【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1:葉酸修飾メチル化シクロデキストリン(FA-M-β-CyD)の調製
FA-M-β-CyDは、発明者らの報告である R. Onodera et al, J. Incl. Phenom. Macrocycl. Chem. 70, 321-326 (2011)に従って合成した。具体的には、下記合成式に示すように、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CyD)の水酸基をトシル化、アミノ化後、縮合反応により葉酸(FA)を結合させることにより、FA-M-β-CyDを調製した。得られたFA-M-β-CyDの構造は
1H-NMRにより確認した。また、FAB-MSによる検討からFA置換度(DSF)は1.0であった。さらに粉末X線回折および示唆走査熱量分析による検討からFA-M-β-CyDは非晶質であることが示唆された。
【0030】
【化1】
【0031】
実施例2:KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性の測定
ヒト口腔がん細胞由来KB細胞(FR高発現細胞、FR(+))およびヒト肺癌細胞由来A549細胞(FR低発現細胞、FR(-))に対する、M-β-CyD、FA-M-β-CyDおよびDOXの細胞障害活性をWST-1法により検討した。
KB細胞を、96ウェルプレートに、各ウェル当たり2x10
4cellsになるように播種して、RPMI培地中(10% FCS)で、37℃、24時間インキュベーションした。FAフリーのRPMI培地で2回洗浄し、M-β-CyD、FA-M-β-CyDまたはDOX含有無血清RPMI培地を添加し、37℃で24時間または48時間、インキュベーションした。その後、ウェルをPBSで2回洗浄し、HBSS 100μLを加えた。WST-1試薬(同仁化学研究所製)を10μL添加し、37℃で15分間インキュベーションした。その後、プレートリーダー(Bio-Rad 社製)にて、 620nmの参照波長に対する 450nmの吸光度を測定した。
【0032】
(2−1)FA-M-β-CyDの細胞障害活性の測定
種々の濃度(0, 1, 2, 4, 5, 8および10mM)のM-β-CyDまたはFA-M-β-CyDを含有する無血清培地を用いて、上記のWST-1法に従って、KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性を測定した。結果を
図1に示す。
本発明者らによりすでに報告されているように、KB細胞(FR高発現細胞)に対して濃度依存的に細胞障害性を示したが、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害性を示さなかった。KB細胞に対して有意に細胞障害活性を示す濃度はmMオーダーという高濃度であって、結果からは10mMの濃度で細胞障害性を示しており、in vivoにおける血中濃度において10mMを達成するためには、1.76g/kg程度の投与が必要となると予想された。
また、本発明者らにより報告されているように、FA-M-β-CyDによる細胞障害活性は、FR競合阻害剤である葉酸(FA)の添加により有意に抑制された(
図2参照)。
【0033】
(2−2)低濃度FA-M-β-CyDの細胞障害活性の測定
10μM FA-M-β-CyDまたは10μM DOX含有無血清培地を用いて同様にして、KB細胞に対する細胞障害活性を測定した。結果を
図3に示す。DOXは有意な細胞障害活性を示したのに対し、FA-M-β-CyDは活性を示さなかった。
【0034】
実施例3:マウス大腸癌Colon-26細胞に対する細胞障害活性の測定
マウス大腸癌Colon-26細胞(FR高発現細胞、FR(+))に対する、FA-M-β-CyDの細胞障害活性をWST-1法により検討した。
Colon-26細胞を、96ウェルプレートに、各ウェル当たり2x10
4cellsになるように播種して、RPMI培地(10% FCS)中で、37℃、24時間インキュベーションした。FAフリーのRPMI培地で2回洗浄し、0〜10 mMのFA-M-β-CyD含有無血清RPMI培地を添加し、37℃で2時間インキュベーションした。その後、ウェルをPBSで2回洗浄し、HBSS 100μLを加えた。WST-1試薬を10μL添加し、37℃で30分間インキュベーションした。その後、プレートリーダーにて、 620nmの参照波長に対する 450nmの吸光度を測定した。結果を
図4に示す。
大腸癌Colon-26においても、in vitroにおける細胞障害活性を示すためには、mMオーダーの濃度が必要であった。
【0035】
実施例4:FA-M-β-CyDおよびDOXの併用による、KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性の測定
実施例2と同様にして、10μM FA-M-β-CyD及び/又は10μM DOX含有無血清培地を用いてFA-M-β-CyDおよびDOXの併用による細胞障害活性を測定した。結果を
図5に示す。
本発明者らにより既に報告されているように、KB細胞に対しては、10μM FA-M-β-CyD単独では細胞障害活性を示さなかったが、10μM FA-M-β-CyDの添加によりDOXの細胞障害活性が増幅された。一方、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害活性を示さなかった。なお、FA-M-β-CyDとDOXの安定化定数(Kc)は、3.5 x 10
5 /M であった。
【0036】
実施例5:マウス大腸癌Colon-26細胞移植がんマウスモデルを用いた抗腫瘍活性の測定
RPMI培地(FA(-)(10 % FCS))でマウス大腸癌Colon-26細胞を培養した。BALB/c雄性マウス(4週齢)の後肢にColon-26細胞懸濁液(2 x 10
5 cells)を100μL接種した。腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認して、以下の実験を行った。
【0037】
(5−1)腫瘍の成長に対する効果の確認
マウス後肢の腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認した後、5 % マンニトール溶液、DOX溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、およびFA-M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)をそれぞれ100 μLずつ、静脈内に投与した。投与量は、それぞれ 5 mg/kgとなるようにした。
投与後の腫瘍体積の変化を観察した。結果を
図6に示す。DOXおよびM-β-CyDの投与により、コントロールに比べて腫瘍の成長が有意に阻害された。しかし、単回投与では、腫瘍の成長を完全に抑制することが出来なかった。一方、FA-M-β-CyDを静脈内に投与した場合では、単回の投与にもかかわらず、腫瘍の成長は全く見られなかった。また、M-β-CyD投与群のマウスでは、全てのマウスにおいて投与後に脈拍が上昇する様子が観察された(頻脈の副作用)が、FA-M-β-CyDではそのような副作用は観察されなかった。
【0038】
(5−2)腫瘍塊の縮小の確認
マウス後肢の腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認した後、FA-M-β-CyD溶液を100 μL静脈内に投与した。投与量は、 5 mg/kgとなるようにした。その後、腫瘍体積の変化(縮小)を確認した。結果を
図7に示す。驚くことに、FA-M-β-CyDの単回の静脈内投与にもかかわらず、日を追って腫瘍塊は縮小し、最後にはほぼ消滅していることが確認された。
【0039】
実施例6:マウス大腸癌Colon-26細胞移植がんマウスモデルを用いたマウス生存率に対する効果の確認
実施例5と同様にして、5 % マンニトール溶液、DOX(5 mg/kg)溶液、およびFA-M-β-CyD(5 mg/kg)溶液を、それぞれ100 μLずつ、投与量がそれぞれ 5 mg/kgとなるようにして静脈内に投与し、投与後のマウスの生存率を観察した。結果を
図8に示す。コントロールおよびDOX投与では、生存率に大きな差は見られず、約60日後に全てのマウスが死亡した。一方、FA-M-β-CyDを投与した場合では、単回の投与にもかかわらず、観察した120日経過後でも、マウスの死亡が確認されなかった。
【0040】
実施例7:ヒト悪性黒色腫(Ihara)細胞移植がんマウスモデルを用いた抗腫瘍活性の測定
D-MEM培地(FA(+)(10 % FCS))で悪性黒色腫(Ihara)細胞を培養した。Nude Rag2/Jak3 KO 雄マウス(12週齢、FA含有餌にて飼育)の左右背部にIhara細胞懸濁液(1 x 10
6 cells)を100 μL接種した。腫瘍直径が5 mmに到達したことを確認して、以下の実験を行った。
【0041】
(7−1)腫瘍の成長に対する効果の確認
腫瘍直径が5 mmに到達したことを確認した後、5 % マンニトール溶液、M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、およびFA-M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)をそれぞれ100 μLずつ、静脈内に投与した。投与量は、それぞれ 5 mg/kgとなるようにした。
投与後、3日毎に体重および腫瘍体積を測定し、その変化を観察した。腫瘍体積の変化および腫瘍の成長率を
図9に示す。マウスの体重の変化を
図10に示す。FA-M-β-CyDの投与により、M-β-CyDの投与やコントロールに比べて腫瘍の成長が有意に阻害され、ヒトの腫瘍細胞についても抗腫瘍効果を有することが確認された。一方、FA-M-β-CyDの投与により、コントロールに比べて体重の変化に差がみられなかったことから、副作用の発現は少ない事が示唆された。
【0042】
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。