【課題】工作機械の主軸装置において、スピンドルの熱変位とスピンドルの回転の際のスピンドルとシールとの間の摩擦熱とを抑制し、工具側端部において所要の主軸径を確保できる冷却構造を実現する。
【解決手段】ハウジング1Aと、ハウジング1Aに収容され、一端部で工具を支持するスピンドル20とを備え、スピンドル20内部に流体通路24が形成された主軸装置1において、スピンドル20の他端部に流体通路24の入口と出口22が設けられる。流体通路24は、入口からスピンドル20の軸に沿って一端部まで延びる往路Aと一端部からスピンドル20の軸に沿って出口22まで延びる復路Bを有する。往路Aと復路Bは、それぞれスピンドル20の軸を中心として回転対称に設けられるか、又は、何れか一方がスピンドル20の軸と同軸に設けられるとともに他方がスピンドル20の軸を中心として回転対称に設けられる。
前記スピンドルの断面において、複数の前記往路又は複数の前記復路が前記スピンドルの軸を通る線に対して線対称に設けられたものであることを特徴とする請求項1記載の工作機械の主軸装置。
前記スピンドルの断面において、複数の前記往路又は複数の前記復路が前記スピンドルの軸を中心として点対称に設けられたものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項記載の工作機械の主軸装置。
前記スピンドルの断面において、前記往路が前記復路よりも前記スピンドルの軸の近くに位置することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の工作機械の主軸装置。
前記流体通路が、前記スピンドルの軸を含んで延びる1つの前記往路と、複数の前記復路を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の工作機械の主軸装置。
前記流体通路が、複数の前記往路と、該往路にそれぞれ連通する複数の前記復路を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の工作機械の主軸装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような流体通路においては、スピンドルの局部的な熱ムラによるスピンドルの熱変位を抑制する冷却構造が望まれている。また、高い加工性能を実現するためには、スピンドルの工具側は被加工物の加工に近い部分でスピンドルの剛性を確保することが望ましく、主軸径を大きくすることが好ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献2、3に記載の主軸装置のように、スピンドル内に冷媒の通路を設けた場合、スピンドルとハウジングとの間の工具側の出口近傍に冷媒を封止するためのシールを設ける必要がある。工具側の主軸径を大きくして、工具側にシールを設けた場合には、主軸外径における周速が大きくなってしまい、スピンドルの回転によるスピンドルとシールとの間の摩擦熱がスピンドルの発熱を招いてしまう。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、スピンドルの熱変位とスピンドルの回転の際のスピンドルとシールとの間の摩擦熱とを抑制し、工具側端部において必要な主軸径を確保できるスピンドル内の冷却構造を備えた工作機械の主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る工作機械の主軸装置は、ハウジングと、該ハウジングに収容され、一端部で工具を支持するスピンドルと、を備え、前記スピンドルの内部に前記スピンドルを冷却する冷媒を流通させるための流体通路が形成された主軸装置において、前記スピンドルの他端部に前記流体通路の入口と出口とが設けられ、前記流体通路は、前記入口から前記スピンドルの軸に沿って前記一端部まで延びる往路と、前記一端部において前記往路と連通し前記一端部から前記スピンドルの軸に沿って前記出口まで延びる復路とを有し、前記往路と前記復路がそれぞれ前記スピンドルの軸を中心として回転対称に設けられるか、または前記往路と前記復路の何れか一方が前記スピンドルの軸と同軸に設けられるとともに他方が前記スピンドルの軸を中心として回転対称に設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記「一端部」とは、スピンドルの軸方向の一端からある程度の長さ範囲にあるスピンドルの領域を意味する。例えば、スピンドルの軸方向の一端部は、スピンドルの軸方向の一端を0%、他端を100%の長さとした場合に、0〜50%の長さ範囲にある領域とすることができる。一例として、往路と復路が連通する位置を、スピンドルの軸方向の0〜50%の長さ範囲に位置させることができ、好ましくは、スピンドルの軸方向の0〜30%の長さ範囲に位置させることができる。
【0011】
上記「前記スピンドルの他端部」とは、スピンドルの軸方向の他端からある程度の長さ範囲にあるスピンドルの領域を意味する。例えば、スピンドルの軸方向の他端部は、スピンドルの軸方向の一端を0%、他端を100%の長さとした場合に、50〜100%の長さ範囲にある領域とすることができる。一例として、入口と出口の位置を、スピンドルの軸方向の50〜100%の長さ範囲に位置させることができ、好ましくは、70〜100%の長さ範囲に位置させることができる。
【0012】
上記「回転対称」は、スピンドルの断面において流体通路の複数の往路(又は復路)のうちの1つがスピンドルの軸を中心に(360/n)°(n≧2)で回転させると、他の往路(復路)と重なることを意味する。なお、回転対称には、往路又は復路がスピンドルの軸を中心に実質的に回転対称となる位置に位置するものであれば、厳密に断面形状が一致しない場合も含まれる。
【0013】
本発明の工作機械の主軸装置においては、前記スピンドルの断面において、複数の前記往路又は複数の前記復路が前記スピンドルの軸を通る線に対して線対称に設けられたものとすることができる。
【0014】
本発明の工作機械の主軸装置においては、前記スピンドルの断面において、複数の前記往路又は複数の前記復路が前記スピンドルの軸を中心として点対称に設けられたものとすることができる。
【0015】
本発明の工作機械の主軸装置においては、前記スピンドルの断面において、前記往路が前記復路よりも前記スピンドルの軸の近くに位置するものとすることができる。
【0016】
本発明の工作機械の主軸装置においては、前記流体通路が、前記スピンドルの軸を含んで延びる1つの前記往路と、複数の前記復路を備えていてもよい。
【0017】
本発明の工作機械の主軸装置においては、前記流体通路が、複数の前記往路と、該往路にそれぞれ連通する複数の前記復路を備えていてもよい。
【0018】
本発明の工作機械の主軸装置においては、複数の前記往路と、該往路にそれぞれ連通する複数の前記復路が周方向に交互に等間隔で配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の工作機械の主軸装置によれば、スピンドルが工具の取り付けられる工具側端部とは逆の端部に、流体通路の入口及び出口を備えたため、スピンドルの回転の際のスピンドルとシールとの間の摩擦熱を抑えつつ、工具側で主軸径を確保可能なスピンドル内の冷却構造を実現することができる。
【0020】
また、流体通路の往路と復路とをそれぞれスピンドルの軸を中心として回転対称に設けているので、軸に対して線膨張も回転対称に生じさせて、好適に熱によるスピンドルの曲がりを抑制することができる。また、これにより、回転時の振動の発生を抑制し、高精度な加工を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を用いて本発明の工作機械の主軸装置の実施形態について形彫放電加工装置に搭載された主軸装置を一例にして詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る主軸装置1が搭載された形彫放電加工装置(放電加工装置10)の外観を示す。
図2は第1の実施形態に係る主軸装置1の斜視図であり、
図3は
図2の平面図であり、
図4は
図3のIV−IV断面図であり、
図5は
図3のV−V断面図である。また、
図6は
図4の部分拡大図であり、
図7は
図5の部分拡大図であり、
図8は
図4のVIII−VIII断面図である。また、各図において対応する要素には同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0023】
放電加工装置10は、主軸装置1と、主軸装置1を保持し、Z軸方向に移動可能な加工ヘッド2と、機械構造物であるコラム3と、加工液を貯めるサービスタンク4と、放電加工のための電力を供給する加工電源装置5と、加工液を保持する加工槽6と、を備える。なお、公知の構成であるため図中不図示であるが、放電加工装置10はコラム3の前方にXYテーブル収容部3Aを有し、XYテーブル収容部3A内には、不図示の床に設置されたベッドと、ベッド上にY軸方向に移動可能な不図示のサドルと、サドル上にX軸方向に移動可能な不図示のテーブルとを備える。
図1に示される実施の形態の放電加工装置10は、往復移動するサドルの上に往復移動するテーブルを搭載した構造であるが、機械全体の構造は、実施の形態のようなX軸移動体とY軸移動体を積層した構造に限定されず、例えば、テーブルを固定し、主軸装置1を保持する加工ヘッド2をX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能にする構成のように、主軸装置1の構成に変わりがない限り、本発明の要旨を逸脱しない範囲でX軸移動体とY軸移動体とZ軸移動体を任意の位置に配置したあらゆる構造を採用することができる。
【0024】
加工槽6はテーブル上に支持され、加工槽6の内に不図示の被加工物が載置され、加工液の中に被加工物及び工具電極を位置させた状態で、主軸装置1に取り付けられた工具電極によって被加工物が放電加工される。また、放電加工装置10は、不図示のオイルクーラーによってサービスタンク4に貯められた放電加工用の油系の加工液を所定温度に冷却してから加工槽6に供給するとともに、冷却した加工液を冷媒として主軸装置1に供給する。供給された冷媒は後述の流体通路24を通過することにより主軸装置1を冷却する。
【0025】
また、放電加工装置10には、放電加工装置10の制御を行う不図示の制御部への操作を行う操作装置9が接続されている。操作装置9は、液晶ディスプレイなどの表示部、キーボード及びマウスなどの入力部、磁気ディスクドライブなどの記憶装置、CPU、メモリ等を含んで構成されるコンピュータである。
【0026】
図4乃至5に示すように、主軸装置1は、ハウジング1Aと、ハウジングの内周に軸方向に離間して設けられた上ベアリング13及び下ベアリング15と、これらのベアリング13、15に高速回転可能に軸支されるスピンドル20と、スピンドル20を駆動するサーボモータ14と、スピンドル20のブレーキと、サーボモータ14の駆動制御に用いるロータリエンコーダ11とを有する。本実施の形態においては、ブレーキは、スピンドル20と同軸に設けられたブレーキディスク16と、ブレーキディスク16の下側に配置されたブレーキシュー16Aとブレーキディスク16の上側に配置されたブレーキシュー16Bを備え、ブレーキシュー16Aとブレーキシュー16Bでブレーキディスク16を挟み込むことにより摩擦力で回転速度を制限する。
【0027】
スピンドル20は、ハウジング1Aに収容され、一端で工具を支持する。スピンドル20は、同軸に固定された複数の部品から構成され、軸Z1を中心に回転する回転体である。具体的に、実施の形態の主軸装置1のスピンドル20は、円柱体であって、下端で不図示の工具電極を上記回転中心軸Z1を中心に回転可能に支持する。
【0028】
スピンドル20は、両端のうちの工具電極の取り付けられる側の一端部である下端部に、周縁に環状の通電部17が設けられたチャックプレート18と、チャックプレート18と電気接続され不図示の工具電極又は工具電極を保持した不図示のホルダを把持するチャック19と、内部にチャック19が設けられたチャック保持部25とを備える。通電部17とチャックプレート18とチャック19は、銅などの導電性材料で構成され、通電部17からチャック19までは電気接続されている。
【0029】
また、ハウジング1Aには、加工電源装置5と電気接続された不図示の端子と、該端子と電気接続された不図示の通電ブラシを有する。この通電ブラシが通電部17に摺接されることにより、通電部17とチャックプレート18とチャック19とを介してチャック19に把持される工具電極に電流が供給される。
【0030】
スピンドル20の内部には、スピンドル20を冷却する冷媒を流通させるための流体通路24が形成されている。流体通路24は、入口21に連通し、入口21からスピンドル20の軸Z1に沿ってスピンドル20の下端部まで延びる往路Aと、下端部において往路Aと連通し、下端部からスピンドル20の軸Z1に沿って出口22まで延び、出口22に連通する復路Bと、を有する。流体通路24は、厳密には、流体通路24のうち往路Aと復路Bとを除いた部分である連絡通路を含んでなる。具体的には、往路Aと復路Bは、チャックプレート18と通電部17に設けられた後述の連絡通路C1、C2、C3を介して連通されている。本第1の実施形態においては、スピンドル20は、軸Z1を挟んで対向して2つの復路Bを備えている。
【0031】
図8に示すように、チャックプレート18には、スピンドル20の下端部における往路Aにおいて、断面円形のスピンドル20の径方向外側に向かう第1連絡通路C1と、外周から復路Bの下端部に向かう第3連絡通路C3が設けられている。また、通電部17は、第1連絡通路C1及び第3連絡通路C3に連通し、通電部17の内周縁に沿って設けられた第2連絡通路C2が設けられているなお、ここでは、冷媒の通過方向が一方向になるように、封止部材Sがスピンドル20の第2連絡通路C2に取り付けられている。
【0032】
また、
図6及び7に示すように、流体通路24は、工具電極の取り付けられる一端部である下端部に相対する他端部(
図4、5中上端部)に、流体通路24の入口21及び出口22が設けられる。流体通路24の入口21とハウジング1Aの内周面との間隙には、周方向に複数の貫通孔が設けられた環状スペーサ27が配置されており、貫通孔によりスピンドル20側からハウジング1A側への冷媒の通行を可能にしている。同様に、流体通路24の出口22とハウジング1Aとの間隙にも同様の環状スペーサ27が配置されている。また、流体通路24の入口21の軸方向上下には冷媒を封止するための一対の環状のシール26が設けられており、流体通路24の出口22の軸方向上下には冷媒を封止するための一対の環状のシール26が設けられている。
【0033】
流体通路24の入口21は、環状スペーサ27の貫通孔とハウジング1A内に設けられた入口側連絡通路28Aとを経由して、ハウジング1Aの上端部の入口側コネクタ28に連通している。また、
図6に示すように、流体通路24の出口22は、環状スペーサ27の貫通孔とハウジング1A内に設けられた出口側連絡通路29Aとを経由して出口側コネクタ29に連通している。
【0034】
本実施形態において、サービスタンク4の冷媒は、不図示のポンプにより、入口側コネクタ28から供給され、入口側連絡通路28Aと環状スペーサ27の貫通孔を経由して、スピンドル20上部の入口21からスピンドル20内に流入し、往路Aを通過する。そして、第1連絡通路C1と第2連絡通路C2と第3連絡通路C3を通過して復路Bに流入する。その後、冷媒は復路Bを通過して、スピンドル20上部の出口22からスピンドル20外に流出し、環状スペーサ27の貫通孔と出口側連絡通路29Aとを経由して出口側コネクタ29から排出される。
【0035】
本実施形態の主軸装置1によれば、スピンドル20の内部に設けられた流体通路24において、スピンドル20の工具電極が取り付けられる下端部から離れて反対側に位置する上端部に入口21と出口22とを集中して設けている。流体通路の出入口をスピンドル20の下端部に位置させないことにより、スピンドル20の下端部に冷媒を封止するためのシール26を設ける必要がなく、スピンドル20の下端部において必要な軸径を確保することが可能である。また、流体通路24の出入口をスピンドル20の軸径が小さい位置に設けることにより、スピンドル20の回転の際のスピンドル20とシールとの間の摩擦熱を抑えることができる。
【0036】
ここでは、スピンドル20のハウジング1Aに囲まれた領域のうち下端部の軸径を、冷媒の入口21及び出口22の設けられた位置における軸径よりも大きくしている。すなわち、スピンドル20の上端部の軸径を、下端部の軸径よりも小さくしているため、軸径が小さい位置にシール26を設けることで、スピンドル20の回転によるスピンドル20とシール26との間の摩擦熱を抑えつつ、下端部において強度上要求される主軸径を確保してスピンドル20の工具電極取付部位の剛性を高めることができる。
【0037】
また、流体通路24の入口21と出口22の両方を上端部に設けたことにより、冷媒を供給する方法によって取り付けることができない工具電極を実質的になくすことができ、上記一端部で冷媒を排出した場合に生じる冷媒の周囲への散布も防止することができる。また、スピンドル20の上記一端部の構造が複雑になることもない。例えば、特許文献2のように、スピンドル20の下端面から加工液を排出する冷却構造においては、工具電極が中空電極に制限されるので、実施の形態の主軸装置1は、使用する工具電極が冷媒を供給する方法によって実質的に制約を受けないという点で有利である。
【0038】
なお、流体通路24の入口21と出口22は、スピンドル20の上端部に設けられるものであれば、双方が、軸方向の同じ高さに位置してもよく、異なる高さに位置してもよい。また、流体通路24の入口21と出口22は、下端部から十分離間して位置することが好ましく、スピンドル20の軸方向において、スピンドル20を収容するハウジング1Aの中央の高さより上側の高さに位置することができ、ハウジング1Aの上部の高さに位置してもよい。
【0039】
また、流体通路24は、発熱部である上ベアリング13、下ベアリング15、サーボモータ14、ブレーキディスク16、通電部17の近傍を通過するように延びる往路Aと復路Bを備えているため、冷媒が流体通路24を通過することにより好適に発熱部を冷却して、発熱によるスピンドル20の伸びを抑えることができる。また、ベアリング13、15を冷却することで、ベアリングの熱膨張の影響でラジアル方向の保持力が弱くなることを抑制することができ、振動等を低減することができる。
【0040】
ここで、本発明の主軸装置1のスピンドル20においては、スピンドル20の軸Z1に直交する断面における流体通路24の往路Aと復路Bの配置を、往路Aと復路Bをそれぞれ通過する冷媒の温度差によって生じるスピンドル20の部分的な熱膨張差による変形を生じさせないようにしている。言い換えると、スピンドル20の水平断面において、スピンドル20を湾曲させる軸Z1方向の非対称の線膨張を生じさせないように往路Aと復路Bを配置する。
【0041】
具体的に、実施の形態に係る主軸装置1においては、流体通路24の往路Aと復路Bとがそれぞれスピンドル20の軸Z1を中心として回転対称に設けられる。または、流体通路24の往路Aと復路Bの何れか一方がスピンドル20の軸Z1と同軸に設けられるとともに他方が軸Z1を中心として回転対称に設けられる。
図4ないし
図9に示される第1の実施の形態の主軸装置1のスピンドル20においては、流体通路24の往路Aはスピンドル20の軸Z1と同軸に設けられ、復路Bはスピンドル20の軸Z1を中心として回転対称に設けられている。
【0042】
冷媒はスピンドル20に設けられた流体通路を通過しながら周辺を冷却するため、入口から遠ざかるにつれて冷媒の温度は次第に上昇することになる。冷媒の温度差によるスピンドル20の温度ムラによって線膨張の差が生じた場合には、スピンドル20の熱変位による微小な曲がりの原因となるため望ましくない。ここでは、流体通路24の往路Aをスピンドル20の軸Z1と同軸に設けるとともに復路Bをそれぞれスピンドル20の軸Z1を中心として回転対称に設けているので、軸Z1に対して線膨張を回転対称に生じさせて、好適に熱によるスピンドル20の曲がりを抑制することができる。また、これにより、回転時の振動の発生を抑制し、高精度な加工を実現することができる。なお、流体通路24の往路Aと復路Bとがそれぞれスピンドル20の軸Z1を中心として回転対称に設けられる場合も、同様に軸Z1に対して線膨張を回転対称に生じさせることができるため、好適に同効果を奏することができる。
【0043】
また、往路Aと復路Bを接続する各連絡通路等も軸Z1に対して回転対称に設けた場合には、同効果をさらに高めることができる。
【0044】
なお、スピンドル20の熱変位を抑制して所望の加工精度を保つために、例えば、スピンドル20内の温度差を、スピンドル20が回転している時と回転していない時で1度以内の温度差にすることが好ましく、より好ましくは、0.8度以内の温度差にすることが好ましい。
【0045】
流体通路24の往路Aは、所望の発熱部を冷却可能な位置を通過し、スピンドル20の軸Z1を中心に回転対称であれば、任意の数、太さ及び長さとすることができる。同様に、復路Bは、所望の発熱部を冷却可能な位置を通過し、スピンドル20の軸Z1を中心に回転対称であれば、任意の数、太さ及び長さとすることができる。また、往路Aと復路Bを接続する連絡通路Cもスピンドル20の軸Z1に対して回転対称に設けてあっても良いし、任意の数、太さ及び長さとすることができる。また、すべての往路Aの通路断面積の総和とすべての復路Bの通路断面積の総和とすべての連絡通路Cの通路断面積の総和が略等しくなるように形成されてもよい。
【0046】
本実施形態のように、往路Aと復路Bとを、軸Z1に沿って延びる直線状に設けた場合には、簡易な構造で、スピンドル20の軸方向の冷却効果を奏することができる。なお、往路と復路は、軸方向に所望の長さに延びるものであれば、直線状としてもよく、らせん形状などの曲線状としてもよい。
【0047】
図9乃至
図18に、第2乃至第11の実施形態として、スピンドル20の断面における往路Aと復路Bと連絡通路Cの他の構成例を示す。なお、
図9乃至
図18は、往路Aと復路Bと双方を結ぶ連絡通路Cの配置を概略的に示している。
【0048】
往路Aと復路Bのそれぞれは、
図9乃至12、15乃至18に示すように180度対称としてよく、
図13及び14に示すように120度対称としてもよく、
図11、12及び18に示すように90度対称としてもよく、不図示であるが72度、45度など任意の角度の回転対称としてよい。
【0049】
さらに、
図9乃至
図18に示すように、スピンドル20の軸Z1と直交する断面において、複数の往路Aをスピンドル20の軸Z1を通る線に対して線対称に設けてもよく、複数の復路Bをスピンドル20の軸Z1を通る線に対して線対称に設けてもよい。なお、
図10、12、16及び18において、往路Aと復路Bとはそれぞれ、スピンドル20の軸Z1を通る直交する2つの直線に対して線対称に設けられている。
【0050】
また、
図9乃至12及び
図15乃至18に示すように、スピンドル20の軸Z1と直交する断面において、複数の往路Aを、軸Z1を中心として点対称に設けてもよく、複数の復路Bを、軸Z1を中心として点対称に設けてもよい。また、
図13及び14に示すように、往路Aと復路Bのいずれか一方のみを軸Z1を中心として点対称に設けてもよい。往路A又は復路Bを点対称又は線対称とすることにより、好適にスピンドル20の熱ムラを抑制して、スピンドル20の熱変位を抑制することができる。
【0051】
また、
図9乃至16に示すように、スピンドル20の軸Z1と直交する断面において、往路Aは、復路Bよりもスピンドル20の軸Z1の近くに位置することが好ましい。この場合には、スピンドル20の回転に応じた遠心力を利用して、往路Aから復路Bに向かって好適に冷媒を通過させることができる。
【0052】
また、複数の往路Aと、往路Aにそれぞれ連通する複数の復路Bを、
図17及び18に示すように、周方向に交互に等間隔で配置してもよい。この場合には、往路Aと復路Bを周方向につなぐ連絡通路Cを設けることで、スピンドル20の回転を利用して好適に冷媒を通過させることができる。
【0053】
また、
図9、11、13及び15に示すように、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1と同軸に設けられた往路Aと、スピンドル20の軸Z1を中心として回転対称に設けられた複数の復路Bを備えていてもよい。この場合には、流体通路24の表面積を確保して、好適な冷却効果を得ることができる。
【0054】
また、
図10、12、14及び16乃至18に示すように、流体通路24が、複数の往路Aと、往路Aにそれぞれ連通する複数の復路Bを備えていてもよい。この場合には、流体通路24の表面積を確保して、好適な冷却効果を得ることができる。
【0055】
また、連絡通路Cは、往路Aと復路Bとの冷媒通行を可能とするものであれば任意の経路形状としてよい。例えば、
図9乃至16に実線で示すように、スピンドル20の断面において、連絡通路Cを、往路Aと復路Bを含み、軸Z1を中心として径方向外側に広がる直線上に連絡通路を設けた場合には、スピンドル20の遠心力を利用して好適に冷媒を通行させることができる。また、
図10、12、14及び16に破線で示すように、スピンドル20の回転方向に離間して位置する往路Aと復路Bとの間に略円弧上に往路Aと復路Bを連通する連絡通路Cを設けてもよい。
【0056】
以下、第2乃至第11の実施形態について具体的に説明する。
図9に示す第2の実施形態は、第1の実施形態の連絡通路C1、C2、C3を変形し、往路Aと復路Bを直線状の連絡通路Cで連絡した例である。なお、第2の実施形態は、スピンドル20の軸Z1と同軸に設けられた往路Aと、往路Aを挟んで対向する2つの復路Bとをスピンドル20に設けた点で第1の実施形態と共通する。
【0057】
図10に示す第3の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1を挟んで対向して位置する2つの往路Aと、各往路Aの径方向外側にそれぞれ位置する2つの復路Bとを備えた例である。
【0058】
図11に示す第4の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1と同軸に設けられた往路Aと、軸Z1を中心として90度間隔で設けられた4つの復路Bとを備えた例である。
【0059】
図12に示す第5の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1を中心として90度間隔で設けられた4つの往路Aと、各往路Aの径方向外側にそれぞれ位置し、スピンドル20の軸Z1を中心として90度間隔で設けられた4つの復路Bとを備えた例である。
【0060】
図13に示す第6の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1と同軸に設けられた往路Aと、スピンドル20の軸Z1を中心として120度間隔で設けられた3つの復路Bとを備えた例である。
【0061】
図14に示す第7の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1を中心として120度間隔で設けられた3つの往路Aと、各往路Aの径方向外側にそれぞれ位置し、スピンドル20の軸Z1を中心として120度間隔で設けられた3つの復路Bとを備えた例である。
【0062】
図15に示す第8の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1と同軸に設けられた往路Aと、スピンドル20の軸Z1を通る直交する2つの直線に対して線対称となる4つの復路Bとを備えた例である。
【0063】
図16に示す第9の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1を通る直交する2つの直線に対してそれぞれ線対称となる4つの往路Aと、各往路Aの径方向外側に位置し、スピンドル20の軸Z1を通る直交する2つの直線に対してそれぞれ線対称となる復路Bとを備えた例である。
【0064】
図17に示す第10の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1からの距離が等距離となる位置に2つの往路Aと2つの復路Bを備え、往路Aと復路Bが90度間隔で交互に配置された例である。
【0065】
図18に示す第11の実施形態は、流体通路24が、スピンドル20の軸Z1からの距離が等距離となる位置に4つの往路Aと4つの復路Bを備え、往路Aと復路Bが45度間隔で交互に配置された例である。
【0066】
以上、本発明の主軸装置について詳細に説明したが、本発明において、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよい。