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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-193790(P2017-193790A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】手袋および手袋の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/00 20060101AFI20170929BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
   A41D19/00 A
   A41D19/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-83473(P2016-83473)
(22)【出願日】2016年4月19日
(71)【出願人】
【識別番号】591009369
【氏名又は名称】株式会社東和コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】古賀 信義
(72)【発明者】
【氏名】望月 庄一郎
【テーマコード(参考)】
3B033
【Fターム(参考)】
3B033AC08
3B033BA01
(57)【要約】
【課題】作業性を低下させずに、高速処理でも切片の混入を検出可能な手袋を提供する。
【解決手段】本発明の手袋は、手の形状を有する柔軟性素材の層を含む手袋であって、層は磁性粒子を含有し、磁性粒子の含有率は、層の部位によって不均一であり、手袋の使用中において破損しやすい部位(以下、「特定部位」という)における磁性粒子の含有率は、他の部位の含有率よりも高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の形状を有する柔軟性素材の層を含む手袋であって、
前記層は磁性粒子を含有し、
前記磁性粒子の含有率は、前記層の部位によって不均一であり、
前記手袋の使用中において破損しやすい部位(以下、「特定部位」という)における前記磁性粒子の含有率は、他の部位の含有率よりも高い、手袋。
【請求項2】
前記特定部位は、前記層の指先および袖口の少なくとも一部である、請求項1記載の手袋。
【請求項3】
前記磁性粒子は、前記層の素材と異なる色味を有する、請求項1または2記載の手袋。
【請求項4】
前記磁性粒子は、前記特定部位の色味を、他の部位の色味と異ならせる、請求項3記載の手袋。
【請求項5】
前記磁性粒子は、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル、磁性ステンレスおよびこれらの合金の少なくとも一つを素材とする、請求項1から4のいずれか記載の手袋。
【請求項6】
前記層は、手の形状を有する手型が、素材液に浸けられることで形成され、
前記素材液は、前記層を形成する主原料に磁性粒子を含有している、請求項1から5のいずれか記載の手袋。
【請求項7】
前記特定部位は、他の部位よりも多い回数において、前記素材液に浸けられる、請求項6記載の手袋。
【請求項8】
前記手型は、前記特定部位において磁性体を備える、請求項6記載の手袋。
【請求項9】
手の形状を有する手型が、素材液に浸けられる浸漬工程と、
前記素材液を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥して形成される層を、前記手型から取り外す取り外し工程と、を備え、
前記素材液は、磁性粒子を含有し、
前記浸漬工程は、前記手型の指先および袖口の少なくとも一部において、他の部位よりも多い回数の浸漬を行う、手袋の製造方法。
【請求項10】
手の形状を有する手型が、素材液に浸けられる浸漬工程と、
前記素材液を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥して形成される層を、前記手型から取り外す取り外し工程と、を備え、
前記素材液は、磁性粒子を含有し、
前記手型は、その指先および袖口の少なくとも一部において、磁性体を備える、手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属探知機にて検知が可能な手袋および手袋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造、電子機器製造、部品製造、機械製造、精密機器製造、製薬などの工場での製造作業において、手袋が使用されている。作業の効率性、容易性、作業者の安全性などのために、手袋が必要だからである。このような工場での手袋の使用において、食品製造においては、作業対象である食品の衛生性および安全性を確保する必要がある。この衛生性や安全性の確保のために、作業者は、手袋を使用する必要がある。
【0003】
作業対象である食品は、その性質上、作業者が素手で触ることは望まれず、殺菌や滅菌なども行われた手袋によって取り扱われることが望まれる。食品関連の工場で作業する作業者は、手袋はもとより、ヘアキャップや袖までの作業服を着ることが必要である。このように、毛髪などの人体に由来するものが食品に混入しないように、食品工場では注意されている。
【0004】
作業者は、手袋をした状態の手で、食品製造に必要な作業を行う。作業において、手袋をした手で、作業対象の食品やこれに係る部材を触る。このように手袋をした状態で触ることで、食品の衛生性や安全性を確保する。
【0005】
しかしながら、このような手袋を使用した作業において、手袋の一部が破損して切片が生じることがある。この切片が、食品や食品容器の中に混入してしまう可能性がある。近年の食品製造では、作業効率化のために大量生産および高速でのライン製造がおこなわれており、切片が生じることを完全になくすことは難しい。同様に、生じた切片が食品や食品容器に混入することを防いだり、混入した切片を作業の中で取り除いたりすることも難しい。
【0006】
一方で、近年の消費者意識の高まりや安全意識の高まりにより、食品や食品容器に不純物が混入していることが好まれない。場合によっては、製造者の責任が追及されることもあり、混入しているものが手袋の切片であっても、消費者には受け入れられない傾向が高い。
【0007】
このため、製造者は、工場の製造作業やこれに関する作業において、破損した手袋の切片が製造物に混入することを防止することに努力している。例えば、手袋の耐久性を高めたり、作業する手袋を破損する前に頻繁に交換したりするような対策を講じている。
【0008】
しかしながら、このような対策を講じていても、作業中に手袋が破損して切片が生じてしまい、食品や容器などに混入することを完全になくすことは難しい。これは、食品だけに限らず、電子機器、機械、製薬などの製造においても同様である。
【0009】
このように、手袋の切片が製造物に混入する場合に、予め手袋に磁性体を配合しておいて、製造物を金属検知器で測定することで、手袋の切片が混入していることを検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−120974号公報
【特許文献2】実用新案登録3149893号公報
【特許文献3】国際公開WO2014/200047公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、樹脂素材、樹脂糸素材でそれぞれ形成される表シートと裏シートとの積層体で形成され、裏シート中に金属探知機により探知可能な金属探知材を混入している手袋を開示する。
【0012】
特許文献1は、金属探知材を手袋を構成するシート中に混入させることで、破損した手袋の切片が混入した製造物を、金属探知機で検出する。検出された製造物は、切片が混入しているとして、選別できる。この選別によって、切片が混入した製造物を市場に出すことを防止できる。
【0013】
しかしながら、近年の工場では、効率化、コスト競争力向上のために、製造ラインでの製造速度が上がっている。このため、早い速度で製造される製造物を、その速度に合わせて金属探知機で探知することが難しくなってきている。小さな切片が混入しているに過ぎない製造物が非常な高速で通過する際に、この小さな切片が含んでいる微小な金属探知材を、金属探知機が探知することが難しいからである。
【0014】
このような高速処理での切片が混入している製造物の検出を行うためには、一つとして、金属探知機の探知能力を向上させることが考えられる。しかしながら、金属探知機の探知能力には限界があり、難しい側面がある。また、探知能力を上げることで、金属探知機のコストが増加し、工場でのコスト増につながる問題もある。
【0015】
逆に、切片が金属探知機で探知されやすいように切片を生じさせる手袋への金属探知材の混入量や混入率を増加させることも考えられる。手袋への金属探知材の混入率が高ければ、破損して生じる切片の金属探知材の混入率も高くなり、金属探知機での探知確率が上がるからである。
【0016】
しかしながら、金属探知材は金属粉などの磁性体であり、混入率が増加すると、手袋が固くごわごわになってしまう問題がある。工場での製造作業は、手先の繊細な動作を必要としており、手袋が固くなってしまうとこの繊細な動作が困難となる問題がある。また、作業者の疲労度も高くなる問題がある。このような問題が生じると、製造能力や製造速度が下がってしまうとの問題がある。
【0017】
特許文献2は、ゴム、合成樹脂または合成樹脂フィルムから形成された厚さ0.01mm〜3mmの本体からなり、該本体に黒色酸化鉄粉を混入して構成した手袋を開示する。
【0018】
特許文献2も特許文献1と同様に、金属探知機で検出可能な鉄粉を混入させた手袋により、手袋の切片が混入した製造物を、金属探知機で検出できる。
【0019】
しかしながら、特許文献1と同様に、高速処理の中で、検出の困難性とこれに対応することの難しさとの問題を有している。
【0020】
特許文献3は、金属探知機による手袋片の最小検出体積を小さくできる手袋であって、皮膜に含まれる磁性粒子は、被膜全体に対して0.2質量%以上40質量%未満であり、磁性粒子は1次粒子が凝集した2次粒子を含む手袋を開示する。
【0021】
特許文献3は、磁性粒子の凝集によって、切片が小さい場合でも金属探知機で探知できることを想定している。
【0022】
しかしながら、小さな切片でも検出できるとしても、特許文献1、2と同様に、高速処理の中で、検出の困難性とこれに対応することの難しさとの問題を有している。
【0023】
すなわち、従来技術は次のような問題を有していた。
【0024】
(問題1)製造における高速処理が、切片が混入した製造物を検出する金属探知機の能力を超えてきている。
【0025】
(問題2)問題1に対応するために、金属探知機の能力を向上させることの、技術的、コスト的な困難性がある。
【0026】
(問題3)問題1、2に対応して、手袋への磁性体粒子の混入率を上げることは、作業性の面で限界がある。
【0027】
このような、問題1〜3のため、年々製造速度を上げていく必要性と、製造物への手袋の切片の混入を検出することとのトレードオフのバランスを取ることが難しくなってきている問題がある。
【0028】
本発明は、このような課題に鑑み、作業性を低下させずに、高速処理でも切片の混入を検出可能な手袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題に鑑み、本発明の手袋は、手の形状を有する柔軟性素材の層を含む手袋であって、
層は磁性粒子を含有し、
磁性粒子の含有率は、層の部位によって不均一であり、
手袋の使用中において破損しやすい部位(以下、「特定部位」という)における磁性粒子の含有率は、他の部位の含有率よりも高い。
【発明の効果】
【0030】
本発明の手袋は、作業中に破損して切片となりやすい部位での磁性体粒子の混合量を増やすことで、硬さやごわつきなどを低減しつつ作業性を確保する。加えて、切片となりやすい部位の磁性体粒子の混合量が高いことで、切片が混入した製造物の検出を容易とできる。
【0031】
また、手袋製造用の手型での工夫により、磁性体粒子の混合量を部位によって増加させることを容易に実現でき、手袋の製造効率を上げることができる。
【0032】
これらの結果、高速処理での製造工程でも、破損した手袋の切片が混入した製造物を、従来能力の金属探知機で検出でき、製造物の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施の形態1における手袋の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1における手袋の斜視図である。
図3】本発明の実施の形態1における手袋の斜視図である。
図4】本発明の実施の形態2における手型の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の発明に係る手袋は、手の形状を有する柔軟性素材の層を含む手袋であって、層は磁性粒子を含有し、磁性粒子の含有率は、層の部位によって不均一であり、手袋の使用中において破損しやすい部位(以下、「特定部位」という)における磁性粒子の含有率は、他の部位の含有率よりも高い。
【0035】
この構成により、破損して切片の生じやすい部位の検出精度を高めることができる。一方で、他の部位の磁性粒子の密度を上げすぎないことで、手袋全体での装着性や作業性を損なわない。
【0036】
本発明の第2の発明に係る手袋では、第1の発明に加えて、特定部位は、層の指先および袖口の少なくとも一部である。
【0037】
この構成により、作業の関係上、破損が生じやすい部位の磁性粒子密度が高い。この結果、破損が生じやすい指先や袖口から生じる切片の、検出が確実となる。
【0038】
本発明の第3の発明に係る手袋では、第1または第2の発明に加えて、磁性粒子は、層の素材と異なる色味を有する。
【0039】
この構成により、磁性粒子が含有されている手袋とそれ以外の手袋とを、目視で容易に区別できる。
【0040】
本発明の第4の発明に係る手袋では、第3の発明に加えて、磁性粒子は、特定部位の色味を、他の部位の色味と異ならせる。
【0041】
この構成により、磁性粒子の含有密度の高い部位を一目で把握できる。
【0042】
本発明の第5の発明に係る手袋では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、磁性粒子は、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル、磁性ステンレスおよびこれらの合金の少なくとも一つを素材とする。
【0043】
この構成により、磁性粒子を低コストで含有させることができる。加えて、手袋の切片を、確実に検出できる。
【0044】
本発明の第6の発明に係る手袋では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、層は、手の形状を有する手型が、素材液に浸けられることで形成され、素材液は、層を形成する主原料に磁性粒子を含有している。
【0045】
この構成により、磁性粒子を含有する層を、簡単に形成できる。
【0046】
本発明の第7の発明に係る手袋では、第6の発明に加えて、前記特定部位は、他の部位よりも多い回数において、前記素材液に浸けられる。
【0047】
この構成により、特定部位の厚みが大きくなり、厚み方向においての特定部位での磁性粒子の含有率が、他の部位よりも高くできる。
【0048】
本発明の第8の発明に係る手袋では、第6の発明に加えて、手型は、特定部位において磁性体を備える。
【0049】
この構成により、特定部位の磁性粒子の含有密度を上げることができる。
【0050】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0051】
(実施の形態1)
【0052】
(発明者による分析)
背景技術において説明したように、樹脂やゴム製の手袋に鉄粉などを混入させて、作業中に切れて切片が生じる場合に、製造物に混入した切片を検出できる技術が提案されている。しかしながら、作業中に手袋が切れて生じる切片は、微細な大きさであることも多く、鉄粉を含んでいる切片が、金属探知機などの検出装置で検出できないこともある。
【0053】
このような小さな切片が生じて食品などの製造物に混入する場合に、切片が小さくて検出装置で検出できるだけの金属量などが不足することがある。この不足があることで検出できず、手袋の切片の混入を見逃してしまうことが生じる。
【0054】
これを防止するために、手袋に混入させる鉄粉の量を増加させていくと、樹脂やゴムなどの有する柔軟性を、鉄粉の剛性が上回り、手袋の作業性が悪くなる問題がある。工場などの作業においては、手袋をはめた手での細かな作業が必要であり、硬くなって作業性の悪い手袋では、この作業に対応できない。一方で、手袋の作業性の基本である柔軟性を上げるために、鉄粉の量を減らせば、当然に切片の検出能力が下がってしまう。
【0055】
このように、作業中に生じた切片の製造物への混入を検出するために、手袋に鉄粉などを混入させる場合には、高い検出能力の実現と使用での高い作業性とは、トレードオフの関係にある。
【0056】
発明者は、このような分析に基づいて、トレードオフの中での、最適解を探索して、本発明に至った。
【0057】
工場での製造作業などで使用される場合には、手の作業の特性によって手袋においてより使用度合いの高い部位と使用度合いの低い部位とが存在する。製造物との接触が多く発生する部位は、使用度合いが高く、接触が少ない部位は、使用度合いが低い。
【0058】
使用度合いが高い部位は、摩耗や損耗を受けやすく、切片が生じやすい部位である。逆に使用度合いが低い部位は、摩耗や損耗度合いが低く、切片が生じにくい部位である。
【0059】
発明者は、このような分析に基づいて、使用度合いの高い部位(すなわち、切片の生じやすい破損しやすい部位)と、使用度合いの低い部位(すなわち、切片の生じにくいそれ以外の部位)とで、混入させる磁性粒子の量を変えることに想到した。混入させる磁性粒子を手袋全体で増加させると手袋全体が硬くなってしまうが、使用度合いの高い部位と使用度合いの低い部位とで混入させる磁性粒子の量を変えることで、検出能力の高さと作業性とをバランスよく両立させることができることを分析した。
【0060】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態1における手袋の斜視図である。手袋1は、手の形状を有する柔軟性素材の層2を含む。層2を含むとは、手袋1が複数の層構造を有しており、そのうちの一つが層2である場合がある。この場合には、例えば、樹脂やゴムの層と、これに積層される柔軟性素材の層2が形成されている複数の層構造がある。あるいは、繊維製の基体に層2が形成されている複数の層構造がある。
【0061】
あるいは、層2を含むとは、層2のみで手袋1が形成される場合も含む。例えば、樹脂やゴムなどの柔軟性を有する柔軟性素材の層2が、手袋1を形成する。いずれにしても、層2を一部もしくは全部として、手袋1が形成される。
【0062】
手袋1は、指先3、掌4、袖口5、手の甲6などの部位を有している。これらの部位は、手袋1を装着する使用者の手の部位に対応している。
【0063】
この層2は、磁性粒子を含有する。磁性粒子は、層2に含有されており微細であるので、図1では、図示することができない。これは他の図面でも同様である。層2は、磁性粒子を含有することで、上述したように、切片となった場合でも金属探知機や磁性探知機などを用いて、検出されることができる。
【0064】
ここで、磁性粒子の含有率は、層2の部位によって不均一である。手袋1の使用中において破損しやすい部位(以下、「特定部位」という)における磁性粒子の含有率は、他の部位の含有率よりも高い。上述したように、特定部位は、手袋をはめた作業において作業頻度の高い部位、製造物や機械などとの接触が多い部位などの、使用度合いが高くて、摩耗や損耗が生じやすい部位である。
【0065】
含有率が高いとは、単位体積に含まれる磁性粒子の量が他よりも多いことである。ここで、手袋1における部位での含有率であるので、手袋1の平面での単位面積での磁性粒子の量で含有率を把握してもよい。あるいは、手袋1の厚み方向での磁性粒子の量で、含有率を把握してもよい。要は、特定部位においては、その他の部位に比較して、生じた同じサイズの切片に含まれる磁性粒子の量が多い状態になることを、含有率として把握できる。
【0066】
このような特定部位は、当然ながら摩耗や損耗に基づいたり、製造物との接触に基づいたりして、破損して切片が生じやすい。加えて、製造物との接触が多く、この多くの接触の中で破損しやすい上に、生じた切片が、そのまま製造物に混入してしまいやすい。例えば、食品工場において食品を製造する場合には、食品と接触しながら作業する際に、この接触する部位が破損して切片を生じさせ、その切片が接触したまま食品に混入してしまう。
【0067】
手袋1は、磁性粒子を含有した層2を有しているが、この磁性粒子の含有率は、他の部位よりもこの特定部位において高いことで、特定部位から生じた切片の製造物への混入を、高い能力と精度で検出できる。切片が小さくても、金属探知機などの検出装置で、磁性粒子が多いことで、より検出されやすいからである。すなわち、切片が生じやすい特定部位においては、切片が微細であっても、その混入を確実に検出できる。
【0068】
一方で、特定部位以外での磁性粒子の含有率は、特定部位に比較して低い。このため、手袋1全体での磁性粒子の含有率が高いわけではない。その他の部位では低いことで、手袋1全体での磁性粒子の含有率は抑えられ、硬くなりすぎることが防止されている。この結果、手袋1全体での装着感や作業性は、維持されている。
【0069】
このように、実施の形態1における手袋1は、特定部位での磁性粒子の含有率を他の部位よりも高めることで、混入切片の検出率の向上と作業性の向上の両立を実現している。
【0070】
(特定部位)
特定部位として、層2の指先3および袖口5の少なくとも一部であることが好適である。発明者は、種々の分析により、手袋1をはめた作業、特に工場での製造作業においては、製造物との接触、作業時の接触などにより、指先3や袖口5での摩耗や損耗が、他の部位よりも生じやすいことに想到した。
【0071】
この摩耗や損耗が生じやすいことで破損し、指先3や袖口5では、切片が生じやすい。例えば、指先3は、製造物を触りながら作業したり、製造工程の装置や機械を操作したりする関係で、摩耗や損耗を生じさせやすい。袖口5は、作業者が、手袋1を装着したり、装着状態を調整したり、手袋1を外したりする際に触って力を付与する部位である。このため、力の付与によって破損が生じやすい部位である。
【0072】
このように、指先3および袖口5は、作業において、切片が特に生じやすい部位である。加えて、生じた切片がそのまま製造物に混入しやすい部位でもある。このため、指先3および袖口5の少なくとも一部を特定部位として、磁性粒子の含有率を上げることで、より現実に即した切片の混入を高い確率で検出できる。
【0073】
一方で、磁性粒子の含有量が多いのが、指先3および袖口5の少なくとも一部にとどめられることで、それ以外の部位の含有量は抑えられている。このため、手袋1全体で一様に磁性粒子の含有量が多いわけではない。このため、切片の検出確率を上げつつも、手袋1としての柔軟性を下げて装着感や作業性を悪くすることもない。
【0074】
なお、特定部位である指先3および袖口5の少なくとも一部での磁性粒子の含有率の高さは、他の部位に比較して高ければよい。あるいは、従来の鉄粉等を含んだ手袋で、混入した切片の検出率が悪い手袋に比較して、高い含有率であってもよい。検出確率を上げることのできるレベルでの含有率で、特定部位には、磁性粒子が含有されればよい。
【0075】
その他の部位は、例えば図1において掌4や手の甲6などである。もちろん、指部において指先3以外の部分であったり、袖口5においてもより掌4側などであったりすることもよい。これらの部位は、比較として、指先3や袖口5よりも破損して切片を生じさせにくい(特に、手袋1を嵌めた作業中において)からである。加えて、これらの他の部位は、装着感や作業時の柔軟性をより生じさせる部位だからである。
【0076】
以上のように、特定部位として、指先3および袖口5の少なくとも一部が選択されることが、混入切片の検出と作業性の向上において好適である。
【0077】
なお、特定部位は、この指先3および袖口5の少なくとも一部に限定されることを意図していない。
【0078】
(特定部位の色味)
磁性粒子は、手袋1の層2に含有される。このとき、磁性粒子は、層2の素材と異なる色味を有することも好適である。層2は、柔軟性を有する柔軟性素材で形成される。例えば、樹脂、ゴムなどである。磁性粒子は、磁性を有する金属製や合金製の粒子であり、層2の色味と異なることで、磁性粒子が含有されている手袋1と磁性粒子が含有されていない手袋とを、一瞬で識別できる。
【0079】
例えば、製造工場などにおいて、磁性粒子を含有している手袋1を使用しなければならない場合と、磁性粒子を含有していない手袋を使用しなければならない場合とがある場合には、作業者は、磁性検出などをしなくても、いずれの手袋であるかを一目で識別して使用できる。このため、磁性粒子を含有している手袋1を使用しなければならない場合に、間違えることが無くなる。
【0080】
これは、手袋1を用意する管理者等にとっても高いメリットがある。
【0081】
また、磁性粒子の色味が層2の色味と異なることで、磁性粒子の含有率の違いを、見た目で把握することができる。上述の通り、特定部位において含有率が高い。このため、特定部位における色味が、他の部位との色味と異なる。この結果、磁性粒子の含有率の違いや、含有率の高い部位を一目で把握でき、作業での注意を高めることができる。
【0082】
特に、特定部位が、指先3および袖口5の少なくとも一部である場合に、この部分の色味を他の部位の色味と異ならせることができる。図2は、本発明の実施の形態1における手袋の斜視図である。
【0083】
図2に示されるように、指先3での色味が他の部位の色味と異なっている。色味が異なっていることで、指先3での磁性粒子の含有率が他の部位よりも高いことを、作業者は、一目で把握できる。この把握によって、作業での注意力が高まり、混入切片の検出率の高い手袋1の使用であることを把握できる。
【0084】
また、図3に示されるように、指先3と袖口5との両方が、磁性粒子の含有率が高いことで、色味が他の部位と異なることも好適である。図3は、本発明の実施の形態1における手袋の斜視図である。
【0085】
手袋1においては、層2の指先3と袖口5において含有率が高い。磁性粒子の色味が層2の素材の色味と異なることで、図3のように、指先3と袖口5の両方において、他の部位とは異なる色味となる。この場合も、作業者は、磁性粒子の含有率の違いのある手袋1を、一目で把握・識別できる。
【0086】
次に各部の詳細について説明する。
【0087】
(層)
層2は、手の形状をしており、手袋1の外径を形成する。他の層や基体に積層される層2であってもよいし、層2が単体の層として手袋1を形成してもよい。層2は、手袋1の外径を形成するので、手に装着する手袋の形状を有している。
【0088】
この形状は、手袋1の用途などによってさまざまであり、手首部分が長かったり短かったりする。
【0089】
層2は、柔軟性を有する柔軟性素材で形成される。例えば、樹脂やゴムなどであり、例示として、次のような素材が用いられる。
【0090】
例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、NR(天然ゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)PU(ポリウレタン)などである。
【0091】
(層2以外の外形)
手袋1は、層2のみでその外形が形成される場合もあり、他の層や基体と合わせて外形が形成される場合もある。他の層は、やはり柔軟性のある樹脂やゴムなどの素材で形成されており、磁性粒子を含んでいても含んでいなくてもよい。
【0092】
あるいは、繊維製の基体であってもよい。繊維製の基体は、やはり柔軟性を有し、この基体の上層に層2が形成される。このような場合でも、層2が磁性粒子を含有しており、切片は磁性粒子を含む。この切片が混入しても、磁性粒子によって検出が可能である。
【0093】
(磁性粒子)
磁性粒子は、例えば金属探知機や磁性探知機によって検出される。この磁性粒子が層2に含有されることで、これらの探知機が反応して、層2が破損して生じる切片が、検出される。
【0094】
ここで、磁性粒子として、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル、磁性ステンレスおよびこれらの合金の少なくとも一つを素材とすることも好適である。これらの素材は、入手が容易であると共に、低コストであって、層2に必要な量の磁性粒子を含有させることに適しているからである。
【0095】
また、これらの素材は、金属探知機などでの検出される精度が高く、混入した切片の検出の確率が高まるからである。
【0096】
これらの磁性粒子は、層2を形成する素材液に含有されている。磁性粒子を含有する素材液で層2が形成されれば、層2は、この磁性粒子を含んだ状態となる。この素材液に含有される磁性粒子が、上述のような酸化鉄や酸化クロム等であればよい。
【0097】
もちろん、上述した酸化鉄や酸化クロムなど以外の素材が、磁性粒子として使用されてもよい。
【0098】
なお、磁性粒子は、層2に含有されて手袋1となるので、磁性粒子の粒径は小さいことが好適である。また、単体の粒子のみでなく、複数の粒子が凝集した凝集粒子が存在してもよい。
【0099】
このような磁性粒子が層2であって特定部位により多く含有されることで、手袋1は、装着感や作業性を損なうことなく、生じる切片の検出精度を上げることができる。
【0100】
以上のように、実施の形態1における手袋1は、装着感や作業性を損なうことなく、生じる切片の検出精度を上げることができる。結果として、製造能力を下げることなく、食品等への異物の混入の問題を抑制できる。
【0101】
(実施の形態2)
【0102】
次に実施の形態2について説明する。実施の形態1で説明された手袋1は、層2の特定部位における磁性粒子の含有率が、他の部位よりも高い。このような手袋1は、その製造工程で定義される必要がある。
【0103】
(製造工程による手袋の説明)
手袋1は、層2を有する。この層2が磁性粒子を含有する。このような層2を形成するために、手袋1の原型となる手型が用意される。更に、層2を形成するための素材液が用意される。素材液は、柔軟性を有する層2の原料となる液状の素材である。
【0104】
また、この素材液は、磁性粒子を含有している。すなわち、磁性粒子を含有した状態で、液状の素材液が準備される。磁性粒子は、微細な粒子であるので、素材液中に分散して含有されることができる。
【0105】
手型は、この磁性粒子を含有した素材液に浸漬される。手型の周囲に素材液がつけられると、手型の周囲を素材液が覆った状態となる。手型の周囲を覆った素材液が乾燥されると硬化する。この硬化した素材液を手型から外すと、手型に合わせた形状と大きさを有する層2が製造される。この層2が、そのまま手袋1とされてもよいし、他の層と積層され手袋1とされてもよい。
【0106】
このようにして、柔軟性を有しつつ磁性粒子を含有した層2を備える手袋1が製造される。
【0107】
ここで、磁性粒子の含有率が高い特定部位は、他の部位よりも多い回数において素材液に浸漬される。特定部位において、磁性粒子を含む素材液により多くの回数の浸漬がなされることで、特定部位には、磁性粒子を含む層が、他の部位よりも厚くなる。層が厚くなることで、厚み方向での含有する磁性粒子の量が、他の部位よりも多くなる。すなわち、厚み方向を含んで考えると、磁性粒子の含有率が、特定部位は他の部位よりも高くなる。
【0108】
例えば、図2図3のように、指先3や袖口5が特定部位である場合には、指先3や袖口5となる手型の部分に、他の部位よりも多い回数において素材液を浸漬させればよい。この結果、指先3や袖口5での磁性粒子の含有率は、他の部位よりも高くなる。含有率が高いのは、上述の通りである。
【0109】
また、手型そのものの特定部位に対応する部位に、磁性体(磁石等)が備わっていることも好適である。
【0110】
図4は、本発明の実施の形態2における手型の斜視図である。手型10は、手袋1を形成する際に使用され、手袋1に対応する形状、大きさを有している。手型10は、特定部位である指先3に対応する指先部13、袖口5に対応する袖口部15を有している。
【0111】
この手型10が、素材液に浸漬されて、その周囲を素材液が覆うことで層2が製造できる。ここで素材液は磁性粒子を含有している。
【0112】
図4に示されるように、特定部位である指先部13には、磁性体が備わっている。素材液に手型10が浸漬される場合に、素材液には磁性粒子が含まれている。この磁性粒子は、磁性体の磁力に引っ張られて、指先部13に集まりやすくなる。
【0113】
この結果、指先部13を覆う素材液は、他の部位を覆う素材液よりも磁性粒子の密度が高くなる。この状態で素材液が乾燥されて、手型10から外されれば、指先部13に対応する指先3の磁性粒子の含有密度が、他の部位よりも高い状態となる。
【0114】
このようにして、手型10の特定部位に対応する部分に磁性体が設けられることで、製造される層2の特定部位の磁性粒子の含有密度を、容易に高めることができる。結果として、実施の形態1で説明した手袋1が製造できる。
【0115】
次に手袋1の製造方法を説明する。
【0116】
(製造方法:パターン1 通常の手型を使用)
【0117】
(素材液の準備)
層2を形成する液状の素材液が準備される。素材液の原料は、実施の形態1で説明したような樹脂やゴムであり、樹脂液やゴム液が、この素材液である。素材液は、液状であって手型の浸漬が可能であって、乾燥後には硬化する特性を有している。
【0118】
素材液は、容器に収容された状態など、手型を浸漬させることができる状態で準備されることが好ましい。
【0119】
素材液には、磁性粒子が添加される。酸化鉄、酸化クロムなどの粉状の粒子が液状の素材液に添加される。添加された上で、素材液は十分に撹拌される。撹拌されることにより、磁性粒子の混ざり具合が均一になる。
【0120】
このようにして、磁性粒子を含有した素材液が準備される。
【0121】
(浸漬工程:パターン1)
手袋の原型となる手型が、素材液に浸けられる浸漬工程が実施される。この浸漬工程により、手型の周囲が、素材液で覆われる。素材液には磁性粒子が混合しているので、磁性粒子を含んだ素材液が、手型の周囲を覆う。
【0122】
手型は、手の形状をしているので、層2の形状に合致している。
【0123】
浸漬工程では、手型の特定部位に対応する部位において、他の部位よりも多くの回数の浸漬が行われる。例えば、指先3に対応する指先部、袖口に対応する袖口部の少なくとも一部において、他の部位よりも多くの回数の浸漬が行われる。
【0124】
指先部や袖口部において多くの回数の浸漬が行われることで、層2(手袋1)の指先3や袖口5での厚みが大きくなり、結果として磁性粒子の含有量が増加する。この厚みでの含有量の増加により、厚み方向を考慮した場合の含有率が高くなる。
【0125】
(加熱工程)
素材液をまとった手型が加熱される。加熱により、後述する乾燥工程をレベルアップさせることができる。加熱工程では、高温の空気の付与や、高温室内での設置などが行われる。
【0126】
(乾燥工程)
手型に付着した素材液を乾燥させる乾燥工程が実施される。浸漬工程によって、手型には、磁性粒子を含有した素材液が付着している。この素材液が乾燥されることで、硬化する。硬化することによって、手型に合わせた形の層2が形成できる。
【0127】
これらの加熱工程および乾燥工程は、手袋1を形成する素材によって、適宜必要な工程が実施される。
【0128】
(取り外し工程)
乾燥工程によって、層2が形成される。この層2を手型から取り外す取り外し工程が実施される。乾燥して硬化しているので、手型から取り外すことができる。取り外されることで、層2が製造される。
【0129】
層2のみで手袋1が形成される場合には、この取り外し工程で手袋1の製造がほぼ完了する。他の層を積層する場合には、上述の浸漬工程などが更に層2に対して行われたり、層2の形成前に行われていたりする。
【0130】
着色などの必要な後処理が行われることで、手袋1の製造が完了する。
【0131】
(製造方法:パターン2 磁性体の手型を使用)
図4の手型10(特定部位に磁性体が備わっている手型10)を用いて手袋1を製造することもできる。浸漬工程以外は、パターン1の製造方法で説明したのと同様の製造工程である。
【0132】
(浸漬工程:パターン2)
図4の手型10は、指先部13に磁性体が備わっている。指先部13は、層2の指先3に対応する(手袋1の指先3)。この手型10が、磁性粒子を含む素材液に浸漬される。手型10の指先部13は磁性体を備えているので、この磁力が、磁性粒子を引き寄せる。
【0133】
この引き寄せによって、指先部13には、より多くの磁性粒子が付着する。同じ素材液の付着において、指先部13には、他の部位よりも高い含有率の磁性粒子をもった素材液が付着する。
【0134】
この浸漬工程の後で、他の工程が実施されると、指先3の磁性粒子の含有率が高い手袋1(層2)を製造することができる。
【0135】
このようなパターン2の製造方法でも、実施の形態1で説明した手袋1を得ることができる。指先3だけでなく、袖口5も同様に実現できる。
【0136】
なお、磁性体の磁力、浸漬工程の浸漬時間を調整することにより、磁性粒子の含有密度の差を、様々に調整できる。
【0137】
以上、実施の形態1〜2で説明された手袋は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0138】
1 手袋
2 層
3 指先
4 掌
5 袖口
6 手の甲
図1
図2
図3
図4