【課題】マルチコプターにおいては、複数のロータの回転を制御することにより、無線操縦や自動操縦に対して速やかな応答性を有し、安定した飛行制御を実現することが必要であった。
【解決手段】機体を構成する機体フレームと、エンジンと、前記エンジンにより発電する発電機と、前記エンジンに燃料を供給するための燃料タンクと、各種積載物を積載するペイロード積載部と、前記エンジンの周囲において推力生起及び飛行制御の作動を行う複数のロータと、前記複数のロータを回転駆動する複数の電動モータと、前記複数のロータを制御する制御部と、を備えたマルチコプターを、前記複数のロータの回転面高さの平均値となる水平面よりも上方位置にエンジンを配設すると共に、当該複数のロータはエンジンによる発電によって電動モータを駆動することにより作動するように構成した。
前記ペイロード積載部に積載物があるときには、機体フレームの中央部であって、前記複数のロータの回転面高さの平均値となる水平面内に機体重心が略位置すると共に、前記ペイロード積載部に積載物がないときには、前記複数のロータの回転面高さの平均値となる水平面よりも少なくとも上方に機体重心が位置するように構成する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコプター。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、無線操縦や自動操縦に対して飛行制御の応答性が高いエンジン搭載型マルチコプターに関する。
【0025】
本発明のマルチコプターは、機体を構成する機体フレームと、エンジンと、前記エンジンにより発電する発電機と、前記エンジンに燃料を供給するための燃料タンクと、各種積載物を積載するペイロード積載部と、前記エンジンの周囲において推力生起及び飛行制御の作動を行う複数のロータと、前記複数のロータを回転駆動する複数の電動モータと、前記複数のロータを制御する制御部と、を備えたマルチコプターであって、前記複数のロータの回転面高さの平均値となる水平面よりも少なくとも上方位置にエンジンを配設すると共に、当該複数のロータはエンジンによる発電によって電動モータを駆動することにより作動するように構成したことを特徴とする。
【0026】
また、ペイロード積載部に積載物があるときには、機体フレームの中央部であって、ロータの回転面高さの平均値となる水平面内に機体重心が略位置すると共に、ペイロード積載部に積載物がないときには、ロータの回転面高さの平均値となる水平面よりも上方に機体重心が位置するように構成することを特徴とする。
【0027】
また、エンジンに連動連設するロータを設けることなくエンジンの外周に電動モータにより駆動するロータを配設したことを特徴とする。
【0028】
請求項1の発明によれば、エンジンを搭載し、エンジンに連設した発電機により発生した電力により電動モータを駆動することとしたので、連続飛行時間を長くすることができる。また、エンジンを複数ロータの平均回転面高さより上方に配置したので無線操縦または自動操縦における飛行制御の応答性をよくすることができる。
【0029】
請求項2の発明によれば、機体の重心位置を機体フレームの中央部であって、複数ロータの平均回転面高さと同じ水平面内としたので、飛行制御の応答性をよくするとともに、消費電力を最小に抑えることができる。
【0030】
請求項3の発明によれば、エンジン、左右2個の発電機及びエンジン外周のロータを搭載したことによる機械振動、回転モーメントをほぼゼロとすることができ、飛行制御の安定化およびホバリング時の機体姿勢安定化を図ることができる。
【0031】
以下、本発明のマルチコプターAの実施例を
図1〜
図8を用いて具体的に詳説する。
【0032】
以下の実施例では、ロータの個数が4のマルチコプター(クワッドコプター)について説明する。
図1及び
図2は、本発明のマルチコプターAの基本構造を模式的に示した図である。
【0033】
図1及び
図2に示すように、本発明のマルチコプターAは、基本的構成としては次の部材よりなる。
すなわち、機体フレームaとエンジン1と燃料タンク2とペイロード積載部3とロータ4と電動モータ5と制御部6とより基本構造が成立している。発電機7は、エンジン1の出力軸に連結して左右2個設けられている。
【0034】
機体フレームaは、パイプやプレートの組み合わせよりなり、エンジン1、発電機7、燃料タンク2、ペイロード積載部3、ロータ4、電動モータ5、制御部6を安定の機能的な位置に搭載可能な形状に構成されている。
【0035】
また、機体フレームaは、中心部に円盤状プレート或いは筒状ケース或いはクロス状パイプ等によりメインフレームf1を構成し、メインフレームf1の周辺にサイドフレームf2を放射状に4本突出し、メインフレームf1の下方に離着陸時に用いる脚体としてのスタンドフレームf3を設けている。
【0036】
メインフレームf1中心部上には、2気筒のエンジン1を、各気筒に連設して2個の発電機7,7を、エンジン側方に左右の燃料タンク2,2をそれぞれ搭載しており、また、メインフレームf1の所定箇所、例えば、メインフレームf1の外底面には、ペイロード積載部3となるロードケースCを形成している。ロードケースCには、本発明のマルチコプターAの使用目的に適合した、例えば、空中積載用のカメラや、薬液散布用の噴霧器などを搭載する。
【0037】
また、中心より放射状に4本突設したサイドフレームf2先端には、それぞれロータ4を装着している。
ロータ4は、サイドファン4−1を電動モータ5により作動するように構成している。
【0038】
また、機体フレームaのメインフレームf1の所定箇所には制御部6を配設して地上からの無線による遠隔操作により、或いは空中飛行時の環境変化に自動的に対応して所定の目的を達するようにエンジン1の制御と共に、マルチコプターAの飛行制御のために電動モータ5を介してロータ4の回転数制御を行う。
【0039】
制御部6は、CPUを搭載しソフトウエアにより各種センサーからの信号を処理し、電動モータ5を介して各ロータ4の回転数を制御して必要な制御動作を行っている。
【0040】
無線による遠隔操縦信号を受信して上昇/下降、前進/後退、左右並進、左右旋回などの制御動作を行う。
【0041】
姿勢制御は、ジャイロセンサー、加速度センサーからの信号により、機体に加わる外力、回転モーメントを得て機体を水平あるいは目標とする傾斜角にするための制御動作を行う。
【0042】
位置制御は、GPS信号を受信し現在地点及び現在速度を得て目標地点に到達するために必要な制御動作を行う。
【0043】
高度制御は、気圧センサーなどからの信号を受信し高度情報を得て必要な高度を保持するための制御動作を行う。
【0044】
上記したように機体フレームaに搭載するエンジン1、発電機7、燃料タンク2、ペイロード積載部3、ロータ4、電動モータ5、制御部6等の構成部材は本発明のマルチコプターAの空中飛行を地上からの遠隔操作により、或いは環境変化に対応した自動制御操作により所定の飛行目的を達することができるように構成している。
【0045】
サイドファン4−1は四方に突出したサイドフレームf2の先端に六軸ジョイントを介して電動モータに連動連結されている。
【0046】
4個のサイドファン4−1は、同一水平面の円周上に配置されている。その回転方向は、隣接するサイドファン4−1は、回転による反トルクを打ち消すために左右逆方向に回転させる。
【0047】
また、回転による反トルクを打ち消すために、各ロータ4を二重反転ロータとしてもよい。
【0048】
電動モータ5は、エンジン1の出力軸に連設された発電機7による発電を介してサイドファン4−1を駆動させる動力源となる。
【0049】
上記のように構成した基本的なマルチコプターAにおいて本発明では、全体の機体重心を上下位置に変位可能に構成したことに特徴を有する。
特に機体重心を上方に配設することにより飛行時の空中環境変化に迅速に対応可能となって、飛行制御作動の対応速度を迅速とすることができる特徴を有する。
【0050】
かかる機体重心の上下位置の特定は、複数ロータ4の回転面の平均高さを持つ水平面を水平基準レベルLとし、この水平基準レベルLを中心にして機体重心の上下位置を特定する。
【0051】
本実施例のマルチコプターAにおける4個のロータ4は、その回転面が同一高さの水平面内にあるが、対角線上にある2個の対のロータ4の回転面高さを異なるようにしてもよい。このように構成することにより、ロータを含む径を短縮することができる。
【0052】
以上のような条件のもとで機体重心の位置変化に係る全体構造として
図1及び
図2に示す実施例を示す。
【0053】
[実施例]
図1に示す実施例では、水平基準レベルLの上方にある機体フレームaのメインフレームf1にエンジン1を搭載すると共にエンジン1の左右側方に燃料タンク2を、エンジン1の下方にペイロード積載部3とを配置した構造である。
【0054】
最大積載量のペイロードをペイロード積載部に積載した状態での機体の重心位置Gが機体の中央部で水平基準レベルL上にあるように構成する。
【0055】
このようなレイアウト構造とすることにより、飛行制御に対する応答性がよく、消費電力を最小に抑えることができる。
【0056】
機体重心Gの変位手段は燃料タンク2とペイロード積載部3によるところが大である。水平基準レベルLを基準としてこれらの燃料タンク2とペイロード積載部3との位置を変更することにより機体重心Gの位置の変化を可能とする構成としている。
【0057】
最大積載量以下のペイロードを積載した状態では、機体の重心位置Gは、水平基準レベルLの上方となり、飛行制御に対する応答性はさらによくなる。機体姿勢は不安定となるが、制御部6の制御によって機体の姿勢安定性が確保される。
【0058】
また、
図2に示すように、電動モータ5はメインフレームf1中心部のエンジン1の左右側に隣接して配置することができる。
【0059】
この場合において、サイドフレームf2先端部に設けたロータ4としてのサイドファン4−1には中心部の電動モータが出力軸やベベルギヤ等を介して機構的に動力を伝達するように構成する場合がある。
【0060】
この場合は、電動モータ5を機体フレームaの中心部のエンジン1に隣接して配置した場合はエンジン1や燃料タンク2やペイロード積載部3等と共に、重量物が機体フレームの中心部に集中することになり、機体重心はより下方に変化しやすくなる。
【0061】
しかし、電動モータ5をサイドフレームf2先端部に配設する通常形態の場合はサイドフレームf2中心部よりもその周辺に所定の重量物が配置されてその分揺動しやすくなり機体全体の安定性は中心部に集中する実施例よりは少なくなるが飛行姿勢の制御を行うための制御作動の即応性は向上する。
【0062】
重心位置の変化に伴うマルチコプターAの安定性について、
図8を用いて説明する。ここでスラスト面とは、対となるロータ4の回転面を指称している。
【0063】
なお、(1)の「重心がスラスト面内にある場合」とは重心を形成する要素の大きいエンジン1や燃料タンク2,2などの重量物をスラスト面の上部に、ペイロード積載部3をスラスト面の下部に配置し、ペイロード(各種積載物)を積載した場合に重心位置を略スラスト面内とした場合の構造を指しており、ペイロードを積載した場合の機体重心Gが機体の中心部にある場合である。
この場合、時計回りの回転モーメントは、左右のロータ1,2の推進力をF1,F2,機体中心とロータ間の距離をlとして M
φ = F
1l - F
2l であり、スラスト面の垂直方向と鉛直方向の角度φ(機体傾斜角)には依存しない。この場合、機体姿勢は安定である。
【0064】
(2)の「重心がスラスト面より下にある場合」の時計回りの回転モーメントは、機体の質量をm、重力加速度をg、スラスト面と重心との距離をhとして M
φ = F
1l - F
2l - mgh sinφ である。傾斜角の増大に対して回転モーメントは減少することになり機体姿勢は安定である。
【0065】
(3)の「重心がスラスト面より上にある場合」の時計回りの回転モーメントは、M
φ = F
1l - F
2l + mgh sinφである。この場合、傾斜角の増大に対し回転モーメントが増加し機体姿勢は不安定となる。しかし、機体姿勢安定化のために左右のロータ4の回転数制御により反時計回りの回転モーメントを発生させるのでこの不安定性は制御できる。ただし、必要な反時計回りの回転モーメントを発生させるロータの回転数制御がロータ4の能力を超えると機体姿勢は制御不能となる。したがって、マルチコプターAにおいては、重心がスラスト面の上方にあっても機体姿勢を安定的に制御可能となるように重心位置のスラスト面からの高さ、機体の最大傾斜角などが設定される。
ペイロードを積載した場合に重心がスラスト面内にあっても、ペイロードが積載されていないとき、例えば運搬物を輸送した帰りとか、農薬散布でペイロードである農薬が徐々に減少するときなど、重心がスラスト面より上になる場合がある。このとき、機体の質量はペイロード分減少するので反時計回りの回転モーメントを発生させるロータの回転数制御でロータ4の能力を超えることはない。
【0066】
また、これらの重心位置と機体の姿勢との関係以外に、
図5〜
図7では、機体を傾斜させることによる水平方向加速度を形成して、その時に機体を水平移動させる時の重心とスラスト面との位置関係から生じる「速度」と「傾斜角」と「ロータ消費電力」との相関関係をシミュレーションした結果をグラフにした。
【0067】
図5の「重心がスラスト面より7cm上」の場合、静止状態から目標速度10m/sに達するまでの時間は6秒、機体の最大傾斜角は26度、最大消費電力は5kwである。
【0068】
図6の「重心がスラスト面内」の場合、静止状態から目標速度10m/sに達するまでの時間は13秒、機体の最大傾斜角は17.5度、最大消費電力は3.9kwである。
【0069】
図7の「重心がスラスト面より7cm下」の場合、静止状態から目標速度10m/sには15秒経過しても達しない、機体の最大傾斜角は13度、最大消費電力は3.8kwである。これらの実証研究から、機体重心の位置はスラスト面より上方に位置させる方がマルチコプターAの飛行制御に対する応答性が良いことが分かる。
【0070】
上記のように構成された本発明のマルチコプターおいて、各積載物を積載するペイロード積載部には、マルチコプターの使用目的に応じて、例えば、空撮目的であればカメラを積載したり、山の崩落現場で崩落状況のセンシング目的であれば、センサー類を内蔵したセンサーユニットを積載することができる。かかるペイロード積載部への積載の一例として農薬散布目的で本発明のマルチコプターを使用する場合には農薬散布部を積載することができる。以下に農薬散布部の詳細について説明する。
【0071】
このようにマルチコプターAは農薬散布に使用することができ、この農薬散布に用いる場合の構成について
図9から
図10を参照しながら説明する。
上述したマルチコプターAでは、メインフレームf1の上側にエンジン1、その下側にペイロード積載部3を配置する構成としたが、農薬液を散布する場合には、メインフレームf1の下側にエンジン1を配し、その上側に農薬液を散布する農薬散布部10を配設する構成としている。
【0072】
図9に示すように、メインフレームf1の下側中央にはエンジン1を搭載しており、同エンジン1の両側にそれぞれ発電機7を配し、各発電機7の外側に燃料タンク2を配設した構成とすると共に、さらにメインフレームf1の上側に農薬散布部10を配設する構成としている。
かかる構成に際してマルチコプターAの重心と農薬散布部の重心とは双方性上下同じになるようにしている。
【0073】
農薬散布部10は、農薬液用タンク11、農薬液用ポンプ12、同農薬液用タンク11と同農薬液用ポンプ12とを接続する連通パイプ13、散布ノズル14、タンクフレーム(図示しない)等から構成している。
【0074】
農薬液用タンク11は、タンクフレームを介してメインフレームf1上に搭載される。農薬液用タンク11は、例えばタンク内部の中空空間にパイプを内接してそのパイプ内に農薬液を充填するようにしてもよい。
【0075】
農薬液用タンク11内の農薬液が満タンの場合ではマルチコプターAの重心がスラスト面より僅かに上或いはスラスト面ないとなり、農薬液用タンク11内の農薬液が空の場合にはマルチコプターAの重心はスラスト面より下になるがマルチコプターAの重量が軽い状態となり制御応答性はそれほど悪化しないため、安全に飛行を行うことが可能である。
【0076】
農薬液用ポンプ12は、メインフレームf1上中央に搭載する構成としている。また、農薬液用タンク11と散布ノズル14との間は連通パイプ13で接続されており、この連通パイプ13の中途部に農薬液用ポンプ12を接続し、同タンク11から農薬液用ポンプ12を介して供給される農薬液を散布ノズル14に吐出する。農薬液用ポンプ12は、発電機7と電気的に接続されており、発電機7から供給される電気により駆動して、開閉弁を開き農薬液を圧送する。
【0077】
散布ノズル14は、農薬液を下方に向かって広範囲に散布可能な構成としており、メインフレームf1の側面から下方へ延伸したL字状の連通パイプ13の先端部に連通連結している。かかる構成とすることにより散布ノズル14から吐出した農薬液はサイドファンの回転気流により圃場に散布される。
なお、散布ノズル14は、回転しながら噴霧するアトマイザーであってもよい。
【0078】
さらに、農薬散布部10の作動及び停止を地上の作業者が遠隔操作するための無線操縦装置20を別途使用者の手元に設けるようにしている。マルチコプターAの農薬散布部10の作動及び停止は、無線操縦装置20に設けた農薬散布部10の作動ボタン22を操作することにより行われる。
【0079】
マルチコプターAは、無線操縦装置20から送信される農薬散布部10を作動及び停止する操作信号を受信する受信部8を備えており、この受信部8が操作信号を受信するとマルチコプターAの制御部6は信号に基づいて農薬散布部10を作動及び停止制御する。
図12中、符号21は無線操縦装置20の中央演算装置(CPU)であり、中央演算装置21は作動ボタン22をオン又はオフした信号を処理してその操作信号を無線送信部23から送信し、マルチコプターAの受信部8が受信する。
【0080】
次に、作業者が無線操縦装置20でマルチコプターAから農薬を散布する手順について説明する。
【0081】
作業者は、農薬散布部10の農薬液用タンク11に圃場に散布する農薬液を充填し、農薬液用タンク11をマルチコプターAのタンクフレームに装着する。
【0082】
マルチコプターAは圃場上空に飛行し、さらに作業者が無線操縦装置20の農薬散布部10の作動ボタン22を操作すると操作信号に基づいて、マルチコプターAは農薬液を散布ノズル14から下方の圃場に向けて散布する。
すなわち、無線操縦装置20の作動ボタン22がオンとなると農薬散布を開始する操作信号がマルチコプターAに送信される。マルチコプターAの受信部8が操作信号を受信し、制御部6は操作信号に基づいて、農薬散布部10の農薬液用ポンプ12を駆動しつつ開閉弁を開き、農薬液を農薬液用タンク11から農薬液用ポンプ12を介して散布ノズル14に吐出して、マルチコプターAの直下の圃場に散布する。
【0083】
圃場への農薬液の散布を終了する際は、作業者は無線操縦装置の農薬散布部10の作動ボタン22をオフすることにより、農薬散布を停止する操作信号がマルチコプターAに送信される。マルチコプターAの受信部8が操作信号を受信し、制御部6は操作信号に基づいて、農薬散布部10の農薬液用ポンプ12を停止しつつ開閉弁を閉じる。
かかる操作によりマルチコプターAからの農薬散布が終了する。
【0084】
図10に示すマルチコプターAは、メインフレームf1の上側に農薬散布部10を配し、その両側に燃料タンク2,2を搭載する構成としている。メインフレームf1の下側には、中央にエンジン1を配して、その両側に発電機7,7を搭載する構成としている。
【0085】
農薬散布部10は、農薬液用タンク11、農薬液用ポンプ12、同農薬液用タンク11と散布ノズル14とを接続する連通パイプ13、散布ノズル14、タンクフレーム(図示しない)等から構成している。なお、農薬散布部10の各構成部ついては、上述した構成部と同一符号を付して重複説明を省略する。
【0086】
農薬液用タンク11内の農薬液が満タンの場合ではマルチコプターAの重心がスラスト面より僅かに上或いはスラスト面ないとなり、農薬液用タンク11内の農薬液が空の場合にはマルチコプターAの重心はスラスト面より下になるがマルチコプターAの重量が軽い状態となり制御応答性はそれほど悪化しないため、安全に飛行を行うことが可能である。
【0087】
マルチコプター用のエンジン1の基本的構成の一例について説明する。
本マルチコプター用エンジン1は、1気筒内に左右の水平シリンダが対向するエンジン
である。
【0088】
図13に示すように、エンジンブロック151は、左右に分割した左右エンジンブロック151−1,2、及び左右エンジンブロック151−1,2の開放端部を閉塞する左右クランクカバー117a,118aより構成している。
【0089】
また、左シリンダ(左シリンダブロック)単体148と右シリンダ(右シリンダブロック)単体149とを接合して一つの水平シリンダ101を形成している。水平に形成された水平シリンダ101内には、独立して左右ピストン102,103を互いに左右ピストンヘッド104,105が対峙した状態で摺動自在に収納している。
【0090】
左右ピストンヘッド104,105間に連通している燃焼室Sは、混合ガスを充填してその中で点火爆発させることにより左右ピストン102,103を互いに離反近接する方向に摺動させ、かかるピストン作動から後述するクランク機構を介してピストン出力を取出すように構成している。
【0091】
燃焼室Sは、具体的には
図14に示すように、一部左右ピストンヘッド104,105の近接部分にそれぞれ形成した傾斜面104a,105aからなる接合空間S−1(副燃焼室)と、水平シリンダ101の中途部側壁を膨出して接合空間S−1に連通して形成した容積空間S−2(主燃焼室)とから構成されている。
【0092】
ここで、容積空間S−2とは、燃焼室Sを構成する空間から対向する左右ピストンヘッド104,105間のクリアランス(例えば、構成部品精度公差、熱膨張、ピストンヘッドの挙動を考慮した空間等)と上述した接合空間S−1と、後述のスパークプラグ106、吸気用バルブ107及び排気用バルブ135等の占有空間とを除いた空間である。
【0093】
この扁平凹部104a’,105a’により形成される空間を接合空間S−1(副燃焼室)とし、接合空間S−1は、水平シリンダ1の中途部側壁を水平シリンダ101の断面方向に沿った略扁平状に膨出して水平シリンダ101本体の外方に形成した容積空間S−2に連通している。
【0094】
容積空間S−2(主燃焼室)の形状は、接合空間S−1の下縁部に連通する半円弧状凹部104b’,105b’と、半円弧状凹部104b’,105b’から左右に半円弧状に拡大した左右拡大部104c’,105c’と、半円弧状凹部104b’,105b’から左右拡大部104c’,105c’にかけて、漸次下方に向かって空間の厚みが増加する燃焼空間S−3と、により形成されている。
【0095】
そして、左右拡大部104c’,105c’の一側方における中央下部には、スパークプラグ106の先端が配設されており、左右拡大部104c’,105c’の両側方における拡大部分には、吸排気用バルブ107,135の先端が配設されている。
【0096】
また、
図15に示すように、右ピストンヘッド105側の容積空間S−2の外側には、吸気用バルブ107及び排気用バルブ135のバルブ設置孔135a,107aが設けられ、吸気用バルブ107及び排気用バルブ135を配置可能としている。
【0097】
吸気用バルブ107は、混合ガスをガス供給部(図示せず)から導入して適当なタイミングで燃焼室S内に混合ガスを吸気させるものである。
図3に示すように、吸気用バルブ107のステム108は、ステム駆動機構109を介して進退自在に構成されており、進退作動にともない吸気用バルブ107の開閉作動を行う。
【0098】
また、排気用バルブ135は、上記吸気用バルブ107と同様な構成であり、燃焼室S内の排気ガスを、後述のバルブ設置孔から適当なタイミングで排気させるものである。
【0099】
このように、吸気用バルブ107及び排気用バルブ135を燃焼室Sとしての容積空間S−2に連通して配置すると共に、吸気用バルブ107及び排気用バルブ135はバルブ動作軸芯が水平シリンダに対して傾斜して付設し、対向ピストン型エンジンAをコンパクト化し、結果的に燃焼室Sの容積空間S−2を可及的に小さくして、その分高圧縮比化を可能としている。
【0100】
図13に示すように、左右ピストン102,103のボトム部、すなわち左右ピストン102,103にはそれぞれ左右クランク機構117,118を連動連設している。左右クランク機構117,118は、左右コンロッド119,120と、該左右コンロッド119,120及び左右クランク出力軸123,124の間に付設したカム機能の左右クランクアーム121,122とより構成されており、左右クランク機構117,118からの各出力は、左右クランク出力軸123,124を介して外部へ出力される。
【0101】
このように、左右ピストン102,103のボトム部にそれぞれ左右クランク機構117,118を連動連設し、左右ピストン102,103からの出力を左右クランク機構117,118における左右クランク出力軸123,124から2軸で取出し、各2軸はそれぞれ反対方向に回転するように構成している。
【0102】
このように構成することにより、左右クランク出力軸123,124からの回転出力に変動があって過不足の回転が生起すると、回転トルクが変動して反力が種々の形態で発生するが、どのような反力が発生しても常に左右の反力は同一形態で生起されるため互いに打ち消し合うようにすることができる。
【0103】
また、外部アクチュエータMとして発電機を同時に駆動させることができる。
【0104】
なお、吸気用バルブ107及び排気用バルブ135は、ステム駆動機構109を介して進退自在に構成されており、各吸気用バルブ107及び排気用バルブ135のステムの基端は、ステム駆動機構109に連動連設し、一方のバルブが開放すれば他方のバルブは閉塞するような時差連動機構となっている。
【0105】
次に本発明のマルチコプターAのエンジン1を中心としてエンジン1からの出力を受けて稼働する発電機7及びエンジン1の主燃焼室330に連通する吸排気用バルブ313,314に関連する連動機構について
図16〜
図17を参照しながら説明する。
【0106】
左右シリンダ301L,301Rは機体フレームaの左右方向に伸延状態に配設されており、左右シリンダ301L,301Rの左右ピストン302L,302Rには左右クランク機構308L,308Rを連動連設しており、クランクシャフト309,309の先端には左右発電機7,7が連結され、クランク機構308L,308Rの機械エネルギーを発電機7の電気エネルギーに変換してエンジン1の周辺に配したロータ4に通電し、電動モータ5を介してサイドファン4−1を駆動しマルチコプターAの飛行を可能としている。
【0107】
クランクシャフト309の先端回転軸310には、発電機7のマグネット回転子7aが一体に連動されている。
【0108】
また、図中の符号311は反転ベルト、312はプーリーを示しており、左右クランク機構308L,308Rの左右クランク出力軸310の回転出力を反対方向に回転するように構成して、反転ベルト311とプーリー312により回転方向を反転させるカウンタローテーションを実現することで左右クランク出力軸308L’,308R’からの回転反力を互いに打ち消して低振動化を図っている。なお、符号330は冷却ファンであり、331はオイルタンクである。
【0109】
また、シリンダの外部膨出部たる容積空間S−2(主燃焼室)に互いに対向状態で連通した吸排気用バルブ313,314の進退作動機構は次の通りである。
【0110】
すなわち、左右ピストンヘッド304,305の先端部は、クランク機構308L,308Rの左右クランク出力軸308L’,308R’を介してバルブ駆動用カム319,319に連動連設している。
【0111】
バルブ駆動用カム319,319は、ヘッド部を対向配設したポペットバルブ機構の吸排気用バルブ313,314を所定間隔で摺動する。
【0112】
すなわち、エンジン1の左右ピストンヘッド304,305のストローク作動に応じて左右クランク機構308L,308R及びギヤ群を介して、最終的にバルブ駆動用カム319,319がカム作動して吸排気用バルブ313,314による混合ガスの吸排気作動を行う。
【0113】
なお、吸排気用バルブ313,314は一般的なエンジンバルブと同様にステムとキノコ型のバルブ本体と、バルブシートと閉塞用の付勢スプリングより構成され、バルブ全体がステムの軸方向に摺動することによりバルブシートとバルブ本体との間隔が変化して吸気孔324への混合燃料の流量を制御するように構成されている。