(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-195870(P2017-195870A)
(43)【公開日】2017年11月2日
(54)【発明の名称】血糖値上昇抑制の加工食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20171006BHJP
A23L 29/30 20160101ALN20171006BHJP
【FI】
A23L5/00 K
A23L29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-101920(P2016-101920)
(22)【出願日】2016年4月28日
(71)【出願人】
【識別番号】511251386
【氏名又は名称】株式会社ハートテック
(71)【出願人】
【識別番号】503065302
【氏名又は名称】株式会社シクロケム
(72)【発明者】
【氏名】松尾 昌
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B025LD00
4B025LK02
4B035LC06
4B035LE01
4B035LG21
4B035LK03
4B035LP59
4B041LC10
4B041LE10
4B041LH04
4B041LK11
4B041LP25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】日本における糖尿病患者数は予備軍を含め1500万人以上と云われ、さらに増加する傾向にある。糖尿病患者においては厳しい食事制限を強いられ極力血糖値を下げる努力をしなければならないのが現実である。血糖値を気にしないで、砂糖を摂取しながら血糖値を抑制できる加工食品の提供。
【解決手段】天然甘味料にα−シクロデキストリン(環状オリゴ糖の一種)を混合した甘味加工食品を開発発明し、その甘味加工食品(ファイバーシュガー)を摂取することにより、甘味を味わうことができて、なおかつ、糖分の吸収を阻害し、血糖値を抑制できることを提供することにある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然甘味料に環状オリゴ糖α−シクロデキストリンを含有していることを特徴とした加工食品。
【請求項2】
天然甘味料の形状が個形状、粉末状、顆粒状、液体状、粘性状であることを特徴とした請求項1の加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値の上昇を抑制する加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化、過酷な労働による精神的ストレス、保有自動車の増加など、生活習慣に起因する疾患が激増している。特に糖尿病の患者数の増加は著しく、2003年の厚生労働省統計によると、日本における糖尿病患者数は予備軍も含めて1620万人であり、いまなお増加し続けている。
【0003】
また、糖尿病は成因から1型と2型糖尿病に別けられ、1型糖尿病は、自己免疫機序の異常による膵β細胞破壊が原因で発症し、2型糖尿病は、肥満や運動不足、ストレスなどによるインスリンの分泌障害やインスリン抵抗性が原因で発症すると云われている。
【0004】
糖尿病治療として、血糖値、体重、血圧、および血清脂質をコントロールすることにより、糖尿病細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)、動脈硬化性疾患の発症・進展を遅延することにあり、そのために厳しい食事制限、運動療法が最初に取り入れられ、患者の生活の質(QOL)が低下しているのも現実である。
【0005】
また、本発明は、前記の結果、食後の過血糖とインスリンの過剰分泌が抑制されることができるα‐グルコシダーゼ阻害薬に注目してインスリン分泌を刺激せず、むしろインスリン需要量を低下させため、膵β細胞の疲弊を和らげることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】河盛隆二、α−グルコシダーゼ阻害薬、内分泌・糖尿病科、20、14−18、(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食事制限や運動療法で糖尿病のコントロールがつかない状況になると、経口糖尿病治療薬が処方される場合の治療薬の一つであるα‐グルコシダーゼ阻害薬は、小腸において、二糖類を単糖類に分解する酵素であるα‐グルコシダーゼを阻害するのと同様に、糖質の消化や吸収を遅延させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、日常の生活の中で最も口にする天然甘味料(上白糖、グラニュー糖、スクロース、ショ糖の砂糖のことである)をシクロデキストリン(以下CD)で包接した食品素材「ファイバーシュガー」(登録商標である。以下同様)を開発し、甘味はそのままで、血糖値上昇を緩やかにさせること、もしくは抑制することを目的とした加工食品を提供することにある。
【0009】
本発明に使用するCDは、原材料が馬鈴薯やトウモロコシのでんぷんから作られた100%の天然素材であり、構造はD‐グルコースがα−1,4グルコシド結合によって連結し、環状構造をとったオリゴ糖の一種である。
【0010】
また、本発明に使用するCDは、グルコース分子1(
図1の点線で囲む部分)が5個以上結合したものが知られており、一般的なものではグルコースが6個結合したものがα‐CD、7個結合したものがβ−CD、8個結合したものがγ−CDと呼ばれており、その存在は100年以上も前から知られていて、それらの構造は底のないバケツ形状をしており、その外部は親水性を、空洞内部は疎水性を示し、様々な有機分子を取り込む包接機能を有している。
【0011】
前記α−CD、β−CD、γ−CDの三種類は
図1、
図2、
図3に示すような環状構造をしており、分子の中央部に様々な有機分子を出入りさせる作用があり、α−CDは水溶性難消化性、β−CDは難水溶性難消化性、γ−CDは水溶性消化性でそれぞれの違いがあるので、本発明に使用するタイプを検証する必要がある。
【0012】
本発明のファイバーシュガーに使用するCDを選別するため、CDを用いての予備的経口糖負荷試験を実施、試験方法として日本エスエルシー株式会社の6週齢のSlc:ddYマウス(♂;体重30g)を使用して、α−,β−,γ−CDを各1g/kg体重になるように水に溶かし、それぞれ経口投与し、生理食塩水を経口投与した群と比較し、
図4のような結果が得られたので、CD自身にわずかながらも血糖降下作用があるα−CDを本発明ファイバーシュガーに用いることにした。
【0013】
本発明のファイバーシュガーに混合するα−CDは砂糖の約10倍の価格で非常に高価なものであり、ファイバーシュガーの価格とα―CDの持つ作用効果を考慮してα−CDの配合を当面10%の配合とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明の血糖値上昇抑制の加工食品のファイバーシュガーは天然甘味料である上白糖やグラニュー糖などをα−CDに包接させたもので、α−CDが含有していても甘味が減少することなく甘味料食品として使用可能で、糖尿病や血糖値が気になる方にとってはストレスなく甘味を感じることが可能で、かつ、血糖値のコントロールができやすくなる。
【0015】
本発明のファイバーシュガーに混合する水溶性食物繊維としてのα−CDは消化されることなく小腸に届き、糖質に対して腸からの吸収をブロックし、その吸収スピードを緩やかにする作用があり、また、α−CDは環状オリゴ糖であり、スクロースを初めとする各種糖類と同じ仲間であり、腸内で他の糖質と一緒になって、小腸を通り過ぎる可能性も考えられ、α−CDは糖質の腸からの吸収を阻害し、糖質を包接して体外へ排出を促し、血糖値の上昇が制御される効果も期待できる。
【0016】
本発明は、マウスを使って血糖値抑制の確認を実施したが、人を対象とした治験を行うことで、同様の結果が得られるものと推定され、ファイバーシュガーを用いることで、血糖値が気になる人々のQOLが上昇し、食を通じた社会貢献、ならびに、食を通じた健康づくりに貢献できる製品として、広く世の中で使用できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】グルコース6個からなるα−CDの分子構造。
【
図2】グルコース7個からなるβ−CDの分子構造。
【
図3】グルコース8個からなるγ−CDの分子構造。
【
図4】Slc:ddYマウスにα−,β−,γ−CDを前投与し、スクロースを負荷した後の血糖値上昇の推移。生理食塩水(コントロール)。
【
図5】Slc:ddYマウスの経口負荷試験による血糖値の時系列変化グラフ。グラニュー糖(●)およびファイバーシュガー(○)投与後の推移。
【0018】
本発明のファイバーシュガー加工食品を実施するための形態として、本発明に供する天然甘味料をα−CDで包接した加工食品の製造を実施する例により次に示す。
【実施例1】
【0019】
本発明のファイバーシュガーに供する原料として、グラニュー糖の粉糖を使用し、粉糖900gとα−CD100gの重量比9:1とし、均一になるまでよく混合し、そこへ全体重量の4%分量40gを加水(上水)し、ファイバーシュガーを形成するための必要な硬さが得られるまで十分に攪拌した。
【0020】
前記混合撹拌物を直径1.2mmの丸穴スクリーンにて押出成形した後、流動層乾燥機を用い吸気設定温度80℃にて品温が60℃に達するまで約5分間乾燥し、前記乾燥品を12メッシュの篩網を用いて篩過させて、均一な粒度の本発明のα−CD10%含有ファイバーシュガー1kg製造した。
【0021】
本発明の製造した前記ファイバーシュガーを一般財団法人日本食品分析センターで、成分分析した結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
また、本発明の製造した前記ファイバーシュガーとグラニュー糖との糖度を比較測定した結果、同じ重量中の糖度には差がないことが分かったので、その結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
続いて、本発明のα−CD含有のファイバーシュガーの評価実証のために、前記経口糖負荷試験と同じのSlc:ddYマウス(♂;体重30g)を使用して、経口糖負荷試験を行ったところ、
図5に示すように、本発明の加工食品ファイバーシュガーの方が、グラニュー糖のみ投与群に比べ、血糖値の上昇が抑制され、投与後の45分と100分においては、統計学的に有意な差(Student’s t−test)が確認できる。
【0026】
以上からはSlc:ddYマウスの経口糖負荷試験での結果であるが、人体に対しても今後の実験に待たねばならないが、本発明のファイバーシュガーが血糖値の上昇の抑制が期待できるものと考えられる。