【解決手段】時刻t22において、ベース電圧Vbの上昇状態が第1基準値以上になる磁気吹きの早期段階になったときは、第1ベース電流値Ib1に増加させる。時刻t23において、ベース電圧Vbの上昇状態が第2基準値以上になる磁気吹きの中期段階になったときは第2ベース電流値Ib2に増加させる。これにより、磁気吹きの早期段階でベース電流Ibを予備的に増加させるので、磁気吹きが中期段階に進行したときのベース電流Ibの増加速度を速くすることができる。このために、インダクタンス値が大きな場合でも、アーク切れを防止することができる。
溶接ワイヤを送給し、ピーク電流及びピーク電圧を出力するピーク期間とベース電流及びベース電圧を出力するベース期間とを繰り返し、アークが発生しているときの前記ベース電圧の上昇に基づいて前記ベース電流を増加させて磁気吹きに対処するパルスアーク溶接制御方法において、
前記ベース電圧の上昇状態が第1基準値以上になったときは前記ベース電流を第1ベース電流値に増加させ、前記ベース電圧の上昇状態が前記第1基準値よりも大きな値の第2基準値以上になったときは前記ベース電流を前記第1ベース電流値よりも大きな値の第2ベース電流値に増加させる、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
【背景技術】
【0002】
消耗電極パルスアーク溶接では、溶接ワイヤを送給し、ピーク電流及びピーク電圧を出力するピーク期間と、ベース電流及びベース電圧を出力するベース期間とを繰り返して溶接が行われる。ピーク電流は500A程度の大電流値に設定され、溶接ワイヤを溶融して溶滴の形成及び移行が行われる。ベース電流は30A程度に設定され、溶接ワイヤはほとんど溶融しない。パルスアーク溶接では、1回のピーク電流の通電によって1つの溶滴を移行させる1パルス1溶滴移行の状態を維持することが、スパッタの発生の少ない高品質の溶接ビードを得るために重要である。
【0003】
鉄鋼等のパルスアーク溶接においては、母材を通電する溶接電流によってアーク発生部の周辺に磁界が形成されて、この磁界からアークは力を受けて変形する場合がよくある。このような状態を、一般的に磁気吹き又はアークブローと呼んでいる。磁気吹きの発生状態がひどくなると、アークは大きく変形してアーク長が非常に長くなり、アークを維持することができなくなり、アーク切れを発生することになる。アーク切れが発生すると、溶接品質は悪くなる。このために、パルスアーク溶接においては、磁気吹き対策は大きな課題である。
【0004】
特許文献1の発明では、ベース期間中にアークが発生しているときのベース電圧の上昇率が基準上昇率以上になったことを検出して磁気吹きが発生したと判別し、ベース電流を200A以上に急増する磁気吹き対処制御を行っている。磁気吹きは、電流値が小さいためにアークの硬直性が弱くなるベース期間中に発生する。磁気吹きによってアーク長が長くなると、アーク電圧(ベース電圧)が大きくなることを利用して、磁気吹きの発生を判別している。また、ベース電流を増加させると、アークの硬直性が強くなり、磁界から力を受けてもアークの変形を抑制することができる。この結果、アーク切れを防止することができる。このときに、ベース電流は急増させる必要がある。この理由は、磁気吹きは一定のレベルを超えると急速に進行するので、ベース電流の増加が緩やかであると、アークの変形を抑制することができないからである。
【0005】
溶接電源の内部には溶接電圧を平滑するための内部リアクトルが設けられている。また、溶接電源と溶接トーチ又は母材とを結ぶ溶接用ケーブルの引き回しによって外部リアクトルが形成される。これらのリアクトルは、溶接電流の通電路(以下、単に通電路という場合がある)に挿入されているので、溶接電流の変化を緩やかにすることになる。これ以降の説明において、リアクトルと記載した場合は、内部リアクトルと外部リアクトルとを合わせたものを意味している。リアクトルのインダクタンス値が大きくなるほど溶接電流の変化は緩やかになる。溶接用ケーブルが長いときに、引き回し状態によってインダクタンス値は大きくなる。また、内部リアクトルとして可飽和リアクトルを使用する場合がある。可飽和リアクトルは、電流飽和値以下の電流範囲ではインダクタンス値が非常におおきくなり、飽和電流値よりも大きな電流範囲ではインダクタンス値が非常に小さくなる静謐を有している。可飽和リアクトルは、飽和電流値が通常のベース電流値よりも少し大きな値となるように設計される。この結果、ベース電流が通電するときのインダクタンス値が大きくなるために、通電状態が安定化する。そして、飽和電流値よりも大きな電流範囲ではインダクタンス値が小さくなるので、ベース電流からピーク電流への変化率を大きな値に設定することができる。
【0006】
溶接電流の通電路のインダクタンス値が大きい場合には、磁気吹きを判別してベース電流を増加させるときの増加率が緩やかになる。この結果、上述した従来技術では、磁気吹きの進行に対してベース電流の増加が遅れるために、アーク切れを抑制することができないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、溶接電流の通電路のインダクタンス値が大きな場合でも、磁気吹きによるアーク切れを抑制することができるパルスアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、ピーク電流及びピーク電圧を出力するピーク期間とベース電流及びベース電圧を出力するベース期間とを繰り返し、アークが発生しているときの前記ベース電圧の上昇に基づいて前記ベース電流を増加させて磁気吹きに対処するパルスアーク溶接制御方法において、
前記ベース電圧の上昇状態が第1基準値以上になったときは前記ベース電流を第1ベース電流値に増加させ、前記ベース電圧の上昇状態が前記第1基準値よりも大きな値の第2基準値以上になったときは前記ベース電流を前記第1ベース電流値よりも大きな値の第2ベース電流値に増加させる、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項2の発明は、前記第1ベース電流値を、前記ベース電流の通電路のインダクタンス値に応じて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接制御方法である。
【0011】
請求項3の発明は、前記第1ベース電流値を、前記ベース電流の通電路に設けられた可飽和リアクトルの電流飽和値よりも大きな値に設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベース電圧の上昇状態が第1基準値以上となる磁気吹き発生状態が早期の段階であるときに、ベース電流を増加させている。これにより、通電路のインダクタンス値が大きい場合でも、ベース電圧の上昇状態が第2基準値以上となる磁気吹き発生状態が中期の段階に進行した時点で、ベース電流を急速に増加させることができる。このために、本発明では、溶接電流の通電路のインダクタンス値が大きな場合でも、磁気吹きによるアーク切れを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電源主回路MCは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御、サイリスタ位相制御等の出力制御を行い、溶接に適した出力電圧を出力する。
【0017】
リアクトルWLは、電源主回路MCの出力に設けられ、出力電圧を平滑する。リアクトルWLとして、可飽和リアクトルが使用される場合がある。可飽和リアクトルは、通電する電流値が飽和電流値未満のときはインダクタンス値がおおきくなり、飽和電流値以上のときはインダクタンス値は小さくなる。ベース電流Ibの通常値は20〜50A程度であるので、飽和電流値が50A程度になるように可飽和リアクトルは設計される。
【0018】
溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータ(図示は省略)に結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0019】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均化回路VAVは、上記の電圧検出信号Vdを平均化して、電圧平均信号Vavを出力する。電圧設定回路VRは、所望値の電圧設定信号Vrを出力する。
【0020】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと上記の電圧平均信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。V/FコンバータVFは、上記の電圧誤差増幅信号Evに応じた周波数を有するパルス周波数信号Tfを出力する。このパルス周波数信号Tfは、ピーク期間とベース期間とを1周期とする周波数を決定する信号である
【0021】
ピーク期間タイマ回路TTPは、上記のパルス周波数信号Tfの周波数ごとに予め定めたピーク期間TpだけHighレベルとなるピーク期間信号Ttpを出力する。したがって、このピーク期間信号Ttpは、ピーク期間Tp中はHighレベルとなり、ベース期間中はLowレベルとなる信号である。
【0022】
アーク判別回路ADは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値に基づいてアーク発生状態であるかを判別してHighレベルとなるアーク判別信号Adを出力する。
【0023】
ベース電圧上昇状態検出回路DVは、上記のピーク期間信号Ttp、上記のアーク判別信号Ad及び上記の電圧検出信号Vdを入力として、ピーク期間信号TtpがLowレベル(ベース期間Tb)であり、かつ、アーク判別信号AdがHighレベル(アーク発生状態)であるときの電圧検出信号Vd(ベース電圧)の上昇状態を検出して、ベース電圧上昇状態検出信号Dvを出力する。ベース電圧上昇状態検出信号Dvは、例えば以下のようにして算出される。
1)ベース期間中のアーク発生状態における電圧検出信号Vdの上昇率(微分地)
2)予め定めた基準ベース電圧値からの、ベース期間中のアーク発生状態における電圧検出信号Vdの上昇値(差分値)
3)ベース期間中のアーク発生状態における電圧検出信号Vdの絶対値
【0024】
第1判別回路HB1は、上記のベース電圧上昇状態検出信号Dv及び上記のピーク期間信号Ttpを入力として、ベース電圧上昇状態検出信号Dvの値が予め定めた第1基準値以上になるとHighレベルにセットされ、その後にピーク期間信号TtpがHighレベルになるとLowレベルにリセットされる第1判別信号Hb1を出力する。第2判別回路HB2は、上記のベース電圧上昇状態検出信号Dv及び上記のピーク期間信号Ttpを入力として、ベース電圧上昇状態検出信号Dvの値が予め定めた第2基準値以上になるとHighレベルにセットされ、その後にピーク期間信号TtpがHighレベルになるとLowレベルにリセットされる第2判別信号Hb2を出力する。ここで、第1基準値<第2基準値である。第1基準値は、ベース電圧の上昇状態が磁気吹き発生状態の早期の段階にあることを判別するための基準値である。第2基準値は、ベース電圧の上昇状態が磁気吹き発生状態の中期の段階にあることを判別するための基準値である。磁気吹き発生状態が早期の段階にあるときは、アークの変形は小さくアーク長も少し長くなった状態であり、まだアーク切れを発生するおそれはない。しかし、磁気吹き発生状態が中期の段階になると、アークの変形が加速的に進行し、アーク長も急速に長くなり、直ぐにでもアーク切れが発生するおそれがある。従来技術では、この中期の段階のみを判別していた。
【0025】
通常ベース電流設定回路IBSRは、予め定めたベース電流の通常値を設定するための通常ベース電流設定信号Ibsrを出力する。通常ベース電流設定信号Ibsrの設定範囲は、20〜50A程度である。
【0026】
第1ベース電流設定回路IB1Rは、予め定めた第1ベース電流設定信号Ib1rを出力する。第1ベース電流設定信号Ib1rは、通常ベース電流設定信号Ibsrよりもおおきな値であり、かつ、第2ベース電流設定信号Ib2rよりも小さな値に設定される。第1ベース電流設定信号Ib1rは、通電路のインダクタンス値がおおきいほどおおきな値に設定される。これは、インダクタンス値が大きくなるほど第2ベース電流の立ち上がり速度が緩やかになるので、第1電流値を大きくして、アーク切れを抑制するためである。リアクトルWLが可飽和リアクトルである場合には、第1ベース電流設定信号Ib1rは飽和電流値よりも10〜30A程度大きな値に設定される。この場合には、第1ベース電流が飽和電流値を超えているので、第2ベース電流の立ち上がり速度は速いからである。また、第1ベース電流設定信号Ib1rは、溶接ワイヤを溶融して溶滴形成状態が不安定になる値未満に設定される。第1ベース電流設定信号Ib1rの設定範囲は、60〜100A程度である。
【0027】
第2ベース電流設定回路IB2Rは、予め定めた第2ベース電流設定信号Ib2rを出力する。第2ベース電流設定信号Ib2rは、200A以上であり、ピーク電流設定信号Ipr以下に設定される。第2ベース電流設定信号Ib2rは、磁気吹き発生状態が中期の段階になり、急速に進行するアークの変形を抑制することができる値に設定される。
【0028】
ベース電流設定回路IBRは、上記の第1判別信号Hb1、上記の第2判別信号Hb2、上記の通常ベース電流設定信号Ibsr、上記の第1ベース電流設定信号Ib1r及び上記の第2ベース電流設定信号Ib2rを入力として、以下の処理を行い、ベース電流設定信号Ibrを出力する。
1)Hb1=LowレベルかつHb2=Lowレベルのとき(磁気吹きが発生していないとき)はIbr=Ibsrを出力する。
2)Hb1=HighレベルかつHb2=Lowレベルのとき(早期の段階)はIbr=Ib1rを出力する。
3)Hb1=HighレベルかつHb2=Highレベルのとき(中期の段階)はIbr=Ib2rを出力する。
【0029】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ピーク電流設定信号Iprは、溶接ワイヤの直径、材質、送給速度等に応じて、400〜600A程度に設定される。
【0030】
電流設定回路IRは、上記のベース電流設定信号Ibr、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のピーク期間信号Ttpを入力として、ピーク期間信号TtpがHighレベルのときはピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力し、ピーク期間信号TtpがLowレベルのときはベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力する。
【0031】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイムチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は第1判別信号Hb1の時間変化を示し、同図(D)は第2判別信号Hb2の時間変化を示す。同図は、リアクトルWLが可飽和リアクトルの場合である。以下、同図を参照して動作を説明する。
【0033】
同図は、2周期の波形を示している。第1周期は、ベース期間Tb中に磁気吹きが発生し、磁気吹きの発生状態が早期から中期へと進行した場合である。第2周期は、ベース期間Tb中に磁気吹きが発生し、磁気吹きの発生状態が早期で終息した場合である。
【0034】
(1)第1周期の動作説明
時刻t1〜t2の予め定めたピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、予め定めたピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧が印加する。ピーク電流Ipは、
図1のピーク電流設定信号Iprによって設定される。ピーク期間Tp中に、溶接ワイヤの先端が溶融されて、溶滴が形成され、ピーク期間Tpの終了前後のタイミングで溶滴は溶融池へと移行する(1パルス1溶滴移行状態)。ピーク期間Tp及びピーク電流Ipは、この1パルス1溶滴移行状態になるように設定される。
【0035】
時刻t2〜t3の期間がベース期間Tbとなる。時刻t1〜t3が1パルス周期となる。パルス周期(パルス周波数)は、溶接電圧Vwの平均値が電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにフィードバック制御(周波数変調制御)される。これにより、アーク長の平均値が適正値に維持される。
【0036】
ベース期間Tb中の時刻t2〜t21の期間中は、磁気吹きが発生していない状態であるので、同図(A)に示すように、予め定めた通常値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、略一定値となる通常値のベース電圧Vbが印加する。通常値のベース電流Ibは、
図1の通常ベース電流設定信号Ibsrによって設定される。
【0037】
時刻t21において、磁気吹きが発生したためにアークが変形してアーク長が通常状態よりも次第に長くなる。このために、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbは、時刻t21から上昇し、時刻t22において上昇状態が第1基準値以上となる。ベース電圧Vbの上昇状態は、
図1のベース電圧上昇状態検出信号Dvによって検出される。ベース電圧Vbの上昇状態が第1基準値以上となると、同図(C)に示すように、第1判別信号Hb1がHighレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは、飽和電流値未満の通常ベース電流値から大きなインダクタンス値による傾斜をゆうして第1ベース電流値Ib1へと増加する。第1ベース電流値Ib1は、
図1の第1ベース電流設定信号Ib1rによって設定される。
【0038】
時刻t23において、磁気吹きの発生状態が早期から中期へと進行したために、アークはさらに変形してアーク長がさらに長くなる。このために、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbは上昇を続け、時刻t23において上昇状態が第2基準値以上となる。ベース電圧Vbの上昇状態が第2基準値以上となると、同図(D)に示すように、第2判別信号Hb2がHighレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは、第1ベース電流値Ib1が飽和電流値よりも大きな値となっておりインダクタンス値が小さくなっているので、第2ベース電流値Ib2へと急速に増加する。第2ベース電流値Ib2は、
図1の第2ベース電流設定信号Ib2rによって設定される。
【0039】
時刻t23において、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが第2ベース電流値Ib2へと急増するために、アークの変形は抑制される。この結果、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbは、時刻t23から上昇状態が緩やかになり、その後は時刻t3まで下降状態となる。時刻t23〜t3の期間中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは第2ベース電流値Ib2を維持する。時刻t3において、次のパルス周期が開始されると、同図(C)に示す第1判別信号Hb1及び同図(D)に示す第2判別信号Hb2は共にLowレベルに戻る。
【0040】
(2)第2周期の動作説明
時刻t3〜t4のピーク期間Tpの動作は、時刻t1〜t2と同様である。さらに、時刻t4〜t41の期間の動作は、時刻t2〜t21と同様である。
【0041】
時刻t41において、磁気吹きが発生したためにアークが変形してアーク長が通常状態よりも次第に長くなる。このために、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbは、時刻t41から上昇し、時刻t42において上昇状態が第1基準値以上となる。ベース電圧Vbの上昇状態が第1基準値以上となると、同図(C)に示すように、第1判別信号Hb1がHighレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは第1ベース電流値Ib1へと傾斜をゆうして増加する。この期間の動作は、上述した第1周期と同様である。
【0042】
アークが磁界から受ける力は、溶接位置、溶接姿勢等によって変動する。ここで、磁界からアークが受ける力が、第2周期中は第1周期中よりも小さい場合である。時刻t42において、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが第1ベース電流値Ib1へと増加し、かつ、磁界からアークが受ける力が小さいために、アークの変形は抑制される。この結果、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbは、時刻t41から上昇を開始し、時刻t42では上昇を続け、時刻t42を過ぎた後に上昇状態が緩やかになり、その後は時刻t5まで下降状態となる。時刻t42〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは第1ベース電流値Ib1を維持する。時刻t5において、次のパルス周期が開始されると、同図(C)に示す第1判別信号Hb1はLowレベルに戻る。
【0043】
以下、実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法による磁気吹き対処の作用について説明する。
図2の第1周期の動作で説明したように、ベース電圧Vbの上昇状態によって磁気吹きの進行状態を早期と中期との2段階で判別している。ベース電圧Vbの上昇状態が第1基準値以上になったことによって磁気吹き発生状態が早期であることを判別して、ベース電流Ibを第1ベース電流値Ib1に増加させる。これにより、アークの変形がまだ小さくアーク長もそれほど長くなっていない磁気吹きの早期段階において、ベース電流Ibを増加させることによって磁気吹きの進行を停止又は遅延させることができる。このときの第1ベース電流値Ib1は、溶滴形成状態を不安定化させるおそれのある電流値未満に設定されている。さらに、第1ベース電流値Ib1は、可飽和リアクトルの飽和電流値よりも大きな値あるので、磁気吹き発生状態が中期の状態に進行したときに、ベース電流Ibの急速な上昇を保証することができる。可飽和リアクトルを使用していないが溶接電流の通電路のインダクタンス値が大きな場合においても、磁気吹き発生状態が早期の段階でベース電流Ibを増加させておくことで、中期の状態に進行したときのベース電流Ibの値を大きくすることができる。磁気吹き発生状態が中期の状態に進行した場合には、アーク切れの可能性が高くなるために、速やかにベース電流Ibを200A以上に増加させてアークの硬直性を強くする必要がある。したがって、ベース電圧Vbの上昇状態が第2基準値以上になったことで磁気吹き発生状態が中期の段階に進行したことを判別したときは、ベース電流Ibを第2ベース電流値Ib2へと急速に増加させている。これにより、アーク切れの発生を阻止している。従来技術では、磁気吹き発生状態が中期の状態に進行した時点で判別してベース電流Ibを200A以上に増加させていた。このために、通電路のインダクタンス値が大きい場合には、ベース電流Ibが200A以上に達するまでに時間がかかり、アーク切れが発生する場合があった。これに対して、本実施の形態では、アーク切れを確実に阻止することができる。
【0044】
図2の第2周期の動作説明のように、磁界からアークが受ける力が小さい場合には、磁気吹き発生状態の早期の段階においてベース電流Ibを増加させることによって、磁気吹き発生状態の中期の段階への進行を抑制することができる。従来技術では、早期の段階ではベース電流Ibが増加しないので、中期の段階へと進行してしまう場合が多かった。これに対して、本実施の形態では、早期の段階で進行を停止させることができるので、溶接品質が従来技術よりも向上する。
【0045】
上述した実施の形態1によれば、ベース電圧の上昇状態が第1基準値以上になったときはベース電流を第1ベース電流値に増加させ、ベース電圧の上昇状態が第1基準値よりも大きな値の第2基準値以上になったときはベース電流を第1ベース電流値よりも大きな値の第2ベース電流値に増加させる。本実施の形態では、ベース電圧の上昇状態が第1基準値以上となる磁気吹き発生状態が早期の段階であるときに、ベース電流を増加させている。これにより、通電路のインダクタンス値が大きい場合でも、ベース電圧の上昇状態が第2基準値以上となる磁気吹き発生状態が中期の段階に進行した時点で、ベース電流を急速に増加させることができる。このために、本実施の形態では、溶接電流の通電路のインダクタンス値が大きな場合でも、磁気吹きによるアーク切れを抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施の形態において、第1ベース電流値を、通電路のインダクタンス値に応じて設定しても良い。インダクタンス値が大きくなるほど第1ベース電流値を大きくなるように設定する。このようにすれば、第1ベース電流が通電しているときの溶滴形成状態を安定に保つことができる。
【0047】
さらに、本実施の形態において、第1ベース電流値を、通電路に設けられた可飽和リアクトルの電流飽和値よりも大きな値に設定する。このようにすれば、通電路に可飽和リアクトルが設けられている場合において、第1ベース電流が通電しているときの溶滴形成状態を安定に保つことができ、かつ、第2ベース電流の立ち上げ速度を速くすることができるのでアーク切れを確実に防止することができる。。