【課題】出湯ノズルのうち開口径を大きく設定せざるを得ない出湯流路の上流端近傍付近に存在するスカルを通る磁束密度が、出湯流路の下流端近傍に存在するスカルを通る磁束密度よりも小さくなる構成を回避して、所期の出湯処理を適切に行うことが可能な出湯ノズルを提供する。
【解決手段】ルツボ2の底部に形成された開口部22Aに取り付けられる出湯ノズル部4は、互いに電気的に絶縁された複数のセグメント6を円周方向に並べた状態で配置した集合体であって且つ内部に被溶解金属Wの出湯流路41を有するものであり、各セグメント6の内周面を、テーパ面6aと、テーパ面6aの下端から鉛直方向に延伸するストレート面6bとによって形成し、各セグメント6のうち出湯ノズル部4の上端部を形成する部分の外周端6eに、セグメント開口部6Aを形成した底部出湯ノズル1にした。
前記セグメント開口部が、円周方向に隣り合う一方の前記セグメントに対向する面から、円周方向に隣り合う他方のセグメントに対向する面に亘って連続して形成されている請求項1に記載の底部出湯ノズル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、出湯ノズル部の内部に形成されている出湯流路は、上流端である導入口から下方に向かって開口径を減少する逆円錐状の上流側壁面と、上流側壁面の下端から下流端である流出口まで同じ開口径に設定された円柱状の下流側壁面から構成されている。
【0006】
このような出湯流路が内部に形成されている出湯ノズル部の外周に出湯用誘導加熱コイルを配置した構造において、出湯流路の開口径の大きさによって出湯流路内のスカルを通る磁束密度に差が生じ、出湯流路の開口径が大きいほど当該部分における磁束密度が小さくなる。したがって、開口径を大きく設定せざるを得ない出湯流路の上流端近傍における磁束密度は、出湯流路の下流端近傍における磁束密度よりも小さくなり、出湯流路の上流端近傍付近における加熱が弱く、当該部分のスカルが溶け残ったり、スカルを加熱溶融させてから出湯開始までの時間が掛かるという問題があった。
【0007】
そこで、出湯流路の上流端近傍付近のスカルを溶融できる加熱を実現すべく、誘導加熱コイルに供給する電力を増大した場合、出湯流路の下流端近傍付近のスカルが、より一層加熱されることにより、当該部分のスカルだけが先に融液となって落下し、加熱対象物が消失する事態が生じ、所期の出湯処理を適切に行うことでできない事態に陥る。
【0008】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、主たる目的は、出湯ノズル部のうち開口径を大きく設定せざるを得ない出湯流路の上流端近傍付近における磁束密度が、出湯流路の下流端近傍における磁束密度よりも大幅に小さくなる構成を回避して、所期の出湯処理を適切に行うことが可能な底部出湯ノズル、及びそのような底部出湯ノズルをルツボの底部に取り付けた底部出湯ノズル型溶解炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、有底筒状のルツボのうち底部に形成された開口部に取り付けられる出湯ノズル部と、出湯ノズル部の外周に配置された誘導加熱コイルとを備えた底部出湯ノズルに関するものである。そして、本発明に係る底部出湯ノズルは、互いに電気的に絶縁された複数のセグメントを円周方向に並べた状態で配置した集合体である出湯ノズル部を備え、出湯ノズルの内部に被溶解金属の出湯流路が形成された構成において、各セグメントの内周面を、当該セグメントの上端から下方に向かって出湯ノズル部の軸芯に漸次近寄る方向に傾斜させたテーパ面と、テーパ面の下端から当該セグメントの下端に亘って鉛直方向に延伸するストレート面とによって形成し、各セグメントのうち、出湯ノズル部の上端部を形成する部分の外周端部に、少なくとも円周方向に隣り合う他のセグメントに向かって開放されたセグメント開口部を形成していることを特徴としている。ここで、本発明における出湯流路の形状は、各セグメントの内周面によって規定されるものである。したがって、セグメントを円周方向に並べた状態において、各セグメントのテーパ面とストレート面によって形成される出湯流路は、上流端である導入口から下方に向かって開口径が漸次減少する逆円錐状の上流側壁面と、上流側壁面の下端から下流端である流出口に亘って同一の開口径に設定された円柱状の下流側壁面とを有する流路になる。
【0010】
そして、本発明に係る底部出湯ノズルであれば、セグメントの上端部に、少なくとも円周方向に隣り合う他のセグメントに向かって開放されたセグメント開口部が形成されていない構成と比較して、誘導加熱コイルに供給する電力を増大させるといった特別な電力制御や複雑な構造を必須とすることなく、各セグメントのうち出湯流路の上流端に近い部分においてセグメント開口部に磁束を導くことで磁束密度を増大させることができ、出湯流路の上流端近傍付近で被溶解金属が凝固することによって生じるスカルが溶け残る事態を防止・抑制することが可能であり、誘導加熱コイルに対する電力供給開始時点から出湯開始までの時間の短縮化を図ることもでき、適切な出湯処理を実施することができる。
【0011】
本発明において、各セグメントのうち出湯流路の上流端に近い部分における磁束密度の増大化を図ることが可能な構成として、セグメント開口部が、円周方向に隣り合う一方のセグメントに対向する面から、円周方向に隣り合う他方のセグメントに対向する面に亘って連続して形成されている構成(セグメントの全周に亘ってセグメント開口部が形成されている構成)や、セグメント開口部に磁性体を配置している構成を挙げることができる。
【0012】
出湯ノズル部の外周において誘導加熱コイルを配置することが設計上または構造上不可能である場合、当然のことながら出湯ノズル部のうち誘導加熱コイルが配置されない部分の磁束密度は小さくなる傾向になる。このような事態に対処すべく、本発明では、各セグメントのうち出湯ノズル部の上端部を形成する部分の外周端部であって且つ誘導加熱コイルの最外周端よりも外側の所定領域にセグメント開口部を形成した構成を採用することができる。このような構成によれば、出湯ノズル部を構成するセグメントのうち誘導加熱コイルによる加熱が設計上相対的に弱くなってしまう部分における磁束密度を増大させることができ、当該部分において被溶解金属(スカル)の溶け残りが発生する事態を防止・抑制することが可能であり、適切な出湯処理を行うことができる。
【0013】
特に、出湯ノズル部が、ルツボの底部に形成された開口部に対応する外形状を有する鍔部を上端部に有するものである場合、ルツボの開口部に、出湯ノズル部の上端部に設けた鍔部を嵌合した状態で当該出湯ノズル部をルツボの底部に取り付けることが可能である。このような構成において、鍔部の外周に誘導加熱コイルを配置することは物理的に不可能である。そこで、各セグメントのうち鍔部を形成する鍔形成部の外周端部にセグメント開口部を形成することによって、各セグメントのうち外周に誘導加熱コイルを配置することができない部分における磁束密度を増大させることができる。
【0014】
また、本発明に係る底部出湯ノズル型溶解炉は、有底筒状のルツボと、ルツボの底部に形成された開口部に取り付けた上述の底部出湯ノズルとを備えていることを特徴としている。このような本発明に係る底部出湯ノズル型溶解炉によれば、底部出湯ノズルに関する上述の構成による作用効果を得ることができ、適切な出湯処理を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明では、セグメントの上端部に、少なくとも円周方向に隣り合う他のセグメントに向かって開放されたセグメント開口部を形成した構成を採用したことによって、出湯ノズル部の上部外周付近の磁束密度を増大することができ、開口径を大きく設定せざるを得ない出湯流路の上流端近傍付近に存在する被溶解金属を通る磁束密度が、出湯流路の下流端近傍に存在する被溶解金属を通る磁束密度よりも大幅に小さくなる構成を回避して、所期の出湯処理を適切に行うことが可能な底部出湯ノズル、及びそのような底部出湯ノズルをルツボの底部に取り付けた底部出湯ノズル型溶解炉を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る底部出湯ノズル1は、
図1に示すように、被溶解金属W(溶解対象物)を収容する炉本体であるルツボ2の底部に設けられるものである。また、本実施形態に係る誘導加熱溶解炉Xは、少なくとも底部出湯ノズル1及びルツボ2を備えた底部出湯ノズル型溶解炉である。
【0019】
ルツボ2は、円筒形状の側面壁21と、側面壁21に連続する平板状の底面壁22とによって規定される内部空間に、チタン等の被溶解金属Wを収容することが可能なものである。これらの側面壁21及び底面壁22は、互いに電気的に絶縁された縦割り状をなす導電性のセグメント23を円周方向に継ぎ合わせることにより形成されている。なお、円周方向に隣り合うセグメント23同士の絶縁状態は、セグメント23同士の間に絶縁部材を介装したり、セグメント23同士を離隔することで確保することができる。セグメント23同士の間に配置する絶縁部材としては、アルミナ、ジルコニア、イットリア等のセラミック耐火材を挙げることができる。なお、
図1では、セグメント23同士の隙間であるスリット(絶縁部材を含む)を省略している。このような構成により、ルツボ2を構成するセグメント23同士を電気的に絶縁し、ルツボ2の周囲に配置した誘導加熱コイル3で発生した磁束をルツボ2内に効率良く導入することができる。
【0020】
各セグメント23は、内部に図示しない水冷通路を備えており、この水冷通路に水などの冷却媒体を流通させることによってルツボ2を冷却するように構成されている。各セグメント23は、電気伝導率及び熱伝導率に優れ、熱衝撃に強く、必要な機械的強度を有するとともに、水冷通路に冷却媒体を流通させることによってスカルWa(
図1参照)を形成するために必要な高熱伝導率を有する材料、例えば、銅、または、クロム銅、ベリリウム銅、ジルコニウム銅、クロムジルコニウム銅、テルル銅等の金属材料により形成されたものである。特に、銅系材料であれば、ルツボ2を真空槽の内部に設置して真空雰囲気中、または減圧雰囲気中で被溶解金属Wの溶解を行う場合に酸化物を形成しないため、酸化金属等の耐火物と比較して有利である。また、被溶解金属Wとしては、チタンの他、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、ウラン、希土類金属、トリウム、或いはこれらの合金から選ばれる金属からなる反応性金属を挙げることができる。
【0021】
ルツボ2の底面壁22に設けられている底部出湯ノズル1は、
図1及び
図2に示すように、ルツボ2の底面壁22に形成された開口部22Aに取り付けられる出湯ノズル部4と、出湯ノズル部4の外周に配置された出湯用誘導加熱コイル5(本発明の「誘導加熱コイル」に相当)とを備えたものである。
【0022】
出湯ノズル部4は、ルツボ2の内部空間に連通する出湯流路41を内部空間に有するものである。出湯流路41は、中空状の流路であり、
図2に示すように、上流端である導入口42から下方に向かって開口径が漸次減少する逆円錐状(中空逆円錐状)の上流側壁面43と、上流側壁面43の下端から下流端である流出口44に向かって開口径が同一である円柱状(中空円筒状)の下流側壁面45とによって仕切られる流路である。このような出湯流路41を内部に有する漏斗状の出湯ノズル部4は、内周面に出湯流路41の上流側壁面43を有する中空逆円錐状の導入口側領域46と、内周面に出湯流路41の下流側壁面45を有する中空円筒状の流出口側領域47とに区別することができる。そして、本実施形態に係る底部出湯ノズル1は、導入口側領域46の上端部に、底面壁22の開口部22Aに対応する外形状を有する鍔部48を設けている。
【0023】
ここで、本実施形態においてルツボ2の底面壁22に形成された開口部22Aは、
図1に示すように、底面壁22の外周端と中心点との間の所定位置において、最上位位置から最下位置までの範囲に亘って円柱状の壁面を有するように形成された円形の貫通孔(丸孔)である。したがって、鍔部48の外形状(外壁面の形状)は、この開口部22Aに対応する形状、つまり円柱状である。
【0024】
また、本実施形態では、鍔部48の高さ寸法を開口部22Aの高さ寸法とほぼ一致させる一方で、鍔部48の外径(直径)を開口部22Aの開口径よりも僅かに小さい値に設定し、鍔部48を開口部22A内に収めた状態(嵌合状態)において、鍔部48の外壁面481と開口部22Aの壁面の間に所定の隙間が形成されるように設定している(
図2参照)。本実施形態では、この隙間を適宜の絶縁材によって密閉している。なお、鍔部48の下向き面に、鍔部48の外壁面481よりも外方に向かって突出する突出部49を設け、突出部49をルツボ2の下向き面に下方から押し当てた状態で出湯ノズル部4をルツボ2の開口部22Aに取り付けて固定している(
図2参照)。本実施形態では、突出部49を円周方向に所定ピッチで複数設けている。なお、突出部49として、鍔部48と同様に出湯流路41を周回するリング状に設定することもできる。また、突出部49は、鍔部48に一体に形成されたものであってもよいし、鍔部48とは別体のものであってもよい。
【0025】
出湯ノズル部4は、互いに電気的に絶縁された複数のノズルセグメント6(本発明の「セグメント」に相当)を円周方向に並べた状態で配置した集合体である。つまり、出湯ノズル部4は、ルツボ2と同様に、縦割り状をなす複数の導電性のノズルセグメント6を円周方向に相互に電気的に絶縁して継ぎ合わせることにより形成されている。なお、円周方向に隣り合うノズルセグメント6同士の絶縁状態は、ノズルセグメント6同士の隙間であるスリット6S(
図2参照)に絶縁部材を介装したり、ノズルセグメント6同士をスリット6Sを介して離隔することで確保することができる。各ノズルセグメント6は、出湯ノズル部4の導入口側領域46及び流出口側領域47の一部(導入口側領域46全体のうち円周方向における所定領域、及び流出口側領域47全体のうち円周方向における所定領域)を構成するように形成されている。そして、各ノズルセグメント6の内周面によって、出湯流路41の形状が規定される。具体的に、本実施形態では、各ノズルセグメント6の内周面を、当該ノズルセグメント6の上端から下方に向かって出湯ノズル部4の軸芯4C(
図2参照)に漸次近寄る方向に傾斜させたテーパ面6aと、テーパ面6aの下端から当該ノズルセグメント6の下端に亘って鉛直方向(軸芯方向)に延伸するストレート面6bとによって形成している。したがって、テーパ面6aを出湯ノズル部4の軸芯4C周りに複数並べることで、出湯流路41のうち、上流端である導入口42から下方に向かって開口径が漸次減少する逆円錐状(中空逆円錐状)の上流側壁面43が形成され、ストレート面6bを出湯ノズル部4の軸芯4C周りに複数並べることで、上流側壁面43の下端から下流端である流出口44に向かって開口径が同一である円柱状(中空円筒状)の下流側壁面45が形成される。
【0026】
また、各ノズルセグメント6は、内部に図示しない水冷通路を備えており、この水冷通路に水などの冷却媒体を流通させることによって出湯ノズル部4を冷却するように構成されている。出湯ノズル部4を構成するノズルセグメント6は、ルツボ2を構成するセグメント23と同様に、電気伝導率及び熱伝導率に優れ、熱衝撃に強く、必要な機械的強度を有するとともに、水冷通路に冷却媒体を流通させることによってスカルWa(
図1参照)を形成するために必要な高熱伝導率を有する材料、例えば、銅、または、クロム銅、ベリリウム銅、ジルコニウム銅、クロムジルコニウム銅、テルル銅等の金属材料により形成されたものである。
【0027】
本実施形態に係る誘導加熱溶解炉Xは、ルツボ2のうち側面壁21の外周に誘導加熱コイル3を設け、この誘導加熱コイル3に溶解用電源31を接続しているとともに、出湯ノズル部4の外周に、当該出湯ノズル部4の外壁面に沿って出湯用誘導加熱コイル5を配置し、出湯用誘導加熱コイル5に、出湯を制御するための交流電力を出力する出湯用電源51を接続している。
【0028】
そして、本実施形態に係る底部出湯ノズル1は、出湯ノズル部4を構成するノズルセグメント6として、
図2及び
図3に示すように、ノズルセグメント6のうち出湯ノズル部4の鍔部48を形成する鍔形成部61に、円周方向に隣り合う他のノズルセグメント6に向かって開放されたセグメント開口部6Aを有するものを適用している。具体的には、鍔形成部61のうち外周端6eから外周端6e近傍部分に亘ってセグメント開口部6Aを形成している。各ノズルセグメント6は、円周方向において他のノズルセグメント6に挟まれた状態にある。ここで、各ノズルセグメント6のうち、隣り合う一方のセグメント23に対向する面を第1セグメント対向面62とし、隣り合う他方のノズルセグメント6に対向する面を第2セグメント対向面63とすると、本実施形態のセグメント開口部6Aは、第1セグメント対向面62から第2セグメント対向面63に亘って連続して形成されたものである。また、本実施形態のセグメント開口部6Aは、下方及び外方(径方向外側)にもそれぞれ開放されている。
【0029】
本実施形態では、セグメント開口部6Aに磁性体64を配置しており、具体的にはセグメント開口部6Aを磁性体64によって閉塞している。磁性体64は、例えばフェライト等の透磁率が高い材料から形成されたもの(強磁性体)であり、接着等の適宜の手段によってセグメント開口部6Aに固定されている。磁性体64は、セグメント開口部6Aの形状に応じた外形状を有する中実のものである。本実施形態では、セグメント開口部6Aと磁性体64の間に隙間が形成されないように設定している。なお、フェライト以外のもの、例えば電磁鋼板によって形成した磁性体を適用することも可能である。
【0030】
このような構成を有する底部出湯ノズル1をルツボ2の底部に設けた底部出湯ノズル型溶解炉Xによって、ルツボ2内の被溶解金属Wを溶解する場合には、ルツボ2の外周側に配置した誘導加熱コイル3に溶解用電源31から交流電力を供給することによって、誘導加熱コイル3の周囲に交番磁場が生成され、その磁束がルツボ2のスリットを通過してルツボ2の内側に侵入することによって、被溶解金属Wに浸透し、被溶解金属Wを誘導加熱することができる。これにより、被溶解金属Wは、
図1に示すように、溶融温度に昇温した表面側から溶解して溶湯Wbとなり、ルツボ2の底面壁22に向かって流れ落ちる。そして、ルツボ2の底面壁22に到達した溶湯Wbは、冷却手段によって適切な冷却状態に維持されているルツボ2により冷却されて凝固し、皿状に冷却固化したスカルWaを形成する。
【0031】
ここで、スカルWaが所定以上の厚みとなって冷却手段(水冷通路)によるルツボ2の冷却能力よりも誘導加熱による加熱能力が上回ると、スカルWa上に溶湯Wbが滞留していくことになる。そして、滞留する溶湯Wbの量が増加すると、溶湯Wbが交番磁場と誘導電流との相互作用および重力の作用を受けることによって、周辺部から中央部にかけて盛り上がったドーム形状の外形を呈しながら撹拌されることになる。このような事象により、被溶解金属Wは、
図1に示すように、ルツボ2内において、ルツボ2の底面や内周面に沿って深皿状に形成されたスカルWaと、その上に滞留した状態の溶湯Wbとに分離した状態になり、所定のタイミングで底部出湯ノズル1を利用して溶湯Wbをルツボ2から取り出すことができる。
【0032】
具体的には、ルツボ2内部で溶解された溶湯Wbが、所定の溶融状態に達した時点で、出湯用電源51から高周波電力を出湯用誘導加熱コイル5に適宜供給すると、この高周波電力により出湯用誘導加熱コイル5周囲に交番磁場が生成され、この交番磁場は、出湯ノズル部4の出湯流路41内のスカルWaによる薄い凝固層(浸透深さ)に渦電流を流す。これにより、この薄い凝固層での電流密度が高いため、出湯流路41の壁面(逆円錐状の上流側壁面43、円柱状の下流側壁面45)に凝固している被溶解金属W(スカルWa)が表面から加熱され、凝固層が薄くなることにより出湯が可能な状態となる。
【0033】
ところで、従来の底部出湯ノズルであれば、出湯流路の上流端近傍付近における加熱が弱く、当該部分のスカルが溶け残ったり、スカルを加熱溶融させて出湯開始までの時間が掛かるという問題があった。これは、出湯流路が内部に形成されている出湯ノズル部の外周に出湯用誘導加熱コイルを配置した構造において、出湯流路のうち開口径が大きい上流端に近いほど当該部分における磁束密度が、出湯流路の下流端近傍の磁束密度よりも小さくなっていることが主な原因である。
【0034】
本実施形態に係る底部出湯ノズル1では、このような問題点を解決すべく、出湯ノズル部4を構成する各ノズルセグメント6のうち出湯ノズル部4の出湯流路41の上流端近傍部分を形成する部分、つまり各ノズルセグメント6の上端部に、第1セグメント対向面62及び第2セグメント対向面63に向かって開放されたセグメント開口部6Aを形成した構成を採用している。これにより、ノズルセグメント6の上端部に第1セグメント対向面62及び第2セグメント対向面63に向かって開放されたセグメント開口部6Aが形成されていない構成と比較して、セグメント開口部6Aに磁束を導くことができる分だけ各ノズルセグメント6のうち出湯流路41の上流端に近い部分における磁束密度を増大させることができ、出湯用誘導加熱コイル5に供給する電力を増大させることなく、出湯流路41の上流端近傍付近でスカルWaが溶け残る事態を防止・抑制することが可能であり、出湯用誘導加熱コイル5に対する電力供給開始時点から出湯開始までの時間の短縮化を図ることもでき、適切な出湯処理を実施することができる。
【0035】
特に、出湯部ノズル部4が、ルツボ1の底部に形成された開口部22Aに、出湯ノズル部4の上端部に設けた鍔部48を嵌合した状態でルツボ1の底部に取り付けられるものである場合、鍔部48の外周に出湯用誘導加熱コイル5を配置することは物理的に不可能である。その結果、各ノズルセグメント6のうち、鍔部48の外壁面481に近い部分に相当する部分における磁束密度は小さくなる傾向になる。しかしながら、本実施形態に係る底部出湯ノズル1では、各ノズルセグメント6のうち、鍔出湯ノズル部4の鍔部48を形成する鍔形成部61の外周端6eにセグメント開口部6Aを形成しているため、各ノズルセグメント6のうち外周に出湯用誘導加熱コイル5を配置することが物理的に不可能な部分における磁束密度を増大させることができ、出湯流路41の上流端近傍付近でスカルWaが溶け残る事態を防止・抑制することが可能である。
【0036】
加えて、本実施形態に係る底部出湯ノズル1では、各ノズルセグメント6のうち鍔形成部61の外周端6eを含む所定領域であって且つ出湯用誘導加熱コイル5の最外周端よりも外側の所定領域にセグメント開口部6Aを形成しているため、ノズルセグメント6のうち出湯用誘導加熱コイル5による加熱が設計上相対的に弱くなってしまう部分における磁束密度を増大させることが可能であり、当該部分においてスカルWaが溶け残る事態を防止・抑制することができ、適切な出湯処理を行うことができる。
【0037】
さらに、本実施形態に係る底部出湯ノズル1では、第1セグメント対向面62から第2セグメント対向面63に亘って連続して開放されたセグメント開口部6Aを適用しているため、各ノズルセグメント6の鍔形成部61の外周端部全域に、セグメント開口部6Aを形成した構成になり、第1セグメント対向面62から第2セグメント対向面63に亘って連続して開放されていないセグメント開口部6Aを適用した構成(セグメント開口部6Aを鍔形成部61の外周端部全域に形成されていない構成)と比較して、各ノズルセグメント6のうち出湯流路41の上流端近傍部分における磁束密度のさらなる増大化を図ることができる。
【0038】
加えて、本実施形態に係る底部出湯ノズル1では、透磁率の高い磁性体64をセグメント開口部6Aに配置し、具体的には磁性体64によって開口部6Aを閉塞しているため、出湯用誘導加熱コイル5の周囲に生成され交番磁場の磁束が、磁気抵抗が小さい磁性体64を通ることになり、磁性体64に磁束を集めることにより、各ノズルセグメント6のうち出湯流路41の上流端近傍部分における磁束密度をより一層増大化させることができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、第1セグメント対向面62から第2セグメント対向面63に亘って連続して開放されたセグメント開口部6Aを適用した態様を例示したが、
図4に示すように、各ノズルセグメント6の鍔形成部61に、第1セグメント対向面62、第2セグメント対向面63にそれぞれ個別にセグメント開口部6A(相互に連通していないセグメント開口部)を形成し、各セグメント開口部6Aを磁性体64によって閉塞した構成を採用することもできる。
【0040】
また、
図5及び
図6に示すように、セグメント開口部6Aを磁性体64によって閉塞せずに開放させた状態にしておく構成を採用しても構わない。なお、
図5は、上述の実施形態に示すノズルセグメント6のセグメント開口部6Aを磁性体64で閉塞せずに開放させた構成を示す図であり、
図6は、
図4に示すノズルセグメント6のセグメント開口部6Aを磁性体64で閉塞せずに開放させた構成を示す図である。
【0041】
また、各ノズルセグメントにおける第1セグメント対向面、第2セグメント対向面の何れか一方の面にのみ開放されたセグメント開口部を有するノズルセグメントであってもよい。
【0042】
さらにまた、ノズルセグメントの上端部における外周端よりも所定距離内方に寄った部分である外周端近傍にセグメント開口部を形成した構成を採用することも可能である。この場合、セグメント開口部は、外方に向かって開放されていない開口部となり、ノズルセグメントの上端部における外周端部(外周端近傍部分)に形成されたものである。
【0043】
本発明では、ノズルセグメントの上端部における外周端部(外周端近傍部分)に、3以上のセグメント開口部を円周方向に沿って間欠的に形成した構成を適用することもできる。
【0044】
本発明において、セグメント開口部の形状や数は適宜選択・変更することができ、セグメント開口部の形状に応じた磁性体を用いることで、セグメント開口部を適切に閉塞することが可能である。もちろん、セグメント開口部を磁性体で閉塞することなくセグメント外に開放された開口部にしてもよい。
【0045】
出湯ノズル部をルツボの底部に取り付けた状態において、出湯ノズルの上端部における外周端(外壁面)と、ルツボの底部に形成されている開口部が隙間無く接触して短絡するように構成することも可能である。
【0046】
また、本発明に係る底部出湯ノズルは、コールドクルーシブル溶解炉以外にも、耐火物溶解炉、プラズマ溶解炉、電子ビーム溶解炉、アーク溶解炉、抵抗加熱溶解炉、太陽光溶解炉等、種々の溶解炉に適用することができる。
【0047】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。