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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-189939(P2017-189939A)
(43)【公開日】2017年10月19日
(54)【発明の名称】成形型および成形型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/38 20060101AFI20170922BHJP
【FI】
   B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-81281(P2016-81281)
(22)【出願日】2016年4月14日
(71)【出願人】
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
(71)【出願人】
【識別番号】311015045
【氏名又は名称】株式会社ヤシマ
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592008181
【氏名又は名称】株式会社吉田エス・ケイ・テイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深川 仁
(72)【発明者】
【氏名】中島 薫
(72)【発明者】
【氏名】東城 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕世
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AD16
4F202AG03
4F202AJ01
4F202AJ09
4F202AJ10
4F202AJ12
4F202AR02
4F202AR06
4F202AR12
4F202CA30
4F202CB01
4F202CD16
4F202CD22
4F202CD30
4F202CK11
(57)【要約】
【課題】特に炭素繊維強化プラスチックの離型性が良く、気密性、耐久性に優れた成形型を提供する。
【解決手段】成形型は、開気孔率18%以下の多孔質等方性黒鉛からなる基材と、基材の表面に形成された、フッ素系樹脂からなる離型膜とを、備えている。成形型は、基材の熱伝導率が13W/mKよりも大きく200W/mK未満であり、且つ離型膜の膜厚が50μm以上500μm以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料を成形するための成形型であって、開気孔率18%以下の多孔質等方性黒鉛からなる基材と、
当該基材の表面に形成された、フッ素系樹脂からなる離型膜とを、備えており、
前記基材は、熱伝導率が13W/mKよりも大きく200W/mK未満であり、
且つ前記離型膜の膜厚が50μm以上500μm以下であることを特徴とする成形型。
【請求項2】
前記基材が、炭素系接着剤により複数の部材を接合してなることを特徴とする請求項1記載の成形型。
【請求項3】
複合材料を成形するための成形型の製造方法であって、
基材を構成する、開気孔率18%以下の多孔質等方性黒鉛からなる複数の部材を炭素系接着剤によって接着する工程と、
前記基材を、2〜5kgf/cmの圧着力で加圧した状態で、13〜100℃/hrの昇温速度で90〜250℃まで昇温する工程と、
前記基材を90〜250℃で1〜20時間維持する工程と、
前記基材を放冷する工程と、
前記基材に離型膜を焼付け塗装する工程と、
を備えることを特徴とする成形型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の成形に用いられる成形型に関する。特に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させたプリプレグなどの中間素材を原料として、炭素繊維強化プラスチックを成形するために用いる成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチックの製造方法として、例えばプレス法、樹脂注入成形法、オートクレーブ成形法などが知られている。プレス法は、プリプレグなどを積層した板に、プレス機で圧力と熱とをかけて成形する方法である。樹脂注入成形法は、強化繊維を立体的な形状にしたプリフォームを金型に封入し、溶融している熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を低圧下で注入して加熱硬化する方法である。オートクレーブ成形法は、成形型にプリプレグを積層して気密性の高いバッグに収容し、オートクレーブ内で加圧しながら内包された空気や揮発物を真空除去し、さらに熱をかけて樹脂を硬化させる方法である。オートクレーブ成形法は、強度に優れた炭素繊維強化プラスチックを製造することができ、また製品の品質が優れて安定しているために、航空宇宙産業などを中心に広く普及している。
【0003】
熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が用いられているプリプレグをオートクレーブ成形法で成形する場合、成形型に樹脂が付着して硬化することを防ぐために、種々の離型剤を塗布する必要があった。たとえば離型剤として有機溶媒を塗布する場合には、工程中に塗布と乾燥のための作業工程と作業場所を確保する必要があり、作業効率の向上を阻む一因となっていた。特許文献1には、離型剤を塗布せずに離型性を向上させる技術が開示されている。特許文献1の成形型は、黒鉛基材と、この基材の上に形成されたフッ素樹脂を含む接合層と、接合層の上面に形成されたフッ素樹脂の表面層とを備えている。
【0004】
また、特許文献2および特許文献3には、熱膨張率を成形材料にほぼ等しくした炭素繊維強化プラスチック成形用の成形型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−67045号公報
【特許文献2】平03−262607号公報
【特許文献3】2006−130675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、ウレタンフォームを効率よく成形するために、ウレタンとの離型性を向上させた型を開示している。また、特許文献2および3は、製品の寸法精度を向上させるために、熱膨張率を最適化した成形型を開示している。しかしながら、炭素繊維強化プラスチックの離型性を向上させた成形型はこれまで知られていない。
【0007】
本願は、このような現状に鑑みてなされたものであって、特に炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPとも言う)の離型性が良く、従来よりもCFRPの製造工程の簡略化と迅速化が可能であり、しかも耐久性に優れた成形型の提供を、解決すべき課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、本発明に係る成形型は、特に複合材料を成形するための成形型であって、開気孔率18%以下の多孔質等方性黒鉛からなる基材と、基材の表面に形成されたフッ素系樹脂からなる離型膜とを、備えている。成形型の基材は、熱伝導率が13W/mKよりも大きく200W/mK未満であり、且つ離型膜の膜厚が50μm以上500μm以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の成形型は、基材が、炭素系接着剤により複数の部材を接合してなることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、複合材料を成形するための成形型の製造方法を開示する。本発明の成形型の製造方法は、複合材料成形用の型の製造方法であって、開気孔率18%以下の多孔質等方性黒鉛からなる複数の部材を炭素系接着剤によって接着して基材を構成する工程と、基材を2〜5kgf/cmの圧着力で加圧した状態で13〜100℃/hrの昇温速度で室温から90〜220℃まで昇温し、90〜250℃で1〜20時間維持し、放冷する工程と、基材の表面に離型膜を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る成形型によれば、成形型の基材の熱伝導率を13W/mKよりも大きく200W/mK未満とすることで、成形時の加熱工程および冷却工程を極めて迅速におこなうことができる。
【0012】
離型膜の膜厚を50μm以上500μm以下とすることで、基材である開気孔率18%以下の多孔質等方性黒鉛の表面の空隙を封止して気密性を確保し、オートクレーブによるCFRPの製造時に必要な真空度を保証することができる。
【0013】
離型膜の膜厚を50μm以上500μm以下とすることで、離型膜の耐久性を確保し、CFRPを脱型するときの工程を長期間に亘って簡略化することができる。
【0014】
複数の部材を炭素系接着剤で接着して構成することで、大型であったり凹凸やコンターのある複雑な三次元形状であったとしても、表面の精度の高い本発明の成形型が容易に形成される。
【0015】
本発明にかかる製造方法で製造された成形型は、接着面の発泡が未然に防止されて、長期信頼性が担保される。従来の金属を溶接した成形型と比較すると、接着部分に歪みが残らず、より容易に製造することができる。また必要な部分のみに補強部材を接着して、全体として軽量な成形型を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、等方性黒鉛の成形型に離型膜を配置するフローチャートである。
図2図2は、実施例1の成形型にCFRPの原料を配置した試験形態の縦断面図である。
図3図3は、実施例1の成形型の板厚と気密性の関係を示す図である。
図4図4は、実施例2の成形型にCFRPの原料を配置した試験形態を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、図4のX−X断面図である。
図6図6は、実施例2の成形型の耐久試験の結果を示す図である。
図7図7(A)は、実施例3の成形型にCFRPの原料を配置した試験形態を模式的に示す上面斜視図であり、 図7(B)は成形型の裏面斜視図である。
図8図8(A)は、実施例3の成形型にCFRPの原料を配置したときの部分縦断面図であり、図8(B)は、実施例3の成形型からCFRPを脱型するときの治具の動作を模式的に示す図である。
図9図9は、実施例3の成形型の製造方法のフローチャートである。
図10図10は、実施例2の成形型の他の使用例を示す斜視図である。
図11図11は、実施例2の成形型の他の使用例における縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の成形型と成形型の製造方法の好適な実施形態を列記する。
(1)基材として、切り出し方向による特性差が認められない等方性黒鉛が使用される。本発明で用いる等方性黒鉛は、熱膨張率がインバーと同等の0.5×10−6Kから2×10−6Kであることが好ましい。熱膨張率が小さいことで、成形型の変形に由来するCFRPの成形品の歪みを小さくすることができる。
(2)基材として、密度が1.75g/cmよりも高く、平均気孔半径が0.3〜1.9μmであり、且つ開気孔率が11〜18%である多孔質等方性黒鉛が好適に用いられる。検討の結果、開気孔率が19%以上であると、たとえ離型膜が厚くても減圧を伴う成形工程で、リークして気密性が維持できない可能性があり、また表面粗度が悪化することが明らかとなった。そのため、切り出し方向による特性差が認められず、また平均気孔半径が小さく、開気孔率が18%以下の多孔質等方性黒鉛が、本発明の実施形態における最も好適な基材である。なお、開気孔率は、以下の式で定義される。
開気孔率(%)=かさ密度(Mg/m)×累積細孔容積(m/Mg)×100
・・・(式1)
ここで、累積細孔容積は、細孔半径0.0074μm〜68.7μmの細孔の体積の累積値であって、水銀ポロシメトリー法により測定される。
(3)基材の接着には、フェノール系樹脂に黒鉛粉、コークス粉、ピッチ粉を混合した炭素系接着剤を用いることが好ましい。
(4)離型膜を形成する組成物としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAとも言う)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレンオリゴマー(PTFE−oligomer)、テトラフルオロエチレン1−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(E/TFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)等のフッ素系樹脂を用いることができる。
(5)離型膜として、フッ素系樹脂の焼き付け塗装を行う場合、その膜厚は50μm以上500μm以下であることが好ましい。基材の上に膜厚の厚い樹脂層を形成する方法は、一般に、焼き付け塗装を繰り返して複数の層を積層する工程を含む。このため、500μmを超える膜厚の離型膜を形成した場合、複数回の焼き付け工程の熱が加わった下層では、樹脂の特性が変化している可能性があり好ましくない。また、膜厚の薄いフッ素系樹脂の層には電気的なピンホールが発生することがあり、その径は100μm程度である。等方性黒鉛の上の離型膜にピンホールがあると、必要な気密性が確保されず、複合材料のオートクレーブ成形に適さない可能性が高い。予備検討の結果、CFRPのオートクレーブ成形工程に必要な気密性を確保するには、フッ素系樹脂の膜厚が50μm以上必要であることが確認された。
(6)離型膜は、基材上に複数の膜を焼付塗装によって厚さ200μm±30μmの厚さで堆積することが特に好ましい。この膜厚で形成された離型膜は、最下層の樹脂の層に劣化等の特性変化がなく、しかも複合材料全般のオートクレーブ成形に必要な気密性が確保できる。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明を、プリプレグを原料としてCFRPをオートクレーブ成形法によって成形するための成形型に適用した実施例について、詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
図1に、本実施例の成形型1の製造方法のフローチャートを示す。本実施例では、軽量ソリッドカーボン(等方性多孔質黒鉛)製のプレート(平板)に機械加工を施し、その上に離型材を330℃以上で焼付塗装して離型膜を形成して、離型膜付き治工具として完成させる。また、随意的に成形品の上側に搭載するカウルプレートを用いる場合は、カウルプレートについても材料に対向する面に対して同様の離型膜を形成することができる。完成した成形型1は、離型材がソリッドカーボンの気孔内に浸透しており、離型材の基材に対するアンカー効果が得られている。
【0020】
このような離型膜付きの成形型1とカウルプレート41との間にCFRPの原料であるプリプレグ40を積層してオートクレーブ成形を行うことで、CFRPを成形することができる。図2に、本実施例の成形型1を使用し、プリプレグ40を原料としたCFRPのオートクレーブ成形を模した試験を行った試験形態の縦断面図を示す。本実施例の成形型1は、ソリッドカーボンからなる基材10に、PFAからなる離型膜11が形成されている。成形型1の上に、プリプレグ40を複数枚積層し、その上に離型膜を形成したカウルプレート41を搭載し、さらに離型フィルム42とブリーザー43を重ねている。さらに、成形型1とその上に積層した全ての物品を気密性のあるバッグフィルム44で被覆している。バッグフィルム44端部と成形型1との間には、シールテープ45が配置される。成形型1の上面で、プリプレグ40とカウルプレート41と離型フィルム42とブリーザー43とはバッグフィルム44とシールテープ(エポシール)45とによって封止される。図2に記載したプリプレグ40、カウルプレート41、離型フィルム42、ブリーザー43、バッグフィルム44、およびシールテープ45は、その配置をより明確に示すために、厚さ方向の寸法を実際よりも拡大して強調表示している。
【0021】
成形型1の基材10の板厚を変更したときの気密性について評価を行った。10mmと5mmの二種類の基材10について、図2に示した使用状態で成形型1の気密性を試験した結果を図3に示す。試験した成形型1は、密度1.88g/cmの等方性多孔質黒鉛からなる基材10に膜厚50μm〜100μmのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる離型膜11を形成している。また比較例として、同じ大きさのアルミニウム製の成形型を用いた。これらの成形型1の上にプリプレグ40を積層し、図2に示した使用状態に封止した。さらに、バッグフィルム44を貫通する真空ホースを配置して真空ポンプによって−0.096MPaまで真空引きした後10分間の真空度の変化を真空計によって30秒ごとに測定した。
【0022】
図3に示すように、等方性多孔質黒鉛からなる基材10を用いた成形型は、10mmの板厚のものも5mmの板厚のものも、比較例のアルミニウム製の成形型と同等の真空度の変化を示しており、比較例と同等の気密性を有していた。この実験により、PFAの離型膜は、50μm〜100μmの厚さで形成することで、オートクレーブ成形に必要な、十分な気密性を示すことが確認された。
【0023】
(実施例2)
本実施例の成形型の基材20は、横断面形状がほぼ台形の角柱状に削り出し加工された多孔質等方性黒鉛で構成されている。本実施例で用いた基材20は、密度1.88g/cm,開気孔率11%,熱膨張率4.9×10−6/K、熱伝導率140W/mKの多孔質等方性黒鉛である。また基材20の平均気孔半径は1.7μmである。
【0024】
基材20の上面および側面に、PFAが離型膜21として焼付け塗装されている。多孔質等方性黒鉛をオートクレーブ成形法に用いる場合、PFAを成膜することは、表面の開気孔を塞いでリークを防止すると同時に、離型性を向上させる効果がある。本実施例では、基材2にPFAを200μm±30μmの厚さで積層している。
【0025】
図4は、本実施例の成形型2を用いて、複数のプリプレグ40と離型フィルム42とブリーザー43を重ね、さらに、バッグフィルム44で被覆してシールテープ45によって端部を封止してオートクレーブ成形を行った試験形態を模式的に示す斜視図である。図5は、図4のX−X断面図である。なお、離型膜21は基材20の底面以外の全面に被覆されている。
【0026】
成形型2を用いて、CFRPのオートクレーブ成形を模した成形と脱型の試験を40回繰り返して、成形型2の種々の特性を評価する耐久性試験を実施した。本実施例では、カウルプレートを用いずに、複数配置したシート状のプリプレグ40の最上面とブリーザー43との間に離型フィルム42を配置している。すなわち、複数のプリプレグ40を覆うように離型フィルム42が配置され、さらにその上にブリーザー43が配置される。最外層として、バッグフィルム44が、プリプレグ40と離型フィルム42とブリーザー43とを被覆しており、バッグフィルム44の端部が成形型2に対してシールテープ45を用いて接着されて封止がされている。本実施例では、真空引き用のアダプタ14を成形型2の上面に配置しており、このアダプタ14にバックフィルム44を貫通させた真空ホース15を接続して、図示されない真空ポンプで減圧を行いつつ真空計16で真空度を監視している。なお、図4および図5に記載したプリプレグ40、離型フィルム42、ブリーザー43、バッグフィルム44、およびシールテープ45は、その配置をより明確に示すために、厚さ方向の寸法を実際よりも拡大し、強調して表示している。
【0027】
図4,5に示した試験形態で成形型2を用いて封止したプリプレグ40を、180℃、0.5MPaの加熱加圧条件下で、1.5時間オートクレーブ焼成した。そして冷却後、完成したCFRPを脱型し、成形型2の特性を評価した。
【0028】
図6(A)に、本実施例の耐久性試験の回数と離型膜の膜厚(μm)の変化との関係を示す。膜厚は、成形型2のプリプレグ40が配置される面上のそれぞれ異なるA,B,Cの3箇所で、ElektroPhysik社製MiniTest73により測定している。図6(B)に、耐久性試験の回数と離型膜の表面の水滴面積(mm)の変化との関係を示す。水滴面積とは表面の撥水性を示す指標であって、1回につき100mlの水をスポイトに貯留し、スポイト1回押しを3回行って滴下した水の水滴面積を、デジタルマイクロスコープ(DINO AM 413ZT)を用いて倍率50倍で観察したときの水滴面積の平均値である。水滴面積も又、成形型2の上面上の特にプリプレグ40が配置される面のそれぞれ異なるA,B,Cの3箇所で、測定を行ってそれぞれの平均値を示している。いずれの特性値も、耐久性試験の回数に対してほとんど変化が認められず、複数回脱型を繰り返した後も良好な特性を示している。以上の試験結果から、実施例2の成形型2は、非常に耐久性に優れていることが確認された。
【0029】
図10は、本実施例の成形型2の他の使用状態を模式的に示す斜視図である。図11図10に対応する成形型2の使用状態の縦断面図を示す。この使用状態では、成形型2は金属製の基台22上に配置されている。成形型2の上にシート状のプリプレグ40が配置され、その上に離型フィルム42が配置されている。さらにその上にブリーザー43が配置されている。最外層として、バッグフィルム44が、プリプレグ40と離型フィルム42とブリーザー43に加えて成形型2全体を被覆しており、バッグフィルム44の端部は、基台22の上面に到達しており、バッグフィルム44は基台22に対して、シールテープ45を用いて接着され封止を行っている。真空引き用のアダプタ14が基台22の上面に配置されており、このアダプタ14にバックフィルム44を貫通させた真空ホースを15を接続して、図示されない真空ポンプで減圧を行いつつ真空計16で真空度を監視してオートクレーブ成形が行われる。
【0030】
基台22を配置して成形型2を用いる場合、封止はバッグフィルム44と基台22との間で行われるので、成形型2の気密性は問題とされず、成形型2には離型性のみが必要となる。この使用形態では、基台22を設けることで、全体の重量や体積は増すことになるが、運搬や一時保管等が容易となることがある。
【0031】
(実施例3)
図7(A)は、本実施例の成形型3をオートクレーブ成形によるCFRPの製造試験に適用した形態を模式的に示した上面斜視図である。図7(B)は、成形型3の裏面から見た斜視図である。また、図8(A)に、本実施例の成形型3にCFRPの原料を配置したときの部分縦断面図を示し、図8(B)に、本実施例の成形型3からCFRPを脱型するときの治具の動作を模式的に示す。本実施例の成形型30は、略矩形形状の上面部材31と、上面部材31の四辺に接着された平板状の二組の側面部材32,33とを備えており、全体として下面が開放された直方体形状となっている。上面部材31には、脱型を容易にするための脱型部材36を収容するための凹部35が2箇所に配置されている。図7(B)に示すように、上面部材31の凹部35が設けられている箇所の裏面には、同一の素材の補強部材37が接着により取り付けられている。本実施例でもまた、カウルプレートを用いずに、複数配置したプリプレグ40の最上面とブリーザー43との間に離型フィルム42を配置した形態を示す。プリプレグ40、離型フィルム42、ブリーザー43、バッグフィルム44、およびシールテープ45は、実施例2と同一の順序で積層されている。なお、他の実施例と同様に、図7(A)および図8に記載したプリプレグ40、離型フィルム42、ブリーザー43、バッグフィルム44、およびシールテープ45は、その配置をより明確に示すために、厚さ方向の寸法を実際よりも拡大し、強調して表示している。
【0032】
本発明における成形型3の製造方法を、図9に示す。成形型3は、以下のように製造される。成形型3の上面部材31と側面部材32,33を構成する、密度1.88g/cm,開気孔率11%、熱膨張率4.9×10−6/K、熱伝導率140W/mKの多孔質等方性黒鉛の平板を準備する(ステップS1)。それぞれの平板の接合面となる箇所に、炭素系接着剤を塗布して、接着する(ステップS2)。接着剤としては、フェノール系樹脂に黒鉛粉、コークス粉、ピッチ粉を混合した炭素系接着剤を使用する。接着後の成形型3を、2〜5kgf/cmの圧着力で加圧した状態で、13〜100℃/hrの昇温速度で90℃〜250℃まで昇温する(ステップS3)。成形型3を、加圧した状態で90〜250℃で1〜20時間維持する(ステップS4)。室温で放冷し(ステップS5)、治工具形状にNC加工等で加工し(ステップS6)、サンディング等で表面仕上げを行い(ステップS7)、実施例1と同一の構成の離型膜を焼付け塗装する(ステップS8)。成形型3の上面部材31と、側面部材32,33と、凹部35の表面にもまた、PFAが離型膜として厚さ200μm±30μmの層となるように焼付け塗装されている。
【0033】
ここで、ステップS3の昇温工程と、ステップS4の保温工程の条件は、それぞれの接合面の接着剤の発泡を防止して十分な接着強度を得るために重要である。接着剤として使用するフェノール系樹脂が充分に重合して接着が完成するためには、通常90−180℃の温度となる時間が3時間以上確保されることが好ましい。
【0034】
図8(A)に示すように、成形型3の上面31の2箇所に、縦断面が部分円形状である凹部35が設けられている。凹部35は、プリプレグ40の載置位置の端部に一部が重なる位置に形成されている。凹部35には、この形状と対応する脱型用治具36が収容される。脱型用治具36は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性樹脂で形成されている。脱型用治具36は、成形型3の凹部35に収容されて、部分的にプリプレグ40と接した状態でオートクレーブ成形に用いられる。そしてオートクレーブ成形により完成したCFRP50を脱型する時は、CFRP50に接していない脱型用治具36の端部を、例えばプラスチック棒とミニハンマーを用いて軽く衝撃を与えることで、CFRP50が成形型3から容易に取り外される。空気が脱型用治具36とCFRP50の間に入り、プラスチック製のへらなどが挿入しやすくなって、一気に脱型作業をすることが可能となる。
【0035】
(実施例4)
密度1.88g/cm,開気孔率11%,熱膨張率4.9×10−6/K、熱伝導率140W/mKの多孔質等方性黒鉛を用いて実施例2と同等の形状の基材を形成し、実施例1と同様にPFAを離型膜として積層して成形型とした。この成形型は、実施例2の成形型2と同等の気密性を示し、また同様の耐久性試験において、離型膜の厚さや表面粗度の変化がほとんど認められず、良好な特性を示した。
【0036】
(比較例1)
かさ密度1.66〜1.74g/cm,開気孔率19〜30%、平均気孔半径10〜100μm、熱膨張率4.4×10−6/K、熱伝導率150W/mKの押し出し黒鉛(異方性黒鉛)を基材とし、実施例1と同様にPFAを離型膜として積層して成形型とした。しかしながらこの成形型は、気密性を維持することができず、オートクレーブ成形法に用いることができなかった。このことから、気密性を維持するためには、開気孔率が18%以下であることが重要であり、この値を超える黒鉛材料は気密性が維持できず、オートクレーブ成形に用いる成形型には適さないことが明らかとなった。
【0037】
以上、実施例において本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれ、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば実施例では、PFAを離型膜として用いる場合について説明したが、離型性を向上させる任意のフッ素系樹脂を利用することができる。また、離型膜の膜厚も、50μm以上500μm以下の任意の厚さとすることができる。さらに、脱型用治具の形状は、部分円状に限らず、くさび形、多角形など、任意に形成することができる。
【符号の説明】
【0038】
1、2、3・・・成形型
10、20、30・・・基材
11、21、34・・・離型膜
14・・・真空引き用アダプタ
15・・・真空ホース
16・・・真空計
22・・・金属製の基台
31・・・上面部材
32,33・・・側面部材
35・・・凹部
36・・・脱型用治具
37・・・補強部材
40・・・プリプレグ
41・・・カウルプレート
42・・・離型フィルム
43・・・ブリーザー
44・・・バッグフィルム
45・・・シールテープ
50・・・CFRP
図1
図2
図3
図4
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図11