特開2017-193471(P2017-193471A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-193471ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-193471(P2017-193471A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20170929BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170929BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170929BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/525
   H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-86290(P2016-86290)
(22)【出願日】2016年4月22日
(71)【出願人】
【識別番号】502270497
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】石塚 弘顕
(72)【発明者】
【氏名】福浦 知己
(72)【発明者】
【氏名】西村 三和子
(72)【発明者】
【氏名】石黒 弘規
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050GA29
5H050GA30
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA16
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】 リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物粉末の製造方法の提供
【解決手段】
リチウム源として炭酸リチウムを使用するニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法において、焼成工程で被焼成物が容器本体と蓋とからなる容器の内部に充填された状態で上記焼成炉に置かれ、上記容器にはそれぞれ異なる給気路と排気路が形成されており、上記焼成炉の外から上記給気路を経て、酸化性ガスが加熱された状態で上記容器の内部に供給される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源として炭酸リチウムを使用する以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法であって、
上記製造方法は以下の工程1及び/又は工程1’と工程2とを含み、
【化1】
(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)
(工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合する、混合工程。
(工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合する、混合工程。
(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を焼成炉で焼成することによって焼成物を得る、焼成工程。
そして上記工程2において、
上記混合物が容器本体と蓋とからなる容器の内部に充填された状態で上記焼成炉に置かれ、
上記容器にはそれぞれ異なる給気路と排気路が形成されており、
上記焼成炉の外から上記給気路を経て、酸化性ガスが加熱された状態で上記容器の内部に供給されることを特徴とする、
ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
工程2において上記混合物が2kg以上10kg以下の重量単位毎に上記容器の内部に積載されている、請求項1のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
工程2で連続式炉あるいはバッチ式炉を用いる、請求項1又は2に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
工程2でローラーハースキルン、マッフル炉から選ばれる焼成炉を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の請求項のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
工程2を経て炭酸リチウムの残留量が1重量%以下(ただし工程2で得られた焼成物全量を100重量部とする)であるニッケルリチウム金属複合酸化物焼成物が得られる、請求項1〜4のいずれかに記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
工程2の後に、工程2で得られた焼成物を解砕する工程及び/又は工程2を経た焼成物を篩掛する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物であって、
【化2】
(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)
上記ニッケルリチウム金属複合酸化物における炭酸リチウムの残留量が1.0重量%以下(ただしニッケルリチウム金属複合酸化物全量を100重量部とする)であり、
さらに、
該ニッケルリチウム金属複合酸化物とカーボンブラックとバインダーとを含む正極活物質合剤の塗膜乾燥物を備える正極と、リチウム金属からなる負極とを備えるリチウムイオン電池の0.1C放電容量が185mAh/g以上であり、かつ、
該ニッケルリチウム金属複合酸化物とカーボンブラックとバインダーとを含む正極活物質合剤の塗膜乾燥物を備える正極と、リチウム金属からなる負極とを備えるリチウムイオン電池の初回の充放電効率が86%以上であるリチウムイオン電池正極活物質として機能する、
ニッケルリチウム金属複合酸化物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1の請求項のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法で得られたものである、請求項7のニッケルリチウム金属複合酸化物。
【請求項9】
請求項7又は8のニッケルリチウム金属複合酸化物を含む正極活物質。
【請求項10】
請求項9の正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極合剤。
【請求項11】
請求項10のリチウムイオン電池用正極合剤を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項12】
請求項11のリチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法、該製造方法により得られるニッケルリチウム金属複合酸化物、これからなる正極活物質、該正極活物質を用いたリチウムイオン電池正極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、携帯電話などの屋外で携帯使用できる情報端末機器の普及は、小型で軽量かつ高容量の電池の導入に因るところが大きい。ハイブリッド車の普及によって、高性能で安全性や耐久性の高い車両搭載用電池の需要も増している。更に搭載する電池の小型化と高容量化により電気自動車も実現されている。既に多くの企業・研究機関が情報端末機器や車輛に搭載される電池、特にリチウムイオン電池の技術開発に参入し、激しい競争が繰り広げられており、情報端末機器やハイブリッド車、EV車の市場競争の激化に伴い、現在、より低コストのリチウムイオン電池が強く求められており、品質とコストのバランスが課題となっている。
【0003】
最終的な工業製品の製造コストを下げるための手段としては、製品を構成する部材や材料の低コスト化がまず挙げられる。リチウムイオン電池においても、その必須構成部材である正極、負極、電解質、セパレータそれぞれの低コスト化が検討されている。このうち正極は正極活物質と呼ばれるリチウム含有金属酸化物を電極上に配置した部材である。正極活物質の低コスト化は、正極の低コスト化、さらに電池の低コスト化に欠かせない。
【0004】
現在、リチウムイオン電池の正極活物質として高容量が期待できるニッケル系活物質に注目が集まっている。典型的なニッケル系活物質の一つが、リチウムとニッケルの他にコバルトとアルミニウムを含む複合金属酸化物(LNCAO)である。LNCAOをはじめとするニッケル系活物質のリチウム源としては、水酸化リチウムが用いられている。
【0005】
本発明者は既に水酸化リチウムを原料とするLNCAO系リチウムイオン電池正極活物質とその製造方法を提案している(特許文献1、2、3)。上記製造方法の焼成工程では、主原料の水酸化ニッケルと水酸化リチウムとが以下の式で表される反応でリチウムとニッケルとの複合酸化物(LNO)が生成する。
【0006】
(水酸化ニッケルと水酸化リチウムを原料とするLNOの製造)
4Ni(OH) + 4LiOH + O → 4LiNiO + 6H
ところで、LNCAOを代表とするニッケル系活物質は、水酸化リチウムをリチウム源として製造されている(非特許文献1)。水酸化リチウムとしては、以下の式で表される反応で炭酸リチウムを原料として工業的に合成されたものが専ら用いられている(非特許文献2)。当然に、水酸化リチウムの価格はその原料である炭酸リチウムの価格よりも高い。
【0007】
(炭酸リチウムを原料とする水酸化リチウムの製造)
LiCO(水溶液) + Ca(OH)(水溶液) → 2LiOH(水溶液) + CaCO(固体)
上述のように、リチウムイオン電池の高性能化と低コスト化への要求はますます高まっており、リチウムイオン電池の各部材、各部材を構成する材料の高性能化と低コスト化が必要とされている。LNOを含む正極活物質についても同様に、高品質化と低コスト化が求められている。
【0008】
より低価格の炭酸リチウム(LiCO)から出発してLNOを合成すれば、LNOを含む正極活物質の製造コストが低減できると予想される。炭酸リチウムの酸化リチウム及び/又は水酸化リチウムへの分解反応と、酸化リチウム及び/又は水酸化リチウムとニッケル化合物との反応とを一貫して行うことは、理論上は可能である。炭酸リチウムの酸化リチウム及び/又は水酸化リチウムへの分解反応が可能なより高い温度で一連の反応を行えばよい。
【0009】
しかし、リチウムイオン電池用の正極活物質の製造では、コバルト系、マンガン系、ニッケル−コバルト−マンガン三元系(NCM)の活物質に限り、リチウム源として炭酸リチウムが用いられている(非特許文献1、特許文献4)。コバルト系正極活物質として典型的なコバルト酸リチウム(LCO)は、原料である炭酸リチウムと酸化コバルト及び/又は水酸化コバルトとを混合し、1000℃近傍の焼成温度で合成することにより製造することができる。この合成過程で、炭酸リチウムの酸化リチウム及び/又は水酸化リチウムへの分解反応が起こると考えられる。NCMの場合は、炭酸リチウムの分解温度近くまで焼成温度を昇温する必要があることから、900℃以上の高温焼成でNCMを製造している。
【0010】
また特許文献5には、リチウム源として水酸化リチウムと炭酸リチウムを併用する例が記載されている。特許文献5に記載された製造方法は、マンガン化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、及びリチウム化合物を含有するスラリーを噴霧乾燥し、次いで焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法である。この方法は、リチウム化合物が水酸化リチウム及び炭酸リチウムを含み、全Li原子に対する炭酸リチウムに由来するLi原子の割合が5〜95モル%であって、前記スラリーの噴霧乾燥後、600℃以上、炭酸リチウムの融点(723℃)未満の温度で保持した後、引き続き炭酸リチウムの融点以上の温度で焼成することを特徴とする。
【0011】
このように、炭酸リチウムを唯一のリチウム源として用いるニッケル系活物質(典型的にはLNO)の製造例は知られていない。このような製造方法が困難と言われる原因は、LNO型複合酸化物の層状構造がコバルト系等他のリチウムイオン電池用正極活物質の層状構造に比べて不安定であることと考えられる。高温下の反応では反応系の熱力学的エネルギーが増大するために、生成する各種複合酸化物の結晶構造が乱れると考えられる。具体的には、LNOの層状構造の3aサイト(リチウムイオンの層)と3bサイト(ニッケルイオンの層)が高温での熱振動によりイオン交換しリチウム層にニッケルが侵入するとともにニッケル層にリチウムが侵入する状態、いわゆるカチオンミックスが惹起される。それゆえ得られる正極活物質の性能が低下し、総合的には実用性の低い正極活物質しか得られないと予想されてきた。このような予想は当業者にとって説得力があったため、リチウムイオン電池正極活物質用LNO型複合酸化物の炭酸リチウムを原料とした製造法は、これまでほとんど検討されていなかった。
【0012】
出願人は、このような従来技術の限界に挑戦して、従来不可能と考えられてきた炭酸リチウムのみをリチウム源とするLNO系正極活物質の製造方法を探求した。その結果、焼成工程を高温焼成工程とこれに続く低温焼成工程の2段階で行うことにより要求に見合う性能のリチウムイオン電池用正極活物質を製造できることを発見し、既に特許出願を行っている(特許文献6)。
【0013】
しかしながら、特許文献6に開示した製造方法では、比較的大規模な焼成を行う場合、例えば数キロから数十キロの原料をローラーハースキルン(RHK)内で焼成した場合に、相当量の炭酸リチウムが未反応のまま残存するという問題があった。焼成温度を上げて非常に長い時間かけて焼成すれば炭酸リチウムの消費効率は上がるものの、焼成に要するエネルギーが増大して生産コストの面では不利益が生じる。しかも得られたニッケルリチウム金属複合酸化物の正極活物質としての性能が低下するという問題も見出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2016- 50120号公報
【特許文献2】国際公開第2016/031677号
【特許文献3】特開2016- 50121号公報
【特許文献4】国際公開第2009/060603号
【特許文献5】特開2005−324973号公報
【特許文献6】特願2014−244059号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 2012年報告書 148−154頁
【非特許文献2】「月刊ファインケミカル」2009年11月号 81−82頁、シーエムシー出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、炭酸リチウムを唯一のリチウム源とするリチウムイオン電池用ニッケル系正極活物質の製造方法は十分な検討がなされておらず、多くの改良の余地がある。そこで、本発明者は引き続き、リチウムイオン電池正極活物質の高性能化と低コスト化を目指して炭酸リチウムを原料とするニッケル系正極材活物質とその製造方法の一層の改良を行った。
【0017】
すなわち、リチウム源として炭酸リチウムを使用して比較的大量の原料を焼成する場合でも、正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物を高収率で製造する方法を求めて鋭意検討した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
その結果、焼成工程における焼成炉の空間容積を制御することによって、実機レベルでの大スケールでも正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物を高収率で製造することに成功した。
【0019】
すなわち本発明は以下のものである。
(発明1) リチウム源として炭酸リチウムを使用する以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法であって、上記製造方法は以下の工程1及び/又は工程1’と工程2とを含み、
【0020】
【化1】
【0021】
(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)
(工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合する、混合工程。
(工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合する、混合工程。
(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を焼成炉で焼成することによって焼成物を得る、焼成工程。
そして上記工程2において、
上記混合物が容器本体と蓋とからなる容器の内部に充填された状態で上記焼成炉に置かれ、
上記容器にはそれぞれ異なる給気路と排気路が形成されており、
上記焼成炉の外から上記給気路を経て、酸化性ガスが加熱された状態で上記容器の内部に供給されることを特徴とする、
ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0022】
(発明2) 工程2において上記混合物が2kg以上10kg以下の重量単位毎に上記容器の内部に積載されている、発明1のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0023】
(発明3) 工程2で連続式炉あるいはバッチ式炉を用いる、発明1又は2のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0024】
(発明4) 工程2でローラーハースキルン、マッフル炉から選ばれる焼成炉を用いる、発明1〜3のいずれかのニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0025】
(発明5) 工程2を経て炭酸リチウムの残留量が1重量%以下(ただし工程2で得られた焼成物全量を100重量部とする)であるニッケルリチウム金属複合酸化物焼成物が得られる、発明1〜4のいずれかのニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0026】
(発明6) 工程2の後に、工程2で得られた焼成物を解砕する工程及び/又は工程2を経た焼成物を篩掛する工程をさらに含む、発明1〜5のいずれかのニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0027】
(発明7) 以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物であって、
【0028】
【化2】
【0029】
(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)
上記ニッケルリチウム金属複合酸化物における炭酸リチウムの残留量が1.0重量%以下(ただしニッケルリチウム金属複合酸化物全量を100重量部とする)であり、
さらに、
該ニッケルリチウム金属複合酸化物とカーボンブラックとバインダーとを含む正極活物質合剤の塗膜乾燥物を備える正極と、リチウム金属からなる負極とを備えるリチウムイオン電池の0.1C放電容量が185mAh/g以上であり、かつ、
該ニッケルリチウム金属複合酸化物とカーボンブラックとバインダーとを含む正極活物質合剤の塗膜乾燥物を備える正極と、リチウム金属からなる負極とを備えるリチウムイオン電池の初回の充放電効率が86%以上であるリチウムイオン電池正極活物質として機能する、
ニッケルリチウム金属複合酸化物。
【0030】
(発明7) 発明1〜6のいずれかのニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法で得られたものである、発明7のニッケルリチウム金属複合酸化物。
【0031】
(発明8) 発明7又は8のニッケルリチウム金属複合酸化物を含む正極活物質。
【0032】
(発明9) 発明9の正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極合剤。
【0033】
(発明10) 発明10のリチウムイオン電池用正極合剤を用いたリチウムイオン電池用正極。
【0034】
(発明11) 発明11のリチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0035】
本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法を用いれば、リチウム源として炭酸リチウムを用いて比較的大きなスケールでニッケルリチウム金属複合酸化物を製造する際の炭酸リチウムの消費効率を向上し、得られるニッケルリチウム金属複合酸化物の正極活物質としての性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の工程2で用いる容器の第1の例を模式的に示す。(立体図)
図2】本発明の工程2で用いる容器の第1の例を模式的に示す。(上面図)
図3】本発明の工程2で用いる容器の第1の例に形成された給気路と排気路を略示する。
図4】本発明の工程2で用いる容器の第2の例を模式的に示す。(立体図)
図5】本発明の工程2で用いる容器の第2の例を模式的に示す。(上面図)
図6】本発明の工程2で用いる容器の第2の例に形成された給気路と排気路を略示する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の製造方法によって、以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物が得られる。式(1)中のMはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、およびZnから選ばれる金属を含んでもよい金属元素である。任意の構成元素である上記Mn、W、Nb、Mg、Zr、Znから選ばれる1種類以上の金属の量は、式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物のニッケル系正極活物質としての機能を損なわない範囲であれば如何様であってもよい。
【0038】
上記Mn、W、Nb、Mg、Zr、Znから選ばれる1種類以上の金属が上記ニッケルリチウム金属複合酸化物に供給される時点は、本発明の製造方法のいずれの工程であっても良い。例えば原料に含まれる不純物として供給されてもよく、必須の工程である後述の工程1あるいは工程1’に副成分として供給されてもよく、あるいは、任意の工程で供給されてもよい。
【0039】
【化3】
【0040】
ただし、式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、0.005<y<0.10であり、Mは、Alであるか、あるいは、Mn、W、Nb、Mg、Zr、Znから選ばれる1種類以上の微量の金属を含むAlである。)
【0041】
本発明ではまず、工程1及び/又は工程1’でニッケルリチウム金属複合酸化物を構成する金属の原料を混合する。得られた混合物を後述の工程2で焼成して目的のニッケルリチウム金属複合酸化物を得る。以下に本発明の製造方法の各工程について説明する。各工程の操作と各工程で起こる化学反応を簡潔に説明するために、式(1)中のMがAlである例について記載する。式(1)中のMがAl以外の金属を含む場合の製造方法はこの例に準じる。
【0042】
(工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合する混合工程である。炭酸リチウムは水酸化リチウム(通常は水酸化リチウム1水和物)の原料である。前述の通り、従来技術ではニッケルリチウム金属複合酸化物の原料として水酸化リチウムが用いられてきた。単位重量あたりの価格で比較すると炭酸リチウムは水酸化リチウムより安価である点、単位重量あたりのリチウム含有量で比べると炭酸リチウムは水酸化リチウム1水和物に比べてより高濃度のリチウムを含有する点で、炭酸リチウムの使用は有利である。混合は各種ミキサーを用い、せん断力をかけて行う。
【0043】
(工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合する混合工程である。工程1で説明したように炭酸リチウムの使用は製造コストの面で有利である。混合は各種ミキサーを用い、せん断力をかけて行う。
【0044】
本発明の混合工程で得られた原料混合物を後述の工程2に用いる。工程2に用いる焼成材料は、工程1で準備された混合物のみであっても、工程1’で準備された混合物のみであっても、工程1で準備された混合物と工程1’で準備された混合物をさらに混合したものであっても良い。
【0045】
(工程2) 工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を焼成炉で焼成する工程である。焼成は500℃〜850℃の温度域で3〜40時間かけて行う。上記焼成炉の焼成雰囲気には上記混合物を敷設するための容器が置かれ、上記混合物は上記容器に敷設される。本発明で用いる容器は蓋と容器本体とからなる。蓋は繰り返し開閉できる構造のものであればよい。工程2の間、容器本体と蓋と上記混合物の表面とで一定の空間が形成される。このような容器の材質は耐熱性、耐火性に優れるものであれば制限はなく、通常は耐熱性セラミック製の平皿、鉢、槽が用いられる。容器の容積や形状は混合物の量や、焼成炉の構造に応じて自在に適宜設計できる。本発明で用いる容器の最も典型的な形は角皿形状の容器本体と平板状の蓋からなるセラミック製容器である。本発明ではこのようなセラミック製角形容器を単独で焼成炉内に設置してもよく、このようなセラミック製角形容器を水平方向に連結させてもよく、またこのようなセラミック製角形容器を垂直方向に重ねてもよい。
【0046】
本発明の工程2では、上記容器内への給気と上記容器からの排気を制御する。すなわち工程2において、上記容器にはそれぞれ異なる給気路と排気路が形成されており、給気路を経て焼成雰囲気に適合した気体が容器内に流入する。この時、上記酸化性気体は焼成炉の外から容器内部に直接引き込まれ、焼成炉内であって容器の外部である空間に噴出することはない。上記混合物の焼成の進行に伴って蓄積する容器中の気体は、上記給気路と異なる流路で容器の外に排出される。工程2の間、上記容器に上記給気路と上記排気路がそれぞれ1つ形成されていてもよく、あるいはそれぞれ複数形成されていてもよい。
【0047】
給気路から容器内部に流入する気体は、被焼成物である上記混合物に含まれる金属の酸化反応を促進する組成を有する気体であれば制限されない。このような酸化性ガスは、好ましくは酸素含有気体であり、さらに好ましくは純酸素、空気、空気に酸素を加えた混合気体、もしくは窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスに酸素を加えたガスである。このような酸化性ガスは上記給気路を経て上記容器内部に到達した時点で焼成条件に適した温度に加熱されている。
【0048】
典型的には、本発明では、工程2において焼成炉外のタンクに貯蔵された純酸素、あるいは焼成炉外で適当な組成に調節された酸化性気体混合物を、焼成炉外から容器内まで貫通する給気管に導入する。給気管は容器に設けられた給気口に開口あるいは連結する。酸化性ガスは焼成炉外であらかじめ焼成雰囲気に適した温度まで加熱されるか、あるいは、焼成炉内を貫通する給気管を通る過程で焼成雰囲気に適した温度まで加熱される。したがって、本発明の工程2では、焼成雰囲気に適した酸化性ガスが焼成炉外から直接容器内部に流入する。上記酸化性ガスの流量は焼成炉外のガスタンク、管に設けられたセンサーによって自在に調節できる。
【0049】
上記容器の給気口に位置する上記管の端部から酸化性ガスが噴出する。酸化性ガスは容器の給気口に相対する上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。この「流圧を伴って」は、一旦焼成容器中に流入した酸化性ガスが拡散によって上記混合物表面に接触するのではなく、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達するという意味である。上記給気管の端部の位置は、このような状態で酸化性ガスが混合物表面に接触するような位置に決められる。より広い表面に酸化性ガス流を均一に到達させるために管の端部を拡張することもできる。
【0050】
本発明の工程2では、容器にはまた排気口が形成されている。排気口は、焼成の進行に伴って蓄積する容器中の気体が新たに流入する酸化性ガスの噴出流に巻き込まれることなく、対流、拡散、または吸引によって容器の外部に流出するような位置に、好ましくは容器において給気口から最も離れた位置や、酸化性ガスの流入部と分離された容器内部の空間に設けられる。このように本発明の工程2では焼成雰囲気のガスの流れと組成を制御しながら行われる。
【0051】
本発明の工程2で使用する容器として好ましい例を、図1図2図3を用いて説明する。図1(立体図)及び図2(上面図)は、容器本体(3)の側面に給気口(1)と排気口(2)を設ける例である。給気管(図示せず)が給気口(1)に連結・開口し、加熱された酸化性ガスが給気口(1)から容器内部の空間に流入する。ここに給気路(図3の流路(6))が形成される。一方、焼成の進行に伴い容器内部に蓄積した気体は排気口(2)から焼成炉内に排出される(排気は焼成炉内の空間に排気される)。ここに排気路(図3の流路(7))が形成される。蓋(4)が完全に容器本体の上部を覆っており、給気口(1)と排気口(2)が十分に隔たることによって、給気路と排気路が重なり合うことはない。こうして容器内部の雰囲気は酸化性ガスの組成、濃度、温度、排気量によって制御される。
【0052】
本発明の工程2で使用する容器として好ましい他の例を、図4図5図6を用いて説明する。図4(立体図)及び図5(上面図)は、容器本体(3)が仕切板(5)を有し、容器本体(3)の側面に給気口(1)と排気口(2)を設ける例である。給気管(図示せず)が給気口(1)に連結・開口し、加熱された酸化性ガスが給気口(1)から容器に入り、仕切板(5)に導かれて仕切板(5)の片面に接する空間に広がる。ここに給気路(図6の流路(8))が形成される。一方、焼成の進行に伴い容器内部に蓄積した気体は排気口(2)から焼成炉内に排出される。ここに排気路(図6の流路(9))が形成される。仕切板(5)によって蓋(4)と容器本体(3)とで形成された空間が実質的に分割されているため、給気路と排気路が完全に重なり合うことはない。こうして容器内部の雰囲気は酸化性ガスの組成、濃度、温度、排気量によって制御される。
【0053】
昇温開始後は、500℃〜850℃の温度域、好ましくは600℃〜800℃の温度域で焼成する。焼成温度が500℃未満では未反応の炭酸リチウムが多量に残存しニッケルリチウム金属複合酸化物の生産効率が低下する。しかもこのような低すぎる温度で焼成して製造されたニッケルリチウム金属複合酸化物をリチウムイオン電池用正極活物質に利用すると、十分な電池性能が得られない。焼成温度が850℃を超えると未反応の炭酸リチウムは減少するが、製造されたニッケルリチウム金属複合酸化物のリチウムイオン電池用正極活物質に利用すると、十分な電池性能が得られない。このような高すぎる温度で焼成した場合にはいわゆるカチオンミックス現象が生じると考えられる。
【0054】
工程2では上記焼成温度で3〜40時間、好ましくは5〜35時間かけて焼成する。焼成時間が3時間より短いと未反応の炭酸リチウムが多量に残存しニッケルリチウム金属複合酸化物の生産効率が低下する。しかもこのような短すぎる焼成時間で焼成して製造されたニッケルリチウム金属複合酸化物のリチウムイオン電池用正極活物質に利用すると、十分な電池性能が得られない。焼成時間が40時間より長いと炭酸リチウムの消費率はもはや上がらないから経済的に好ましくない。
【0055】
工程2で用いる焼成炉は、上述のような容器への酸化性ガスの流入と排出が可能な構造であれば制限されない。好ましい焼成炉は商業生産を想定した比較的大量の原料混合物を焼成することができる連続式あるいはバッチ式炉である。例えば、ローラーハースキルン、マッフル炉などを使用することができる。
【0056】
本発明の工程2で得られるニッケルリチウム金属複合酸化物の量は、焼成炉の規模によって様々であるが、通常用いられている33cm角で高さが10cm程度の角皿形状の容器を用いる場合には、容器ごとに2kg以上の被焼成物を充填して給気と排気の制御を行うことができる。得られるニッケルリチウム金属複合酸化物の正極活物質としての性能の点では、この形状の容器に充填する被焼成物の量は2〜10kgが好ましい。容器を連結あるいは積載する、連続式焼成炉を用いることによって焼成効率を上げることができる。
【0057】
工程2の終了時に炭酸リチウムはほぼ完全に消費されてニッケルリチウム金属複合酸化物を形成している。その結果、正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物が得られる。このような本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物の性能は、以下の評価によって確認することができる。
【0058】
(炭酸リチウム残量の定量)
得られたニッケルリチウム金属複合酸化物2gを25℃100mlの水に分散した上澄みの炭酸リチウムの溶出量は1.0重量%以下を示す。
【0059】
(凝集の有無)
得られたニッケルリチウム金属複合酸化物を、手指による解砕及び目視での確認で凝集の有無を確認すると、手指により容易に解砕でき、凝集はない。
【0060】
(放電容量)
本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物にカーボンブラック及びバインダーを配合した正極活物質を含む合剤が塗布された正極とリチウム金属からなる負極とを備えるリチウムイオン電池の0.1C放電容量は185mAh/g以上である。
【0061】
(充放電特性)
本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物にカーボンブラック及びバインダーを配合した正極活物質を含む合剤が塗布された正極とリチウム金属からなる負極とを備えるリチウムイオン電池の初回充放電効率は86%以上である。
【0062】
工程2の後に、工程2で得られた焼成物をボールミル、ジェットミル、乳鉢など用いて解砕する工程を設けることができる。またさらに工程2の後に、工程2で得られた焼成物粒子を篩う工程を設けることもできる。このような解砕工程、篩工程の両方を行っても良い。このような解砕工程及び/又は篩工程によって、充填性や粒度分布が調整された微細粒子状のニッケルリチウム金属複合酸化物を製造することができる。本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物は、最終的にはメジアン径が好ましくは25μm以下、さらに好ましくは3〜20μmの範囲に調整される。
【0063】
本発明により炭酸リチウムを原料に用いて比較的大スケールで効率よく、リチウムイオン電池の正極活物質として好適なニッケルリチウム金属複合酸化物が提供される。本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物粉体のみでリチウムイオン電池の正極活物質を構成してもよいし、本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物粉体に他のリチウムイオン二次電池用正極活物質を混合してもよい。例えば、本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物粉体50重量部と、本発明以外のリチウムイオン二次電池用正極活物質50重量部とを混合したものを正極活物質として用いることもできる。リチウムイオン二次電池の正極を製造する場合には、上述の本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物粉体を含む正極活物質、導電助剤、バインダー、分散用有機溶媒を加えて正極用合剤スラリーを調製し、電極に塗布し、リチウムイオン二次電池用正極を製造する。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
以下の工程1、工程2を経て本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物を製造した。
(工程1)硫酸ニッケルと硫酸コバルトの水溶液から調製した水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトで構成される平均粒径13.6μmの前駆体に水酸化アルミニウムと炭酸リチウムをミキサーでせん断をかけて混合した。なお、水酸化アルミニウムは前駆体量に対してアルミニウムが2モル%となるように、炭酸リチウムはニッケル−コバルト−アルミニウムの合計に対するモル比が1.025となるように各々調製した。
(工程2)図1図2に示すセラミック製容器を用いて工程1で得られた前駆体混合物を焼成した。容器本体(3)には、酸化性ガス導入のための給気口(1)、排気のための排気口(2)が設けられ、蓋(4)で密閉されている。給気口(1)より加熱された純酸素を導入した。工程1で得られた混合物4000gを1つの焼成容器に入れ、給気管(図示せず)と給気口(2)から毎時2立方メートルの加熱された純酸素を供給した。排気口(2)から自然に排気させながら、昇温を開始した。昇温速度は毎時155℃で720℃まで昇温し、720℃で20時間保持する(1段目の焼成)。その後780℃まで毎時155℃の昇温速度で昇温し20時間保持(2段目の焼成)した後、室温まで冷却した。こうして本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物が得られた。
【0065】
(実施例2)
2段目の焼成温度を800℃とした以外は実施例1と同様に焼成を行い、本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物が得られた。
【0066】
(実施例3)
2段目の焼成温度を790℃とした以外は実施例1と同様に焼成を行い、本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物が得られた。
【0067】
(実施例4)
2段目の焼成温度を785℃とした以外は実施例1と同様に焼成を行い、本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物が得られた。
【0068】
(比較例1)
実施例1の工程2で用いた容器を、酸化性ガス流入口、酸化性ガス排出口、蓋を備えていない同容量のセラミック製角皿に変更した。この角皿を焼成炉内に設置し、酸化性ガスは炉の下部から毎時2.7立方メートルの流量で加熱をせず供給した。昇温速度は毎時155℃で810℃まで昇温し、810℃で10時間保持する。その後780℃まで降温し5時間保持した後、室温まで冷却した。こうして比較用のニッケルリチウム金属複合酸化物が得られた。
【0069】
(比較例2)
実施例1の工程2で用いた容器を、酸化性ガス流入口、酸化性ガス排出口、蓋を備えていない同容量のセラミック製角皿に変更した。工程1で得られた混合物1600gを酸化性ガス流入口、酸化性ガス排出口、蓋を設けない混合容器に入れ、焼成炉内に設置した。酸化性ガスは炉の下部から毎時2立方メートルの流量で加熱をせず供給した。昇温速度は毎時155℃で690℃まで昇温し、690℃で10時間保持する。その後810℃まで毎時155℃の昇温速度で昇温し5時間保持した後、室温まで冷却した。こうして本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物が得られた。
【0070】
実施例、比較例で得られたニッケルリチウム金属複合酸化物を以下の点で評価した。評価結果を表1に示す。
(炭酸リチウムの残存量)
得られたニッケルリチウム金属複合酸化物を均一に混合した後、その2gを25℃100mlの水に分散し、3分間マグネチックスターラー上で攪拌させた後、吸引濾過した。濾液の一部を取り、Warder法により炭酸リチウムの溶出量を測定した。溶出量を元のニッケルリチウム金属複合酸化物中の重量パーセントで表す。
(平均粒径)
得られたニッケルリチウム金属複合酸化物を粒子の凝集が見られた場合には乳鉢による解砕を行ってから、粒子の凝集がない場合はそのままJIS Z 8801−1:2006に規定される公称目開き53μmの標準篩を通過させた。篩を通過したニッケルリチウム金属複合酸化物粒子の平均粒子径(D50)を堀場製作所製レーザー散乱型粒度分布測定装置LA−950を用いて測定した。
(電池性能)
得られたニッケルリチウム金属複合酸化物100重量部に対し、デンカ製アセチレンブラック1重量部、日本黒鉛製グラファイトカーボン5重量部、クレハ製ポリフッ化ビニリデン4重量部となるように調製し、N−メチルピロリドンを分散溶媒としてスラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔に塗工し、乾燥、プレスを行ったものを正極、対極にリチウム金属箔を負極として2032型コイン電池を作成した。この電池の0.1Cでの放電容量及び初回効率を測定した。
【0071】
【表1】
比較例1では工程1で得られた混合物の充填量は実施例1と同じであったが、工程2で酸化性ガス導入口、酸化性ガス排出口、蓋を設けない焼成容器を用い、更に加熱を行わない酸素を用いた。このため、炭酸リチウムの残存量は7重量%以上となり、電池性能も非常に低いものであった。
【0072】
比較例2では実施例よりも1段目の焼成温度は低いものの、2段目の焼成温度は高く、更に工程1で得られた混合物の焼成容器への充填量は1600gと実施例1よりも大幅に少ない。それにもかかわらず、炭酸リチウムの残存量は1重量%を超えており、放電容量も低く、正極活物質に用いた場合の電池性能が劣る。
【0073】
このように本発明のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法では、原料である低価格の炭酸リチウムを効率よく反応させて、正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、低コストで高性能のリチウムイオン電池を供給する手段として有益である。本発明で得られたニッケルリチウム金属複合酸化物とこれを利用したリチウムイオン電池は、携帯情報端末や電池搭載車両の一層の低コスト化に貢献する。
【符号の説明】
【0075】
1 給気口
2 排気口
3 容器本体
4 蓋
5 仕切板
6 給気路
7 排気路
8 給気路
9 排気路
図1
図2
図3
図4
図5
図6