【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0042】
水系サイズ剤、ガラス繊維およびガラス繊維クロスの特性を測定、評価する方法は下記のとおりである。
(1)水系サイズ剤のガラス繊維への付着量
ガラス繊維への水系サイズ剤の付着量の測定は、JIS R 3420に従い、強熱減量として以下のように測定した。
水系サイズ剤の付着したガラス繊維を110℃で1時間熱風乾燥し、ガラス繊維から水分(水系サイズ剤由来の水分)を除去し、水を除去した後のガラス繊維の重量W
1を測定した。次いで、そのガラス繊維を、電気炉を用いて、625℃の環境下で30分間放置し、ガラス繊維からさらに水系サイズ剤(固形分)を除去し、水系サイズ剤(固形分)を除去した後のガラス繊維の重量W
2を測定した。
水系サイズ剤のガラス繊維への付着量は、以下の式から計算した。
ガラス繊維への付着量=((水分除去後のガラス繊維重量W
1)−(水系サイズ剤(固形分)除去後のガラス繊維重量W
2))/(水分除去後のガラス繊維重量W
1)×100
【0043】
(2)ガラス繊維の解舒張力
得られたガラス繊維を600m/分の速度で解舒して、テンションメーター(横河電子機器社製)を用いて解舒張力を測定した。
本発明においては、解舒張力が3.0cN以下である場合、合格とした。解舒張力は2.0cN以下であることが好ましい。
【0044】
(3)ガラス繊維の毛羽
得られたガラス繊維について、300m/分の速度で解舒してテンションバーを通過した後の毛羽の数をセンサーにて測定した。
本発明においては、毛羽が2.5個/100m以下である場合、合格とした。毛羽は、1.0個/100m以下であることが好ましい。
【0045】
(4)ガラス繊維の帯電防止性
得られたガラス繊維を検尺機で巻き取り、その巻き取り部である回転体の下部に静電気センサ(オムロン社製 ZJ−SD100)を設置し、糸が配列する過程で発生する静電気量を測定した。巻き取り回数を100回とした。
本発明においては、帯電防止性が3.0kV以下である場合、合格とした。帯電防止性は、1.5kV以下であることが好ましい。
【0046】
(5)ガラス繊維の製織性
津田駒工業社製のエアージェット織機を用いてガラス繊維クロスを製織する際のガラス繊維の巻付きおよび飛走状態を目視にて観察し、1時間の製織時間において、製織を停止した回数を測定した。なお、ガラス繊維の製織は、ガラス繊維のフィードローラーへの巻付き不良が発生したり、送りだしが不安定になりショートピックが生じた場合等に停止する。
1回も停止しなかった場合「◎」、1回〜4回停止した場合「○」、5回以上停止した場合「×」とした。
【0047】
(6)ガラス繊維クロスの開繊性
ガラス繊維クロスの開繊性は、JIS R 3420に準拠して、ガラス繊維の通気量で評価を行った。通気量測定には東洋精機社製のフラジールパーミヤメーターを用いた。
本発明においては、通気量が60cm
3/(cm
2・s)以下である場合、合格とした。通気量は、45cm
3/(cm
2・s)以下であることが好ましい。
【0048】
(7)複合材料の耐熱性
得られた硬化プリプレグに湿熱処理および半田浴による熱履歴を与え、その後の硬化プリプレグの状態を評価した。なお、湿熱処理は、プレッシャークッカーを用いて、水蒸気圧力1.05kg/cm
2G、環境温度121℃、12時間の条件で実施した。半田浴による熱履歴は、湿熱処理された硬化プリプレグを20〜25℃の水に15分間浸した後、260℃の半田浴に25秒浸漬させて行った。
半田浴に浸漬した後の硬化プリプレグから、張り付いた半田を削り落とし、硬化プリプレグの表面を、フラットベッドスキャナー(EPSON社製)を用いて観察し、硬化プリプレグの表面の総面積に対する白化した部分(白化部)の面積の割合を求めた。硬化プリプレグ表面の白化部の割合が1%未満の場合「◎」、1%以上〜30%未満の場合「○」、30%以上の場合「×」として、複合材料の耐熱性を評価した。
【0049】
(8)複合材料の機械物性
得られた硬化した複合材料について、JIS K 6911の3点曲げ試験に準拠し、曲げ強度および曲げ弾性率を求めた。なお、測定速度5mm/分、支点間距離16mmの条件で行った。
【0050】
(9)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(A)の水酸基価
ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(A)10gを、無水酢酸/ピリジン(体積比1/5)の混合液5mLに溶解させた後、100℃で1時間、無水酢酸とポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(A)中の水酸基とを反応させた。その後、さらに蒸留水を添加し、100℃で10分間撹拌して、過剰の無水酢酸を分解し、試料液を得た。0.5モル/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて試料液の滴定を行い、滴定量W
3(mL)を求めた。同様に、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルを用いない場合(上記の混合液のみ)についても滴定を行い、滴定量W
4(mL)を求めた。下記式より、水酸基価を算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(W
4−W
3)×f×28.05/10
(f:0.5モル/L水酸化カリウム水溶液の力価)
【0051】
(10)微粒子(E)の平均粒子径
日機装社製マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用いて測定した。
【0052】
水系サイズ剤を構成する材料を、以下に示す。
(1)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(A)
(A1)ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(吉村油化学社製、GF690、水酸基価123mgKOH/g)
(A2)ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(三洋化成工業社製、ニューポール BPE−60、水酸基価228mgKOH/g)
(A3)ポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテル(三洋化成工業社製、ニューポール BP−5P、水酸基価211mgKOH/g)
【0053】
(2)ポリアルキレングリコール(B)
(B1)ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、PEG600)
【0054】
(3)カチオン性脂肪酸アミド(C)
(C1)カチオン性脂肪酸アミド(一方社油脂工業社製、KSK)
【0055】
(4)ポリオキシアルキレンアルキルエステル(D)
(D1)ポリオキシエチレンアルキルエステル(一方社油脂工業社製、ノイラン)
【0056】
(5)微粒子(E)
(E1)カチオン性ポリアミド水性分散体(ユニチカ社製、M3−C−X020、固形分濃度20質量%、数平均粒子径0.083μm)
(E2)カチオン性ポリアミド水性分散体(ユニチカ社製、M4−C−X025、固形分濃度25質量%、数平均粒子径0・043μm)
(E3)アニオン性ポリアミド水性分散体(ユニチカ社製、MD−X020、固形分濃度22質量%、数平均粒子径0.034μm)
(E4)アニオン性ポリアミド水性分散体(ユニチカ社製、ME−X025、固形分濃度26質量%、数平均粒子径0・054μm)
(E5)ヒドロキシフェニルトリアジン水性分散体(BASF社製、TINUVIN 479−DW、固形分濃度40質量%、平均粒子径? μm)
【0057】
実施例1〜26、比較例1〜9
表1に示す種類と質量部の各成分と、水とを混合して、各成分を合計した濃度が4〜8質量%である水系サイズ剤を作製した。
得られた水系サイズ剤を、ノズルから紡出した複数のガラス繊維フィラメント(繊維総本数:40本)からなるガラスヤーンに付着させ、ガラス繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにケークに巻き取った。得られたケークから解舒したガラスロービングを、撚りをかけながら(撚り数:0.5Z)、ボビンに巻き付け、ガラス繊維ヤーン(平均繊維径:4.1μm、番手:1.3tex)を得た。このようにして、製織用のガラス繊維を得た。
なお、ガラス繊維への水系サイズ剤(固形分)の付着量は、水系サイズ剤の濃度により変動する。水系サイズ剤の濃度が4〜8質量%である場合、水系サイズ剤(固形分)の付着量は、ガラス繊維とそれに付着した水系サイズ剤(固形分)の合計100質量部に対して、0.15〜0.4質量部であった。
上記で得られた製織用のガラス繊維を、経糸、緯糸いずれにも用いて、津田駒工業社製のエアージェット織機で製織し、ガラス繊維クロス(ロービングクロス)を得た。
得られたガラス繊維クロスを、水で開繊処理し、シランカップリング処理を行い、120℃の乾燥工程にて乾燥を実施した後、エポキシ樹脂のワニスに浸漬し、ワニスから取り上げた後、150℃で5分間、170℃で1.5〜2時間の加熱処理を行い、硬化したプリプレグを作製した。
また、得られたガラス繊維クロスを、水で開繊処理し、シランカップリング処理を行い、120℃の乾燥工程にて乾燥を実施した後、エポキシ樹脂のワニスに浸漬し、ワニスから取り上げた後、150℃で5分間加熱処理を行い、半硬化状態のプリプレグに加工した。半硬化状態のプリプレグを30枚積層し、プレス圧10〜40kg/cm
2、加熱温度170℃、真空下で1.5〜2時間加熱し、硬化した複合材料を作製した。
なお、上記硬化したプリプレグや複合材料の作製において、水での開繊処理は、0.1〜5.0MPaの水圧を加えて行い、シランカップリング処理は、アミノシランカップリング剤を用いて行った。またエポキシ樹脂のワニスとして、NBMA規格のFR−4組成のエポキシ樹脂100質量部をメチルエチルケトン14質量部で希釈したワニスを用いた。
上記で得られた水系サイズ剤、製織用のガラス繊維、ガラス繊維クロス、およびガラス繊維クロスから作製した硬化したプリプレグや複合材料について、各種測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1〜26の水系サイズ剤で表面が処理されたガラス繊維は、解舒張力、毛羽発生量、帯電が抑制され、安定して製織することができた。
実施例2の水系サイズ剤は、微粒子(E)として、(E1)のポリアミドの水性分散体を用いたため、実施例1と対比して、やや製織性が高かった。また、それから得られたガラス繊維クロスは開繊性がやや高かった。
実施例3の水系サイズ剤は、ポリアルキレングリコール(B)の含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも少なかったため、実施例2と対比して、毛羽発生量がやや高くなり、製織性がやや低かった。実施例4の水系サイズ剤は、ポリアルキレングリコール(B)の含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも多かったため、実施例2と対比して、解舒張力がやや高くなり、やや製織性が低かった。また、それから得られたガラス繊維クロスは開繊性がやや低かった。
実施例5の水系サイズ剤は、カチオン性脂肪酸アミド(C)の含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも少なかったため、実施例2と対比して、解舒張力がやや高くなり、製織性がやや低かった。実施例6の水系サイズ剤は、カチオン性脂肪酸アミド(C)の含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも多かったため、実施例2と対比して、帯電量がやや高くなり、製織性がやや低かった。また、それから得られたガラス繊維クロスの開繊性がやや低かった。
実施例7の水系サイズ剤は、化合物(D)の含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも少なかったため、実施例2と対比して、解舒張力がやや高くなり、製織性がやや低かった。実施例8の水系サイズ剤は、化合物(D)の含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも多かったため、実施例2と対比して、毛羽発生量がやや高くなり、製織性がやや低かった。
実施例9、10の水系サイズ剤は、水酸基価が200mgKOH/gを超えるポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(A2)、(A3)を用いたため、水への溶解性が低下しガラス繊維の被覆性が低下した。そのため、毛羽発生量、帯電量がやや高くなり、製織性が低かった。また、それから得られたガラス繊維クロスは開繊性がやや低かった。
実施例11の水系サイズ剤は、微粒子(E)の含有量が本発明で規定するより好ましい範囲よりも少なかったため、実施例2と対比して、それから得られたガラス繊維クロスの開繊性がやや低かった。実施例12の水系サイズ剤は、微粒子(E)の含有量が本発明で規定するより好ましい範囲よりも多かったため、実施例2と対比して、製織性がやや低かった。
実施例11、14の水系サイズ剤は、微粒子(E)として、アニオン性ポリアミド水性分散体を用いたため、カチオン型ポリアミド水性分散体を用いた実施例17、20と対比して、それから得られたガラス繊維クロスは、開繊性がやや高かった。また、実施例11、14、17、20の水系サイズ剤は、ポリアミド水性分散体を用いたため、ヒドロキシフェニルトリアジン水性分散体を用いた実施例23と対比して、それから得られたガラス繊維クロスは、開繊性がやや高かった。
同様に、実施例2、13の水系サイズ剤は、微粒子(E)として、アニオン性ポリアミド水性分散体を用いたため、カチオン型ポリアミド水性分散体を用いた実施例16、19と対比して、それから得られたガラス繊維クロスは、開繊性がやや高かった。また、実施例2、13、16、19の水系サイズ剤は、ポリアミド水性分散体を用いたため、ヒドロキシフェニルトリアジン水性分散体を用いた実施例22と対比して、それから得られたガラス繊維クロスは、開繊性がやや高かった。
同様に、実施例12、15の水系サイズ剤は、微粒子(E)として、アニオン性ポリアミド水性分散体を用いたため、カチオン型ポリアミド水性分散体を用いた実施例18、21と対比して、それから得られたガラス繊維クロスは、開繊性がやや高かった。また、実施例12、15、18、21の水系サイズ剤は、ポリアミド水性分散体を用いたため、ヒドロキシフェニルトリアジン水性分散体を用いた実施例24と対比して、それから得られたガラス繊維クロスは、開繊性がやや高かった。
実施例2の水系サイズ剤は、ポリアルキレングリコール(B)とカチオン性脂肪酸アミド(C)を併用したため、(B)を用いなかった比較例9や、(C)を用いなかった比較例8と対比して、開繊性が相乗的に向上していた。
実施例25の水系サイズ剤は、微粒子(E)の含有量が本発明で規定するより好ましい範囲より少なかったため、実施例2と対比して、それから得られたガラス繊維クロスの開繊性がやや低かった。
実施例26の水系サイズ剤は、微粒子(E)の含有量が本発明で規定するより好ましい範囲より多かったため、実施例2と対比して、製織性がやや低かった。
【0060】
比較例1の水系サイズ剤は、ポリアルキレングリコール(B)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、ガラス繊維は硬く、毛羽発生量が増加し、製織性が低かった。そのため、ガラス繊維クロスを得ることが出来なかった。
比較例2の水系サイズ剤は、ポリアルキレングリコール(B)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、毛羽発生量、帯電量が高くなり、製織性が低かった。また、それから得られたガラス繊維クロスは開繊性が低かった。
比較例3の水系サイズ剤は、カチオン性脂肪酸アミド(C)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、ガラス繊維は硬く、毛羽発生量が増加し、製織性が低かった。そのため、ガラス繊維クロスを得ることが出来なかった。
比較例4の水系サイズ剤は、カチオン性脂肪酸アミド(C)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、毛羽発生量、帯電量が高くなり、製織性が低かった。また、それから得られたガラス繊維クロスは開繊性が低かった。
比較例5の水系サイズ剤は、化合物(D)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、解舒張力と帯電量が高くなり、製織性が低かった。そのため、ガラス繊維クロスを得ることが出来なかった。
比較例6の水系サイズ剤は、化合物(D)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、解舒張力が高くなり、製織性が低かった。
比較例7の水系サイズ剤は、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(A)を含有しなかったため、皮膜形成性に劣り、解舒張力、毛羽発生量、帯電量が高くなり、製織性が低かった。そのため、ガラス繊維クロスを得ることが出来なかった。
比較例8の水系サイズ剤は、ポリアルキレングリコール(B)を含有しなかったため、皮膜形成性に劣り、解舒張力、毛羽発生量、帯電量が高くなり、製織性が低かった。そのため、ガラス繊維クロスを得ることが出来なかった。
比較例9の水系サイズ剤は、カチオン性脂肪酸アミド(C)を含有しなかったため、皮膜形成性に劣り、解舒張力、毛羽発生量、帯電量が高くなり、製織性が低かった。そのため、ガラス繊維クロスを得ることが出来なかった。