【解決手段】基板20上に一対の導電パッド22,23と圧電素子30が設けられ、これらの周囲が導電性を有するスペーサ40で囲まれる。前記圧電素子30は、圧電体32の分極方向が、一対の端子電極34,36の対向する方向に対して垂直方向であり、前記端子電極34,36を前記導電パッド22,23に接続して、前記分極方向が前記基板20に対して垂直になるように実装される。前記圧電体32には、分極端子42,44を用いてd31方向に分極を施すことで従来と同様の高い感度を維持する。また、分極時のみ分極端子42,44を用い、内部導体を分極に利用しない構造のため、容量的には単板となり、従来構造の1/10程度の容量となり、ノイズの影響を回避する。
前記圧電素子は、前記一対の端子電極の各々と接続された一対の第2の内部導体を有し、前記一対の第2の内部導体の交差面積は、前記圧電体を前記分極方向から見たときの面積の50%以下であることを特徴とする請求項3又は4記載の振動波形センサ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
最初に、
図1〜
図3及び
図6を参照しながら、本発明の実施例1を説明する。
図1には、本発明を脈波センサとして使用する場合が示されており、(A)は振動波形センサの断面図,(B)は組立図,(C)は基板の実装面側から見た平面図である。
図2(A)は本実施例の圧電素子の外観斜視図,
図2(B)は前記(A)を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た断面図,
図2(C)は分極時の様子を示す断面図である。
図3は、脈波波形を示す図であり、(A)は本実施例の圧電素子による脈波波形を示し、(B)は従来の圧電素子による脈波波形を示す。
図6は、従来の圧電素子を示す図であり、(A)は圧電素子の外観斜視図,(B)は分極時の様子を示す断面図,(C)は前記圧電素子の内部導体を示す平面図である。
図1(A)〜(C)において、振動波形センサ10は、基板20の主面上に圧電素子30が配置されており、この圧電素子30をリング状のスペーサ40で覆った構造となっている。前記圧電素子30は、本実施例では、
図1(C)に示すように長方形であり、長手方向を有している。
【0013】
以上の各部のうち、前記基板20は、圧電素子30を固定支持するとともに、その電極の引出や信号増幅を行うためのもので、ガラスエポキシやセラミックなどによって形成されている。基板20の主面には、中央付近に一対の導電パッド22,23が設けられており、その周囲には導電膜24が形成されている。導電パッド22,23は、基板20の裏面側にスルーホール22A,23Aによって引き出されて、外部導体22B,23Bに接続されている。導電パッド22,23には、圧電素子30の端子電極34,36が導電性接着剤などで接合されている。このように、導電パッド22,23及びスルーホール22A,23Aによって、基板20の裏面側に設けられた図示しないアンプなどと圧電素子30が接続されている。
【0014】
前記圧電素子30は、本実施例では、圧電体32と、該圧電体32に形成された対向する一対の端子電極34,36とにより構成された圧電体が単板の構造である。前記圧電体32は、分極方向が、前記一対の端子電極34,36の対向する方向に対して垂直な方向である。そして、前記一対の端子電極34,36が、前記導電パッド22,23に接続され、圧電体32の分極方向が前記基板20に対して垂直になるように圧電素子30が実装される。前記圧電体32としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が使用される。また、導電パッド22,23を覆うように絶縁性の樹脂が設けられていてもよい。このとき、圧電素子30も樹脂で覆ってもよい。
【0015】
次に、前記導電パッド22,23及び前記圧電素子30の周囲には、これらを囲むようにリング状のスペーサ40が設けられている。該スペーサ40の高さは、前記圧電素子30を基板20に実装したときの実装高さよりも高い。前記スペーサ40は導電膜24と電気的に接合している。また、導電膜24は、スルーホール24A,24B(
図1(A)のみに図示))によって基板20の裏面側に引き出されている。前記スペーサ40は、例えばステンレスによって形成されて導電性を有しており、接触する人体の皮膚との間でグランド電位を共通にするとともに、皮膚の振動を導入して、更に基板20に伝達する振動導入体として機能する。
【0016】
皮膚の振動は、前記スペーサ40に伝達されるとともに、スペーサ40から基板20に伝達される。基板20は、振動体としても機能し、スペーサ40から伝達された振動は、圧電素子30に伝達されるようになっている。前記スペーサ40は、硬質で導電性を有するものであれば、金属に限定されるものではなく、例えば、硬質プラスチックの表面に金属めっきを施したものであってもよい。このように硬質で導電性を有するスペーサ40をはさむことによって、脈波振動が確実に伝わるとともに、電気的ノイズをグランドに逃がすことができるため、より品位の高い脈波信号が得られる。これが振動波形センサの基本的な構造である。
【0017】
以上のような振動波形センサ10は、人体の指などの適宜位置に、医療用の固定テープ等によって、前記スペーサ40が人体の皮膚に当たるように装着される。なお、振動波形センサ10を装着する部位は、腕であってもよく、装着方法も、面ファスナーを利用して巻きつけるようにしてもよい。振動脈波は、導電性を有するスペーサ40を通して基板20経由で圧電素子30に伝わる。前記圧電素子30は、この振動を検知して電圧に変換し、脈波信号として、図示しない解析装置等に出力する。
【0018】
本実施例では、単板素子に対し、分極時のみd31方向,すなわち、端子電極34,36の対向する方向と垂直方向(いいかえれば、実装したときに基板20に対して垂直な方向)へ分極をかけて素子を作成している。すなわち、分極方向はd31方向なので従来品と同様の高い感度を示すが、容量的には単板のため、従来品の1/10程度の容量となり、高い感度を維持しながら、ノイズの影響を回避することができる。
【0019】
次に、本実施例の製造手順の一例を説明する。まず、PZTを主成分とする圧電体粉末をPVBバインダーと20h混練後、ドクターブレードにて27μm厚のシートに成形する。本実施例では、このシート成形体を38層積層して熱圧着後、3.2×1.6mm形状にカットし、950℃で焼成して、3216形状(厚さt=1.0mm)の単板焼成体を得た。さらに、その焼成体に、外部導体(端子電極34,36)として、Agを形成し、850℃で焼き付けて単板素子を形成した。そして、
図2(C)に示すように、分極端子42,44を、素子上面や下面よりも、やや小さい長方形断面として、外部導体(端子電極34,36)と直交するd31方向から所定の電圧をかけて分極を行った。
【0020】
そして、この圧電素子30を振動波形センサ10に実装して、脈波のセンシングを行った。結果として、素子の容量は、20pFであり、ノイズ低減に有効な低容量であった。また、この振動波形センサ10での速度脈波の波形データを
図3(A)に示した。同図において、横軸は、時間t[s]、縦軸は、感度(起電力)[mV]である。
【0021】
また、比較用に、
図6に示す従来品の圧電素子100を形成した。具体的には、上述した積層工程において、内部導体110,112用に2μm厚のAg/Pdを塗布したシートS(
図6(C)参照)を2枚配置して、圧電体1層の積層d31型素子を得た。そして、Agを焼き付けて外部導体(端子電極104,106)を形成した。一方の端子電極104は、一方の内部導体110と接続し、他方の端子電極106は、他方の内部導体112と接続している。そして、前記端子電極104,106を通して、
図6(B)に示すように分極した。このような従来品の圧電素子100の分極方向は、
図6(B)に示す矢印の通りとなり、d31方向であって、本発明の実施例の分極方向と同様である。この比較例についても、実施例と同様に振動波形センサに実装して、脈波のセンシングを行ったところ、素子の容量は147pFと高い容量となった。また、この振動波形センサでの脈波波形を
図3(B)に示した。
【0022】
図3(A)に示すように、本実施例ではベースラインの揃ったきれいな波形が得られた。それに対して、
図3(B)に示すように従来品では、ノイズの影響でベースラインがゆらぎ、同図に破線で示すようにベースラインBLにうねりがあり、波形が乱れているのがわかる。変位素子等に使われる従来の圧電素子は、変位量を多くとるため、内部導体(内部電極)の交差面積を大きくするような設計となっている。そして、この内部導体を用いて分極を施すと、分極方向はd31方向になるものの、センサに用いたときに、内部導体が容量に寄与して静電容量が大きくなるため、ノイズが入りやすくなる。
【0023】
このように、実施例1によれば、基板20と、前記基板20上に形成された一対の導電パッド22,23と、前記一対の導電パッド22,23の各々から引き出された一対の外部導体22B,23Bと、圧電体32と該圧電体32に形成された一対の端子電極34,36とを有し、分極方向が前記一対の端子電極34,36の対向する方向に対して垂直方向であり、前記一対の端子電極34,36の各々が前記一対の導電パッド22,23に接続されて、前記分極方向が前記基板20に対して垂直になるように実装された圧電素子30と、前記圧電素子30及び前記一対の導電パッド22,23の周辺に、前記圧電素子30の実装高さよりも高く形成されたスペーサ40と、を備えることとした。このように、単板構造の圧電素子30にd31方向の分極を施すことで、従来と同様の高い感度を示すことができる。また、分極時のみ分極端子42,44を用い、分極に内部導体を用いない構造のため、容量的には圧電体単板となり、従来構造の1/10程度の容量となって、ノイズの影響を回避することができる。また、高価な貴金属を使用する内部導体が不要のため、コスト削減にも有効である。
【実施例2】
【0024】
次に、
図4を参照しながら本発明の実施例2を説明する。上述した実施例は、圧電体の内部に導体を設けない構造としたが、本実施例は、分極時にのみ用い、基板に実装した後は使用しない内部導体を設けた構造である。
図4(A)は本実施例の圧電素子の外観斜視図,
図4(B)は前記(A)を#B−#B線に沿って切断し矢印方向に見た断面図,
図4(C)は前記圧電素子の内部導体を示す平面図である。
【0025】
図4に示すように、本実施例の圧電素子50は、圧電体52の対向する一対の側面に、一対の端子電極56,58を形成するとともに、前記圧電体52の他の一対の側面に、他の一対の端子電極60,62を形成した構造となっている。また、前記圧電体52の内部には、分極方向に対向する一対の内部導体64,66が設けられている。一方の内部導体64は、
図4(C)に示すように引出部64Aを有しており、前記端子電極60に接続する。また、他方の内部導体66は、引出部66Aによって、他方の端子電極62に接続している。これら端子電極60,62は、分極用のものであって、圧電素子50を基板に実装した後には機能しないものである(が、使用することを妨げるものではない)。また、前記内部導体64,66は、回路で機能する端子電極56,58には接続されていない。
【0026】
前記圧電体52の分極方向は、前記実施例1と同様に、前記一対の端子電極56,58の対向する方向に対して垂直である。前記内部導体64,66の交差面積は、前記圧電体52の分極方向から見たときの面積70〜99%とする。これは、チップ全体を分極できるように、その面積がチップのL×W(長さ×幅)で得られる面積の70%以上99%以下として感度を高めるためである。なお、本実施例の圧電素子50を基板20に実装した振動波形センサの構造自体は、前記実施例1と同様である。
【0027】
次に、本実施例の製造手順の一例を説明する。まず、PZTを主成分とする圧電体粉末をPVBバインダーと20h混練後、ドクターブレードにて27μm厚のシートに成形する。本実施例では、
図4(C)に示す構造の内部導体64,66をスクリーン印刷法で印刷し、
図4(B)に示す層構造で積層した。なお、前記内部導体64,66は、Ag/Pdで2μm厚に印刷した。これらのシートSを積層して熱圧着後、3.2×1.6mm形状にカットし、950℃で焼成して、3216形状(厚さt=1.0mm)の焼成体を得た。さらに、その焼成体に、外部導体(端子電極56,58,60,62)としてAgを形成し、850℃で焼き付けて積層圧電素子を形成した。
【0028】
一方の内部導体64は一方の端子電極60に接続し、他方の内部導体66は他方の端子電極62に接続している。そして、前記分極用の端子電極60,62から所定の電圧で分極を行った。分極はd31方向にチップ全体を通して行われるので、得られる電荷量が多く高感度なセンサ素子が得られる。本実施例では、前記内部導体64,66及び端子電極60,62は分極用であり、圧電素子50が基板20に実装された後は、回路には接続されず機能しない。このため、圧電素子をd31方向に分極して高い感度を維持しながら、前記内部導体64,66は容量に寄与しないためノイズが抑えられるという、上述した実施例1と同様の効果がある。
【実施例3】
【0029】
次に、
図5を参照しながら本発明の実施例3を説明する。本実施例は、圧電体の内部に分極用の内部導体と、回路用の内部導体をそれぞれ一対設けた構造となっている。
図5(A)は圧電素子の外観斜視図,
図5(B)は前記(A)を#C−#C線に沿って切断し矢印方向に見た断面図,
図5(C)は前記圧電素子の内部導体を示す平面図である。なお、本実施例の圧電素子70の外観は、前記実施例2の圧電素子50と同様であり、4端子構造である。
【0030】
図5に示すように、本実施例の圧電素子70は、圧電体72の対向する一対の側面に、一対の端子電極76,78を形成するとともに、前記圧電体72の対向する他の一対の側面に、一対の端子電極80,82を形成した構造となっている。また、前記圧電体72の内部には、分極方向に対向する一対の第1の内部導体84,86と、一対の第2の内部導体90,92が設けられている。一方の第1の内部導体84は、引出部84Aによって前記端子電極80に接続され、他方の第1の内部導体86は、引出部86Aによって、前記端子電極82に接続している。これら第1の内部導体84,86と、端子電極80,82は分極用のものであって、圧電素子70を基板に実装した後には機能しないものである。一方の第2の内部導体90は、その端部90Aが前記端子電極76に接続され、他方の第2の内部導体92は、その端部92Aが前記端子電極78に接続されている。
【0031】
前記圧電体72の分極方向は、前記実施例1と同様に、前記一対の端子電極76,78の対向する方向に対して垂直である。前記内部導体84,86の交差面積は、前記実施例2と同様に、前記圧電体72の分極方向から見たときのチップ面積の70%〜99%とする。一方、第2の内部導体90,92は、圧電素子70を基板20に実装した後に、回路に接続されて機能するものである。これら第2の内部導体90,92の交差面積は、前記圧電体72の分極方向から見たときのチップ面積の10%以上50%以下として、容量を低く抑える。本実施例の圧電素子70を基板20に実装した振動波形センサの構造自体は、前記実施例1と同様である。
【0032】
次に、本実施例の製造手順の一例を説明する。まず、PZTを主成分とする圧電体粉末をPVBバインダーと20h混練後、ドクターブレードにて27μm厚のシートに成形する。本実施例では、
図5(C)に示す構造の内部導体84,86,90,92をスクリーン印刷法で印刷し、
図5(B)に示す層構造で積層した。なお、前記内部導体は、Ag/Pdで2μm厚に印刷した。これらのシートSを積層して熱圧着後、3.2×1.6mm形状にカットし、950℃で焼成して、3216形状(厚さt=1.0mm)の焼成体を得た。さらに、その焼成体に、外部導体(端子電極76,78,80,82)としてAgを形成し、850℃で焼き付けて積層圧電素子を形成した。
【0033】
前記第1の内部導体84は、端子電極80に接続し、他方の第1の内部導体86は端子電極82に接続している。また、第2の内部導体90は端子電極76に接続し、他方の第2の内部導体92は端子電極78に接続している。そして、前記分極用の端子電極80,82から所定の電圧で分極を行った。本実施例では、前記第1の内部導体84,86と、端子電極80,82は分極専用であり、圧電素子70が基板20に実装された後は、回路には接続されず機能しない。このため、圧電素子をd31方向に分極して高い感度を維持しながら、前記第1の内部導体84,86は容量に寄与しない。なお、本実施例では、容量成分は、交差面積の狭い第2の内部導体90,92によって得られるため、ノイズ成分を低く抑えることができる。
【0034】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例1では、脈波を測定対象としたが、本発明の振動波形センサの測定対象は脈波に限定されるものではなく、呼吸や他の公知の各種の波形を対象としてよい。例えば、エンジンやモータの振動波形を解析するといった具合である。
(2)前記実施例1では、リング状のスペーサ40を用いることとしたが、これも一例であり、角枠状のスペーサとしてもよいし、直接皮膚等に触れられる構造を取っていれば対向する2辺のみを接着した角柱であってもよい。また、板状ないし棒状のスペーサを基板20に立設するとともに、その近傍に圧電素子30を配置するような構成としてもよい。このように、スペーサが対象物に接触してその振動が基板20に伝達されれば、スペーサはどのような形状であってもよい。
【0035】
(3)前記実施例1では、金属製のスペーサ40を用いることとしたが、これも一例であり、スペーサは硬質で導電性を有するものであれば、金属製でなくてもよい。例えば、樹脂やセラミックなどの絶縁体の表面に導電膜を設けたものであってもよい。
(4)前記実施例では、圧電体は一般的なPZTを用いたが、これに限定されるものではなく、同様の効果を奏する適切な感度(圧電定数,容量)を有するものであればよい。また、前記圧電素子の形状や寸法も、用途等に応じて適宜変更してよい。
(5)前記実施例では、基板20としてガラスエポキシ樹脂を利用したが、これも一例であり、セラミックのような更に硬質のものであってもよい。
(6)前記スペーサ40の内側に、絶縁性樹脂等を充填してもよい。