特開2017-193683(P2017-193683A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-193683(P2017-193683A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】防汚性膜形成用液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/02 20060101AFI20170929BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20170929BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170929BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
   C09D133/02
   C09K3/00 R
   C09D5/16
   C09D7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-86324(P2016-86324)
(22)【出願日】2016年4月22日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG061
4J038JA11
4J038JA17
4J038JB00
4J038JC23
4J038KA06
4J038NA05
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】塗膜を形成した場合に、塗膜表面が親水撥油性になって、防汚機能を塗膜に付与し得る。また水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去可能である。
【解決手段】本発明の防汚性膜形成用液組成物は、親水撥油剤と、造膜剤と、溶媒とを含む。親水撥油剤が両性型含窒素フッ素系化合物であり、造膜剤がポリアクリル酸であり、溶媒が炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水である。両性型含窒素フッ素系化合物、ポリアクリル酸、炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水を、フッ素系化合物:ポリアクリル酸:アルコール:水=0.01〜1.0:5〜20:5〜45:45〜90の質量比で含有し、かつアルカリを、ポリアクリル酸とアルカリで形成されるポリアクリル酸塩が、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対して、0質量%以上50質量%未満の割合になるように含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水撥油剤と、造膜剤と、溶媒とを含む防汚性膜形成用液組成物であって、
前記親水撥油剤が両性型含窒素フッ素系化合物であり、前記造膜剤がポリアクリル酸であり、かつ前記溶媒が炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水であり、
前記フッ素系化合物:前記ポリアクリル酸:前記アルコール:前記水=0.01〜1.0:5〜20:5〜45:45〜90の質量比で含有し、かつ
アルカリを、前記ポリアクリル酸と前記アルカリで形成されるポリアクリル酸塩が、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対して、0質量%以上50質量%未満の割合になるように含有することを特徴とする防汚性膜形成用液組成物。
【請求項2】
請求項1記載の防汚性膜形成用液組成物が硬化した防汚性膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性及び撥油性(以下、親水撥油性という。)を有する防汚性膜を形成するための液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材に汚れが付着するのを防止する方法として、基材表面を撥水化して汚れをはじきやすくする方法がある。また基材に付着した汚れを容易に洗い流す方法として、基材表面を親水化して水と一緒に汚れを流してしまう方法がある。中でも疎水性成分を多く含む汚れに対しては塗膜の表面をできるだけ親水性にした方がよいという提案がなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
一方、一般的な樹脂組成物を使用した塗料の塗布表面や成型体表面は、水の接触角が比較的大きく水をはじく性質はあるが油の接触角が小さく油になじむ性質を持っており、防汚に十分な撥液性はなく、親水性でもなく、汚れにくい表面とはなっていない。塗膜を親水化する方法については種々研究されており、例えば光触媒性酸化物を含む防汚性コーティング組成物を使って塗膜を形成する方法などが挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。別の塗膜を親水化する方法として光触媒性コーティング液にシリケート系の化合物を添加した浴室部材用コーティング組成物を塗布して塗膜を親水化する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高分子、44巻、1995年5月号、307頁
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−88247号公報(要約)
【特許文献2】特開平11−76375号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に示される防汚性のコーティング組成物を用いて塗膜を親水化し、水を使用して汚れを落とした場合、この塗膜には親油性の性質が残存するため、塗膜は親水親油性となって、油などの疎水性の汚れが付着した場合、塗膜に油がなじみ、十分な防汚効果が得られないことがあった。
【0007】
本発明の目的は、塗膜を形成した場合に、塗膜表面が親水撥油性になって、塗膜に防汚機能を付与することができ、また水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去可能な防汚性膜形成用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、親水撥油剤と、造膜剤と、溶媒とを含む防汚性膜形成用液組成物であって、前記親水撥油剤が両性型含窒素フッ素系化合物であり、前記造膜剤がポリアクリル酸であり、かつ前記溶媒が炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水であり、前記フッ素系化合物:前記ポリアクリル酸:前記アルコール:前記水=0.01〜1.0:5〜20:5〜45:45〜90の質量比で含有し、かつアルカリを、前記ポリアクリル酸と前記アルカリで形成されるポリアクリル酸塩が、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対して、0質量%以上50質量%未満の割合になるように含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点の防汚性膜形成用液組成物が硬化した防汚性膜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の観点の防汚性膜形成用液組成物は、両性型含窒素フッ素系化合物、ポリアクリル酸、炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水をそれぞれ所定の質量比に制御して構成される。この液組成物を基材上に塗布した後、上記塗膜を乾燥することにより、形成した膜に優れた親水撥油性を付与することができる。またポリアクリル酸は適度の粘性を有するため成膜性に優れ、しかも水に容易に溶解するため、水を含んだ布等で油で汚れた膜を擦ると、膜ごと容易に除去することができる。このため再度新しい防汚性膜を基材に容易に形成することもできる。また、アルカリは含まなくてもよいが、含む場合には所定量未満含むことにより、ポリアクリル酸の凝集を防止して液組成物の成膜性を悪化させない。
【0011】
本発明の第2の観点の防汚性膜は、親水撥油性であって、防汚機能を有し、水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去することができる。
ここから
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
〔防汚性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物は、両性型含窒素フッ素系化合物、ポリアクリル酸、炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水を混合して調製される。両性型含窒素フッ素系化合物は形成した膜に親水撥油性を付与するために用いられ、ポリアクリル酸は上記液組成物で膜を形成するための造膜剤として用いられる。アルコールと水は両性型含窒素フッ素系化合物及びポリアクリル酸をそれぞれ溶液化するために用いられる。上記液組成物におけるフッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールと水との混合時の割合は、質量比で0.01〜1.0:5〜20:5〜45:45〜90であって、好ましくは0.05〜0.8:6〜15:20〜45:50〜80である。両性型含窒素フッ素系化合物の含有量が下限値未満では形成した膜が親水撥油性に劣り、上限値を超えると液組成物を塗布する基材への濡れ性が悪く成膜性が悪くなる。また液組成物の安定性が悪化する。ポリアクリル酸の含有量が下限値未満では液組成物の粘度が低くなり過ぎ膜を形成しにくく、上限値を超えると液組成物の粘度が高くなり成膜性が悪くなる。アルコールの含有量が下限値未満では両性型含窒素フッ素系化合物が析出し易く、上限値を超えるとポリアクリル酸が析出し易くなる。水の含有量が下限値未満ではポリアクリル酸が析出し易く、上限値を超えると両性型含窒素フッ素系化合物が析出し易くなる。
【0014】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物における両性型含窒素フッ素系化合物は、下記式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化1】
【0016】
上記式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。
【0017】
また上記式(1)中、Rは、2価の有機基である連結基である。前記Rは、直鎖状又は分岐状の有機基であってもよい。また、前記Rは、分子鎖中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合及びウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0018】
また上記式(1)中、Xは、カルボベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型及びホスホベタイン型のうち、いずれかの末端を有する両性型の親水性賦与基である、本実施の形態の含窒素フッ素系化合物は両性型であるため、親水性付与基Xは、末端に、カルボベタイン型の「−N(CHCO」、スルホベタイン型の「−N(CHSO」、アミンオキシド型の「−N」又はホスホベタイン型の「−OPO(CH10」(nは1〜5の整数、R及びRは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、R10は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のアルキレン基)を有する。
【0019】
上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物としては、次の式(2)で表されるカルボベタイン型化合物、式(3)〜(5)で表されるスルホベタイン型化合物、式(6)で表わされるアミンオキシド型化合物、式(7)で表わされるホスホベタイン化合物がそれぞれ例示される。
【0020】
・式(2)で表されるカルボベタイン型化合物
【0021】
【化2】
【0022】
・式(3)で表されるスルホベタイン型化合物
【0023】
【化3】
【0024】
・式(4)で表されるスルホベタイン型化合物
【0025】
【化4】
【0026】
・式(5)で表されるスルホベタイン型化合物
【0027】
【化5】
【0028】
・式(6)で表されるアミンオキシド型化合物
【0029】
【化6】
【0030】
・式(7)で表されるホスホベタイン型化合物
【0031】
【化7】
【0032】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるポリアクリル酸は、アクリル酸を単量体の主成分(好ましくはアクリル酸が70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは実質的に100モル%)とする(共)重合体であって、具体的には水溶性ポリアクリル酸が例示される。これらポリアクリル酸はマレイン酸、エーテル等の他の単量体と共重合させてもよく、或いは澱粉やポリビニルアルコールなどの他の親水性ポリマーにグラフト重合させてもよい。このポリアクリル酸は、カルボキシル基の中和率が0%の完全酸型ポリアクリル酸であることが好ましく、その重量平均分子量(GPC−Mw)は、ポリスチレンに換算して1,000〜250,000の範囲が好ましく、5,000〜10,000の範囲がより好ましい。前記ポリアクリル酸は、市販品を使用してももちろん構わない。市販品としては、例えばアクアリックHL415(商品名、(株)日本触媒製)等が挙げられる。
【0033】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物における炭素数1〜3の範囲にあるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(n−プロパノール、イソプロパノール)が挙げられる。炭素数が4以上のアルコールを用いると、上記両性型含窒素フッ素系化合物のアルコールへの溶解性が良好でなくなる。本実施の形態の水としては、イオン交換水、蒸留水などの純水、又は超純水が挙げられる。
【0034】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物では、ポリアクリル酸は酸性物質であるため、酸により基材が浸食される理由などから液組成物が酸性であることを液組成物の利用者が好まない場合には、アルカリを液組成物に含ませて液組成物を中和することが好ましい。このアルカリの質量割合は、ポリアクリル酸のpHに依存する。アルカリで中和滴定を実施し、ポリアクリル酸がポリアクリル酸塩になるポリアクリル酸の中和点を求める。ポリアクリル酸塩の量はこの中和滴定により測定される。アルカリをポリアクリル酸が100%ポリアクリル酸塩になるまで含ませて、ポリアクリル酸を中和すると、アルコールを添加した際、ポリアクリル酸塩が析出してしまう。アルカリを添加する場合には、その添加量としては、ポリアクリル酸とアルカリで形成されるポリアクリル酸塩が、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対して、50質量%未満にする。本明細書では、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対するポリアクリル酸塩の割合を「中和度」という。この中和度の単位は上記ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対するポリアクリル酸塩の割合の「質量%」に相応する「%」である。この中和度が50%未満であれば、ポリアクリル酸が50質量%以上残存するため、液組成物は酸性状態の液になる。アルカリは液組成物にアルカリ水溶液の形態で含まれ、このアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウム等が挙げられる。
【0035】
〔防汚性膜形成用液組成物の調製〕
防汚性膜形成用液組成物を調製するには、上記液組成物における両性型含窒素フッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールと水との混合時の割合、又は両性型含窒素フッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールとアルカリ水との混合時の割合が上述した質量比になるように各原料を混合する。混合する手順としては、先ず、ポリアクリル酸に、水又はアルカリ水溶液と、炭素数が1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコールとを添加混合して、ポリアクリル酸の溶液を調製する。次いでこの溶液に両性型含窒素フッ素系化合物を添加混合して防汚性膜形成用液組成物を調製する。
【0036】
〔防汚性膜の形成方法〕
本実施の形態の防汚性膜は、基材上に上記液組成物を塗布した後に、大気中で室温乾燥させて上記液組成物を硬化することにより形成される。この基材としては、特に限定されないが、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、鉄等の金属板、窓ガラス、鏡等のガラス、タイル、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム等が挙げられる。上記液組成物の塗布方法としては、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0037】
〔防汚性膜〕
上記方法で形成された防汚性膜は、親水撥油性であって、油汚れを防止する防汚機能を有し、水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去することができる。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0039】
<実施例1>
固形分45質量%のポリアクリル酸(日本触媒社製、商品名:アクアリックHL415、重量平均分子量(Mw):10,000、pH2)の水溶液8.00gと、蒸留水12.00gと、エタノール13.40gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(2)で表されるカルボベタイン型化合物を0.07g添加混合して液組成物を調製した。
【0040】
<実施例2>
重量平均分子量が5,000のポリアクリル酸(和光純薬社製)を蒸留水に溶解した固形分45質量%のポリアクリル酸水溶液に変え、含窒素フッ素系化合物を式(3)で表わされるスルホベタイン型化合物に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0041】
<実施例3>
含窒素フッ素系化合物を式(4)で表わされるスルホベタイン型化合物に変え、エタノールを2−プロパノールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0042】
<実施例4>
含窒素フッ素系化合物を式(5)で表わされるスルホベタイン型化合物に変え、エタノールをメタノールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0043】
<実施例5>
含窒素フッ素系化合物を式(6)で表わされるアミンオキシド型化合物に変え、エタノールをエタノール:1−プロパノール:2−プロパノールが85:10:5の混合アルコールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0044】
<実施例6>
重量平均分子量が250,000のポリアクリル酸(和光純薬社製)を蒸留水に溶解した固形分20質量%のポリアクリル酸水溶液に変え、含窒素フッ素系化合物を式(7)で表わされるホスホベタイン型化合物に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0045】
<実施例7>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、アルカリとして、16%水酸化ナトリウム水溶液を加え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0046】
<実施例8>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、アルカリとして、5.6%水酸化カリウム水溶液を加え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0047】
<実施例9>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、アルカリとして、9.6%水酸化リチウム水溶液を加え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に液組成物を調製した。
【0048】
<比較例1>
造膜剤としてポリアクリル酸の代わりにポリウレタン樹脂を用いた。ポリウレタン樹脂濃度が33質量%の第一工業製薬社製スーパーフレックス170を15.91gと、蒸留水10.00gと、エタノール8.75gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(3)で表されるスルホベタイン型化合物を0.100g添加混合して液組成物を調製した。
【0049】
<比較例2>
含窒素フッ素系化合物を下記式(8)で表わされるアニオン型化合物に変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0050】
【化8】
【0051】
<比較例3>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0052】
<比較例4>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0053】
<比較例5>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、エタノールをn−ブタノールに変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0054】
<比較例6>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、16%水酸化ナトリウム水溶液を9.50g添加し、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0055】
<比較例7>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0056】
<比較例8>
含窒素フッ素系化合物を式(3)に変え、組成比を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0057】
実施例1〜9及び比較例1〜8の液組成物における、親水撥油剤、造膜剤及び溶媒の種類及び各秤量値を表1に、質量比を表2にそれぞれ示す。なお、表1中、親水撥油剤の種類として、例えば「式(2)」と記載したものは、「式(2)に示される両性型含窒素フッ素系化合物」を意味する。また表2における造膜剤の「ポリアクリル酸」は、固形分を100質量%に換算した比率である。
【0058】
<比較試験及び評価>
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られた液組成物の中で、液組成物で凝集した比較例2と6を除いた15種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS304基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが1〜3μmとなるように塗布し、15種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記SUS304基材上に16種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(親水性)、撥油性、ヘキサデカンの転落性及び膜の除去容易性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0059】
(1) 膜表面の水濡れ性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(親水性)を評価した。
【0060】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0061】
(3) ヘキサデカンの転落性
上記(2)の膜表面の撥油性試験時に用いたシリンジの針の先端からn−ヘキサデカンの2μLの液滴を水平状態に置かれたPETフィルム上に落下させた後、このPETフィルムを70度傾斜させ、n−ヘキサデカンが流れ落ちるか否か、即ちヘキサデカンの転落性を評価した。更に、転落した試料に関しては、転落角を測定した。協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から5μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。次に、試料をのせた台を70度傾けて、油が転落する(流れ落ちる)か否かを目視で確認した。油が転落したものを「良好」とし、転落しないものを「不良」とした。
【0062】
(4) 膜の除去容易性
評価する膜の全面にサラダ油を不織布(旭化成社製、商品名:ベンコット)により塗り広げた後、水を十分に含ませた別のベンコットにてサラダ油が塗られた膜を拭いた。素手でSUS304基材表面を触り、膜のSUS304基材からの除去具合を調べた。サラダ油で汚れた膜がSUS304基材から完全に除去されるまでのベンコットで拭いた回数を調べた。3回以内に膜が完全に除去されたものを「良好」とし、3回払拭した結果、膜が一部でも残存したものを「不良」とした。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表2から明らかなように、比較例1のポリウレタン樹脂を用いた液組成物は、溶媒が蒸発すると反応するポリウレタン樹脂であるため、この液組成物で形成された膜は水に溶解しない膜となり、水で容易に除去できる性能に不足していた。比較例2の液組成物では、アニオン型の含窒素フッ素系化合物を用いたため、この化合物がポリアクリル酸と反応し、液組成物が凝集したため、各種評価ができなかった。
【0066】
また比較例3の液組成物は、アルコールの濃度が高く、また含窒素フッ素系化合物の濃度も高いため、この液組成物で膜を形成するときに膜面に筋等が発生し、水及びヘキサデカンの接触角も不十分であり、この液組成物で形成された膜では、ヘキサデカンが転落しなかった。比較例4の液組成物は、フッ素系化合物の濃度が低いため、この液組成物で形成された膜では、水及びヘキサデカンの接触角が悪く、この膜は防汚性能に不足していた。
【0067】
また比較例5の液組成物では、ブタノールを用いているため、含窒素フッ素系化合物の凝集が一部見られ、この液組成物で形成された膜では、水及びヘキサデカンの接触角も悪く、ヘキサデカンが転落せず、この膜は防汚性能に不足していた。比較例6の液組成物では、アルカリの添加量が多いため、ポリアクリル酸の中和度が54%と高くなって、アルコールに溶解しにくくなった。その結果、液組成物が凝集し、各種評価ができなかった。
【0068】
また比較例7の液組成物では、ポリアクリル酸の濃度が低く、水の濃度が高いため、成膜時にSUS基材上で弾きが生じた。そのため、この液組成物で形成された膜では、接触角も良いところと悪いところが発生しており、この膜は防汚性能で不十分であった。比較例8の液組成物では、ポリアクリル酸の濃度が高いため、液の粘度が高く、成膜時に刷毛筋等が発生したため、この液組成物で形成された膜では、ヘキサデカンが転落せず、この膜は防汚性能に不足していた。
【0069】
これに対して、表2から明らかなように、実施例1〜9の液組成物で形成された膜では、水及びヘキサデカンの接触角は、親水撥油性を示しており、またヘキサデカンの転落性もあり、この液組成物で形成された膜は防汚性能を発現していた。また膜の除去性に関しても、水拭きで容易に除去することができた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の防汚性膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇、冷蔵庫扉等において、油汚れを防止する分野に用いられる。