【解決手段】工作機械の装置本体3に取り付けられる主軸装置1が、スピンドルとハウジング13とを備えてなり、装置本体3に対して直線方向に相対移動する移動体11と、直線方向に延びるガイドレール20A、21Aとガイド軸受20B、21Bとを備え、ガイドレール20A、21Aがガイド軸受20B、21Bとそれぞれ係合する係合中心20C、21Cを備えた一対の案内手段20、21とを備える。移動体11の中心軸Z1と直交する断面において、一対の係合中心20C、21Cが、スピンドルを横断する横断直線LC上に、係る横断直線LCと直交し移動体11の中心軸Z1を通る直交直線LZを挟んで配置される。
前記一対の案内手段は、前記移動体の中心軸と直交する断面において、前記移動体の中心軸と一方の前記係合中心との距離が前記移動体の中心軸と他方の前記係合中心との距離と等しい位置に配置されることを特徴とする請求項1記載の工作機械の主軸装置。
前記一対の案内手段は、前記移動体の中心軸に直交する断面において、前記一対の係合中心を結ぶ線分の中央点の位置が前記移動体の中心軸の位置と一致するように配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の工作機械の主軸装置。
前記一対の駆動源は、前記移動体の中心軸に直交する断面において、前記移動体の中心軸と一方の前記駆動中心との距離が前記移動体の中心軸と他方の前記駆動中心との距離と等しい位置に配置されることを特徴とする請求項4記載の工作機械の主軸装置。
前記一対の駆動源は、前記移動体の中心軸に直交する断面において、前記一対の駆動中心を結ぶ線分の中央点の位置が前記移動体の中心軸の位置と一致するように配置されることを特徴とする請求項5記載の工作機械の主軸装置。
前記一対の駆動源が、一対のリニアモータであって、前記リニアモータの各々が、可動子と固定子を備え、前記固定子が前記支持壁に取り付けられ、前記可動子が前記移動体に取り付けられることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項記載の工作機械の主軸装置。
【背景技術】
【0002】
工作機械の多くは、工具または被加工物を直線一軸方向に往復移動することができる主軸装置を備えている。特に、工具を高速回転させて加工を行う工作機械の主軸装置は、直線一軸方向に移動する移動体にスピンドルと該スピンドルを収容するハウジングが設けられている。一般的には、主軸装置は、スピンドルを収容するハウジングをスライダ(移動板)に固定し、スライダをサーボモータによって往復移動させるように構成されている。以下、係る主軸装置の構成をスライダ駆動構造という。なお、ここでは移動体は、直線一軸方向に移動する全ての要素のうち、直線一軸方向へ移動を可能とする手段である案内手段及び駆動源を除いた残りの要素の集合体を意味する。また、移動体と共に移動する部材を全て含めて移動体をいう場合は、特に“移動体全体”ということがある。
【0003】
スライダ駆動構造においては、スライダが、案内装置と駆動伝達機構とによって、工作機械のコラムなどに設けられた取付ベースに移動可能に案内支持される構造であり、移動体全体の重心が取付ベース付近に存在する複数の支点から相当離れた位置にある。そのため、スライダ駆動構造においては、移動体全体の重量が大きくなるほど移動体全体を支えることが難しくなり、移動体を高速に移動させるときに、工作機械に揺れを感じるほどの振動が発生することがある。特に、スピンドルを駆動した際は、スピンドルの回転によって発生する振動を十分に抑制することができない。
【0004】
特許文献1は、移動体に含まれるクイルにリニアモータの可動子を取り付けて移動体を往復移動させる形彫放電加工機を開示している。以下、係る主軸装置の構成をクイル駆動構造という。特許文献1の形彫放電加工機は、具体的に、クイルの中心軸を通る水平な直線上に中心軸から反対方向に等距離離れて、リニアモータによる駆動力が与えられる一対の力点を配置する構造であるので、移動体が移動するときの駆動力のバランスがよく、移動体を比較的安定して走行させることができるので、移動体の姿勢をより安定させることができる。
【発明の概要】
【0006】
工具を高速回転して加工を行う主軸装置の場合、移動体全体の質量がスピンドルとハウジングとインダクションモータ等の回転モータを含む回転装置の質量を含むので、移動体全体の重量が増大し、従来のクイル駆動構造及びスライダ駆動構造の主軸装置では、移動体全体を支持する剛性が不足して、移動体の姿勢を安定させることが困難になる。
【0007】
とりわけ、リニアモータ駆動方式の主軸装置の場合は、移動体全体にリニアモータの可動子が含まれるので、移動体全体の重量がより大きくなる。移動体全体の重量が大きくなるほどリニアモータの出力を大きくする必要があるが、リニアモータの出力を大きくすると移動体全体の重量がより大きくなるので、リニアモータの出力をさらに大きくしなければならないというジレンマに陥る。また、リニアモータ駆動方式には、駆動伝達装置がないので、実質的に案内装置だけで移動体を支持しなければならず、移動体全体を支持する剛性がより低下する。また、案内装置の剛性が比較的小さい主軸装置では、スピンドルの回転時に発生する振動が移動体の姿勢の変動によくない影響を与えるおそれがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、スピンドルとスピンドルを収容するハウジングを備え、直線一軸方向に移動する移動体を安定した姿勢で案内支持することができる工作機械の主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る工作機械の主軸装置は、支持壁を有する機体構造物に取り付けられる主軸装置であって、前記支持壁で形成される中空空間を前記機体構造物に対して直線一軸方向に往復移動する移動体であって、スピンドルと該スピンドルを収容するハウジングとを含んでなる移動体と、前記直線一軸方向に延びるガイドレールと、該ガイドレールに係合するガイド軸受とを備えてなり、前記ガイドレールが前記ガイド軸受と係合する係合中心を有する案内手段であって、前記移動体を前記直線一軸方向に案内支持する一対の案内手段と、を備え、前記各ガイドレールと前記各ガイド軸受のどちらか一方が、前記支持壁に設けられ、他方が一方に係合するように前記移動体に取り付けられ、前記移動体の中心軸と直交する断面において、一対の前記係合中心が、前記スピンドルを横断する横断直線上に、該横断直線と直交し前記移動体の中心軸を通る直交直線を挟んで配置されることを特徴とする。
【0010】
「係合中心」とは、ガイドレールとガイド軸受を含む移動体の中心軸に直交する断面、例えば、ガイドレールとガイド軸受を含むスピンドルの軸に直交する断面において、ガイドレールをガイド軸受が軸支する複数の点又は面で囲まれる図形の中心を意味する。一例として、図形の中心として図形の重心を用いることができる。例えば、転がり軸受けの場合、ガイド軸受に備えられた4つのボールでガイドレールを軸支している場合には、各ボールとガイドレールとの接触点で囲まれる図形の中心が係合中心となる。また、ガイド軸受が、ガイドレールと面で接触してガイドレールを軸支している場合には、ガイドレールと接触する面で囲まれる図形の中心が係合中心となる。また、ガイド軸受が、ガイドレールと点と面とで接触してガイドレールを軸支している場合には、ガイドレールと接触する点と面とで囲まれる図形の中心が係合中心となる。
【0011】
上記「移動体の中心軸」は、移動体が往復移動する直線一軸方向に平行な軸であって、例えば、前記スピンドルの軸であってもよいし、移動体の重心位置または移動体全体の重心位置を通る軸であってもよい。なお、移動体の中心軸が、スピンドルの軸、移動体の重心位置を通る軸、及び移動体全体の重心位置を通る軸のいずれかの軸である場合は、移動体の中心軸が上記いずれかの軸と実質的に一致する範囲であれば、厳密に一致しない場合も含む。
【0012】
上記「前記スピンドルを横断する横断直線」とは、スピンドルの径が移動体の軸方向に変化する場合には、横断直線を含み移動体の中心軸に平行な平面が、スピンドルの少なくとも一部と交差すれば、係る横断直線はスピンドルを実質的に横断するとみなす。
【0013】
本発明に係る工作機械の主軸装置において、前記一対の案内手段は、前記移動体の中心軸と直交する断面において、前記移動体の中心軸と一方の前記係合中心との距離が前記移動体の中心軸と他方の前記係合中心との距離と等しい位置に配置されることが好ましい。
【0014】
本発明に係る工作機械の主軸装置において、前記一対の案内手段は、前記移動体の中心軸に直交する断面において、前記一対の係合中心を結ぶ線分の中央点の位置が前記移動体の中心軸の位置と一致するように配置されることが好ましい。
【0015】
上記「前記スピンドルの軸に直交する断面において、前記一対の係合中心を結ぶ線分の中央点の位置が前記スピンドルの軸位置と一致する」とは、一対の係合中心を結ぶ線分の中央点の位置とスピンドルの軸位置とが実質的に一致することを意味し、一対の係合中心を結ぶ線分の中央点の位置とスピンドルの軸位置とが実質的に一致すると見なせる場合には一対の係合中心を結ぶ線分の中央点の位置とスピンドルの軸位置とが厳密に一致しない場合も含む。
【0016】
本発明に係る工作機械の主軸装置において、前記移動体を前記直線一軸方向に往復移動させる一対の駆動源を含み、前記一対の駆動源の各々が駆動力の作用する駆動中心を有し、一対の前記駆動中心が前記スピンドルを挟んで対向して位置することが好ましい。
【0017】
上記「駆動中心」とは、移動体の中心軸に直交する断面、例えば、スピンドルの軸に直交する断面において、駆動源の駆動力を作用させる点を意味して、例えば、駆動源がリニアモータであれば、可動子と固定子との間に駆動力を作用させる点を意味する。例えば、可動子と固定子に挟まれている領域の中心が駆動中心となる。一例として、可動子と固定子に挟まれている領域の中心として可動子と固定子に挟まれている領域の重心を用いることができる。また、例えば、駆動源が回転モータの回転駆動をねじ軸とナットで直線駆動に変換する機構であれば、ねじ軸の軸中心を駆動中心として用いてもよい。
【0018】
上記場合に、前記一対の駆動源は、前記移動体の中心軸に直交する断面において、前記移動体の中心軸と一方の前記駆動中心との距離が前記移動体の中心軸と他方の前記駆動中心との距離と等しい位置に配置されることが好ましい。さらに、前記一対の駆動源は、前記移動体の中心軸に直交する断面において、前記一対の駆動中心を結ぶ線分の中央点の位置が前記移動体の中心軸の位置と一致するように配置されることが好ましい。
【0019】
上記「一対の駆動中心を結ぶ線分の中央点の位置が前記移動体の中心軸の位置と一致する」とは、スピンドルの軸に直交する断面において、一対の駆動中心を結ぶ線分の中央点の位置がスピンドルの軸位置と実質的に一致することを意味し、本発明の技術思想に反しない限り、一対の駆動中心を結ぶ線分の中央点の位置がスピンドルの軸位置と実質的に一致すると見なせる場合には、一対の駆動中心を結ぶ線分の中央点の位置がスピンドルの軸位置と厳密に一致しない場合も含む。
【0020】
本発明に係る工作機械の主軸装置において、前記一対の駆動源が、一対のリニアモータであって、前記リニアモータの各々が、可動子と固定子を備え、前記固定子が前記支持壁に取り付けられ、前記可動子が前記移動体に取り付けられるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の主軸装置は、案内手段が直線一軸方向に延びるガイドレールと、ガイドレールに係合するガイド軸受とを備え、ガイドレールがガイド軸受と係合する係合中心を有し、移動体の中心軸と直交する断面において、一対の係合中心が、スピンドルを横断する横断直線上に、横断直線と直交し移動体の中心軸を通る直交直線を挟んで配置される。このことにより、スピンドルの横断面において、スピンドルとスピンドルを収容するハウジングとを備えた移動体を両側から案内支持することができ、移動体を安定した姿勢で案内支持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図を用いて本発明の工作機械の主軸装置の実施形態について形彫放電加工装置に搭載された主軸装置を一例にして詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る主軸装置1が搭載された形彫放電加工装置(放電加工装置10)の外観を示す。
図2は本発明の一実施形態に係る主軸装置1の概略を示す斜視図であり、
図3は、
図2の側面図の概略図であり、
図4は
図2の平面図である。また、各図において対応する要素には同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0024】
放電加工装置10は、例えば、加工ヘッド2と、加工ヘッド2に収容される主軸装置1と、機体構造物であるコラム3と、加工液を貯めるサービスタンク4と、放電加工のための電力を供給する加工電源装置5と、加工液を保持する加工槽6とを備える。なお、公知の構成であるため図中不図示であるが、放電加工装置10のXYテーブル収容部3Aには本体内に、床に設置されたベッドと、ベッド上にY軸方向に移動可能なサドルと、サドル上にX軸方向に移動可能なテーブルとを備える。
図1に示される実施の形態の放電加工装置10は、往復移動するサドルの上に往復移動するテーブルを搭載した構造であるが、機械全体の構造は、実施の形態のようなX軸移動体とY軸移動体を積層した構造に限定されず、例えば、テーブルを固定し、主軸装置1を保持する加工ヘッド2をX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能にする構成のように、主軸装置1の構成に変わりがない限り、本発明の要旨を逸脱しない範囲でX軸移動体とY軸移動体とZ軸移動体を任意の位置に配置したあらゆる構造を採用することができる。
【0025】
加工槽6はテーブル上に設置される。加工槽6内には、不図示の被加工物が載置され、加工液の中に被加工物及び工具電極を位置させた状態で、主軸装置1に取り付けられた工具電極によって被加工物が放電加工される。また、放電加工装置10は、不図示のオイルクーラーによってサービスタンク4に貯められた加工液を所定温度に冷却してから加工槽6に供給するとともに、冷却した加工液を冷媒として主軸装置1に供給する。
【0026】
また、放電加工装置10には、放電加工装置10の制御を行う不図示の制御部への操作を行う操作装置9が接続されている。操作装置9は、液晶ディスプレイなどの表示部、キーボード及びマウスなどの入力部、磁気ディスクドライブなどの記憶装置、CPU、メモリ等を含んで構成されるコンピュータである。
【0027】
図3、4に示すように、主軸装置1は、コラム3に対してZ軸方向に相対移動する移動体11と、移動体11のZ軸方向への移動を案内する一対の案内手段20、21と、移動体11にZ軸方向の駆動力を付与する駆動源として一対のリニアモータ24、25とを備える。また、移動体11の周囲には、コラム3に設けられた後述の支持壁38A、38B、38C、39A、39B、39Cが位置している。なお、主軸装置1において、直線一軸方向に移動する全ての要素のうち、直線一軸方向へ移動を可能とする手段である案内手段20、21と駆動源であるリニアモータ24、25とを除いた残りの要素の集合体を移動体11と称する。
【0028】
移動体11は、主にコラム3に対して直線方向に相対移動する一対のガイド軸受支持部14を形成する一対の移動板を含む。特に、リニアモータ駆動方式の実施の形態の形彫放電加工装置10においては、移動体11は、リニアモータ24、25の可動子24A、25Aをそれぞれ固定して支持する可動子支持部15である一対の移動板を含む。移動体11のうち、スピンドル12を収容するハウジング13はハウジング13の両側に設けられた一対のガイド軸受支持部14によって、一対のガイド軸受支持部14の中間で保持される。したがって、本実施の形態の形彫放電加工装置10は、実質的にスピンドル12で移動体11が構成される。また、移動体11の中心軸はスピンドル12の軸Z1である。なお、例えば、移動体11の往復移動する直線一軸方向に直交する断面において、スピンドル12が移動体11の実質的に中央に位置するとみなせる場合には、移動体11の中心軸をスピンドル12の軸Z1であるとみなすことができる。
【0029】
また、スピンドル12は、軸Z1を中心に回転する回転体であり、
図2中下端には不図示の工具電極が取り付けられ、ハウジング13の上端側に取り付けられる不図示のモータにより回転駆動される。したがって、回転する工具電極の質量に関係なく、移動体11の中心軸は、基本的に変わらない。
【0030】
案内手段は、ガイドレール上をガイド軸受が走行する構成であって、移動体を直線一軸方向に案内支持する。案内手段は、一対の移動板であるガイド軸受支持部14のそれぞれに設けられる。案内手段20は、スピンドル12の軸方向であるZ軸方向に延びるガイドレール20Aと、ガイドレール20Aに係合するガイド軸受20Bとを備える。案内手段21は、Z軸方向に延びるガイドレール21Aと、ガイドレール21Aに係合するガイド軸受21Bとを備える。
【0031】
ここでは、ハウジング13は、一対の案内手段20、21を支持するガイド軸受支持部14と一対のリニアモータ24、25を支持する可動子支持部15とでなる移動板を取り付けるための胴部16を外周に備えている。具体的には、胴部16の外周面からX軸方向両側にX軸方向に延びるように一対のガイド軸受支持部14が固定される。また、胴部16は、後述のように、Y軸方向の対向する外周面に、リニアモータ24、25の可動子24A、25Aをそれぞれ支持する一対の可動子支持部15を備える。また、ガイド軸受支持部14の先端部にはリニアスケール32(
図2では不図示、
図4参照)が取り付けられ、機体構造物であるコラム3に設けられる第1支持部材39に取り付けられた不図示の光センサによってZ軸方向の位置情報を検出する。係る位置情報は不図示の制御部によるリニアモータ24、25の制御に用いられる。
【0032】
前述のように
図2に示す実施形態では、ハウジング13の胴体部分に胴部16を取り付けて、胴部16にガイド軸受支持部14および可動子支持部15を取り付けてあるが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種構成を適用できる。例えば、ハウジング13が1つまたは複数の部材から構成されているとして、胴部16がハウジング13の胴体部分として当該ハウジング13の胴体部分と一体的に製造されて、ハウジング13の胴体部分に直接的にガイド軸受支持部14および可動子支持部15を取り付けるようにしてよい。また、ガイド軸受支持部14または可動子支持部15のいずれか一方またはそれら両方と胴部16を一体的に製造して当該胴部16をハウジング13の胴体部分に取り付けてもよい。或いは、ガイド軸受支持部14または可動子支持部15のいずれか一方またはそれら両方と胴部16とハウジング13の胴体部分とを一体的に製造してもよい。
【0033】
図3、4に示すように、コラム3は、コラム3からY軸方向負の向き(加工槽6側)に張り出した第1支持部材39と、第1支持部材39のY軸方向負の向きに取り付けられた第2支持部材38とを備える。本第1の実施形態において、第1支持部材39は、Y軸負方向に向いた支持壁39A、39B、39Cを有する柱形状部材である。第2支持部材38は、1つの板状部材のX軸方向両端部にY軸方向に延びる板状部材がそれぞれ連結した枠状部材である。第2支持部材38の内周壁は、X軸方向に対向する支持壁38A、38Cと、第1支持部材39の支持壁39A、39B、39CとY軸方向に対向する支持壁38Bを備えている。
【0034】
第1支持部材39と第2支持部材38との間には、支持壁39A、39B、39C、38A、38B、38Cで囲まれる中空空間が形成され、係る中空空間に主軸装置1の移動体11が直線一軸方向に往復移動するように保持される。
【0035】
ガイド軸受20Bは、一方のガイド軸受支持部14に取り付けられ、ガイド軸受21Bは、他方のガイド軸受支持部14に取り付けられる。また、ガイドレール20A、21Aは、ガイド軸受20B、21Bとそれぞれ係合可能に、ガイド軸受20B、21Bと対向して支持壁39A、39Cにそれぞれ取り付けられる。なお、各ガイドレール20A、21Aと各ガイド軸受20B、21Bのどちらか一方が、放電加工装置10を構成する機体構造物の第1支持部材39または第2支持部材38に設けられた任意の支持壁に設けられ、他方が一方に係合するように移動体11に取り付けられるものであれば、任意の取付方法および取り付け位置を採用することができる。
【0036】
また、案内手段20は、ガイドレール20Aがガイド軸受20Bと係合する係合中心20Cを有し、案内手段21は、ガイドレール21Aがガイド軸受21Bと係合する係合中心21Cを有する。なお、ここでは、ガイド軸受20Bは、
図4に4つの点Pで示す位置にボールが配設されたボール軸受けであるため、4点に囲まれる四角形の中心が係合中心20Cとなる。ガイド軸受21Bも、ガイド軸受20Bと同一部品であり、ガイド軸受20Bと同様の方法で係合中心21Cが特定されている。
【0037】
また、
図4に示すように、主軸装置1において、移動体11の中心軸(スピンドル12の軸Z1)と直交する断面において、一対の係合中心20C、21Cが、スピンドル12を横断する横断直線LC上に、横断直線LCと直交し移動体11の中心軸(スピンドル12の軸Z1)を通る直交直線LZを挟んで配置されている。
【0038】
なお、
図4において、スピンドル12が最大径となる位置のスピンドル断面12Aを破線で示す。一対の係合中心20C、21Cを通る横断直線LCを含み移動体11の中心軸に平行な平面は、スピンドル12の少なくとも一部と交差しており、横断直線LCはスピンドル12の径が最大径となる位置のスピンドル断面12Aを横断している。また、ガイド軸受20B、21Bとガイド軸受支持部14とが当接して固定される位置を結ぶ直線上にスピンドル12の軸Z1が位置している。
【0039】
上記のように、移動体11の中心軸と直交する断面において、一対の係合中心20C、21Cが、スピンドル12を横断する横断直線LC上に、横断直線LCと直交し移動体11の中心軸を通る直交直線LZを挟んで配置されていることにより、移動体11の中心軸に直交する断面において、スピンドル12の軸Z1を両側から支持することができ、主軸装置1を安定した姿勢で案内支持して、軸方向に円滑に移動させることができる。また、スピンドル12の軸Z1と移動体11を支持する一対の係合中心20C、21Cとの距離が互いに近いため、係合中心の位置における移動体11の直線一軸方向の動きと、移動体11の中心軸の位置における移動体11の直線一軸方向の動きを好適に一致させて、移動体11の移動に伴う振動の発生を抑制し、往復移動に伴う案内手段20、21における摩擦抵抗によって、移動体11にモーメントが発生することを抑制することができる。また、スピンドル12の軸Z1が、スピンドル12を含む移動体11の中心軸であって移動体11の重心位置または移動体11と共に移動する部材と移動体11を全て含めた移動体全体の重心位置を通る軸と同軸である場合には、同効果をより顕著に奏することができる。
【0040】
また、振動の発生源であるスピンドル12の軸Z1と移動体11の中心軸がほぼ一致し、スピンドル12の軸Z1と一対の支点が機体構造物からほぼ同じ距離の位置にあるので、移動体11が振動しにくく、振動の拡大が抑えられる。スピンドル12が移動体と一体的な構造は、特に、鉛直一軸方向に往復移動し、相対的に質量の大きい工具電極を取り付けて移動体11全体の重量がより大きくなる形彫放電加工機に有効である。この結果、形彫放電加工機においては、振動を効果的に抑制することによって、加工間隙を維持するいわゆるサーボ動作における応答性能を向上することができる。また、工具電極を急速に往復運動(上昇及び下降)させて汚れた加工液と加工屑をギャップから追い出すいわゆるジャンプ動作時の振動を大幅に低減することができる。
【0041】
さらに、上記の実施形態では、移動体11の中心軸と直交する断面において、移動体11の中心軸と一方の係合中心20Cとの距離が移動体11の中心軸と他方の係合中心21Cとの距離と等しい位置に一対の案内手段20、21が配置されている。このため、より好適に、主軸装置1を安定した姿勢で案内支持することができる。
【0042】
上記の各効果を奏するために、一対の係合中心20C、21Cは、可能な限り移動体11の中心軸、言い換えると、例えばスピンドル12の軸Z1に近い位置を通る横断直線LC上にあることが望ましい。例えば、一対の係合中心20C、21Cは、
図4中Y軸方向に、横断直線LCがスピンドル12の最大径となる位置のスピンドル断面12Aを横切る範囲に位置すればよい。
【0043】
なお、上記のように、移動体11を案内する距離が長くなるほど質量が大きくなるガイドレール20A、21Aを、静止する部材である支持壁38A、38Cに設け、ガイド軸受20Bを移動体11側に設けた場合には、移動体11を好適に軽量化することができる。
【0044】
リニアモータ24、25は、移動体11にZ軸方向に駆動力を付勢するリニアモータであって、励磁コイルである固定子24B、25Bと、固定子24B、25Bとそれぞれ所定の間隙を挟んで対向配置する可動子24A、25Aを備える。可動子24A、25Aは、所定のピッチで配列する複数の永久磁石から構成されている。
【0045】
ハウジング13の胴部16のY軸方向にスピンドル12を挟んで対向する面には、Z軸方向に延びる一対の可動子支持部15が固定されている。また、一対の可動子支持部15は、架橋部15Aにより互いに固定されている。リニアモータ24、25の可動子24A、25Aは、可動子支持部15に接着剤で接着されて固定されている。また、可動子24A、25Aと対向して、固定子24B、25Bは、支持壁39B、38Bにそれぞれ取り付けられている。
【0046】
リニアモータ24、25の各々は、固定子24B、25Bと可動子24A、25Aに駆動力が作用する駆動中心24C、25Cを有し、一対の駆動中心24C、25Cがスピンドル12を挟んで対向して位置するように構成されている。この場合には、スピンドル12に対して対向する位置から均等に駆動力を付与することができ、スピンドル12を含む移動体11に対して力点を等距離に対向配置して移動体11のバランスを取ることができるので、主軸装置1を安定した姿勢で移動させることができる。また、複数のリニアモータ24、25に駆動力を分担させることで、1箇所に発熱を集中させず、固定子24B、25Bの発熱によるスピンドル12の熱変位を低減することができる。
【0047】
また、リニアモータ24、25の各々が、移動体11の中心軸に直交する断面において、移動体11の中心軸と一方の駆動中心24Cとの距離が移動体11の中心軸と他方の駆動中心25Cとの距離と等しい位置に配置された場合には、移動体11にバランス良く駆動力を与えて主軸装置1をより安定した姿勢で移動させることができる。また、
図4の例に示すように、一対の駆動中心24C、25Cの中心にスピンドル12の軸Z1が位置する場合には、同効果をより顕著に奏することができる。また、スピンドル12の軸Z1がスピンドル12を含む移動体11の中心軸であって移動体11の重心位置または移動体11と共に移動する部材と移動体11を全て含めた移動体全体の重心位置を通る軸と同軸である場合には、同効果をより顕著に奏することができる。
【0048】
また、上記のように、固定子24B、25Bを支持壁39B、38Bに取り付け、可動子24A、25AをZ軸方向に移動する移動体11側に取り付けた場合には、固定子24B、25Bをスピンドル12を含む移動体11から離れて位置する構造とすることで、発熱体である励磁コイルの熱による移動体11の熱変位を抑制して姿勢の変動を抑制することができる。また、配線などが不要な永久磁石から構成される簡易な構造である可動子24A、25Aを移動体11に取り付けることで移動体全体の構造を簡易化することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、ハウジング13は、X軸方向に延びる一対のガイド軸受支持部14を有し、案内手段20、21のガイド軸受20B、21B(又はガイドレール20A、21A)を取り付け可能に構成されている。さらに、ハウジング13は、Y軸方向の対向する外周面に、一対の可動子支持部15を有し、リニアモータ24、25の可動子24A、25Aとして励磁コイル(又は永久磁石)を取り付け可能に構成されている。
【0050】
このように、ハウジング13に、案内手段21、22のガイド軸受及びガイドレールの一方と、リニアモータ24、25の可動子として励磁コイル又は永久磁石の一方とを取り付け可能な支持部を設けたような構造にすることにより、従来のように案内手段及びリニアモータを取り付けるための比較的高剛性で大型のクイル又はスライダを備える必要が無いため、軸方向に移動する移動体11を軽量化することができる。また、軽量化を実現した結果、駆動力を低減することができるため、リニアモータ24、25の発熱を抑制し、発熱によるスピンドル12の熱変位を抑制することができる。また、本実施形態によれば、ガイド軸受支持部14がガイド軸受20B、20Bを取り付け可能な必要最小限の大きさに構成されているため、好適に移動体11の軽量化を実現することができる。
【0051】
また、移動体11を所望の軸方向に移動可能に案内支持し、一対の係合中心20C、21Cを移動体11の中心軸と直交する断面において、スピンドル12を横断する横断直線LC上に、横断直線LCと直交し移動体11の中心軸を通る直交直線LZを挟んで位置させるように一対の案内手段20、21を取り付けられるものであれば、ガイド軸受支持部等のハウジング及び支持壁は任意の構造としてよい。また、移動体11を所望の軸方向に移動可能に駆動し、一対の駆動中心24C、25Cをスピンドル12の軸Z1を挟んで実質的に対向して位置させるように一対のリニアモータ24、25を取り付けられるものであれば、支持壁及びハウジング13は任意の構造としてよい。例えば、ハウジング13を取り囲む筒状部材の一部として支持壁を設けてもよく、ハウジング13の周囲に柵状に支持壁を設けてもよい。また、各実施形態に限定されず、機体構造物は、放電加工装置10を構成する構造物であって、支持壁を有するものであれば、任意の構造を有する任意の数の構造物で構成することができる。例えば、機体構造物は、機体構造物の筐体などの一部が支持壁として機能するものであってもよく、機体構造物が支持壁を形成する部品を含むものであってもよい。
【0052】
また、一対の可動子24A、25Aをそれぞれ支持する一対の可動子支持部15は、
図4、5に破線で示すように、可動子24A、25Aに沿って延びる炭素繊維強化樹脂製又は構造用セラミックス製の補強部18をそれぞれ備えることが好ましい。この場合には、主軸装置1の軽量化を図りつつ、可動子支持部15の剛性を高め、移動に伴う振動などを抑制することができる。また、移動体11全体としても固有振動数を向上させることができる。
【0053】
例えば、
図4、5に示すように、破線で示すように可動子24Aを挟んで位置し、可動子24Aに沿って延びるリブ形状の一対の補強部18であって、補強部18の可動子24Aに沿った長さが可動子24Aの長さ以上の長さとなる補強部18を設けることが考えられる。また、この場合、可動子25Aに対しても、同様に、破線で示すように可動子25Aを挟んで位置し、可動子25Aに沿って延びるリブ形状の一対の補強部18であって、補強部18の可動子25Aに沿った長さが可動子24Aの長さ以上の長さとなる補強部18を設けることが好ましい。
【0054】
図5に、第2の実施形態に係る主軸装置1の平面図を示す。第2の実施形態は、案内手段20、21は、スピンドル12の軸Z1に直交する断面において、一対の係合中心20C、21Cを結ぶ線分の中央点Cがスピンドル12の軸中心と一致するように配置されている。この場合には、一対の係合中心20C、21Cの位置を最適化して、より主軸装置1の移動の際の安定性を向上することができる。なお、第2の実施形態は、係合中心20C、21Cの位置を異ならせた以外は、第1の実施形態と同様である。
【0055】
図6に、第3の実施形態に係る主軸装置1の平面図を示す。第3の実施形態は、ガイドレール20A、21Aをハウジング13側に取り付け、ガイド軸受20B、21Bを支持壁39A、39Cに取り付け、永久磁石で構成される固定子24B、25Bを支持壁39B、38Bに取り付け、励磁コイルで構成される可動子24A、25Aをハウジング13側に取り付けた点で第1の実施形態と異なる。第3実施形態は、それ以外は第1の実施形態と同様である。
【0056】
第3の実施形態に示すように、ガイドレール20Aとガイド軸受20Bの一方がコラム3に設けられた支持壁に設けられ、ガイドレール20Aとガイド軸受20Bの他方がハウジング13に設けられるものであれば、ガイドレール20Aを移動体11に設け、ガイド軸受20Bを支持壁に設けてもよい。同様に、ガイドレール21Aとガイド軸受21Bの一方がコラム3に設けられた支持壁に設けられ、ガイドレール21Aとガイド軸受21Bの他方がハウジング13に設けられるものであれば、ガイドレール21Aを移動体11に設け、ガイド軸受21Bを支持壁に設けてもよい。
【0057】
また、第3の実施形態に示すように、永久磁石と励磁コイルの一方が固定子24Bとしてコラム3の第1支持部材39または第2支持部材38に設けられた支持壁に取り付けられ、他方が可動子24Aとしてハウジング13に取り付けられるものであれば、永久磁石を可動子24Aとして移動体11に設け、励磁コイルを固定子24Bとして支持壁に設けてもよい。同様に、永久磁石と励磁コイルの一方が固定子25Bとしてコラム3の第1支持部材39または第2支持部材38に設けられた支持壁に取り付けられ、他方が可動子25Aとしてハウジング13に取り付けられるものであれば、永久磁石を可動子25Aとして移動体11に設け、励磁コイルを固定子25Bとして支持壁に設けてもよい。
【0058】
以上、本発明の主軸装置について詳細に説明したが、本発明において、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよい。