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特開2017-194428腫瘍部位の判別方法、腫瘍部位の判別装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-194428(P2017-194428A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】腫瘍部位の判別方法、腫瘍部位の判別装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20170929BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
   G01N21/64 Z
   A61B10/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-86381(P2016-86381)
(22)【出願日】2016年4月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、経済産業省、医工連携事業化推進事業「手術室内でリンパ節がん転移の迅速診断を可能にする診断支援システムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高松 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 義規
(72)【発明者】
【氏名】南川 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】大河内 健吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祥行
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043AA04
2G043BA14
2G043CA05
2G043DA01
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA06
2G043GA04
2G043GB28
2G043HA02
2G043HA09
2G043JA02
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA05
2G043LA03
2G043MA01
2G043NA05
(57)【要約】
【課題】同定用の色素が存在することによって、ポルフィリン類から発せられる蛍光の強度に対する影響を考慮しながら、従来よりも腫瘍部位の判別を正確に行うことのできる方法及び装置を実現する。
【解決手段】 本発明は、励起光を前記検体に照射してポルフィリン類を励起する工程と、検体から発せられる蛍光のうち、色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複しない第一波長帯の光を分光検出して第一画像情報を取得する工程と、検体から発せされる蛍光のうち、第一波長帯よりも長波長側の光であって、色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複せず、ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルとも実質的に重複しない第二波長帯の光を分光検出して第二画像情報を取得する工程と、第一画像情報と第二画像情報とに基づいて、ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に対応した第三画像情報を取得する工程とを有する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同定用の色素を含有する腫瘍部位及び自家蛍光部位を含む検体の、前記腫瘍部位に蓄積されたポルフィリン類に励起光を照射して、励起後の前記ポルフィリン類が発する蛍光を検出する腫瘍部位の判別方法であって、
前記励起光を前記検体に照射して前記ポルフィリン類を励起する工程(a)と、
前記検体から発せられる蛍光のうち、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複しない第一波長帯の光を分光検出し、前記第一波長帯の光の強度分布に対応した第一画像情報を取得する工程(b)と、
前記検体から発せされる蛍光のうち、前記第一波長帯よりも長波長側の光であって、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複せず、前記ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルとも実質的に重複しない第二波長帯の光を分光検出し、前記第二波長帯の光の強度分布に対応した第二画像情報を取得する工程(c)と、
前記第一画像情報と前記第二画像情報とに基づいて、前記ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に対応した第三画像情報を取得する工程(d)と、
前記第三画像情報に基づいて腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行う工程(e)とを有することを特徴とする腫瘍部位の判別方法。
【請求項2】
前記工程(d)は、
前記第二画像情報に基づいて、前記工程(b)で取得された前記第一波長帯の光のうち、前記自家蛍光部位から発せられた蛍光強度を演算により推定する工程(d1)と、
前記第一画像情報から、前記(d1)で推定された蛍光強度に関する情報を差し引く工程(d2)とを有することを特徴とする請求項1に記載の腫瘍部位の判別方法。
【請求項3】
前記工程(d)は、前記第一画像情報に対応したデータIs1、前記第二画像情報に対応したデータIs2、予め定められた係数Aを用いて、下記式(1)で算出された値Ipをもって前記第三画像情報を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の腫瘍部位の判別方法。
p = Is1−A・Is2‥‥‥(1)
【請求項4】
前記ポルフィリン類がプロトポルフィリン類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の腫瘍部位の判別方法。
【請求項5】
前記プロトポルフィリン類がプロトポルフィリンIXであり、
前記工程(b)において、波長700nm近傍の蛍光を分光検出し、
前記工程(c)において、波長740nm近傍の蛍光を分光検出することを特徴とする請求項4に記載の腫瘍部位の判別方法。
【請求項6】
前記色素が、インジゴカルミン、メチレンブルーのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の腫瘍部位の判別方法。
【請求項7】
同定用の色素を含有する腫瘍部位及び自家蛍光部位を含む検体の、前記腫瘍部位に蓄積するポルフィリン類に励起光を照射して、励起後の前記ポルフィリン類が発する蛍光を検出する腫瘍部位の判別装置であって、
前記励起光を発する光源部と、
前記検体から発せられる蛍光のうち、所定の波長帯の光を分光して検出する受光部と、
前記受光部で受光された光の強度に基づいて、腫瘍部位と非腫瘍部位の判別を行う演算処理部とを有し、
前記受光部は、前記検体から発せられる蛍光のうち、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複しない第一波長帯の光、及び、前記第一波長帯よりも長波長側の光であって、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複せず、前記ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルとも実質的に重複しない第二波長帯の光を分光して検出することが可能な構成であることを特徴とする腫瘍部位の判別装置。
【請求項8】
前記演算処理部は、
前記受光部で分光して検出された前記第一波長帯の光の強度分布に対応した第一画像情報を作成し、
前記受光部で分光して検出された前記第二波長帯の光の強度分布に対応した第二画像情報を作成し、
前記第一画像情報と前記第二画像情報とに基づいて、前記ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に対応した第三画像情報を作成し、
前記第三画像情報に基づいて腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行うことを特徴とする請求項7に記載の腫瘍部位の判別装置。
【請求項9】
前記第一波長帯の光を透過させる第一フィルタと、
前記第二波長帯の光を透過させる第二フィルタとを備え、
前記受光部は、
前記検体から発せられる蛍光のうち前記第一フィルタを透過した光を受光することで前記第一波長帯の光を分光して検出し、
前記検体から発せられる蛍光のうち前記第二フィルタを透過した光を受光することで前記第二波長帯の光を分光して検出する構成であることを特徴とする請求項7又は8に記載の腫瘍部位の判別装置。
【請求項10】
前記検体と前記受光部の間の光路上において、前記第一フィルタと前記第二フィルタとを切り替えて配置可能に構成されたフィルタ切替部を備えたことを特徴とする請求項9に記載の腫瘍部位の判別装置。
【請求項11】
前記ポルフィリン類がプロトポルフィリン類であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の腫瘍部位の判別装置。
【請求項12】
前記プロトポルフィリン類がプロトポルフィリンIXであり、
前記第一波長帯が700nm近傍であり、
前記第二波長帯が740nm近傍であることを特徴とする請求項11に記載の腫瘍部位の判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍部位の判別方法及び腫瘍部位の判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の日本は急速な高齢化社会を迎えており、癌の患者数は増加傾向にある。特に、胃癌や大腸癌などの消化器癌や、乳癌においてリンパ節転移は重要な予後因子の一つであり、患者の治療方法を決定する上でリンパ節転移の有無を正確に診断することは非常に重要である。センチネルリンパ節とは、原発巣から離れた癌細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のことをいう。センチネルリンパ節にたどり着く癌細胞の数は当初は限定的であるため、センチネルリンパ節を調べて癌細胞の転移が極めて少なければ、それから先のリンパ節にはほぼ転移していないと考えてよいとされている。
【0003】
術中迅速診断の一つの手法として、例えば特許文献1に開示されるように、消化器領域を含めた幅広い領域で、癌の検出に5−アミノレブリン酸(5−ALA)を用いて蛍光観察を行う手法が応用されている。5−ALAは、生体内にも存在するアミノ酸の一種であり、水溶性で経口的、局所的に投与可能である。体外から5−ALAを投与すると、正常細胞ではヘムに速やかに代謝されるが、癌細胞では代謝酵素の活性の違いにより代謝産物であるプロトポルフィリンIX(PpIX)が選択的に蓄積する。ここで、ヘムは蛍光を認めない一方、PpIXは蛍光物質であるため、この光を検出することで腫瘍部位と非腫瘍部位の判別を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/002350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に乳癌においては、手術中のセンチネルリンパ節生検で転移がないと診断できた場合は、郭清領域を縮小した手術が選択される場合もある。ここで、センチネルリンパ節生検とは、手術中にセンチネルリンパ節を探し出して摘出し、このリンパ節に癌が転移していないかどうかを調べる術中迅速診断のことをいう。
【0006】
ところで、乳房の近くには多くのリンパ節が張り巡らされているため、どのリンパ節がセンチネルリンパ節であるかをそのままの状態で目視判断するのは困難である。このため、乳癌の近くに色素を局所注射し、これを目印にして手術中にセンチネルリンパ節を同定するという方法が行われている。
【0007】
ここで、この同定に用いられる色素は体内に注入されるものであるから、人体に与える影響が極力小さいものを用いることが必要とされる。また、人体の血液は赤色であることから、この赤色に交じっても視認しやすい色を発光する色素であることが好ましい。かかる観点から、一般的には青色や緑色を発光するインジゴカルミンやメチレンブルーといった色素が利用されている。
【0008】
しかしながら、上記の色素は、その吸収スペクトルが、PpIXが発する蛍光スペクトルと一部波長域において重複する。
【0009】
図1は、PpIXの蛍光スペクトルを示す図である。図1に示すように、PpIXの蛍光スペクトルは635nm近傍に急峻なピークを有しており、630nm以上640nm以下の範囲内で前記ピークの半値以上の高い光出力を示している。
【0010】
図2Aはインジゴカルミンの吸収スペクトルを示す図である。また、図2Bはメチレンブルーの吸収スペクトルを示す図である。図2Aに示すように、インジゴカルミンの吸収スペクトルは波長570nm以上670nm以下の範囲内で高い吸光度を示している。また、図2Bに示すように、メチレンブルーの吸収スペクトルは波長500nm以上700nm以下の広範囲にわたって高い吸光度を示している。
【0011】
つまり、インジゴカルミン及びメチレンブルーのいずれもが、励起されたPpIXから発せられる蛍光に含まれるピーク波長及びその周辺の波長の光を吸収してしまう。従って、PpIXから発せられる当該ピーク波長(635nm)又はその周辺の波長の光を分光して腫瘍部位の判別を行おうとしても、実際の蛍光出力よりも大幅に低い出力の光を受光することになる。
【0012】
この結果、本来であれば腫瘍部位であるはずの箇所を非腫瘍部位と誤って判断するおそれがあり、腫瘍部位を見逃してしまうことが懸念される。また、検体の一部に色素が蓄積されることも予想されるが、この場合、色素が蓄積されている腫瘍部位の箇所は蛍光出力が弱い一方、色素が蓄積されていない腫瘍部位の箇所は蛍光出力が強くなる結果、当該蛍光出力によって判別される腫瘍部位の形状が実際の腫瘍部位の形状と異なることも懸念される。いずれの場合においても、誤診のおそれが存在することから、現行の方法で腫瘍部位の判別を行うことに対しては一定の課題が存在しているといえる。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑み、同定用の色素が存在することによって、PpIXを初めとするポルフィリン類から発せられる蛍光の強度に対する影響を考慮しながら、従来よりも腫瘍部位の判別を正確に行うことのできる方法及び装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、同定用の色素を含有する腫瘍部位及び自家蛍光部位を含む検体の、前記腫瘍部位に蓄積されたポルフィリン類に励起光を照射して、励起後の前記ポルフィリン類が発する蛍光を検出する腫瘍部位の判別方法であって、
前記励起光を前記検体に照射して前記ポルフィリン類を励起する工程(a)と、
前記検体から発せられる蛍光のうち、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複しない第一波長帯の光を分光検出し、前記第一波長帯の光の強度分布に対応した第一画像情報を取得する工程(b)と、
前記検体から発せされる蛍光のうち、前記第一波長帯よりも長波長側の光であって、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複せず、前記ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルとも実質的に重複しない第二波長帯の光を分光検出し、前記第二波長帯の光の強度分布に対応した第二画像情報を取得する工程(c)と、
前記第一画像情報と前記第二画像情報とに基づいて、前記ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に対応した第三画像情報を取得する工程(d)と、
前記第三画像情報に基づいて腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行う工程(e)とを有することを特徴とする。
【0015】
ここで、本明細書内において、色素に由来する吸収スペクトルと「実質的に重複しない」波長帯とは、前記吸収スペクトルの吸光度が、当該吸収スペクトルのピーク値における吸光度に対して5%以下の極めて低い値を示す波長域を指す。また、ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルと実質的に重複しない波長帯とは、ポルフィリン類から発せられる蛍光スペクトルのうち、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複しない第一波長帯に対して、蛍光強度が5%以下の極めて低い値を示す波長域を指す。
【0016】
なお、本明細書中における「ポルフィリン類」とは、ポルフィン環に置換基がついたものを指し、例えばPpIXの他、PpIXから生成されたフォト−プロトポルフィリン(PPp)などのプロトポルフィリン類が存在する。
【0017】
ここで、前記色素としては、インジゴカルミン、メチレンブルーのいずれか一つを含むものとすることができる。これらの色素は、いずれも、人体に注入して目視によりセンチネルリンパ節を同定することが可能であって、ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルのうち、特定波長域の光をほとんど吸収しない特徴を有している。
【0018】
ところで、ヒトの生体内において、リンパ節など、検体として想定される部位は、結合組織に包まれて存在しており、これらの結合組織(脂肪やコラーゲンなど)は、青色の励起光のもとで青〜緑の波長域に強い自家蛍光を発する。この自家蛍光の波長帯は、PpIXなどのポルフィリン類から発せられる蛍光の波長帯と一部において重なり合いを有している。
【0019】
図3は、ヒト生体内に含まれる自家蛍光性を有する物質として代表的なコラーゲンとFAD(Flavin Adenine Dinucleotide:フラビンアデニンジヌクレオチド)の蛍光スペクトルを示す図面である。なお、図3では、PpIXの蛍光スペクトルを併せて図示している。
【0020】
コラーゲンは500nm近傍に蛍光のピークを有し、当該ピーク波長よりも長波長側において滑らかに蛍光強度が低下している。また、FADは530nm近傍に蛍光のピークを有し、当該ピーク波長よりも長波長側において滑らかに蛍光強度が低下している。いずれの物質においても、波長650nm近傍において、ピーク波長における蛍光強度よりは低いものの、ある程度の蛍光強度を有していることが確認される。
【0021】
図4は、上記コラーゲンやFADといった自家蛍光物質とPpIXとを含む検体の蛍光スペクトルの一例を示す図面である。図4において、(a)はPpIX単独の蛍光スペクトルを示し、(b)は自家蛍光物質由来の蛍光スペクトルを示し、(c)は実際に計測される蛍光スペクトルを示している。なお、図4において、(a)、(b)、(c)は、それぞれにおいて規格化された値でグラフ化したものを同一図面上に重ね合わせたものであり、(a)、(b)、(c)の相互間においては、グラフの縦軸の値の大小関係は必ずしも一致しない。
【0022】
PpIXの蛍光スペクトルは、図4(a)に示すように、波長635nm付近にピーク値を有している。このため、検体に自家蛍光部位が含まれていない場合においては、検体から発せられる光のうち、この波長635nm付近の光を分光して検出し、その強度分布を調べることによって、当該強度が高い部位、より詳細には所定の閾値を上回る蛍光強度を示す部位を腫瘍部位と判別することが可能である。
【0023】
しかし、実際には検体に自家蛍光部位が含まれるため、検体から発せられる光のうち、ポルフィリン類由来の蛍光の主たるピーク波長帯付近の光を分光して検出すると、自家蛍光物質由来の蛍光が重ね合わせられる。図4によれば、ポルフィリン類としてPpIXを想定する場合、波長635nm付近の光を分光して検出した場合においても、自家蛍光物質由来の蛍光が重ね合わせられることが分かる。このため、PpIXが蓄積されていない部位においても、波長635nm付近の蛍光強度が認められてしまう。自家蛍光物質由来の蛍光の強度は、検体として抽出した組織の部位によっても異なるし、個人差も有する。このため、波長635nm付近の蛍光強度が所定の閾値を上回っている部位を腫瘍部位と判別する方法を採用すると、場合によってはPpIXが蓄積されていないにもかかわらず、自家蛍光物質由来の蛍光の強度が高いという理由で、非腫瘍部位を誤って腫瘍部位と判別してしまうおそれがある。
【0024】
ところで、図3によれば、例えば730nm以上の波長帯の領域においては、FADやコラーゲンの蛍光の強度は確認されるものの、PpIXの蛍光の強度は極めて小さい。また、図2A及び図2Bを参照すれば、この波長帯の領域では、インジゴカルミンやメチレンブルーといった色素に由来する吸収スペクトルに対しても実質的に重複していない。よって、工程(c)において分光検出される蛍光の強度は、ほぼ自家蛍光物質から放射された蛍光の強度に対応すると判断できる。
【0025】
図3によれば、FADやコラーゲンの蛍光スペクトルは、波長に応じて所定の関係性を有している。図4(b)にもこの傾向が示されている。このため、工程(c)において分光検出される蛍光の強度に基づいて、ポルフィリン類由来の蛍光成分が高い波長帯における、自家蛍光由来の蛍光強度を算定することが可能である。つまり、工程(b)で得られた第一画像情報と、工程(c)で得られた第二画像情報に基づいて、ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に関する情報を取得することができる(工程(d))。
【0026】
以上のように、本発明の方法によれば、工程(d)において得られた第三画像情報は、色素による蛍光の吸収の影響と、自家蛍光部位から発せられる自家蛍光の影響とが排除された、ポルフィリン類由来の蛍光の強度分布に基づくものであるため、この情報に基づいて、従来よりも正確に腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行うことができる。
【0027】
前記工程(d)は、
前記第二画像情報に基づいて、前記工程(b)で取得された前記第一波長帯の光のうち、前記自家蛍光部位から発せられた蛍光強度を演算により推定する工程(d1)と、
前記第一画像情報から、前記(d1)で推定された蛍光強度に関する情報を差し引く工程(d2)とを有するものとしても構わない。
【0028】
なお、この工程(d1)としては、種々の方法を採用することができる。一例としては、第二波長帯の蛍光強度に対して所定の係数を乗じた値をもって、自家蛍光部位から発せられた第一波長帯の蛍光強度を算定するものとしても構わない。すなわち、工程(d)としては、前記第一画像情報に対応したデータIs1、前記第二画像情報に対応したデータIs2、予め定められた係数Aを用いて、下記式(1)で算出された値Ipをもって前記第三画像情報を取得するものとすることができる。
p = Is1−A・Is2‥‥‥(1)
【0029】
前記ポルフィリン類がプロトポルフィリン類であるものとしても構わない。更にこの前記プロトポルフィリン類をプロトポルフィリンIXとし、前記工程(b)において、波長700nm近傍の蛍光を分光検出し、前記工程(c)において、波長740nm近傍の蛍光を分光検出するものとしても構わない。
【0030】
なお、ここでいう「近傍」とは、中央値に対して±10nmの範囲内であるものとすることができ、中央値に対して±5nmの範囲内であるのがより好ましい。
【0031】
図3及び図4によれば、PpIXの蛍光スペクトルは、波長700nm近傍においてピークを有し、波長740nm近傍において、ほとんど出力を認めない。そして、700nm近傍から740nm近傍にかけて、PpIXの蛍光スペクトルは単調に減少している。そして、図2A及び図2Bによれば、波長700nm近傍、及び波長740nm近傍においては、色素の吸収スペクトルはほぼ0を示している。
【0032】
よって、工程(c)において、波長740nm近傍の光を分光することで得られた光出力は、色素による吸収の影響が排除された、自家蛍光部位から発せられた蛍光の出力である。そして、この値に基づいて、波長700nm近傍における、自家蛍光部位由来の蛍光出力を演算により算定することができる。また、工程(b)において波長700nm近傍の光を分光することで得られた光出力は、色素による吸収の影響が排除された、自家蛍光部位由来の蛍光と、PpIX由来の蛍光とが重ね合わされたものである。よって、上で算定された、波長700nm近傍における自家蛍光部位由来の蛍光出力と、工程(b)において検出された、波長700nm近傍の蛍光出力の値に基づいて、波長700nm近傍のPpIX由来の蛍光出力が算定される。この値の大小によって、腫瘍部位と非腫瘍部位の判別を行うことができる。
【0033】
また、本発明は、同定用の色素を含有する腫瘍部位及び自家蛍光部位を含む検体の、前記腫瘍部位に蓄積するポルフィリン類に励起光を照射して、励起後の前記ポルフィリン類が発する蛍光を検出する腫瘍部位の判別装置であって、
前記励起光を発する光源部と、
前記検体から発せられる蛍光のうち、所定の波長帯の光を分光して検出する受光部と、
前記受光部で受光された光の強度に基づいて、腫瘍部位と非腫瘍部位の判別を行う演算処理部とを有し、
前記受光部は、前記検体から発せられる蛍光のうち、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複しない第一波長帯の光、及び、前記第一波長帯よりも長波長側の光であって、前記色素に由来する吸収スペクトルと実質的に重複せず、前記ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルとも実質的に重複しない第二波長帯の光を分光して検出することが可能な構成であることを特徴とする。
【0034】
受光部によって分光検出された第一波長帯の光の強度は、検体に含まれる自家蛍光部位から発せられた蛍光と、ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度に基づくものであり、色素による吸収がほとんど又は全く存在しない。また、受光部によって分光検出された第二波長帯の光の強度は、検体に含まれる自家蛍光部位から発せられた蛍光の強度に基づくものであり、色素による吸収がほとんど又は全く存在しない。よって、受光部によって得られた、第二波長帯の光の強度に基づいて、第一波長帯の光のうち、自家蛍光部位由来の光強度を認定することができる。これにより、色素による蛍光の吸収の影響と、自家蛍光部位から発せられる自家蛍光の影響とが排除された、ポルフィリン類由来の蛍光の強度分布が得られる。よって、本装置によれば、この情報に基づいて、従来よりも正確に腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行うことができる。
【0035】
ここで、前記判別装置は、前記第一波長帯の光を透過させる第一フィルタと、
前記第二波長帯の光を透過させる第二フィルタとを備え、
前記受光部は、
前記検体から発せられる蛍光のうち前記第一フィルタを透過した光を受光することで前記第一波長帯の光を分光して検出し、
前記検体から発せられる蛍光のうち前記第二フィルタを透過した光を受光することで前記第二波長帯の光を分光して検出する構成であるものとしても構わない。
【0036】
上記の構成において、前記検体と前記受光部の間の光路上において、前記第一フィルタと前記第二フィルタとを切り替えて配置可能に構成されたフィルタ切替部を備えるものとしても構わない。
【0037】
ここで、前記色素としては、インジゴカルミン、メチレンブルーのいずれか一つを含むものとすることができる。
【0038】
前記演算処理部は、
前記受光部で分光して検出された前記第一波長帯の光の強度分布に対応した第一画像情報を作成し、
前記受光部で分光して検出された前記第二波長帯の光の強度分布に対応した第二画像情報を作成し、
前記第一画像情報と前記第二画像情報とに基づいて、前記ポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に対応した第三画像情報を作成し、
前記第三画像情報に基づいて腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行うものとしても構わない。
【0039】
具体的な一例として、ポルフィリン類をプロトポルフィリン類としても構わない。更にこの前記プロトポルフィリン類をプロトポルフィリンIXとし、前記受光部が、波長700nm近傍の蛍光、及び波長740nm近傍の蛍光を、それぞれ分光検出可能に構成されることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の腫瘍部位の判別方法及び装置によれば、同定用の色素による蛍光の吸収の影響と、自家蛍光部位由来の蛍光が重畳することによる影響とを極力排除することができるため、従来と比べてより正確に腫瘍部位の判別が行える。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】PpIXの蛍光スペクトルを示す図である。
図2A】インジゴカルミンの吸収スペクトルを示す図である。
図2B】メチレンブルーの吸収スペクトルを示す図である。
図3】コラーゲン、FADの自家蛍光スペクトルと、PpIXの蛍光スペクトルを重ね合わせた図面である。
図4】自家蛍光物質及びPpIXを含む検体の蛍光スペクトルの一例を示す図面である。
図5】腫瘍部位判別装置の外観の一例を模式的に示す図である。
図6】腫瘍部位判別装置の内部構成の一例を模式的に示すブロック図である。
図7A】第一フィルタFs1を介して受光された画像情報Is1の一例である。
図7B】第二フィルタFs2を介して受光された画像情報Is2の一例である。
図7C】ROI画像の一例である。
図8】誤差eと係数Aの関係を示すグラフである。
図9A】第一フィルタFs1を介して受光された画像情報Is1の一例である。
図9B】第二フィルタFs2を介して受光された画像情報Is2の一例である。
図9C】演算処理部によって生成された画像情報Ipの一例である。
図10A】第一フィルタFs1を介して受光された画像情報Is1の一例である。
図10B】第二フィルタFs2を介して受光された画像情報Is2の一例である。
図10C】演算処理部によって生成された画像情報Ipの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の腫瘍部位判別装置の構成につき、図面を参照して説明する。なお、各図において図面の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しない。
【0043】
図5は、前記装置の外観の一例を模式的に示す図面である。また、図6は、前記装置の内部構成の一例を模式的に示すブロック図である。なお、図5及び図6は、腫瘍部位判別装置の一例を示す図面である。
【0044】
図5に示すように、腫瘍部位判別装置10(以下、適宜「装置10」と呼ぶことがある。)は、ホルダ装着口11及び表示部12を備える。ホルダ装着口11は、検体2(図5では不図示、図6参照)が収容された検体用ホルダ1を装着するための機構である。また、表示部12は、腫瘍部位判別装置10によって、腫瘍部位と非腫瘍部位とが判別された結果が表示されるモニタに対応する。なお、ここでは、腫瘍部位判別装置10の本体に表示部12が設けられている構成を示しているが、装置10の本体には表示部12を備えずに、別のモニタに判別結果を表示させる構成を採用しても構わない。
【0045】
検体2は、所定の色素によって同定された、腫瘍部位の判別を行う対象となる生検材料(例えばセンチネルリンパ節を含む生体組織)である。なお、色素については後述される。また、この生検材料は、腫瘍部位が含まれていれば当該部位にポルフィリン類が蓄積されるよう、予め所定の措置が施されている。一例としては、この生検材料は、人体に5−ALAを投与した後に摘出されたものとすることができる。
【0046】
図6に示すように、装置10は、光源部21、フィルタ22、ダイクロイックミラー23、対物レンズ24、フィルタ切替部25、受光部26、演算処理部27を備える。なお、図6には、図5にならって、装置10が表示部12を備えている構成が図示されている。
【0047】
光源部21は、例えば水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ等のランプの他、発光ダイオード素子、レーザダイオード素子等で構成することができる。フィルタ22は、光源部21から射出された光のうち、特定の波長の光を選択的に透過させる機能を有し、例えば誘電体多層膜などで構成することができる。ここでは、フィルタ22が、波長405nmの光を選択的に透過させる機能を有するものとして説明するが、ポルフィリン類を励起することのできる特定の波長帯の光を選択的に透過させる機能を有していればよい。
【0048】
ダイクロイックミラー23は、所定の波長帯の光を反射させ、別の所定の波長帯の光を透過させる機能を有し、例えば誘電体多層膜などで構成することができる。ここでは、ダイクロイックミラー23が、波長405nmの光を反射し、波長690nm以上の光を透過する機能を有するものとして説明する。なお、このダイクロイックミラー23は、フィルタ22によって選択された波長の光を反射し、少なくとも検体2から発せられた蛍光の波長のうち、検体2に付着している色素によってほとんど吸収されない波長帯の光を透過する機能を有していればよい。
【0049】
光源部21から射出され、フィルタ22を透過した波長405nmの励起光31は、ダイクロイックミラー23で反射されて対物レンズ24に導かれる。そして、対物レンズ24を通過した光が、検体用ホルダ1を透過して検体2に照射される。検体2にポルフィリン類の一例であるPpIXが蓄積されていると、この波長405nmの励起光31によってPpIXが励起され、蛍光32を発する。励起光31を検体2に照射して、検体2に蓄積されていたPpIXを励起する工程が、工程(a)に対応する。
【0050】
蛍光32は、検体用ホルダ1を透過して、励起光とは逆向きに進行し、対物レンズ24へと導かれる。そして、ダイクロイックミラー23を透過してフィルタ切替部25へと向かう。
【0051】
本実施形態において、フィルタ切替部25は、検体2と受光部26との間の光路上において、第一フィルタFs1、及び第二フィルタFs2の2つのフィルタを切り替えて配置できるように構成されている。各フィルタ(Fs1,Fs2)は、それぞれ所定の波長帯の光を選択的に透過させる機能を有し、いずれもバンドパスフィルタや誘電体多層膜などの光学フィルタで構成されることができる。なお、フィルタの数は2に限られず、3以上のフィルタを光路上に切り替えながら設置できる構成としても構わない。
【0052】
第一フィルタFs1は、検体2に付着している色素によってほとんど吸収されない波長帯であって、且つ、検体2に含まれるポルフィリン類から発せられる蛍光の出力が認められる波長帯の光(「第一波長帯」の光)を透過させる機能を有する。好ましくは、第一波長帯として、検体2に付着している色素によってほとんど吸収されない波長帯であって、且つ、ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルにおいてピーク値を示す波長を含むのが好ましい。一例として、第一フィルタFs1は、波長700nm近傍の光を選択的に透過させる機能を有する。
【0053】
第二フィルタFs2は、検体2に付着している色素によってほとんど吸収されず、検体2に含まれるポルフィリン類から発せられる蛍光の出力がほとんど認められず、且つ、検体2に含まれる自家蛍光部位から発せられる自家蛍光の出力が認められる波長帯の光(「第二波長帯」の光)を透過させる機能を有する。第二波長帯は、第一波長帯よりも長波長側に設定される。一例として、第二フィルタFs2は、波長740nm近傍の光を選択的に透過させる機能を有する。
【0054】
受光部26は、フィルタ切替部25において設定されているフィルタ(Fs1,Fs2)を透過した各蛍光32を受光する。受光部26は、検体2上の位置に応じた蛍光強度を演算処理部27に出力する。より具体的には、受光部26は、第一フィルタFs1を介して受光した蛍光32(以下、「蛍光Ls1」と記載する。)を受光し、検体2上の位置に応じた蛍光Ls1の強度分布に対応した画像情報Is1(「第一画像情報」に対応)を演算処理部27に出力する。受光部26が画像情報Is1を演算処理部27に出力する工程が、工程(b)に対応する。
【0055】
同様に、受光部26は、第二フィルタFs2を介して受光した蛍光32(以下、「蛍光Ls2」と記載する。)を受光し、検体2上の位置に応じた蛍光Ls2の強度分布に対応した画像情報Is2(「第二画像情報」に対応)を演算処理部27に出力する。受光部26が画像情報Is2を演算処理部27に出力する工程が、工程(c)に対応する。この画像情報Is2は、検体2に含まれる自家蛍光部位から発せられた自家蛍光に由来する蛍光強度分布に依存する。
【0056】
記憶部28には、第二波長帯における自家蛍光部位からの蛍光出力に基づいて、第一波長帯における自家蛍光部位からの蛍光出力を推定するための演算式が記憶されている。一例として、画像データIs2に係数Aを乗じることで、第一波長帯における自家蛍光部位からの蛍光出力を推定することができる。この場合、記憶部28には係数Aの値が記憶されているものとすればよい。
【0057】
演算処理部27は、例えば、以下の式(1)に基づく演算をすることで、検体2に含まれるポルフィリン類から発せられた蛍光の強度分布に対応した画像情報Ip(「第三画像情報」に対応)を算定する。演算処理部27が画像情報Ipを算出する工程が、工程(d)に対応する。
p = Is1−A・Is2 ‥‥(1)
【0058】
この画像情報Ipは表示部12に出力される。これにより、検体2の位置に応じたポルフィリン類由来の蛍光強度が画像情報として表示される。例えば、この表示された画像を確認することで、検体2に腫瘍部位が存在するか否かを判定することができると共に、また検体2に腫瘍部位が存在する場合には、検体2内の腫瘍部位が存在する場所を特定することができる。この判定処理が工程(e)に対応する。
【0059】
また、演算処理部27が、画像情報Ipに基づいて検体2に腫瘍部位が存在するか否かの判定まで行うものとしても構わない。例えば、演算処理部27は、画像情報Ipに基づいて、各位置別の蛍光強度が所定の閾値を上回っているか否かを判定する。そして、演算処理部27は、蛍光強度が所定の閾値を上回っている箇所が腫瘍部位であり、蛍光強度が前記所定の閾値以下である箇所が非腫瘍部位であると判別する。この判定処理が工程(e)に対応する。
【0060】
表示部12は、演算処理部27から送られた腫瘍部位の座標情報に基づいて、例えば検体2の画像上の所定の位置に腫瘍部位であることを示すマークや発色を施した画像情報を表示するものとしても構わない。また、演算処理部27において腫瘍部位と判別された領域が存在しない場合には、表示部12がその旨の情報を表示するものとしても構わない。
【0061】
検査員は、表示部12を目視で確認することで、検体2に腫瘍部位が存在するか否か、及び腫瘍部位が存在している場合にはその存在箇所を容易に認識することができる。また、例えば装置10に操作ボタンを設け、検体2が収容されたホルダ1を装置10に装着して当該操作ボタンを押下すると光源部21から励起光が射出される仕組みとすることで、装置10によって検体2の腫瘍部位の判別処理を自動的に行わせることができる。これにより、検査員のスキルによる判断結果のバラツキが解消すると共に、病理医による判断も不要となる。
【0062】
上記処理によって生成された画像情報Ipは、検体2から発せられた蛍光32の強度分布であって、色素による吸収の影響と、自家蛍光部位から発せられた蛍光の影響とが排除された光の強度分布に対応する。よって、装置10によれば、この画像データIpに基づいて腫瘍部位と非腫瘍部位の判別を行うことができるため、従来と比較して、誤判別のおそれを大幅に低減できる。
【0063】
[実施例]
以下、実施例について説明する。
【0064】
<準備工程>
(ステップS1)
5−ALAを投与していないマウスのリンパ節を検体2とし、光源部21から405nmの励起光31を照射した。
【0065】
(ステップS2)
第一フィルタFs1を介して受光部26で蛍光32を受光し、第二フィルタFs2を介して受光部26で蛍光32を受光した。第一フィルタFs1としては、中心波長700nm、半値全幅13nmのフィルタを採用した。第二フィルタFs2としては、中心波長740nm、半値全幅13nmのフィルタを採用した。第一フィルタFs1を介して受光された画像情報を図7Aに、第二フィルタFs2を介して受光された画像情報を図7Bに示す。
【0066】
(ステップS3)
ステップS2で得られた2つの画像情報に基づき、検体2におけるリンパ節上の領域を関心領域(ROI:Region of Intereset)として定義する。このROI画像を、図7Cに示す。
【0067】
(ステップS4)
ステップS3で得られたROI画像情報に基づき、上記(1)式の係数Aを0以上3以下の範囲内で、0.01刻みで変更した際の誤差eを下記(2)式に基づいて計算し、eが最も小さくなるAを決定する。なお、下記式(2)において、nは検体2が存在する領域の画素数である。
【0068】
【数1】
【0069】
ステップS4で得られた誤差eとAの関係は図8のようになり、A=2.64のときに誤差eが最小値を示した。
【0070】
(ステップS5)
ステップS4で得られた係数Aの値(この例ではA=2.64)を記憶部28に記憶させる。
【0071】
<実施例1>
5−ALAを投与していないマウスの別のリンパ節を検体2を準備し、第一フィルタFs1を介して受光部26で蛍光32を受光し、第二フィルタFs2を介して受光部26で蛍光32を受光した。第一フィルタFs1を介して受光部26で受光された蛍光32に基づく画像情報Is1と、第二フィルタFs2を介して受光部26で受光された蛍光32に基づく画像情報Is2とに基づき、演算処理部27において、記憶部28に記憶されている係数Aの値を読み出すと共に上記(1)式による演算処理を行って、画像情報Ipを生成した。このとき、図9Aが画像情報Is1に対応し、図9Bが画像情報Is2に対応し、図9Cが画像情報Ipに対応する。
【0072】
図9Aによれば、画像情報Is1に蛍光強度が強い部分が存在するが、5−ALAを導入していないことから、この強い蛍光は自家蛍光部位由来の蛍光である。図9Cに示されている画像情報Ipは、図9Aと比較すると蛍光強度の強い領域が取り除かれており、画像全体が極めて低い強度となっている。これにより、本手法によって、700nm近傍の蛍光において、自家蛍光の影響を軽減可能であることが確認できた。
【0073】
<実施例2>
5−ALAを投与したマウスの別のリンパ節を検体2を準備し、実施例1と同様の手順で処理を行った。図10Aが画像情報Is1に対応し、図10Bが画像情報Is2に対応し、図10Cが画像情報Ipに対応する。
【0074】
図10Aに示される画像情報Is1は、自家蛍光部位由来の蛍光と、ポルフィリン類由来の蛍光とが含まれる。図10Cに示される画像情報Ipによれば、自家蛍光部位由来の蛍光成分が除去されているため、この画像情報に基づいて、腫瘍部位の判別が可能である。
【0075】
[別実施形態]
以下において、別実施形態について説明する。
【0076】
〈1〉 上述した実施形態では、同定のために利用される色素がインジゴカルミン又はメチレンブルーである場合について説明した。しかし、色素として、他の物質を用いるものとしても構わない。好ましくは、色素は、人体に注入して目視により同定することが可能であって、ポルフィリン類から発せられる蛍光のスペクトルのうち、主たるピーク波長近傍の光に対する吸光度が高い反面、次点のピーク波長近傍の光に対する吸光度が極めて低い性質を有する。
【0077】
〈2〉 上述したように、図5及び図6に示した装置1の構成はあくまで一例であって、上記と同様の方法が実現可能であれば、その構成には拘泥されない。
【0078】
例えば、ダイクロイックミラー23は、装置10を小型化するために、励起光31と蛍光32の光路を一部共通化することを目的として設けられている。つまり、光源部21から射出された励起光が検体2に照射されると共に、検体2から発せられる光が受光部26で受光される構成であれば、ダイクロイックミラー23は必ずしも必要ではない。また、フィルタ22は光源部21と一体化されていても構わない。同様に、フィルタ切替部25は受光部26と一体化されていても構わない。
【0079】
〈3〉 上記の方法では、式(1)に基づいて、演算処理部27が、第一波長帯の光のうちの、自家蛍光部位から発せられた蛍光強度を推定するものとしたが、この演算方法はあくまで一例であり、この方法に限られない。
【符号の説明】
【0080】
1 : 検体用ホルダ
10 : 腫瘍部位判別装置
11 : ホルダ装着口
12 : 表示部
21 : 光源部
22 : フィルタ
23 : ダイクロイックミラー
24 : 対物レンズ
25 : フィルタ切替部
26 : 受光部
27 : 演算処理部
28 : 記憶部
31 : 励起光
32 : 蛍光
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C