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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-194221(P2017-194221A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】膨張弁制御装置及び膨張弁制御方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20170929BHJP
   F25D 11/00 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
   F25B1/00 304S
   F25B1/00 304L
   F25D11/00 101E
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-84470(P2016-84470)
(22)【出願日】2016年4月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】松野 博和
(72)【発明者】
【氏名】猪谷 多聞
(72)【発明者】
【氏名】木内 信行
【テーマコード(参考)】
3L045
【Fターム(参考)】
3L045AA02
3L045AA03
3L045BA01
3L045CA02
3L045DA02
3L045EA01
3L045JA13
3L045LA12
3L045MA02
3L045MA04
3L045PA01
3L045PA03
3L045PA04
3L045PA05
3L045PA06
(57)【要約】
【課題】機械式膨張弁方式のショーケースを電子膨張弁方式のショーケースに改造する際に、既設の温度調節器をそのまま利用して、低コストで電子膨張弁を制御できる膨張弁制御装置及び膨張弁制御方法を提供する。
【解決手段】冷却庫の庫内温度を検出する庫内温度検出手段と、温度判定信号を入力する温度判定信号入力手段と、膨張弁を制御する膨張弁制御信号を出力するための膨張弁制御信号出力手段とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流れる配管と、
前記配管上に設けられ、凝縮器で凝縮された液冷媒を、低温・低圧の液冷媒とする膨張弁と、
冷媒を液体から気体へと状態変化させることで循環する空気の熱を吸収して冷却する蒸発器と、
を少なくとも有する冷却庫において、前記膨張弁の弁開度を制御するための膨張弁制御装置であって、
前記冷却庫の庫内温度を検出する庫内温度検出手段と、
温度判定信号を入力する温度判定信号入力手段と、
前記膨張弁を制御する膨張弁制御信号を出力するための膨張弁制御信号出力手段と、
を備えることを特徴とする膨張弁制御装置。
【請求項2】
前記蒸発器の過熱度を検出する過熱度検出手段をさらに備え、
前記膨張弁制御装置は、プルダウン冷却中は前記過熱度検出手段によって検出された過熱度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する過熱度制御を行うとともに、定温冷却中は前記庫内温度検出手段によって検出された庫内温度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の膨張弁制御装置。
【請求項3】
前記過熱度検出手段が、前記蒸発器の入口側における前記冷媒の温度を検出する入口配管温度センサと、前記蒸発器の出口側における前記冷媒の温度を検出する出口配管温度センサと、を有し、
前記膨張弁制御装置は、前記入口配管温度センサによって検出された入口配管温度と、前記出口配管温度センサによって検出された戻り配管温度とに基づいて過熱度を算出するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の膨張弁制御装置。
【請求項4】
前記膨張弁制御装置は、前記温度判定信号の状態変化と、前記庫内温度検出手段により検出された前記冷却庫の庫内温度とに基づき、庫内温度設定値を取得し、
前記庫内温度設定値と、前記庫内温度検出手段によって検出された前記冷却庫の庫内温度とに基づいて、前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の膨張弁制御装置。
【請求項5】
前記膨張弁制御装置は、前記温度判定信号が変化した際の前記庫内温度を前記庫内温度設定値として取得することを特徴とする請求項4に記載の膨張弁制御装置。
【請求項6】
前記冷却庫の庫内温度が前記庫内温度設定値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載の膨張弁制御装置。
【請求項7】
前記膨張弁制御装置は、前記庫内温度設定値に対して設定された所定の補正値が記憶され、
前記冷却庫の庫内温度が前記庫内温度設定値+補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載の膨張弁制御装置。
【請求項8】
前記膨張弁制御装置は、前記庫内温度設定値に対して設定された所定の補正値が記憶され、
前記冷却庫の庫内温度が前記庫内温度設定値−補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載の膨張弁制御装置。
【請求項9】
前記冷却庫は、
前記蒸発器から出たガス冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒とする圧縮機と、
前記圧縮機から吐出された高温・高圧のガス冷媒から熱を放出させて液冷媒とする凝縮器と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の膨張弁制御装置。
【請求項10】
事前に設定された庫内温度設定値に基づき、温度判定信号を出力する温度調節器をさらに備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の膨張弁制御装置。
【請求項11】
冷媒が流れる配管と、
前記配管上に設けられ凝縮器で凝縮された液冷媒を、低温・低圧の液冷媒とする膨張弁と、
冷媒を液体から気体へと状態変化させることで循環する空気の熱を吸収して冷却する蒸発器と、を少なくとも有する冷却庫において、前記膨張弁の弁開度を制御するための膨張弁制御方法であって、
温度判定信号の状態変化と、前記冷却庫の庫内温度とに基づき、庫内温度設定値を取得し、
前記庫内温度設定値と、前記冷却庫の庫内温度とに基づいて、前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うことを特徴とする膨張弁制御方法。
【請求項12】
前記温度判定信号が変化した際の前記庫内温度を前記庫内温度設定値として取得することを特徴とする請求項11に記載の膨張弁制御方法。
【請求項13】
プルダウン冷却中は過熱度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する過熱度制御を行うとともに、定温冷却中は庫内温度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うことを特徴とする請求項11または12に記載の膨張弁制御方法。
【請求項14】
前記冷却庫の庫内温度が、前記庫内温度設定値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の膨張弁制御方法。
【請求項15】
前記庫内温度設定値に対して所定の補正値が事前に設定され、
前記冷却庫の庫内温度が、前記庫内温度設定値+前記補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の膨張弁制御方法。
【請求項16】
前記庫内温度設定値に対して所定の補正値が事前に設定され、
前記冷却庫の庫内温度が、前記庫内温度設定値−前記補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の膨張弁制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、店舗等に設置される冷凍ショーケースや冷蔵ショーケースなどの冷却庫において、温度判別信号に基づき庫内温度制御により電子膨張弁や高耐久電磁弁などの膨張弁を制御するための膨張弁制御装置及び膨張弁制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの店舗では、商品を冷凍もしくは冷蔵した状態で陳列するための冷凍ショーケースや冷蔵ショーケースなどのショーケースが用いられている。
【0003】
このようなショーケース30は、図11に示すように、商品を陳列するための陳列棚32と、陳列棚32に冷気を吹き出す吹き出し口34と、陳列棚32の空気を吸い込んでショーケース30内を循環させるファン38を有する吸い込み口36とを有している。
【0004】
また、ショーケース30では、一般的な冷凍サイクルが用いられており、冷媒が流れる配管12と、冷凍機の凝縮器で凝縮され、配管12を流れてくる高圧の液冷媒を、低温・低圧の気液混合状態にして蒸発器内に噴射する膨張弁13と、冷媒を液体から気体へと状態変化させることで循環する空気の熱を吸収して冷却する蒸発器16と、を備えている。
【0005】
なお、このようなショーケースは、店舗に設置される場合には、図示しないが、蒸発器16から出たガス冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒とする圧縮機と、圧縮機から吐出された高温・高圧のガス冷媒から熱を放出して液冷媒とする凝縮器と、を備えた冷凍機が屋外に設置され、複数のショーケースが1台の冷凍機に接続された状態で使用されていることが多い。ただし、1台の冷凍機にショーケースを1台だけ接続して使用される場合もある。
【0006】
冷凍機が屋外などに別に設置されるショーケースは、別置形ショーケースと呼ばれている。一方、圧縮機や凝縮器といった冷凍機部分が一体になっているショーケースもあり、そのようなショーケースは冷凍機内蔵形ショーケースもしくは内蔵形ショーケースと呼ばれている。
【0007】
ショーケース30などの冷却庫は、制御手段として温度調節器22を有しており、温度調節器22によってショーケースが備える照明26、ファン38、除霜ヒータ24、防露ヒータ、膨張弁(温調弁)などを制御している。
【0008】
また、ショーケース30の温度調節器22には、図12に示すように、庫内温度を設定するための設定手段62や、設定情報などを表示するための表示手段60などが設けられている。このような設定手段62及び表示手段60を用いて、使用者は庫内温度の設定をすることができる。
【0009】
さらに、ショーケース30の温度調節器22は、ネットワーク66を介して、パーソナルコンピュータなどの設定端末64に接続するための通信手段58を備えている。このような設定端末64を用いることにより、例えば、複数のショーケース30を一括して管理したり、また、ネットワーク66としてインターネットなどを介して、店舗外から遠隔管理したりすることもできる。なお、ネットワーク66としては、インターネットに限らず、イントラネットや専用線ネットワークなどであってもよく、また、これらのネットワークを組み合わせて使用してもよい。
【0010】
このようなショーケース30の膨張弁として、感温筒と配管内部の圧力とで自動的に過熱度を調節する機械式膨張弁13を用いる場合は、機械式膨張弁13の手前(冷凍機側)に給液用電磁弁14を設けて、それを温度調節器22でサーモオン、サーモオフを切り替え、庫内温度を調節する(機械式膨張弁方式)。
【0011】
機械式膨張弁方式の場合、温度調節器22に記憶された庫内温度設定値に基づき、給液用電磁弁14に対して駆動信号を印加し、給液用電磁弁14の開閉を切り換えている。なお、本明細書では、給液用電磁弁14は、駆動信号を印加した状態(通電状態)で弁開(サーモオン)し、駆動信号を印加していない状態(非通電状態)で弁閉(サーモオフ)するものとして説明するが、通電状態で弁閉し、非通電状態で弁開する給液用電磁弁もある。
【0012】
具体的には、図13に示すように、ショーケース30の庫内温度が庫内温度設定値に達するまで、温度調節器22は給液用電磁弁14の電磁コイルに駆動信号を印加(通電)して給液用電磁弁14を開く。これにより、冷媒が蒸発器16へと送られ、ショーケース30の庫内温度は低下する。
【0013】
ショーケース30の庫内温度が庫内温度設定値に達したら、給液用電磁弁14の電磁コイルへの通電を止めて給液用電磁弁14を閉じる。これにより、冷媒が蒸発器16へと送られなくなるため、ショーケース30の庫内温度は徐々に上昇する。
【0014】
そして、ショーケース30の庫内温度が庫内温度設定値+ディファレンシャルに達したら、給液用電磁弁14の電磁コイルに駆動信号を印加して給液用電磁弁14を開く。これにより、冷媒が蒸発器16へと送られるようになるため、ショーケース30の庫内温度は徐々に低下することになる。
【0015】
このように、機械式膨張弁方式では、温度調節器22は、ショーケース30の庫内温度に基づいて、給液用電磁弁14を開閉するための駆動信号を、給液用電磁弁14の駆動コイルに印加するように構成されている。
【0016】
なお、ここでは、ショーケース30の庫内温度が庫内温度設定値に達した場合に駆動信号の印加を止め、庫内温度設定値+ディファレンシャルに達した場合に駆動信号を印加する場合について説明したが、逆に、ショーケース30の庫内温度が庫内温度設定値−ディファレンシャルに達した場合に駆動信号の印加を止め、庫内温度設定値に達した場合に駆動信号を印加する場合もある。
【0017】
また、図14に示すように、制御手段として、温調弁の弁開度を制御する弁開度制御出力手段や弁開度制御を行うためのマイクロコンピュータなどを備えた電子膨張弁用の制御装置23を用い、膨張弁として電子膨張弁15を用いて、制御装置23で電子膨張弁15の弁開度を制御するように構成されているものがある(電子膨張弁方式)。
【0018】
電子膨張弁15を用いた構成とした場合も、電子膨張弁15の手前(冷凍機側)に給液用電磁弁を設けて、給液用電磁弁を制御装置23でサーモオン、サーモオフを切り替え、オンオフ制御で庫内温度の温調を行いながら、制御装置23でサーモオン中の電子膨張弁15の弁開度を、過熱度制御や庫内温度一定制御などにより調節するものもあるが、電子膨張弁15に、弁閉機能を有する電子膨張弁15を用いる場合には、給液用電磁弁の役割を電子膨張弁15に行わせて、給液用電磁弁を省略する事が多い。
【0019】
このように電子膨張弁15を用いる場合には、制御装置23から電子膨張弁15に対して、弁開度の制御するための制御信号が印加される。
【0020】
なお、本明細書では、膨張弁として電子膨張弁を用いる場合として説明するが、電子膨張弁の代わりに高耐久電磁弁を用いることができる。
この場合、デューティー比によって高耐久電磁弁の開閉を制御することで、冷媒の流量を制御し、電子膨張弁15と同様に利用することができる。この場合、制御装置23から高耐久電磁弁に対して、開閉を制御するパルス信号が印加され、弁開と弁閉のデューティー比により冷媒の流量を制御することができる。
【0021】
このように、高耐久電磁弁はデューティー比により冷媒の流量を制御することができることから、本明細書においては、高耐久電磁弁についても電子膨張弁の一種とし、このデューティー比を高耐久電磁弁における弁開度とする。
【0022】
制御装置23は、蒸発器16における過熱度を検出するための過熱度検出手段として、蒸発器の入口側における冷媒の温度を検出する入口配管温度センサ18と、蒸発器の出口側における冷媒の温度を検出する出口配管温度センサ20とを備えるとともに、庫内温度を検出するための庫内温度検出手段として、吹き出し口34の温度を検出する吹き出し口温度センサ40と、吸い込み口36の温度を検出する吸い込み口温度センサ42とを備えている。
【0023】
なお、制御装置23は、吹き出し口温度センサ40によって検出された吹き出し口温度と、吸い込み口温度センサ42によって検出された吸い込み口温度の両方を用いて、それらの中間の温度を庫内温度として扱うように構成してもよいし、或いは、どちらか一方の温度センサのみを用いて、その温度センサで検出した温度にオフセットを加えた値を庫内温度として扱うように構成することもできる。
【0024】
さらには、どちらか一方の温度センサのみを用いて、吹き出し口温度センサで検出した温度を庫内温度としたり、吸い込み口温度センサで検出した温度を庫内温度としたりすることもできる。このような、どちらか一方の温度センサのみを用いて庫内温度を得る場合においては、吹き出し口温度センサと吸い込み口温度センサの両方を備える必要はなく、使用する側の温度センサのみを備えていればよい。
【0025】
なお、符号24は、蒸発器16に発生する霜を除去するための除霜ヒータであり、蒸発器16に霜が発生した場合には、この除霜ヒータ24の電源を入れることによって、霜が溶かされ除霜される。
【0026】
このように構成されたショーケース30では、特許文献1〜3などに開示されているように、制御装置23によって電子膨張弁15の弁開度を調節して冷媒の流量を変化させることによって冷却能力を制御し、ショーケース30の庫内温度の調節を行っている。
【0027】
電子膨張弁15の弁開度の調節を行う冷却制御方法としては、過熱度に基づいて制御する方法(過熱度制御)、庫内温度に基づいて制御する方法(庫内温度一定制御)が知られている。
【0028】
なお、過熱度制御や庫内温度一定制御は、制御装置23に搭載されているマイクロコンピュータ50よるPID制御によって行われている。このようなPID制御には、位置型のPID制御と速度型のPID制御があるが、本明細書では速度型のPID制御の場合について説明する。
【0029】
過熱度制御では、過熱度が所定の過熱度設定値に近づくように電子膨張弁15の弁開度を調節する。
速度型のPID制御で過熱度制御を行う際には、制御出力の比例成分は、過熱度が減少している場合(過熱度の変化量がマイナス)には弁開度を小さくする出力になり、過熱度が増加している場合(過熱度の変化量がプラス)には弁開度を大きくする出力になる。
【0030】
制御出力の積分成分は、過熱度が過熱度設定値よりも高い場合には、過熱度設定値よりも高ければ高いほど弁開度を大きくする出力になり、一方で、過熱度が過熱度設定値よりも低い場合には、過熱度設定値よりも低ければ低いほど弁開度を小さくする出力になるが、その制御出力を積分時間で除算して徐々に出力するため、過熱度が極端に過熱度設定値から離れていない限り、制御周期ごとの出力は比例成分の制御出力よりも小さくなる。
【0031】
制御出力の微分成分は、過熱度の変化量の変化に対して出力され、微分時間をかけて0に減少する成分になるが、過熱度制御においては制御対象の特性上、微分成分の出力自体が外乱のようになってハンチングの要因にならないように、微分成分を出力しないようにしている。
【0032】
PID制御での過熱度制御の制御出力は、比例成分と積分成分を足し合わせた制御出力が制御周期ごとに出力され、比例成分で過熱度の変化傾きを小さくしながら、積分成分で徐々に設定値との差を少なくしていき、過熱度が過熱度設定値に近づいていくように調節する出力となる。
【0033】
過熱度は、蒸発器16の出口側における冷媒の温度(戻り配管温度)から蒸発器16の入口側における冷媒の温度(蒸発温度)を引いた値が用いられ、例えば、入口配管温度センサ18によって検出された蒸発温度と出口配管温度センサ20によって検出された戻り配管温度から制御装置23によって算出されるように構成されている。
【0034】
なお、入口配管温度センサ18の代わりに、配管12内の冷媒の圧力を検出する圧力センサ(図示せず)を備え、低圧圧力を検出できるように構成された場合には、低圧圧力を飽和温度換算した値を蒸発温度として、出口配管温度センサ20によって検出された戻り配管温度から蒸発温度を引いた値を過熱度とすることもできる。
【0035】
また、庫内温度一定制御では、庫内温度が所定の庫内温度設定値に近づくように電子膨張弁15の弁開度を調節する。
庫内温度一定制御も、速度型のPID制御で行う場合には、過熱度制御と同様に、制御出力の比例成分は、庫内温度が減少している場合(庫内温度の変化量がマイナス)には弁開度を小さくし、庫内温度が増加している場合(庫内温度の変化量がプラス)には弁開度を大きくする出力になる。
【0036】
制御出力の積分成分は、庫内温度が庫内温度設定値よりも高い場合には、庫内温度設定値よりも高ければ高いほど弁開度を大きくする出力になり、一方で、庫内温度が庫内温度設定値よりも低い場合には、庫内温度設定値よりも低ければ低いほど弁開度を小さくする出力になるが、その制御出力を積分時間で除算して徐々に出力するため、庫内温度が極端に庫内温度設定値から離れていない限り、制御周期ごとの出力は比例成分の出力よりも小さくなる。
【0037】
制御出力の微分成分は、庫内温度の変化量の変化に対して出力され、微分時間をかけて0に減少する成分になる。しかしながら、庫内温度の変化は緩やかであるため、比例成分や積分成分に比べて微分成分の出力は小さく、また、出力全体に対する割合も低いため、庫内温度制御では制御出力の微分成分の影響を考慮しなくともよい。
【0038】
PID制御での庫内温度一定制御の制御出力は、これらの比例成分、積分成分、微分成分を全て足し合わせた制御出力が制御周期ごとに出力され、比例成分で庫内温度の変化傾きを小さくしながら、積分成分で徐々に庫内温度設定値との差を少なくしていき、庫内温度が庫内温度設定値に近づいていくように調節する出力となる。
【0039】
ところで、ショーケース30の庫内冷却には、2つの段階があり、1つは初めてショーケースの冷却を始める場合や、除霜終了後に冷却を始める場合など、庫内が庫内温度設定値よりも温まった状態から庫内温度設定値まで冷却をするプルダウン冷却であり、もう1つはプルダウン冷却後に庫内温度を庫内温度設定値付近の温度に維持する定温冷却である。
【0040】
このような庫内冷却の制御には、特許文献1に開示されるように、冷却の過熱度と庫内温度の両方に基づいて制御することなども行われている。
特許文献1に開示された温度制御方法では、過熱度に基づく弁開度(出力信号)と、庫内温度に基づく弁開度(出力信号)のうち、弁開度が小さくなる方の出力信号に基づいて電子膨張弁15の弁開度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】特開昭59−185948号公報
【特許文献2】特開平05−133620号公報
【特許文献3】特開平11−281222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
このような電子膨張弁方式では弁開度の制御ができ、上述するように、庫内温度一定制御や過熱度制御を行うことができることから、機械式膨張弁方式と比べ、安定した庫内温度管理が行えるため、ショーケースに陳列する、例えば、生鮮食品などの鮮度を保つことができる。さらには、冷却効率も向上し、省エネ効果も見込めるため、機械式膨張弁方式のショーケースを電子膨張弁方式のショーケースに更新することが望まれている。
【0043】
しかしながら、ショーケース自体を入れ替えるとなると、更新費用が大きくなるため、ショーケースの機械式膨張弁と給液用電磁弁を、電子膨張弁や高耐久電磁弁に交換することによって、機械式膨張弁方式のショーケースを電子膨張弁方式のショーケースに改造することも行われている。
【0044】
このような改造を行う場合、一般的には、機械式膨張弁方式で使われている温度調節器22では、電子膨張弁や高耐久電磁弁を制御することができないため、電子膨張弁や高耐久電磁弁を制御するために制御装置23を追加する必要がある。
【0045】
なお、既設の温度調節器に接続されているネットワークをそのまま利用したり、温度管理のための操作方法を変えずに、電子膨張弁や高耐久電磁弁を導入するためには、既設の温度調節器は残したまま、電子膨張弁や高耐久電磁弁を制御するための制御装置23を追加で導入する必要がある。
【0046】
この場合、追加する制御装置23にも、温度調節器22と同様に、設定手段62や表示手段60が必要となりコストアップしてしまうことになってしまう。また、上述するように、温度調節器22には、設定端末などと接続するための通信手段58を有しており、これも制御装置23に備えることになると、さらなるコストアップに繋がってしまう。
【0047】
また、電子膨張弁や高耐久電磁弁を制御するために、既設の温度調節器22を制御装置23に置き換えようとしても、設定端末64やネットワーク66との通信仕様が異なっていたりすると、制御装置23と設定端末64を接続する事ができない。このため、ショーケース30を単独運転させるか、さもなくば、ネットワーク66や設定端末64までも更新しなければならなくなってしまう。
【0048】
本発明では、このような現状に鑑み、機械式膨張弁方式のショーケースを電子膨張弁方式のショーケースに改造する際に、既設の温度調節器をそのまま利用して、低コストで電子膨張弁や高耐久電磁弁を制御できる膨張弁制御装置及び膨張弁制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0049】
本発明の膨張弁制御装置及び膨張弁制御方法は、膨張弁として高耐久電磁弁や電子膨張弁などを用いて、その弁開度を制御するものである。
具体的には、本発明の膨張弁制御装置は、
冷媒が流れる配管と、
前記配管上に設けられ、凝縮器で凝縮された液冷媒を、低温・低圧の液冷媒とする膨張弁と、
冷媒を液体から気体へと状態変化させることで循環する空気の熱を吸収して冷却する蒸発器と、を少なくとも有する冷却庫において、前記膨張弁の弁開度を制御するための膨張弁制御装置であって、
前記冷却庫の庫内温度を検出する庫内温度検出手段と、
温度判定信号を入力する温度判定信号入力手段と、
前記膨張弁を制御する膨張弁制御信号を出力するための膨張弁制御信号出力手段と、
を備えることを特徴とする。
【0050】
本発明の膨張弁制御装置では、
前記蒸発器の過熱度を検出する過熱度検出手段をさらに備え、
前記膨張弁制御装置は、プルダウン冷却中は前記過熱度検出手段によって検出された過熱度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する過熱度制御を行うとともに、定温冷却中は前記庫内温度検出手段によって検出された庫内温度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うように構成することもできる。
【0051】
この場合、前記過熱度検出手段が、前記蒸発器の入口側における前記冷媒の温度を検出する入口配管温度センサと、前記蒸発器の出口側における前記冷媒の温度を検出する出口配管温度センサと、を有し、
前記膨張弁制御装置は、前記入口配管温度センサによって検出された入口配管温度と、前記出口配管温度センサによって検出された戻り配管温度とに基づいて過熱度を算出するように構成してもよい。
【0052】
また、本発明の膨張弁制御装置は、前記温度判定信号の状態変化と、前記庫内温度検出手段により検出された前記冷却庫の庫内温度とに基づき、庫内温度設定値を取得し、
前記庫内温度設定値と、前記庫内温度検出手段によって検出された前記冷却庫の庫内温度とに基づいて、前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うように構成することができる。
【0053】
この場合、前記膨張弁制御装置は、前記温度判定信号が変化した際の前記庫内温度を前記庫内温度設定値として取得することが好ましい。
また、本発明の膨張弁制御装置では、前記冷却庫の庫内温度が前記庫内温度設定値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えるように構成することができる。
【0054】
また、本発明の膨張弁制御装置では、前記庫内温度設定値に対して設定された所定の補正値が記憶され、
前記冷却庫の庫内温度が前記庫内温度設定値+補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えるように構成することもできる。
【0055】
また、本発明の膨張弁制御装置では、前記庫内温度設定値に対して設定された所定の補正値が記憶され、
前記冷却庫の庫内温度が前記庫内温度設定値−補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えるように構成することもできる。
【0056】
また、前記冷却庫は、
前記蒸発器から出たガス冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒とする圧縮機と、
前記圧縮機から吐出された高温・高圧のガス冷媒から熱を放出させて液冷媒とする凝縮器と、をさらに備えることもできる。
【0057】
また、前記冷却庫は、
事前に設定された庫内温度設定値に基づき、温度判定信号を出力する温度調節器をさらに備えることもできる。
【0058】
また、本発明の膨張弁制御方法は、
冷媒が流れる配管と、
前記配管上に設けられ凝縮器で凝縮された液冷媒を、低温・低圧の液冷媒とする膨張弁と、
冷媒を液体から気体へと状態変化させることで循環する空気の熱を吸収して冷却する蒸発器と、を少なくとも有する冷却庫において、前記膨張弁の弁開度を制御するための膨張弁制御方法であって、
温度判定信号の状態変化と、前記冷却庫の庫内温度とに基づき、庫内温度設定値を取得し、
前記庫内温度設定値と、前記冷却庫の庫内温度とに基づいて、前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うことを特徴とする。
【0059】
この場合、前記温度判定信号が変化した際の前記庫内温度を前記庫内温度設定値として取得することが好ましい。
また、本発明の膨張弁制御方法では、プルダウン冷却中は過熱度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する過熱度制御を行うとともに、定温冷却中は庫内温度に基づいて前記膨張弁の弁開度を制御する庫内温度一定制御を行うことができる。
【0060】
また、本発明の膨張弁制御方法では、前記冷却庫の庫内温度が、前記庫内温度設定値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えることもできる。
また、本発明の膨張弁制御方法では、前記庫内温度設定値に対して所定の補正値が事前に設定され、
前記冷却庫の庫内温度が、前記庫内温度設定値+前記補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えることができる。
【0061】
また、本発明の膨張弁制御方法では、前記庫内温度設定値に対して所定の補正値が事前に設定され、
前記冷却庫の庫内温度が、前記庫内温度設定値−前記補正値よりも低くなった場合に、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えることができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、既設の温度調節器をそのまま利用することができるため、膨張弁制御装置として表示手段や設定手段、通信手段などを設ける必要がなく、低コストの膨張弁制御装置とすることができる。
【0063】
また、既設の温度調節器をそのまま利用することができるため、操作方法や温度管理の方法が変わらず、使用者にとって、新たな操作方法を覚えるなどといった負担が少ない。
【0064】
さらに、既設の温度調節器をそのまま利用することができるため、例えば、既設のネットワークの通信仕様に合わせた通信手段を備える必要がなく、機械式膨張弁方式の冷却庫を、低コストで電子膨張弁方式の冷却庫に改造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1図1は、本実施例の膨張弁制御装置を備えたショーケースの構造を説明するための概略構成図である。
図2】本実施例におけるショーケースのシステム構成を説明するためのシステム構成図である。
図3図3は、一般的な温度調節器の構成を説明するための概略構成図である。
図4図4は、本実施例の膨張弁制御装置の構成を説明するための概略構成図である。
図5図5は、本実施例の膨張弁制御装置において庫内温度設定値を取得する流れを説明するためのフローチャートである。
図6図6は、本実施例の膨張弁制御装置により膨張弁の制御の流れを説明するためのフローチャートである。
図7図7は、本実施例の膨張弁制御装置を備えたショーケースの庫内温度の変化、過熱度の変化、弁開度の変化を説明するためのグラフである。
図8図8は、本実施例の膨張弁制御装置を備えたショーケースにおいて、時刻Tにおいて外乱が発生した場合の庫内温度の変化、過熱度の変化、弁開度の変化を説明するためのグラフである。
図9図9は、本実施例の膨張弁制御装置におけるサーモオフ制御の流れを説明するためのフローチャートである。
図10図10は、本実施例の膨張弁制御装置におけるフェールセーフ制御の流れを説明するためのフローチャートである。
図11図11は、従来の制御手段を備えたショーケースの構造を説明するための概略構成図である。
図12図12は、従来の制御装置を備えるショーケースのシステム構成を説明するためのシステム構成図である。
図13図13は、機械式膨張弁方式のショーケースにおける給液用電磁弁に対する信号の遷移と、ショーケースの庫内温度を示すグラフである。
図14図14は、従来の別の制御手段を備えたショーケースの構造を説明するための概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
なお、本実施例における膨張弁制御装置10を備えたショーケース30の構成は、従来のショーケース30と基本的には同様な構成であり、同一の構成部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0067】
図1は、本実施例の膨張弁制御装置を備えたショーケースの構造を説明するための概略構成図、図2は、本実施例におけるショーケースのシステム構成を説明するためのシステム構成図、図3は、一般的な温度調節器の構成を説明するための概略構成図、図4は、本実施例の膨張弁制御装置の構成を説明するための概略構成図である。
【0068】
図2に示すように、温度調節器22は、動作電力を受電するための電源入力端子52と、各温度センサ40,42から温度信号を入力するための庫内温度センサ入力端子54と、ファン38、除霜ヒータ24、照明26などに制御信号を出力するための制御出力端子56とを備えている。
【0069】
また、例えば、複数のショーケース30や冷凍機などを統合的に制御する上位制御装置(図示せず)や設定端末(図示せず)などとの通信を行うための通信手段58や、各温度センサ40,42によって検出された庫内温度や設定情報などを表示するための表示手段60、庫内温度を設定するための設定手段62を備えている。
【0070】
なお、制御出力端子56には、給液用電磁弁の開閉を制御する駆動信号を出力するための駆動信号出力端子56aが含まれる。なお、本実施例では、この駆動信号を温度判定信号として、後述するように、膨張弁制御装置10の温度判定信号入力端子44に入力している。また、本実施例では、温度判定信号として、上述するように、ショーケース30の庫内温度が温度調節器22に設定された設定値に達した場合に閉信号が、設定値+ディファレンシャルに達した場合に開信号が印加されるものとして説明する。
【0071】
もちろん、温度判定信号として、ショーケース30の庫内温度が温度調節器22に設定された設定値−ディファレンシャルに達した場合に閉信号が、設定値に達した場合に開信号が印加されるように構成してもよい。
【0072】
さらには、温度判定信号は、温度調節器22に設定された設定値と、庫内温度とに基づいて出力される信号であれば、特に限定されるものではなく、開信号又は閉信号のいずれかは信号を出力しない状態としても構わない。
【0073】
膨張弁制御装置10は、図3に示すように、PID制御の演算処理などを行うマイクロコンピュータ50と、動作電力を受電するための電源入力端子52と、温度判定信号を入力するための温度判定信号入力端子44を含む温度判定信号入力手段と、各温度センサ18,20,40,42から温度信号を入力するための温度センサ入力端子46と、膨張弁を制御する膨張弁制御信号を出力するための膨張弁制御信号出力端子48を含む膨張弁制御信号出力手段とを備えている。
【0074】
なお、本実施例において、膨張弁15とは、電子膨張弁と高耐久電磁弁など、膨張弁制御装置10から出力される膨張弁制御信号により冷媒の流量を制御することが可能な弁を含むものである。
【0075】
このように構成される温度調節器22と膨張弁制御装置10は、図1に示すように、温度調節器22の駆動信号出力端子56aと、膨張弁制御装置10の温度判定信号入力端子44とが接続され、温度調節器22により出力される駆動信号が、温度判定信号として膨張弁制御装置10に入力されるように構成されている。
【0076】
このように構成される本実施例の膨張弁制御装置10では、以下のようにして、庫内温度一定制御を行うための庫内温度設定値を取得する。
図5は、本実施例の膨張弁制御装置10において庫内温度設定値を取得する流れを説明するためのフローチャートである。
【0077】
本実施例では、ショーケース30の冷却が開始されると、膨張弁制御装置10により、所定の間隔で庫内温度設定制御が実行される。
庫内温度設定制御では、温度判定信号入力端子44に入力される温度判定信号を検知し、温度判定信号が開信号から閉信号に変化したか否かを判定する。
【0078】
温度判定信号が開信号から閉信号に変化した場合には、吹き出し口温度センサ40及び吸い込み口温度センサ42によって庫内温度を測定し、この庫内温度を庫内温度設定値としてマイクロコンピュータ50に記憶する。
【0079】
すなわち、庫内温度が温度調節器22に設定された庫内温度設定値に達した場合に、温度調節器22から出力される温度判定信号が変化するため、膨張弁制御装置10が、この時の庫内温度を測定することにより、膨張弁制御装置10に対して庫内温度設定などをしなくとも、膨張弁制御装置10が庫内温度設定値を取得することができる。
【0080】
なお、本実施例では、上述するように、温度判定信号が開信号から閉信号に変化した場合の庫内温度を庫内温度設定値としてマイクロコンピュータ50に記憶しているが、温度判定信号が開信号から閉信号に変化した場合の庫内温度+ディファレンシャルを庫内温度設定値としてマイクロコンピュータ50に記憶するように構成することもできる。
【0081】
このように、温度判定信号が、開信号から閉信号に、もしくは、閉信号から開信号に状態が変化したタイミングの庫内温度を取得することにより、膨張弁制御装置10は、温度調節器22に事前に設定された庫内温度設定値を取得することができる。なお、温度判定信号の状態変化には、上述するように、信号が印加されている状態から、信号が印加されていない状態への変化や、その逆の変化なども含まれる。
【0082】
このようにして庫内温度設定値を取得することによって、マイクロコンピュータ50は、上述するように、庫内温度がこの庫内温度設定値に近づくように膨張弁15を制御するように、膨張弁制御信号を膨張弁制御信号出力端子48から出力する。
【0083】
このように膨張弁制御装置10を構成することにより、膨張弁制御装置10自体に設定手段62や表示手段60を設けることなく、既設の温度調節器22から印加される温度判定信号に基づいて、庫内温度設定値を取得することができる。また、設定手段62や表示手段60を設ける必要がないため、製造コストの削減を図ることができる。
【0084】
また、既設の温度調節器22をそのまま利用することができるため、例えば、既設のネットワークの通信仕様に合わせた通信手段58を備える必要がなく、膨張弁制御装置10の製造コストを削減することができ、また、様々な仕様の温度調節器にも対応することができる。
【0085】
また、既設の温度調節器22をそのまま利用することができるため、ショーケース30の操作方法が変わらず、使用者にとって、新たな操作方法を覚えるなどといった負担が少ない。
【0086】
また、本実施例の膨張弁制御装置10は、以下のように膨張弁を制御することもできる。図6は、本実施例の膨張弁制御装置10により膨張弁の制御の流れを説明するためのフローチャートである。
【0087】
ショーケース30の冷却が開始すると、膨張弁制御装置10によって所定の制御周期で膨張弁15の制御が行われる。なお、ショーケース30の起動時には、膨張弁制御装置10の制御モードは、過熱度制御となっている。
【0088】
また、膨張弁制御装置10による膨張弁15の弁開度の制御は、膨張弁15の種類にもよるが、例えば、膨張弁15が電子膨張弁や高耐久電磁弁などの場合には、PID制御により行うことができる。
【0089】
膨張弁15の制御が開始(S11)されると、まず、現在の制御モードが、過熱度制御なのか庫内温度一定制御なのかが判断される(S12)。
制御モードが、庫内温度一定制御であると判断された場合には、吹き出し口温度センサ40や吸い込み口温度センサ42などの庫内温度検出手段によって検出された庫内温度に基づいて、膨張弁15の弁開度が調節される(S16)。
【0090】
一方で、制御モードが、過熱度制御であると判断された場合には、入口配管温度センサ18によって検出された入口配管温度及び出口配管温度センサ20によって検出された戻り配管温度から算出された過熱度に基づいて、膨張弁15の弁開度が調節される(S13)。
【0091】
次いで、庫内温度が所定の庫内温度設定値よりも低いか否かが判断される(S14)。庫内温度が庫内温度設定値よりも高い場合には、そのまま膨張弁15の制御は終了(S17)し、庫内温度が庫内温度設定値よりも低い場合には、制御モードが過熱度制御から庫内温度一定制御に切り換えられ(S15)、膨張弁15の制御が終了(S17)する。
【0092】
このように、膨張弁制御装置10が起動してから、庫内温度が庫内温度設定値となるまでのプルダウン冷却時には、過熱度制御によって膨張弁15を制御し、庫内温度が庫内温度設定値となった定温冷却時には、庫内温度一定制御によって膨張弁15を制御するように構成することで、プルダウン冷却時に迅速に庫内を冷却することができるとともに、定温冷却時には安定的に庫内を一定の温度に保つことが可能となる。
【0093】
図7は、本実施例の膨張弁制御装置10を備えたショーケース30の庫内温度の変化、過熱度の変化、弁開度の変化を説明するためのグラフである。
まず、プルダウン冷却を開始する際に、開始前には0%であった膨張弁15の弁開度を所定時間の間、100%にする。なお、弁開度を100%とする所定時間は任意の時間で構わず、0秒であってもよい。
【0094】
これにより、冷媒が蒸発器16に流れて冷却が開始される。そして、所定時間が経過すると、膨張弁制御装置10はPID制御による庫内温度制御を始める。
プルダウン冷却の開始時には、冷媒がほとんど入っていない状態であった蒸発器16に冷媒が流れ始めるので、一旦は過熱度が一気に上昇する。この時、膨張弁制御装置10の制御モードは過熱度制御であり、過熱度制御の制御出力は上昇する過熱度に応じて膨張弁15の弁開度を大きくする出力になるが、既に弁開度は100%であるため、弁開度は100%のままとなる。
【0095】
そして、すぐに蒸発器16内に冷媒が行き渡ると、過熱度は急激に小さくなる。
この時、膨張弁制御装置10の制御モードは過熱度制御なので、この急激に小さくなる過熱度変化に応じて、膨張弁15の弁開度を急激に小さくする信号を出力する。
【0096】
膨張弁15の弁開度が急激に小さくなると、過熱度は再び大きく上昇する。そして、膨張弁制御装置10の制御モードは過熱度制御なので、膨張弁制御装置10は大きく上昇した過熱度に応じて弁開度を大きくする信号を出力する。
【0097】
このように、プルダウン冷却時には、膨張弁制御装置10の制御モードは過熱度制御なので、過熱度の変化に応じて弁開度を調節する信号が出力されて、過熱度が高くなりすぎることがなく、蒸発器16は適正な冷却能力を発揮し、ショーケース30の庫内を迅速に冷却することができる。
【0098】
そして、時刻t1において、庫内温度が庫内温度設定値よりも小さくなった後は、膨張弁制御装置10の制御モードが庫内温度一定制御に切り替わり、庫内温度に応じて弁開度が調節され、庫内温度を安定的に一定に保つことができる。
【0099】
なお、膨張弁制御装置10の制御モードを切り替えるタイミングとしては、庫内温度設定値に対して所定の補正値を設定し、庫内温度が庫内温度設定値+補正値以下となった場合や、庫内温度設定値−補正値以下となった場合などとしても構わない。このように、制御モードを切り替えるタイミングを変更するための所定の補正値を設定できるようにすることで、ショーケース30の種類に応じた適切な制御を行うことができる。
【0100】
また、本実施例のように膨張弁15の制御を行うことによって、外乱が生じた場合であっても、速やかに過熱度を低下させ、庫内温度を元に戻すことができる。
図8は、本実施例の膨張弁制御装置10を備えたショーケースにおいて、時刻Tにおいて外乱が発生した場合の庫内温度の変化、過熱度の変化、弁開度の変化を説明するためのグラフである。
【0101】
なお、図8に示すグラフでは、庫内温度が庫内温度設定値まで下がっており、ショーケース30が定温冷却を行っている際に外乱が生じた場合の一例を示している。
図8に示すように、外乱が生じたことにより庫内温度が上昇する。本実施例の膨張弁制御装置10では、定温冷却中は制御モードを切替えて庫内温度一定制御が行われることになるため、庫内温度の上昇に応じて、膨張弁15の弁開度が大きくなるように制御される。
【0102】
庫内温度一定制御で膨張弁15の弁開度が大きくなることによって、庫内温度の上昇に応じて高くなっていた過熱度は減少するが、膨張弁制御装置10の制御モードは庫内温度一定制御であり、過熱度の減少に応じて弁開度を小さくすることはなく、庫内温度の変化に応じて弁開度を制御するので、高くなった庫内温度に応じて弁開度を大きくし、庫内温度が庫内温度設定値になるように制御する。
このため、本実施例の膨張弁制御装置10では、定温冷却中に外乱により庫内温度が上昇した場合に速やかに庫内温度を元の設定値付近の温度に戻すことができる。
【0103】
なお、プルダウン冷却中に外乱が発生した場合であっても、本実施例の膨張弁制御装置10であれば、プルダウン冷却中は常に過熱度制御によって膨張弁15の弁開度を制御しているため、外乱により上昇した過熱度に応じて弁開度が大きくなり、外乱による過熱度変化、庫内温度変化を速やかに収束させることができる。
【0104】
また、本実施例の膨張弁制御装置10は、庫内温度一定制御中に、以下のようにして、強制的に膨張弁をサーモオフすることで、蒸発器における霜の成長を妨げ、除霜を行わなければならない頻度を少なくし、デフロストサイクル時間を長くすることができる。
【0105】
図9は、本実施例の膨張弁制御装置10におけるサーモオフ制御の流れを説明するためのフローチャートである。
本実施例では、ショーケース30の冷却が開始されると、膨張弁制御装置10により、所定の間隔でサーモオフ制御が実行される(S21)。
【0106】
まず、膨張弁制御装置10が過熱度制御中か庫内温度一定制御中かが判断される(S22)。そして、過熱度制御中と判断された場合には、そのままサーモオフ制御は終了する(S31)。
【0107】
一方で、庫内温度一定制御中であると判断された場合には、冷却開始から事前に設定した切替判定時間Aが経過したか否かが判断された後(S23)、経過時間に応じてサーモオン時間とサーモオフ時間を設定する。
【0108】
切替判定時間Aが経過していない場合には、サーモオン時間を設定値b、サーモオフ時間を設定値cと設定する(S24)。
一方で、切替判定時間Aが経過した場合には、サーモオン時間を設定値d、サーモオフ時間を設定値eと設定する(S25)。
【0109】
なお、切替判定時間Aは、除霜サイクルの前半と後半を判定するために用いられる設定値であり、ショーケース30の種類や大きさなどに応じて事前に設定された除霜サイクル時間の、例えば半分としてもよいが、除霜サイクル時間の中で適宜変更できる。
【0110】
また、サーモオフ時間である設定値c及び設定値eとしては、庫内温度がさほど上昇しない程度の短い時間とすることが望ましい。
一方で、サーモオン時間である設定値b及び設定値dとしては、庫内冷却のため、設定値c及び設定値eと比べて長時間とすることが望ましい。
【0111】
なお、除霜サイクルの前半と比べて、除霜サイクルの後半の方が蒸発器16に着霜しやすい傾向にある。このため、除霜サイクルの後半は、除霜サイクルの前半よりもサーモオン時間に対するサーモオフ時間の比率が大きくなるように設定することが望ましい。
【0112】
具体的には、サーモオフ時間である設定値c及び設定値eを一定とし、サーモオン時間については設定値bと比べて設定値dを短く設定したり、逆に、サーモオン時間である設定値b及び設定値dを一定とし、サーモオフ時間については設定値cと比べて設定値eを長く設定することが望ましい。
【0113】
次いで、サーモオン中か否かが判断される(S26)。サーモオン中であると判断された場合には、サーモオン時間が経過したか否かが判断される(S27)。サーモオン時間が経過していない場合には、そのままサーモオフ制御は終了する(S31)。
【0114】
一方で、サーモオン時間が経過した場合には、膨張弁制御装置10によって膨張弁15を弁閉して、ショーケース30をサーモオフ(S28)し、サーモオフ制御は終了する(S31)。
【0115】
S26において、サーモオフ中であると判断された場合には、サーモオフ時間が経過したか否かが判断される(S29)。サーモオフ時間が経過していない場合には、そのままサーモオフ制御は終了する(S31)。
【0116】
一方で、サーモオフ時間が経過した場合には、膨張弁制御装置10によって膨張弁15を弁開して、ショーケース30をサーモオン(S30)し、サーモオフ制御は終了する(S31)。
【0117】
このように、庫内温度一定制御中に、所定のサーモオン時間、サーモオフ時間でサーモオン状態とサーモオフ状態を切り換えることによって、サーモオフ中はデフロスト効果を得ることができるため、蒸発器16における霜の成長を妨げ、除霜サイクル時間を長くすることができる。
【0118】
また、サーモオン中は、庫内温度一定制御によりショーケースの庫内温度は一定に保たれており、また、短時間だけサーモオフ状態としたとしても、庫内温度はさほど上昇することもないため、本実施例の膨張弁制御装置10の動作中は、庫内温度が安定的に保たれることになる。
【0119】
なお、本実施例では、上述するような理由により、除霜サイクルの前半と後半とで、サーモオン時間・サーモオフ時間を変更しているが、常に同じサーモオン時間・サーモオフ時間としてもよい。
【0120】
また、切替判定時間を1つだけ設けて除霜サイクルの前半と後半の2段階で切替えるのではなく、切替判定時間を複数設けて、除霜サイクルをもっと細かく分割し、それぞれ異なるサーモオン時間・サーモオフ時間を設定してもよい。
【0121】
このように庫内温度一定制御中にサーモオン工程とサーモオフ工程とを交互に繰り返し行うことによって、庫内温度を安定的に維持しながらも、除霜周期を長くすることができ、開閉制御の時と同じ時間間隔で除霜を行った場合でも、着霜による冷却不良に陥ることがない。なお、本明細書においては、サーモオン工程とサーモオフ工程とを交互に繰り返し行っている時間を除霜サイクル時間と呼ぶ。
【0122】
また、本実施例の膨張弁制御装置10は、以下のように、膨張弁の制御方法を切り替えることで、ショーケースが冷却不良に陥った場合にも、冷却不良状態から速やかに状態回復することができる。
【0123】
図10は、本実施例の膨張弁制御装置10におけるフェールセーフ制御の流れを説明するためのフローチャートである。
本実施例では、膨張弁制御装置10が起動すると、所定の間隔でフェールセーフ制御が実行される(S41)。
【0124】
まず、膨張弁制御装置10が過熱度制御中か庫内温度一定制御中かが判断される(S42)。そして、過熱度制御中と判断された場合には、過熱度制御開始から所定の過熱度制御上限時間が経過したか否かが判断される(S43)。
【0125】
過熱度制御上限時間が経過していない場合には、そのままフェールセーフ制御は終了する(S47)。一方で、過熱度制御上限時間が経過している場合には、冷却不良が発生したと判断し、制御方法を過熱度制御から庫内温度一定制御に切り替え(S44)、フェールセーフ制御は終了する(S47)。
【0126】
S42において、膨張弁制御装置10が庫内温度一定制御中であると判断された場合には、ショーケース30の庫内温度が、庫内温度設定値+所定のオフセット値である庫内温度上限値を超えた状態で、所定の庫内温度一定制御上限時間が経過したか否かが判断される(S45)。
【0127】
庫内温度一定制御上限時間が経過していない場合には、そのままフェールセーフ制御は終了する(S47)。一方で、庫内温度一定制御上限時間が経過している場合には、冷却不良が発生したと判断し、制御方法を庫内温度一定制御から過熱度制御に切り替え(S46)、フェールセーフ制御は終了する(S47)。
【0128】
なお、過熱度制御上限時間、庫内温度一定制御上限時間、庫内温度設定値のオフセット値はショーケース30の種類や大きさなどに応じて適宜設定することができる。
また、上記実施例で膨張弁制御装置10は、過熱度制御と庫内温度一定制御の組み合わせによって、ショーケース30の庫内冷却を行っているが、これに限らず、例えば、圧力センサを用いた冷媒の圧力に基づく制御など、他の制御方法を用いても構わない。
【0129】
このように構成することによって、例えば、冷凍機が停止したり、「液無し状態」に陥ったりして、冷却不良となってしまった場合には、過熱度制御から庫内温度一定制御に切り替え、もしくは、庫内温度一定制御から過熱度制御に切り替えることができる。
【0130】
すなわち、冷却動作中に冷却不良が発生し、膨張弁制御装置10が冷却不良を検出した場合、膨張弁制御装置10は異なる制御方法による冷却を行うように構成されている。このように、本実施例の膨張弁制御装置10は、フェールセーフ制御を有することにより、冷却不良が発生した場合にも、制御方法を切り替えて冷却不良状態から速やかに状態回復することができる。
【0131】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、上記実施例では、冷却庫の一例として店舗等に設置される多段ショーケースを用いて説明したが、例えば、平形ショーケース、プレハブ冷蔵庫、プレハブ冷凍庫などにも適用可能であるなど、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0132】
10 膨張弁制御装置
12 配管
13 機械式膨張弁
14 給液用電磁弁
15 膨張弁
16 蒸発器
18 入口配管温度センサ
20 出口配管温度センサ
22 温度調節器
23 制御装置
24 除霜ヒータ
26 照明
30 ショーケース
32 陳列棚
34 吹き出し口
36 吸い込み口
38 ファン
40 吹き出し口温度センサ
42 吸い込み口温度センサ
44 温度判定信号入力端子
46 温度センサ入力端子
48 膨張弁制御信号出力端子
50 マイクロコンピュータ
52 電源入力端子
54 庫内温度センサ入力端子
56 制御出力端子
56a 駆動信号出力端子
58 通信手段
60 表示手段
62 設定手段
64 設定端末
66 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
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