【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0039】
<実施例1>
固形分45質量%のポリアクリル酸(日本触媒社製、商品名:アクアリックHL415、重量平均分子量(Mw):10,000、pH2)の水溶液8.00gと、蒸留水12.00gと、エタノール13.40gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(2)で表されるカルボベタイン型化合物を0.07g添加混合して液組成物を調製した。
【0040】
<実施例2>
重量平均分子量が5,000のポリアクリル酸(和光純薬社製)を蒸留水に溶解した固形分45質量%のポリアクリル酸水溶液に変え、含窒素フッ素系化合物を式(3)で表わされるスルホベタイン型化合物に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0041】
<実施例3>
含窒素フッ素系化合物を式(4)で表わされるスルホベタイン型化合物に変え、エタノールを2−プロパノールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0042】
<実施例4>
含窒素フッ素系化合物を式(5)で表わされるスルホベタイン型化合物に変え、エタノールをメタノールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0043】
<実施例5>
含窒素フッ素系化合物を式(6)で表わされるアミンオキシド型化合物に変え、エタノールをエタノール:1−プロパノール:2−プロパノールが85:10:5の混合アルコールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0044】
<実施例6>
重量平均分子量が250,000のポリアクリル酸(和光純薬社製)を蒸留水に溶解した固形分20質量%のポリアクリル酸水溶液に変え、含窒素フッ素系化合物を式(7)で表わされるホスホベタイン型化合物に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0045】
<実施例7>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、アルカリとして、16%水酸化ナトリウム水溶液を加え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0046】
<実施例8>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、アルカリとして、5.6%水酸化カリウム水溶液を加え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0047】
<実施例9>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、アルカリとして、9.6%水酸化リチウム水溶液を加え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0048】
<比較例1>
造膜剤としてポリアクリル酸の代わりにポリウレタン樹脂を用いた。ポリウレタン樹脂濃度が33質量%の第一工業製薬社製スーパーフレックス170を15.91gと、蒸留水10.00gと、エタノール8.75gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(3)で表されるスルホベタイン型化合物を0.100g添加混合して液組成物を調製した。
【0049】
<比較例2>
含窒素フッ素系化合物を下記式(8)で表わされるアニオン型化合物に変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0050】
【化8】
【0051】
<比較例3>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0052】
<比較例4>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0053】
<比較例5>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、エタノールをn−ブタノールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0054】
<比較例6>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、16%水酸化ナトリウム水溶液を9.50g添加し、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0055】
<比較例7>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0056】
<比較例8>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0057】
実施例1〜9及び比較例1〜8の液組成物における、親水撥油剤、造膜剤及び溶媒の種類及び各秤量値を表1に、質量比を表2にそれぞれ示す。なお、表1中、親水撥油剤の種類として、例えば「式(2)」と記載したものは、「式(2)に示される両性型含窒素フッ素系化合物」を意味する。また表2における造膜剤の「ポリアクリル酸」は、固形分を100質量%に換算した比率である。
【0058】
<比較試験及び評価>
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られた液組成物の中で、液組成物で凝集した比較例2と6を除いた15種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS304基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが1〜3μmとなるように塗布し、15種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記SUS304基材上に16種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(親水性)、撥油性、ヘキサデカンの転落性及び膜の除去容易性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0059】
(1) 膜表面の水濡れ性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(親水性)を評価した。
【0060】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0061】
(3) ヘキサデカンの転落性
上記(2)の膜表面の撥油性試験時に用いたシリンジの針の先端からn−ヘキサデカンの2μLの液滴を水平状態に置かれたPETフィルム上に落下させた後、このPETフィルムを70度傾斜させ、n−ヘキサデカンが流れ落ちるか否か、即ちヘキサデカンの転落性を評価した。更に、転落した試料に関しては、転落角を測定した。協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から5μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。次に、試料をのせた台を70度傾けて、油が転落する(流れ落ちる)か否かを目視で確認した。油が転落したものを「良好」とし、転落しないものを「不良」とした。
【0062】
(4) 膜の除去容易性
評価する膜の全面にサラダ油を不織布(旭化成社製、商品名:ベンコット)により塗り広げた後、水を十分に含ませた別のベンコットにてサラダ油が塗られた膜を拭いた。素手でSUS304基材表面を触り、膜のSUS304基材からの除去具合を調べた。サラダ油で汚れた膜がSUS304基材から完全に除去されるまでのベンコットで拭いた回数を調べた。3回以内に膜が完全に除去されたものを「良好」とし、3回払拭した結果、膜が一部でも残存したものを「不良」とした。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表2から明らかなように、比較例1のポリウレタン樹脂を用いた液組成物は、溶媒が蒸発すると反応するポリウレタン樹脂であるため、この液組成物で形成された膜は水に溶解しない膜となり、水で容易に除去できる性能に不足していた。比較例2の液組成物では、アニオン型の含窒素フッ素系化合物を用いたため、この化合物がポリアクリル酸と反応し、液組成物が凝集したため、各種評価ができなかった。
【0066】
また比較例3の液組成物は、アルコールの濃度が高く、また含窒素フッ素系化合物の濃度も高いため、この液組成物で膜を形成するときに膜面に筋等が発生し、水及びヘキサデカンの接触角も不十分であり、この液組成物で形成された膜では、ヘキサデカンが転落しなかった。比較例4の液組成物は、フッ素系化合物の濃度が低いため、この液組成物で形成された膜では、水及びヘキサデカンの接触角が悪く、この膜は防汚性能に不足していた。
【0067】
また比較例5の液組成物では、ブタノールを用いているため、含窒素フッ素系化合物の凝集が一部見られ、この液組成物で形成された膜では、水及びヘキサデカンの接触角も悪く、ヘキサデカンが転落せず、この膜は防汚性能に不足していた。比較例6の液組成物では、アルカリの添加量が多いため、ポリアクリル酸の中和度が54%と高くなって、アルコールに溶解しにくくなった。その結果、液組成物が凝集し、各種評価ができなかった。
【0068】
また比較例7の液組成物では、ポリアクリル酸の濃度が低く、水の濃度が高いため、成膜時にSUS基材上で弾きが生じた。そのため、この液組成物で形成された膜では、接触角も良いところと悪いところが発生しており、この膜は防汚性能で不十分であった。比較例8の液組成物では、ポリアクリル酸の濃度が高いため、液の粘度が高く、成膜時に刷毛筋等が発生したため、この液組成物で形成された膜では、ヘキサデカンが転落せず、この膜は防汚性能に不足していた。
【0069】
これに対して、表2から明らかなように、実施例1〜9の液組成物で形成された膜では、水及びヘキサデカンの接触角は、親水撥油性を示しており、またヘキサデカンの転落性もあり、この液組成物で形成された膜は防汚性能を発現していた。また膜の除去性に関しても、水拭きで容易に除去することができた。