(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-190782(P2017-190782A)
(43)【公開日】2017年10月19日
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/14 20060101AFI20170922BHJP
F16H 53/00 20060101ALI20170922BHJP
【FI】
F16H48/14
F16H53/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-152276(P2014-152276)
(22)【出願日】2014年7月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆憲
(72)【発明者】
【氏名】濱田 哲郎
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA36
3J027FB02
3J027FC13
3J027HB01
3J027HB16
3J027HC04
3J027HC07
3J027HC12
3J027HC13
3J027HC15
3J027HC19
3J027HC29
3J030EA03
3J030EA12
3J030EA21
3J030EC03
3J030EC04
(57)【要約】
【課題】各伝動部材全体にトルクを分散でき,しかもコンパクトな差動装置を得る。
【解決手段】入力部材7と相対回転可能であり,中心軸線X1から偏心していて第1出力軸11に連結される偏心軸18と,入力部材7に隣接し,偏心軸18上で自転しながら中心軸線X1周りに公転し得る第1差動部材16と,この第1差動部材16に隣接して第2出力軸12に連結される第2差動部材17とを備え,入力部材7に第1ハイポ条溝21を形成する一方,第1差動部材16に第1ハイポ条溝21と重なる第1エピ条溝22を形成し,これら第1ハイポ条溝21及び第1エピ条溝22の重なり部に第1伝動転がり体23を介装し,また第1差動部材16に第2ハイポ条溝24を形成する一方,第2差動部材17に第2ハイポ条溝24と重なる第2エピ条溝25を形成し,これら第2ハイポ条溝24及び第2エピ条溝25の重なり部に第2伝動転がり体26を介装する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材(7)の回転を中心軸線(X1)上に相対回転可能に並ぶ第1出力軸(11)及び第2出力軸(12)に分配する差動装置において,
前記中心軸線(X1)上に回転可能に配置される前記入力部材(7)と,前記中心軸線(X1)から偏心した偏心軸線(X2)上に位置しつゝ前記中心軸線(X1)周りに公転し得るように前記第1出力軸(11)に一体的に連結される偏心軸(18)と,前記入力部材(7)の一側に隣接して配置され,前記偏心軸(18)上で自転しながら前記中心軸線(X1)周りに公転し得る,前記入力部材(7)よりも小径の第1差動部材(16)と,この第1差動部材(16)の一側に隣接して前記中心軸線(X1)上で回転し得るように前記第2出力軸(12)に一体的に連結される,前記第1差動部材(16)よりも小径の第2差動部材(17)と,前記入力部材(7)に結合されて前記第1及び第2差動部材(16,17)を覆うカバー(8)とを備え,
前記入力部材(7)の,前記第1差動部材(16)との対向側面に,ハイポサイクロイド曲線に沿って周方向に延びる第1ハイポ条溝(21)を形成する一方,前記第1差動部材(16)の,前記入力部材(7)との対向側面に,エピサイクロイド曲線に沿って周方向に延びると共に前記第1ハイポ条溝(21)と複数箇所で重なる第1エピ条溝(22)を形成し,これら第1ハイポ条溝(21)及び第1エピ条溝(22)の重なり部に第1伝動転がり体(23)を介装し,
また前記第1差動部材(16)の,前記第2差動部材(17)との対向側面に,ハイポサイクロイド曲線に沿って周方向に延びる第2ハイポ条溝(24)を形成する一方,前記第2差動部材(17)の,前記第1差動部材(16)との対向側面に,エピサイクロイド曲線に沿って周方向に延びると共に前記第2ハイポ条溝(24)と複数箇所で重なる第2エピ条溝(25)を形成し,これら第2ハイポ条溝(24)及び第2エピ条溝(25)の重なり部に第2伝動転がり体(26)を介装し,
前記第1ハイポ条溝(21)の波数をZ1,前記第1エピ条溝(22)の波数をZ2,前記第2ハイポ条溝(24)の波数をZ3,前記第2エピ条溝(25)の波数をZ4としたとき,
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
上式を成立させ,
前記第2差動部材(17)の外周に,前記カバー(8)に結合されるリングギヤ(3)を配置することを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置において,
前記中心軸線(X1)に沿って投影した投影面上で前記リングギヤ(3)の少なくとも一部が前記入力部材(7)及び前記第1差動部材(16)と重なることを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の差動装置において,
前記カバー(8)に,前記第1差動部材(16)及び第2差動部材(17)の外周面間の段差部に配置される環状凹部(27)を形成し,この環状凹部(27)にリングギヤ(3)の少なくとも一部を配置して,このリングギヤ(3)を前記カバー(8)に固着することを特徴とする差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,入力部材の回転を中心軸線上に相対回転可能に並ぶ第1出力軸及び第2出力軸に分配する差動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ベベルギヤを用いた従来一般の差動装置(下記特許文献1参照)では,複数のベベルギヤが一部の歯で互いに噛合するので,その一部の歯だけがトルクを負担することになってしまう。また複数のベベルギヤを十字状に配置する必要から,特に出力軸の軸方向寸法が長くなってしまい,装置のコンパクト化が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−67889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,各伝動部材全体にトルクを分散することができ,しかもコンパクトな差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,入力部材の回転を中心軸線上に相対回転可能に並ぶ第1出力軸及び第2出力軸に分配する差動装置において,前記中心軸線上に回転可能に配置される前記入力部材と,前記中心軸線から偏心した偏心軸線上に位置しつゝ前記中心軸線周りに公転し得るように前記第1出力軸に一体的に連結される偏心軸と,前記入力部材の一側に隣接して配置され,前記偏心軸上で自転しながら前記中心軸線周りに公転し得る,前記入力部材よりも小径の第1差動部材と,この第1差動部材の一側に隣接して前記中心軸線上で回転し得るように前記第2出力軸に一体的に連結される,前記第1差動部材よりも小径の第2差動部材と,前記入力部材に結合されて前記第1及び第2差動部材を覆うカバーとを備え,前記入力部材の,前記第1差動部材との対向側面に,ハイポサイクロイド曲線に沿って周方向に延びる第1ハイポ条溝を形成する一方,前記第1差動部材の,前記入力部材との対向側面に,エピサイクロイド曲線に沿って周方向に延びると共に前記第1ハイポ条溝と複数箇所で重なる第1エピ条溝を形成し,これら第1ハイポ条溝及び第1エピ条溝の重なり部に第1伝動転がり体を介装し,また前記第1差動部材の,前記第2差動部材との対向側面に,ハイポサイクロイド曲線に沿って周方向に延びる第2ハイポ条溝を形成する一方,前記第2差動部材の,前記第1差動部材との対向側面に,エピサイクロイド曲線に沿って周方向に延びると共に前記第2ハイポ条溝と複数箇所で重なる第2エピ条溝を形成し,これら第2ハイポ条溝及び第2エピ条溝の重なり部に第2伝動転がり体を介装し,前記第1ハイポ条溝の波数をZ1,前記第1エピ条溝の波数をZ2,前記第2ハイポ条溝の波数をZ3,前記第2エピ条溝の波数をZ4としたとき,
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
上式を成立させ,前記第2差動部材の外周に,前記カバーに結合されるリングギヤを配置することを第1の特徴とする。尚,前記第1及び第2伝動転がり体は,後述する本発明の実施形態中の第1及び第2伝動ボール23,26に対応する。
【0006】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記中心軸線に沿って投影した投影面上で前記リングギヤの少なくとも一部が前記入力部材及び前記第1差動部材と重なることを第2の特徴とする。
【0007】
さらに本発明は,第1の特徴に加えて,前記カバーに,前記第1差動部材及び第2差動部材の外周面間の段差部に配置される環状凹部を形成し,この環状凹部にリングギヤの少なくとも一部を配置して,このリングギヤを前記カバーに固着することを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,第1及び第2出力軸の負荷の変化に応じて,第1差動部材の自転量及び公転量が無段階に変化し,第1及び第2出力軸の回転数の平均値が入力部材の回転数と等しくなり,入力軸の回転を,第1及び第2出力軸に分配することができる。また比較的偏平な入力部材,第1差動部材及び第2差動部材を出力軸の軸方向に隣接して配置したことで,従来一般のベベルギヤ式に比して,差動装置全体をコンパクトに構成することができ,特に軸方向寸法の短縮化を効果的に図ることができる。また入力部材の回転トルクは,第1ハイポ条溝,複数の第1伝動転がり体及び第1エピ条溝を介して第1差動部材に,第1差動部材の回転トルクは,第2ハイポ条溝,複数の第2伝動転がり体及び第2エピ条溝を介して第2差動部材にそれぞれ伝達されるので,入力部材と第1差動部材,第1差動部材と第2差動部材の各間では,トルク伝達が第1及び第2伝動転がり体が存在する複数箇所に分散して行われることになり,入力部材,第1,第2差動部材及び第1,第2伝動転がり体等の伝動部材の強度増及び軽量化を図ることができ,高負荷用の差動装置を提供することができる。さらにリングギヤは,入力部材及び第1差動部材よりも小径の第2差動部材の外周に配置されて,デフケースのカバーに結合されるので,第2差動部材の外周のデッドスペースをリングギヤの配設に利用することができ,リングギヤ付きの差動装置のコンパクト化を図ることができる。
【0009】
本発明の第2の特徴によれば,中心軸線に沿って投影した投影面上でリングギヤの少なくとも一部が入力部材及び第1差動部材と重なることで,入力部材及び第1差動部材の側方のデッドスペースをリングギヤの配設に利用することができ,リングギヤ付きの差動装置のコンパクト化を図ることができる。
【0010】
本発明の第3の特徴によれば,カバーに,第1差動部材及び第2差動部材の外周面間の段差部に配置される環状凹部を形成し,この環状凹部にリングギヤの少なくとも一部を配置して,このリングギヤをカバーに固着したので,カバーに干渉されることなく,第2差動部材の外周にリングギヤを配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る差動装置の縦断正面図。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る差動装置の縦断正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0013】
先ず,
図1〜
図3に示す本発明の第1実施形態の説明より始める。
図1において,自動車のミッションケース1内に変速装置と共に差動装置Dが収容される。この差動装置は,変速装置の出力部材,即ち駆動ギヤ2から駆動されるリングギヤ3の回転を,中心軸線X1上に相対回転可能に並ぶ左右の駆動車軸S1,S2に分配する。
【0014】
図1及び
図2に示すように,差動装置Dは,中心軸線X1上で第1及び第2軸受4,5を介してミッションケース1に回転可能に支持されるデフケース6を備えており,このデフケース6は,第1軸受4を介して支持される入力部材7と,この入力部材7に第1ボルト9により固着されるカバー8とで構成され,このカバー8は,第2軸受5を介してミッションケース1に支持される。
【0015】
入力部材7には,差動装置Dの第1出力軸11が,中心軸線X1上の第3軸受13を介して回転可能に支持され,この第1出力軸11に左方の駆動車軸S1がスプライン結合される。またカバー8には,差動装置Dの第2出力軸12が,中心軸線X1上の第4軸受14を介して回転可能に支持され,この第2出力軸12に右方の駆動車軸S2がスプライン結合される。
【0016】
カバー8内には,入力部材7の一側に隣接する,入力部材7よりも小径の第1差動部材16と,この第1差動部材16の一側に隣接する,第1差動部材16よりも小径の第2差動部材17とが収容される。
【0017】
第1出力軸11には偏心軸18が一体に連結されており,この偏心軸18は,中心軸線X1から一定距離eだけ偏心した偏心軸線X2上に位置しつゝ中心軸線X1周りに公転し得るようになっている。この偏心軸18に前記第1差動部材16が第5軸受19を介して相対回転可能に支持される。また第1出力軸11及び第2差動部材17は,中心軸線X1上に位置する第6軸受20を介して相互に支持し合っている。以上により,第1差動部材16は,偏心軸18周りに自転しながら中心軸線X1周りに公転し得るようになっている。
【0018】
図1〜
図3に示すように,入力部材7の,第1差動部材16に対向する側部には,ハイポサイクロイド曲線に沿って周方向に延びる無端の第1ハイポ条溝21が形成される一方,第1差動部材16の,入力部材7に対向する一側面には,エピサイクロイド曲線に沿って周方向に延びて上記第1ハイポ条溝21と複数箇所で重なる,その波数より少ない波数を有する無端の第1エピ条溝22が形成され,これら第1ハイポ条溝21及び第1エピ条溝22の重なり部に複数の第1伝動ボール23が介装される。
【0019】
また第1差動部材16の他側部には,ハイポサイクロイド曲線に沿って周方向に延びる無端の第2ハイポ条溝24が形成される一方,第2差動部材17の,第1差動部材16と対向する側面には,エピサイクロイド曲線に沿って周方向に延びて上記第2ハイポ条溝24と複数箇所で重なる,その波数より少ない波数を有する無端の第2エピ条溝25が形成され,これら第2ハイポ条溝24及び第2エピ条溝25の重なり部に複数の第2伝動ボール26が介装される。
【0020】
而して,第1ハイポ条溝21及び第2エピ条溝25は,中心軸線X1を中心に持ち,第1エピ条溝22及び第2ハイポ条溝24は,偏心軸線X2を中心に持つことになる。
【0021】
以上において,第1ハイポ条溝21の波数をZ1,第1エピ条溝22の波数をZ2,第2ハイポ条溝24の波数をZ3,第2エピ条溝25の波数をZ4としたとき,下記式が成立するように,各ハイポ条溝21,24及び各エピ条溝22,25は形成される。
【0022】
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは,中心軸線X1に対する偏心軸線X2の偏心量を前述のようにeとして,第1ハイポ条溝21,第1エピ条溝22,第2ハイポ条溝24,第2エピ条溝25の基準ピッチ円半径を,それぞれR1,P1,R2,P2としたとき,e:R1:P1:R2:P2=1:4:3:3:2とすると共に,図示例ように,Z1=8,Z2=6,Z3=6,Z4=4とするか,又はe:R1:P1:R2:P2=1:3:2:4:3とすると共に,Z1=6,Z2=4,Z3=8,Z4=6とするとよい。
【0023】
尚,図示例では,8波の第1ハイポ条溝21と6波の第1エピ条溝22とが7箇所で重なり,この7箇所の重なり部に7個の第1伝動ボール23が介装され,また6波の第2ハイポ条溝24と4波の第2エピ条溝25とが5箇所で重なり,この5箇所の重なり部に5個の第2伝動ボール26が介装される。
【0024】
再び
図1において,前記カバー8には,第1差動部材16及び第2差動部材17の外周面間の段差部に配置される環状凹部27が形成され,この環状凹部27にリングギヤ3の環状の腕部3aが配置されると共に,この腕部3aが第2ボルト10によりカバー8に固着される。リングギヤ3は,上記腕部3aの外周に,歯部3cを有するリム部3bが一体に形成される。そのリム部3bは,腕部3aの左右両側に張り出すように形成される。
【0025】
こうして,リングギヤ3は,その少なくとも一部が第2差動部材17の外周に位置するように配置される。またリングギヤ3は,その一部が,中心軸線X1に沿って投影した投影面上で入力部材7及び第2差動部材17と重なるように配置される。
【0026】
尚,
図1中,符号29はオイルシールである。
【0027】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0028】
いま,左方の駆動車軸S1を固定することで,第1出力軸11及び偏心軸18を固定した状態において,駆動ギヤ2からリングギヤ3を駆動し,カバー8を介して入力部材7を中心軸線X1周りに回転させると,入力部材7の8波の第1ハイポ条溝21が第1差動部材16の6波の第1エピ条溝22を第1伝動ボール23を介して駆動するので,入力部材7が8/6の増速比をもって第1差動部材16を駆動することになる。そして,第1差動部材16の回転によれば,第1差動部材16の6波の第2ハイポ条溝24が第2差動部材17の4波の第2エピ条溝25を第2伝動ボール26を介して駆動するので,第1差動部材16が6/4の増速比をもって第2差動部材17を駆動することになる。結局,入力部材7は,(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2の増速比をもって第2差動部材17,即ち第2出力軸12を駆動することになる。
【0029】
また右方の駆動車軸S2を固定することで,第2出力軸12及び第2差動部材17を固定した状態において,入力部材7を回転させると,入力部材7の第1差動部材16に対する駆動と,第1差動部材16の,不動の第2差動部材17に対する駆動反力とにより,第1差動部材16は,偏心軸18周りに自転しつゝ,中心軸線X1周りに公転して,偏心軸18を中心軸線X1周りに駆動する。その結果,入力部材7は,2倍の増速比をもって第1出力軸11を駆動することになる。
【0030】
而して,第1及び第2出力軸11,12の負荷がバランスしたり,相互に変化したりすると,第1差動部材16の自転量及び公転量が無段階に変化し,両出力軸11,12の回転数の平均値が入力部材7の回転数と等しくなる。こうして,入力部材7の回転は,第1及び第2出力軸12に分配され,したがってリングギヤ3の回転を左右の駆動車軸S1,S2に分配することができる。
【0031】
その際,Z1=8,Z2=6,Z3=6,Z4=4とするか,又はZ1=6,Z2=4,Z3=8,Z4=6とすることにより,必要最少限度の波数をもって,差動機能を確保しつゝ構造の簡素化を図ることができる。
【0032】
ところで,この差動装置Dは,入力部材7と,この入力部材7の一側に隣接する第1差動部材16と,この第1差動部材16の一側に隣接する第2差動部材17とを備えるので,従来一般のベベルギヤ式の差動装置に比して,全体をコンパクトに構成することができ,特に軸方向寸法の短縮化を効果的に図ることができる。
【0033】
しかも入力部材7の回転トルクは,第1ハイポ条溝21,複数の第1伝動ボール23及び第1エピ条溝22を介して第1差動部材16に,また第1差動部材16の回転トルクは,第2ハイポ条溝24,複数の第2伝動ボール26及び第2エピ条溝25を介して第2差動部材17にそれぞれ伝達されるので,入力部材7と第1差動部材16,第1差動部材16と第2差動部材17の各間では,トルク伝達が第1及び第2伝動ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになり,入力部材7,第1,第2差動部材16,17及び第1,第2伝動ボール23,26等の伝動部材の強度増及び軽量化を図ることができ,高負荷用の差動装置Dを提供することができる。
【0034】
またリングギヤ3は,入力部材7及び第1差動部材16よりも小径の第2差動部材17の外周に配置されて,デフケース6のカバー8に結合されるので,第2差動部材17の外周のデッドスペースをリングギヤ3の配設に利用することができ,リングギヤ3付きの差動装置Dのコンパクト化を図ることができる。
【0035】
またリングギヤ3は,その一部が,中心軸線X1に沿って投影した投影面上で入力部材7及び第2差動部材17と重なるように配置されるので,入力部材7及び第1差動部材16の側方のデッドスペースをリングギヤ3の配設に利用することができ,リングギヤ3付きの差動装置Dのコンパクト化を図ることができる。
【0036】
またカバー8には,第1差動部材16及び第2差動部材17の外周面間の段差部に配置される環状凹部27が形成され,この環状凹部27にリングギヤ3の環状の腕部3aが配置されると共に,この腕部3aが第2ボルト10によりカバー8に固着されるので,カバー8に干渉されることなく,第2差動部材17の外周にリングギヤ3を配置することが可能となる。
【0037】
次に,
図4に示す本発明の第2実施形態について説明する。
【0038】
この第2実施形態では,カバー8は入力部材7の外周に溶接31により結合される。またリングギヤ3の環状の腕部3aは,カバー8の環状凹部27において溶接32により固着される。その際,リングギヤ3のリム部3bは,腕部3aから入力部材7側の片側に張り出すように形成される。その他の構成は,前実施形態と同様であるので,
図4中,前実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0039】
この第2実施形態によれば,第2差動部材17の外周のデッドスペースをリングギヤ3の配設に利用しながら,差動装置Dの狭い軸方向幅内にリングギヤ3を配設することが可能となり,リングギヤ3付きの差動装置Dの一層のコンパクト化を図ることができる。
【0040】
以上,本発明の実施形態を説明したが,本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。例えば,各伝動ボール23,26に代えて伝動ローラを用いることもできる。また差動装置Dを,前,後輪駆動車両における前,後輪伝動系に適用することもできる。
【符号の説明】
【0041】
D・・・・差動装置
X1・・・中心軸線
X2・・・偏心軸線
3・・・・リングギヤ
7・・・・入力部材
8・・・・カバー
11・・・第1出力軸
12・・・第2出力軸
16・・・第1差動部材
17・・・第2差動部材
18・・・偏心軸
21・・・第1ハイポ条溝
22・・・第1エピ条溝
23・・・第1伝動転がり体(第1伝動ボール)
24・・・第2ハイポ条溝
25・・・第2エピ条溝
26・・・第2伝動転がり体(第2伝動ボール)
27・・・環状凹部