請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗癌剤、並びに薬理学的に許容され得る担体又は希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする癌の予防又は治療用医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<<抗癌剤>>
一実施形態において、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」と略記することがある。)、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有する抗癌剤を提供する。
【0016】
(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜6のアルケニル基である。)
【0017】
本実施形態の抗癌剤は、高い癌細胞増殖抑制効果を有し、さらに、無臭で水溶性が高いため、容易に医薬品又は飲食品に加工することができる。また、ニンニク等のユリ科野菜に含まれる化合物を有効成分としており、日常的に摂取することができ、重篤な副作用を引き起こす心配がないものである。
【0018】
本発明者らは、日常摂取する食品による癌の予防及び初期段階での増殖抑制が重要であるという考えの元、ニンニク等のユリ科野菜に含まれるアリイン等のR−システインスルホキシドに着目し、高い癌細胞増殖抑制効果を有すること見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
本実施形態の抗癌剤の適用対象とする癌としては、特別な限定はなく、例えば、乳癌(例えば、浸潤性乳管癌、非浸潤性乳管癌、炎症性乳癌等)、前立腺癌(例えば、ホルモン依存性前立腺癌、ホルモン非依存性前立腺癌等)、膵癌(例えば、膵管癌等)、胃癌(例えば、乳頭腺癌、粘液性腺癌、腺扁平上皮癌等)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性中皮腫等)、結腸癌(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸癌(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸癌(例えば、家族性大腸癌、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、消化管間質腫瘍等)、小腸癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道癌、十二指腸癌、舌癌、咽頭癌(例えば、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌等)、唾液腺癌、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓癌(例えば、原発性肝癌、肝外胆管癌等)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腎盂と尿管の移行上皮癌等)、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、肝癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、卵巣癌(例、上皮性卵巣癌、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱癌、尿道癌、皮膚癌(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞癌等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌等)、副甲状腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、血管線維腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形癌(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、本実施形態の抗癌剤の適用対象とする癌としては、メラノーマが好ましい。
【0020】
本実施形態の抗癌剤は、癌細胞に直接又は間接的に作用し、癌細胞の増殖若しくは転移抑制、癌細胞の殺傷、又は癌細胞の発生抑制に寄与するものである。
【0021】
<化合物(1)>
本実施形態の抗癌剤は、化合物(1)を有効成分として含有する。
【0023】
(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜6のアルケニル基である。)
【0024】
化合物(1)は、システインスルホキシド骨格を有する化合物であり、癌細胞の増殖若しくは転移抑制、癌細胞の殺傷、又は癌細胞の発生抑制に寄与するものである。
【0025】
一般式(1)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜6のアルケニル基である。
【0026】
[アルキル基]
Rにおける前記炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。そして、前記アルキル基は、炭素数が1〜6であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましく、1〜3であることが特に好ましい。
【0027】
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基としては、炭素数が1〜6であることが好ましく、前記アルキル基としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチル−n−ブチル基、2−メチル−n−ブチル基、3−メチル−n−ブチル基、1,1−ジメチル−n−プロピル基、1,2−ジメチル−n−プロピル基、2,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−n−プロピル基、n−ヘキシル基、1−メチル−n−ペンチル基、2−メチル−n−ペンチル基、3−メチル−n−ペンチル基、4−メチル−n−ペンチル基、1,1−ジメチル−n−ブチル基、1,2−ジメチル−n−ブチル基、1,3−ジメチル−n−ブチル基、2,2−ジメチル−n−ブチル基、2,3−ジメチル−n−ブチル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、1−エチル−n−ブチル基、2−エチル−n−ブチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、1−エチル−1−メチル−n−プロピル基、1−エチル−2−メチル−n−プロピル基等が挙げられる。
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基は、炭素数が1〜6であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましく、1〜3であることが特に好ましい。
【0028】
より具体的には、Rにおける直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0029】
環状の前記アルキル基は、炭素数が3〜6であることが好ましく、前記アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、1−メチル−シクロプロピル基、2−メチル−シクロプロピル基、シクロペンチル基、1−メチル−シクロブチル基、2−メチル−シクロブチル基、3−メチル−シクロブチル基、1,2−ジメチル−シクロプロピル基、2,3−ジメチル−シクロプロピル基、1−エチル−シクロプロピル基、2−エチル−シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1−メチル−シクロペンチル基、2−メチル−シクロペンチル基、3−メチル−シクロペンチル基、1−エチル−シクロブチル基、2−エチル−シクロブチル基、3−エチル−シクロブチル基、1,2−ジメチル−シクロブチル基、1,3−ジメチル−シクロブチル基、2,2−ジメチル−シクロブチル基、2,3−ジメチル−シクロブチル基、2,4−ジメチル−シクロブチル基、3,3−ジメチル−シクロブチル基、1−n−プロピル−シクロプロピル基、2−n−プロピル−シクロプロピル基、1−i−プロピル−シクロプロピル基、2−i−プロピル−シクロプロピル基、1,2,2−トリメチル−シクロプロピル基、1,2,3−トリメチル−シクロプロピル基、2,2,3−トリメチル−シクロプロピル基、1−エチル−2−メチル−シクロプロピル基、2−エチル−1−メチル−シクロプロピル基、2−エチル−2−メチル−シクロプロピル基、2−エチル−3−メチル−シクロプロピル基等が挙げられ、さらに、これら環状のアルキル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子又は水酸基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0030】
環状の前記アルキル基は、単環状であることが好ましい。また、環状の前記アルキル基は、炭素数が3〜6であることがより好ましく、3〜5であることがさらに好ましく、3〜4であることがより好ましい。
【0031】
より具体的には、Rにおける環状の前記アルキル基はシクロプロピル基、シクロブチル基、1−メチル−シクロプロピル基又は2−メチル−シクロプロピル基であることが好ましく、シクロプロピル基又はシクロブチル基であることがより好ましく、シクロプロピル基であることがさらに好ましい。
【0032】
[アルケニル基]
Rにおける前記炭素数2〜6のアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。そして、前記アルケニル基は、炭素数が2〜6であることが好ましく、2〜5であることがより好ましく、2〜4であることがさらに好ましく、2〜3であることが特に好ましい。
【0033】
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルケニル基としては、炭素数が2〜6であることが好ましく、前記アルケニル基としては、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチル−1−エテニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−エチルエテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−n−プロピルエテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、2−エチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基、1−i−プロピルエテニル基、1,2−ジメチル−1−プロペニル基、1,2−ジメチル−2−プロペニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、1−メチル−1−ペンテニル基、1−メチル−2−ペンテニル基、1−メチル−3−ペンテニル基、1−メチル−4−ペンテニル基、1−n−ブチルエテニル基、2−メチル−1−ペンテニル基、2−メチル−2−ペンテニル基、2−メチル−3−ペンテニル基、2−メチル−4−ペンテニル基、2−n−プロピル−2−プロペニル基、3−メチル−1−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、3−メチル−3−ペンテニル基、3−メチル−4−ペンテニル基、3−エチル−3−ブテニル基、4−メチル−1−ペンテニル基、4−メチル−2−ペンテニル基、4−メチル−3−ペンテニル基、4−メチル−4−ペンテニル基、1,1−ジメチル−2−ブテニル基、1,1−ジメチル−3−ブテニル基、1,2−ジメチル−1−ブテニル基、1,2−ジメチル−2−ブテニル基、1,2−ジメチル−3−ブテニル基、1−メチル−2−エチル−2−プロペニル基、1−s−ブチルエテニル基、1,3−ジメチル−1−ブテニル基、1,3−ジメチル−2−ブテニル基、1,3−ジメチル−3−ブテニル基、1−i−ブチルエテニル基、2,2−ジメチル−3−ブテニル基、2,3−ジメチル−1−ブテニル基、2,3−ジメチル−2−ブテニル基、2,3−ジメチル−3−ブテニル基、2−i−プロピル−2−プロペニル基、3,3−ジメチル−1−ブテニル基、1−エチル−1−ブテニル基、1−エチル−2−ブテニル基、1−エチル−3−ブテニル基、1−n−プロピル−1−プロペニル基、1−n−プロピル−2−プロペニル基、2−エチル−1−ブテニル基、2−エチル−2−ブテニル基、2−エチル−3−ブテニル基、1,1,2−トリメチル−2−プロペニル基、1−t−ブチルエテニル基、1−メチル−1−エチル−2−プロペニル基、1−エチル−2−メチル−1−プロペニル基、1−エチル−2−メチル−2−プロペニル基、1−i−プロピル−1−プロペニル基、1−i−プロピル−2−プロペニル基、2−メチレン−シクロペンチル基、3−メチレン−シクロペンチル基等が挙げられる。
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルケニル基は、炭素数が2〜6であることが好ましく、2〜5であることがより好ましく、2〜4であることがさらに好ましく、2〜3であることが特に好ましい。
【0034】
より具体的には、Rにおける直鎖状又は分岐鎖状の前記アルケニル基は、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基又は1−メチル−1−エテニル基であることが好ましく、エテニル基、1−プロペニル基又は2−プロペニル基であることがより好ましく、1−プロペニル基又は2−プロペニル基であることがさらに好ましい。
【0035】
環状の前記アルケニル基は、炭素数が5〜6であることが好ましく、前記アルケニル基としては、例えば、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1−メチル−2−シクロペンテニル基、1−メチル−3−シクロペンテニル基、2−メチル−1−シクロペンテニル基、2−メチル−2−シクロペンテニル基、2−メチル−3−シクロペンテニル基、2−メチル−4−シクロペンテニル基、2−メチル−5−シクロペンテニル基、3−メチル−1−シクロペンテニル基、3−メチル−2−シクロペンテニル基、3−メチル−3−シクロペンテニル基、3−メチル−4−シクロペンテニル基、3−メチル−5−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基等が挙げられ、さらに、これら環状のアルケニル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子又は水酸基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子としては、上述の[アルキル基]で例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0036】
環状の前記アルケニル基は、単環状であることが好ましい。また、環状の前記アルケニル基は、炭素数が5〜6であることが好ましく、5であることがより好ましい。
【0037】
より具体的には、Rにおける環状の前記アルケニル基は1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、又は3−シクロペンテニル基であることが好ましい。
【0038】
化合物(1)で好ましいものとしては、例えば、Rが炭素数1〜6のアルキル基である場合、以下に示す化合物等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0040】
化合物(1)で好ましいものとしては、例えば、Rが炭素数2〜6のアルケニル基である場合、以下に示す化合物等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0042】
本実施形態の抗癌剤は、化合物(1)の薬学的に許容できる塩を含んでいてもよい。
【0043】
本明細書において、「薬学的に許容できる」とは、被検動物に適切に投与された場合に、概して、副作用を起こさない程度を意味する。
【0044】
塩としては、薬学的に許容できる酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。
酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸との塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基との塩;カフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩等が挙げられる。
【0045】
本実施形態の抗癌剤は、他の成分として、例えば、PBS、Tris−HCl等の緩衝液、アジ化ナトリウム、グリセロール等の添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
本実施形態の抗癌剤を用いて、癌(特に、メラノーマ)の治療方法を提供することができる。
治療対象としては、特別な限定はなく、例えば、ヒト又はヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ウマ、ウシ等)が挙げられ、中でも、ヒトが好ましい。
【0047】
<化合物(1)の製造方法>
化合物(1)は、例えば、ユリ科野菜(例えば、タマネギ、ニンニク、ネギ、ニラ、ラッキョウ等)に含まれる化合物であることから、所望のRを有する化合物(1)を含むユリ科野菜を適宜選択し、ユリ科野菜から前記所望のRを有する化合物(1)を抽出及び精製することにより得ることができる。
【0048】
また、化合物(1)は、例えば、システインと、所望のRを有する臭化物とを、公知の反応を用いて置換させ、さらに公知の反応を用いて酸化させることで製造できる。より具体的には以下のとおりである。
【0049】
化合物(1)は、例えば、システインと下記一般式(1a)で表される化合物(以下、「化合物(1a)」と略記することがある。)とを反応させて、下記一般式(1b)で表される化合物(以下、「化合物(1b)」と略記することがある。)を得る工程(以下、「化合物(1b)製造工程」と略記することがある。)と、下記一般式(1b)で表される化合物と酸化剤とを反応させて、化合物(1)を得る工程(以下、「化合物(1)製造工程」と略記することがある。)と、を有する製造方法により、製造できる。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0051】
(式中、Rは、上記と同じである。Xは、ハロゲン原子である。)
【0052】
[化合物(1b)製造工程]
前記化合物(1b)製造工程においては、システインと化合物(1a)とを反応させて、化合物(1b)を得る。
化合物(1b)を得る前記反応は、公知の置換反応である。
【0053】
(化合物(1a))
化合物(1a)は公知化合物(有機ハロゲン化物)である。
化合物(1a)において、Rが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である場合、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0054】
また、Rが炭素数1〜6の環状のアルキル基である場合、シクロプロピル基、シクロブチル基、1−メチル−シクロプロピル基又は2−メチル−シクロプロピル基であることが好ましく、シクロプロピル基又はシクロブチル基であることがより好ましく、シクロプロピル基であることがさらに好ましい。
【0055】
また、Rが炭素数2〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基である場合、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基又は1−メチル−1−エテニル基であることが好ましく、エテニル基、1−プロペニル基又は2−プロペニル基であることがより好ましく、1−プロペニル基又は2−プロペニル基であることがさらに好ましい。
【0056】
また、Rが炭素数5〜6の環状のアルケニル基である場合、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、又は3−シクロペンテニル基であることが好ましい。
【0057】
化合物(1a)において、Xはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でも、Xにおけるハロゲン原子としては、臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましい。
【0058】
(反応条件)
化合物(1b)製造工程においては、例えば、適当な有機溶媒、又は前記有機溶媒及び水の混合溶媒等の水性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
化合物(1b)製造工程において使用可能な有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、トリフルオロメチルベンゼン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、メチル−tert−ブチルエーテル等が挙げられ、これらに限定されない。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0059】
化合物(1b)製造工程において、システインの使用量は、例えば、化合物(1a)の使用量の0.5〜2倍モル量であることが好ましく、1〜1.5倍モル量であることがより好ましい。
【0060】
化合物(1b)製造工程においては、さらに塩基を用いて反応を行うことが好ましい。
前記塩基としては、例えば、ピリジン、2,6−ルチジン、2,6−ビス(tert−ブチル)ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、N−メチルモルホリン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムアミド等の無機塩基;リチウムジイソプロピルアミド、ブチルリチウム等の有機金属塩等が挙げられ、これらに限定されない。
前記塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
化合物(1b)製造工程において、塩基の使用量は、例えば、化合物(1b)の使用量の1〜5倍モル量であることが好ましく、2〜4倍モル量であることがより好ましい。
【0061】
化合物(1b)製造工程において、反応温度は、例えば、15〜40℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。
化合物(1b)製造工程において、反応時間は、例えば、12〜48時間であることが好ましく、18〜24時間であることがより好ましい。
【0062】
化合物(1b)製造工程において、反応終了後は、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、化合物(1b)を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、化合物(1b)を取り出せばよい。また、取り出した化合物(1b)は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
化合物(1b)製造工程においては、反応終了後、化合物(1b)を取り出さずに、次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(1)の収率が向上する点から、化合物(1b)を上述の方法で取り出すことが好ましい。
【0063】
[化合物(1)製造工程]
前記化合物(1)製造工程においては、化合物(1b)と酸化剤とを反応させて、化合物(1)を得る。
化合物(1)を得る前記反応は、公知の酸化反応である。
【0064】
(化合物(1b))
化合物(1b)は公知化合物である。
化合物(1b)において、Rの好ましい態様は、前記化合物(1a)におけるRと同様である。
【0065】
(反応条件)
化合物(1)製造工程においては、例えば、適当な有機溶媒、又は前記有機溶媒及び水の混合溶媒等の水性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
化合物(1)製造工程において使用可能な有機溶媒としては、上述の[化合物(1b)製造工程]で例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0066】
化合物(1)製造工程においては、例えば、過酸化水素、オキソン、過安息香酸等の酸化剤を用いて反応を行うことが好ましい。
酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。ただし、通常、酸化剤は、1種を単独で用いれば十分である。
化合物(1)製造工程において、酸化剤の使用量は、例えば、化合物(1b)の使用量の1〜4倍モル量であることが好ましく、1〜2倍モル量であることがより好ましい。
【0067】
化合物(1)製造工程において、反応温度は、例えば、15〜40℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。
化合物(1)製造工程において、反応時間は、例えば、30分〜24時間であることが好ましく、1〜12時間であることがより好ましい。
【0068】
化合物(1)製造工程において、反応終了後は、化合物(1b)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(1)を取り出すことができ、取り出した化合物(1)をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0069】
化合物(1)、化合物(1a)、化合物(1b)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0070】
<<癌の予防又は治療用医薬組成物>>
一実施形態において、本発明は、上述の抗癌剤、並びに薬理学的に許容され得る担体又は希釈剤のうち少なくともいずれかを含む癌の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0071】
本実施形態の医薬組成物によれば、効果的に癌を予防又は治療することができる。本実施形態の医薬組成物の適用対象とする癌としては、上述の<<抗癌剤>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の医薬組成物は、メラノーマの予防又は治療に用いられることが好ましい。
【0072】
<投与量>
本実施形態の医薬組成物は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
本実施形態の医薬組成物に含まれる上述の抗癌剤の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約1.0から100g、好ましくは約3.0から30g、より好ましくは約5.0から15gであると考えられる。
非経口的に投与する場合は、その1回の投与量は症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日当り約0.01から30g、好ましくは約0.05から15g、より好ましくは約0.1から5gを静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。
【0073】
投与回数としては、1週間平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、腹腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射、又は経皮的若しくは経口的投与が好ましい。
注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0074】
<組成成分>
本実施形態の医薬組成物は、治療的に有効量の上述の抗癌剤、並びに薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
【0075】
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上述の抗癌剤の生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、上述の抗癌剤の移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、例えば、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、特定の臓器、組織、又は細胞へ、上述の抗癌剤を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。
【0076】
本実施形態の医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。
または、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
【0077】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0078】
本実施形態の医薬組成物が注射剤である場合、無菌組成物は、例えば、注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。また、注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤(例えば、アルコール(具体的には、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等))、又は非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50等)と併用してもよい。
【0079】
また、油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、又は酸化防止剤をさらに配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0080】
また、注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類等)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0081】
本実施形態の医薬組成物は、単独で用いてもよく、その他の癌の予防又は治療用医薬組成物と組み合わせて用いてもよい。
【0082】
<治療方法>
本発明の一側面は、癌の予防又は治療のための上述の抗癌剤を含む医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、治療的に有効量の上述の抗癌剤、並びに薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、癌の治療剤を提供する。
また、本発明の一側面は、癌の治療剤を製造するための上述の抗癌剤の使用を提供する。
また、本発明の一側面は、上述の抗癌剤の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、癌の治療方法を提供する。
【0083】
<<飲食品>>
一実施形態において、本発明は、上述の抗癌剤を含む飲食品を提供する。
【0084】
本実施形態の飲食品によれば、効果的に癌を予防することができる。また、本実施形態の飲食品に含まれる抗癌剤は、無臭で水溶性が高く、さらに、呈味増強効果を有することから、より美味しい飲食品を提供することができる。
本実施形態の飲食品の適用対象とする癌としては、上述の<<抗癌剤>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の飲食品は、メラノーマの予防に用いられることが好ましい。
【0085】
本明細書において、「飲食品」とは、食品と飲料を合わせたものであり、主に加工食品を意味する。また、本実施形態の飲食品は、健康食品(特定保健用食品を含む)、機能性食品、健康飲料、機能性飲料を含む。
【0086】
上述の抗癌剤を含む飲食品の形態は、固形状であっても液状であってもよい。飲食品の種類としては、具体的には、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、スパゲッティ、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、グミ、ガム、キャラメル、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット等の焼き菓子、ゼリー、ジャム、クリーム等の菓子類;かまぼこ、ハンバーグ、ハム、ソーセージ等の水産又は畜産加工食品;加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、カレー、パン、ジャム、サラダ、惣菜、漬物等が挙げられ、これらに限定はされない。
【0087】
本実施形態の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加剤を適宜配合してもよい。添加剤としては、例えば、砂糖、果糖、異性化液糖、ブドウ糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料、デキストリン、澱粉等の賦形剤、結合剤、希釈剤、香料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0088】
本実施形態の飲食品における上述の抗癌剤の配合量は、その生理作用や薬理作用が発揮できる量であればよく、上述の<<癌の予防又は治療用医薬組成物>>における経口投与での投与量及び対象飲食品の一般的な摂取量を考慮して、通常、成人1日当たりの摂取量が約1.0から100g、好ましくは約3.0から30g、より好ましくは約5.0から15gとなる量とすればよい。例えば、固形状食品の場合には10〜50重量%、飲料等の液状食品の場合には1〜10重量%であればよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
[製造例1]化合物(1−B2)(S−Allyl−L−cysteine sulfoxide;ACSO)の合成
以下に示す経路で、化合物(1−B2)(S−Allyl−L−cysteine sulfoxide(ACSO)、Allin)を製造した。
【0091】
【化7】
【0092】
まず、システイン塩酸塩一水和物(30g、170mmol)を99%エタノールと水とを2:1で混合した溶媒を添加した50mL容量の丸底フラスコに加えた。続いて、塩基であるトリエチルアミン(72mL、518mmol)を加えた。続いて、臭化アリル(29mL、335mmol)を加えて、氷冷下で20分間反応させた。続いて、反応溶液を吸引ろ過及び真空乾燥し、白色の結晶(化合物(1b−1))を得た(収量12g、収率44%)。
【0093】
続いて、得られた化合物(1b−1)(12g、75mmol)を、純水を添加した50mL容量の丸底フラスコに加えた。続いて、酸化剤である30%過酸化水素水(15mL、152mmol)を加えて、室温で24時間反応させた。続いて、ロータリーエバポレーターを用いて反応溶液を濃縮した。続いて、濃縮した溶液を用いて、99%エタノールによる抽出、吸引ろ過及び真空乾燥し、白色の結晶(化合物(1−B2))を得た(収量6.6g、収率50%)。
【0094】
得られた化合物(1−B2)の核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)分光法による分析結果を
図1に、質量分析法(Mass Spectrometry;MS)による分析結果を
図2に示す。
図1及び
図2から、化合物(1−B2)(ACSO)が製造できたことが確かめられた。
【0095】
[製造例2]化合物(1−A1)(S−Methyl−L−cysteine sulfoxide;MCSO)の合成
以下に示す経路で、化合物(1−A1)(S−Methyl−L−cysteine sulfoxide;MCSO)を製造した。
【0096】
【化8】
【0097】
まず、システイン塩酸塩一水和物(30g、170mmol)を99%エタノールと水とを2:1で混合した溶媒を添加した50mL容量の丸底フラスコに加えた。続いて、塩基であるトリエチルアミン(72mL、518mmol)を加えた。続いて、ヨードメタン(21mL、337mmol)を加えて、氷冷下で20分間反応させた。続いて、反応溶液を吸引ろ過及び真空乾燥し、白色の結晶(化合物(1b−2))を得た(収量14g、収率61%)。
【0098】
続いて、得られた化合物(1b−2)(14g、100mmol)を、純水を添加した50mL容量の丸底フラスコに加えた。続いて、酸化剤である30%過酸化水素水(20mL、200mmol)を加えて、室温で24時間反応させた。続いて、ロータリーエバポレーターを用いて反応溶液を濃縮した。続いて、濃縮した溶液を用いて、99%エタノールによる抽出、吸引ろ過及び真空乾燥し、白色の結晶(化合物(1−A1))を得た(収量6.5g、収率43%)。
【0099】
得られた化合物(1−A1)の核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)分光法による分析結果を
図3に、質量分析法(Mass Spectrometry;MS)による分析結果を
図4に示す。
図3及び
図4から、化合物(1−A1)(MCSO)が製造できたことが確かめられた。
【0100】
[実施例1]マウスメラノーマ細胞を用いたMTT(3−(4,5−Dimethylthial−2−yl)−2,5−Diphenyltetrazalium Bromide)アッセイ
(1)細胞の準備
96穴プレートにB16F1細胞(マウスメラノーマ細胞)を3.0×10
5cells/ウェルとなるように播種し、37℃で24時間インキュベートした。
【0101】
(2)化合物の添加
続いて、製造例1及び2で製造した化合物(1−B2)、化合物(1−A1)及び化合物(1−b1)をそれぞれ0、0.1、0.5、1、5、10μmol/mLの濃度となるように添加し、37℃で24時間インキュベートした。
【0102】
(3)MTT(3−(4,5−Dimethylthial−2−yl)−2,5−Diphenyltetrazalium Bromide)アッセイ
続いて、MTT(3−(4,5−Dimethylthial−2−yl)−2,5−Diphenyltetrazalium Bromide)標識試薬(同仁化学研究所製)をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で5mg/mLに溶解したMTT標識試薬を、各ウェルに10μLずつ添加し、37℃で30分間インキュベートした。MTT標識試薬は、代謝的に活性のある細胞により紫色のフォルマザン結晶を生成することが知られており、細胞生存率の指標となる。続いて、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を各ウェルに100μLずつ添加し、反応を停止させた。続いて、マルチプレートリーダー(Biotek社製)を用いて、570nm及び650nmの吸光度を測定した。結果を
図5に示す。
【0103】
図5から、化合物(1−b1)を添加したB16F1細胞では細胞の生存率に変化は見られなかった。一方、化合物(1−B2)又は化合物(1−A1)を添加したB16F1細胞において、1μmol/mL以上添加した場合に、B16F1細胞の細胞生存率が著しく低下することが明らかとなった。また、化合物(1−B2)を添加したB16F1細胞では、3μmol/mL以上添加した場合に、化合物(1−A1)を添加したB16F1細胞よりも細胞生存率が低下することが明らかとなった。
【0104】
[実施例2]化合物(1−B2)又は化合物(1−A1)経口投与し、マウスメラノーマ細胞を皮下注射したマウスを用いた乳酸脱水素酵素(LDH)の活性測定試験
(1)マウスへの化合物の投与
C57BL/6J雄マウス(5週齢)(日本エスエルシー株式会社製)を7日間飼育した。続いて、各6〜9匹のマウスに、化合物(1−B2)、化合物(1−A1)又は化合物(1−b2)を蒸留水に溶解して毎日経口投与した。1日の投与量としては、体重1kg当たり各化合物を1mmol含む10mLの蒸留水を経口投与した。コントロールとして、化合物を含まない蒸留水を経口投与したマウス群も準備した。
【0105】
(2)メラノーマ細胞の皮下注射
続いて、化合物の投与から7日目に、(1)で化合物を投与した各マウス群及びコントロール(蒸留水投与)群について、B16F1細胞(マウスメラノーマ細胞)を3.0×10
5cellsずつ皮下注射した。また、対照群として、(1)で化合物を投与した各マウス群及びコントロール(蒸留水投与)群について、B16F1細胞を皮下注射しない群も準備した。また、各化合物の投与はB16F1細胞の皮下注射後も毎日行った。各マウス群において、腫瘍が肉眼で観察された日から5日後までの腫瘍の各日の体積を測定した。結果を
図6に示す。腫瘍体積は以下の式を用いて、計算した。
【0106】
【数1】
【0107】
図6から、化合物(1−b1)を投与したマウス群では、腫瘍体積は経時的に増加した。一方、化合物(1−B2)又は化合物(1−A1)を投与したマウス群では、腫瘍体積の増加が抑制されていた。特に、化合物(1−B2)を投与したマウス群では、腫瘍体積の増加の抑制が顕著であった。
このことから、化合物(1−B2)及び化合物(1−A1)が腫瘍成長に対する抑制効果を有することが示唆された。
【0108】
(3)乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase;LDH)の活性測定
続いて、乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase;LDH)の活性測定を行った。癌が進行すると、癌細胞の急激な速度での細胞増殖により酸素を消費するため、低酸素状態となり、嫌気性解糖を触媒する酵素であるLDHが増加することが知られている。よって、LDHの活性測定が癌の進行の指標となる。
【0109】
まず、腫瘍が肉眼で観察された日から5日後に各マウス群の尾静脈から血液を採取した。続いて、採取した血液を遠心分離して、血漿を得た。得られた血漿を各5μLずつ、スポットケム(登録商標)II LDH(SP−4410)(アークレイ社製)に滴下し、室温で3分間放置した。LDHはNADを補酵素として、乳酸を酸化してピルビン酸とNADHとを生成する。生成されたNADHは、ジアホラーゼを介して、スポットケム(登録商標)II LDH(SP−4410)の試薬層に存在するテトラゾリウムバイオレットを紫色のフォルマザンに還元する。よって、紫色の呈色物質を比色定量することで、LDHの活性を測定することができる。続いて、スポットケム(登録商標)EZ(アークレイ社製)を用いて、550nmの吸光度を測定した。結果を
図7に示す。
図7において、(i)はコントロール(蒸留水投与)群であり、(ii)は化合物(1−B2)投与群であり、(iii)は化合物(1−b1)投与群であり、(iv)は化合物(1−A1)投与群である。また、「Melanoma B16F1 cell」とは、各(i)〜(iv)のうち、B16F1細胞を皮下注射した群である。
【0110】
図7から、コントロール(蒸留水投与)群及び化合物(1−b1)投与群では、メラノーマ細胞を皮下注射した群は、皮下注射しなかった群と比較して、LDHの活性が増加した。一方、化合物(1−B2)投与群及び化合物(1−A1)投与群では、メラノーマ細胞を皮下注射したコントロール(蒸留水投与)群及び化合物(1−b1)投与群と比較して、LDHの活性が減少することが明らかとなった。
【0111】
以上の結果から、化合物(1−B2)及び化合物(1−A1)は癌細胞(特に、メラノーマ細胞)の増殖抑制効果を有することが示唆された。