【解決手段】 検査の対象の対象者が発話した音声を含む音声データを用い、対象者における健康の度合いを示す健康値を算出する第1算出部と、ストレスに関するアンケートに対する対象者の回答を含む回答データを用い、対象者においてストレスの影響を受けている度合いを示すストレス値を算出する第2算出部と、健康値とストレス値とに基づいて、対象者の健康状態を推定する推定部とを有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて実施形態について説明する。
【0021】
図1は、健康推定装置の一実施形態を示す。
【0022】
図1に示した健康推定装置100は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置と、ハードディスク装置やメモリ等の記憶装置とを有するコンピュータ装置、あるいはスマートフォン等の携帯通信端末である。健康推定装置100は、第1算出部10、第2算出部20および推定部30を有する。例えば、健康推定装置100の演算処理装置は、記憶装置に記憶される健康推定プログラムを実行することにより、第1算出部10、第2算出部20および推定部30として機能する。なお、第1算出部10、第2算出部20および推定部30は、健康推定装置100に搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。
【0023】
なお、健康推定プログラムは、例えば、光ディスク等に記録して頒布することができる。また、健康推定プログラムは、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬型記憶媒体に記録して頒布されてもよい。あるいは、健康推定装置100は、健康推定プログラムを、健康推定装置100に含まれるネットワークインタフェースを介して、ネットワークを通じてダウンロードし、記憶装置に格納してもよい。
【0024】
第1算出部10は、健康推定装置100に含まれるマイクロホンを介して、推定の対象である対象者が発話した音声を含む音声データを取得する。第1算出部10は、例えば、特許文献3と同様に、取得した音声データを用いて、音声のピッチ周波数や基本周波数等を算出し、怒り、喜び、悲しみ、平常等の各感情が出現している度合いを発話単位毎に求める。そして、第1算出部10は、例えば、求めた各感情の度合いに基づいて、対象者の元気の度合いを示す元気圧を、対象者における健康の度合いとして算出する。第1算出部10は、算出した元気圧を推定部30に出力する。元気圧は、健康値の一例である。
【0025】
なお、対象者の音声データは、健康推定装置100の記憶装置に予め記憶されてもよく、ネットワーク等を介して、サーバ等の外部の装置から取得されてもよい。
【0026】
第2算出部20は、ストレスに関するアンケート、例えば、厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムで示される職業性ストレス簡易調査票の設問を、健康推定装置100に含まれる液晶等のディスプレイに表示させる。そして、第2算出部20は、健康推定装置100に含まれるキーボードやタッチパネル等を介して、アンケートに対する対象者の回答を回答データとして取得する。第2算出部20は、アンケートに応じて定義される対象者の回答データに対する採点の処理を実行し、対象者においてストレスの影響を受けている度合いを示すストレスリスク値を算出する。第2算出部20は、算出したストレスリスク値を推定部30に出力する。ストレスリスク値は、ストレス値の一例である。
【0027】
推定部30は、第1算出部10が算出した元気圧と、第2算出部20が算出したストレスリスク値とに基づいて、対象者の健康状態を推定する。例えば、推定部30は、元気圧とストレスリスク値とに対してクロス集計等の処理を実行し、対象者の健康状態を推定する。そして、健康推定装置100は、推定部30により推定された結果を健康推定装置100のディスプレイに表示する。
【0028】
図1に示した実施形態では、第1算出部10は、対象者が発話した音声データを用いて対象者における怒り等の複数の感情の度合いを算出し、算出した各感情の度合いに基づいて対象者の元気の度合いを示す元気圧を算出する。そして、推定部30は、対象者の感情状態を考慮して算出された対象者の元気圧を、ストレスリスク値と合わせて用いることにより、アンケートの回答時における対象者の心理的な影響を補正でき、被験者の健康状態を客観的に推定できる。この結果、健康推定装置100は、対象者がアンケートに対して真実を回答しない場合でも、対象者の健康状態を正確に推定することができる。
【0029】
図2は、健康推定システムの別の実施形態を示す。
【0030】
図2に示した健康推定システムSYSは、例えば、携帯通信端末200およびサーバ300を有する。携帯通信端末200は、携帯電話通信網またはWi−Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)等の通信規格に基づいて、ネットワークNTを介してサーバ300に接続される。これにより、健康推定システムSYSは、携帯通信端末200とサーバ300との協働により、健康推定装置として動作する。
【0031】
なお、健康推定システムSYSの一部、例えば、サーバ300は、会社等の組織内のイントラネットで構成されていてもよく、インターネット上にクラウドとして構築されていてもよい。
【0032】
また、
図2では、1つの携帯通信端末200がサーバ300に接続されるが、複数の携帯通信端末200がサーバ300に接続されてもよい。
【0033】
図2に示した携帯通信端末200は、スマートフォンやタブレット型端末等であり、マイク部210、入力部220、表示部230、通信部240、第1算出部250および第2算出部260を有する。例えば、携帯通信端末200に含まれるCPU等の演算処理装置は、携帯通信端末200に含まれるメモリ等の記憶装置に記憶される健康推定プログラムを実行することにより、第1算出部250および第2算出部260として機能する。なお、第1算出部250および第2算出部260は、携帯通信端末200に搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。
【0034】
マイク部210は、マイクロホン等であり、対象者が発話する音声を受信し、受信した音声をアナログの電気信号に変換する。マイク部210は、例えば、マイク部210に含まれるAD(Analog-to-Digital)変換回路を用いて、アナログからデジタルの電気信号に変換し、デジタルの電気信号を第1算出部250に出力する。
【0035】
入力部220は、例えば、表示部230の表面に配置されるタッチパネル等であり、対象者からの入力指示を受ける。入力部220は、例えば、アンケートに対する回答を対象者からの入力指示として受け、受けた回答を第2算出部260に出力する。
【0036】
表示部230は、液晶等のディスプレイであり、アンケート等を表示するとともに、サーバ300から受信したデータを表示する。
【0037】
通信部240は、例えば、携帯電話通信網またはWi−Fi等の通信規格に基づいて、データを含む信号を、ネットワークNTを介して、携帯通信端末200からサーバ300に送信する。また、通信部240は、ネットワークNTを介して、サーバ300からのデータを含む信号を受信する。通信部240は、第1送信部および第1受信部の一例である。
【0038】
第1算出部250は、マイク部210を介して、対象者が発話した音声のデジタルの電気信号を、音声データとして取得する。第1算出部250は、例えば、
図1に示した第1算出部10と同様に、取得した音声データから、音声のピッチ周波数や基本周波数等を算出し、怒り、喜び、悲しみ、平常等の各感情が出現している度合いを発話単位毎に求める。そして、第1算出部250は、例えば、求めた各感情の度合いに基づいて、対象者の元気の度合いを示す元気圧を算出する。
【0039】
また、第1算出部250は、例えば、元気圧を算出した時点を基準にして、所定の期間(例えば、14日間等)前までに算出した元気圧を用いて、所定の期間における元気圧の平均値と分散値とを算出する。そして、第1算出部250は、算出した分散値で平均値を重み付けした値を、活量値(すなわち、平均的な元気圧)として算出する。第1算出部250は、算出した元気圧および活量値を通信部240に出力するとともに、携帯通信端末200の記憶装置に記憶する。所定の期間は、第1期間の一例である。
【0040】
なお、第1算出部250は、対象者が発話した音声を取得するために、例えば、表示部230に所定の定型文を表示し、対象者に表示された所定の定型文を発話させてもよい。これにより、第1算出部250は、定期的に、対象者の音声データを取得でき、対象者の元気圧を算出できる。また、表示部230に表示される所定の定型文は、特定の感情を含まない“いろはにほへと”や“ABCDEFG”等でもよく、“あなたのお名前は”や“あなたの誕生日はいつですか”等の質問でもよい。そして、所定の定型文を含むデータは、携帯通信端末200の記憶装置に記憶されてもよく、サーバ300に記憶されてもよい。なお、所定の定型文のデータがサーバ300に記憶される場合、第1算出部250は、ネットワークNTを介して、所定の定型文のデータをサーバ300から取得する。
【0041】
また、第1算出部250は、算出した元気圧および活量値を、対象者を示す情報と対応付けして、サーバ300に記憶してもよい。
【0042】
第2算出部260は、ストレスに関するアンケートとして、例えば、厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムで示される職業性ストレス簡易調査票を、表示部230に表示する。第2算出部260は、入力部220を介して、職業性ストレス簡易調査票に対する対象者の回答を回答データとして取得する。なお、第2算出部260は、職業性ストレス簡易調査票を用いたが、他の形式のアンケートを用いてもよい。アンケートのデータは、携帯通信端末200の記憶装置またはサーバ300に予め記憶され、第2算出部260は、アンケートのデータを携帯通信端末200の記憶装置またはサーバ300から読み出し、表示部230に表示する。
【0043】
また、アンケートの回答は、マークシート方式等のアンケートの紙面を用いて行われてもよい。この場合、対象者の回答の結果は、マークシートを読み取る装置を用いて読み取られ、対象者の携帯通信端末200毎に送信されてもよく、サーバ300に対象者毎に記憶されてもよい。あるいは、ネットワークNTに接続されたコンピュータ装置等の端末装置を用いて、アンケートに対する回答を対象者に行わせてもよい。この場合、例えば、e−ラーニングのような、社内向けまたは一般向けにネットワーク上に供されたアンケートに回答する形式であれば、利便性の点から好ましい。
【0044】
また、アンケートの回答は、対象者毎にスタンドアローンの状態で行い、採点も対象者自身で計算し、採点結果(ストレスリスク値)のみをオンラインで入力する方法としてもよい。この場合、回答内容の詳細については、携帯通信端末200またはサーバ300上に記録されない。
【0045】
第2算出部260は、例えば、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートに応じて定義される採点の処理を、対象者の回答データに実行し、対象者が受けているストレスに関する情報を取得する。ストレスに関する情報には、例えば、対象者が受けるストレス強度の尺度、対象者の自覚症状の尺度、対象者のストレスに対する耐性の尺度、対象者のストレス状態からの回復性の尺度、および対象者に対する周囲のサポートの尺度の少なくとも1つが含まれる。
【0046】
対象者が受けているストレス強度の尺度は、対象者が質問に回答する時点で対象者が受けているストレスの強度を示す。ストレス強度の尺度は、例えば、職業性ストレス簡易調査票の場合、全57問のうち領域「A」に含まれる17問に対する回答から求められる。なお、ストレス強度の尺度は、職業性ストレス簡易調査票等のように職場における心理的な負担の原因だけでなく、私生活一般におけるストレス要因と合わせて求められてもよい。また、例えば、対人ストレスイベント尺度(橋本剛、“大学生における対人ストレスイベント分類の試み”、社会心理学研究、第13巻第1号、pp.64-75、1997)等を用いて、ストレス強度の尺度が求められてもよい。
【0047】
対象者の自覚症状の尺度は、対象者が回答している時点における心理状態を示すもので、例えば、職業性ストレス簡易調査票の場合、領域「B」に含まれる29問に対する回答から求められる。自覚症状の尺度は、心理的な負担による心身の自覚症状をチェックするものであり、ストレスを受けた結果の状態を表す。なお、自覚症状の原因となるストレスの要因は、仕事に限らない。また、自覚症状の尺度は、例えば、Beck Depression Inventory (Beck et al.、“An Inventory for measuring depression”、Arch. Gen. Psychiatry、Vol.4、pp.561-571、1961)や、Self-Rating Depression Scale(Zunk et al.、“Self-Rating DeppressionScale in an Outpatient Further Validation of the SDS”、Arch. Gen. Psychiatry、Vol.13、pp.508-515、1965)等のうつ状態を測る尺度を用いて、求められてもよい。
【0048】
対象者への周囲のサポートの尺度は、職場の上司や同僚、家族、友人、近隣の人々等、対象者と接する人による協力の体制の状況を示す。対象者への周囲のサポートの尺度は、例えば、職業性ストレス簡易調査票の場合、領域「C」に含まれる9問の回答から求められる。周囲のサポートの尺度は、周囲のサポートが大きくなるに従って、対象者が受けるストレスが緩和されやすいことを示し、対象者のストレス耐性が高まる。なお、周囲のサポートの尺度は、大学生用ソーシャルサポート尺度(片受靖、大貫尚子、“大学生用ソーシャルサポート尺度の作成と信頼性・妥当性の検討”、立正大学心理学研究年報、第5号、pp.37-46、2014)等を用いて求められてもよい。
【0049】
対象者のストレスに対する耐性の尺度は、同じ程度のストレスを受けた場合に、精神的な障害を招きやすいかどうかを示す尺度であり、例えば、職業性ストレス簡易調査票の場合、領域「A」から領域「C」の設問の一部の回答を用いて求められる。なお、ストレスの耐性の尺度を求めるにあたり、どの設問の回答を用いて求めるかについては、適宜決定されることが好ましい。すなわち、ストレスの耐性の尺度については、ストレス脆弱性モデルで説明されているように、同じストレスを受けても発症する人と発症しない人が存在し、対象者がストレスに対する脆弱性が大きければ(耐性が小さければ)、小さいストレスでも発症する可能性が高くなる。そこで、第2算出部260は、ストレスの負荷と同時に、対象者のストレス耐性を算出することにより、病気に罹る危険度をより正確に求めることができる。
【0050】
なお、ストレス耐性は、脆弱性(バルナラビリティ)と回復性(レジリエンス)との2つの要素を含み、2つの要素が互いに重なる部分もあると考えられている。ストレスの耐性の尺度を求めるにあたり、2つの要素のうち一方の要素が用いられてもよく、両方の要素が用いられてもよい。発症の過程では複数のリスク要因が関連することから、ストレスの耐性の尺度のうち、脆弱性の尺度を求めることについて、様々なリスク要因の観点から検討されている。例えば、脆弱性の尺度として、自己愛的脆弱性尺度短縮版(上地雄一郎、宮下一博、“対人恐怖傾向の要因としての自己愛的脆弱性,自己不一致,自尊感情の関連性”、パーソナリティ研究、第17巻、pp.280-291、2009)がある。また、別の脆弱性の尺度として、Rumination-Reflection Questionnaire 日本語版(高野慶輔、丹野義彦、“Rumination-Reflection Questionnaire 日本語版作成の試み”、パーソナリティ研究、第16巻、pp.259-261、2008)や、日本語版Brief Core Schema Scale(山内貴史、須藤杏寿、丹野義彦、“日本語版Brief Core Schema Scaleの信頼性・妥当性”、心理学研究、第79巻、pp.498-505、2009)等がある。
【0051】
また、レジリエンス(回復性)は、心理学においては通常ストレスに対する防衛因子を意味しており、ストレスへの抵抗力と病気に罹った場合の回復力を示す。レジリエンスには、生来備わっている資質的レジリエンスと、生まれた後に獲得される獲得的レジリエンスとがあると考えられている。レジリエンスの尺度については、例えば、二次元レジリエンス要因尺度(平野真理、“レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み”、パーソナリティ研究、第19巻、pp.94-106、2010)等がある。なお、資質的レジリエンスは、楽観性、統御力、社交性、行動力の4因子、獲得的レジリエンスは、問題解決志向、自己理解、他者心理の理解の3要因がそれぞれ下位尺度として捉えられている。レジリエンスも対象者により異なることから、ストレスの負荷と同時に対象者のレジリエンスを合わせて測ることにより、病気に罹る危険度をより正確に求めることができる。
【0052】
このような、セルフチェック方式は、様々な観点から必要に応じて質問を設定することができ、また特にコンピュータ上で記入する方式であれば、サーバ300上に保存し、これを他の指標と合わせて解析することが可能である。
【0053】
第2算出部260は、例えば、求めた対象者が受けるストレス強度の尺度、対象者の自覚症状の尺度、対象者のストレスに対する耐性の尺度、対象者のストレス状態からの回復性の尺度、および対象者に対する周囲のサポートの尺度の少なくとも1つを用いて、対象者のストレスリスク値を算出する。なお、ストレスリスク値を算出するのに用いる尺度は、アンケートの内容や、対象者が置かれている状況等に応じて、適宜決定されることが好ましい。そして、第2算出部260は、算出した対象者のストレスリスク値を、通信部240に出力する。
【0054】
図2に示したサーバ300は、CPU等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶部320とを有するコンピュータ装置等である。サーバ300は、通信部310、記憶部320および推定部330を有する。例えば、サーバ300の演算処理装置は、記憶部320に記憶された健康推定プログラムを実行することにより、推定部330として機能する。なお、推定部330は、サーバ300に搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。
【0055】
通信部310は、例えば、インターネットの通信規格に基づいて、データを含む信号を、ネットワークNTを介して、サーバ300から携帯通信端末200に送信する。また、通信部310は、ネットワークNTを介して、携帯通信端末200からのデータを含む信号を受信する。通信部310は、第2送信部および第2受信部の一例である。
【0056】
記憶部320は、ハードディスク装置等であり、健康推定プログラムを記憶する。また、記憶部320は、携帯通信端末200から受信する元気圧、活量値およびストレスリスク値を、対象者毎に対応付けて記憶する。なお、記憶部320は、対象者に発話させる所定の定型文のデータ、および職業性ストレス簡易調査票等のアンケートのデータを記憶してもよい。
【0057】
推定部330は、携帯通信端末200から受信した対象者の活量値とストレスリスク値とに基づいて、対象者の健康状態を推定する。推定部330の動作については、
図5および
図6で説明する。
【0058】
図3は、
図2に示した第1算出部250により算出された元気圧の一例を示す。
図3に示す横軸は日時を示し、縦軸は元気圧を示す。また、
図3は、健康な(すなわち、少なくとも精神疾患を患っていない)対象者の元気圧を示す。
【0059】
図3に示すように、元気圧は、対象者が発話し、マイク部210を介して音声データが取得される度に、第1算出部250により算出される。
図3に示すように、元気圧は、1日のうちでも、対象者がいる周囲の環境に応じて大きく変化する。例えは、対象者が友達や家族等と会話する場合、対象者はリラックスすることにより、元気圧は大きな値となる。一方、対象者が上司や顧客等と会話する場合、対象者は緊張感等を感じるため、元気圧は小さな値になる。なお、対象者が精神疾患を患っている場合、元気圧は、
図3に示した元気圧と比べて全体的に小さな値になる傾向があり、元気圧の変動幅も
図3の場合と比べて小さくなる傾向がある。
【0060】
図3に示すように、元気圧の値は、会話の内容や会話の相手、その時の気分によって変動する。そこで、携帯通信端末200は、例えば、
図3に示したグラフを表示部230に表示し、対象者に対して、対象者自身が感じる元気の度合いと表示された元気圧の値とを比較させる。これにより、例えば、対象者は、元気があると思っていたが、表示された元気圧が低い場合、仕事等の緊張状態の連続により、思っている以上に疲れていることに気付くことができる。すなわち、携帯通信端末200は、元気圧をモニタリングすることで、元気圧を上げるための休憩や運動等の気分転換を図ろうとする意識を、対象者に対して起こさせることができる。すなわち、毎日体重計に乗って体重を測るのと同様に、自己の健康維持のための意識を向上させ、精神疾患等の病気を未然に防ぐことができる。
【0061】
図4は、
図2に示した第1算出部250により算出された活量値の一例を示す。
図4に示す横軸は月日を示し、縦軸は活量値を示す。なお、
図4は、
図3に示した対象者の活量値を示す。また、
図4に示した活量値は、所定の期間を14日間とした場合の値を示す。
【0062】
図4に示すように、活量値は、14日間という期間における元気圧の平均値と分散値とに基づいて算出されることにより、
図3に示した元気圧と比べて、ほぼ一定の値を示す。しかしながら、対象者が長期に亘ってストレスの影響を受けている、あるいは風邪等の身体的不調を患っている場合、
図4に示すように、活量値も徐々に減少する傾向を示す。一方、対象者に影響を与えていたストレスが緩和された、あるいは風邪等から回復した場合、活量値は徐々に上昇する傾向を示す。
【0063】
図5は、
図2に示した推定部330における推定処理の一例を示す。すなわち、
図5は、推定部330における推定処理に用いられる、横軸が活量値、縦軸がストレスリスク値のクロス集計を示す。
【0064】
図2に示した第2算出部260が算出するストレスリスク値は、例えば、職業性ストレス簡易調査票の場合、領域「B」の合計点数、または領域「A」、「C」の合計点数のいずれかで表される。例えば、ストレスリスク値が、領域「B」の合計点数が77点以上、あるいは領域「A」、「C」の合計点数が76点以上、かつ領域「B」の合計点数が63点以上の場合、対象者は“高ストレス者”と選定される。そこで、
図5では、対象者が高ストレス者と選定されるストレスリスク値を、閾値αで示す。そして、推定部330は、ストレスリスク値が閾値α以上の場合、対象者を高ストレス者と推定し、ストレスリスク値が閾値αより小さい場合、対象者を高ストレス者でないと推定する。閾値αは、第2閾値の一例である。
【0065】
なお、
図5では、推定部330は、1つの閾値αを用いて、対象者が高ストレス者か否かを推定したが、複数の閾値が設定され、設定された複数の閾値と対象者のストレスリスク値との比較に基づいて、対象者が受けているストレスの負荷の大きさを推定してもよい。そして、設定される閾値の数は、対象者の職種、年齢、性別、対象者の属する組織の特性により適宜決定されることが好ましく、1から9個程度(すなわち、2から10個の区分程度)が好ましい。さらには、設定される閾値の数は、1から6個(すなわち、2から7個の区分)が好ましく、1から4個(すなわち、2から5個の区分)が最も好ましい。例えば、
図5に示すように、1つの閾値αを設定した場合(すなわち、2つの区分の場合)、高ストレス者の領域には、3%から20%の対象者が、好ましくは5%から10%の対象者が分類されるものと推定される。
【0066】
しかしながら、ストレスリスク値は、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートの回答に基づいて、第2算出部260により算出される値であり、対象者の主観的な影響が含まれる。例えば、対象者の主観的な影響には、回答の内容により、会社等の組織において自己の評価を下げるのではないか等の不安等が含まれ、必ずしも対象者がアンケートに対して正直に回答しない場合がある。また、ストレスの負荷の大きさは、対象者の日々における仕事量や、対人関係における質等により変化するため、アンケートを回答する時期により、第2算出部260が算出するストレスリスク値は、大きく変化してしまう。
【0067】
そこで、推定部330は、
図5に示すように、対象者の音声データを用いて第1算出部250により算出された活量値と、ストレスリスク値とのクロス集計に基づいて、対象者の主観的な影響を補正し、対象者の健康状態を推定する。例えば、
図5に示すように、推定部330は、活量値と閾値βとの比較に基づいて、対象者における健康状態を推定する。例えば、対象者の活量値が閾値β(例えば、35等の値)以上の場合、推定部330は、対象者の健康状態は良い、すなわち抑うつ症状等の精神疾患を患っていないと推定する。一方、対象者の活量値が閾値βより小さい場合、推定部330は、対象者の健康状態は悪い、すなわち抑うつ症状等の精神疾患を患っていると推定する。閾値βは、第1閾値の一例である。
【0068】
なお、
図5では、推定部330は、1つの閾値βを用いて、対象者の健康状態を推定したが、複数の閾値が設定され、設定された複数の閾値と対象者の活量値との比較に基づいて、対象者の健康状態を推定してもよい。そして、設定される閾値の数は、対象者の職種、年齢、性別、対象者の属する組織の特性により適宜決定されることが好ましく、1から9個程度(すなわち、2から10個の区分程度)が好ましい。さらには、設定される閾値の数は、1から6個(すなわち、2から7個の区分)が好ましく、1から4個(すなわち、2から5個の区分)が最も好ましい。例えば、
図5に示すように、35等の値の閾値βを設定した場合(すなわち、2つの区分の場合)、活量値が閾値βより小さい領域には、5%から10%の対象者が分類され、活量値が閾値β以上の領域には、90%から95%の対象者が分類されるものと推定される。
【0069】
推定部330は、活量値が閾値βより小さく、かつストレスリスク値が閾値α以上(すなわち、
図5に示したクロス集計の左上の領域)の場合、対象者の健康状態は不良で、強いストレスにより対象者の心が疲弊している可能性があると推定する。また、推定部330は、活量値が閾値β以上、かつストレスリスク値が閾値α以上(すなわち、
図5に示したクロス集計の右上の領域)の場合、対象者は実際よりもストレスを過剰に感じている(偽陽性)の可能性があると推定する。また、推定部330は、活量値が閾値βより小さく、かつストレスリスク値が閾値αより小さい、
図5に示したクロス集計の左下の領域の場合、対象者は実際のストレスを知覚していない(偽陰性)の可能性があると推定する。また、推定部330は、活量値が閾値β以上、かつストレスリスク値が閾値αより小さい、
図5に示したクロス集計の右下の領域の場合、対象者の健康状態は良いと推定する。そして、推定部330は、推定の結果を、通信部310に出力する。
【0070】
なお、推定部330は、推定の結果に対する助言等を示す情報を、推定の結果に付加してもよい。例えば、推定部330は、健康状態が良好と推定した対象者に対して、年齢や性別等の属性が類似し、健康状態が良好と推定された他の対象者と同様の行動を提案する等の助言を示す情報を、推定の結果に付加する。この場合、サーバ300は、対象者の日頃の生活習慣、趣味、仕事等に関する情報を予め取得し、記憶部320に記憶することが好ましい。また、サーバ300は、推定の結果に応じた助言を示す情報のデータを、個別フィードバックのデータとして記憶部320に記憶していることが好ましい。
【0071】
また、推定部330は、健康状態が不良と推定した対象者に対して、保健師や産業医等との面談、人間ドック等詳細な健康診断を勧める等の助言を示す情報を、推定の結果に付加する。この場合、推定部330は、必要に応じて、対象者に関する情報を産業医等のコンピュータ装置等に通知し、認知行動療法等の心理的介入を行うことが好ましい。
【0072】
また、推定部330は、実際よりもストレスを過剰に感じている(偽陽性)の可能性があると推定した対象者に対して、他罰傾向が強く、上司や同僚との人間関係が上手くいっていない等の社会一般に対する不満が溜まっている可能性があり、何らかの認知の歪みを有している可能性があるため、カウンセリングを勧める等の助言を示す情報を、推定の結果に付加する。また、推定部330は、偽陽性と推定した対象者に対して、必要に応じてアサーショントレーニングや交流分析等の心理教育を受けるよう勧める助言を示す情報を付加してもよい。
【0073】
また、推定部330は、実際のストレスを知覚していない(偽陰性)の可能性があると推定した対象者に対して、自罰的傾向が強く、他人の要求を断れずに無理をする等、何らかの認知の歪みを有している可能性があるため、カウンセリングや産業医等との面談を勧める助言を示す情報を、推定の結果に付加する。この場合、推定部330は、必要に応じて、対象者に関する情報を産業医等のコンピュータ装置等に通知し、認知行動療法等の心理的介入を行うことが好ましい。
【0074】
図6は、
図2に示した推定部330における推定処理の別例を示す。すなわち、
図6は、推定部330における推定処理に用いられる、横軸が活量値の変化量、縦軸がストレスリスク値のクロス集計を示す。なお、ストレスリスク値および閾値αについては、
図5の場合と同一または同様であり、詳細な説明は省略する。
【0075】
活量値の変化量は、
図4に示すように、7日間や14日間等の期間において、活量値の変化の傾向を示す。すなわち、活量値は、対象者において、特段の環境の変化や体調の変化がない限り、安定した値を示す。しかしながら、対象者において、職場の環境の変化や体調の変化が生じた場合、
図4に示すように、活量値は、緩やかな減少等の変化を示す。このため、活量値そのものよりも、活量値が示す変化を見ることにより、将来における対象者の健康状態を推定することが可能となる。そこで、7日間や14日間等の期間において、活量値の変化量が、−10等のマイナスの値γ以上減少した場合は、“減少”と定義する。また、活量値の変化量が、マイナスの値γからプラスの値γの範囲内の場合は、“維持”と定義し、10等のプラスの値γ以上増加した場合は、“増加”と定義する。すなわち、
図6に示したクロス集計では、活量値の変化量を3つに区分する。なお、区分の数は、対象者の職種、年齢、性別、対象者の属する組織の特性により適宜決定されることが好ましい。7日間や14日間等の期間は、第2期間の一例である。
【0076】
また、“減少”、“維持”、“増加”の各区分は、7日間や14日間等の期間における活量値の変化率(または変化の傾き)に基づいて定義されてもよい。
【0077】
そして、推定部330は、
図6に示したクロス集計に基づいて、例えば、活量値の変化量が“減少”、かつストレスリスク値が閾値α以上の場合、対象者の健康状態は悪化していると推定する。この場合、推定部330は、
図5に示したクロス集計と合わせることで、例えば、対象者の活量値が閾値β付近の値の場合、近い将来、対象者は抑うつ症状等の精神疾患を発症する可能性があり、要注意と推定してもよい。
【0078】
また、推定部330は、
図6に示したクロス集計に基づいて、活量値の変化量が“増加”、かつストレスリスク値が閾値α以上の場合、対象者の健康状態は快方に向かっている、あるいは偽陽性の可能性があると推定する。また、推定部330は、活量値の変化量が“維持”、かつストレスリスク値が閾値α以上の場合、対象者の健康状態は維持されていると推定する。
【0079】
一方、推定部330は、活量値の変化量が“増加”、かつストレスリスク値が閾値αより小さい場合、対象者の健康状態は良好、あるいは良化していると推定する。また、推定部330は、活量値の変化量が“維持”、かつストレスリスク値が閾値αより小さい場合、対象者の健康状態は維持されていると推定する。また、推定部330は、活量値の変化量が“減少”、かつストレスリスク値が閾値αより小さい場合、対象者の健康状態は悪化しており注意が必要である、あるいは偽陰性の可能性があると推定する。そして、推定部330は、推定の結果を通信部310に出力する。
【0080】
なお、推定部330は、
図5の場合と同様に、推定の結果に対する助言等を示す情報を、推定の結果に付加してもよい。
【0081】
また、活量値の変化量が“増加”または“減少”の場合、転職や昇進、または結婚等の大きなライフイベントがあったと考えられ、産業医やカウンセラーによるヒアリングが行われることが有効である。また、活量値の変化量が“増加”または“減少”の原因が、会社内かそれ以外か、あるいは人間関係かそれ以外か等により対処法が異なる場合がある。また、推定部330による推定の結果が、偽陰性または偽陽性の可能性がある場合、うつ病尺度や非定型うつ病尺度等のテストを対象者に対して行い、対象者の病態をより正確に判別するのが好ましい。
【0082】
このように、ストレスリスク値と活量値の変化量とのクロス集計を行うことにより、対象者がメンタルヘルスを含めた健康管理を強く意識させることができ、対象者の健康状態を維持させることができる。また、産業医等との連携により、会社等における組織全体のメンタルヘルスの意識を高めさせることで、対象者が無理なく発症前に産業医等を受診させる、あるいは心理教育を受けさせることができ、組織全体の活力や生産性を高めることができる。
【0083】
図7は、
図2に示した健康推定システムSYSにおける対象者の健康状態の推定処理の一例を示す。
図7に示した処理は、携帯通信端末200およびサーバ300の演算処理装置が健康推定プログラムを実行することにより実現される。すなわち、
図7は、健康推定プログラムおよび健康推定方法の別の実施形態を示す。
【0084】
ステップS100では、第1算出部250は、マイク部210を介して、対象者が発話した音声のデジタルの電気信号を、音声データとして取得する。
【0085】
次に、ステップS110では、第1算出部250は、ステップS100で取得された音声データから、対象者の元気圧を算出する。また、第1算出部250は、元気圧を算出した時点を基準にして、所定の期間(例えば、14日間等)前までに算出した元気圧を用いて、平均的な元気圧である活量値を算出する。
【0086】
次に、ステップS120では、第2算出部260は、入力部220を介して、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートに対する対象者の回答を回答データとして取得する。
【0087】
次に、ステップS130では、第2算出部260は、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートに応じて定義される採点の処理を、ステップS120で取得された回答データに実行し、対象者のストレスリスク値を算出する。
【0088】
なお、ステップS100−S110の処理のセットと、ステップS120−S130の処理のセットとは、直列に実行されてもよく、並列に実行されてもよい。
【0089】
次に、ステップS140では、通信部240は、ステップS110で算出された元気値および活量値と、ステップS130で算出されたストレスリスク値とを、ネットワークNTを介して、サーバ300に送信する。
【0090】
次に、ステップS150では、通信部240は、ネットワークNTを介して、サーバ300から対象者の健康状態に対する推定の結果を受信する。そして、通信部240は、受信した推定の結果を表示部230に出力し、表示部230は、推定の結果を表示する。なお、受信した推定の結果に、推定された対象者の健康状態に対する助言等を示す情報が付加されている場合、表示部230は、推定の結果とともに、助言等を示す情報も表示する。
【0091】
一方、ステップS200では、通信部310は、ステップS140で送信された対象者の元気圧、活量値およびストレスリスク値を、ネットワークNTを介して、携帯通信端末200から受信する。
【0092】
次に、ステップS210では、推定部330は、ステップS200で受信した対象者の活量値およびストレスリスク値に、
図5および
図6に示した少なくとも1つの推定処理を実行し、対象者の健康状態を推定する。また、記憶部320が推定の結果に対する助言等を示す情報のデータを記憶する場合、推定部330は、推定の結果に対応する助言を示す情報を読み出し、読み出した情報を推定の結果に付加する。
【0093】
次に、ステップS220では、通信部310は、ネットワークNTを介して、対象者の健康状態の推定の結果を携帯通信端末200に送信する。
【0094】
そして、健康推定システムSYSは、携帯通信端末200が対象者の音声データおよび回答データを取得する度に、ステップS100からステップS150の処理、およびステップS200からステップS220の処理を繰り返し実行する。
【0095】
図2から
図7に示した実施形態では、第1算出部250は、対象者が発話した音声データを用いて対象者における怒り等の複数の感情の度合いを算出し、算出した各感情の度合いに基づいて対象者の元気の度合いを示す元気圧、および平均的な元気圧である活量値を算出する。そして、推定部330は、対象者の感情状態を考慮して算出された活量値を、ストレスリスク値と合わせて用いることにより、ストレスリスク値に含まれるアンケートの回答時における対象者の心理的な影響を補正でき、被験者の健康状態を客観的に推定できる。この結果、健康推定システムSYSは、対象者がアンケートに対して真実を回答しない場合でも、対象者の健康状態を正確に推定することができる。
【0096】
また、健康推定システムSYSは、対象者の元気圧をモニタリングすることで、元気圧を上げるための休憩や運動等の気分転換を図ろうとする意識を、対象者に対して起こさせることができる。これにより、毎日体重計に乗って体重を測るのと同様に、自己の健康維持のための意識を向上させ、精神疾患等の病気を未然に防ぐことができる。
【0097】
また、
図2に示した健康推定システムSYSは、音声データおよび回答データと、血液検査、尿検査等の対象者の健康診断の結果を示す診断データと合わせて、対象者の健康状態を推定してもよい。これにより、対象者の総合的な健康管理を行うことができる。なお、対象者の診断データは、例えば、サーバ300の記憶部320に予め記憶されていることが好ましい。
【0098】
また、診断データには、ALT、γ−GTP、総蛋白、アルブミン、アルブミン対グロブリン比、コレステロール、グリコアルブミン、赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット量、平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン量、平均赤血球ヘモグロビン濃度、白血球数、血小板数等が含まれることが好ましい。さらに、診断データには、X線検査、心電図、眼底検査等が含まれてもよい。
【0099】
また、診断データの代わりに、呼吸数、脈拍、血圧、体温等のバイタルデータや、喫煙、睡眠、食事、運動量等の生活習慣に関するデータが、記憶部320に記憶され、対象者の健康状態の推定に用いられてもよい。なお、バイタルデータや生活習慣のデータの一部は、例えば、対象者にウエアラブル端末が装着されることにより、取得されてもよい。そして、ウエアラブル端末は、ネットワークNTを介して、取得したデータをサーバ300に送信し、サーバ300は、受信したデータを記憶部320に記憶してもよい。
【0100】
また、携帯通信端末200が、会社の従業員の各々に配布されることにより、部署ごと、年齢ごと等、属性ごとにメンタルヘルスを含めた健康管理を行うことができ、これら属性ごとにリスクの出現状況を把握することができる。例えば、メンタル的に高リスクな部署等を把握することができ、心理教育や心理療法等の心理的介入を迅速に行うことができる。
【0101】
また、産業医等の健康管理者(ストレスチェック制度においては実施者)が、ネットワークNTを介して接続されたコンピュータ装置等を用いて、サーバ300の記憶部320に記憶された対象者ごとの元気圧、活量値、ストレスリスク値、回答データ等の情報を閲覧できるようにしてもよい。産業医等は、対象者の情報を閲覧することにより、対象者に対するカウンセリング、心理的介入等が必要と判断した場合、対象者の携帯通信端末200にその旨を通知してもよく、産業医と面談するよう指示してもよい。
【0102】
また、産業医等は、対象者の健康状態の推定結果から、ストレスが高いと判定した場合、対象者に対していくつかの尺度によるテストを、対象者の携帯通信端末200に出力し、対象者による回答の結果から、ストレスが高い原因や障害の程度等を判定してもよい。また、産業医等は、ストレスが高い原因や障害の程度等の判定結果に基づいて、対象者それぞれに適切な介入プログラムを施してもよい。あるいは、産業医等は、対象者との面談の結果、精神疾患のリスクがあると認められた場合、その程度に応じて、対象者に心理教育や心理療法を行ってもよく、精神科や心療内科等の医師を紹介してもよい。さらに、産業医等は、高リスクの対象者がいる部署に対しても心理教育を行うことにより、メンタルヘルスに関する正しい認知と理解の向上とを図ってもよい。
【0103】
また、健康推定システムSYSは、大うつ病や、抑うつ状態を伴う障害や病気、例えば気分変調症、双極II型障害、非定型うつ病、適応障害、パーソナリティ障害、内分泌疾患、糖尿病、がん、睡眠時無呼吸症候群、認知症などを早い段階で、可能な限り未病の段階で捉えることを第一の目的とする。しかしながら、対象者が精神疾患にり患していると推定された場合、健康推定システムSYSは、産業医等に通知してもよく、対象者に精神科医や心療内科医を紹介してもよい。これにより、産業医等は、適切な心理療法や薬物療法を対象者に対して迅速に行うことができる。特に、健康推定システムSYSを用いたコンピュータ認知行動療法は、未病段階でセルフヘルプとして取り組むことができる。
【0104】
図8は、健康推定システムの別の実施形態を示す。
図2で説明した要素と同一または同様の機能を有する要素については、同一または同様の符号を付し、これらについては、詳細な説明を省略する。
【0105】
図8に示した健康推定システムSYS1は、例えば、携帯通信端末200、サーバ300および端末装置400を有する。携帯通信端末200は、携帯電話通信網またはWi−Fi等の通信規格に基づいて、ネットワークNTを介してサーバ300および端末装置400に接続される。そして、健康推定システムSYS1は、携帯通信端末200とサーバ300との協働により、健康推定装置として動作する。
【0106】
なお、
図8では、1つの携帯通信端末200がサーバ300および端末装置400に接続されるが、複数の携帯通信端末200がサーバ300および端末装置400に接続されてもよい。
【0107】
図8に示した携帯通信端末200は、スマートフォンやタブレット型端末等であり、マイク部210、入力部220、表示部230a、通信部240a、第1取得部270および第2取得部280を有する。例えば、携帯通信端末200の演算処理装置は、携帯通信端末200の記憶装置に記憶される健康推定プログラムを実行することにより、第1取得部270および第2取得部280として機能する。なお、第1取得部270および第2取得部280は、携帯通信端末200に搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。
【0108】
表示部230aは、液晶等のディスプレイであり、アンケート等を表示するとともに、サーバ300や端末装置400から受信したデータを表示する。
【0109】
通信部240aは、例えば、携帯電話通信網またはWi−Fi等の通信規格に基づいて、データを含む信号を、ネットワークNTを介して、携帯通信端末200からサーバ300または端末装置400に送信する。また、通信部240aは、ネットワークNTを介して、サーバ300および端末装置400からのデータを含む信号を受信する。通信部240aは、第1送信部および第1受信部の一例である。
【0110】
第1取得部270は、マイク部210を介して、対象者が発話した音声のデジタルの電気信号を、音声データとして取得する。第1算出部250は、取得した対象者の音声データを通信部240aに出力する。
【0111】
なお、第1取得部270は、対象者が発話した音声を取得するために、例えば、表示部230aに所定の定型文を表示し、対象者に表示された所定の定型文を発話させてもよい。これにより、第1取得部270は、定期的に、対象者の音声データを取得できる。また、所定の定型文を含むデータは、携帯通信端末200の記憶装置に記憶されてもよく、サーバ300に記憶されてもよい。なお、所定の定型文のデータがサーバ300に記憶される場合、第1取得部270は、ネットワークNTを介して、所定の定型文のデータをサーバ300から取得する。
【0112】
第2取得部280は、ストレスに関するアンケートとして、例えば、厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムで示される職業性ストレス簡易調査票を、表示部230aに表示する。第2取得部280は、入力部220を介して、職業性ストレス簡易調査票に対する対象者の回答を回答データとして取得する。なお、第2取得部280は、職業性ストレス簡易調査票を用いたが、他の形式のアンケートを用いてもよい。また、アンケートのデータは、携帯通信端末200の記憶装置またはサーバ300に予め記憶され、第2取得部280は、アンケートのデータを携帯通信端末200の記憶装置またはサーバ300から読み出し、表示部230aに表示する。そして、第2取得部280は、取得した対象者の回答データを通信部240aに出力する。
【0113】
サーバ300は、例えば、通信部310、記憶部320、推定部330a、第1算出部340および第2算出部350を有する。例えば、サーバ300の演算処理装置は、記憶部320に記憶された健康推定プログラムを実行することにより、推定部330a、第1算出部340および第2算出部350として機能する。なお、推定部330a、第1算出部340および第2算出部350は、サーバ300に搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。
【0114】
第1算出部340は、例えば、
図2に示した第1算出部250と同様に、通信部310を介して、携帯通信端末200から受信した対象者の音声データから、音声のピッチ周波数や基本周波数等を算出し、怒り等の各感情が出現している度合いを発話単位毎に求める。そして、第1算出部340は、例えば、求めた各感情の度合いに基づいて、対象者の元気圧を算出する。また、第1算出部340は、例えば、元気圧を算出した時点を基準にして、所定の期間(例えば、14日間等)前までに算出した元気圧を用いて、所定の期間における元気圧の平均値と分散値とを算出する。第1算出部340は、算出した分散値で平均値を重み付けした値を、活量値(すなわち、平均的な元気圧)として算出する。第1算出部340は、算出した元気圧および活量値を推定部330aに出力するとともに、対象者を示す情報と対応付けして記憶部320に記憶する。
【0115】
第2算出部350は、
図2に示した第2算出部260と同様に、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートに応じて定義される採点の処理を、携帯通信端末200から受信した対象者の回答データに実行し、対象者が受けているストレスに関する情報を取得する。そして、第2算出部350は、例えば、取得したストレスに関する情報のうち、対象者が受けるストレス強度の尺度、対象者の自覚症状の尺度、対象者のストレスに対する耐性の尺度、対象者のストレス状態からの回復性の尺度、および対象者に対する周囲のサポートの尺度の少なくとも1つを用いて、対象者のストレスリスク値を算出する。第2算出部350は、算出した対象者のストレスリスク値を推定部330aに出力する。
【0116】
推定部330aは、
図2に示した推定部330と同様に、第1算出部340により算出された対象者の活量値と、第2算出部350により算出されたストレスリスク値とに基づいて、対象者の健康状態を推定する。
【0117】
端末装置400は、CPU等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶装置と、キーボード等の入力装置と、液晶等のディスプレイとを有するコンピュータ装置である。端末装置400は、例えば、産業医等の健康管理者(ストレスチェック制度においては実施者)により使用され、サーバ300の記憶部320に記憶された各対象者の元気圧、活量値、ストレスリスク値、回答データ等の情報を閲覧できる。また、端末装置400は、産業医等による操作に基づいて、各対象者の情報を表示するとともに、産業医等により対象者に対するカウンセリングや心理的介入等が必要と判断された場合、対象者の携帯通信端末200にその旨を通知する。
【0118】
図9は、
図8に示した健康推定システムSYS1における対象者の健康状態の推定処理の一例を示す。
図9に示した処理は、携帯通信端末200およびサーバ300の演算処理装置が健康推定プログラムを実行することにより実現される。すなわち、
図9は、健康推定プログラムおよび健康推定方法の別の実施形態を示す。
【0119】
なお、
図9に示したステップの処理のうち、
図7に示したステップと同一または同様の処理を示すものについては、同一のステップ番号を付す。
【0120】
ステップS100では、第1取得部270は、マイク部210を介して、対象者が発話した音声のデジタルの電気信号を、音声データとして取得する。
【0121】
次に、ステップS120では、第2取得部280は、入力部220を介して、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートに対する対象者の回答を回答データとして取得する。
【0122】
なお、ステップS100の処理およびステップS120の処理は、直列に実行されてもよく、並列に実行されてもよい。
【0123】
次に、ステップS145では、通信部240aは、ステップS100で取得された音声データと、ステップS120で取得された回答データとを、ネットワークNTを介して、サーバ300に送信する。
【0124】
次に、ステップS150では、通信部240aは、ネットワークNTを介して、サーバ300から対象者の健康状態に対する推定の結果を受信する。そして、通信部240aは、受信した推定の結果を表示部230aに出力し、表示部230aは、推定の結果を表示する。なお、受信した推定の結果に、推定された対象者の健康状態に対する助言等を示す情報が付加されている場合、表示部230aは、推定の結果とともに、助言等の情報も表示する。
【0125】
一方、ステップS201では、通信部310は、ステップS145で送信された対象者の音声データおよび回答データを、ネットワークNTを介して、携帯通信端末200から受信する。
【0126】
次に、ステップS203では、第1算出部340は、ステップS201で受信された音声データから、対象者の元気圧を算出する。また、第1算出部340は、元気圧を算出した時点を基準にして、所定の期間(例えば、14日間等)前までに算出した元気圧を用いて、平均的な元気圧である活量値を算出する。
【0127】
次に、ステップS205では、第2算出部350は、職業性ストレス簡易調査票等のアンケートに応じて定義される採点の処理を、ステップS201で受信された回答データに実行し、対象者のストレスリスク値を算出する。
【0128】
次に、ステップS210では、推定部330aは、ステップS203で算出された対象者の活量値と、ステップS205で算出された対象者のストレスリスク値とに、
図5および
図6に示した少なくとも1つの推定処理を実行し、対象者の健康状態を推定する。また、記憶部320が推定の結果に対する助言等を示す情報のデータを記憶する場合、推定部330aは、推定の結果に対応する助言を示す情報を読み出し、読み出した情報を推定の結果に付加する。
【0129】
次に、ステップS220では、通信部310は、ネットワークNTを介して、対象者の健康状態の推定の結果を携帯通信端末200に送信する。
【0130】
そして、健康推定システムSYS1は、携帯通信端末200が対象者の音声データおよび回答データを取得する度に、ステップS100からステップS150の処理、およびステップS201からステップS220の処理を繰り返し実行する。
【0131】
また、ステップS220において、通信部310は、ネットワークNTを介して、対象者の健康状態の推定の結果を端末装置400に出力してもよい。これにより、産業医等の健康管理者は、健康状態が不良の対象者、または近い将来に健康状態が不良になると推定される対象者に対する処置を迅速に行うことができる。この場合、産業医等は、例えば、端末装置400を用いて、サーバ300の記憶部320に記憶された各対象者の元気圧、活量値、ストレスリスク値、回答データ等の情報を閲覧することが好ましい。そして、産業医等は、対象者に対するカウンセリングや心理的介入等が必要と判断した場合、端末装置400を用いて、対象者の携帯通信端末200にその旨を通知、あるいは産業医等と面談するよう指示することが好ましい。
【0132】
また、産業医等は、対象者の健康状態の推定結果から、ストレスが高いと判定した場合、端末装置400を用いて、対象者に対していくつかの尺度によるテストを、対象者の携帯通信端末200に出力し、対象者による回答の結果から、ストレスが高い原因や障害の程度等を判定し、対象者それぞれに適切な介入プログラムを施してもよい。あるいは、産業医等は、対象者との面談の結果に基づいて、精神疾患のリスクがあると認められた場合、端末装置400を用いて、リスクの程度に応じて、対象者に心理教育や心理療法等を行ってもよく、精神科や心療内科等の医師を紹介してもよい。さらに、産業医等は、端末装置400を用いて、高リスクの対象者がいる部署に対しても心理教育を行うことにより、メンタルヘルスに関する正しい認知と理解の向上とを図ってもよい。
【0133】
図8および
図9に示した実施形態では、第1算出部340は、対象者が発話した音声データを用いて対象者における怒り等の複数の感情の度合いを算出し、算出した各感情の度合いに基づいて対象者の元気の度合いを示す元気圧、および平均的な元気圧である活量値を算出する。そして、推定部330aは、対象者の感情状態を考慮して算出された活量値を、ストレスリスク値と合わせて用いることにより、ストレスリスク値に含まれるアンケートの回答時における対象者の心理的な影響を補正でき、被験者の健康状態を客観的に推定できる。この結果、健康推定システムSYS1は、対象者がアンケートに対して真実を回答しない場合でも、対象者の健康状態を正確に推定することができる。
【0134】
また、健康推定システムSYS1は、対象者の元気圧をモニタリングすることで、元気圧を上げるための休憩や運動等の気分転換を図ろうとする意識を、対象者に対して起こさせることができる。これにより、毎日体重計に乗って体重を測るのと同様に、自己の健康維持のための意識を向上させ、精神疾患等の病気を未然に防ぐことができる。
【0135】
また、
図8に示した健康推定システムSYS1は、音声データおよび回答データと、血液検査、尿検査等の対象者の健康診断の結果を示す診断データと合わせて、対象者の健康状態を推定してもよい。これにより、対象者の総合的な健康管理を行うことができる。なお、対象者の診断データは、例えば、サーバ300の記憶部320に予め記憶されていることが好ましい。
【0136】
また、診断データには、ALT、γ−GTP、総蛋白、アルブミン、アルブミン対グロブリン比、コレステロール、グリコアルブミン、赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット量、平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン量、平均赤血球ヘモグロビン濃度、白血球数、血小板数等が含まれることが好ましい。さらに、診断データには、X線検査、心電図、眼底検査等が含まれてもよい。
【0137】
また、診断データの代わりに、呼吸数、脈拍、血圧、体温等のバイタルデータや、喫煙、睡眠、食事、運動量等の生活習慣に関するデータが、記憶部320に記憶され、対象者の健康状態の推定に用いられてもよい。なお、バイタルデータや生活習慣のデータの一部は、例えば、対象者にウエアラブル端末が装着されることにより、取得されてもよい。そして、ウエアラブル端末は、ネットワークNTを介して、取得したデータをサーバ300に送信し、サーバ300は、受信したデータを記憶部320に記憶してもよい。
【0138】
また、携帯通信端末200が、会社の従業員の各々に配布されることにより、部署ごと、年齢ごと等、属性ごとにメンタルヘルスを含めた健康管理を行うことができ、これら属性毎にリスクの出現状況を把握することができる。例えば、メンタル的に高リスクな部署等を把握することができ、心理教育や心理療法等の心理的介入を迅速に行うことができる。
【0139】
また、健康推定システムSYS1は、大うつ病や、抑うつ状態を伴う障害や病気、例えば気分変調症、双極II型障害、非定型うつ病、適応障害、パーソナリティ障害、内分泌疾患、糖尿病、がん、睡眠時無呼吸症候群、認知症などを早い段階で、可能な限り未病の段階で捉えることを第一の目的とする。しかしながら、対象者が精神疾患にり患していると推定された場合、健康推定システムSYS1は、産業医等に通知してもよく、対象者に精神科医や心療内科医を紹介してもよい。これにより、産業医等は、適切な心理療法や薬物療法を対象者に対して迅速に行うことができる。特に、健康推定システムSYS1を用いたコンピュータ認知行動療法は、未病段階でセルフヘルプとして取り組むことができる。
【0140】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。