差に基づいて、圧延ロールのロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータを制御して、圧延材の尾端部の蛇行を制御するに際して、荷重差の変化量とアクチュエータの操作量から、圧延材の蛇行量とその微分量、アクチュエータの変化量を推定し、その得られた蛇行量推定値、蛇行微分量推定値及びアクチュエータ変化量推定値に応じて、各圧延スタンドのアクチュエータ操作量を調整するにあたって、任意のi圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数を、i圧延スタンド入側板速度と最終圧延スタンド入側板速度との比を用いて算出するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段圧延機における圧延スタンドの圧延ロールの一方の端部側と他方の端部側の圧延荷重をそれぞれ測定して、それらの荷重差を求め、そしてその荷重差に基づいて、該圧延ロールの一方の端部側と他方の端部側のロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータを制御することにより、圧延材の尾端部の蛇行を防止する多段圧延機の蛇行制御方法にして、
前記荷重差の変化量及び前記アクチュエータを制御するための操作量から、前記圧延材の蛇行量及びその微分量並びに前記アクチュエータの変化量を推定し、その得られた蛇行量推定値、蛇行微分量推定値及びアクチュエータ変化量推定値に応じて、各圧延スタンドの前記アクチュエータ操作量を調整するに際し、最終圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じるゲイン調整係数をXlastと設定し、前記最終圧延スタンドよりも上流側の任意のi圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数をXiとして、かかるXiを、次式:
i=Zi×Xlast×(Vi/Vlast
i-1≦Xi
[但し、Zi:調整係数、Vi:i圧延スタンド入側板速度、Vlast:最終圧延スタンド入側板速度]
にて設定することを特徴とする多段圧延機の蛇行制御方法。
【請求項2】
前記一方の端部側と他方の端部側のロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータが、油圧圧下装置或いはロールベンディング装置であることを特徴とする請求項1に記載の多段圧延機の蛇行制御方法。
【請求項3】
蛇行制御を行う圧延スタンドの2つ手前の圧延スタンドを、圧延されている圧延材の尾端部が通過した時点から、前記制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数Xi またはXlastに対して、更に第二のゲイン調整係数Y1 を乗じて、当該制御されるべき圧延スタンドの蛇行制御を開始し、圧延材尾端部が当該制御されるべき圧延スタンドの一つ手前の圧延スタンドを抜けた時点で、前記ゲイン調整係数Y1 をY2 (但し、Y1 <Y2 )に切り替えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多段圧延機の蛇行制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段圧延機の蛇行制御方法に係り、特に、多段圧延機の各圧延スタンドにて行う蛇行制御の制御ゲイン及び制御タイミングを最適化することにより、圧延板材の尾端での蛇行の発生を効果的に抑制することが可能となる多段圧延機の蛇行制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧延機を用いて所定の金属板材を連続的に圧延するに際して、圧延ロールのロール軸方向における左右両端となる操作側と駆動側において、左右のロール間隙の差や被圧延板材の左右の硬度差等により、左右の圧下率に差が生じ、被圧延板材に蛇行が発生することが知られている。そして、この圧延中に発生する板の蛇行は、製品品質の低下を招くばかりでなく、場合によっては板の破断や装置の損傷を惹起したりして、圧延不能に陥り、生産性を著しく阻害する問題を引き起こすものであった。
【0003】
そこで、そのような圧延時の板の蛇行を抑制するために、これまで各種の蛇行制御方法が用いられてきており、例えば、板の蛇行を光学的なセンサで直接的に検出して制御する方法や、圧延機における操作側と駆動側との差荷重から蛇行を間接的に検出して制御する方法が、一般に広く知られている。
【0004】
このような蛇行制御方法のうち、板の蛇行を光学的なセンサで直接的に検出して制御する方法にあっては、蛇行を直接に検出することが出来ることから、比較的精度よく蛇行を制御することが可能ではあるものの、圧延環境のような過酷な状況下では、圧延油ヒュームや蒸気等による光の乱反射等により、光学的なセンサでは、蛇行を正確に検出することが一般的に難しくなり、蛇行検出不良が発生した場合には、正常に蛇行制御出来なくなる問題を惹起し、また蛇行検出不良の発生を低下させるために蛇行センサを新たに設置する必要が生じたり、その耐環境対策のために設置場所の制約やコストがかかる等の問題を内在するものであった。
【0005】
一方、圧延機の操作側と駆動側との差荷重から、蛇行を間接的に検出して、制御する方法にあっては、板が蛇行した側の圧延荷重が高くなる現象を利用するものであり、その圧延荷重を計測する荷重計は圧延機一般に広く設置されており、耐環境性能も高く、比較的安定して検出することが出来るために、制御のために新たなセンサを設置することも不要であることから、低コストであるという利点がある。但し、差荷重が発生する要因としては、板の蛇行の他にも、板の幅方向板厚差(ウェッジ)が関係する場合があり、このウェッジが大きい場合には、蛇行と差荷重の極性が一致しない場合がある。特に、タンデム圧延機においては、上流スタンド側で板厚が厚いため、そのようなウェッジが相対的に大きくなり易いのである。
【0006】
そして、そのような差荷重を用いて蛇行を制御する方法は、従来から種々検討が為されてきており、例えば、特許第2575585号公報(特許文献1)においては、操作側と駆動側のベンダに対するベンダ差圧操作量及び操作側と駆動側の圧延荷重における差荷重変化量から、被圧延板材の蛇行量及びその微分量並びにベンダ差圧変化量をそれぞれ推定し、その得られた蛇行量推定値、蛇行微分量推定値及びベンダ差圧変化量推定値に応じてベンダ差圧操作量を調整して、被圧延板材の蛇行現象を解消せしめるようにした、圧延機における板の蛇行制御方法が、明らかにされている。また、特許第5790636号公報(特許文献2)においては、圧延ロールの作業側の圧延荷重と駆動側の圧延荷重との差を圧延差荷重として検出し、検出された圧延差荷重を用いて圧延材の蛇行量及び圧延ロールへの圧延材の進入角度である入側角度を推定し、それら推定された圧延材の蛇行量及び入側角度と該蛇行量の積分値とに基づいて、圧延材の蛇行量及び入側角度と、作業側のロール開度と駆動側のロール開度との差となるレベリング量とを変数とする評価関数の値が最小になるように、かかるレベリング量を操作して、圧延材の蛇行量を制御する圧延材の蛇行制御方法が、明らかにされている。
【0007】
しかしながら、かかる特許文献1において明らかにされている圧延機における板の蛇行制御方法にあっては、圧延現象をモデル化して、差荷重変化量に対して蛇行量、蛇行微分量及びベンダ差圧変化量の各推定値を計算することにより、ベンダ差圧操作量を調整しているのであるが、その際の制御ゲイン調整方法に関しては言及されておらず、また特許文献2において明らかにされている圧延材の蛇行制御方法にあっては、圧延現象をモデル化して、差荷重変化量に対して蛇行量及び入側角度の推定値を算出し、蛇行量の積分値と併せて計算することにより、レベリング操作量を調整しているのであるが、その際の制御ゲイン調整方法に関しては、何等言及されていない。
【0008】
そして、このような圧延機の圧延ロールにおける操作側と駆動側との差荷重から、蛇行を間接的に検出して、蛇行制御する方法を用いて、タンデム圧延機において蛇行制御を行う場合にあっては、特に上流側となる圧延スタンドでの蛇行制御の応答を上げ過ぎると、ウェッジに対する誤作動を助長することとなるため、各圧延スタンドの制御ゲインを適切に設定する必要がある。
【0009】
一方で、当該圧延スタンドにおける蛇行制御としては、圧延材の尾端が、蛇行制御を行う圧延スタンドの1つ前のスタンドを抜けた時に、当該圧延スタンドとその一つ前の圧延スタンドとの間で発生していた板張力が消滅するために、圧延板を拘束する力が弱まり、蛇行が発生し易くなるため、その時点から蛇行制御を開始することが有効である。
【0010】
ただし、蛇行の状況によっては、より早いタイミングで蛇行制御を開始しておくことが更に効果的な場合があるが、その場合は、圧延スタンド間で板の張力が付与されている状態のため、制御操作に対して蛇行への効きが低くなることから、圧延材の尾端部が当該圧延スタンドの1つ前の圧延スタンドを抜けた時点で、当該圧延スタンドでの制御操作量が結果的に過剰となってしまい、場合によっては、当該圧延スタンドでの蛇行を逆方向に助長してしまう懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2575585号公報
【特許文献2】特許第5790636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、多段圧延機において圧延板材の尾端における蛇行量を効果的に抑制することが可能となる、各圧延スタンドにおける最適な制御ゲイン及び制御タイミングを導き出し得る多段圧延機の蛇行制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者等は、かかる課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、多段圧延機における圧延材の尾端での蛇行制御に関し、圧延ロールの軸方向一方の端部側である操作側と他方の端部側である駆動側での圧延荷重を測定して荷重差を求め、この値をもとに、圧延スタンドの圧延ロールにおける操作側と駆動側のロール間隙の差を調整可能なアクチュエータを制御するに際して、最終の圧延スタンドよりも上流側の圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じるゲイン調整係数を、最終の圧延スタンドにおける制御パラメータに乗じるゲイン調整係数と、かかる最終の圧延スタンドにおける入側板速度と制御を行う圧延スタンドにおける入側板速度との間に成立する関係を用いることで、圧延材の尾端における蛇行を有利に抑え得ることを見出したのである。
【0014】
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、多段圧延機における圧延スタンドの圧延ロールの一方の端部側と他方の端部側の圧延荷重をそれぞれ測定して、それらの荷重差を求め、そしてその荷重差に基づいて、該圧延ロールの一方の端部側と他方の端部側のロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータを制御することにより、圧延材の尾端部の蛇行を防止する多段圧延機の蛇行制御方法にして、前記荷重差の変化量及び前記アクチュエータを制御するための操作量から、前記圧延材の蛇行量及びその微分量並びに前記アクチュエータの変化量を推定し、その得られた蛇行量推定値、蛇行微分量推定値及びアクチュエータ変化量推定値に応じて、各圧延スタンドの前記アクチュエータ操作量を調整するに際し、最終圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じるゲイン調整係数をXlastと設定し、前記最終圧延スタンドよりも上流側の任意のi圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数をXiとして、かかるXiを、下式にて設定することを特徴とする多段圧延機の蛇行制御方法にある。
i=Zi×Xlast×(Vi/Vlast
i-1≦Xi
[但し、Zi:調整係数、Vi:i圧延スタンド入側板速度、Vlast:最終圧延スタンド入側板速度]
【0015】
なお、かかる本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法の望ましい態様の一つによれば、前記一方の端部側と他方の端部側のロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータは、油圧圧下装置或いはロールベンディング装置とされることとなる。
【0016】
さらに、そのような本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法の別の望ましい態様の一つにあっては、蛇行制御を行う圧延スタンドの2つ手前の圧延スタンドを、圧延されている圧延材の尾端部が通過した時点から、前記制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数Xi またはXlastに対して、更に第二のゲイン調整係数Y1 を乗じて、当該制御されるべき圧延スタンドの蛇行制御を開始し、圧延材尾端部が当該制御されるべき圧延スタンドの一つ手前の圧延スタンドを抜けた時点で、前記ゲイン調整係数Y1 がY2 (但し、Y1 <Y2 )に切り替えられることとなる。
【発明の効果】
【0017】
従って、このような本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法によれば、多段圧延機における各圧延スタンドの圧延ロールの制御ゲイン及び制御タイミングが、上流側からi番目の圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じるゲイン調整係数:Xi と、最終圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じるゲイン調整係数:Xlastと、i圧延スタンドの入側板速度:Vi と最終圧延スタンドの入側板速度:Vlastとからなる関係式を用いて、最適となるように設定されていることによって、圧延板材の尾端における蛇行を効果的に抑制し得るように制御することが可能となるのである。
【0018】
そして、かかる本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法にあっては、任意のi圧延スタンドよりも一つ前の(i−1)圧延スタンドのゲイン調整係数Xi-1 が、かかるi圧延スタンドのゲイン調整係数Xi 以下となるように設定されるようになっているところから、前スタンドでの制御量が大きくなり過ぎて、制御にハンチングが発生したりするような恐れが、有利に回避されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法の構成を概略的に示す説明図である。
図2】本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法に従って、圧延機の各スタンドにギャップ差を設定する際のイメージを示すグラフである。
図3】本発明に従う多段圧延機における板の蛇行制御方法の効果を確認するために行ったシミュレーションに用いた蛇行制御モデルを示すブロック図である。
図4】シミュレーション条件として入り側板の左右板厚さがない場合のシミュレーション結果を棒グラフで示す図である。
図5】シミュレーション条件として入り側板の左右板厚さがある場合のシミュレーション結果を棒グラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法を用いて、所定の板材を圧延する際の構成が、概略的に示されている。そこにおいて、多段圧延機における所定の板材の連続的な圧延は、各圧延スタンドFi におけるFi 圧延スタンド圧延現象として示されており、そのような圧延に際しての各圧延スタンドFi の圧延ロールにおける左右の圧延荷重、即ち圧延ロールの軸方向一方の側の端部である操作側と他方の側の端部である駆動側の圧延荷重が、従来と同様にして、ロードセルの如き適当なセンサを用いて検出されることとなる。そして、それぞれの検出された圧延荷重から、それらの荷重差(差荷重)を算出し、その差荷重の変化量(δp)が、本発明に従う蛇行制御方法を採用した蛇行制御器に導かれるようになっている。
【0022】
一方、そのような蛇行制御器から出力されるレベリング操作変化量(δuref )は、圧延ロールの軸方向一方の端部側と他方の端部側のロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータとして、圧延機に設けられたレベリング制御装置である、Fi 圧延スタンドアクチュエータ制御装置に入力せしめられて、それによって圧延機におけるレベリング操作量が調整されて、所定板材の圧延が進行せしめられるようになっている。なお、そのような圧延ロールの軸方向一方の端部側と他方の端部側のロール間隙の差を調整することの出来るアクチュエータとしては、公知の各種の油圧圧下装置やロールベンディング装置が、好適に採用されることとなる。
【0023】
そして、そのような蛇行制御器においては、かかる差荷重の変化量(δp)及びアクチュエータを制御するための操作量であるレベリング操作量から、圧延材の蛇行量及びその微分量並びにアクチュエータの変化量をそれぞれ推定し、その得られた蛇行量推定値、蛇行微分量推定値及びアクチュエータ変化量推定値に応じて、各圧延スタンドにおけるアクチュエータ操作量を調整するに際して、最終圧延スタンドにおける蛇行制御の制御パラメータに乗じるゲイン調整係数をXlastと設定し、かかる最終圧延スタンドよりも上流側となる任意のi圧延スタンド:Fi における、蛇行制御の制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数をXiとして、このXiを、下記式(1)にて設定するようにした制御係数1演算器を備えている。
i=Zi×Xlast×(Vi/Vlast) ・・・・(1)
i-1≦Xi
[但し、Zi:調整係数、Vi:i圧延スタンド入側板速度、Vlast:最終圧延スタンド入側板速度]
【0024】
さらに、かかる蛇行制御器にあっては、蛇行制御を行う圧延スタンド(Fi )の2つ手前の圧延スタンド(Fi-2 )を、圧延されている圧延材の尾端部が通過した時点から、制御パラメータに乗じる第一のゲイン調整係数Xi またはXlastに対して、更に第二のゲイン調整係数Y1 を乗じて、当該制御されるべき圧延スタンド(Fi )での蛇行制御を開始し、その後、圧延材の尾端部が当該制御されるべき圧延スタンド(Fi )の一つ手前の圧延スタンド(Fi-1 )を抜けた時点で、ゲイン調整係数Y1 をY2 (但し、Y1 <Y2 )に切り替えるようにした、制御係数2切替器も、有利に備えている。なお、圧延を行っている圧延材の尾端部が一つ手前の圧延スタンド(Fi-1 )を抜けたか、どうかは、ここでは、かかる圧延スタンド(Fi-1 )のロードセルにおいて荷重が検出されているか、どうかによって判別しており、そのような状態(荷重がONか、OFFか)が、Fi-1 L/R(Load/Relay)として、制御係数2切替器に入力されて、ゲイン調整係数Y1 とY2 とが切り替えられるようになっている。
【0025】
そして、本発明に従って、圧延機におけるレベリング操作量を調整して蛇行制御を行う場合にあっては、下記式(2)〜式(6)に示される如く、状態オブザーバを構成して、各状態量を推定し、それら推定値と、前記した制御係数1演算器及び制御係数2切替器から得られるゲイン調整係数Xi やゲイン調整係数Y1 又はY2 とを用いて、状態フィードバックによりレベリング操作量を調整するのである。なお、下記式(3)は、オブザーバゲインを、本発明に従って、その初期値にゲイン調整係数Xi とゲイン調整係数Y1 又はY2 を乗じて求めていることを示しており、また下記式(4)は、状態フィードバックゲインを、本発明に従って、その初期値にゲイン調整係数Xi を乗じて求めていることを示している。
【0026】
【0027】
なお、かかる本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法において、圧延スタンド:Fi に設定されるゲイン調整係数:Xi を、前記した式(1)に示されるように、最終圧延スタンド入側板速度と圧延スタンドFi 入側板速度との速度比によって規定しているのは、以下のような理由からである。即ち、板の蛇行という現象に関して、圧延機の入側と出側において考えると、板がその幅方向にネジれている、換言すれば、板が幅方向に回転しながら並進している状態であると考えられ、この回転の度合いにより、板の蛇行が発生しているのである。そこで、圧延機の入側と出側での回転角速度を、それぞれω1,ω2とし、板の入側と出側での速度を、それぞれV1,V2とすると、それらの関係は、(ω1/V1)∝(ω2/V2)となるため、(ω1)∝(V1/V2×ω2)となる。ここで、圧延機の出側においては、板が、次の圧延スタンドとの間、或いはコイル巻取機との間で張力が付与されている状態であるため、ω2 は大きく変化しない。このため、(ω1 )∝(V1/V2)となるのである。このように、回転角速度と比例する板速度の比によって回転の度合い、即ち板の蛇行量を表すことが出来ることから、本発明に従って、蛇行制御における制御パラメータに乗ずる制御ゲイン調整係数を、前記した式(1)のように速度比に準じて設定することは、妥当と考えられるのである。
【0028】
また、図2には、本発明に従って、Nスタンド(N≧3の自然数)の多段圧延機で蛇行制御を行った場合において、各スタンドでアクチュエータを操作することによって設定される圧延ロールのギャップ差(圧延ロールにおける軸方向一方の側の端部のロール間隙と他方の側のロール間隙の差)について、グラフによる概念図が示されている。この図2において、縦軸は、各スタンドにおいて設定されるギャップ差を示すものであって、ある片側から見たときに、ここでは、上向きはギャップが開き、下向きはギャップが閉まるという状態を表している。また、横軸は、時間を示し、例えばスタンドFi-1 においては、スタンドFi-2 を圧延する板の尾端部が抜けたときから制御を開始(ギャップ差を設定)していることを示している。同様に、スタンドFi においては、スタンドFi-1 を圧延する板の尾端部が抜けたときから制御を開始していることを示している。また、スタンドFlast(ここでは、スタンドFi+1 となる)においては、2つ前のスタンドFi-1 を圧延する板の尾端部が抜けたときから制御を開始すると共に、1つ前のスタンドFi を板の尾端部が抜けたときから、ゲイン調整係数Y1 をY2 に切り換えて制御を行っていることを示している。そして、かかる図2には、全てのスタンドにおいて、一方の側に板が流れている(蛇行している)状態の際に、板が流れている方向とは反対側に流れるように、各スタンドにギャップ差を設定することで、板を中心に戻すための制御を行っている状態が示されているのである。
【0029】
従って、このような本発明に従う多段圧延機の蛇行制御方法によれば、多段圧延機の各圧延スタンドFi におけるアクチュエータの制御ゲイン及び制御タイミングが、前記した関係式を用いて最適となるように設定されていることによって、圧延板材の尾端における蛇行の発生を効果的に抑制することが可能となるのである。
【0030】
ここにおいて、本発明に従う多段圧延機における板の蛇行制御方法の効果を確認するために、図3に示される如きブロック図の制御モデルを元にして状態方程式を立て、蛇行現象に対するシミュレーションを行い、蛇行を引き起こす要因となる外乱に対する制御効果を調べた。なお、かかるシミュレーションは、3スタンドを有する多段圧延機にて圧延を行うこととし、その多段圧延機の入側から1番目のスタンドをF1 、2番目のスタンドをF2 、3番目のスタンドをF3 とそれぞれ呼称する。また、かかる図3に示される各記号の説明は、以下の通りである。
【0031】
【0032】
なお、このシミュレーションにおいては、スタンドF2 及びスタンドF3 にて蛇行制御を行うものとし、シミュレーションを行う際の板流れに関する前提条件の仮定は、以下に示す通りとした。
・F2 におけるオフセンタ量もしくは左右板厚差により板流れが生じる。
・F3 での板流れはF2 にて始まった板流れにより生じるものとする。
・F2 にて左右板厚差が生じている場合には左右にて伸び差が生じるため、F2 抜け直 後に板が蛇行し、板の蛇行量は伸び差に応じるものとする。
・板流れの抑制としてはF3 抜け時の蛇行量の絶対値にて判断し、板流れ量が小さい程 良いと判断する。
【0033】
そして、下記表1〜表3に示される条件と、下記式にて示される状態フィードバックゲインとオブザーバゲイン及び係数用いて、前記した蛇行現象に対するシミュレーションを行い、蛇行を引き起こす要因となる外乱に対する制御効果を調べ、その結果を、板の蛇行量として求め、表3に併せ示すと共に、より比較し易くするために、図4及び図5に棒グラフとして示した。
【0034】
なお、かかる表2において、スタンドF3 における条件のうち、「F1→F2」は、圧延材の尾端部がスタンドF1 を抜けた時点からスタンドF2 を抜けるまでの間の制御に使用する各条件を示しており、「F2→F3」は、圧延材の尾端部がスタンドF2 を抜けた時点からスタンドF3 を抜けるまでの間の制御に使用する各条件を示している。
【0035】
また、表3において、ゲイン調整係数Y1 は、圧延材の尾端部がスタンドF1 を抜けた時点からスタンドF2 を抜けるまでの間に使用するゲイン調整係数であり、一方、ゲイン調整係数Y2 は、圧延材の尾端部がスタンドF2 を抜けた時点からスタンドF3 を抜けるまでの間に使用するゲイン調整係数である。ここで、そのようなスタンドF3 でのゲイン調整係数Y1 が「制御なし」となっているものは、スタンドF3 の2つ前となるスタンドF1 を圧延材の尾端部が抜けた時点からスタンドF2 を抜けるまでの間は蛇行制御を行わないことを示しており、圧延材の尾端部がスタンドF2 を抜けた時点からスタンドF3 を抜けるまでの間は、ゲイン調整係数Y2 を用いて蛇行制御されることとなる。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【0040】
かかる表3及び図4,5の結果から明らかなように、本発明の蛇行制御方法に従って、前記した式(1)に示す如く、板速度の比によってスタンドF2 のゲイン調整係数X2 を設定するようにした実施例1においては、板の蛇行量が28.7mmとなり、比較例1のようにスタンドF3 単独で蛇行制御を行った場合の蛇行量(34.4mm)や、本発明に従わずにゲイン調整係数X2 に低い値を設定した比較例3の蛇行量(31.5mm)よりも小さくなり、板の蛇行を効果的に抑制することが出来ることを確認した。
【0041】
さらに、スタンドF3 において、板の尾端がスタンドF1 とスタンドF2 との間にあるときから蛇行制御を行うようにした場合の結果が、比較例2及び実施例2として示されている。即ち、実施例2においては、スタンドF2 における制御を、本発明の蛇行制御方法に従って、前記した式(1)に示す如く、板速度の比によってゲイン調整係数X2 を設定すると共に、スタンドF3 において、板の尾端がスタンドF1 とスタンドF2 との間にあるときはゲイン調整係数Y1 を用い、板の尾端がスタンドF2 を抜けた時点からスタンドF3 を抜けるまでの間は、ゲイン調整係数Y2 を用いるようにして、蛇行制御が行われている。また、比較例2においては、比較例1と同様に、スタンドF2 における制御を行わず、スタンドF3 単独で蛇行制御を行っている。そして、そのような制御を行った結果、実施例2では蛇行量が22.0mmとなり、スタンドF3 において、板の尾端がスタンドF1 とスタンドF2 との間にあるときは制御を行わなかった実施例1の蛇行量よりも更に小さくすることが出来た。また、スタンドF3 のみで蛇行制御を行った比較例2の場合にあっても、板の尾端がスタンドF2 を抜けた時点からスタンドF3 を抜けるまでの間のみスタンドF3 において蛇行制御を行った比較例1の蛇行量よりも小さくすることが出来ている。このように、スタンドF3 において、板の尾端がスタンドF1 とスタンドF2 との間にあるときから制御を行うようにすることによって、板の尾端がスタンドF2 とスタンドF3 との間にあるときのみに制御を行う場合に比べて、板の蛇行を効果的に抑制することが可能となることが確認された。これは、板の尾端がスタンドF3 を抜けた瞬間の圧下指令を大きくすることが可能となるため、板の蛇行に対しての応答性を効果的に上げることが出来るのである。
【0042】
また、入側板の左右板厚差が生じている比較例4においては、スタンドF2 におけるゲイン調整係数X2 を本発明に従って設定せず、高く設定しているために、スタンドF2 での圧延後の出側板厚差が大きく生じることとなり、その結果、スタンドF3 における蛇行量が大きく(210mm)なっている。一方、同様に入側板の左右板厚差が生じているものの、スタンドF2 におけるゲイン調整係数X2 を、本発明に従って設定した実施例3においては、蛇行量が108mmと小さくなっており、本発明に従って、蛇行制御における制御パラメータに乗ずる制御ゲイン調整係数を、前記した式(1)のように速度比に準じて設定することが、効果的であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5