特開2017-192513(P2017-192513A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-192513合成樹脂製血管用クリップの製造方法及び合成樹脂製血管用クリップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-192513(P2017-192513A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】合成樹脂製血管用クリップの製造方法及び合成樹脂製血管用クリップ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/122 20060101AFI20170929BHJP
【FI】
   A61B17/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-83876(P2016-83876)
(22)【出願日】2016年4月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000146630
【氏名又は名称】株式会社新興セルビック
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160DD03
4C160DD16
4C160DD19
4C160DD26
4C160DD29
4C160MM33
(57)【要約】
【課題】使用に際して均一なクリップ力を得ることができる合成樹脂製血管用クリップの製造方法及び合成樹脂製血管用クリップを提供する。
【解決手段】熱可塑性の合成樹脂材で一体に成形される合成樹脂製血管用クリップ10は、輪状の摘み部11と、摘み部11の各端部11a、11bから外側に広がるように延びる長片部としてのクリップ片12、13とを有している。クリップ片12、13を摘み部11の樹脂弾性に抗して交差させ、各端部11a、11bに形成された開口方向が異なる凹部14、15を嵌合させて係止めする。このように組立すると、クリップ片12の把持面12aとクリップ片13の把持面13aとが、摘み部11の変形(縮径変形)による樹脂弾性の復元力で互いに当接した咬合状態となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摘み部と該摘み部から延びる長片部とを合成樹脂材で成形し、成形後に前記摘み部と前記長片部とを樹脂弾性に抗して組立することで前記長片部が咬合可能となることを特徴とする合成樹脂製血管用クリップの製造方法。
【請求項2】
前記長片部を交差させ、交差部で長片部を係止めすることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂製血管用クリップの製造方法。
【請求項3】
前記長片部の交差部にそれぞれ凹部を設け、凹部の篏合により係止めすることを特徴とする請求項2記載の合成樹脂製血管用クリップの製造方法。
【請求項4】
前記摘み部と長片部とを有する組立構成品を一対成形し、前記摘み部の裏側の突出片が互いに他方の摘み部の裏側に当接するように組立して軸部で回動可能に連結し、前記突出片の変形による樹脂弾性で前記長片部が咬合可能となることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂製血管用クリップの製造方法
【請求項5】
前記組立構成品を対称に一対成形し、前記一対の摘み部の裏側には軸部と係合凹部とを他方の摘み部側に向けてそれぞれ成形するとともに樹脂弾性を有する突出片を他方の摘み部の裏面側に向けて成形し、一対の摘み部の軸部と係合凹部を他方の摘み部側に向けて互いに軸着して回動自在に組立することで、突出片による樹脂弾性を相互の摘み部の裏側に付与して長片部が咬合可能となることを特徴とする請求項1又は請求項4記載の合成樹脂製血管用クリップの製造方法。
【請求項6】
前記係合凹部が突出片の基端に半円形状に成形されていることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の合成樹脂製血管用クリップの製造方法。
【請求項7】
樹脂弾性を生じさせる部位を避けて成形金型のゲート部が配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の合成樹脂製血管用クリップの製造方法。
【請求項8】
合成樹脂材で一体成形された摘み部と該摘み部から延びる長片部とが備えられ、樹脂弾性によって前記長片部が咬合可能に構成されていることを特徴とする合成樹脂製血管用クリップ。
【請求項9】
摘み部が膨出するコ字形でかつコ字形の両端から一対の長片部が延長され、前記摘み部への押圧により前記長片部が交差して係止めされることを特徴とする請求項8記載の合成樹脂製血管用クリップ。
【請求項10】
一対の長片部の交差部にそれぞれ凹部が設けられ、凹部同士の嵌合によって係止めされていることを特徴とする請求項9記載の合成樹脂製血管用クリップ。
【請求項11】
摘み部と長片部とからなる一対の組立構成品から組立され、前記摘み部の裏側には他方の摘み部の裏側に向けて設けられる突出片による樹脂弾性を相互の摘み部の裏側に付与することで長片部が咬合可能に構成されていることを特徴とする請求項8記載の合成樹脂製血管用クリップ。
【請求項12】
摘み部と長片部とからなる対称の組立構成品から組立され、前記摘み部の裏側にはそれぞれに設けられる軸部と係合凹部とが他方の摘み部側に向けて互いに軸着されているとともに、前記摘み部の裏側には他方の摘み部の裏側に向けて設けられる突出片による樹脂弾性が相互の摘み部の裏側に付与されることで長片部が咬合可能に構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項11記載の合成樹脂製血管用クリップ。
【請求項13】
X線不透過マーカーが付与されていることを特徴とする請求項8乃至請求項12のいずれか1項に記載の合成樹脂製血管用クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳動脈瘤等の血管閉塞用のクリッピング等に用いられる合成樹脂製血管用クリップの製造方法及び合成樹脂製血管用クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤等の血管用のクリップとしては、従来よりコイルバネ構成を有する金属又は金属合金製のものが知られている。しかしながら、金属又は金属合金は磁気特性を有しているため、近年の診断手法として普及している磁気共鳴映像法(MRI)の画像を劣化させる問題を抱えている。
この問題に対処すべく、特許文献1には、高い非磁性を有するコバルト合金やチタン製の脳動脈瘤クリップが提案されている。
特許文献2には、MRI等で生じる強力な電磁界の作用を受けず生体に対しても無害な合成樹脂又はセラミックからなる大脳動脈瘤クリップが開示されている。特許文献2の図1は、米国特許明細書第4943298号からの引用である。
【0003】
合成樹脂又はセラミックからなるクリップはその材質により、X線やMRIの検査に影響を及ぼさない利点を有している。
特許文献2に開示されている合成樹脂製のクリップも上記金属製のものと同様に、クリップ力はコイルバネ構成で得るようになっており、例えばコイルバネ構成を含めて合成樹脂材で一体成形されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−199750号公報
【特許文献2】特表平11−513292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合成樹脂材あるいは金属による一体成形では、成形されるクリップの形状は成形金型内で形状が決められた静的なものであり、クリップ力は成形後に把持部分をクリップ鉗子等で開くことによるコイルバネ構成の変形によってはじめて発現する。
このため、血管に傷を付けないように微小な面間で把持するこの種のクリップでは、一体成形後に外力が作用しない状態で把持部分に閉じ力(クリップ力)を付与することは極めて困難である。
脳動脈瘤等のクリッピング手術では均一なクリップ力が要求されるが、上記のように成形後に把持部をコイルバネの付勢力に抗して開くことによりクリップ力を発現させる従来構成では、成形精度によって把持部の閉じ状態が不均一となり、これがクリップ力を変化させる要因となる虞がある。
【0006】
一方、クリップ力をコイルバネ構成で得る方式では、上記のように把持部を開くことによってクリップ力を発現させるため、脳動脈瘤等の手術領域の狭小さを考慮すると指で操作するのは不可能に近く、クリップを開閉するための鉗子が必須となる。
脳動脈瘤等の外科手術では、狭小範囲での精密な手の動きが要求されるため、クリップのサイズは手術視界を遮らない観点からできるだけ小さい方が望ましい。
しかしながら、クリップ力をコイルバネ構成で得る方式では、コイルバネ構成がその軸方向に嵩張りを有することを避けられないため、それに伴って鉗子も大きくなり、手術視界を遮る度合いが大きくなる。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みて創案されたもので、使用に際して均一なクリップ力を得ることができる合成樹脂製血管用クリップの製造方法及び合成樹脂製血管用クリップの提供をその目的とする。
また、本発明は、クリップの小サイズ化を実現でき、ひいては手術の精度向上に寄与する合成樹脂製血管用クリップの製造方法及び合成樹脂製血管用クリップの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、一体成形後に組立することによって成形後外力が作用しない状態で把持部の閉じ力が生じる構成とすることとした。
【0009】
具体的には、請求項1記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、摘み部と該摘み部から延びる一対の長片部とを合成樹脂材で成形し、成形後に前記摘み部と前記長片部とを樹脂弾性に抗して組立することで前記長片部が咬合可能となることを特徴とする。
樹脂弾性に抗して組立するため、その復元力で把持部としての長片部が樹脂弾性の作用下で咬合し、常に一定の咬合クリップ力が得られる。
【0010】
請求項2記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、長片部を交差させ、交差部で長片部を係止めすることを特徴とする。
長片部の交差部で係止めすることにより、長片部の咬合状態が一定に維持される。
【0011】
請求項3記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、前記長片部の交差部にそれぞれ凹部を設け、凹部の篏合により係止めすることを特徴とする。
凹部同士が互いに嵌合する構成に成形することにより、摘み部の各端部の厚みを減じた略同一面状での咬合クリップが得られるうえに、係止め構成の嵩張りが抑制される。
【0012】
請求項4記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、前記摘み部と長片部とを有する組立構成品を一対成形し、前記摘み部の裏側の突出片が互いに他方の摘み部の裏側に当接するように組立して軸部で回動可能に連結し、前記突出片の変形による樹脂弾性で前記長片部が咬合可能となることを特徴とする。
一対の組立構成品で成形することにより、突出片の樹脂弾性を利用して長片部での咬合クリップ力が得られ、所謂X型の樹脂製クリップを製造可能となる。
【0013】
請求項5記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、摘み部と長片部とを有する組立構成品を対称に一対成形し、前記摘み部の裏側には軸部と係合凹部とを他方の摘み部側に向けてそれぞれ成形するとともに樹脂弾性を有する突出片を他方の摘み部の裏面側に向けて成形し、一対の摘み部の軸部と係合凹部を他方の摘み部側に向けて互いに軸着して回動自在に組立することで、突出片による樹脂弾性を相互の摘み部の裏側に付与して長片部が咬合可能となることを特徴とする。
一対の対称構成品の成形で足り、対称構成品の容易に組合せする。対称構成品は組立み合わせるときに互いに軸着するとともに、突出片が押し込まれて変形し、突出片の変形による樹脂弾性で長片部が閉じて咬合する。
【0014】
請求項6記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、係合凹部が突出片の基端に半円形状に成形されていることを特徴とする。
突出片の基端の半円形の係合凹部に軸部を組付けすることにより、容易に回動自在な軸受部が形成され、併せて樹脂弾性が活用される。
【0015】
請求項7記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップの製造方法は、樹脂弾性を生じさせる部位を避けて成形金型のゲート部が配置されていることを特徴とする。
樹脂弾性を生じさせる部位を避けて成形金型のゲート部が配置されることにより、ゲート部で生じる配向の違いや応力集中の影響が回避され、摘み部の劣化が抑制される。
【0016】
請求項8記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、合成樹脂材で一体成形された摘み部と該摘み部から延びる長片部とが備えられ、樹脂弾性によって前記長片部が咬合可能に構成されていることを特徴とする。
摘み部の押圧等の操作によって長片部の咬合を離間させることができ、指でのクリップ開閉が可能となる。
【0017】
請求項9記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、摘み部が膨出するコ字形でかつコ字形の両端から一対の長片部が延長され、前記摘み部への押圧により前記長片部が交差して係止めされることを特徴とする。
長片部を交差させ、摘み部への押圧により交差部の長片部が離間する間隙で係止めすることにより、長片部の咬合状態が一定に維持される。
【0018】
請求項10記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、一対の長片部の交差部にそれぞれ凹部が設けられ、凹部同士の篏合によって係止めされていることを特徴とする。
凹部同士が互いに嵌合する構成により、摘み部の各端部の厚みを減じた略同一面状での咬合が可能となるうえに、係止め構成の嵩張りが抑制される。
【0019】
請求項11記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、摘み部と長片部とからなる一対の組立構成品から組立され、前記摘み部の裏側には他方の摘み部の裏側に向けて設けられる突出片による樹脂弾性を相互の摘み部の裏側に付与することで長片部が咬合可能に構成されていることを特徴とする。
一対の組立構成品で成形することにより、バネ等の金属部品を用いることなく突出片の樹脂弾性を活かし、長片部での咬合クリップ力が得られる。
【0020】
請求項12記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、摘み部と長片部とからなる対称の組立構成品から組立され、前記摘み部の裏側にはそれぞれに設けられる係合凸部と係合凹部とが他方の摘み部側に向けて互いに軸着されているとともに、前記摘み部の裏側には他方の摘み部の裏側に向けて設けられ樹脂弾性を有する突出片による樹脂弾性を相互の摘み部の裏側に付与されることで長片部が咬合可能に構成されていることを特徴とする。
一対の対称の組立構成品を組み合わせるときに互いに軸着されると同時に、突出片が押し込まれて変形し、突出片の変形による樹脂弾性で長片部が閉じて咬合可能となる。
【0021】
請求項13記載の発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、X線不透過マーカーが付与されていることを特徴とする。
X線不透過マーカーの存在により体内で措置した場合のクリップ位置がCTスキャン等で容易に確認される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、使用に際して均一なクリップ力が得られる合成樹脂製血管用クリップを製造することができる。
また、本発明によれば、コイルバネ構成を含まないためクリップの小サイズ化を実現でき、手術の精度向上に寄与できる合成樹脂製血管用クリップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップの組立する前の状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は斜視図、(c)は(a)の矢印X方向から見た側面図である。
図2】第1の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップの組立後の状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
図3】第1の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップを開く操作をした状態を示す図である。
図4】第2の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップの分解斜視図である。
図5】第2の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップを示す図で、(a)は合成樹脂製血管用クリップを構成する組立構成品の一方の平面図、(b)は他方の組立構成品の平面図である。
図6】第2の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップを示す図で、(a)は組立した後の平面図、(b)は合成樹脂製血管用クリップを開く操作をした状態を示す平面図である。
図7】第3の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップを示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
まず、図1乃至図3に基づいて、第1の実施形態を説明する。
すなわち、図1は、合成樹脂材により成形金型で一体成形された後にランナから切り離した状態の合成樹脂製血管用クリップ10の形状を示している。換言すれば、クリップ機能を呈する前の状態を示している。
【0025】
合成樹脂製血管用クリップ10は、一部が欠けた輪状乃至膨出するコ字形を有する摘み部11と、摘み部11の各端部11a、11bから外側に向かって広がるように離間して延びる長片部としてのクリップ片12、13とを有している。
合成樹脂製血管用クリップ10は、摘み部11とこれから延びる一対のクリップ片12,13とからなる構成が摘み部で連結されて一体成形された形状を有している。
摘み部11の形状は本例に限定されず、可撓性を有し、組立した後に後述するクリップ片12、13間の閉じ力を発現させることができればよい。
【0026】
図1(b)に示すように、摘み部11の端部11aには下向きに開口する凹部14が摘み部11の厚みを減じて形成され、摘み部11の端部11bには上向きに開口する凹部15が摘み部11の厚みを減じて形成されている。
クリップ片12の外側には平坦な把持面12aが形成されており、同様にクリップ片13の外側には平坦な把持面13aが形成されている。クリップ片12、13は図示しないが、把持に適する粗面等の面形状が望ましく、把持面を除く部分は適宜なカット面とされている。
【0027】
合成樹脂製血管用クリップ10を使用可能な状態にするには、図1に示す状態から、クリップ片13に対してクリップ片12を上方にずらす。次に、摘み部11の樹脂弾性に抗してクリップ片12、13を交差させ、クリップ片12、13の位置を入れ替えた状態で係止めする。
このように組立すると、図2に示すように、クリップ片12の把持面12aとクリップ片13の把持面13aとが、摘み部11の変形(縮径変形)による樹脂弾性の復元力F1で互いに当接した咬合状態となる。
【0028】
摘み部11の端部11a、11bが交差する交差部では凹部14と凹部15との嵌合によって一対のクリップ片12、13が係止めされている。
開口の向きが逆の凹部14と凹部15は互いに入り込んで嵌合しているため、クリップ片12、13を上下方向にずらして外れる方向に作用する力は組立後においても働かない。
従って、凹部14と凹部15との嵌合による係止め構成は、クリップ片12、13を開閉する摘み部11の操作時には可動交差軸ともいうべき機能を呈する。
各凹部14、15の深さは、交差・組立がなされた状態で、図1(c)に示すように、交差部での厚みの変化が生じないように、すなわち摘み部11の厚みと同等になるように設定されている。
凹部14、15の開口の向きは本実施形態に限定されず、摘み部11の端部11a、11bにおいて相対的に形成される。
【0029】
図示しないが、凹部14,15にはクリップ片側から凹部面上に延びるはずれ止めを設けることができる。はずれ止めは、クリップ片12,13の動作を許容するように凹部面から浮上して凹部開口に向けて僅かに突出され、これによって摘み部11への変位押圧による外れが阻止される。
【0030】
図2(a)に示すように、クリップ片12、13が閉じた状態において、凹部15と端部11aとの間には可動余裕幅m1が存在し、図2(b)に示すように、凹部14と端部11bとの間には可動余裕幅m2(=m1)が存在する。
図3に示すように、摘み部11を人差し指Y1と親指Y2で摘んで押圧操作すると、摘み部11が撓んで摘み部11の端部11a、11bがそれぞれ凹部15、凹部14内で位置ずれし、クリップ片12、13が離間してクリップ可能となる。
把持対象(例えば脳動脈瘤)の血管をクリップした後に、指による押圧力を緩めると摘み部11の樹脂弾性(復元力)によって把持対象は閉塞状態にクリップされる。
【0031】
上記のように、合成樹脂製血管用クリップ10は、樹脂弾性に抗して組立するため、クリップ片12、13は樹脂弾性(復元力)の作用下で咬合する。このため、成形精度が変化しても一定の咬合状態(均一なクリップ力)が得られる。
なお、各図においては分かりやすくするため、合成樹脂製血管用クリップ10を拡大して表示しているが、実際には、図2(a)に示すように、W≒7mm、L≒20mm程度のサイズである。
【0032】
第1の実施形態では成形後に組立することにより、樹脂弾性でクリップ片12、13が閉じた構成としているので、摘み部11を押圧する操作でクリップ片12、13の開閉が可能となる。すなわち指でのクリップ開閉操作が可能となる。指による操作は、部材を開く方向には困難を伴うが、縮める方向には容易である。
クリップを開閉するための鉗子が不要となるため、狭小範囲での精密な手の動きが要求される脳動脈瘤等のクリッピング手術においては、手術視界の遮蔽度が極力低くなるため、コイルバネ構成を有する従来構成に対して非常に有利となる。
また、非巻回形状の摘み部11は平面的でコイルバネ構成に比べて嵩張りが生じないため、構成上からも手術視界の遮蔽度低下に寄与している。
勿論、第1の実施形態の合成樹脂製血管用クリップ10においても、鉗子でクリップの開閉操作を行ってもよい。
【0033】
第1の実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップ10は、上記のように必要なときに任意に組立して使用できるので、通常は図1に示す成形後の状態で流通させることができる。このようにすれば、使用可能な形状で流通させる場合に比べて流通段階での損傷等の懸念を解消できるとともに、使用前から樹脂弾性が作用している状態での経時での弾性力低下を防止することができる。
成形においては、実質的に樹脂弾性を生じさせる部位を避けて成形金型のゲート部が配置される。具体的には、図1(a)に示すように、凹部14の近傍Ga又は凹部15の近傍Gbにゲート部を配置している。ゲート部では配向の違いや応力集中が生じやすく、繰り返される摘み部11の操作によって摘み部11が折れたりする懸念がある。ゲート部の位置を、実質的に樹脂弾性を生じさせる部位を避けて配置することにより、摘み部11の早期劣化を抑制することができる。
【0034】
合成樹脂製血管用クリップ10には適宜の箇所、例えば図1(a)に示す位置に、X線不透過マーカー16が付与されている。これにより、CTスキャン等で体内の合成樹脂製血管用クリップ10の位置を正確に確認することができる。
【0035】
本発明の合成樹脂製血管用クリップ10を製造するための合成樹脂材としては、結晶性又は非結晶性の熱可塑性合成樹脂が用いられる。
結晶性の熱可塑性合成樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリ乳酸(PLA)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン樹脂(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート等から選択される。
非結晶性の熱可塑性合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0036】
第1の実施形態においては、クリップ片12,13が直線状であることを前提としているが、バナナのような湾曲形、先端のみを跳ね上げる先端跳ね上げ形、又は左右への曲り形等、動脈瘤の部位や手術手法等に応じて設計可能である。クリップ片12,13はいかなる形状においても把持面での閉塞機能を損なうものではない。
【0037】
図4乃至図6に基づいて第2の実施形態を説明する。
第1の実施形態では、合成樹脂製血管用クリップ10が成形段階で一体物の形状を有していたが、本実施形態における合成樹脂製血管用クリップ17は、成形段階においては分離したセパレートタイプである。
図4に示すように、分割片17Aは、摘み部20Aと、該摘み部20Aから延びる長片部としてのクリップ片21Aとを有している。
摘み部20Aの内側には、摘み部20Aの上部に形成された収容凹部22Aと、上下方向に延びる柱状の係合凸部23Aと、摘み部20Aの下部に形成された突出片24Aとが備えられている。
係合凸部23Aは後述する分割片17B側の係合凹部を嵌合しやすいように上端縁が周方向に亘って面取りされており、下端部は機能的に不要な部分を少なくする観点から斜めにカットされている。
突出片24Aは、摘み部20Aから離れるようにクリップ片21Aとは反対向きに斜めに延びている。換言すれば、突出片24Aはクリップ片21Aの延びる方向に対して角度を有して延びている。
クリップ片21Aの把持面25Aにはクリップ力を強めるための多数の微小突起26Aが形成されている。勿論、微小突起26Aは必須ではなく、粗面構成でもよい。
摘み部20Aの外側には、操作用凹部27Aが形成されている。
【0038】
分割片17Bは、摘み部20Bと、該摘み部20Bから延びる長片部としてのクリップ片21Bとを有している。
摘み部20Bの内側には、摘み部20Bの上部に形成され、組立するときに分割片17Aの収容凹部22Aに収容される突出片24Bと、突出片24Bと摘み部20Bとの間に形成され、分割片17Aの係合凸部23Aに嵌合する円筒状の係合凹部23Bと、摘み部20Aの下端部に形成され、分割片17Aの突出片24Aを収容する収容凹部22Bとが備えられている。
【0039】
突出片24Bは、摘み部20Bから離れるようにクリップ片21Bとは反対向きに斜めに延びている。換言すれば、突出片24Bはクリップ片21Bの延びる方向に対して角度を有して延びている。
クリップ片21Bの把持面25Bにはクリップ力を強めるための多数の微小突起26Bが形成されている。
摘み部20Bの外側には、操作用凹部27Bが形成されている。
係合凸部23Aと係合凹部23Bは、摘み部20Aと摘み部20Bとの間において相対的に形成される。
図5(a)は、分割片17Aの平面図、図5(b)は分割片17Bの平面図である。
【0040】
合成樹脂製血管用クリップ17を使用可能な状態にするには、図5に示すように、分割片17Aの係合凸部23Aに分割片17Bの係合凹部23Bを上方から嵌合するように組立する。
この場合、それぞれの突出片24A、24Bを変形させながら押し込んで対応する収容凹部22B、22Aに収容する。すなわち、突出片24A、24Bが互いに相手方に当接するように組み合わせる。
分割片17Aの係合凸部23Aに分割片17Bの係合凹部23Bが嵌合すると係合凸部23Aと係合凹部23Bとにより軸部が形成され、分割片17Aと分割片17Bは該軸部によって回動可能に連結される。
【0041】
図6(a)は連結後の合成樹脂製血管用クリップ17の平面図である。各突出片24A、24Bは強制的に変形されて押し込まれているため、分割片17Aのクリップ片21Aの把持面26Aと、分割片17Bのクリップ片21Bの把持面26Bとが、突出片24A、24Bの変形による樹脂弾性の復元力F2で互いに当接した咬合状態となる。
合成樹脂製血管用クリップ17は、樹脂弾性に抗して組立するため、クリップ片21A、21Bは樹脂弾性(復元力)の作用下で咬合する。このため、成形精度が変化しても一定の咬合状態(均一なクリップ力)が得られる。
【0042】
図6(b)に示すように、操作用凹部27Aと操作用凹部27Bを人差し指Y1と親指Y2で摘んで押圧操作すると、突出片24A、24Bが撓んでクリップ片21A、21Bが離間してクリップ可能となる。
把持対象(例えば脳動脈瘤)の血管をクリップした後に、指による摘み力を緩めると突出片24A、24Bの樹脂弾性(復元力)によって把持対象はクリップされる。
【0043】
第1の実施形態と同様に、本実施形態では成形後に組立することにより、樹脂弾性でクリップ片21A、21Bが閉じた構成としているので、摘み部20A、20Bを押圧する操作でクリップ片21A、21Bの開閉が可能となる。すなわち指でのクリップ開閉操作が可能となる。
クリップを開閉するための鉗子が不要となるため、狭小範囲での精密な手の動きが要求される脳動脈瘤等のクリッピング手術においては、手術視界の遮蔽度が極力低くなるため、非常に有利となる。
勿論、本実施形態の合成樹脂製血管用クリップ17においても、鉗子でクリップ開閉してもよい。
【0044】
図7に基づいて、第2の実施形態で示したセパレートタイプの変形例を説明する。
分割片17Aにおける円柱状の係合凸部23Aの高さは図5の場合よりも低く設定されており、突出片24Aと摘み部20Aとの間には円柱空間状の係合凹部28Bが形成されている。分割片17Bには、収容凹部22Bの部位に係合凸部23Aと同一形状の係合凸部28Bが形成されている。
すなわち、分割片17Aと分割片17Bとにおいて、係合凸部と係合凹部の組み合わせが上下を逆にして相対的に形成されている。
【0045】
分割片17Bを分割片17Aの上方に位置させ、係合凹部23Bを係合凸部23Aに、係合凸部28Bを係合凹部28Aに対応させた状態で、突出片24A、24Bを押し込みながら嵌合させることで、分割片17Aと分割片17Bが組立される。
分割片17Aの係合凸部23Aに分割片17Bの係合凹部23Bが嵌合し、分割片17Aの係合凹部28Aに分割片17Bの係合凸部28Bが嵌合すると、係合凸部23Aと係合凹部23B及び係合凸部28Bと係合凹部28Aとにより軸部が形成され、分割片17Aと分割片17Bは該軸部によって回動可能に連結される。
【0046】
分割片17Aと分割片17Bとを連結する軸部の構成について、本実施形態では係合凸部23Aにその上方から係合凹部23Bを嵌合する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば柱状の係合凸部に拡径可能に形成された係合凹部を水平方向から強制的嵌め込む構成としてもよい。
【0047】
本実施形態の合成樹脂製血管用クリップ17を製造するための合成樹脂材としては、第1の実施形態と同様の材料を挙げることができる。
本実施形態においても第1の実施形態と同様に、成形においては、実質的に樹脂弾性を生じさせる部位を避けて成形金型のゲート部が配置される。すなわち、突出片24A、24Bを避けてゲート部が配置される。
また、図示しないが、第1の実施形態と同様に、合成樹脂製血管用クリップ17には適宜の箇所にX線不透過マーカーが付与されている。これにより、CTスキャン等で体内の合成樹脂製血管用クリップ17の位置を正確に確認することができる。
【0048】
本実施形態に係る合成樹脂製血管用クリップ17は、必要なときに任意に組立して使用できるので、通常は図4に示す成形後の状態で流通させることができる。このようにすれば、使用可能な形状で流通させる場合に比べて流通段階での損傷等の懸念を解消できるとともに、使用前から樹脂弾性が作用している状態での経時での弾性力低下を防止することができる。
【0049】
上記各実施形態では、脳動脈瘤のクリップとして例示したが、本発明に係る合成樹脂製血管用クリップは、他の部位の血管においても同様に用いることができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
10、17 合成樹脂製血管用クリップ
11、20A、20B 摘み部
12、13、21A、21B 長片部としてのクリップ片
14、15 凹部
16 X線不透過マーカー
23A 係合凸部
23B 係合凹部
24A、24B 突出片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7