(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-191921(P2017-191921A)
(43)【公開日】2017年10月19日
(54)【発明の名称】蓄電デバイスと、その充電方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/86 20130101AFI20170922BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20170922BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20170922BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20170922BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20170922BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20170922BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20170922BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20170922BHJP
【FI】
H01G11/86
H01M10/05
H01M10/0566
H01M10/058
H01M10/44 A
H01G11/06
H01G11/84
H01G11/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-89857(P2016-89857)
(22)【出願日】2016年4月11日
(71)【出願人】
【識別番号】514298689
【氏名又は名称】株式会社パワージャパンプリュス
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】武谷 要
(72)【発明者】
【氏名】外園 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】城戸 政美
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H030
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AB06
5E078BA12
5E078BA18
5E078BA42
5E078BA47
5E078BA53
5E078BB33
5E078LA03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK06
5H029AK07
5H029AL06
5H029AL08
5H029CJ16
5H029HJ18
5H030AA01
5H030AS11
5H030BB01
5H030FF43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】サイクル特性の良い使用条件を決定した蓄電デバイスおよび、その充電方法と製造方法を提供する。
【解決手段】蓄電デバイスは、炭素質正極活物質を含有する正極と、炭素質負極活物質を含有する負極と、電解質と非水溶媒を含む非水電解液を備え、定電流充電時における電圧プロファイルが充電容量増加に対して傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つ以上の変化点を有する。該蓄電デバイスの使用における最大電圧が、該変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧近傍にある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質正極活物質を含有する正極と、
炭素質負極活物質を含有する負極と、
電解質と非水溶媒を含む非水電解液を備え、
定電流充電時における電圧プロファイルが充電容量増加に対して
傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つ以上の変化点(変化点A、変化点B、変化点C、変化点D、変化点E・・・)を有し、
該蓄電デバイスの使用における最大電圧が、該変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧近傍にあることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
該蓄電デバイスの使用における最大電圧が、該変化点Eが示す電圧近傍にある、請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
該電圧プロファイルが、該非水溶媒の酸化電位以下で測定されたプロファイルである、請求項1または請求項2記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
炭素質正極活物質を含有する正極と、
炭素質負極活物質を含有する負極と、
電解質と非水溶媒を含む非水電解液を備え、
定電流充電時における電圧プロファイルが充電容量増加に対して
傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つ以上の変化点(変化点A、変化点B、変化点C、変化点D、変化点E・・・)を有し、
該蓄電デバイスの充電時における最大電圧が、該変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧にあることを特徴とする蓄電デバイスの充電方法。
【請求項5】
該蓄電デバイスの充電時における最大電圧が、該変化点Eが示す電圧にある、請求項4記載の蓄電デバイスの充電方法。
【請求項6】
該電圧プロファイルが、該非水溶媒の酸化電位以下で測定されたプロファイルである、請求項4または請求項5記載の蓄電デバイスの充電方法。
【請求項7】
炭素質正極活物質を含有する正極と、
炭素質負極活物質を含有する負極と、
電解質と非水溶媒を含む非水電解液を備えた蓄電デバイスを同一条件で複数作製する作製工程と、
該複数の蓄電デバイスの一部に対し、定電流充電時における電圧プロファイルを測定する測定工程と、
該電圧プロファイルから、充電容量増加に対して傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つ以上の変化点(変化点A、変化点B、変化点C、変化点D、変化点E・・・)を見出す判定工程と、
該測定工程に使用しなかった該蓄電デバイスの少なくとも一部に対し、該変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧まで充電する充電工程を含むことを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
該蓄電デバイスの充電時における最大電圧が、該変化点Eが示す電圧にある、請求項7記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項9】
該電圧プロファイルが、該非水溶媒の酸化電位以下で測定されたプロファイルである、請求項7または請求項8記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電デバイスに関する。詳しくはサイクル寿命を向上可能な蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、パソコンや携帯機器用の二次電池として、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属とリチウムの複合酸化物を含有する正極と、炭素質材料を含有する負極と、セパレータ、およびリチウム塩を含む非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池が多く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池においては、充電時に正極の結晶構造からリチウムイオンが非水電解液中に脱離して負極の炭素質材料の層間に挿入され、放電時に負極の炭素質材料の層間からリチウムイオンが電解液中に脱離して正極の結晶構造に挿入される。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池以外には、正極、負極ともに炭素質材料を活物質として含有した蓄電デバイスが知られている。
【0005】
たとえば特許文献1には黒鉛材料を含有した正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素質材料を含有した負極を備えた蓄電デバイスが開示されている。
【0006】
このような蓄電デバイスにおいては、充電時に非水電解液中から正極活物質である炭素質材料中にLiPF
6等のリチウム塩由来のアニオン(PF
6−等)が挿入され、かつ、非水電解液中から負極活物質中にリチウムイオンが挿入される。
【0007】
放電時には正極活物質からPF
6−等のアニオン、負極活物質からリチウムイオンが非水電解液へ脱離する
【0008】
この充放電反応を下記反応式1、2に示す(左辺から右辺が充電反応、右辺から左辺が放電反応)。
【0009】
正極;PF6− +nC = Cn(PF6)+ e−
負極:Li+ +nC +e− = LiCn
【0010】
なお、このような蓄電デバイスは充放電サイクルを繰り返す際に放電容量低下が起きるという問題、すなわちサイクル特性が悪いという問題があることが知られている。
【0011】
この問題に対し、特許文献1においては「正極における充電過程が、低電圧側領域におけるアニオンの吸着過程と、高電圧側領域におけるアニオンのインターカレーション過程との2段階逐次充電過程」を示し、さらに「使用時の充放電領域として、アニオンがインターカレーションしている電圧領域のみが利用されることを特徴とする」蓄電デバイスが開示されている。
【0012】
特許文献1の内容を要約すると以下のようになる。
【0013】
1・正極材料(黒鉛質材料)の層間距離は、アニオンのインターカレーションにより変化する。
2・黒鉛4層毎に1層のアニオンがインターカレーションする第4ステージが、サイクル特性を良好に保つことが出来る上限である。
3・そこで、充電電圧を最適化し、かつ正極活物質と負極活物質の容量バランスを調整することにより、サイクル特性の良いデバイスを設計することが出来る。
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許5445556
【特許文献2】特許5494917
【特許文献3】特開2014−112524
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】日刊工業新聞社刊「リチウムイオン二次電池〜材料と応用〜」P76
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1における蓄電デバイスの設計方法は煩雑である。
【0017】
たとえば特許文献1の請求項1には「正極容量が47mAh/g以下31mAh/g以上の範囲となるまで充電した際に、正−負極間の端子間電圧が3.2Vとなるように、負極活物質の容量を選択する」との記載があるが、この選択(負極活物質容量の決定)は容易ではない。
【0018】
また、上記「正極容量が47mAh/g」の根拠は「第4ステージのアニオン黒鉛層間化合物の理論容量は47mAh/gである(特許文献1の[0055])」であり、「正−負極間の端子間電圧が3.2V」の根拠は「第4ステージのインターカレーションが起きる充電電圧は正極と負極の容量比によって異なるが、ほぼ3.2V〜3.5V(特許文献1の[0056])」からであるが、たとえば特許文献2にあるように、正極活物質にあらかじめ電圧印加処理を施す事などにより、インターカレーションが起きる充電電圧は大きく変動する(
図7=特許文献2の
図8参照)。
【0019】
つまり正極活物質の選択および/または正極作製条件などによっては、正極容量と端子間電圧の間に変動が起きる場合がある。
【0020】
すなわち本発明は、正極と負極ともに炭素質活物質を含有した蓄電デバイスにおいて、より簡便(すなわち従来のように「充電電圧最適化」と「正極活物質と負極活物質の容量バランス調整」の2つを必要としない、「充電電圧最適化」のみによる)、かつ、正極活物質の選択あるいは正極作製条件などに影響されにくい手法によって、サイクル特性の良い使用条件を決定した蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
よって本発明においては、炭素質正極活物質を含有する正極と、炭素質負極活物質を含有する負極と、電解質と非水溶媒を含む非水電解液を備え、定電流充電時における電圧プロファイルが充電容量増加に対して傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つ以上の変化点(変化点A、変化点B、変化点C、変化点D、変化点E・・・)を有し、蓄電デバイスの使用における最大電圧が、それら変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧近傍にある蓄電デバイスによって、上述した課題を解決できる。
【0022】
また、本発明においては、炭素質正極活物質を含有する正極と、炭素質負極活物質を含有する負極と、電解質と非水溶媒を含む非水電解液を備え、定電流充電時における電圧プロファイルが充電容量増加に対して傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つ以上の変化点(変化点A、変化点B、変化点C、変化点D、変化点E・・・)を有し、蓄電デバイスの充電時における最大電圧が、それら変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧にある蓄電デバイスの充電方法によっても、上述した課題を解決できる。
【0023】
ここで、後者の充電方法における最大電圧を「最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧」とし、前者の蓄電デバイスの使用における最大電圧を「最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する点が示す電圧近傍」とした理由は、蓄電デバイスの充電時の最大電圧に対し、蓄電デバイスの使用における最大電圧は、蓄電デバイスの内部抵抗の存在によりわずかに下がるからである(
図6参照。
図6の点Xが充電時の最大電圧、点Yが使用における最大電圧を表している)。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、傾きが小から大へと変化する変化点、および大から小へと変化する変化点に挟まれた、比較的平坦な領域(プラトー様領域)を有する電圧プロファイルが得られる蓄電デバイスにおいて、プラトー様領域の終了位置における電圧を充電電圧として使用することで、サイクル特性の良い使用条件を決定した蓄電デバイスおよび、その充電方法と製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1(a)】実施例1におけるテストセル2のサイクル特性を示す図である。
【
図1(b)】比較例1におけるテストセル3のサイクル特性を示す図である。
【
図2(a)】実施例2におけるテストセル4のサイクル特性を示す図である。
【
図2(b)】比較例2におけるテストセル5のサイクル特性を示す図である。
【
図3(a)】実施例3におけるテストセル6のサイクル特性を示す図である。
【
図3(b)】比較例3におけるテストセル7のサイクル特性を示す図である。
【
図4】実施例1におけるテストセル1の充放電プロファイルを示す図である。
【
図5】実施例1におけるハーフセルの充放電プロファイルを示す図である
【
図6】実施例1におけるテストセル2の充放電プロファイルを示す図である。
【
図7】特許文献2に示された、インターカレーションが起きる充電電圧の変化例を示す図である。
【
図8】特許文献1に示された充放電プロファイルの例を示す図である。
【
図9】特許文献2に示された充放電プロファイルの例を示す図である。
【表1】
非特許文献1に記載の、非水電解液の耐酸化性を示す表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、特許文献1に記載された蓄電デバイスの充放電プロファイルを
図8に示す。
【0027】
図8における充電プロファイルは約1.9Vに傾きが大から小へと変化する1つの変化点を示した後、ほぼ直線的に電圧上昇してゆく事が分かる。
【0028】
次に、特許文献2に記載された蓄電デバイスの充放電プロファイルを
図9に示す。
【0029】
図9において「実施例3」として点線で示された充電プロファイルは約1.6Vに傾きが大から小へと変化する1つの変化点を示した後、約3.2〜3.3Vに傾きが小から大、大から小へと変化する2つの変化点を示している。
【0030】
さらに、それら計3つの変化点の後、約3.3Vに比較的平坦な領域を有している。
【0031】
この平坦領域は一般にプラトーと呼ばれている。
【0032】
以下、プラトーについて説明する。
1・黒鉛のような層構造を有する物質に、他の物質が挿入することをインターカレーションと呼び、挿入により生じた物質を層間化合物と呼ぶ。
2・層間化合物では一般に、層間に挿入される物質が数枚の層を隔てて、規則正しい積層構造をとる。これをステージ(あるいはステージの存在、またはステージ構造)と呼ぶ。
3・ここで、層数n枚ごとに他の物質があるとき、第nステージあるいはステージnと呼ぶ。
4・2種類のステージ構造が共存する状態において、充電プロファイルは電圧がほぼ一定な平坦領域を示し、これをプラトーと呼ぶ。
【0033】
本発明者らは、正極と負極ともに炭素質活物質を含有した蓄電デバイスの充電プロファイルにおけるプラトー様領域(充電プロファイル上はプラトーと考えられるが、本発明においては上記ステージ構造との相関を確認していないのでプラトー様領域と記載する)に着目した。
【0034】
すなわち、プラトー様領域を有する充電プロファイルを示す蓄電デバイスにおいて、簡便な方法にてサイクル特性の良い使用条件が決定できることを見出した。
【0035】
なお、プラトーが確認されたり(特許文献2)、確認されなかったり(特許文献1)する理由については、炭素質正極活物質に含まれる層状物質(黒鉛および/または黒鉛様粒子)の含有率と均質性、および/または負極の持つ充電プロファイルによると考えられる(たとえば負極の充電プロファイルが急峻な傾きを持つ場合、蓄電デバイス全体としての充電プロファイルにプラトーは見えにくくなる)が、現時点では明確ではない。
【0036】
次に、本発明の蓄電デバイスの構成および部材について説明する。
【0037】
<正極活物質/正極活物質層/正極集電体/正極について>
本発明における正極活物質とは、非水電解液中のアニオンを挿入及び脱離可能な炭素質材料であり(炭素質正極活物質)、たとえばイメリス社製人造黒鉛であるKS−6L、KS−44、大阪ガス社製人造黒鉛MCMB6−26等を挙げることができる。
【0038】
この炭素質材料に、他の炭素質材料粉末などからなる導電剤や、粉末同士の結合性を上げるため、および/または正極集電体への接着性をあげるためのバインダを必要に応じて加え、水系または有機系溶媒により混合することで正極スラリとし、この正極スラリを正極集電体に塗布、乾燥して正極活物質層を形成することで正極を製造する。
【0039】
正極集電体には、ステンレス、アルミニウム、またはチタン等の金属からなる、10〜100ミクロン程度の厚さの金属箔、メッシュ等が用いられる。
<負極活物質/負極活物質層/負極集電体/負極について>
【0040】
本発明における負極活物質とは、非水電解液中のリチウムイオンを挿入及び脱離可能な炭素質材料であり(炭素質負極活物質)、リチウムイオン二次電池の負極に使用可能な炭素質材料(たとえば(株)クレハ社製ハードカーボン、日立化成社製MAG等)が好ましく使用できる。
【0041】
このような炭素質材料を、他の炭素質材料粉末などからなる導電剤や、粉末同士の結合性を上げるため、および/または負極集電体への接着性をあげるためのバインダを必要に応じて加え、水系または有機系溶媒により混合することで負極スラリとし、この負極スラリを負極集電体に塗布、乾燥して負極活物質層を形成することで負極を製造する。
【0042】
負極集電体には銅、ステンレス、チタン、またはニッケル等の金属からなる、10〜100ミクロン程度の厚さの金属箔、メッシュ等が用いられる。
【0043】
<セパレータについて>
本発明におけるセパレータとは、電子絶縁性とイオン透過性を有する多孔質のフィルムまたは薄板である。
【0044】
たとえば(株)旭化成ケミカルズ社製ポリオレフィン多孔質フィルムやガラス繊維製濾紙など、リチウムイオン二次電池に使用可能な多孔質フィルムがそのまま使用できる。
【0045】
<非水電解液について>
本発明における非水電解液は、例えばジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)などの非水溶媒にLiBF
4、LiPF
6などの電解質(この場合はリチウム塩)を1.0mol/L〜4.0mol/L程度溶解した、PB
4−、PF
6−などのアニオンを含む溶液である。
【0046】
なお、本明細書において(数値A)〜(数値B)と記載した場合は、数値A以上数値B以下を表すものとする。
【0047】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
<正極の作製>
炭素質正極活物質(人造黒鉛)と、導電剤(アセチレンブラック)、バインダ2種(カルボキシメチルセルロースとアクリロニトリルゴム)をそれぞれ重量比90:5:3:2で混合し、水で混錬して正極スラリを作製した。
【0048】
この正極スラリを正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、室温乾燥後、さらに120℃で5分以上乾燥して正極活物質層とすることで、正極を作製した。
【0049】
<負極の作製>
炭素質負極活物質を日立化成MAG−Dとし、導電剤(アセチレンブラック)、バインダ2種(カルボキシメチルセルロースとアクリロニトリルゴム)をそれぞれ重量比90:5:3:2で混合し、水で混錬して負極スラリを作製した。
【0050】
この負極スラリを負極集電体である厚さ15μmの銅箔の片面に塗布し、室温乾燥後、さらに120℃で5分以上乾燥して正極活物質層とすることで、負極を作製した。
【0051】
<蓄電デバイスの作製>
上記正極と負極を用い、蓄電デバイス(テストセル1)を作製した。
【0052】
なお、セパレータにガラス繊維製濾紙を、非水電解液としてジメチルカーボネート(DMC)によるLiPF
6の1.5mol/L溶液を、さらに容器としてCR2032タイプのステンレス製コイン型容器を用いた。
【0053】
<蓄電デバイスの充放電測定>
上記蓄電デバイス(テストセル1)を用い、0.5mA/cm2の充放電電流密度で3.0V〜5.2Vの電圧範囲で繰り返し充放電を行った。
充放電プロファイル(一例として繰り返し回数5回目のプロファイル)を
図4に示す。
【0054】
なお、ここで充電時の最高電圧を5.2Vにした理由は、表1(非特許文献1より抜粋)より、使用した非水溶媒DMCの耐酸化性(すなわち酸化電位)が5.3V(Li/Li
+基準)であり、かつ、以下のテストセル1などに使用する炭素質負極活物質の電位が約0.1V(Li/Li
+基準)である(ただし、炭素質負極活物質にLi
+がインターカレートされるにつれ、電位は0V(Li/Li
+基準)に近付いて行く)ので、DMCの酸化電位が正極・負極間の電位では最小で5.2Vになると考えたからである。
【0055】
この
図4から、定電流充電時における充電プロファイル(図中の「Charge」)が充電容量増加に対して、傾きが小から大、大から小、および小から大・・・と変化する、5つの変化点(変化点A、変化点B、変化点C、変化点D、変化点E)を有していることが分かる。
【0056】
さらに、変化点Bと変化点Cの間、および変化点Dと変化点Eの間にはプラトー様領域があることが分かる。
【0057】
なお、少なくとも変化点Dと変化点Eの間にある領域がプラトーだと考えられることは、上記テストセル1と同様の正極と、対極として金属リチウムを用いたハーフセルの充放電プロファイル(
図5:一例として繰り返し回数5回目のプロファイルを挙げる)からも明らかである。
【0058】
ここで、特許文献1の記載を参考にすると、正極活物質にアニオンがインターカレートする工程において、複数のステージ構造が存在するが、あまりインターカレーションを進め過ぎると(ステージ構造が進み過ぎると)、可逆的なインターカレーションが出来なくなる、電解液の分解が起きる、などの問題が生じる可能性があり、サイクル特性の悪化を引き起こす虞がある。
【0059】
そこで本発明者らは、変化点E(変化点のうち、最も高電位側にある傾きが小から大へと変化する変化点であり、最も高電位側にあるプラトー様領域終了点)の電圧である5.0Vを定電流充電時における充電最大値として、充放電サイクルにおける劣化状況を確認した。
【0060】
すなわち、ステージ構造が進むたびに不可逆的なインターカレートが起きる可能性があることに対し、まず高電位側のプラトー様領域終了点(あるステージに挿入可能なアニオンが全て入ったか、あるいは別の理由でそのステージにアニオンが挿入されなくなったと考えられる点)の電圧において充放電を行えば、不可逆的インターカレーションが起きるステージへの充放電とならず、サイクル特性が向上できる可能性があると本発明者らは考えた。
【0061】
場合によっては、さらに順次低電圧側のプラトー様領域終了点へと繰り返せば、実質的に可逆的なステージを見いだせることになる。
【0062】
ここで「実質的に」というのは、充電電圧を下げることは蓄電デバイスの容量を下げることでもあるので、サイクル特性にある程度の低下が見られる充放電電圧であっても、蓄電デバイスの容量を優先して実施する場合があるということである。
【0063】
具体的には、テストセル1同様の蓄電デバイス(テストセル2)を作製し、0.5mA/cm
2の充放電電流密度で3.0V〜5.0Vの電圧範囲で繰り返し充放電を行った。
【0064】
結果を
図1(a)に示す。
【0065】
充放電開始後10サイクルほどに容量の低下が見られるが、その後の容量低下は(後述の比較例1に比べて)緩やかであり、300サイクル経過後においても、初期容量の50%以上の容量を維持している。
【0066】
なお、
図6はテストセル2における、充放電プロファイルである(一例として繰り返し回数5回目のプロファイルを挙げる)。
【0067】
[比較例1]
テストセル1同様の蓄電デバイス(テストセル3)を作製し、0.5mA/cm2の充放電電流密度で3.0V〜5.2Vの電圧範囲でそれぞれ繰り返し充放電を行った。
【0068】
結果を
図1(b)に示す。
【0069】
100サイクル経過後くらいから容量低下が大きくなり、300サイクル経過後には初期容量の50%よりも低い結果となっている。
【0070】
[実施例2]
テストセル1同様の蓄電デバイス(テストセル4)を作製し、5.0mA/cm2の充放電電流密度で3.0V〜5.0Vの電圧範囲で繰り返し充放電を行った。
【0071】
結果を
図2(a)に示す。
【0072】
充放電開始後10サイクルほどに容量の低下が見られるが、その後の容量低下は(後述の比較例2に比べて)緩やかであり、1000サイクル経過後においても、初期容量の50%以上の容量を維持している。
【0073】
[比較例2]
テストセル1同様の蓄電デバイス(テストセル5)を作製し、5.0mA/cm2の充放電電流密度で3.0V〜5.2Vの電圧範囲でそれぞれ繰り返し充放電を行った。
【0074】
結果を
図2(b)に示す。
【0075】
比較的直線的な容量低下が見られ、1000サイクル経過後には初期容量の50%程度の結果となっている。
【0076】
[実施例3]
非水電解液に添加剤としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(以下TPFPB)を1wt%加えた以外は、テストセル1同様の蓄電デバイス(テストセル6)を作製した。
【0077】
この添加剤TPFPBは、たとえば特許文献3に「(正極、負極ともに炭素質材料を活物質として含有した蓄電デバイスにおいて)繰り返し耐久性が向上する」と記載された材料であり、実施例1、実施例2の結果に対して、さらなるサイクル性能の向上を目指して添加したものである。
【0078】
このテストセル6に対して5.0mA/cm2の充放電電流密度で3.0V〜5.0Vの電圧範囲で繰り返し充放電を行った。
【0079】
結果を
図3(a)に示す。
【0080】
充放電開始後10サイクルほどにわずかな容量の低下が見られる他は、極めて良いサイクル性能を示し、1000サイクル経過後にも容量低下の様子は見られない。
【0081】
充電最大電圧の制御による効果と添加剤TPFPBの効果の相乗効果だと考えられる。
【0082】
[比較例3]
テストセル6同様の蓄電デバイス(テストセル7)を作製し、5.0mA/cm2の充放電電流密度で3.0V〜5.2Vの電圧範囲で繰り返し充放電を行った。
【0083】
結果を
図3(b)に示す。
【0084】
比較例2に比べて直線的なサイクル性能の悪化ではないものの、結局のところ1000サイクル経過後には初期容量の50%程度の結果となっている。
【0085】
添加剤TPFPBを加えた系においても、充電電圧の最大値が本発明で決定される電圧値以上の場合にはサイクル性能悪化が起きていることが分かる。