【解決手段】本発明の引出しは、前面板10の第一連結部11に設けられた片状の加締部11bと、左右側面板20A、20Bの第二連結部21に設けられたクランク形状の切欠溝21aとを含む。切欠溝21aの一端側には、加締部11bの一面に当接する第一当接部(211)が形成される。切欠溝21aの他端側には、加締部11bの他面に当接する第二当接部(212)が形成される。加締部11bは、切欠溝21aに挿入され、第一当接部(211)と第二当接部(212)との間に挟持された状態で、折り曲げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1.前面板と左右側面板との結合に関する課題
図16(a)は、治具2を使用した加締部の折り曲げ工程を示す斜視図である。
図16(b)は、従来の加締部111bの折り曲げ前の状態を示す背面図である。
図16(c)は、従来の加締部111bの折り曲げ後の状態を示す背面図である。
【0008】
図16(b)に示すように、従来の加締部111bは、その面積が非常に小さい。このため、作業者は、治具2の先端を小さな加締部111bに位置合わせする手間を要し、加締部111bを容易且つ迅速に折り曲げることができない。
【0009】
図16(c)に示すように、折り曲げられた加締部111bは、左右側面板120の連結部121の垂直な板面121bに当接する。しかし、従来の加締部111bは、垂直な板面121bの自由端側に当接する。このため、引出しに衝撃が加えられた場合に、垂直な板面121bが、加締部111bを支点として外側に変形してしまうことがある。垂直な板面121bの外側への変形は、加締部111bの当接を妨げ、前面板110にがたつきを生じさせる。前面板110のがたつきにより、製品の高級感が損なわれる。
【0010】
図17(a)は、金属板に切欠溝を設けるための打ち抜き型3を示す。打ち抜き型3は、雄型3Aと雌型3Bとを備える。雄型3Aは、大量生産に使用することが可能な耐久性を得るために、一定以上の厚さを必要とする。このため、
図17(d)の拡大図に示すように、左右側面板120の切欠溝121aの幅wを、前面板110の板厚tと同程度に小さくすることができない。この結果、前面板110の変形により、がたつきが生じる場合がある。例えば、
図17(b)に示す引出しが、全開状態から更に強く引き出された場合、前面板110の連結部111が、
図17(c)に示すように変形してしまう。連結部111が変形した前面板110は、
図17(d)に示す切欠溝121aの幅wの範囲内で、前後方向にがたついてしまう。
【0011】
2.背面板と底面板との結合に関する課題
図18は、特許文献2の引出しにおける背面板130と底面板120Cとの結合構造を示す。特許文献2の引出しでは、底面板120Cの下部係合溝125aの幅wが、背面板130の下部係合突起131の厚さtよりも大きかった。このため、下部係合溝125aの幅wの範囲内で、背面板130が前後方向にがたついてしまう。
【0012】
3.背面板と左右側面板との結合に関する課題
図示しないが、特許文献1の背面板と左右側面板との結合においても、背面板に前後方向のがたつきが生じる場合がある。すなわち、左右側面板の突片は、背面板の切欠溝に挿入される。このため、背面板の切欠溝は、製造誤差を考慮して、左右側面板の突片よりも若干大きくしなければならない。切欠溝と突片との間の僅かな隙間が、背面板に前後方向のがたつきを生じさせる。
【0013】
さらに、特許文献1のように、背面板が底面板に連成された構成とすると、引出し本体の材料となる金属板に無駄が生じる。特許文献1の
図4は、左右側面板、底面板及び背面板を含む引出し本体を示す展開図である。この展開図に示されるように、背面板の左右両側の二箇所において、比較的広い面積の金属板が打ち抜かれ、廃材となる。
【0014】
4.本発明の目的
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、下記の技術的な課題を解決することを目的とする。
第一に、金属板からなる構成要素(例えば、前面板、背面板)のがたつきを効果的に防止する。
第二に、金属板からなる構成要素の結合を容易にする。例えば、前面板の加締部は、治具や工具を用いて容易に折り曲げることができるようにする。背面板は、治具や工具を用いずに手作業で引出し本体に結合させることができるようにする。
第三に、構成要素(例えば、引出し本体)の材料となる金属板の無駄を削減する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)上記目的を達成するために、本発明の第一の金属板の結合構造は、折り曲げられた複数の金属板の結合構造であって、互いに結合される一の金属板と他の金属板とを含み、前記一の金属板には、折り曲げ可能な基部を介して、前記一の金属板に連続する片状の加締部が設けられ、前記他の金属板には、一端側と他端側との位置がずれたクランク形状の切欠溝が設けられ、前記切欠溝の一端又は他端のいずれか一方には、前記加締部を溝内に挿入するための開口が形成され、前記切欠溝の一端側には、前記加締部の一面に当接する第一当接部が形成され、前記切欠溝の他端側には、前記加締部の他面に当接する第二当接部が形成され、前記加締部が、前記切欠溝に挿入され、且つ前記第一当接部と前記第二当接部との間に挟持された状態で、前記基部を中心にして折り曲げられる。
【0016】
(2)好ましくは、上記(1)の金属板の結合構造において、前記第一当接部と前記第二当接部との位置の差を、前記加締部の板厚よりも小さくする。
【0017】
(3)上記目的を達成するために、本発明の第二の金属板の結合構造は、折り曲げられた複数の金属板の結合構造であって、互いに結合される一の金属板と他の金属板とを含み、前記一の金属板の一辺には、前記一の金属板の板面に連続する複数の突片が設けられ、前記他の金属板の一辺には、前記他の金属板の板面を直角に折り曲げた連結部が形成され、さらに、前記連結部の折り曲げ部分には、前記他の金属板の板面から前記連結部の板面に連続する断面略L字形の複数の挿入孔が設けられ、各挿入孔は、前記他の金属板の板面に開口する第一部分と、前記連結部の板面に開口する第二部分とからなり、前記第二部分の短手方向の幅は、前記第一部分の短手方向の幅よりも大きく、前記第一部分の短手方向の幅から前記連結部の板厚を差し引いた残りの幅は、前記突片の板厚よりも小さく、前記一の金属板の各突片が、前記他の金属板の各挿入孔に挿入される。
【0018】
(4)上記目的を達成するために、本発明の第三の金属板の結合構造は、折り曲げられた複数の金属板の結合構造であって、互いに結合される一の金属板と他の金属板とを含み、前記一の金属板の一辺には、前記一の金属板の板面に連続する複数の突片が設けられ、前記突片の輪郭は、前記一の金属板の一辺に連続する垂直部と、前記垂直部に連続する傾斜部とを含み、前記他の金属板には、前記突片に対応する長手方向の幅を有する挿入孔と、前記挿入孔の長手方向に前記他の金属板を伸縮させるための折曲部とが設けられ、前記曲折部が変形することにより、前記他の金属板が伸びた状態となって、前記挿入孔に前記突片が挿入される。
【0019】
(5)上記目的を達成するために、本発明の第一の引出しは、折り曲げられた複数の金属板を結合して構成された引出しであって、前記引出しの前面となる前面板と、前記引出しの少なくとも左右側面板及び底面板を含む引出し本体と、を備え、前記前面板は、一の金属板からなり、前記一の金属板の左右両側が折り曲げられることにより、垂直な板面である一対の第一連結部が形成され、前記引出し本体は、他の金属板からなり、前記他の金属板の左右両側が折り曲げられることにより、前記左右側面板と前記底面板とが形成され、さらに、前記左右側面板の上側が折り曲げられることにより、水平な板面と垂直な板面とが連続する一対の第二連結部が形成され、各第一連結部の垂直な板面には、折り曲げ可能な基部を介して、前記板面に連続する片状の加締部が設けられ、各第二連結部の水平な板面には、一端側と他端側との位置がずれたクランク形状の切欠溝が設けられ、前記切欠溝の一端又は他端のいずれか一方には、前記加締部を溝内に挿入するための開口が形成され、前記切欠溝の一端側には、前記加締部の一面に当接する第一当接部が形成され、前記切欠溝の他端側には、前記加締部の他面に当接する第二当接部が形成され、前記加締部が、前記切欠溝に挿入され、且つ前記第一当接部と前記第二当接部との間に挟持された状態で、前記基部を中心にして折り曲げられる。
【0020】
(6)好ましくは、上記(5)の引出しにおいて、前記第一当接部と前記第二当接部との位置の差を、前記加締部の板厚よりも小さくする。
【0021】
(7)好ましくは、上記(5)又は(6)の引出しにおいて、前記加締部の輪郭の一部が、前記第二連結部の垂直な板面の裏側に当接する。
【0022】
(8)上記目的を達成するために、本発明の第二の引出しは、折り曲げられた複数の金属板を結合して構成された引出しであって、前記引出しの背面となる背面板と、前記引出しの少なくとも左右側面板及び底面板を含む引出し本体と、を備え、前記背面板は、一の金属板からなり、前記一の金属板の一辺には、前記一の金属板の板面に連続する複数の突片が設けられ、前記引出し本体は、他の金属板からなり、前記他の金属板の左右両側が折り曲げられることにより、前記左右側面板と前記底面板とが形成され、前記底面板の一辺には、前記他の金属板の板面を直角に折り曲げた連結部が形成され、さらに、前記連結部の折り曲げ部分には、前記底面板の板面から前記連結部の板面に連続する断面略L字形の複数の挿入孔が設けられ、各挿入孔は、前記底面板の板面に開口する第一部分と、前記連結部の板面に開口する第二部分とからなり、前記第二部分の短手方向の幅は、前記第一部分の短手方向の幅よりも大きく、前記第一部分の短手方向の幅から前記連結部の板厚を差し引いた残りの幅は、前記突片の板厚よりも小さく、前記背面板の各突片が、前記底面板の金属板の各挿入孔に挿入される。
【0023】
(9)上記目的を達成するために、本発明の第三の引出しは、折り曲げられた複数の金属板を結合して構成された引出しであって、前記引出しの背面となる背面板と、前記引出しの少なくとも左右側面板及び底面板を含む引出し本体と、を備え、前記背面板は、一の金属板からなり、前記一の金属板の一辺には、前記一の金属板の板面に連続する複数の突片が設けられ、前記突片の輪郭は、前記一の金属板の一辺に連続する垂直部と、前記垂直部に連続する傾斜部とを含み、前記引出し本体は、他の金属板からなり、前記他の金属板の左右両側が折り曲げられることにより、前記左右側面板と前記底面板とが形成され、前記左右側面板には、前記突片に対応する長手方向の幅を有する挿入孔と、前記挿入孔の長手方向に前記他の金属板を伸縮させるための折曲部とが設けられ、前記曲折部が変形することにより、前記左右側面板が伸びた状態となって、前記挿入孔に前記突片が挿入される。
【0024】
(10)上記目的を達成するために、本発明のキャビネットは、上記(5)〜(9)のいずれかの引出しを備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、金属板からなる構成要素のがたつきが、効果的に防止される。
【0026】
本発明の第一の結合構造においては、一の金属板(例えば、前面板)に設けられた加締部が、他の金属板に設けられたクランク形状の切欠溝に挿入される。クランク形状の切欠溝は、第一当接部と第二当接部との間に加締部を挟持する。これにより、仮に、一の金属板が衝撃を受けて変形した場合でも、加締部と切欠溝との間にがたつきが生じない。
【0027】
本発明の第二の結合構造においては、一の金属板(例えば、背面板)に設けられた突片が、他の金属板(例えば、底面板)の連結部に設けられた挿入孔に挿入される。挿入孔の短手方向の幅は、突片の板厚よりも小さい。このため、突片は、挿入孔に斜めに挿入される。その後、一の金属板が、突片を支点にして連結部の方向に回動される。この結果、挿入孔に挿入された突片が、連結部と反対方向の張力を生じさせる。この張力により、突片と挿入孔との間にがたつきが生じない。
【0028】
本発明の第三の結合構造においては、一の金属板(例えば、背面板)に設けられた突片が、他の金属板(例えば、左右側面板)に設けられた挿入孔に挿入される。他の金属板には、断面略U字形の折曲部が設けられる。他の金属板は、折曲部が変形することにより、挿入孔の長手方向に伸縮することが可能である。他の金属板が伸びた状態となって、挿入孔に突片が挿入される。つまり、挿入孔に挿入された突片には、他の金属板が縮む方向の張力が加えられる。この張力により、突片と挿入孔との間にがたつきが生じない。
【0029】
本発明によれば、金属板からなる構成要素の結合が容易となる。本発明の第一の結合構造において、加締部は、基部を介して一の金属板(例えば、前面板)に連続するものであれば、その大きさは限定されない。つまり、加締部の面積を大きくすることが可能である。加締部が、治具や工具と比較して十分に広い面積を有することにより、治具や工具を用いた加締部の折り曲げ作業が容易となる。また、本発明の第二及び第三の結合構造においては、一の金属板(例えば、背面板)に設けられた突片を治具や工具を用いて折り曲げる必要がなく、背面板を手作業で引出し本体に結合させることができる。
【0030】
本発明によれば、構成要素(例えば、引出し本体)の材料となる金属板の無駄を削減することができる。すなわち、本発明の第二及び第三の結合構造においては、一の金属板(例えば、背面板)が、他の金属板(例えば、引出し本体)と別個に設けられる。これにより、展開状態における一及び他の金属板の輪郭を、大きな凹凸のない単純な形状にすることができる。この結果、材料となる金属板の無駄が削減される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の金属板の結合構造を適用した引出しの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
1.全体構成
図1、
図2に示すように、本実施形態に係る引出し1は、前面板10、引出し本体20及び背面板30の三つの構成要素からなる。前面板10、引出し本体20及び背面板30は、それぞれ折り曲げられた一枚の金属板により構成される。したがって、引出し1は、合計三枚の金属板により構成される。前面板10、引出し本体20及び背面板30は、スポット溶接を一切用いずに、本発明の結合構造により連結される。
【0034】
2.前面板
図2、
図3(a)に示す前面板10は、引出し1の前面を構成する。前面板10は、
図3(b)に示すような形状の一枚の金属板からなる。
図3(b)に示す金属板は、図中の鎖線に沿って裏側に向かって折り曲げられる。これにより、薄い箱状の前面板10が形成される。
【0035】
2−1.第一連結部
図3(a)に示すように、前面板10の左右両側には、それぞれ第一連結部11が形成される。二つの第一連結部11は、
図3(b)に示す一枚の金属板の左右両側を、図中の鎖線に沿って内側に折り曲げることにより形成される。
図2に示すように、二つの第一連結部11は、引出し本体20の左右側面板20A、20Bの前端に対向する垂直な板面を有する。
【0036】
図3(a)に示すように、第一連結部11の板面の中央よりも上側には、片状の加締部11bが設けられる。加締部11bの輪郭は、第一連結部11の板面を打ち抜くことにより形成される。加締部11bは、折り曲げ可能な基部を介して、第一連結部11の板面に連続する。加締部11bの基部の輪郭の一部は、水平方向の第一切欠溝11aにより形成される。すなわち、
図16(b)に示す従来の切欠溝111aと異なり、本実施形態の第一切欠溝11aは、加締部11bの基部を形成し、加締部11bの基部と同じ位置に設けられる。このような第一切欠溝11a及び加締部11bは、前面板10と引出し本体20とを連結させるとき、両者の上側における結合を担う。
【0037】
2−2.折返部
図3(a)に示すように、前面板10の上側には、二つの第一連結部11の上端部に覆い被さる折返部12が設けられる。折返部12は、
図3(b)に示す金属板の上端部を、図中の鎖線に沿って内側に折り曲げることにより形成される。折返部12の左右両側の部分は、各第一連結部11の上端部にそれぞれ覆い被さる。これにより、例えば、図示しないキャビネットから引出し1を引き出したときに、前面板10の変形が防止される。一方、折返部12の中央部分は、二つの第一連結部11の間に一致し、連続する平面を形成する。
【0038】
2−3.嵌合空間
図2、
図3(a)に示すように、前面板10の下辺には、左右方向に延びる嵌合空間13が形成される。
図3(b)に示すように、嵌合空間13は、二つの第一連結部11の間に位置する下端部の金属板を、図中の鎖線に沿って内側に折り曲げることにより形成される。嵌合空間13は、略長方形の断面を有する(
図8を参照)。嵌合空間13を形成する金属板は、二つの第一連結部11の間に一致し、連続する平面を形成する。
【0039】
2−4.その他
ここで、
図3(a)に示すように、二つの第一連結部11、折返部12、嵌合空間13を形成する金属板は、中央に開口する略長方形の凹部を囲む。この凹部内には、引出し本体20の前端側が挿し込まれる(
図1を参照)。二つの第一連結部11、折返部12、嵌合空間13を形成する金属板は、上下左右に連続する平面を形成する。この上下左右に連続する平面が、前面板10の背面に美しい外観を与える。この結果、従来の前面板に設けられていた裏蓋を省略することが可能となる。
【0040】
なお、
図3(a)、(b)中の符号14は、把手(
図8中の鎖線を参照)の取付孔である。把手は、引出し1の任意の構成要素である。把手及び取付孔14を設けずに、前面板10の正面をフラットなデザインとしてもよい。把手を設けない場合は、箱状の前面板10の左右側面を、例えば、段差状、傾斜状又は弧状等に凹ませた手掛部としてもよい。
【0041】
3.引出し本体
図2に示す引出し本体20は、
図4に示すような形状の一枚の金属板からなる。
図4に示す金属板の左右両側を、図中の鎖線に沿って内側に折り曲げることにより、左右側面板20A、20Bと底面板20Cとが形成される。左右側面板20A、20Bと底面板20Cとの断面は、略U字状に連続する。
【0042】
4.左右側面板
図2に示すように、左右側面板20A、20Bには、第二連結部21、折曲部22、係合片24及び第四連結部26がそれぞれ設けられる。第二連結部21及び係合片24は、上述した前面板10との連結手段である。一方、折曲部22及び第四連結部26は、後述する背面板30との連結手段である。
【0043】
4−1.第二連結部
図2、
図4に示すように、第二連結部21は、左右側面板20A、20Bの上側の金属板を、図中の鎖線に沿って外側に向かって折り曲げることにより形成される。第二連結部21は、前後方向に延びる水平な板面と垂直な板面とで構成され、略逆L字形の断面を有する。第二連結部21の前端側には、垂直な板面を縦断し、水平な板面の中央に達する断面略逆L字形の切欠溝が設けられる。この断面略逆L字形の切欠溝のうち、水平な板面に設けられた部分は、前面板10の第一切欠溝11aに係合される第二切欠溝21aとなっている。このような第二切欠溝21aは、前面板10と引出し本体20とを連結させるとき、両者の上側における結合を担う。
【0044】
図9(a)、(b)に示すように、第二切欠溝21aは、その一端が開口し、他端が閉鎖する。第二切欠溝21aは、その一端側と他端側との位置がずれたクランク形状の輪郭を有する。第二切欠溝21aの一端側には、第一当接部211が形成される。第二切欠溝21aの他端側には、第二当接部212が形成される。上述したように、第二切欠溝21aは、前面板10の第一切欠溝11aに係合される(
図10(a)を参照)。このとき、第二切欠溝21aの開口から溝内に、加締部11bの基部が挿入される。加締部11bの基部の前面には、第二切欠溝21aの第一当接部211が当接する。一方、加締部11bの基部の背面には、第二切欠溝21aの第二当接部212が当接する。つまり、第二切欠溝21aに挿入された加締部11bの基部は、第一当接部211と第二当接部212との間に挟持される。
【0045】
ここで、本実施形態では、
図9(a)に示すように、第一当接部211と第二当接部212との位置の差が、加締部11bの板厚よりも小さくなるように構成してある。この構成により、
図9(b)に示すように、加締部11bの基部が、第一及び第二当接部211、212によって変形され、第一及び第二当接部211、212に向かう押圧力を生じさせる。この結果、加締部11bと第二切欠溝21aとの間の結合力が高くなる。
【0046】
なお、
図10(a)、(b)に示すように、第二連結部21の水平な板面の短手方向の幅は、加締部11bの基部を第二切欠溝21aの他端まで挿入したときに、加締部11bの外側の一辺が、第二連結部21の垂直な板面の内側に当接する寸法としてある。この構成により、前面板10の左右方向のがたつきが防止される。
【0047】
4−2.係合片
図2、
図4に示すように、係合片24は、左右側面板20A、20Bの前端中央の金属板を、図中の鎖線に沿って外側に向かって折り曲げることにより形成される。係合片24は、上述した第二連結部21の下側に位置する。係合片24の前後方向の幅は、第二切欠溝21aに第一切欠溝11aを係合させたときに、第一連結部11の前面(内面)に当接する寸法としてある。このような係合片24は、前面板10と引出し本体20とを連結させるとき、両者の中央における結合を担う。
【0048】
4−3.折曲部
図2、
図4に示すように、折曲部22は、左右側面板20A、20Bの下側の金属板を、図中の鎖線に沿って外側に向かって折り曲げることにより形成される。折曲部22は、略U字形の断面を有し、前後方向に延びる。
図13(c)に示すように、折曲部22は、図中の上下方向に変形することが可能である。このような曲折部22の変形により、左右側面板20A、20Bは、図中の上下方向に伸縮することが可能である。左右側面板20A、20Bを伸縮可能としたことの技術的意義については、後述する。
【0049】
4−4.第四連結部
図2、
図4に示すように、第四連結部26は、左右側面板20A、20Bの後端上側の金属板を、図中の鎖線に沿って内側に向かって折り曲げることにより形成される。第四連結部26は、背面板30の背面の上側に当接し、背面板30を支える。第四連結部26には、その折曲線上に沿って上下方向に延びる第二挿入孔26aが設けられる。第二挿入孔26aには、背面板30の第二突片32が挿入される。このような第四連結部26は、背面板30と引出し本体20とを連結させるとき、両者の上側における結合を担う。
【0050】
ここで、
図13(a)、(b)に示すように、第二挿入孔26aと第二突片32とは、その上下方向の位置に若干の差異が設けられる。すなわち、左右側面板20A、20Bの板面における第二挿入孔26aの上下方向の位置は、背面板30の第二突片32よりも少しだけ下方にずれている。
図13(c)に示すように、第二挿入孔26aに、第二突片32を挿入する場合は、上述した折曲部22を変形させることにより、左右側面板20A、20Bを上下方向に伸びた状態にする。この構成により、第二挿入孔26aに挿入された第二突片32には、左右側面板20A、20Bが縮む方向の張力が加えられる。この張力により、第二挿入孔26aと第二突片32との間のがたつきが防止される。
【0051】
5.底面板
図2に示すように、底面板20Cには、嵌合片23及び第三連結部25が設けられる。嵌合片23は、上述した前面板10との連結手段である。一方、第三連結部25は、後述する背面板30との連結手段である。
【0052】
5−1.嵌合片
図2、
図4に示すように、嵌合片23は、底面板20Cの前端部の金属板を、図中の鎖線に沿って外側に折り曲げることにより形成される。嵌合片23は、略L字形の断面を有し、左右方向に延びる。嵌合片23は、上述した前面板10の嵌合空間13に嵌合可能な寸法形状となっており、前面板10と引出し本体20とを連結させるとき、両者の下側における結合を担う。
【0053】
5−2.第三連結部
図2、
図4に示すように、第三連結部25は、底面板20Cの後端部の金属板を、図中の鎖線に沿って内側に折り曲げることにより形成される。第三連結部25は、背面板30の背面の下側に当接する。第三連結部25には、その折曲線上に沿って左右方向に延びる三つの第一挿入孔25aが設けられる。三つの第一挿入孔25aには、背面板30の第一突片31がそれぞれ挿入される。このような第三連結部25は、背面板30と引出し本体20とを連結させるとき、両者の下側における結合を担う。
【0054】
ここで、
図12(a)、(b)に示すように、第一挿入孔25aは、底面板20Cの板面から第三連結部25の板面に連続する略L字形の断面を有する。すなわち、第一挿入孔25aは、底面板20Cの板面に開口する第一部分と、第三連結部25の板面に開口する第二部分とからなる。前記第二部分の短手方向の幅は、前記第一部分の短手方向の幅よりも大きくしてある。そして、前記第一部分の短手方向の幅から第三連結部25の板厚を差し引いた残りの幅は、背面板30の第一突片31の板厚よりも小さくしてある。
【0055】
このような構成からなる第一挿入孔25aは、これに挿入された第一突片31に、第三連結部25と反対方向の張力を生じさせる。すなわち、
図12(a)に示すように、第一挿入孔25aの前記第一部分の短手方向の幅は、第一突片31の板厚よりも小さい。このため、第一突片31は、第一挿入孔25aに斜めに挿入される。その後、
図12(b)に示すように、背面板30が、第一突片31を支点にして第三連結部25の方向に回動される。この結果、第一挿入孔25aに挿入された第一突片31が、第三連結部25と反対方向の張力を生じさせる。この張力により、第一突片31と第一挿入孔25aとの間のがたつきが防止される。
【0056】
6.背面板
図2に示すように、背面板30には、上述した三つの第一突片31と、二つの第二突片32とが設けられる。上述したように、第一突片31は、底面板20Cとの連結手段であり、第一挿入孔25aに対応する寸法形状を有する。第二突片32は、左右側面板20A、20Bとの連結手段であり、第二挿入孔26aに対応する寸法形状を有する。
【0057】
背面板30は、
図5に示すような形状の一枚の金属板からなる。第一突片31は、背面板30を構成する金属板の下辺に連続して設けられる。また、第二突片32は、背面板30を構成する金属板の左辺及び右辺に連続して設けられる。
【0058】
ここで、
図13(b)に示すように、本実施形態の第二突片32の輪郭は、背面板30の左辺又は右辺に連続する垂直部321と、垂直部321に連続する傾斜部322とを含む。上述したように、第二挿入孔26aは、折曲部22によって上下方向に伸縮可能な左右側面板20A、20Bに設けられる。また、第二挿入孔26aの位置は、第二突片32よりも少しだけ下方にずれている。第二突片32の傾斜部322は、左右側面板20A、20Bを伸びた状態に変形させながら、第二挿入孔26aを垂直部321に案内する。最終的に、第二挿入孔26aは、左右側面板20A、20Bが縮む方向の張力を受けながら、第二突片32の垂直部321の上に係止される(
図13(c)を参照)。
【0059】
さらに、本実施形態の第二突片32には、背面板30との境界に位置するスリット32aが設けられる。このスリット32aは、第二突片32の剛性を低下させる。この結果、作業者は、第二突片32を第二挿入孔26aに挿入させた後、第二突片32を手作業で容易に折り曲げることができる(
図14(a)、(b)を参照)。
【0060】
7.引出しの製造方法
次に、本実施形態の引出しの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の引出し1は、前面板10、引出し本体20及び背面板30を手作業で結合させることにより製造される。
【0061】
7−1.前面板と引出し本体との結合工程
前面板10と引出し本体20との結合工程について、
図6〜
図11を参照して説明する。
図6、
図7に示すように、前面板10と引出し本体20とは、第一切欠溝11a、加締部11b、嵌合空間13、第二切欠溝21a、嵌合片23及び係合片24によって結合される。
【0062】
まず、
図8(a)に示すように、前面板10の嵌合空間13の中に、引出し本体20の嵌合片23を入れる。次いで、嵌合片23の後方の端部を支点にして、前面板10を引出し本体20の方向に回転させる。このとき、左右側面板20A、20Bの前端側は、前面板10の二つの第一連結部11よりも内側に湾曲させる。すると、
図8(b)に示すように、嵌合空間13と嵌合片23とが嵌合した時点で、引出し本体20の前端側が、前面板10の中央に開口する凹部の中に収容される。
【0063】
次いで、
図7に示すように、前面板10の第一切欠溝11aに、左右側面板20A、20Bの第二切欠溝21aを係合させる。すると、
図9(a)に示すように、前面板10の加締部11bの基部が第二切欠溝21aに挿入される。
図9(b)に示すように、加締部11bの基部は、第二切欠溝21aの第一当接部211と第二当接部212との間に挟持される。このとき、加締部11bの基部が、第一及び第二当接部211、212によって変形され、第一及び第二当接部211、212に向かう押圧力を生じさせる。その後、
図16に示す治具2を用いて、加締部11bを前面板10の内側の方向に折り曲げる。すると、
図10(b)〜(d)に示すように、加締部11bの外側の一辺が、第二連結部21の垂直な板面の内側に当接する。これにより、前面板10の左右方向のがたつきが防止される。以上の工程により、前面板10と引出し本体20との結合が完了する。
【0064】
7−2.背面板と引出し本体との結合
背面板30と引出し本体20との結合工程について、
図12〜
図14を参照して説明する。
図12(a)〜(c)に示すように、背面板30と引出し本体20とは、第一挿入孔25a、第二挿入孔26a、第一突片31及び第二突片32によって結合される。
【0065】
まず、
図12(a)に示すように、背面板30の第一突片31を、底面板20Cの第三連結部25に設けられた第一挿入孔25aに挿入させる。上述したように、第一挿入孔25aの底面板20Cに開口する前記第一部分の短手方向の幅は、第一突片31の板厚よりも小さい。このため、底面板20Cに対して背面板30を斜めの状態にし、第一挿入孔25aに第一突片31を斜めに挿入させる。
【0066】
次いで、
図12(b)に示すように、第一突片31を支点にして、背面板30を第三連結部25の方向に回動させる。これにより、背面板30は、第三連結部25の板面と平行な状態になり、且つ底面板20Cに対して垂直な状態になる。このとき、第一挿入孔25aに挿入された第一突片31が、第三連結部25と反対方向の張力を生じさせる。この張力により、第一突片31と第一挿入孔25aとの間のがたつきが防止される。第一突片31が生じさせる張力は、次に述べる第二突片32と第二挿入孔26aとの結合により維持される。
【0067】
次いで、背面板30の第二突片32を、左右側面板20A、20Bの第四連結部26に設けられた第二挿入孔26aに挿入させる。第二突片32を第二挿入孔26aに挿入させる工程は、
図13(a)〜(c)に詳細に示される。上述したように、第二挿入孔26aは、折曲部22によって上下方向に伸縮可能な左右側面板20A、20Bに設けられる。さらに、第二挿入孔26aの位置は、第二突片32よりも少しだけ下方にずれている。
【0068】
このような構成において、第二突片32を第二挿入孔26aに挿入させる。まず、
図13(a)、(b)に示すように、第二突片32の傾斜部322が、左右側面板20A、20Bを伸びた状態に変形させながら、第二挿入孔26aを垂直部321に案内する。その後、
図13(c)に示すように、第二挿入孔26aは、左右側面板20A、20Bが縮む方向の張力を受けながら、第二突片32の垂直部321の上に係止される。この張力により、第二突片32と第二挿入孔26aとの間のがたつきが防止される。
【0069】
最後に、
図14(a)、(b)に示すように、第二挿入孔26aに挿入された第二突片32を、前方に向かって折り曲げる。第二突片32の剛性は、スリット32aにより適度に低下される。この結果、作業者は、第二突片32を手作業で容易に折り曲げることができる。以上の工程により、背面板30と引出し本体20との結合が完了する。すなわち、
図1に示す本実施形態の引出し1の製造が完了する。
【0070】
8.作用効果
本実施形態の引出し1に適用した結合構造によれば、前面板10、引出し本体20及び背面板30の相互間におけるがたつきが、効果的に防止される。
【0071】
図9(b)に示すように、前面板10に設けられた加締部11bは、左右側面板20A、20Bに設けられたクランク形状の第二切欠溝21aに挿入される。クランク形状の第二切欠溝21aは、第一当接部211と第二当接部212との間に加締部11bを挟持する。この結果、
図11(a)〜(c)に示すように、仮に、前面板10が衝撃を受けて変形した場合でも、加締部11bと第二切欠溝21aとの間にがたつきが生じない。つまり、前面板10と引出し本体20との間のがたつきが、効果的に防止される。
【0072】
図10(a)に示すように、前面板10の第一切欠溝11aは、加締部11bの基部を形成し、加締部11bの基部と同じ位置に設けられる。そして、第一切欠溝11aは、左右側面板20A、20Bの第二切欠溝21aに係合される。この結果、
図10(d)に示すように、折り曲げられた加締部11bは、第二連結部21の垂直な板面の内側において、その自由端から最も離れた位置に当接する。この構成により、第二連結部21の垂直な板面が、加締部11bを支点として外側に変形しなくなる(
図16(c)を参照)。つまり、第二連結部21の垂直な板面の変形による前面板10のがたつきが、効果的に防止される。
【0073】
図12(a)、(b)に示すように、背面板30に設けられた第一突片31は、底面板20Cの第三連結部25に設けられた第一挿入孔25aに挿入される。第一挿入孔25aの底面板20Cに開口する前記第一部分の短手方向の幅は、第一突片31の板厚よりも小さい。このため、第一突片31は、第一挿入孔25aに斜めに挿入される。その後、背面板30が、第一突片31を支点にして第三連結部25の方向に回動される。この結果、第一挿入孔25aに挿入された第一突片31が、第三連結部25と反対方向の張力を生じさせる。この張力により、第一突片31と第一挿入孔25aとの間にがたつきが生じない。つまり、背面板30と底面板20Cとの間のがたつきが、効果的に防止される。
【0074】
図13(a)〜(c)に示すように、背面板30に設けられた第二突片32は、左右側面板20A、20Bに設けられた第二挿入孔26aに挿入される。左右側面板20A、20Bには、断面略U字形の折曲部22が設けられる。左右側面板20A、20Bは、折曲部22が変形することにより、第二挿入孔26aの長手方向に伸縮することが可能である。左右側面板20A、20Bが伸びた状態となって、第二挿入孔26aに第二突片32が挿入される。つまり、第二挿入孔26aに挿入された第二突片32には、左右側面板20A、20Bが縮む方向の張力が加えられる。この張力により、第二突片32と第二挿入孔26aとの間にがたつきが生じない。つまり、背面板30と左右側面板20A、20Bとの間のがたつきが、効果的に防止される。
【0075】
図10(a)に示すように、加締部11bは、基部を介して前面板10の金属板に連続するものであれば、その大きさは限定されない。つまり、加締部11bの面積を大きくすることが可能である。加締部11bが、治具や工具と比較して十分に広い面積を有することにより、治具や工具を用いた加締部11bの折り曲げ作業が容易となる。さらに、
図12(a)〜(c)に示すように、背面板30と引出し本体20とは、治具や工具を用いることなく完全な手作業だけで結合させることができる。
【0076】
図2に示すように、背面板30は、引出し本体20とは別個の金属板からなる。この結果、引出し本体20の材料となる金属板の無駄を削減することができる。すなわち、
図4に示すように、展開状態における引出し本体20の輪郭を、大きな凹凸のない単純な形状にすることができる。これにより、引出し本体20の材料となる金属板の無駄が削減される。
【0077】
なお、左右側面板20A、20Bに設けられる折曲部は、
図13(c)に示すような断面略U字形のものに限定されない。折曲部は、第二挿入孔26aの長手方向に沿って、左右側面板20A、20Bを伸縮させることが可能な構成であればよい。例えば、
図15に示すように、左右側面板20A、20Bと底面板20Cとの境界に、第二挿入孔26aの長手方向と直交する方向(図中の前後方向)に延びる折曲部27を設けてもよい。
図15に示す折曲部27によっても、第二挿入孔26aの長手方向に沿って、左右側面板20A、20Bを伸縮させることができる。