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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-194233(P2017-194233A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】コールドクルーシブル溶解炉
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/06 20060101AFI20170929BHJP
   F27B 14/08 20060101ALI20170929BHJP
   F27B 14/14 20060101ALI20170929BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20170929BHJP
   F27D 9/00 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
   F27B14/06
   F27B14/08
   F27B14/14
   F27D11/06 A
   F27D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-85078(P2016-85078)
(22)【出願日】2016年4月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】中井 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】津田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】米虫 悠
【テーマコード(参考)】
4K046
4K063
【Fターム(参考)】
4K046AA01
4K046AA07
4K046BA01
4K046BA03
4K046CD02
4K046CD12
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA02
4K063BA03
4K063CA06
4K063EA04
4K063FA34
4K063FA39
(57)【要約】
【課題】各セグメント内において管状の冷却水路を周回する誘導電流(渦電流)が発生する事態を防止・抑制して、ルツボの誘導加熱による投入電力の損失を低減し、溶解効率の上昇を図ることが可能なコールドクルーシブル溶解炉を提供する。
【解決手段】ルツボ1の胴体部10が、高さ方向に延伸する管状の水冷通路C1が内部に形成された複数のセグメント2を、絶縁材4で閉塞した縦スリット3を介して円周方向に並ぶ状態で配置したものであり、セグメント2として、外周壁部22B、2つの側壁部22C,22Dのうち少なくとも1つの壁部に、当該セグメント2の外部から水冷通路C1に連通する開放部24が形成され、内周壁部22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25によって開放部24を閉塞したものを適用したコールドクルーシブル溶解炉Xにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボの胴体部の外周に配置された誘導加熱コイルによって前記ルツボ内の被溶解金属を誘導加熱して溶解することが可能なコールドクルーシブル溶解炉であり、
前記胴体部は、高さ方向に延伸する管状の水冷通路が内部に形成された複数のセグメントを、当該胴体部の径方向に沿って放射状に延伸し且つ所定の絶縁材で閉塞した縦スリットを介して円周方向に並ぶ状態で配置したものであり、
前記セグメントは、前記水冷通路よりも前記径方向内側の領域を形成する内周壁部と、前記水冷通路よりも前記径方向外側の領域を形成する外周壁部と、前記内周壁部と前記外周壁部の間の領域を形成し且つ前記円周方向に前記水冷通路を跨いで対向する2つの側壁部とを備え、前記外周壁部又は前記2つの側壁部のうち少なくとも1つの壁部に、当該セグメントの外部から前記水冷通路に連通する開放部が形成され、前記内周壁部よりも電気抵抗率が高い水密材によって前記開放部を閉塞していることを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉。
【請求項2】
前記内周壁部、前記外周壁部、及び前記側壁部の前記径方向または前記円周方向の厚みを、前記誘導加熱コイルで発生する磁束の浸透深さ未満の厚みに設定している請求項1に記載のコールドクルーシブル溶解炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点金属や活性金属を溶解し、非金属を混入させないで、高純度化を図り、溶湯プール内において成分・温度が均一である金属を水冷銅ルツボ内で溶解することが可能なコールドクルーシブル溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、チタンを始めとする高融点で活性な金属の溶解炉として、コールドクルーシブル溶解炉が用いられている。コールドクルーシブル溶解炉のルツボは、平面視部分円弧状をなす複数のセグメントを周方向にスリットを介して隣接して配置した円筒状の胴体部と、底部とを備えており、各スリットには耐火性を有する絶縁材を配置している。このような構成により、隣接するセグメント同士を電気的に絶縁し、胴体部の外周に配置した誘導加熱コイルで発生した磁束をルツボ内に効率良く導入することができるとともに、スリットを通じた溶湯の浸入を防止している。
【0003】
また、各セグメントには、冷却手段の一部を構成する水冷通路が内部に形成されている。水冷通路の一例として、セグメント内に当該セグメントの起立方向に沿って形成された断面円形の孔の内部に、当該孔の内周面との間に所定隙間が確保された状態で内パイプを配置し、孔の内周面と内パイプの外周面との隙間を、セグメントの起立方向に沿って噴き出す上昇水流の経路とし、閉塞されている孔の上端部近傍で上昇水流が上端部近傍で180°転換し、内パイプの内部空間をその下降水流の経路とした二重構造の通路を挙げることができる(例えば下記特許文献1)。
【0004】
このようなコールドクルーシブル溶解炉のルツボ内に収容された被溶解金属を溶解する場合、誘導加熱コイルによって被溶解金属を誘導加熱するとともに、冷却水路に冷却水を通すことによってルツボを冷却する。これにより、ルツボに収容された被溶解金属は、外周側において抜熱されるため、この外周側で被溶解金属が冷却されて凝固したスカルが形成されて内部のみが溶融することとなる。このため、被溶解金属が溶解した溶湯は、スカルによってルツボと接することなく、溶湯が揺れるなどしてルツボに接しても、ルツボが十分に冷却されているので反応することなく汚染は起きない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−277169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の構造では、投入電力のうち30%〜50%が溶解に寄与する一方、投入電力の数十%程度は、誘導加熱コイルで損失(コイル損失)したり、ルツボの誘導加熱による損失になる。特に、ルツボの誘導加熱による損失は投入電力の30%程度ある。これは、図6及び図7に示すように、スリット3を介して複数のセグメント2を周方向に接続したルツボ1の外周に誘導加熱コイルHが配置された構成において、この誘導加熱コイルHに高周波電流を通電すると、各セグメント2内において、管状の冷却水路C1を周回する誘導電流(図7において電流方向を矢印で示す渦電流)が発生し、損失を起こすことが主な原因である。投入電力の損失が大きいほど、溶解電力が低下し、非常に効率が悪いため、改善の余地がある。なお図6において符号4で示す部材は、縦スリット3に隙間無く配置した耐火性を有する絶縁材である。
【0007】
そこで、セグメントの周方向及び径方向の厚みを薄く設定して、ルツボと誘導加熱コイルの間における相互インダクタンスを減少させる構成も考えられる。しかしながら、セグメントの周方向及び径方向の厚みを薄くするほど、セグメントの強度が低下し、溶解処理時の熱で変形するおそれがある。また、セグメントの周方向及び径方向の厚みを薄く設定すると、セグメント内に形成される冷却水路のサイズ(開口形状)も小さく設定せざるを得ない。冷却水路のサイズ(開口形状)が小さくなるほど、冷却水路を用いた冷却手段の冷却能力が低下し、ルツボ自体の変形・溶融を招来することになり得る。
【0008】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、主たる目的は、各セグメント内において管状の冷却水路を周回する誘導電流(渦電流)が発生する事態を防止・抑制して、ルツボの誘導加熱による投入電力の損失を低減し、溶解効率の上昇を図ることが可能なコールドクルーシブル溶解炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、ルツボの胴体部の外周に配置された誘導加熱コイルによってルツボ内の被溶解金属を誘導加熱して溶解することが可能なコールドクルーシブル溶解炉に関するものである。
【0010】
そして、本発明に係るコールドクルーシブル溶解炉は、胴体部として、高さ方向に延伸する管状の水冷通路が内部に形成された複数のセグメントを、当該胴体部の径方向に沿って放射状に延伸し且つ所定の絶縁材で閉塞した縦スリットを介して円周方向に並ぶ状態で配置したものを適用し、セグメントが、水冷通路よりも径方向内側の領域を形成する内周壁部と、水冷通路よりも径方向外側の領域を形成する外周壁部と、内周壁部と外周壁部の間の領域を形成し且つ円周方向に水冷通路を跨いで対向する2つの側壁部とを有し、且つ外周壁部又は2つの側壁部のうち少なくとも1つの壁部に、当該セグメントの外部から水冷通路に連通する開放部が形成され、内周壁部よりも電気抵抗率が高い水密材によって開放部を閉塞したものであることを特徴としている。
【0011】
このような本発明に係るコールドクルーシブル溶解炉によれば、円周方向に分割形成されたセグメント間を、絶縁材で閉塞した縦スリットを介して継ぎ合わせた集合体であるルツボの外周に配置した誘導加熱コイルを通電状態にして、縦スリットを介してルツボ内に誘導磁場が導入され、被溶解金属に浸透し、被溶解金属を誘導加熱することができるとともに、セグメントの外部から水冷通路に連通するように形成した開放部を、周壁部のうち水冷通路よりも径方向内側の領域を形成する内周壁部よりも電気抵抗率が高い水密材によって閉塞しているため、水冷通路から開放部に冷却水などの冷却媒体が漏れる事態を防止して、良好な水冷機能を確保することができるとともに、各セグメント内において水冷通路を周回する渦電流が流れる事態を大幅に防止・抑制することができる。その結果、ルツボの誘導加熱による投入電力の損失を大幅に低減することができ、溶解効率が向上する。
【0012】
このように、本発明は、外周壁部又は2つの側壁部のうち少なくとも1つの壁部に、セグメントの外部から水冷通路に連通する開放部を形成し、この開放部を内周壁部よりも電気抵抗率が高い水密材によって閉塞する点に特徴を有するものであり、開放部を形成する部分は、外周壁部のみ、又は一方の側壁部のみ、或いは両側壁部のみの何れであってよいし、外周壁部及び両側壁部にそれぞれ開放部を形成してもよい。開放部の形状や数は適宜選択・変更することができ、開放部の形状に応じた水密材を適用することで、開放部を適切に閉塞することができる。
【0013】
特に、本発明に係るコールドクルーシブル溶解炉において、セグメントのうち内周壁部及び外周壁部の径方向の厚みと、各側壁部の円周方向の厚みを、誘導加熱コイルによって作られる磁場の浸透深さ(電磁誘導の浸透深さ)未満の厚みに設定すれば、セグメント内に発生する渦電流を低減することができ、ルツボの誘導加熱による投入電力の損失の更なる低減化、及び溶解効率の更なる上昇を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明では、ルツボの胴体部を構成するセグメントのうち、周壁部又は2つの側壁部のうち少なくとも1つの壁部に、当該セグメントの外部から水冷通路に連通するように形成された開放部を、内周壁部よりも電気抵抗率が高い水密材によって閉塞しているため、各セグメントが管状の水冷通路周りにおいて開放部及び水密材で分断された構成になり、各セグメント内において管状の冷却水路を周回する誘導電流(渦電流)が発生しないか、極めて発生し難い構成となり、ルツボの誘導加熱による投入電力の損失を低減し、溶解効率の上昇を図ることが可能なコールドクルーシブル溶解炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉の模式的な部分断面図。
図2】同実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉の要部を一部横断面にして模式的に示す図。
図3】同実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉の要部を一部省略して模式的に示す平断面図。
図4】同実施形態におけるセグメントを一部省略して模式的に示す平断面図。
図5】同実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉で適用可能なセグメントの変形例を図4に対応させて示す図。
図6】従来のコールドクルーシブル溶解炉を図3に対応させて示す図。
図7】従来のコールドクルーシブル溶解炉で適用されているセグメントを図5に対応させて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xは、図1に示すように、被溶解金属Wを収容する炉本体であるルツボ1と、ルツボ1の胴体部10の外周に配置された誘導加熱コイルHと、ルツボ1の下端に配置され当該ルツボ1を支持する架台Kと、ルツボ1を冷却する冷却手段Cとを備え、水冷のルツボ1内で被溶解金属Wを誘導加熱コイルHによる高周波誘導加熱で半浮遊状態に溶解可能なものである。本実施形態のコールドクルーシブル溶解炉Xは、図示しない気密容器の内部に設置し、減圧雰囲気(真空雰囲気を含む)中で被溶解金属Wの溶解処理を実行することが可能である。
【0018】
ルツボ1は、複数の導電性セグメント2(以下「セグメント2」)を、縦スリット3を介して周方向に接続して構成されたものである。セグメント2は、図1に示すように、ルツボ1の底面壁を構成するように形成された底部21と、ルツボ1の側面壁を構成する周壁部22と、周壁部22の下端部からルツボ1の径方向外側に向かって突出し、架台Kの鍔部K2にボルトB及びナットNで締結される取付部23とを有している。
【0019】
ルツボ1の胴体部10は、図2(同図は、胴体部10を示す図であり、説明の便宜上、一部を横断面図として示している)に示すように、縦スリット3を介して周方向に並べた複数のセグメント2の周壁部22によって構成され、径方向に沿って放射状に延伸する各縦スリット3を所定の絶縁材4で閉塞している。図2では、セグメント2のうち底部21及び取付部23を省略している。本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xは、複数のセグメント2によって、上部が開口して被溶解金属Wを収容するルツボ1を形成している。
【0020】
各セグメント2は、電気伝導率及び熱伝導率に優れ、熱衝撃に強く、必要な機械的強度を有するとともに、冷却手段Cによる冷却によってスカルWa(図1参照)を形成するために必要な高熱伝導率を有する材料、例えば、銅、または、クロム銅、ベリリウム銅、ジルコニウム銅、クロムジルコニウム銅、テルル銅等の金属材料により形成されたものである。また、溶湯の融点が比較的低くルツボとの反応を起こさない範囲で、ステンレス、ニッケル基合金ハステロイ、インコネルなどの材料も用いることができる。
【0021】
各セグメント2の周壁部22には、高さ方向に延伸する水冷通路C1を内部に形成している。水冷通路C1は、冷却手段Cを構成するものである。本実施形態における水冷通路C1は、図1等に示すように、周壁部22の下端から上端より少し下方の位置に亘る領域に連続して形成された横断面が略円形状の空洞部C2と、空洞部C2内において空洞部C2の内周面から所定寸法の隙間を隔てて起立姿勢で配置した円筒状の内パイプC3とによって構成した二重構造のものである。なお、図1では、内パイプC3を単純な実線で模式的に示している。
【0022】
セグメント2内における水冷通路C1は、図1に示すように、空洞部C2の内周面と内パイプC3の外周面との隙間を利用した往水路(セグメント内往水路C4)と、内パイプC3の内部空間を利用した復水路(セグメント内復水路C5)とに区別することができる。なお、これらセグメント内往水路C4及びセグメント内復水路C5は、セグメント2の上端部分で相互に連続するように構成されている。図1では、水冷通路C1(セグメント内往水路C4、セグメント内復水路C5)を流通する冷却水の水流方向を矢印で模式的に示している。
【0023】
本実施形態のコールドクルーシブル溶解炉Xは、後述する架台Kの柱状部K1の内部空間、及び架台Kの鍔部K2とセグメント2の間に形成される空間に、セグメント内往水路C4及びセグメント内復水路C5にそれぞれ連続する水路を有する。具体的には、セグメント2の下方に形成され且つセグメント内往水路C4に連続する上流側往水路C6と、セグメント2の下方に形成され且つセグメント内復水路C5に連続する下流側復水路C7とが形成されている。図1では、上流側往水路C6及び下流側復水路C7を流通する冷却水の水流方向を矢印で模式的に示している。
【0024】
上流側往水路C6の上流端には、図示しない冷却水供給源が接続され、この冷却水供給源から供給された冷却水が、上流側往水路C6、セグメント内往水路C4、セグメント内復水路C5、及び下流側復水路C7をこの順で流通することによって、胴体部10を含むルツボ1全体を所定の温度(被溶解金属Wとの反応温度)よりも十分低くなるように冷却することが可能である。この冷却によって、ルツボ1の内面にスカルWaを形成することが可能となっている。なお、下流側復水路C7の下流端から排出された冷却水は、適宜の回収部に回収される。水以外の各種液体(ゲル状のものも含む)及び気体を冷却流体として用いても構わない。
【0025】
各セグメント2のうちルツボ1の胴体部10を構成する周壁部22は、図3及び図4図3は、周壁部22の所定高さ位置で水平面に沿って切断した図を模式的に示すものであり、図4は、セグメント2を所定の高さ位置で水平面に沿って切断した図を模試的に示すものであり、図3及び図4では周壁部22の切断面に付すべき平行斜線を省略している)に示すように、部分円弧状の内周面22a及び外周面22bと、外周面22b及び内周面22aの両端同士をそれぞれ結ぶ側面22c,22dとによって平面形状が規定されるものである。周壁部22の外周面22b及び内周面22aの円弧の角度は、ルツボ1の胴体部10をセグメント2によって円周方向に分割する数、つまりセグメント2の数で360(一周360°)を除した値から、縦スリット3の周方向の寸法分を引いた値に略等しい角度である。
【0026】
本実施形態では、縦スリット3を閉塞する絶縁材4として、アルミナ、ジルコニア、イットリア等のセラミック耐火材を適用している。図1乃至図3では、縦スリット3を閉塞する絶縁材4を、所定のパターンを付して示している。縦スリット3を閉塞する絶縁材4は、絶縁性及び耐火性を有するものであればよく、縦スリット3に充填したモルタル等の非誘導性材料、または縦スリット3に配置した所定膜厚の絶縁性薄膜等を絶縁材として適用することが可能である。
【0027】
このような構成により、ルツボ1の胴体部10において隣接するセグメント2同士を電気的に絶縁し、誘導加熱コイルHで発生した磁束をルツボ1内に効率良く導入することができるとともに、縦スリット3を通じた溶湯Wbの浸入を防止している。
【0028】
ここで、本実施形態におけるセグメント2うち縦長形状の周壁部22は、図3及び図4に示すように、水冷通路C1よりも径方向内側の領域を形成する内周壁部22Aと、水冷通路C1よりも径方向外側の領域を形成する外周壁部22Bと、内周壁部22Aと外周壁部22Bの間の領域を形成し且つ円周方向に水冷通路C1を跨いで対向する2つの側壁部22C,22Dとに区別して捉えることが可能である。そして、本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xは、周壁部22のうち外周壁部22Bにのみセグメント2の外部から水冷通路C1に連通する開放部24を形成し、この開放部24を、周壁部22のうち開放部24以外の部分(内周壁部22Aの全部、両側壁部22C,22Dの全部、及び外周壁部22Bのうち開放部24を除く部分)よりも電気抵抗率が高い水密材25によって閉塞している。具体的には、外周壁部22Bのうち周方向中央部分に、セグメント2の外部から水冷通路C1に連通する開放部24を形成し、この開放部24に水密材25を隙間無く配置している。
【0029】
開放部24及び水密材25は、少なくとも周壁部22の胴体部10の外周に配置した誘導加熱コイルHと対向する高さ寸法に設定されている。電気的に絶縁で水密な材料としては、ゴム、合成樹脂、セラミック、非磁性ステンレス等を挙げることができ、これらの材料のうち適宜選択した材料から水密材25を形成している。本実施形態において、セグメント2のうちルツボ1の胴体部10を構成する周壁部22は、内周壁部22Aの全部、両側壁部22C,22Dの全部、及び外周壁部22Bのうち開放部24を除く部分を同じ素材から一体に形成したものである。したがって、周壁部22は、水冷通路Cを周回する方向において所定部分のみが開放部24によって分断されたものであると捉えることができる。なお、図1乃至図4では、水密材25を、前述の絶縁材4とは異なる所定のパターンを付して示している。
【0030】
また、本実施形態では、内周壁部22A及び外周壁部22Bの径方向の厚みと、各側壁部22C,22Dの円周方向の厚みを、誘導加熱コイルHによって作られる磁場の浸透深さ(電磁誘導の浸透深さ)未満の厚みに設定している。誘導加熱コイルHによってセグメント2に発生し得る渦電流は、誘導加熱コイルHによって作られる磁場によって誘導されてセグメント2内部に流れる電流である。誘導加熱コイルHによって作られる磁場の浸透深さδは、セグメント2を構成する材料(内周壁部22Aの全部、両側壁部22C,22Dの全部、及び外周壁部22Bのうち開放部24を除く部分を構成する材料)の抵抗率ρと、誘導加熱コイルHに印加する電流の周波数(誘導加熱コイルHの周波数)fと、セグメント2を構成する材料(内周壁部22Aの全部、両側壁部22C,22Dの全部、及び外周壁部22Bのうち開放部24を除く部分を構成する材料)の透磁率μとの関係において、以下の式1の関係を有することから、当該関係に基づいて、内周壁部22A及び外周壁部22Bの径方向の厚みと、両側壁部22C,22Dの円周方向の厚みを適宜の値に設定すればよい。
δ=√{2・ρ/(ω・μ)} なお、ω=2πf …式1
【0031】
架台Kは、図1に示すように、軸中心をルツボ1の軸中心に一致させた円筒形の柱状部K1と、柱状部K1の上端部からルツボ1の径方向外側に向かって突出する状態に設けられた鍔部K2とを備えている。鍔部K2の上面にルツボ1(セグメント2の取付部23)を載置した状態で、ボルトB及びナットNを用いてルツボ1を架台Kに固定している。この固定状態において、柱状部K1の内部空間、及び鍔部K2とセグメント2の底部21との間にそれぞれセグメント2の水冷通路C1に連通する空間が形成され、これらの空間に、セグメント2の空洞部C2内に配置した内パイプC3の下端に連続し且つ相互に連通する水平姿勢のパイプC8及び起立姿勢のパイプC9を配置している。
【0032】
誘導加熱コイルHは、胴体部10の外周面22bから所定距離離れた位置において胴体部10を取り巻くように螺旋状に配置され、任意の周波数の交流電力を出力可能な図示しない電源装置に接続されている。電源装置から誘導加熱コイルHに対して交流電力を供給する通電状態では、コイルHの周囲に交番磁場を発生させ、この交番磁場をルツボ1に収容された被溶解金属Wに浸透させて誘導加熱する。
【0033】
被溶解金属Wとしては、純銅や銅合金の他、金、銀、アルミニウム、これら各金属の合金等の大きな熱伝導率を有した金属を挙げることができ、鉄やコバルト、チタン、ニッケル、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、ウラン、希土類金属、トリウム、これらの合金等を挙げることもできる。
【0034】
このような本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xによれば、塊状や粉状の被溶解金属Wをルツボ1内に投入し、各セグメント2の水冷通路C1に冷却水を供給した状態で、誘導加熱コイルHに電源装置から交流電力を供給することによって、誘導加熱コイルHの周囲に交番磁場が生成され、その磁束が縦スリット3を通過してルツボ1の内側に透過することによって、被溶解金属Wに浸透し、被溶解金属Wを誘導加熱することができる。これにより、被溶解金属Wは、図1に示すように、溶融温度に昇温した表面側から溶解して溶湯Wbとなり、ルツボ1の底面壁に向かって流れ落ちる。そして、ルツボ1の底面壁に到達した溶湯Wbは、冷却手段Cによって適切な冷却状態に維持されているルツボ1により冷却されて凝固し、皿状に冷却固化したスカルWaを形成する。
【0035】
ここで、スカルWaが所定以上の厚みとなって冷却手段Cによるルツボ1の冷却能力よりも誘導加熱による加熱能力が上回ると、スカルWa上に溶湯Wbが滞留していくことになる。そして、滞留する溶湯Wbの量が増加すると、溶湯Wbが交番磁場と誘導電流との相互作用および重力の作用を受けることによって、周辺部から中央部にかけて盛り上がったドーム形状の外形を呈しながら撹拌されることになる。このような事象により、被溶解金属Wは、図1に示すように、ルツボ1の底面や内周面22aに沿って深皿状に形成されたスカルWaと、その上に滞留した状態の溶湯Wbとに分離した状態になり、ルツボ1を傾動させる等の適宜の方法で溶湯Wbをルツボ1から取り出すことができる。なお、スカルWa上に多量の溶湯Wbを形成して維持するためには、ルツボ1の溶湯Wbに対する抜熱量よりも大きな熱量で溶湯Wbが加熱されるように、誘導加熱コイルHへの電力供給を継続する必要がある。
【0036】
ところで、従来のコールドクルーシブル溶解炉Xであれば、投入電力のうち30%程度が、ルツボ1の誘導加熱による損失となる。これは、誘導加熱コイルHに高周波電流を通電すると、各セグメント2内において、図6及び図7に示すように、平面視において水冷通路C1を周回するような誘導電流(図6及び図7で電流方向を矢印で示す渦電流)が発生し、損失を起こすことが主な原因である。そして、投入電力の損失が大きいほど、溶解電力が低下し、ルツボ1内の被溶解金属Wへの電力投入割合(溶解効率)が悪くなる。
【0037】
一方、本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xでは、各セグメント2のうちルツボ1の胴体部10を構成する周壁部22として、ルツボ1の外部から水冷通路C1に連通する開放部24を周壁部22の一部(外周壁部22B)に形成し、この開放部24を、内周壁部22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25によって閉塞したものを適用している。このような本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xによれば、ルツボ1の外部から水冷通路C1に連通するように形成した開放部24を、周壁部22のうち水冷通路C1よりも径方向内側の領域を形成する内周壁部22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25によって閉塞しているため、各セグメント2内において水冷通路C1を周回する渦電流が流れる事態を防止・抑制することができる。その結果、ルツボ1の誘導加熱による投入電力の損失を大幅に低減することができ、溶解効率が向上する。
【0038】
特に、本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xでは、内周壁部22A及び外周壁部22Bの径方向の厚みと、各側壁部22C,22Dの円周方向の厚みを、誘導加熱コイルHによって作られる磁場の浸透深さ(電磁誘導の浸透深さ)未満の厚みに設定しているため、セグメント2内に発生する渦電流を低減することができ、ルツボ1の誘導加熱による投入電力の損失の更なる低減化、及び溶解効率の更なる上昇を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉Xによれば、開放部24を内周壁22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25で閉塞することによって、水冷通路C1から開放部24に冷却水などの冷却媒体が漏れる事態を防止して、良好な水冷機能を確保することができ、セグメント2の周壁部22が異常に加熱される事態も防止・抑制することができ、ルツボ1に対する冷却手段Cの良好な冷却性能を発揮させることができ、ルツボ1の熱変形防止も同時に実現することができる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、ルツボ1の外部から水冷通路C1に連通する開放部24を周壁部22の外周壁部22Bにのみ形成し、この開放部24を、内周壁部22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25によって閉塞した態様を例示したが、図5(a)に示すように、ルツボ1の外部から水冷通路C1に連通する開放部24を、周壁部22の外周壁部22B、両側壁部22C,22Dにそれぞれ形成し、各開放部24を、内周壁部22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25によって閉塞した構成を採用することもできる。
【0041】
また、本発明では、図5(b)に示すように、両側壁部22C,22Dにのみ開放部24を形成し、各開放部24を、内周壁部22Aよりも電気抵抗率が高い水密材25によって閉塞した構成であっても構わない。なお、水冷通路の平面形状は、図4及び図5(a)に示す円形以外の形状、例えば図5(b)に示す四角形状であってもよい。
【0042】
さらにはまた、セグメントの周壁部のうち内周壁部を除く他の壁部、つまり、外周壁部及び両側壁部に相当する部分全体を連続する1つの開放部に設定し、この開放部を内周壁部よりも電気抵抗率が高い水密材によって閉塞した構成を採用することもできる。この場合、内周壁部と、水密材とによって囲まれる領域に水冷通路が確保されることになる。
【0043】
本発明において、開放部の形状や数は適宜選択・変更することができ、開放部の形状に応じた水密材を適用することで、開放部を適切に閉塞することが可能である。例えば、外周壁部や両側壁部の少なくとも1つの壁部に2つ以上の開放部を形成し(例えば外周壁部において周方向に離間した複数位置にそれぞれ開放部を形成し)、各開放部を水密材で閉塞する構成を採用してもよい。
【0044】
また、内周壁部及び外周壁部の径方向の厚みや、各側壁部の円周方向の厚みよりも薄い浸透深さで誘導加熱が行われるように、高周波電力の周波数を設定してもよい。
【0045】
また、セグメントとして、ルツボの底面壁を構成する底部を備えていないものを適用することも可能であり、この場合、ルツボの胴体部の内径より僅かに小さい直径に設定された底板を、ルツボの胴体部に対して上下動可能に配置すればよい。
【0046】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…ルツボ
10…胴体部
2…セグメント
22A…内周壁部
22B…外周壁部
22C,22D…側壁部
24…開放部
25…水密材
3…縦スリット
4…絶縁材
C1…水冷通路
H…誘導加熱コイル
X…コールドクルーシブル溶解炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7