(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-194847(P2017-194847A)
(43)【公開日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】雪崩・落石のモニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
G08B 21/10 20060101AFI20170929BHJP
G01V 9/00 20060101ALI20170929BHJP
E01F 7/04 20060101ALN20170929BHJP
【FI】
G08B21/10
G01V9/00 B
E01F7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-84918(P2016-84918)
(22)【出願日】2016年4月21日
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】下井 信浩
(72)【発明者】
【氏名】佐野 康
(72)【発明者】
【氏名】西條 雅博
(72)【発明者】
【氏名】石塚 理
【テーマコード(参考)】
2D001
2G105
5C086
【Fターム(参考)】
2D001PA05
2D001PA06
2D001PC03
2D001PD06
2D001PD10
2D001PF11
2G105AA01
2G105BB03
2G105EE01
2G105HH04
5C086AA14
5C086CA02
5C086CA24
5C086CB20
5C086EA08
5C086EA11
5C086FA11
5C086GA01
(57)【要約】
【課題】商用電源を要することなく、かつ設置および保守管理が容易な簡易な設備によって高い予測確度を得ることができる雪崩・落石のモニタリングシステムを提供する。
【解決手段】斜面に設置されて雪崩および/または落石の予兆を検知するためのモニタリングシステムであって、上記斜面に設置された木製の柵1と、この柵1に設けられて当該柵の変形を感知した際に電圧を発生する圧電素子を備えたセンサ10、26と、センサが発した上記電圧が設定値以上となった際に目視可能に表示する表示手段25、39とを備えてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に設置されて雪崩および/または落石の予兆を検知するためのモニタリングシステムであって、
上記斜面に設置された木製の柵と、この柵に設けられて当該柵の変形を感知した際に電圧を発生する圧電素子を備えたセンサと、このセンサから発せられた上記電圧が設定値以上になった際に信号を発する制御手段と、この制御手段からの上記信号により点灯する表示手段とを備えてなることを特徴とする雪崩・落石のモニタリングシステム。
【請求項2】
上記柵は、上記斜面の傾斜方向と交差する方向に間隔をおいて立設された複数本の縦柵および上記縦柵間に横架された複数本の横木からなる柵部材と、当該柵部材を上記傾斜方向に上記斜面上に支持する複数本の支柱とからなることを特徴とする請求項1に記載の雪崩・落石のモニタリングシステム。
【請求項3】
上記センサは、上記柵部材と上記支柱との間に取り付けられる支持部材と、この支持部材に、当該支持部材がその形状を保持している状態において変形不能に、かつ当該支持部材が破損した際に変形可能に取り付けられた圧電素子とを備えてなり、上記支持部材は、予め設定した荷重以上の荷重が上記柵部材から作用した際に上記破損を生じる強度に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の雪崩・落石のモニタリングシステム。
【請求項4】
上記センサは、頭部と軸部を備え軸方向に貫通する軸孔が形成された頭部側部材と、軸部のみからなり基端から先端に向かう軸孔が形成された先端側部材とが、軸方向に間隔をおいて配置され、これら頭部側部材と先端側部材の軸孔にピエゾケーブルを内蔵するセンサロッドが挿通され、上記頭部側部材と上記先端側部材とが上記センサロッドの両端部で結合されて全体がボルト形状に一体化されてなり、上記頭部側部材および上記先端側部材のいずれか一方が上記縦柵に固定され、他方が上記横木に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の雪崩・落石のモニタリングシステム。
【請求項5】
表示手段は、上記柵の上部に固定されて上記センサが発した上記電圧が設定値以上となった際に点灯する照明器具であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の雪崩・落石のモニタリングシステム。
【請求項6】
表示手段は、上記柵に設けられて上記センサが発した上記電圧が設定値以上となった際に信号を無線送信する発信手段と、この発信手段から発せられた上記信号を受信して上記柵の位置とともに表示するモニタとを備えてなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の雪崩・落石のモニタリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪崩や落石のおそれがある斜面に設置されて、その予兆となる異常の発生を検知するための雪崩・落石のモニタリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然災害の一種である上記雪崩や落石等は、ライフラインの破壊、人命の損失あるいは物流の停滞等の地域経済にとって大きな損失に繋がる危険性をはらんでいることから、近年、このような災害の発生を事前に予知可能な各種のモニタリングシステムが開発されている。
【0003】
例えば、落石を検知するための従来のモニタリングシステムとしては、道路脇に設置した鋼鉄製の柵や斜面に設置して落石を受け止めるための鋼鉄製の落石防止柵等に、加速度計等の振動検知器を設置し、当該加速度計からの検知信号に基づいて、落石の有無をモニタリングするものが知られている。
【0004】
また、下記特許文献1においては、雪崩の監視装置として、雪崩の起き易い山間部等の傾斜面に、内部に傾きから衝撃的加速度を検出するジャイロセンサが組み込まれた複数個の検出器を適宜の距離をおいて埋設し、これら各検出器側からの検出データを基地局に伝送して、データ処理手段により各測定ポイントの検出データをリアルタイムで処理して各測定ポイントの基準加速度値を超えたデータを求め、得られた各データをもとに雪崩発生の可能性または雪崩発生の有無とその規模を判定するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−182168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の雪崩や落石のモニタリングシステムにあっては、いずれも設備として大掛かりになるため設置コストや保守管理コストが嵩むとともに、商用電源による電源供給が必須になるという問題点があった。加えて、自然環境による厳しい雰囲気下に長期間設置されるものであるために、検知機やセンサの誤作動が発生し易く、予測確度を高めることが難しいという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、商用電源を要することなく、かつ設置や保守管理が容易な簡易な設備によって高い確度で雪崩や落石の予兆現象を検知することができる雪崩・落石のモニタリングシステムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、斜面に設置されて雪崩および/または落石の予兆を検知するためのモニタリングシステムであって、上記斜面に設置された木製の柵と、この柵に設けられて当該柵の変形を感知した際に電圧を発生する圧電素子を備えたセンサと、このセンサから発せられた上記電圧が設定値以上になった際に信号を発する制御手段と、この制御手段からの上記信号により点灯する表示手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記柵は、上記斜面の傾斜方向と交差する方向に間隔をおいて立設された複数本の縦柵および上記縦柵間に横架された複数本の横木からなる柵部材と、当該柵部材を上記傾斜方向に上記斜面上に支持する複数本の支柱とからなることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記センサは、上記柵部材と上記支柱との間に取り付けられる支持部材と、この支持部材に、当該支持部材がその形状を保持している状態において変形不能に、かつ当該支持部材が破損した際に変形可能に取り付けられた圧電素子とを備えてなり、上記支持部材は、予め設定した荷重以上の荷重が上記柵部材から作用した際に上記破損を生じる強度に形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記センサは、頭部と軸部を備え軸方向に貫通する軸孔が形成された頭部側部材と、軸部のみからなり基端から先端に向かう軸孔が形成された先端側部材とが、軸方向に間隔をおいて配置され、これら頭部側部材と先端側部材の軸孔にピエゾケーブルを内蔵するセンサロッドが挿通され、上記頭部側部材と上記先端側部材とが上記センサロッドの両端部で結合されて全体がボルト形状に一体化されてなり、上記頭部側部材および上記先端側部材のいずれか一方が上記縦柵に固定され、他方が上記横木に固定されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、表示手段は、上記柵の上部に固定されて上記センサが発した上記電圧が設定値以上となった際に点灯する照明器具であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、表示手段は、上記柵に設けられて上記センサが発した上記電圧が設定値以上となった際に信号を無線送信する発信手段と、この発信手段から発せられた上記信号を受信して上記柵の位置とともに表示するモニタとを備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜6のいずれかに記載の発明によれば、木製の柵に、過度の変形が生じた際に自ら電圧を発生する圧電素子を用いたセンサを設置しているために、商用電源を用いることなく、かつ保守管理も容易な簡易な設備によって、雪崩の予兆現象となる柵への荷重の増加や、落石の予兆現象となる小規模な細石の柵への衝突によって生じた柵の振動を圧電素子が発する電圧によって検知することができる。
【0015】
しかも、上記柵として木製のものを用いているために、鋼材を用いた場合と比較して、山間部における運搬や斜面への設置に大型の重機等を必要とせず、また木材は加工性に優れるために、極めて容易に現地において設置することができるとともに、雪崩や落石の予兆となる雪止めの荷重の増加や小径の落石の衝撃といった僅かな荷重の変化も敏感に察知することができる。
【0016】
したがって、上記柵を斜面の複数箇所に設置しておくことにより、上記圧電素子が発した電圧によって、上述した雪崩や落石の予兆現象となる小規模な異常の発生を表示装置に目視可能に表示させることにより、容易かつ高い精度で異常の発生箇所をリアルタイムに発見することができ、この結果、災害の事前対策の迅速化や減災を図ることができる。
【0017】
ここで、上記棚を構成する木材としては、現地での入手が容易であり、しかも経済的でもある間伐材が好適である。また、上記柵の形状としては、設置場所の状況に併せて、柵型の他に三角枠工を用いることができるが、請求項2に記載の発明のように棚型のものを用いれば、上記予兆の後に発生した雪崩や落石の阻止材としても有効に機能させることが可能になる。さらに、上記棚型を用いた場合に、木材の変形を促進させるような計測支援用の加工を施せば、落石等の予兆現象となる小規模な異常の発生を検知することが可能になる。
【0018】
また、上記柵に設置する圧電素子を用いたセンサとして、請求項3に記載の発明のようなリミット型の変位センサを用いれば、柵が受ける積雪の荷重が雪崩の予兆となる程まで増加して上記柵の変形量が設定値以上に大きくなった際に、初めて圧電素子における変形が生じて電圧を発生することにより雪崩の予兆を検知することができる。
【0019】
この場合には、積雪による柵部材から作用する荷重を高い精度で検出して、上記設定値において上記センサの支持部材が確実に破損するように、上記支持部材を柵部材と支柱との間に取り付けることが好ましい。
【0020】
他方、上記圧電素子を用いたセンサとして、請求項4に記載の発明のように、圧電素子を内包したボルト型の歪みセンサを用いれば、上記柵に落石(土石流を含む。)の予兆現象である細石の頻繁な衝突によって励起された振動を圧電素子が発する電圧によって検知することができ、よって検出された電圧の値の閾値を予め設定しておくことにより、落石の予兆現象となる異常の発生を検知することができる。
【0021】
この場合には、柵に生じた振動を高い精度で検出するために、上記センサの頭部側部材および先端側部材のいずれか一方を上記縦柵に固定し、他方を上記横木に固定することが好ましい。
【0022】
また、上記圧電素子から発せられた電圧によって雪崩や落石の予兆となる異常が検知された際に、これを表示する表示手段としては、様々な形態を採用することができる。
例えば、請求項5に記載の発明のように柵の上部にライト等の照明器具を設ければ、その箇所を目視によって直接的に把握することができる。
【0023】
これに対して、請求項6に記載の発明にように、上記センサからの信号を棚に設けた発信手段から無線送信して遠隔地にあるモニタに上記棚の位置とともに表示させるようにすれば、広い範囲の傾斜に設置した棚の状況を集中的にモニタリングすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】
図1のリミット型変位センサの取付部分を拡大して示す正面図である。
【
図4】
図1のリミット型変位センサを示す縦断面図である。
【
図5】
図1のボルト型歪みセンサの取付部分を拡大して示す側面図である。
【
図6】
図1のボルト型歪みセンサを示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜
図6は、本発明に係る雪崩・落石のモニタリングシステムの一実施形態を示すもので、図中符号1が雪崩および落石の予兆を検知すべく斜面に設置された柵である。
この柵1は、積雪や落石を受け止める柵部材2と、この柵部材2の両側部に配設されて当該棚部材2を斜面の傾斜方向の下方から支持する複数本(図では2本)の支柱3と、これら支柱3間に配置されて後述するリミット型変位センサ10が介装される控柱(支柱)4とから概略構成されたものである。
【0026】
ここで、柵部材2は、上記斜面の傾斜方向と略直交する方向に等間隔をおいて配置された複数本(図では7本)の縦柵5と、これら縦柵5の上部間および下部間に上記傾斜方向の下方側から横架されて一体化された複数本(図では2本)の横木6から構成されている。
【0027】
ちなみに、本実施形態においては、棚部材2を構成する縦柵5、横木6および支柱3、控柱4として、間伐材が用いられている。
【0028】
そして、棚部材2の上部の横木6と控柱4との間に間隙部Sが形成され、この間隙部S内に、棚部材2に作用する一定以上の荷重によって作動するリミット型変位センサ10が設けられている。
【0029】
このリミット型変位センサ10は、
図4に示すように、金属管11と、この金属管11内にほぼ密着状態で挿入されたガラス管を試験管状に形成した支持部材12とからなるもので、支持部材12の内部にピエゾフィルム(圧電素子)13が全長にわたって配置されている。このピエゾフィルム13は、支持部材12の内部に、当該支持部材12と密着または接触した状態で保持されており、その一端部13aには、出力用ケーブル14(
図1参照。)が接続されている。
【0030】
そして、このリミット型変位センサ10は、棚部材2の上部の横木6の外周に固定された金物15と、控柱4の上面に固定された金物16との間に取り付けられている。ここで、横木6に固定された金物15は、横木6の下方側から外周に外装されてボルト17aによって固定されたコ字状の基台17と、この基台17の底板から垂下された小コ字状の取付板18とから構成されている。
【0031】
他方、金物16は、控柱4の上端部を跨いでボルト19aによって固定されたコ字状の基台19と、この基台19の上面に凸状に屈曲形成された小コ字状の取付板20とから構成されている。
【0032】
そして、これら金物15、16は、金物15の取付板18間に、金物16の取付板20を挿入させた状態で配置されている。また、互いの取付板18、20同士は、上記傾斜方向の上方側に変位した位置において、連結ボルト21によって連結されている。さらに、取付板18、20の中央部間には、リミット型変位センサ10が挿入されている。なお、図中符号22は、リミット型変位センサ10を挿入する際に、金物15、16同士を仮固定しておくためのボルトの挿入孔である。
【0033】
これにより、柵部材2に傾斜方向の下方に向けて過度な荷重が作用して柵部材2の横木6が変形すると、金物16に対して金物15が連結ボルト21を中心に
図3中反時計回りに回動しようとして、リミット型変位センサ10に取付板18、20からせん断力が作用するように構成されている。
【0034】
そして、リミット型変位センサ10の金属管11は、平常時に取付板18、20からせん断力が作用しても大きく変形することがない強度であって、かつ雪崩が発生するおそれが生じる程の積雪による荷重により横木6が大きく変形した場合に、これによって発生する大きなせん断力によって塑性変形することにより支持部材12を破損させる強度に設定されている。
【0035】
他方、
図1に示すように、控柱4に最も近接した縦柵5の頂部には、表示装置(表示手段)23が設けられている。この表示装置23は、リミット型変位センサ10からの出力用ケーブル14が接続された制御装置(制御手段)24からの信号により点灯するライト(照明器具)25であり、制御装置24は、出力用ケーブル14から送られた電圧が設定値以上となった際に、内蔵されているリチウム電池等のバッテリーによって上記ライト25を点灯させるようになっている。
【0036】
また、
図1および
図5に示すように、柵部材2の上部の横木6の端部と縦柵5との間には、縦柵5に生じる振動を検知するためのボルト型歪みセンサ26が設けられている。
このボルト型歪みセンサ26は、
図6に示すように、頭部と軸部を備えた頭部側部材27と、軸部のみからなる先端側部材28とが、軸方向で間隔をおいて配置されており、それらの内部にセンサロッド29を挿通し、結合一体化して全体がボルト形状となるように構成したものである。
【0037】
このボルト型歪みセンサ26は、通常のボルトと同様、先端側部材28の外周面に固定ナット取り付け用の雄ねじ部30が形成されている。また、頭部側部材27および先端側部材28の中心には、軸方向に貫通する軸孔27a、28aが形成され、これら軸孔27a、28aに、ピエゾケーブル(圧電素子)31を内蔵するセンサロッド29が挿入されてエポキシ系などの接着剤で固着されている。
【0038】
ここで、センサロッド29は、ピエゾケーブル31の外側を柔軟性を有する円筒状の保護チューブ32で覆ったもので、保護チューブ32の外径は軸孔27a、28aの内径と略等しくなるように形成されている。なお、図中符号33は、ピエゾケーブル31の先端部に充填されて保護チューブ32を封止する接着剤であり、符号34はピエゾケーブル31の頭部側から外部へ引き出された出力用ケーブルである。
【0039】
そして、上記ボルト型歪みセンサ26は、横木6および縦柵5に固定された金物35a、35b間に挿入されて先端側部材28の雄ネジ部30にナット36が螺合されることにより、これら金物35a、35b間に取り付けられている。
【0040】
これにより、上記ボルト型歪みセンサ26においては、縦柵5に細石が頻繁に衝突して当該縦柵5に振動が生じた際に、横木6および縦柵5に取り付けられた金物35a、35b間の相対変位によってピエゾケーブル31が伸縮することにより大きな電圧を発生するようになっている。
【0041】
そして、
図1に示すように、ボルト型歪みセンサ26の一端部が固定されている縦柵5の頂部には、表示装置(表示手段)37が設けられている。この表示装置37は、ボルト型歪みセンサ26からの出力用ケーブル34が接続された制御装置(制御手段)38からの信号により点灯するライト(照明器具)39であり、制御装置38は、出力用ケーブル34から送られた電圧が設定値以上となった際に、内蔵されているリチウム電池等のバッテリーによって上記ライト39を点灯させるようになっている。
【0042】
以上の構成からなる雪崩・落石のモニタリングシステムにおいては、雪崩および落石のおそれがある斜面に設置しておくと、当該斜面への積雪量が増加して、柵部材2が受ける積雪の荷重が雪崩の予兆となる程まで増加すると、両側部を支柱3によって支持された柵部材2における横木6の中央部の変形量が大きくなり、取付板18、20間のリミット型変位センサ10の金属管11が大きなせん断力によって塑性変形する。
【0043】
これにより、ガラス管からなる支持部材12が破損して、ピエゾフィルム13が大きく変形することにより電圧を発生し、出力用ケーブル14から制御装置24に送られることにより当該制御装置24からの信号によって雪崩の予兆を知らせるためのライト25が点灯する。
【0044】
また、積雪のない期間において、落石や土石流の予兆現象である細石の頻繁な衝突が発生すると、棚部材2の斜面上方側に位置する縦柵5に当該細石の衝突に起因して振動が生じ、横木6および縦柵5に取り付けられた金物35a、35b間に生じる相対変位によってピエゾケーブル31が伸縮することにより大きな電圧を発生する。
【0045】
そして、この電圧が出力用ケーブル34から制御装置38へ出力され、発生した電圧が設定値以上となった際に、落石や土石流の予兆を知らせるためのライト39が点灯する。
【0046】
この結果、上記雪崩・落石のモニタリングシステムによれば、商用電源を用いることなく、かつ保守管理も容易な簡易な設備によって、雪崩の予兆現象となる柵への荷重の増加や、落石の予兆現象となる小規模な細石の柵への衝突によって生じた柵の振動を、リミット型変位センサ10のピエゾフィルム13やボルト型歪みセンサ26のピエゾケーブル31が発する電圧によって検知することができる。
【0047】
しかも、柵1を構成する棚部材2や支柱3および控柱4として間伐材を用いているために、現地での入手が容易であり、かつ経済的であるとともに、鋼材を用いた場合と比較して、山間部における運搬や斜面への設置に大型の重機等を必要とせず、また木材は加工性に優れるために、極めて容易に現地において設置することができる。加えて、雪崩や落石の予兆となる雪止めの荷重の増加や小径の落石の衝撃といった僅かな荷重の変化も敏感に察知することができる。
【0048】
したがって、上記柵1を斜面の複数箇所に設置しておくことにより、リミット型変位センサ10やボルト型歪みセンサ26が発した電圧によって、上述した雪崩や落石の予兆現象となる小規模な異常の発生を当該柵1に設置したライト25、39の点灯によって知らせることができる。この結果、容易かつ高い精度で異常の発生箇所をリアルタイムに発見することができ、災害の事前対策の迅速化や減災を図ることができる。
【0049】
なお、上記実施形態においては、リミット型変位センサ10やボルト型歪みセンサ26から設定値以上の電圧が発せられた場合の表示手段として、柵1の上部に固定されたライト25、39を用いた場合について説明したが本発明は、これに限定されるものではなく、上記棚1に設けられて上記センサが発した電圧が設定値以上となった際に信号を無線送信する発信手段と、この発信手段から発せられた上記信号を受信して上記柵の位置とともに表示するモニタとによって構成することもできる。
【0050】
このような表示手段を用いた場合には、リミット型変位センサ10やボルト型歪みセンサ26からの信号を、棚1に設けた発信手段から無線送信して遠隔地にあるモニタに当該棚1の位置とともに表示させことにより、広い範囲の傾斜に設置した多数の棚1の状況を集中的にモニタリングすることが可能になる。
【符号の説明】
【0051】
1 棚
2 棚部材
3 支柱
4 控柱(支柱)
5 縦柵
6 横木
10 リミット型変位センサ
12 支持部材
13 ピエゾフィルム(圧電素子)
23、27 表示装置(表示手段)
25、39 ライト(照明装置)
26 ボルト型歪みセンサ
27 頭部側部材
28 先端側部材
27a、28a 軸孔
29 センサロッド
31 ピエゾケーブル(圧電素子)