【課題】製造時に使用する医療機器や医療材料の品質や安全性等が確保された方法で、補綴物に固有の識別情報を付すことができ、該識別情報が付された補綴物を広く普及させることが可能な歯科用補綴物の製造方法を提供すること。
【解決手段】歯科用補綴物の製造方法であって、補綴物2に割り当てる固有の識別情報1aと、補綴物2の使用者に関する個人情報3aとを関連付けて登録する情報登録工程(S1)と、歯科技工用認定レーザー装置10を用いて歯科用認定金属材料1にレーザーを照射して識別情報1aを刻印する刻印工程(S2)と、歯科用認定金属材料1から識別情報1aを含む刻印部1bを切り離し、歯科用認定固着材料1cを用いて刻印部1bを補綴物2に取り付ける取付工程(S3)とを含み、識別情報1aが光学式読取コードである。
前記補綴物が、人工歯、人工歯を支持する義歯床、義歯床を支持するバー部、又は人工歯を支台歯に掛止させる鉤部であることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の歯科用補綴物の製造方法。
前記歯科技工用認定レーザー装置が、イッテルビウム添加ファイバーレーザー装置であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の歯科用補綴物の製造方法。
請求項1〜4のいずれかの項に記載の製造方法により製造され、前記識別情報、及び/又は前記個人情報が刻印された刻印部が埋め込まれていることを特徴とする歯科用補綴物。
【背景技術】
【0002】
従来から歯科用補綴物として、有床義歯(入れ歯)、部分床義歯(部分入れ歯)、差し歯(人工歯)、ブリッジ(冠橋義歯、クラウン)などが一般的に使用されている。これら歯科用補綴物は、着用者の歯型・口腔内の形状に合わせてオーダーメイドで作製される。したがって、持ち主である本人しか基本的に使用することができない。
【0003】
一方、有床義歯等には、通常、持ち主の名前等は記載されていないため、口腔内から取り外された状態では、他人がその使用者を判別することは容易ではない。老人ホームや介護施設などでは、数多くの有床義歯等を扱っており、これら施設内でその使用者(持ち主)が分からなくなる場合があった。そのため、口腔内から取り外された状態の有床義歯等から使用者を簡単に特定できる方法について従来から検討されていた。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、(1)義歯床に、使用者の写真を埋め込み、外部より視認可能とした有床義歯と、(2)義歯床に、使用者に関する情報を特定するためのQRコード(登録商標)を埋め込み、外部より読取可能とした有床義歯が開示されている。
義歯床に写真が埋め込まれた有床義歯によれば、当該写真から使用者を特定することができ、また、義歯床にQRコード(登録商標)が埋め込まれた有床義歯によれば、前記QRコード(登録商標)を携帯電話等の読取装置で読み取ることで、QRコード(登録商標)に登録されている使用者情報を携帯電話に表示させて、使用者を特定することができるとしている。
また、特許文献1に開示された写真やQRコード(登録商標)は、台紙にインクで印刷されたもので構成され、これら印刷された台紙は、その表面が透明レジンで被覆された状態で義歯床に埋め込まれるようになっている。
【0005】
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、特許文献1には、前記台紙の素材等について特に記載はなく、また、印刷装置にはインクを使用するものしか開示されていない。インクを用いる印刷装置は、微小な文字やコードの印刷には向いておらず、写真やQRコード(登録商標)のサイズも大きくなりやすい。また、実際に実施しようとした場合、これら台紙や印刷装置が薬事法の医療機器認証(承認)を受けていなければ、承認を得るまでの長い期間、実際には実施することができず、このような写真付又はQRコード(登録商標)付の有床義歯等を広く普及させることが難しいという課題があった。
【0006】
また、上記入れ歯や人工歯等の歯科用補綴物は、オーダーメイドで作製されるため、これら歯科用補綴物から使用者の身元を特定することも考えられている。例えば、災害や事件などで亡くなった人の身元が分からない場合や、認知症患者が徘徊して保護されたものの、身元を証明するものを所持していない場合等において、歯科カルテ等のデータと、身元不明者や認知証患者の入れ歯や人工歯の治療痕等とを照合することで身元を特定できる場合が考えられる。しかしながら、現状では歯科カルテのデータベースが十分に構築されていないため身元判明率は高くなく、また、身元判明迄に多くの時間を要していた。
【0007】
そこでこのような身元の特定作業に特許文献1記載の発明を利用することも考えられる。特許文献1記載の発明にように、QRコード(登録商標)を読み取って、該QRコード(登録商標)に登録されている使用者情報を携帯電話等に表示させるシステムにすれば、身元の特定をだれでも容易に行うことが可能になると考えられるが、使用者の個人情報をだれでも簡単に確認できるシステムは個人情報を保護する観点から好ましくないという課題があった。
【発明の概要】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、製造時に使用する医療機器や医療材料の品質や安全性等が承認された方法で、補綴物に固有の識別情報を付すことができ、該識別情報が付された補綴物を迅速に広く普及させることができる歯科用補綴物の製造方法、歯科用補綴物、及び該歯科用補綴物を利用して個人情報を安全に提供することができる情報提供システムを提供することを目的としている。
【0010】
上記目的を達成するために本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(1)は、補綴物に割り当てる固有の識別情報と、前記補綴物の使用者に関する個人情報とを関連付けて登録する情報登録工程と、歯科技工用認定レーザー装置を用いて歯科用認定金属材料にレーザーを照射して前記識別情報を刻印する刻印工程と、前記歯科用認定金属材料から前記識別情報を含む刻印部を切り離し、歯科用認定固着材料を用いて前記刻印部を前記補綴物に取り付ける取付工程とを含み、前記識別情報が、光学式読取コードであることを特徴としている。
【0011】
上記歯科用補綴物の製造方法(1)によれば、前記歯科技工用認定レーザー装置(すなわち、薬事法の医療機器認証(承認)を受けたレーザー装置)、前記歯科用認定金属材料(すなわち、医療機器認証を受けた金属材料)、前記歯科用認定固着材料(すなわち、医療機器認証を受けた固着材料)を使用するので、製造時に使用する医療機器や材料の性能・品質・安全性等が承認された方法で、固有の識別情報を付した補綴物を製造することができ、該識別情報が付された補綴物を迅速に広く普及させることが可能となる。また、前記識別情報を刻印する際に使用される前記歯科技工用認定レーザー装置は、小さな刻印サイズでも読取性の高い識別情報を刻印することができるものとなっている。前記識別情報が、光学式読取コードであるので、汎用又は専用の読取手段により、容易に読み取ることが可能となる。
【0012】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(2)は、上記歯科用補綴物の製造方法(1)において、前記歯科技工用認定レーザー装置が、レーザー装置本体と、該レーザー装置本体が設置されるとともに前記歯科用認定金属材料が収容される筐体とを含み、前記刻印工程において、前記筐体内に配設された位置決め治具で前記歯科用認定金属材料を所定のレーザー照射位置に固定した後、レーザーを照射して前記識別情報を刻印することを特徴としている。
【0013】
上記歯科用補綴物の製造方法(2)によれば、前記刻印工程において、前記筐体内に配設された位置決め治具で前記歯科用認定金属材料を所定の(最適な)レーザー照射位置に位置決め固定した後、レーザーを照射して前記識別情報を刻印するので、小さな刻印サイズでも読取性が高くしかも耐久性の高い、高精細・高耐久性を有する識別情報をレーザー刻印することができる。
【0014】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(3)は、上記歯科用補綴物の製造方法(1)又は(2)において、前記刻印工程において、前記歯科技工用認定レーザー装置を用いて前記歯科用認定金属材料に前記識別情報とともに当該識別情報に関連付けられた個人情報を刻印し、前記取付工程において、前記歯科用認定金属材料から前記識別情報及び前記個人情報を含む部分を前記刻印部として切り離し、該刻印部を前記補綴物に取り付けることを特徴としている。
【0015】
上記歯科用補綴物の製造方法(3)によれば、前記刻印工程において、前記歯科用認定金属材料に、前記識別情報と前記個人情報とが対応付けて刻印されているので、前記識別情報が誰のものであるのかを前記個人情報から把握することができる。したがって、前記刻印部を他人の補綴部に取り付けるミスを防止することができる。
また、前記刻印部には、前記識別情報及び前記個人情報を含むので、施設等の内部で、紛失した補綴物の使用者(持ち主)を調べる際には、前記刻印部の前記個人情報、例えば、氏名などを参照することで、簡単に使用者を特定することができる。
【0016】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(4)は、上記歯科用補綴物の製造方法(1)又は(2)において、前記刻印工程において、前記歯科技工用認定レーザー装置を用いて前記歯科用認定金属材料に前記識別情報とともに当該識別情報に関連付けられた個人情報を刻印し、前記取付工程において、前記歯科用認定金属材料から前記識別情報を含み、前記個人情報を含まない部分を前記刻印部として切り離し、該刻印部を前記補綴物に取り付けることを特徴としている。
【0017】
上記歯科用補綴物の製造方法(4)によれば、前記刻印工程において、前記歯科用認定金属材料に、前記識別情報と前記個人情報とが対応付けて刻印されているので、前記識別情報が誰のものであるのかを前記個人情報から把握することができる。したがって、前記刻印部を他人の補綴部に取り付けるミスを防止することができる。
【0018】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(5)は、上記歯科用補綴物の製造方法(1)又は(2)において、補綴物に割り当てる固有の識別情報と、前記補綴物の使用者に関する個人情報とを関連付けて登録する情報登録工程と、歯科技工用認定レーザー装置を用いて前記補綴物にレーザーを照射して前記識別情報を刻印する刻印工程を含み、前記識別情報が、光学式読取コードであることを特徴としている。
【0019】
上記歯科用補綴物の製造方法(5)によれば、前記歯科技工用認定レーザー装置(すなわち、薬事法の医療機器認証(承認)を受けたレーザー装置)を使用するので、使用する医療機器の性能・品質・安全性等が承認された方法で、固有の識別情報が刻印された補綴物を製造することができ、該識別情報が刻印された補綴物を迅速に広く普及させることが可能となる。また、前記識別情報を刻印する際に使用される前記歯科技工用認定レーザー装置は、小さな刻印サイズでも読取性の高い識別情報を刻印することができるものとなっている。また、前記識別情報が、光学式読取コードであるので、汎用又は専用の読取手段により、容易に読み取ることが可能となる。
【0020】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(6)は、上記歯科用補綴物の製造方法(5)において、前記歯科技工用認定レーザー装置が、レーザー装置本体と、該レーザー装置本体が設置されるとともに前記補綴物が収容される筐体とを含み、前記刻印工程において、前記筐体内に配設された位置決め治具で前記補綴物を所定のレーザー照射位置に固定した後、レーザーを照射して前記識別情報を刻印することを特徴としている。
【0021】
上記歯科用補綴物の製造方法(6)によれば、前記刻印工程において、前記筐体内に配設された位置決め治具で前記補綴物を所定の(最適な)レーザー照射位置に固定した後、レーザーを照射して前記識別情報を刻印するので、小さな刻印サイズでも読取性が高くしかも耐久性の高い高精細・高耐久性を有する識別情報を前記補綴物にレーザー刻印することができる。
【0022】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(7)は、上記歯科用補綴物の製造方法(5)又は(6)において、前記補綴物が、人工歯、人工歯を支持する義歯床、義歯床を支持するバー部、又は人工歯を支台歯に掛止させる鉤部であることを特徴としている。
【0023】
上記歯科用補綴物の製造方法(7)によれば、前記歯科技工用認定レーザー装置を用いることで、人工歯、人工歯を支持する義歯床、義歯床を支持するバー部、又は人工歯を支台歯に掛止させる鉤部に直接、前記識別情報をレーザー刻印することができ、適用できる範囲を広げることができる。
【0024】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(8)は、上記歯科用補綴物の製造方法(1)〜(7)のいずれかにおいて、前記光学式読取コードが、データマトリックスコードであることを特徴としている。
【0025】
上記歯科用補綴物の製造方法(8)によれば、前記光学式読取コードが、データマトリックスコードであるので、QRコード(登録商標)などと比べて刻印面積を小さくすることができるとともに、誤り訂正機能に優れ、コード面積の約3分の1が読み取り不可状態となったとしてもデータの読み取りが可能となる。
【0026】
また本発明に係る歯科用補綴物の製造方法(9)は、上記歯科用補綴物の製造方法(1)〜(8)のいずれかにおいて、前記歯科技工用認定レーザー装置が、イッテルビウム添加ファイバーレーザー装置であることを特徴としている。
【0027】
上記歯科用補綴物の製造方法(9)によれば、前記歯科技工用認定レーザー装置が、イッテルビウム添加ファイバーレーザー装置であるので、エネルギー変換効率が高く、ファイバーは細くて表面積が大きいので冷却が容易で高出力化でき、ファイバーと光部品を一体化できるため光軸ずれがなく安定・高信頼・保守が容易であり、またファイバー出力のためビーム品質に優れている。また、歯科用認定金属材料、金属(各種合金を含む)製やセラミックス製の補綴物への微細な刻印性能も非常に優れており、小さな面積の刻印であっても耐久性、読取性能等の品質に優れた前記識別情報の刻印をおこなうことができる。また、長い耐用年数を有し、製造装置の維持費を抑制することができる。
【0028】
また、本発明に係る歯科用補綴物(1)は、上記製造方法(1)〜(4)のいずれかの方法により製造され、前記識別情報、及び/又は前記個人情報が刻印された刻印部が埋め込まれていることを特徴としている。
また、本発明に係る歯科用補綴物(2)は、上記製造方法(5)〜(7)のいずれかの方法により製造され、前記識別情報、及び/又は前記個人情報が刻印されていることを特徴としている。
【0029】
上記歯科用補綴物(1)によれば、前記刻印部が埋め込まれており、また、上記歯科用補綴物(2)によれば、前記識別情報、及び/又は前記個人情報が刻印されているので、これら歯科用補綴物(1)、(2)を使用することより、紛失した補綴物の使用者の特定や、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者(当該補綴物の着用者)を保護した際における身元の特定に広く有効活用することができる。
【0030】
また、本発明に係る歯科用補綴物(3)は、歯科技工用認証レーザー装置により固有の識別情報が刻印された刻印部を備え、前記識別情報が2次元コードであり、該2次元コードを構成する各セルサイズが、0.33mm角以上であり、前記刻印部の彫りの深さが、0.01μm〜0.11μmであることを特徴としている。
【0031】
上記歯科用補綴物(3)によれば、前記刻印部の品質や安全性等が確保され、また、小さな刻印サイズであっても、前記識別情報である2次元コードの読取性が十分に確保され、また、刻印箇所も確実に認識できるものとなっている。したがって、紛失した補綴物の使用者の特定や、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者(補綴物の着用者)を保護した際における身元の特定などに活用できる補綴物として、迅速に普及させることができる。
【0032】
また、本発明に係る歯科用補綴物(4)は、上記歯科用補綴物(3)において、前記刻印部が、歯科用認定金属薄板片で構成され、前記刻印部が、当該補綴物を構成する義歯床に埋め込まれていることを特徴としている。
【0033】
上記歯科用補綴物(4)によれば、前記義歯床に前記刻印部として構成する前記歯科用認定金属薄板片(すなわち、薬事法の医療機器認証(承認)を受けた歯科用金属薄板)が埋め込まれているので、前記刻印部の品質や安全性等が確保され、上記歯科用補綴物(3)と同様の効果を、床義歯や部分床義歯などの補綴物で得ることができる。
【0034】
また、本発明に係る歯科用補綴物(5)は、上記歯科用補綴物(3)において、前記刻印部が、当該補綴物を構成する歯科用認定部材に形成されていることを特徴としている。
上記歯科用補綴物(5)によれば、前記刻印部が、当該補綴物を構成する歯科用認定部材(すなわち、薬事法の医療機器認証(承認)を受けた歯科用部材)、例えば、金属製やセラミック製の人工歯、人工歯を支持する金属製の義歯床、義歯床を支持する金属製のバー部、又は人工歯を支台歯に掛止させる金属製の鉤部に形成されているので、前記刻印部の品質や安全性等が確保され、上記歯科用補綴物(3)と同様の効果を、前記歯科用認定部材を用いる補綴物で得ることができる。
【0035】
また、本発明に係る歯科用補綴物(6)は、上記歯科用補綴物(3)〜(5)のいずれかにおいて、前記刻印部に前記識別情報とともに文字情報が刻印され、該文字情報の線幅が0.1μm〜10μmであることを特徴としている。
上記歯科用補綴物(6)によれば、小さな文字サイズの情報であっても、該文字情報を十分に認識することができ、上記歯科用補綴物(6)を利用することにより、特に、病院などの施設内で紛失した補綴物の使用者を簡単に特定することが可能となる。
【0036】
また本発明に係る情報提供システムは上記歯科用補綴物の製造方法(1)〜(9)のいずれかの方法により製造された補綴物を利用して個人情報を提供する情報提供システムであって、前記補綴物に刻印された識別情報と、当該補綴物の使用者に関する個人情報とを関連付けて記憶するデータベースを有するデータセンターを含み、該データセンターが、前記補綴物に刻印された識別情報と、当該補綴物の使用者に関する個人情報とを関連付けて前記データベースに登録する登録手段と、読取手段で読み取られた前記識別情報に基づいて、該識別情報と関連付けられている前記個人情報に関する問い合わせを外部から受け付ける受付手段と、前記問い合わせを受け付けた場合に、前記識別情報に対応付けられた個人情報を前記データベースから抽出する抽出手段と、所定の回答許可要件を満たしているか否かを判断する判断手段と、該判断手段により所定の回答許可要件を満たしていると判断された場合、前記抽出手段により抽出された前記個人情報を前記外部からの問い合わせに対して回答する回答手段とを備えていることを特徴としている。
【0037】
上記情報提供システムによれば、前記データセンターにおいて、前記識別情報と前記個人情報とを関連付けた状態で一元的に管理することができる。また、前記識別情報に前記個人情報は含まれていないので、第3者が前記読取手段を利用して前記識別情報を読み取っただけでは前記個人情報は提供されない。また、前記データセンターでは、前記所定の回答許可要件を満たしている場合に、前記抽出手段により抽出された前記個人情報を前記外部からの問い合わせに対して回答するので、前記個人情報を適切に保護しつつ、前記個人情報を安全に提供することができ、紛失した補綴物の使用者の特定や、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者を保護した際における身元の特定に有効活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る歯科用補綴物の製造方法、歯科用補綴物、及び情報提供システムの実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0040】
図1は、実施の形態に係る歯科用補綴物の製造方法を説明するためのブロック図である。また、
図2は、実施の形態に係る歯科用補綴物の製造方法により製造された、識別情報が付与された異なる補綴物の一例を示した図であり、(a)は平面図、(b)は斜視図、(c)は平面図である。
【0041】
実施の形態に係る歯科用補綴物の製造方法では、歯科技工用認定レーザー装置、すなわち薬事法の医療機器認証(承認)を受けたレーザー装置を使用し、歯科用認定材料、すなわち薬事法の医療機器認証(承認)を受けた金属材料や金属製・セラミック製の補綴物にレーザーを照射して、固有の識別情報を刻印する工程を含んでいる。
【0042】
図1に示す歯科技工用認定レーザー装置(以下、レーザー装置と言う)10は、レーザー装置本体11と、レーザー装置本体11が設置されるとともに、レーザー刻印される歯科用認定金属材料1や補綴物(図示せず)が収納される筐体12と、レーザー装置本体11などに電源を供給する電源部13とを含んで構成されている。また、各種データの入力・設定やレーザー装置本体11などの制御条件などを設定するためのコンピュータ装置20がレーザー装置10に接続されている。
【0043】
レーザー装置本体11は、ファイバーレーザー装置、より好ましくはイッテルビウム添加ファイバーレーザー装置で構成することが好ましいが、これに限定されない。さらにイッテルビウム添加ファイバーレーザー装置を用いることで、低出力レーザー光を、イッテルビウムが添加された光ファイバー内で増幅させて、安定的にレーザーを生成することができる。また、本体内に設置されている増幅レーザーダイオードはレーザー照射中のみ点灯し、元光となるレーザーダイオードは小出力のもので構成され、レーザー発振器として長寿命を実現できる構成となっている。また、レーザー装置本体11は、ファンレス構造により粉塵や水などの影響を受けにくく、小型耐環境性能に優れているものとなっている。レーザー装置本体11は、クラス4のレーザー装置で構成することができる。
【0044】
筐体12には、一側面に出退移動自在な引出部12aが設けられ、引出部12aの内部に台部12bが配設され、台部12bに位置決め治具12cが配設されている。位置決め治具12cは、歯科用認定金属材料(金属薄板)1や図示しない補綴物を所定のレーザー照射位置に把持・固定するための治具である。また、台部12bには、台部12bを水平方向に移動させるスライド機構12dと、台部12bを垂直方向に移動させる昇降機構12eとが設けられている。スライド機構12dや昇降機構12eは、コンピュータ装置20からの制御指令に基づいて電動駆動する各種アクチュエータ、自動ステージ、XYZ軸ロボット機構などで構成することができる。これら機構により位置決め治具12cに固定された対象物(歯科用認定金属材料1など)が所定のレーザー照射位置にセットできるように位置制御可能となっている。また、固定する対象物(歯科用認定金属材料1や補綴物の種類など)によって位置決め治具12cを取り換え可能な構成とすることもできる。
位置決め治具12cの形状や構造は特に限定されないが、例えば、平面視略コの字形状で、該コの字形状部の略中央付近に台部12bに固定するためのネジ部材などの固定具が設けられた構造とすることができる。前記コの字形状部の両端部が押え部として機能し、該両端部と台部12bとの間に、レーザー刻印される対象物(歯科用認定金属材料1など)を配置して固定できる構造を採用することができる。また、台部12bの形状も特に限定されないが、例えば、台部12bの表面に、位置決め治具12cと刻印対象物とを正確に設置することができる段部(凹部)が形成された構造、又は複数の凹部が所定間隔を設けて形成され、これら凹部にレーザー刻印される人工歯(義歯)などを嵌め込み、位置決め固定する構造などが採用される。
【0045】
コンピュータ装置20は、表示パネルなどで構成される表示部21、キーボードやタッチパネルなどで構成される操作部22、外部機器とのデータ通信可能に接続するための各種インターフェースを含む入出力部23、CPU・RAM・ROMなどを含んで構成される制御部24、ハードディスクやフラッシュメモリなどで構成される記憶部25などを含んで構成されている。コンピュータ装置20は、入出力部23を介してレーザー装置10、筐体12のスライド機構12d・昇降機構12eに接続され、コンピュータ装置20を介してレーザー装置10の制御条件や刻印する識別情報などのデータ入力及び登録、スライド機構12d・昇降機構12eの駆動制御条件の設定などが行えるようになっている。
【0046】
コンピュータ装置20の制御部24には、(1)補綴物2に付与される識別情報1aや補綴物2を使用する個人情報3aの入力を受け付けて登録し、識別情報1a(例えば、英数字からなる情報)を2次元バーコードの一種であるデータマトリックスコードに変換するためのソフトウェア、(2)レーザー装置10の駆動制御を行うソフトウェア、(3)筐体12のスライド機構12d、昇降機構12eを駆動制御するソフトウェアなどが記憶されている。また、入出力部23には、USBメモリなどの外部記憶媒体30が接続可能となっており、コンピュータ装置20に入力された、補綴物2に割り当てられた固有の識別情報1aと、補綴物2の使用者の個人情報3aとを関連付けた状態で外部記録媒体30に記憶することが可能となっている。
【0047】
補綴物2に付与される識別情報1aとしてのデータマトリックスコードは、2次元バーコードの1つであり、水平方向と垂直方向に情報を有し、モジュール(セル)と呼ばれる小さな正方形を集合させた形状を有している。データマトリックスには、Data Matrix ECC200 (ISO/IEC 16022規格)、Data Matrix ECC200を元にしたGS1 Data Matrixが含まれる。
データマトリックスコードは、多くのデータ(数字最大3116文字、英数字2335文字、バイナリーデータ1556文字)のコード化が可能であり、QRコード(登録商標)と比較してサイズの小型化が可能であり、省スペースでデータの高密度化が可能であり、また、自動エラー検出と修正による高度読取信頼性を有している。
【0048】
次に実施の形態に係る歯科用補綴物の製造方法について説明する。
本実施の形態では、補綴物2が有床義歯である場合について説明する。また、ここでは、有床義歯が略完成しており、最後の工程で刻印部1bが補綴物2に取り付けられる場合について説明する。
実施の形態に係る歯科用補綴物の製造方法は、補綴物2に割り当てる固有の識別情報1aと、補綴物2の使用者に関する個人情報3aとを関連付けた状態でコンピュータ装置20に登録する情報登録工程(S1)と、レーザー装置10を用いて歯科用認定金属材料1にレーザーを照射して識別情報1aとしてのデータマトリックスコードを刻印する刻印工程(S2)と、歯科用認定金属材料1から識別情報1aを含む刻印部1bを切り離し、歯科用認定固着材料2cを用いて刻印部1bを補綴物2に取り付ける取付工程(S3)とを含んでいる。
【0049】
以下、詳細に説明する。まず、情報登録工程(S1)では、コンピュータ装置20の情報登録用ソフトを開き、有床義歯の使用者のカルテ(診療記録データ又は製造注文書等)3に記載されている個人情報3a、例えば氏名、住所、連絡先、性別などを、操作部22を操作して入力する。なお、カルテ3をOCR(文字認識)ソフトで読み取り、文字変換されたデータを入力データとして使用することもできる。コンピュータ装置20には、入力された個人情報3aと、当該有床義歯に固有の識別情報1aとを対応付けた状態で登録(記憶)される。固有の識別情報1aは、データマトリックスコードに変換される所定桁数(例えば15桁〜32桁前後)の英数字などで構成され、コンピュータ装置20が任意に割り付ける、又は作業者が入力又は選択するようになっている。そして、コンピュータ装置20が、識別情報1aを、光学式読取装置で読み取り可能なデータマトリックスコードに変換する処理を行うようになっている。なお、識別情報1aには、後述するデータセンター50の連絡先(電話番号)データをさらに格納するようにしてもよい。識別情報1aに、データセンター50の連絡先データを格納しておけば、補綴物2に付された識別情報1aを第3者が光学式読取装置で読み取った場合に、該光学式読取装置に連絡先を提示することができ、その後の問合せ作業をスムーズに行うことができる。
【0050】
次の刻印工程(S2)では、まず、レーザー装置10の筐体12から引出部12aを引き出し、台部12bの位置決め治具12cに、レーザー刻印を行う歯科用認定金属材料1を固定し、引出部12aを筐体12内に収容する。
【0051】
レーザー刻印される歯科用認定金属材料1は、医療機器認証を受けている金属材料であれば特に限定されない。例えば、ニッケル・クロム合金、金銀パラジウム合金、金合金、白金合金、コバルトクロム合金、アルミ・コバルトクロム合金、チタン・チタン合金、ミロ(銀合金)などを使用することができる。歯科用認定金属材料の形状は、レーザー照射に耐え得る厚さの薄板形状(厚さ0.05mm〜0.1mm程度)が好ましいが、これに限定されない。
次にコンピュータ装置20で、歯科用認定金属材料1にデータマトリックスコードとして刻印する識別情報1aと、データマトリックスコードとともに刻印する個人情報(氏名)3aとを指定し、さらに、台部12bの水平・垂直方向の位置設定、レーザー装置本体11のレーザー照射条件の設定などを行い、歯科用認定金属材料1に、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードと、個人情報3aとしての氏名とをレーザー刻印する。
【0052】
レーザー装置本体11の設定条件として、例えば、レーザーパワー:平均出力10W〜20Wの30%程度、印字方式:ガルバノスキャンティング方式、印字レーザー:波長1,064nm、クラス4レーザー、スキャンスピード:500nm/sec、周波数:32KHz、印字時間:38msec等の条件に設定することができるが、これに限定されるものではない。
また、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードを構成する各セルサイズが、好適には0.33mm角以上、0.8mm角以下、より好ましくは、0.6mm角以下となるように設定され、刻印部1bの彫りの深さは、0.01μm〜0.11μmとなるように設定されている。
また、レーザー刻印される個人情報3aとしての文字(氏名)の線幅は、0.1μm〜10μmとなるように設定されている。また、刻印部1bは、凹部と凸部とで色が異なるものとなるようにレーザー刻印されており、識別情報1aの視認性が高められている。
【0053】
刻印処理が完了したら、引出部12aから歯科用認定金属材料1を取り出し、次に取付工程(S3)に進む。引出部12aから取り出された歯科用認定金属材料1には、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードと、個人情報3aとしての氏名とが対(上下)に並んだ状態で刻印され、また、データマトリックスコードの外周部分は、刻印部1bとして切り離しが容易となるようにレーザーで切り込み加工が施されている。識別情報1aとしてのデータマトリックスコードは、1mm角〜15mm角程度の大きさで刻印可能であり、レーザー刻印により小さなサイズでも高精細なマーキングが可能となっている。
【0054】
また、歯科用認定金属材料1には、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードと、個人情報3aとしての氏名とが対に並んだ状態で刻印されているが、これらの刻印形態は、これに限定されない。例えば、
図1に示したように、氏名の中央部にデータマトリックスコードを刻印した形態としてもよい。ただしこの場合は、氏名とデータマトリックスコードを含む部分が刻印部1bとして切り離して使用される。
【0055】
取付工程(S3)では、歯科用認定金属材料1から識別情報1aとしてのデータマトリックスコードを含む刻印部1bを切り離し、刻印部1bを有床義歯2の所定位置、例えば、樹脂(レジン)で形成された義歯床2aに取り付ける。
【0056】
義歯床2aへの取付方法は、歯科用認定固着材料2c(歯科用接着材料・樹脂材料など)を用いて固着する方法であれば、特に限定されない。例えば、義歯床2aの表面に、刻印部1bを埋め込むための窪み部(凹部)を形成し、該窪み部に刻印部1bを配設した後、刻印部1bの表面及び周囲を透明な歯科用認定固着材料(アクリルレジンなど)2cで被覆して硬化させ、その表面を研磨して仕上げる方法などが採用され得る。
【0057】
図2(a)には、上記の方法で製造された、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードが付された有床義歯2を示している。
有床義歯2は、人工歯(義歯)2bと、人工歯2bを支持する義歯床2aを備え、レジンなどの樹脂製の義歯床2aに、識別情報1aを含む刻印部1bが、光学式読取装置(バーコードリーダーや情報携帯端末など)で読み取り可能な態様で固着されている。また、上記と同様の方法により部分床義歯の義歯床にも識別情報1aとしてのデータマトリックスコードが刻印された刻印部1bを取り付けることができる。
【0058】
上記実施の形態では、補綴物2が有床義歯や部分床義歯であって、樹脂製の義歯床2aに歯科用認定金属材料1からなる刻印部1bを取り付ける方法について説明したが、刻印部1bの形成方法はこれに限定されない。
【0059】
別の実施の形態では、
図2(b)に示すように、補綴物が、レーザー照射に耐久性を有する金属製やセラミック製などの歯科用材料からなる人工歯2Aである場合、上記刻印工程(S2)において、レーザー装置10における引出部12aの位置決め治具12cに人工歯2Aを位置決め固定し、該人工歯2Aに、直接、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードと、必要性に応じて個人情報3aとをレーザー刻印することができる。この場合は、上記取付工程(S3)は不要となる。
【0060】
図2(b)に示した人工歯2Aは、歯科用の金属材料又はセラミックス材料(ジルコニアなど)からなり、人工歯2Aの側面(口腔内に取り付けた状態で視認可能な位置)に、光学式読取装置で読み取り可能なデータマトリックスコード(識別情報1a)を含む刻印部1bが形成されている。刻印部1bは、摩耗等に対する耐久性が高いため、表面を別途樹脂等で被覆する処理が不要である。
【0061】
さらに別の実施の形態では、
図2(c)に示すように、補綴物が有床義歯や部分床義歯2Bであって、これら義歯2Bに歯科用金属部材(例えば、金属製の義歯床、義歯床を架け渡した状態で支持するための金属製の支持バー2d、人工歯2bを支台歯(図示しない)に掛止させるための金属製の鉤部2eなど)が使用されている場合、上記人工歯2Aの場合と同様に、上記歯科用金属部材(支持バー2dや鉤部2e)に直接、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードを含む刻印部1bを形成することができる。
【0062】
この場合は、上記刻印工程(S2)として、補綴物2Bが略完成した状態で最後に上記歯科用金属部材2d、2eにレーザー装置10による刻印部1bを形成する方法、又は、先に上記歯科用金属部材2d、2eにレーザー装置10による刻印部1bを形成した後、該刻印部1bが形成された歯科用金属部材2d、2eを用いて補綴物2Bを作製する方法が採用され得る。
図2(c)に示した部分床義歯2Bは、義歯床2aを支持する支持バー2dや支台歯に掛止させる鉤部2eに、光学式読取装置で読み取り可能な刻印部1bが形成されている。
【0063】
上記実施の形態に係る歯科用補綴物の製造方法によれば、レーザー装置10、歯科用認定金属材料1、歯科用認定固着材料2c、支持バー2d、鉤部2eといった薬事法の医療機器認証を受けた歯科用医療機器・歯科用材料を使用するので、製造時に使用する医療機器や医療材料の性能・品質・安全性等が承認された方法で、固有の識別情報1aが刻印された補綴物2、2A、2Bを製造することができ、識別情報1aが刻印された補綴物2、2A、2Bを迅速に広く普及させることが可能となる。
また、識別情報1aを刻印する際に使用されるレーザー装置10は、小さな刻印サイズでも読取性の高い識別情報を刻印することができるものとなっている。識別情報1aが、光学式読取コードであるデータマトリックスコードであるので、QRコード(登録商標)などと比べて刻印面積を小さくすることができるとともに、誤り訂正機能に優れ、コードの約3分の1が読み取り不可状態となったとしてもデータの読み取りが可能であり、また携帯情報端末のバーコード読取機能(アプリ)又は専用の読取装置(バーコードリーダー)で読み取ることができる。
【0064】
また、上記刻印工程(S2)において、筐体12内に配設された位置決め治具12cで歯科用認定金属材料1を所定の最適なレーザー照射位置に位置決め固定した後、レーザーを照射して識別情報1aなどを刻印するので、小さな刻印サイズでも読取性が高くしかも耐久性の高い、高精細・高耐久性を有する識別情報1aなどを刻印することができる。
また、刻印工程(S2)において、歯科用認定金属材料1に、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードと、個人情報3aとしての氏名とが対応付けて刻印されているので、補綴物2への取付工程において、識別情報1aが誰のものであるのかを個人情報3aから把握することができる。したがって、刻印部1bを他人の補綴部に取り付けるミスを防止することができる。
また、刻印部1bに、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードと、個人情報3aとしての氏名を含む場合は、特に施設等の内部で、紛失した補綴物の使用者(持ち主)を調べる際には、刻印部1bの氏名を参照することで、簡単に使用者を特定することができ、便利である。
【0065】
また、上記歯科用補綴物の製造方法によれば、レーザー装置10を用いることで、人工歯2A、人工歯を支持する義歯床2a、義歯床2aを支持する支持バー2d、又は支台歯に掛止させる鉤部2eに直接、識別情報1aを刻印することができ、種々の補綴物に広く適用することができる。
また、レーザー装置10が、イッテルビウム添加ファイバーレーザー装置であるので、細いファイバー内に光を閉じこめているためエネルギー変換効率が高く、ファイバーは細くて表面積が大きいので冷却が容易で高出力化でき、ファイバーと光部品を一体化できるため光軸ずれがなく安定・高信頼・保守が容易であり、ファイバー出力のためビーム品質に優れている。歯科用認定金属材料、金属(各種合金を含む)製やセラミックス製の補綴物への微細な刻印性能も優れており、小さな面積の刻印であっても耐久性、読取性能等の品質に優れた前記識別情報の刻印をおこなうことができる。長い耐用年数を有し、Nd:YAGレーザーで行う必要があるポンプチェンバーのメンテナンスが不要であり、取扱性に優れ、また装置維持費を抑制することができる。
【0066】
また、歯科用補綴物2、2A、2Bによれば、刻印部1bの品質や安全性等が確保され、また、小さな刻印サイズであっても、識別情報1aとしてのデータマトリックスコードの読取性が十分に確保され、また、刻印箇所も確実に認識できるものとなっている。したがって、紛失した補綴物の使用者の特定や、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者(補綴物の着用者)を保護した際における身元の特定などに活用できる補綴物として、迅速に普及させることができる。
【0067】
次に実施の形態に係る情報提供システムについて説明する。
図3は、実施の形態に係る情報提供システムの概略構成を示したブロック図である。
情報提供システム100は、事故又は災害時における身元不明者、或は徘徊した認知症患者を保護した場合などにおいて、上記方法で製造された識別情報1aとしてのデータマトリックスコードの刻印部1bが付された補綴物2(2A、2B)を用いて個人情報(身元を特定するための情報)を提供するシステムである。
【0068】
情報提供システム100は、データセンター50を含んで構成されている。データセンター50は、一箇所に設ける場合だけでなく、複数箇所に分散させて設けてもよい。データセンター50は、受付装置60、データベースサーバ(コンピュータ)70、及び回答装置80を含んで構成されている
【0069】
受付装置60は、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者を保護した場合などにおいて、光学式読取装置(バーコードリーダー44、携帯電話・スマートフォンなどの携帯端末装置43)で読み取られた、身元不明者が装着している補綴物2に付された刻印部1bの識別情報1aに基づいて、識別情報1aと関連付けられている個人情報(身元特定情報)に関する外部からの問い合わせを受け付ける機能(受付手段)を備えている。受付装置60は、電話回線40(アナログ回線、デジタル回線、携帯電話網(基地局42を含む)など)に接続され、音声通話機能、自動音声応答機能などを有する電話装置61(通信機器)、パーソナルコンピュータ(PC)62などを含んで構成されている。
【0070】
外部から受付処理は、問い合わせ元の固定電話41や携帯端末装置43などの通話可能な通信機器から着呼を受付装置60で受け付けて通話状態が確立した場合に、オペレーターによる受付処理、又は自動音声による受付処理が開始される。
【0071】
データベースサーバ70は、表示部71、操作部72、入出力部73、制御部74、及びデータベース(記憶部)75などを含むコンピュータ装置で構成されている。
データセンター50は、レーザー装置10に接続されたコンピュータ装置20から、個々の補綴物2の識別情報1a、これら識別情報1aに対応付けて登録された個人情報3aのデータを収集し、データベース75に登録する機能(登録手段)を備えている。コンピュータ装置20からの前記データの収集方法には、これらデータが格納された外部記憶媒体30を郵送等により収集する方法、セキュリティが確保された専用線でのデータ通信等により収集する方法が採用され得る。
【0072】
また、データセンター50は、受付装置60で、外部から問い合わせを受け付けた場合に、受け付けた識別情報1aと、データベース75に登録されている識別情報1aとを照合して、前記受け付けた識別情報1aに対応付けられた個人情報3aをデータベース75から抽出する機能(抽出手段)を備えている。
さらに、データセンター50は、受付装置60で受け付けた問い合わせ元(固定電話41や携帯端末装置43)に対して、抽出した個人情報3aを回答してよいか、すなわち、所定の回答許可要件を満たしているか否かを判断する機能(判断手段)を備えている。
【0073】
回答装置80は、所定の回答許可要件を満たしていると判断した場合に、前記抽出手段により抽出された個人情報3aを前記問い合わせ元に対して回答する機能(回答手段)を備えており、電話回線(アナログ回線、デジタル回線など)40に接続され、音声通話機能、自動音声応答機能などを有する電話装置(通信機器)81、パーソナルコンピュータ(PC)82などを含んで構成されている。
外部への回答処理は、回答装置80から電話回線40を介して、問い合わせ元の固定電話41や携帯情報端末43に発呼して、通話状態が確立した場合に、オペレーターによる回答処理、又は自動音声による回答処理が開始される。
【0074】
データベース75には、識別情報1aを付した補綴物2を作製した歯科医院側から送付されてきた外部記憶媒体30に格納されたデータを集計し、これらデータが一元的に登録されるようになっている。個々の補綴物2に付与された識別情報1aと、該識別情報1aに対応付けられた個人情報3a(例えば、氏名、住所、連絡先(電話番号)の他、必要に応じて、性別、血液型、当該補綴物を作製した歯科医院の連絡先などを含めることが可能である)とが関連付けられた状態で登録されている。
【0075】
次に実施の形態に係る情報提供システム100を構成するデータセンター70で行われる処理動作について、
図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS11では、受付装置60において、外部(固定電話41や携帯端末装置43)から問い合わせがあったか否かを、例えば、電話装置61の着呼により判断し、問い合わせがあったと判断すればステップS12に進み、受付処理を開始する。
【0076】
ステップS12の受付処理は、オペレーターによる音声受付処理、又は自動音声応答ソフトによる自動音声受付処理などで行われる。すなわち、電話装置61で通話(通信)状態が確立すると、問い合わせ元(問い合わせ者)の氏名、連絡先(電話番号)、所属(会社名など)、及び/又は住所などの問い合わせ元情報と、補綴物2に付された識別情報1a(バーコードリーダー44や携帯情報端末43で読み取られた情報)とを受け付ける処理(聞き取って確認・記録する処理)を行い、前記識別情報1aに対応する個人情報については、確認後折り返し、前記連絡先に連絡する旨の返答処理を行い、通話を切断し、ステップS13に進む。なお、受け付けた情報は、オペレーターによりPC62に入力される、又は自動音声受付で受け付けた音声データがPC62に転送され、PC62で、照合処理用のデータ形式に変換される。
【0077】
ステップS13では、データベースサーバ70において、受付装置62から前記受け付けた情報(問い合わせ元情報及び識別情報1a)を受け取り、前記受け付けた識別情報1a、データベース75に格納されている識別情報との照合処理(検索処理)を行い、ステップS14に進む。
【0078】
ステップS14では、前記受け付けた識別情報1aに対応する識別情報がデータベース75にあるか(登録済みか)否かを判断し、データベース75にあると判断すればステップS15に進む。ステップS15では、データベース75から前記識別情報1aに対応付けられた個人情報3aを抽出する処理を行い、ステップS16に進む。
【0079】
ステップS16では、問い合わせ元情報に基づいて、抽出した個人情報3aの回答を許可してもよいか(回答許可要件を満たしているか)否かを判断し、回答許可要件を満たしていると判断すればステップS17に進む。
【0080】
ステップS16においては、例えば、入手した問い合わせ元情報が、項目に漏れがなく正確に記録されている場合、又は問い合わせ元の連絡先が、図示しない連絡先データベースに登録された連絡先(例えば、警察署など)である場合などに、回答許可要件を満たしていると判断する。
【0081】
ステップS17では、回答装置80において、回答処理を行う。すなわち、電話装置81から問い合わせ元の固定電話41や携帯端末装置43に発呼して、通話状態が確立すると、前記問い合わせを受けた識別情報1aに対応する個人情報3aを音声で回答する処理(オペレーターによる音声回答、又は自動音声による回答)が行われ、回答が完了すると、通話を切断し、処理を終える。
【0082】
一方、ステップS14において、対応する識別情報がデータベース75にないと判断すればステップS18に進む。ステップS18では、回答装置80において、識別情報未登録回答処理を行う。すなわち、問い合わせ元の固定電話41や携帯端末装置43に発呼して、通話状態が確立すると、前記問い合わせを受けた識別情報1aが登録されておらず、対応する個人情報を回答できない内容の回答処理(オペレーターによる音声回答、又は自動音声による回答)を行い、その後ステップS19に進む。
ステップS19では、識別情報1aの再受付処理を行い、識別情報1aを再度受け付けたと判断すればステップS12に戻り処理を繰り返す一方、識別情報1aの再受付けがないと判断すれば、通話を切断し、処理を終える。
【0083】
また、ステップS16において、回答許可要件を満たしていないと判断すれば、ステップS20に進む。ステップS20では、回答装置80において、問い合わせ元情報不適合回答処理を行う。すなわち、問い合わせ元の固定電話41や携帯端末装置43に発呼して、通話状態が確立すると、前記問い合わせ元の情報に不備があり、対応する個人情報を回答できない内容の回答処理(オペレーターによる音声回答、又は自動音声による回答)を行い、その後ステップS21に進む。
【0084】
ステップS21では、問い合わせ元情報の再受付処理を行い、問い合わせ元情報を再度受け付けたと判断すればステップS16に戻り処理を繰り返す一方、問い合わせ元情報の再受付けがないと判断すれば、通話を切断し、処理を終える。
なお、別の実施の形態では、ステップS16において、回答許可要件を満たしていないと判断した場合、問い合わせ元には回答せずに、個人情報として登録されている連絡先に発呼して、使用者の安否確認や問い合わせ元情報の提供などを行うようにしてもよい。
【0085】
上記実施の形態に係る情報提供システム100によれば、データセンター50において、識別情報1aと個人情報3aとを関連付けた状態でデータベース75に一元的に管理することができる。また、識別情報1aには個人情報3が含まれていないので、第3者がバーコードリーダー44や情報端末装置43を利用して補綴物2の識別情報1aを読み取っただけでは個人情報は提供されない。また、データセンター50では、所定の回答許可要件を満たしている場合に、個人情報3aを外部からの問い合わせに対して回答するので、個人情報3aを適切に保護しつつ、個人情報3aを安全に提供することができ、紛失した補綴物の使用者の特定や、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者を保護した際における身元の特定に有効活用することができる。また、データベースサーバ70は、データセンター50の外部からアクセスができない通信環境(インターネット等に接続されていない環境)で使用されるので、外部からの不正アクセスにより個人情報が流出することが防止できる。
【0086】
また、上記歯科用補綴物2によれば、刻印部2bが埋め込まれているので、刻印部2bに刻印された識別情報1aをバーコードリーダー44などで読み取ることができ、また、上記歯科用補綴物2A、2Bによれば、当該補綴物に刻印された識別情報1aをバーコードリーダー44などで読み取ることができ、紛失した補綴物の使用者の特定や、事故又は災害時、或は徘徊した認知症患者(当該補綴物の着用者)を保護した際における身元の特定に広く有効活用することができる。